この記事では,Schrödinger(シュレディンガー)方程式の基本解に関して基本的な評価式である[$L^pL^q$評価]を説明します.
Schrödinger方程式の基本解とは,大雑把には初期値$u_0=u(0,x)$に対する自由Schrödinger方程式
の解$u$のことで,$u,u_0\in\mathcal{S}(\R^d)$のとき解は$u=e^{it\Delta}u_0$と表すことができます.
Schrödinger方程式の[$L^pL^q$評価]は$\|e^{it\Delta}u_0\|_{L^{p}(\R^{d})}$を$\|u_0\|_{L^{q}(\R^{d})}$で上から評価する不等式です.
Schrödinger方程式に関する重要な評価式である[Strichartz(ストリッカーツ)評価]のベースとなります.
一連の記事はこちら
【自由シュレディンガー方程式の基本解とユニタリ群】
【シュレディンガー方程式の分散性|基本解のLpLq評価の導出】←今の記事
【シュレディンガー方程式のストリッカーツ評価の導出】
シュレディンガー方程式の基本解
まずは前回の記事で説明したSchrödinger方程式の基本解について,結果をまとめておきます.
[自由解] 自由Schrödinger方程式の初期値問題
の解$u$をSchrödinger方程式の自由解 (free solution)という.
自由解は以下のように表されます.
Schrödinger方程式の解は
と表せる.
このとき,初期値$u_0$に対するSchrödinger方程式の自由解$e^{it\Delta}u_0$を与える作用素$e^{it\Delta}$を自由Schrödinger発展作用素というのでした.

$L^pL^q$評価
以下,$p\in[1,\infty]$とし,$L^p(\R^d)$ノルムを$\|\cdot\|_p$と表します:
[$L^pL^q$評価]は$\|e^{it\Delta}u\|_{p}$を$\|u\|_{q}$で上から評価する不等式
をいいます.証明は
- $p=\infty$の場合の[$L^{\infty}L^{1}$評価]
- $p=2$の場合の[$L^{2}L^{2}$評価($L^2$等長性)]
を示し,この2つの評価をもとに[Riesz-Thorinの複素補間定理]を用います.
なお,[$L^pL^q$評価]を[分散型評価]ということも多いです.
$L^{\infty}L^{1}$評価と$L^2L^2$評価($L^2$等長性)
[$L^{\infty}L^{1}$評価]は次の通りです.
[$L^{\infty}L^{1}$評価] 任意の$u\in L^1(\R^d)$に対して,次が成り立つ:
$\Bigl|e^{-\frac{|x-y|^2}{4it}}\Bigr|=1$より,
が従う.
$e^{it\Delta}$の[$L^2L^2$評価($L^2$等長性)]は次の通りです.
[$L^{2}L^{2}$評価($L^2$等長性)] 任意の$u\in L^2(\R^{d})$に対して,次が成り立つ:
Plancherelの等式と$\abs{e^{-it|\xi|^2}}=1$より,
が従う.
[$L^pL^q$評価]が[分散型評価]と呼ばれる理由はこの2つの命題にあります.
[$L^{\infty}L^{1}$評価]から
となるので,Schrödinger方程式の基本解は$|t|$が増大するにつれて一様に0に近付きます.
一方,[$L^2$等長性]から$L^2$ノルムは$t$によらず一定ですから解は消えるのではなく,どんどん分散しているだけであることが分かります.
よって,[$L^{\infty}L^{1}$評価]と[$L^2$等長性]から得られる[$L^pL^q$評価]が[分散型評価]とも言われるわけですね.
Riesz-Thorinの複素補間定理
ここで,[Riesz-Thorinの複素補間定理]を復習しておきましょう.
[Riesz-Thorinの補間定理] $p_0,q_0,p_1,q_1\ge1$とし,$(X,\mathcal{A},\mu)$, $(Y,\mathcal{B},\nu)$を測度空間とする.さらに,ある$M_0,M_1>0$が存在して
を満たすとする.このとき,任意の$\theta\in(0,1)$に対して,$p$, $q$を
と定めると,ある$M>0$が存在して
が成り立ち,$M\le M_0^{1-\theta}M_1^{\theta}$が成り立つ.
一般にノルム空間$\mathcal{X},\mathcal{Y}$,作用素$T:\mathcal{X}\to\mathcal{Y}$に対して,ある$K>0$が存在して
を満たすとき,この$K$の最小値を$f$の作用素ノルムといい,$\|T\|_{\mathcal{X}\to\mathcal{Y}}$などと表します.
このことから[Riesz-Thorinの複素補間定理]は
- 作用素$T$は$L^{q_0}(X)$から$L^{p_0}(Y)$への有界作用素で$\|T\|_{L^{q_0}(Y)\to L^{p_0}(X)}\le M_0$
- 作用素$T$は$L^{q_1}(X)$から$L^{p_1}(Y)$への有界作用素で$\|T\|_{L^{q_1}(Y)\to L^{p_1}(X)}\le M_1$
を満たせば,$T$は$L^{q}(X)$から$L^{p}(Y)$への有界作用素で$\|T\|_{L^{q}(Y)\to L^{p}(X)}\le M_0^{1-\theta}M_1^{\theta}$とも言えますね.
この定理の証明は以下の記事を参照してください.

$L^pL^q$評価
この[Riesz-Thorinの複素補間定理]から[$L^{p}L^{q}$評価]を証明します.
[$L^{p}L^{q}$評価] $p\in[2,\infty]$と$u\in L^{q}(\R^{d})$に対して
が成り立つ.ただし,$q\in[1,2]$は$p$のHölder共役である:$1=\frac{1}{p}+\frac{1}{q}$.
$p=\infty,2$の場合はすでに示した:
- $\|e^{it\Delta}u\|_{\infty}\le\bra{4\pi|t|}^{-\frac{d}{2}}\|u\|_1$
- $\|e^{it\Delta}u\|_2=\|u\|_2$
ここで,座標平面上の2点$\mrm{P_1}(\frac{1}{1},\frac{1}{\infty})=(1,0)$, $\mrm{P_2}(\frac{1}{2},\frac{1}{2})$を考え,線分$\mrm{P_1P_2}$を$\theta:(1-\theta)$ $(\theta\in[0,1])$に内分する点を$\mrm{P}(\frac{1}{q},\frac{1}{p})$とします.
このとき,
となるので,$1=\frac{1}{p}+\frac{1}{q}$かつ$p\in[2,\infty]$が成り立つ.
よって,[Riesz-Thorinの複素補間定理]より
となる.すなわち,$1=\frac{1}{p}+\frac{1}{q}$かつ$p\in[2,\infty]$をみたす組$(p,q)$に対して,
が従う.
次の記事では,Schrödinger(シュレディンガー)方程式を考える際に重要な不等式である[Strichartz(ストリッカーツ)評価]を説明します.
[Strichartz評価]の証明には,この記事で示した[$L^pL^q$評価]を用います.
一連の記事はこちら
【自由シュレディンガー方程式の基本解とユニタリ群】
【シュレディンガー方程式の基本解の[$L^pL^q$評価]の導出】
【シュレディンガー方程式のストリッカーツ評価の導出】←次の記事
参考文献
以下は参考文献です.
非線形発展方程式の実解析的方法
[小川卓克 著/丸善出版(シュプリンガー現代数学シリーズ)]
本書は関数空間に関する予備知識をじっくりと準備し,
- 波動方程式
- 熱方程式
- Schrödinger方程式
- Navier-Stokes方程式
といった非線形発展方程式を考えていきます.
本書の特徴は,様々な非線形発展方程式を広く扱っている点と,証明へのアプローチを説明して直感的な理解を促している点です.
本書が全19章と多くの章から構成されていることからも,広くトピックを扱っていることが見てとれますね.
誤植が多いのがただ1つ残念な点ではありますが,これほどに広く丁寧に非線形発展方程式を扱っている和書は他に見当たらず,この分野の基礎や考え方をカバーするには良い教科書と言えます.
コメント