複素解析4|超強力な[コーシーの積分定理]とその使い方

複素解析にはさまざまな綺麗な定理がありますが,その中でもシンプルで強力な定理として[Cauchy(コーシー)の積分定理]が挙げられます.

個人的にもこの定理は学部レベルの定理では最も綺麗な定理だと思っています.

大雑把に言えば

「正則関数の閉曲線上の複素積分は0である」

という定理で,積分経路がどんなにグニャグニャしてようと閉でさえあれば正則関数の複素積分は計算するまでもなく0になります.

この記事では

  • [Cauchyの積分定理]がどのような定理か
  • [Cauchyの積分定理]の応用例

を説明します.

解説動画

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【複素解析④コーシーの積分定理】複素積分の値が計算せずに求まる!正則関数と複素積分の超重要定理!

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Cauchyの積分定理の内容と使い方

ここでは[Cauchyの積分定理]を紹介し,証明を述べます.

定理の内容

[Cauchyの積分定理] 領域$D$上で正則な複素関数$f$を考える.複素平面上の閉曲線$C$の周および内部が$D$に含まれるとき,

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz=0 \end{align*}

が成り立つ.ただし,$C$は向きが付いており,有限の長さであるとする.

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注意したいことは閉曲線$C$上だけではなく,$C$の内部でも微分可能でなければならないことです.

そのため,上図の領域$D$の右側に正則でない「穴」の部分がありますが,閉曲線$C$がこの「穴」の部分を囲っているような状況では[Cauchyの積分定理]は使えません.

Cauchyの積分定理の応用例

証明は最後に回し,先に[Cauchyの積分定理]のよくある使い方を紹介します.

直接の求値

次の問題を考えます.

$n\in\N$を正の整数とし,$C$を複素平面上の長さ有限の任意の閉曲線とする.このとき,複素積分

\begin{align*} \int_{C}z^n\,dz \end{align*}

を求めよ.

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[Cauchyの積分定理]を直接用いることで,計算するまでもなく答えが分かります.


$z^n$は$\C$上で正則であり,$C$は長さ有限の閉曲線だから,Cauchyの積分定理より

\begin{align*} \int_{C}z^n\,dz=0 \end{align*}

である.

この問題では積分経路$C$はグニャグニャ曲がったり尖ったりしていても,閉曲線でさえあれば常にこの結果となります.

積分経路の変更

$C$を$0$を内部に含む複素平面上の長さ有限の任意の閉曲線とする.このとき,複素積分

\begin{align*} \int_{C}\frac{1}{z}\,dz \end{align*}

を求めよ.ただし,$C$には正の向きがついているとする.

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$\frac{1}{z}$は$z=0$で微分不可能なので,この問題の複素積分の値を[Cauchyの積分定理]から直接求めることはできません.

実はCauchyの積分定理を用いると,正則領域内で閉曲線を連続的に動かしても複素積分の値が変わらないことが分かります.


閉曲線$C$の内部に含まれる原点中心の円周$C’$を考え,半径を$R$とする.$C’$の向きは正方向とする.

また,閉曲線$C$と円周$C’$を線分$\ell$で結ぶ.$\ell$の向きは$C$から$C’$に向かうとする.

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このとき,

\begin{align*} &\int_{C}\frac{1}{z}\,dz-\int_{C'}\frac{1}{z}\,dz \\=&\int_{C}\frac{1}{z}\,dz+\int_{\ell}\frac{1}{z}\,dz+\int_{-C'}\frac{1}{z}\,dz+\int_{-\ell}\frac{1}{z}\,dz \\=&\int_{C\cup\ell\cup(-C')\cup(-\ell)}\frac{1}{z}\,dz\quad\dots(*) \end{align*}

となる.曲線$C\cup\ell\cup(-C’)\cup(-\ell)$は閉曲線であり,この閉曲線の内部は下図の青の部分なので$\frac{1}{z}$の正則領域$\set{z\in\C}{z\neq0}$に含まれる.

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よって,Cauchyの積分定理より$(*)=0$なので

\begin{align*} \int_{C}\frac{1}{z}\,dz=\int_{C'}\frac{1}{z}\,dz \end{align*}

となる.$z\in C’$は$z=R(\cos{t}+i\sin{t})$ ($0\le t\le 2\pi$)と極形式で表せるから,$\od{z}{t}=R(-\sin{t}+i\cos{t})$であることを用いると

\begin{align*} \int_{C}\frac{1}{z}\,dz =&\int_{C'}\frac{1}{z}\,dz =\int_{C'}\frac{\overline{z}}{|z|^2}\,dz =\frac{1}{R^2}\int_{C'}\overline{z}\,dz \\=&\frac{1}{R^2}\int_{0}^{2\pi}R(\cos{t}-i\sin{t})\cdot R(-\sin{t}+i\cos{t})\,dt \\=&\int_{0}^{2\pi}i(\cos^2{t}+\sin^2{t})\,dt =\int_{0}^{2\pi}i\,dt=2\pi i \end{align*}

である.

この解答のように,閉積分経路$C$を微分不可能な点を「通過しない」ように動かしても複素積分の値は変わりません.

このことを利用して,積分計算しやすい閉曲線$C’$に変形して複素積分をしたのが上の解答というわけで,このことを[Cauchyの積分定理]を用いて正当化したわけですね.

Cauchyの積分定理の証明

[Cauchyの積分定理]の証明の前に,次の補題を挙げておきます.

この補題は複素積分の定理から示すことができます.

複素平面上の向きが付いた有限の長さの曲線$C$を考える.ただし,$C$の始点を$\alpha$,終点を$\beta$とする.このとき,

\begin{align*} \int_{C}\,dz=\beta-\alpha,\quad \int_{C}z\,dz=\frac{1}{2}(\beta^2-\alpha^2) \end{align*}

が成り立つ.

とくに$C$が閉曲線なら

\begin{align*} \int_{C}\,dz=\int_{C}z\,dz=0 \end{align*}

が成り立つ.

[Cauchyの積分定理]の証明は多くの教科書で本質的に同じ方法が採用されており,それは

  1. $C$が三角形の場合
  2. $C$が折れ線の場合
  3. $C$が一般の閉曲線の場合

を順に示す方法です.この記事でもこの方法で証明します.

ステップ1

$C$が三角形の場合を示します.

この記事での[Cauchyの積分定理]の証明の本質はこのステップ1です.


$C$を三角形とし,任意の$\epsilon>0$をとる.$\abs{\dint_{C}f(z)\,dz}<\epsilon$を示せば良い.

$C$の各辺の中点を結ぶことにより$C$を4つの小三角形$C_i$($i=1,2,3,4$)に分割する.ただし,小三角形$C_i$の向きは$C$の向きに合うようにとる.

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このとき,中点を結んだ部分の積分は打ち消し合うので,

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz =\sum_{i=1}^{4}\int_{C_i}f(z)\,dz \end{align*}

が成り立つ.4つの$\abs{\int_{C_i}f(z)\,dz}$ ($i=1,2,3,4$)のうち最大の積分の積分経路の三角形を$C^{(1)}$とすると,三角不等式と併せて

\begin{align*} \abs{\int_{C}f(z)\,dz} \le\sum_{i=1}^{4}\abs{\int_{C_i}f(z)\,dz} \le4\abs{\int_{C^{(1)}}f(z)\,dz} \quad\dots(*) \end{align*}

が成り立つ.同様に$C^{(2)},C^{(3)},\dots$を順次定める.

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このとき,$(*)$と同様の評価を繰り返せば,任意の自然数$n\in\N$に対して,

\begin{align*} \abs{\int_{C}f(z)\,dz} \le&4\abs{\int_{C^{(1)}}f(z)\,dz} \le4^2\abs{\int_{C^{(2)}}f(z)\,dz} \\\le&\dots \le4^n\abs{\int_{C^{(n)}}f(z)\,dz} \end{align*}

が成り立つ(厳密には帰納法).

また,$n\to\infty$で$C^{(n)}$全体はある一点$\alpha$に近付く.$\alpha$は$C$の周または内部の点だから,定理の仮定より$f$は$\alpha$で微分可能なので

\begin{align*} f'(\alpha)=\lim_{z\to\alpha}\frac{f(z)-f(\alpha)}{z-\alpha} \end{align*}

が存在する.よって,領域$D$に含まれる$\alpha$の近傍で複素関数$g$を$g(z):=\frac{f(z)-f(\alpha)}{z-\alpha}-f'(\alpha)$で定めると,$\lim_{z\to\alpha}g(z)=0$を満たす.すなわち,ある$\delta>0$が存在し,

\begin{align*} |z-\alpha|<\delta \Ra&|g(z)|<\frac{\epsilon}{L^2} \end{align*}

が成り立つ.ただし,$L$は三角形$C$の周の長さである.

また,$n\to\infty$で$C^{(n)}$全体が$\alpha$に近付くことから,ある$N\in\N$が存在して,任意の$z\in C^{(N)}$に対して$|z-\alpha|<\delta$が成り立つ.

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ここで,先ほどの補題を用いると

\begin{align*} \int_{C^{(N)}}f(z)\,dz =&\int_{C^{(N)}}\bra{f(\alpha)+g(z)(z-\alpha)+f'(\alpha)(z-\alpha)}\,dz \\=&\int_{C^{(N)}}g(z)(z-\alpha)\,dz \end{align*}

となり,絶対値は積分の中にある方が大きいか等しい(三角不等式)ことを併せて

\begin{align*} \abs{\int_{C^{(N)}}f(z)\,dz} \le&\int_{C^{(N)}}|g(z)(z-\alpha)|\,|dz| \\<&\frac{\epsilon}{L^2}\int_{C^{(N)}}|z-\alpha|\,|dz| \end{align*}

を得る.

また,三角形$C$の周の長さを$L$としていたから,三角形$C^{(N)}$の周の長さは$\frac{L}{2^N}$である.よって,任意の$z\in C^{(N)}$に対して$|z-\alpha|<\frac{L}{2^N}$となる.

以上を併せて,

\begin{align*} \abs{\int_{C}f(z)\,dz} \le&4^N\abs{\int_{C^{(N)}}f(z)\,dz} <\frac{4^N \epsilon}{L^2}\int_{C^{(N)}}\frac{L}{2^N}\,|dz| \\=&\frac{4^N \epsilon}{L^2}\epsilon\bra{\frac{L}{2^N}}^2 =\epsilon \end{align*}

が従う.

ステップ2

$C$が閉折れ線の場合を示します.

$C$を三角形に分解して,ステップ1の「$C$が三角形の場合」の[Cauchyの積分定理]を用いることで証明します.


$C$が閉折れ線とする.

このとき,$C$はいくつかの閉角形$C_1,\dots,C_n$に分割でき,

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz=\sum_{k=1}^{n}\int_{C_k}f(z)\,dz \end{align*}

が成り立つ.

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さらに,各多角形$C_i$ ($i=1,\dots,n$)はいくつかの三角形$C_{i,1},\dots,C_{i,m_i}$に分割でき,ステップ1を用いれば

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz =&\sum_{k=1}^{n}\sum_{\ell=1}^{m_i}\int_{C_{k,\ell}}f(z)\,dz \\=&\sum_{k=1}^{n}\sum_{\ell=1}^{m_i}0=0 \end{align*}

が従う.

ステップ3

$C$が一般の閉曲線の場合を示します.

$C$を閉折れ線で近似してステップ2の「$C$が閉折れ線の場合」の[Cauchyの積分定理]を用いることで証明します.


$C$を一般の閉曲線とし,任意の$\epsilon>0$をとる.$\abs{\dint_{C}f(z)\,dz}<\epsilon$を示せば良い.

$D$は領域(開集合)で$C$は$D$の内部にある有限の長さの曲線だから,ある$r>0$が存在して,有界閉集合

\begin{align*} B:=B_r(C)=\set{z\in\C}{\exists w\in C\ \mathrm{s.t.}\ |z-w|\le r} \end{align*}

は$D$に含まれる.

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$f$は$B$上で連続だから,$B$が有界閉集合であることより一様連続である(一般に有界閉集合$E$上で連続な複素関数$g$は$E$上一様連続).よって,ある$\delta>0$が存在して,$|z-w|<\delta$なる任意の$z,w\in B$に対して

\begin{align*} |f(z)-f(w)|<\frac{\epsilon}{2L} \end{align*}

が成り立つ.ただし,$L$は閉曲線$C$の周の長さである.

ここで,閉曲線$C$上の分点$z_0,z_1,\dots,z_n\in C$ ($z_0=z_n$)を順に「閉曲線$C$の$z_i$と$z_{i-1}$の間の部分$C_i$の長さが$\min\{\frac{\delta}{2},r\}$未満」を満たすようにとる($C_i$は他の分点が存在しない側とする).このとき,さらに複素積分の定義から

\begin{align*} \abs{\int_{C}f(z)\,dz-\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(z_i-z_{i-1})}<\frac{\epsilon}{2} \end{align*}

となる$\xi_{i}\in C_i$ ($i=1,\dots,n$)が存在するようにできる.

また,線分$\overline{z_iz_{i-1}}$を$\ell_i$とし,$\ell_i$を繋いでできる閉折れ線を$\ell$とする.ただし,各$\ell_i$は$C_i$と同じ向きが付いているものとする.

このとき,各$C_i$の長さが$r$未満だから各$\ell_i$の長さも$r$未満なので$\ell\subset B$である.よって,

  • ステップ2の結果
  • 三角不等式

を用いると

\begin{align*} \abs{\int_{C}f(z)\,dz} =&\abs{\int_{C}f(z)\,dz-\int_{\ell}f(z)\,dz} \\\le&\abs{\int_{C}f(z)\,dz-\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(z_i-z_{i-1})} \\&\quad+\abs{\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(z_i-z_{i-1})-\int_{\ell}f(z)\,dz} \\<&\frac{\epsilon}{2}+\sum_{i=1}^{n}\abs{f(\xi_i)(z_i-z_{i-1})-\int_{\ell_i}f(z)\,dz} \end{align*}

が成り立つ.さらに

  • 補題
  • $\ell_i$上の任意の点$z$と$\xi_i$に対して$|\xi_i-z|<\delta$
  • $\ell$の長さは$C$の長さ$L$以下

を用いると,

\begin{align*} &\abs{f(\xi_i)(z_i-z_{i-1})-\int_{\ell_i}f(z)\,dz} \\=&\abs{\int_{\ell_i}(f(\xi_i)-f(z))\,dz} \le\int_{\ell_i}|f(\xi_i)-f(z)|\,|dz| \\<&\sum_{i=1}^{n}\int_{\ell_i}\frac{\epsilon}{2L}\,|dz| \le L\cdot\frac{\epsilon}{2L} =\frac{\epsilon}{2} \end{align*}

が成り立つ.以上より$\abs{\dint_{C}f(z)\,dz}<\epsilon$を得る.

参考文献

以下は参考文献です.

[新装版]複素関数論の要諦

[堀川穎二 著/日本評論社]

本書は著者が実際に大学の授業で行った授業をもとに書かれており,説明も丁寧で分かりやすいです.

まえがきに「大学1年生の微分・積分の概要を理解している人を想定している」と書いてあるように,初めて複素解析を学ぶ人が基礎を理解するにはちょうど良いレベル感で書かれています.

式変形も丁寧になされており行間が少ないので,これは初学者にとって嬉しいポイントですね.

内容も留数定理,偏角の原理までフォローされているので,ひとまず複素解析が実数の定積分への応用まで学ぶことができます.

また,巻末に実際に授業を行った際のアンケートなどが載っており,学生から見て本書の内容(の授業)がどのようであったかを感じられるのは本書の面白いところです.

最後までありがとうございました!

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