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常微分方程式の解の存在と一意性|逐次近似法のイメージ

例えば,初期条件$x(0)=x_0$を満たす常微分方程式

\begin{align*} \od{x}{t}(t)=-tx(t) \end{align*}

は適切な定義域において解をただ一つもちます.

このことは[Picard(ピカール)-Lindelöf(リンデレフ)の定理]により示されます.

この[Picard–Lindelöfの定理]は常微分方程式の解を帰納的に近似していく方法により証明されますが,この近似の方法を[Picardの逐次近似法]といいます.

この記事では

  • [Picardの逐次近似法]の具体例
  • [Picard-Lindelöfの定理]の内容と証明

の2つを説明します.

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Picardの逐次近似法の具体例

いろいろ説明する前に,まずは[Picardの逐次近似法]の具体例を考えます.

初期条件$x(0)=1$を満たす関数$x$の微分方程式

\begin{align*} \od{x}{t}(t)=x(t) \end{align*}

の解を[Picardの逐次近似法]により求めよ.

関数の微分に慣れていれば解が$x(t)=e^t$となることが分かりますが,この解を[Picardの逐次近似法]により求めましょう.

[Picardの逐次近似法]を使うために,まずはこの微分方程式の両辺を$t$で積分して,積分方程式に変形します:

\begin{align*} &\int_{0}^{t}\od{x}{\tau}(\tau)\,d\tau=\int_{0}^{t}x(t)\,d\tau \\\iff&x(t)-x(0)=\int_{0}^{t}x(t)\,d\tau \\\iff&x(t)=1+\int_{0}^{t}x(t)\,d\tau. \end{align*}

このとき(いろいろな正当化は後回しにして),

  • $x_1$を$I$上で恒等的に$x_0$である関数と定め,
  • $x_1,\dots,x_n$が定まったとし,$x_{n+1}(t):=1+\dint_{t_0}^{t}x_n(\tau)\,d\tau$により$x_{n+1}$を定め,
  • 関数列$\{x_n\}$の極限関数を$x:=\lim\limits_{n\to\infty}x_{n+1}$とすれば,

関数$x$は初期条件$x(0)=1$をみたす微分方程式$\displaystyle\od{x}{t}(t)=x(t)$の解となります.

関数列で積分方程式の解を近似により求めるこの方法を[Picardの逐次近似法 (iteration scheme)]といいます.

両辺を$[0,t]$で積分して,

\begin{align*} &\int_{0}^{t}\od{x}{t}(\tau)\,d\tau=\int_{0}^{t}x(\tau)\,d\tau \\\iff& x(t)-x(0)=\int_{0}^{t}x(\tau)\,d\tau \\\iff& x(t)=1+\int_{0}^{t}x(\tau)\,d\tau \end{align*}

である.$x_0(t)\equiv x(0)=1$として,Picardの逐次近似法により$\{x_k\}_{k=0}^{\infty}$を構成すると,

\begin{align*} x_1 =&1+\int_{0}^{t}x_0(\tau)\,d\tau \\=&1+t, \\x_2 =&1+\int_{0}^{t}x_1(\tau)\,d\tau \\=&1+t+\frac{t^2}{2}, \\x_3 =&1+\int_{0}^{t}x_2(\tau)\,d\tau \\=&1+t+\frac{t^2}{2}+\frac{t^3}{6} \end{align*}

となる.これと続けると,任意の$n\in\N$に対して

\begin{align*} x_{n}(t)=1+\frac{t}{1!}+\frac{t^2}{2!}+\dots+\frac{t^n}{n!} \end{align*}

となることが分かる.

すなわち,$x_{n}(t)$は$e^t$の$n$次までの近似となっているから,$n\to\infty$としたときの極限関数$x(t)$は$x(t)=e^t$となる.

よって,解は$x(t)=e^t$である.

確かに$x(t)=e^t$が解となりましたね.

準備

それでは,この[Picardの逐次近似法]を保証する[Picard–Lindelöfの定理]を厳密に考えていきましょう.

常微分方程式

この記事で扱う微分方程式は,例えば

\begin{align*} \od{x}{t}(t)=-tx(t),\quad \begin{cases} \od{x}{t}(t)=tx(t)+y(t)\\ \od{y}{t}(t)=t^2x(t) \end{cases},\quad \begin{cases} \od{x}{t}(t)=y(t)\\ \od{y}{t}(t)=tz(t)\\ \od{z}{t}(t)=t^2x(t) \end{cases} \end{align*}

のような,1変数$t$に関する$n$個の未知関数$x_i:\R\to\R$ $(i=1,\dots,n)$に関する常微分方程式です:

\begin{align*} \begin{cases} \od{x_1}{t}(t)=f_1(t,x_1(t),\dots,x_n(t))\\ \qquad\vdots\\ \od{x_n}{t}(t)=f_n(t,x_1(t),\dots,x_n(t)) \end{cases} \end{align*}

この連立方程式はベクトル$\m{x}=\bmat{x_1\\\vdots\\x_n}$, $\m{f}=\bmat{f_1\\\vdots\\f_n}$を用いて

\begin{align*} \od{\m{x}}{t}(t)=\m{f}(t,\m{x}(t)) \end{align*}

とベクトルの表記で表せますね.

イメージしにくい場合には,$n=1$として連立でない単一の微分方程式と思って読んでも本質的に問題ありません.

一様ノルム

閉区間$I\subset\R$に対して,関数$u:I\to\R$に対して,一様ノルム$\|\cdot\|_I$を

\begin{align*} \|u\|_I:=\sup_{t\in I}|u(t)| \end{align*}

で定めます.

$C^0(I)$は$I$上で定義された連続関数全体の集合で,$n$個の成分が全て$C^0(I)$の元であるようなベクトル全体の集合を$(C^0(I))^n$と表します.

これは$n$個の$C^0(I)$の直積で,イメージとしては$\R$の$n$個の直積を$\R^n$と表すのと同じです.

このとき,$n$個の$C^0(I)$の直積$(C^0(I))^n$は一様ノルム$\|\cdot\|_I$によって完備距離空間となります.

Banachの不動点定理

この記事での[Picard-Lindelöfの定理]の証明には[Banachの不動点定理]を用います.

[Banachの不動点定理(縮小写像の原理)] 空でない完備距離空間$(X,d)$上の縮小写像$f$は不動点を唯一つもつ.なお,任意の$x\in X$に対して

\begin{align*} \lim_{n\to\infty}f^n(x) \end{align*}

が写像$f$の不動点である.ここに,写像$f^n$は$f$を$n$回施す写像である.

詳しくは以下の記事を参照してください.

Picard-Lindelöfの定理

それでは[Picard-Lindelöfの定理]の説明に移ります.

Picard-Lindelöfの定理

以下が[Picard-Lindelöfの定理]です.

[Picard-Lindelöfの定理] $t_0\in\R$, $\m{x}_0\in\R^n$, $T>0$, $R>0$とする.$\R\times\R^n$上の閉集合$D$を

\begin{align*} D:=\set{\bmat{t\\\m{x}}\in\R\times\R^n}{\begin{gathered}|t-t_0|\le T,\\|\m{x}-\m{x}_0|\le R\end{gathered}} \end{align*}

で定め,関数$\m{f}:\R\times\R^n\to\R^n$は次を同時に満たすとする.

  • $\m{f}$は$D$上で連続
  • $\m{f}$は$\m{x}$に関して$D$上でLipscitz連続:ある$K>0$が存在し,任意の$\bmat{t\\\m{x}_1},\bmat{t\\\m{x}_2}\in D$に対して$|\m{f}(t,\m{x}_1)-\m{f}(t,\m{x}_2)|\le K|\m{x}_1-\m{x}_2|$

このとき,初期条件$\m{x}(t_0)=\m{x}_0$を満たす常微分方程式

\begin{align*} \od{\m{x}}{t}(t)=\m{f}(t,\m{x}(t)) \end{align*}

の解$\m{x}\in(C^1(I))^n$が一意に存在する.ここに,

  • $I:=[t_0-T^*,t_0+T^*]$
  • $T^*:=\min\{T,\frac{R}{M}\}$
  • $M:=\sup\limits_{(t,\m{x})\in D}|\m{f}(t,\m{x})|$

である.さらに,$\m{f}\in(C^m(D))^n$なら,解は$\m{x}\in(C^{m+1}(I))^n$となる.

ゴチャゴチャと書いていますが,大切なところは「$\m{f}$が2つの条件を満たせば,微分方程式$\od{\m{x}}{t}(t)=\m{f}(t,\m{x}(t))$の解が一意に存在する」という点です.

この$\m{f}$の2つの条件

  • 連続
  • 各$t$についてLipschitz連続

はけっこう広い条件ですから,応用上多くの方程式に対してこの定理は適用できます.

また,$D$は有界閉集合で$\m{f}$は$D$上連続なので,$\m{f}$は有界となり$M:=\sup\limits_{(t,\m{x})\in D}|\m{f}(t,\m{x})|$は存在します.

積分方程式への書き換え

[Picard-Lindelöfの定理]を証明するするためには,同値な積分方程式への書き換えがポイントとなります.

$I\subset\R$を閉区間,$t_0\in I$,$\m{x}_0\in\R^n$とする.このとき,以下の2条件は同値である.

  • $\m{x}\in(C^1(I))^n$は初期条件$\m{x}(t_0)=\m{x}_0$を満たす常微分方程式

    \begin{align*} \od{\m{x}}{t}(t)=\m{f}(t,\m{x}(t)) \end{align*}

    の解である.

  • $\m{x}\in(C^0(I))^n$は積分方程式

    \begin{align*} \m{x}(t)=\m{x}_0+\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau \end{align*}

    の解である.

[1] 初期条件$\m{x}(t_0)=\m{x}_0$を満たす常微分方程式

\begin{align*} \od{\m{x}}{t}(t)=\m{f}(t,\m{x}(t)) \end{align*}

が解$\m{x}\in C^1(I)$をもつとする.

このとき,変数を$\tau$に置き換えて両辺を$\tau$について$[t_0,t]$上で積分すると,微分積分学の基本定理から

\begin{align*} &\int_{t_0}^{t}\od{\m{x}}{t}(\tau)\,d\tau=\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau \\\iff&\m{x}(t)-\m{x}(t_0)=\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau \\\iff&\m{x}(t)=\m{x}_0+\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau \end{align*}

が成り立つ.

[2] 積分方程式

\begin{align*} \m{x}(t)=\m{x}_0+\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau \end{align*}

が解$\m{x}\in C^0(I)$をもつとする.

積分方程式に$t=t_0$を代入すると,右辺の積分範囲は$[t_0,t_0]$となって積分値は0だから,初期条件$\m{x}(t_0)=\m{x}_0$が得られる.

また,$\m{f}$はもとより$D$上で連続なので,$\m{f}$に連続な$\m{x}$を合成した関数$\m{f}(t,\m{x}(t))$は$t$に関して$I$上で連続となる.

よって,連続関数の積分なので,右辺の$\dint_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau$は$t$に関して$I$上$C^1$級である.

これより,左辺の$\m{x}(t)$も$I$上$C^1$級となって,両辺を$t$で微分すると

\begin{align*} \od{\m{x}}{t}(t)=\m{f}(t,\m{x}(t)) \end{align*}

が成り立つ.

常微分方程式の代わりに,後者の積分方程式を考えてもよいということが分かりました.

このように微分方程式を積分方程式に書き直すことができることをDuhamelの原理といいます.

積分方程式$\m{x}(t)=\m{x}_0+\dint_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau$が自動的に初期条件$\m{x}(t_0)=\m{x}_0$を満たすのはありがたい点です.

以降はこの積分方程式を中心に話を進めていくことになります.

Picard-Lindelöfの定理の証明

それでは,[Picard-Lindelöfの定理]を5つのステップに分けて証明します.

Step 1

$I_{K}:=\brc{t_0-\frac{1}{2K},t_0+\frac{1}{2K}}\cap I$とし,関数空間

\begin{align*} \mathcal{C} :=\set{\m{x}\in(C^0(I_{K}))^n}{\all t\in I_K\quad (t,\m{x}(t))\in D} \end{align*}

を定めると,$\mathcal{C}$は一様ノルム$\|\cdot\|_{I_K}$に関する空でない完備距離空間となることを示します.

$I_K$上で恒等的に$\m{x}_0$をとる関数は$\mathcal{C}$に属するから$\mathcal{C}\neq\emptyset$である.

一様ノルム$\|\cdot\|_{I_K}$に関するCauchy列$\{\m{x}_k\}_{k\in\N}\subset\mathcal{C}$を任意にとる.このとき,

  • $\mathcal{C}\subset(C^0(I_K))^n$より,$\{\m{x}_k\}_{k\in\N}$は$(C^0(I_K))^n$における一様ノルム$\|\cdot\|_{I_K}$に関するCauchy列
  • $(C^0(I_{K}))^n$は一様ノルム$\|\cdot\|_{I_K}$に関して完備距離空間

だから,ある$\m{x}\in(C^0(I_{K}))^n$が存在して$\m{x}=\lim\limits_{k\to\infty}\m{x}_k$を満たす.

任意の$k\in\N$に対して,$\m{x}_k\in\mathcal{C}$だから

\begin{align*} |\m{x}_k(t)-\m{x}_0|\le M|t-t_0| \end{align*}

を満たす.よって,左辺で$k\to\infty$として

\begin{align*} |\m{x}(t)-\m{x}_0|\le M|t-t_0| \end{align*}

を得る.したがって,$\{\m{x}_k\}_{k\in\N}$の極限が$\mathcal{C}$に属するから,$\mathcal{C}$は完備である.

なお,$\mathcal{C}$は閉集合なので,位相空間の一般論から$\m{x}\in\mathcal{C}$としても良いですね.

Step 2

$\mathcal{C}$上の写像$\Phi$を

\begin{align*} \Phi(\m{x})(t):=\m{x}_0+\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau \end{align*}

で定めると,$\Phi$は$\mathcal{C}$上の縮小写像となることを示します.

[1] $\Phi$の値域が$\mathcal{C}$であることを示す.

任意に$\m{x}\in\mathcal{C}$をとる.このとき,

  • 任意の$\tau\in I_K$に対して$(\tau,\m{x}(\tau))\in D$を満たすこと
  • $\m{f}$は$D$上で定義されていること

を併せると,任意の$t\in I_K$に対して$\dint_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau$が定義できる.

よって,積分の連続性から$\Phi(\m{x})\in (C^0(I_K))^n$を得る.

また,$t\in I_K$のとき$|t-t_0|\le T^*$だから

\begin{align*} |\Phi(\m{x})(t)-\m{x}_0| =&\abs{\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau} \\\le&\abs{\int_{t_0}^{t}|\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))|\,d\tau} \\\le&\abs{\int_{t_0}^{t}M\,d\tau} =M|t-t_0| \\\le&M\cdot T^* \le M\cdot\frac{R}{M} =R \end{align*}

である.よって,$\Phi(\m{x})\in\mathcal{C}$となる.すなわち,$\Phi:\mathcal{C}\to\mathcal{C}$である.

[2] $\Phi$が$\mathcal{C}$上の縮小写像であることを示す.

このとき,任意の$\m{x},\m{y}\in\mathcal{C}$に対して,

\begin{align*} \|\Phi(\m{x})-\Phi(\m{y})\|_{I_K} =&\sup_{t\in I_K}\abs{\int_{t_0}^{t}\{\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))-\m{f}(\tau,\m{y}(\tau))\}\,d\tau} \\\le&\sup_{t\in I_{K}}\abs{\int_{t_0}^{t}\abs{\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))-\m{f}(\tau,\m{y}(\tau))}\,d\tau} \\\le&\sup_{t\in I_{K}}K\abs{\int_{t_0}^{t}|\m{x}-\m{y}|\,d\tau} \\\le&\sup_{t\in I_{K}}K\abs{\int_{t_0}^{t}\|\m{x}-\m{y}\|_{I_K}\,d\tau} \\\le&K\cdot\frac{1}{2K}\cdot\|\m{x}-\m{y}\|_{I_K} =\frac{1}{2}\|\m{x}-\m{y}\|_{I_K} \end{align*}

なので,$\Phi$は$\mathcal{C}$上の一様ノルム$\|\cdot\|_{I_K}$に関する縮小写像である.

Step 3

積分方程式

\begin{align*} \m{x}(t)=\m{x}_0+\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau \end{align*}

が解$\m{x}\in C^0(I)$をもつことを示します.

[Step 1]より$\mathcal{C}$は空でない完備距離空間であり,[Step 2]より$\Phi$が$\mathcal{C}$上の縮小写像だから,[Banachの不動点定理]より$\Phi$の不動点が$\mathcal{C}$上にただ1つ存在する.すなわち,

\begin{align*} \m{x}=\m{x}_0+\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau \end{align*}

を満たす$\m{x}\in\mathcal{C}$が一意に存在する.

もし$\sup I_K<\sup I$なら,$t_0+\frac{1}{2K}$を初期時間とみなせば,これまでと同じ議論により解が$t\le t_0+\frac{2}{2K}$まで延長できる.

これを繰り返すことにより,解の定義域は$t\le t_0+T^*$にまで延長できる.

同様に,$\inf I_K>\inf I$なら,解の定義域は$t_0-T^*\le t$にまで延長できる.

よって,初期条件$\m{x}(t_0)=\m{x}_0$を満たす積分方程式

\begin{align*} \m{x}(t)=\m{x}_0+\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau \end{align*}

の解$\m{x}\in C^0(I)$が存在する.

[Step 1]と[Step 2]の議論を一回行うごとに,解の存在する$t$が正の方向に$\frac{1}{2K}$ずつ延長されていくことになるわけですね.

さて,これで$\mathcal{C}$において解が一意に存在することは分かりましたが,より広い$C^0(I)$で解が一意であるかどうかは分かっていません.

そのため,次は$C^0(I)$においても解が一意であることを示しましょう.

Step 4

初期条件$\m{x}(t_0)=\m{x}_0$を満たす常微分方程式

\begin{align*} \od{\m{x}}{t}(t)=\m{f}(t,\m{x}(t)) \end{align*}

の解$\m{x}$が$C^1(I)$において一意に存在することを示します.

$\m{x},\m{y}\in C^0(I)$を積分方程式の解とする.

$(t_0,\m{x}(t_0))\in D^i$ ($D^i$は$D$の内部)だから,$\m{x}$の連続性より

\begin{align*} T_1:=\sup\set{t\in(0,T^*]}{\bmat{t_0+t\\\m{x}(t_0+t)}\in D} \end{align*}

が存在する.$D$は閉集合だから,再び$\m{x}$の連続性と併せて$(t_0+T_1,\m{x}(t_0+T_1)) \in D$である.

$I_+:=[t_0,t_0+T_1]$とすると

\begin{align*} \|\m{x}(t)-\m{x}_0\|_{I_+} =&\sup_{t\in I_+}\abs{\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau} \\\le&\sup_{t\in I_+}\abs{\int_{t_0}^{t}|\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))|\,d\tau} \\\le&\sup_{t\in I_+}\abs{\int_{t_0}^{t}M\,d\tau} \le MT_1 \end{align*}

である.

ここで,もし$T_1<T^*$なら,$MT_1<R$かつ$T_1<T$だから$MT_1<MT_{1+}<R$かつ$T_1<T_{1+}<T$なる$T_{1+}$が存在する.

よって,$(t_0+T_{1+},\m{x}(t_0+T_{1+}))\in D$となって$T_1$の上限性に矛盾するから$T_1=T^*$である.

同様に

\begin{align*} T_2:=\sup\set{t\in(0,T^*]}{\bmat{t_0+t\\\m{y}(t_0+t)}\in D} \end{align*}

とすると$T_2=T^*$が成り立つ.

よって,任意の$t\in I_{K+}:=I_K\cap I_+$に対して$(t,\m{x}(t)), (t,\m{y})\in D$が成り立つから,[Step 2]と同様に

\begin{align*} \|\m{x}-\m{y}\|_{I_{K+}} =&\sup_{t\in I_{K+}}\abs{\int_{t_0}^{t}\{\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))-\m{f}(\tau,\m{y}(\tau))\}\,d\tau} \\\le&\frac{1}{2}\|\m{x}-\m{y}\|_{I_{K+}} \end{align*}

となって$\|\m{x}-\m{y}\|_{I_{K+}}=0$を得る.

これより,$I_{K+}$上で恒等的に$\m{x}=\m{y}$であることが分かった.

[Step 3]と同様に,初期時間を置き直して考えることを繰り返せば,$[t_0,t_0+T^*]$上で恒等的に$\m{x}=\m{y}$となる.

同様にして$[t_0-T^*,t_0]$上でも恒等的に$\m{x}=\m{y}$となるから,結局$I$上で恒等的に$\m{x}=\m{y}$となる.

よって,初期条件$\m{x}(t_0)=\m{x}_0$を満たす常微分方程式

\begin{align*} \od{\m{x}}{t}(t)=\m{f}(t,\m{x}(t)) \end{align*}

の解$\m{x}\in C^1(I)$は一意である.

Step 5

$\m{f}\in C^m(D)$なら,解は$\m{x}\in C^{m+1}(D)$となることを示します.

数学的帰納法により示す.

[1] $m=0$の場合にはすでに証明されている.

[2] $m=\ell$の場合に成り立つと仮定する.

$\m{f}\in C^{\ell+1}(D)$なら$\m{f}\in C^{\ell}(D)$だから,帰納法の仮定より$\m{x}\in C^{\ell+1}(D)$である.

よって,$\m{f}(\cdot,\m{x})\in C^{\ell+1}(D)$だから,不定積分$\dint_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau$で定まる関数は$D$上$C^{\ell+2}$級となる.

よって,$m=\ell+1$の場合にも成り立つ.

[1], [2]より,$\m{f}\in C^m(D)$なら,解は$\m{x}\in C^{m+1}(D)$となることが分かった.

これで[Picard-Lindelöfの定理]が証明できました.

ピカールの逐次近似法の正当化

途中で[Banachの不動点定理]を適用して解の存在を示したわけですが,[Banachの不動点定理]により

\begin{align*} \m{x}:=\lim_{n\to\infty}\Phi^n(\m{x}_0) \end{align*}

が不動点になることも分かるのでした.これが[Picardの逐次近似法]の正体なわけですね.

このように,[Picardの逐次近似法]は本質的に[Banachの不動点定理]となっているわけですね.

念のため,以下で[Picardの逐次近似法]の定義がうまく機能していることをみておきましょう.

[1] 任意の$t\in I$に対して,$\m{x}_1(t):=\m{x}_0$と定めます.

このとき,$\m{x}_1\in C^0(I)$なので,$(t,\m{x}_1(t))=(t,\m{x}_0)\in D$ですね.

[2] 任意の$t\in I$に対して$(t,\m{x}_k(t))\in D$となる$\m{x}_k\in C^0(I)$が定まったとします.

このとき,$f$は$D$上で連続だから,積分方程式の右辺$\m{x}_0+\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}(\tau))\,d\tau$に$\m{x}=\m{x}_k\in C^0(I)$を代入できて,

\begin{align*} \m{x}_{k+1}(t):=\m{x}_0+\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}_k(\tau))\,d\tau \end{align*}

で$I$上の関数$\m{x}_{k+1}$を定めます.このとき,任意の$t\in I$に対して

\begin{align*} |\m{x}_{k+1}(t)-\m{x}_0| =&\abs{\int_{t_0}^{t}\m{f}(\tau,\m{x}_k(\tau))\,d\tau} \\\le&\abs{\int_{t_0}^{t}|\m{f}(\tau,\m{x}_k(\tau))|\,d\tau} \\\le&\abs{\int_{t_0}^{t}M\,d\tau} =M|t-t_0| \\\le&MT^* \le M\cdot\frac{R}{M} =R \end{align*}

だから,$(t,\m{x}_{k+1}(t))\in D$ですね.

[1], [2]より,任意の$t\in I$に対して$(t,\m{\phi}_k(t))\in D$となる$C^0(I)$上の列$\{\m{\phi}_k\}_{k=0}^{\infty}$が帰納的に定まることが分かりましたね.

これにより,確かに[Picardの逐次近似法]で定まる関数列$\{\m{x}_n\}_{n=1}^{\infty}$が数学的にもきちんと定義されることが保証されましたね.

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