不定積分$\dint e^{-x^2}\,dx$は簡単には(初等関数では)で表せないことが知られています.
しかし,$e^{-x^2}$の$(-\infty,\infty)$での広義積分は
と計算できることが知られており,この広義積分はガウス(Gauss)積分やオイラー-ポアソン(Euler-Poisson)積分などと呼ばれます.
一般に$f(x)=Ae^{-(x-\mu)^2/2\sigma^2}$で定まる関数$f$はガウス関数と呼ばれているので,ガウス積分は$A=1$, $2\sigma^2=1$, $\mu=0$の場合のガウス関数の実数全体での積分というわけですね.
なお,$A=\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}$の場合のガウス関数は,平均$\mu$,分散$\sigma^2$の正規分布の確率密度関数としてもよく知られていますね.
この記事では
- ガウス積分の計算
- 計算上のポイント
を順に解説します.
ガウス積分
ガウス積分が存在することを示し,実際にガウス積分を計算しましょう.
ガウス積分の定義
一般に,非負値関数$f$の$(-\infty,\infty)$での広義積分は
と定義されることを思い出しておきましょう.
ガウス積分の場合は被積分関数$e^{-x^2}$が偶関数であることと併せると,ガウス積分は
ということですね.
$e^{-x^2}$は偶関数なので,ガウス積分は$\int_{0}^{\infty}e^{-x^2}\,dx=\frac{\sqrt{\pi}}{2}$と書くことも多いです.
ガウス積分の存在
ガウス積分の値が$\sqrt{\pi}$になることを求めるのは少々面倒ですが,値が存在することを示すだけであれば以下のようにそれほど難しくありません.
ガウス積分$\dint_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}\,dx$は存在する.
任意の$t>1$に対して,対称性より
である.区間$[0,1]$で$e^{-x^2}$は連続だから,第1項$\dint_{0}^{1}e^{-x^2}\,dx$は値をもつ.
また,第2項$\dint_{1}^{t}e^{-x^2}\,dx$は$t$について非減少であり,
より$\dint_{1}^{t}e^{-x^2}\,dx$は$t$について有界である.一般に上に有界かつ非減少なら極限をもつから,極限
が存在する.以上より,広義積分$\dint_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}\,dx$が存在する.
ガウス積分の計算
それではガウス積分を極座標変換を用いて計算しましょう.
$\dint_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}\,dx=\sqrt{\pi}$が成り立つ.
$I(t):=\dint_{-t}^{t}e^{-x^2}\,dx$とする.対称性より
である.ここで,$\R^2$の原点中心の4分円を
- $D(t):=\set{(x,y)\in\R^2}{x^2+y^2\le t^2, x\ge0, y\ge0}$
- $D(2\sqrt{t}):=\set{(x,y)\in\R^2}{x^2+y^2\le 2t^2, x\ge0, y\ge0}$
とすると,積分領域$[0,t]\times[0,t]$は
をみたす.
このとき,被積分関数$e^{-x^2-y^2}$は正値だから,積分領域が広い方が積分の値も大きいので
が成り立つ.極座標変換$(x,y)=(r\cos{\theta},r\sin{\theta})$を施すと,$x^2+y^2=r^2$であり,$D(t)$と$D(\sqrt{t})$はそれぞれ
- $D_1:=\set{(r,\theta)}{r\in[0,t], \theta\in\brc{0,\frac{\pi}{2}}}$
- $D_2:=\set{(r,\theta)}{r\in[0,\sqrt{2}t], \theta\in\brc{0,\frac{\pi}{2}}}$
と変換される.極座標変換のヤコビアンが$r$であることに注意して
であり,同様に
となる.よって,はさみうちの原理より
だから,$\dint_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}\,dx>0$に注意して
を得る.
$e^{-x^2}$の不定積分は簡単には(初等関数では)表せませんが,$xe^{-x^2}$の不定積分は
と簡単に表せることがポイントになっていますね.
計算上のポイント
以上の計算でのポイントを説明します.
正方形領域と極座標変換
2重積分$\displaystyle\iint f(x,y)\,d(x,y)$において,被積分関数$f(x,y)$の式の中に$x^2+y^2$があるときには,極座標変換$(x,y)=(r\cos{\theta},r\sin{\theta})$を用いるのは鉄板ですね.
さて,極座標変換は$xy$平面上の円板領域を$r\theta$平面へぴったり移すことができますが,そうでない領域を$r\theta$平面へ移すのは得意ではありません.
そこで,円板領域でない積分領域を円板で挟んで評価し,はさみうちの原理に持ち込むという方法がよく採られます.
今のガウス積分の計算では,$I(t)^2$を考えると正方形領域$[0,t]\times[0,t]$を積分領域とする重積分を計算することになったので,
- 正方形領域$[0,t]\times[0,t]$に含まれる領域$D(t)$
- 正方形領域$[0,t]\times[0,t]$に含まれる領域$D(\sqrt{2}t)$
での重積分を計算し,はさみうちの原理に持ち込んだわけですね.
重積分と累次積分
微分積分学では「多くの場合で
- 重積分$\displaystyle\iint_{I\times J}f(x,y)\,d(x,y)$
- 累次積分(逐次積分)$\dint_{I}\bra{\dint_{J}f(x,y)\,dx}\,dy$
は一致する」と学びます.
例えば,上の計算でいえば
で重積分と累次積分が一致することを用いているわけですが,定理の名前を明示するならトネリの定理から従うことが分かります.
[トネリの定理] 区間$I,J\subset\R$に対して,$I\times J$上の非負関数$f$が$I\times J$上連続であれば,次の等式が成り立つ:
本来のトネリの定理は$\sigma$-有限測度空間でも成り立ち,また$f$も可測であれば良いのですが,ここではこの記事で使うために十分な形で書いています.
今回の定積分$\dint_{0}^{t}\bra{\dint_{0}^{t}e^{-x^2-y^2}\,dx}\,dy$の計算では
- $[0,t]\subset\R$は区間
- 被積分関数$e^{-x^2-y^2}$は連続
なので,確かにトネリの定理から重積分に等しくなることが分かりますね.
同様に積分$\dint_{0}^{t}\bra{\dint_{0}^{\pi/2}re^{-r^2}\,d\theta}\,dr$も重積分に等しくなることがわかりますね.
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