ヘルダーの不等式の証明・応用|ルベーグ積分の基本不等式

ルベーグ空間
ルベーグ空間

ルベーグ積分(測度論)を扱う分野では,$p$乗可積分関数に関する不等式であるヘルダーの不等式がよく用いられます.

ヘルダーの不等式を用いると可測関数$f,g$の積$fg$が可積分であることを証明できるなど,ルベーグ積分において最も基本的な不等式のひとつです.

この記事では

  • $p$乗ルベーグ可積分関数
  • ヘルダーの不等式
  • ヘルダーの不等式の応用(双対性)

を順に解説します.

以下の積分はルベーグ積分として考えていますが,より一般に測度空間上でも同様に成り立ちます.

ルベーグ空間($L^p$空間)の参考文献

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ルベーグ積分と関数解析

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$p$乗ルベーグ可積分関数

まずは$p$乗ルベーグ可積分関数を定義し,$L^p$ノルムを定義します.

$p$上可積分とは絶対値の$p$乗が可積分であること

$p\in[1,\infty)$とする.ルベーグ可測集合$A\subset\R$上のルベーグ可測関数$f$に対して,

\begin{align*}\int_{A}|f(x)|^p\,dx<\infty\end{align*}

が成り立つとき,$f$は$A$において$p$乗ルベーグ可積分であるという.

条件$(*)$は$|f|^p$がルベーグ可積分であると言っても同じことですね.

例えば,$f:\R\to\R;x\mapsto\dfrac{1}{\sqrt{1+x^2}}$はルベーグ可測集合$\R$上のルベーグ可測関数であり,

\begin{align*}\int_{\R}|f(x)|^2\,dx&=\int_{\R}\frac{1}{1+x^2}\,dx=\brc{\tan^{-1}{x}}_{-\infty}^{\infty}
\\&=\frac{\pi}{2}-\bra{-\frac{\pi}{2}}=\pi\end{align*}

となるので,$f$は$\R$における2乗可積分関数ですね.

$p$乗可積分関数の$L^p$ノルム

ルベーグ可測集合$A\subset\R$上の$p$乗ルベーグ可測関数全部の集合(の商集合)を$L^p(A)$と表し,次のノルムによりノルム空間となります.

$p\in[1,\infty)$とする.ルベーグ可測集合$A\subset\R$上の$p$乗ルベーグ可積分関数$f$に対して,

\begin{align*}\|f\|_{L^p(A)}=\bra{\int_{A}|f(x)|^p\,dx}^{1/p}\end{align*}

を$f$の$A$上の$L^p$ノルムという.

$\|\cdot\|_{L^p(A)}$は省略して,$\|\cdot\|_{L^p}$や$\|\cdot\|_{p}$と表すこともよくあります.

空間$L^p(A)$の定義と,$\|\cdot\|_{L^p(A)}$が$L^p(A)$のノルムとなることの証明は,次の記事で説明します.

ここでは,単に「$\|f\|_{L^p(A)}$は$(\int_{A}|f(x)|^p\,dx)^{1/p}$を表す」という記法だという理解で問題ありません.





ヘルダーの不等式

ヘルダーの不等式においては,$\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1$を満たす定数$p,q\in[1,\infty]$が現れ,この$p,q\in[1,\infty]$をヘルダー共役(Hölder conjugate)といいます.

$p=1$のときは$q=\infty$とみなし,$q=1$のときは$p=\infty$とみなします.

以下では,補題を一つ示し,ヘルダーの不等式を証明します.

ヘルダーの不等式の証明のための補題

$p,q\in(1,\infty)$はヘルダー共役とする.このとき,任意の$a,b\ge0$に対して,不等式

\begin{align*}ab\le \frac{a^p}{p}+\frac{b^q}{q}\end{align*}

が成り立つ.

$a=0$または$b=0$のときは両辺とも0なので等号で成り立つから,以下$a\neq0$かつ$b\neq0$とする.

対数関数$\log$は上に凸だから,$\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1$に注意してイェンセンの不等式を用いると

\begin{align*}\log{\bra{\frac{a^p}{p}+\frac{b^q}{q}}}
&\le\frac{1}{p}\log{a^p}+\frac{1}{q}\log{b^q}
\\&=\log{a}+\log{b}=\log{ab}\end{align*}

が成り立つ.よって,対数関数が単調増加であることと併せて$\frac{a^p}{p}+\frac{b^q}{q}\ge ab$を得る.

ヘルダーの不等式とその証明

次の不等式をヘルダーの不等式といいます.

[ヘルダーの不等式]$p,q\in(1,\infty)$はヘルダー共役とし,$A\subset\R$をルベーグ可測集合とする.このとき,$A$上の$p$乗ルベーグ可積分関数$f$と$q$乗ルベーグ可積分関数$g$に対して,不等式

\begin{align*}\|fg\|_{L^1(A)}\le\|f\|_{L^p(A)}\|g\|_{L^q(A)}\end{align*}

が成り立つ.したがって,$fg$はルベーグ可積分関数である.

$p,q\in(1,\infty)$のとき,$\|\cdot\|_{L^p(A)}$と$\|\cdot\|_{L^q(A)}$を使わずに書くと,不等式は

\begin{align*}\int_{A}|f(x)g(x)|\,dx\le\bra{\int_{A}|f(x)|^p\,dx}^{1/p}\bra{\int_{A}|g(x)|^q\,dx}^{1/q}\end{align*}

となりますね.

$F:=\|f\|_{L^p(A)}$, $G:=\|g\|_{L^q(A)}$とおく.もし$F=0$または$G=0$なら,ほとんど至る所で$f=0$または$g=0$なので両辺とも0となって不等式が等号で成り立つから,$F\neq0$かつ$G\neq0$で考えれば良い.

さらに,もし$F=\infty$または$G=\infty$なら,右辺が$\infty$となって不等式が成り立つから,さらに$F\neq\infty$かつ$G\neq\infty$で考えれば良い.

任意の$x\in A$に対して,先ほど示した補題を$a=\frac{|f(x)|}{F}$, $b=\frac{|g(x)|}{G}$として適用すると,

\begin{align*}\frac{|f(x)g(x)|}{FG}
=\frac{|f(x)|}{F}\cdot\frac{|g(x)|}{G}
\le\frac{|f(x)|^p}{pF^p}+\frac{|g(x)|^q}{qG^q}\end{align*}

が成り立つ.よって,$F^p=\int_{A}|f(x)|^p\,dx$, $G^q=\int_{A}|g(x)|^q\,dx$に注意して,$\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1$を用いると

\begin{align*}&\|fg\|_{L^1(A)}=\int_{A}|f(x)g(x)|\,dx
\\&\le FG\int_{A}\bra{\frac{|f(x)|^p}{pF^p}+\frac{|g(x)|^q}{qG^q}}\,dx
\\&=FG\bra{\frac{1}{pF^p}\int_{A}|f(x)|^p\,dx+\frac{1}{qG^q}\int_{A}|g(x)|^q\,dx}
\\&=FG\bra{\frac{1}{p}+\frac{1}{q}}=FG\end{align*}

を得る.

ヘルダーの不等式から次がすぐに従いますね.

$p=1$, $q=\infty$のときも

\begin{align*}\|fg\|_{L^1(A)}=\int_{A}|f(x)g(x)|\,dx\le\int_{A}|f(x)|\|g(x)\|_{L^\infty(A)}\,dx=\|f\|_{L^1(A)}\|g\|_{L^\infty(A)}\end{align*}

となって同様の不等式が従います($\|\cdot\|_{L^\infty(A)}$は$|f|$の$A$上の本質的上限でした).$p=\infty$, $q=1$のときも同様の不等式が従い,これらの場合も含めてヘルダーの不等式ということがあります.

コーシー-シュワルツの不等式

いま示したヘルダーの不等式で$p=q=2$としたときの不等式をコーシー-シュワルツ(cauchy-Schwarz)の不等式といいます:

[コーシー-シュワルツの不等式]$A\subset\R$をルベーグ可測集合とする.このとき,$A$上の2乗可積分関数$f$, $g$に対して,不等式

\begin{align*}\|fg\|_{L^1(A)}\le\|f\|_{L^2(A)}\|g\|_{L^2(A)}\end{align*}

が成り立つ.





ヘルダーの不等式の応用(双対性)

ヘルダーの不等式を用いると,次の等式が導かれます.

$p,q\in(1,\infty)$はヘルダー共役とし,$A\subset\R$をルベーグ可測集合とする.このとき,$A$上のルベーグ可測関数$f$に対して,等式

\begin{align*}\|f\|_{L^p(A)}=\sup_{\|g\|_{L^q(A)}=1}\|fg\|_{L^{1}(A)}\end{align*}

が成り立つ.

つまり,可測関数$g$を$\int_{A}|g(x)|^q\,dx=1$を満たしながら動かすときの$\int_{A}|f(x)g(x)|\,dx$の上限が$\bra{\int_{A}|f(x)|^p\,dx}^{1/p}$に一致するわけですね.

もし$\int_{A}|f(x)|^p\,dx=0$なら,ほとんど至る所で$f=0$なので両辺とも0となって成り立つ.以下,$\int_{A}|f(x)|^p\,dx\neq0$とし,両向きの不等式を示すことで等式を示す.

$\|g\|_{L^q(A)}=1$を満たす任意の可測関数$g$に対して,ヘルダーの不等式より

\begin{align*}\|fg\|_{L^1(A)}\le\|f\|_{L^p(A)}\|g\|_{L^q(A)}=\|f\|_{L^p(A)}\end{align*}

が成り立つから,

\begin{align*}\sup_{\|g\|_{L^q(A)}=1}\|fg\|_{L^{1}(A)}\le\|f\|_{L^p(A)}\end{align*}

が従う.

一方,$g^*(x):=|f(x)|^{p-1}\bra{\int_{A}|f(x)|^p\,dx}^{-1/q}$とおく.$\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1$より$q(p-1)=p$に注意して

\begin{align*}\|g^*\|_{L^q(A)}^p&=\int_{A}|g^*(x)|^p\,dx
\\&=\int_{A}|f(x)|^{q(p-1)}\bra{\int_{A}|f(x)|^p\,dx}^{-1}\,dx
\\&=\bra{\int_{A}|f(x)|^p\,dx}^{-1}\bra{\int_{A}|f(x)|^{p}\,dx}=1\end{align*}

となって$\|g^*\|_{L^q(A)}^p=1$を得る.よって,$\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1$より$1-\frac{1}{q}=\frac{1}{p}$に注意して

\begin{align*}\sup_{\|g\|_{L^q(A)}=1}\|fg\|_{L^{1}(A)}
&\ge\|fg^*\|_{L^{1}(A)}
=\int_{A}|f(x)g^*(A)|\,dx
\\&=\int_{A}|f(x)|^{p}\bra{\int_{A}|f(x)|^p\,dx}^{-1/q}\,dx
\\&=\bra{\int_{A}|f(x)|^p\,dx}^{-1/q}\int_{A}|f(x)|^p\,dx
\\&=\bra{\int_{A}|f(x)|^p\,dx}^{1-(1/q)}
=\|f\|_{L^p(A)}\end{align*}

が従う.

この等式を用いて$\|f(x)\|_{L^p(A)}$を考えることを双対性議論(duality argument)などと呼ぶことがあります.

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