ルベーグ積分への道のり|古代エジプトからリーマン積分を経て

高校数学で初めて「積分」に出会い,「こんな曲がった境界をもつ図形も面積が求められるのか!」と衝撃を受けた人は多いかもしれません.

大学の微分積分学の授業では,高校数学の積分はリーマン積分という厳密に定義された積分が元になっていることを学びます.

リーマン積分の考え方は直感的でシンプルですが,専門的に積分を扱おうとすると数学的には少々扱いづらいという欠点があります.

1900 年頃,数学者であるアンリ・ルベーグはリーマン積分とは異なるアプローチで積分を考えることで,リーマン積分の欠点を大幅に改善しました.現在ではこの積分はルベーグ積分とよばれています.

ルベーグ積分はリーマン積分の欠点を改善することができており,これによりリーマン積分では計算できなかった積分もルベーグ積分では積分できるようになるという恩恵も生まれました.

この記事では,リーマン積分とルベーグ積分だけではなく,

  • 積分がどこから起こり
  • どのように発展し
  • ルベーグ積分が考えられるようになったか

という積分の歴史とともにルベーグ積分を説明します.

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【ルベーグ積分】リーマン積分の先へ!ルベーグ積分の考え方をシンプルに理解する!(22分25秒)

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積分の原型

積分の原型が生まれたのは紀元前2000年頃の古代エジプトだったと言われます.

アフリカ大陸には最高峰の標高が5000mを超えるルウェンゾリ山地があり,冬に降った雪が春になると溶けてナイル川に流れ込みます.

これによりナイル川は毎年氾濫を起こしてしまうのですが,上流から流れてきた栄養豊富な土がその年の農作の糧となります.このような背景から「エジプトはナイルの賜物」という言葉が生まれたわけですね.

しかし,ナイル川が氾濫すると地形を変えてしまうので,再び測量して土地を分割し直す必要があります.

ここで考えられた測量術は「三角形で少しずつ土地を覆い,三角形の面積の和で土地の面積を求める」という方法で取り尽くし法とよばれます.

「取り尽くし法」という言葉は当時の人々が使っていたわけではなく,使われ始めたのは15世紀半ば頃のようです.

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三角形の面積は当時もよく知られていましたから,これで土地のおおよその面積が分かることになります.

ただ,もちろんこの有限個の三角形では曲がった境界を持つ領域を埋め尽くすことはできませんから,正確な面積を求めることはできません.

しかし,だいたいの土地の面積が求まれば十分だったからか,厳密に面積を考える理論はあまり考えられなかったようです.

このような「土地(geo)を測る(metry)こと」は「幾何学」を意味する“geometry”の語源にもなっています.

積分の幕開け

1600年代に入ると,面積を求めるための様々な道具が出揃い始めます.

関数と図形

ルネ・デカルト (René Descartes)は2つの数を「縦」と「横」の2方向で図示できることを思い付き,これが中学校以来学んできた座標の始まりとなります.

大雑把に言えば,関数とは「数を与えると,数を1つ返してくれる規則」ということができます.

デカルトが座標を考える前には,関数は「数を変換するもの」という程度の理解でしたが,座標を考えたことにより関数$f$に対して$y=f(x)$を$xy$平面上に曲線(グラフ)として図示できるようになります.

すなわち,関数が図形的な意味とともに理解をされ始めたわけですね.

例えば,$f(x)=x^2$で表される関数$f$は単に「数を2乗して返すもの」だったわけですが,これを$y=f(x)$ $(y=x^2)$と考えれば$xy$平面に図示することができるのは皆さんよくご存知ですね.

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このように座標を考えることで図形と関数が親密な関係にあることが理解され始め,これにより領域の面積を求めるために関数が使われ始めます.

つまり,下図の水色領域の面積を知りたければ,このグラフを表す関数$f$を考えればいいということになるわけですね.

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そして,この領域の面積を

\begin{align*} \int_{a}^{b}f(x)\,dx \end{align*}

と表し,この$\displaystyle\int$を伴う計算を一般に積分とよぶわけですね.

この$\displaystyle\int$はインテグラル (integral)と読みますね.

当時の積分

しかし,当時は積分を計算する一般的な方法が知られておらず,1つ1つの積分の計算は様々な工夫のもとに行われていました.

たとえば「デカルトの正葉線」と呼ばれる

\begin{align*} x^{3}+y^{3}=axy\quad(a>0) \end{align*}

で表される$xy$平面上のグラフは以下のようになります.

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この曲線で囲まれる領域の面積は今は高校生でも求められますが,当時は様々な工夫により計算されていたようです.

なお,この面積の古典的な求積法については,例えば「古典的難問に学ぶ微分積分」(高瀬正仁 著,共立出版)でいくつか紹介されています.

大学で学ぶ微分積分学の知識は本書の中で説明されているため,高校数学の微分積分が理解できていれば読める内容となっています.

数学好きの高校生〜大学1,2年生にオススメしたい好著です.

微分と積分

中世のヨーロッパで積分を計算する一般的な方法が知られていなかったのは,まだ微分法の考え方が確立されていなかったのが大きな理由です.

現在では微分法はアイザック・ニュートン (Isaac Neton) とゴッドフリート・ライプニッツ (Gottfried Leibniz) がそれぞれ独立に考え出したものとされていますが,当時はどちらの功績か2人は大いに争いました.

当時ニュートンはイギリスで強い権力を持っていたためにニュートンが優勢だったようですが,ニュートンが使っていた微分の記法は扱い辛いものでした.

一方,現代でも使われている微分の記法$\dfrac{dy}{dx}$を考えたのはライプニッツで,この記法はとても便利で微分と積分の関係を見事に表現することができます.この意味でライプニッツの記法は微分積分学の発展に大きく貢献したといえます.

微分が考え出されると「微分と積分はどうやら繋がっていて,連続関数のような性質の良い関数に対しては微分と積分は逆の関係になっている」ということが分かってきます.

このことは今では微分積分学の基本定理とよばれています.

高校数学で「積分は微分の逆演算(=微分してもとに戻る関数を求めるのが積分)」という「微分」→「積分」の順で学ぶことができるのは,これは微分積分学の基本定理が背景にあるからなわけですね.

しかし,高校数学を学んだ方には「歴史的には微分よりもずっと先に積分が考えられていて,数学的にも微分と積分はもともと全く別のもの」という事実には少し驚きがあるかも知れませんね.

ともかく微分積分学の基本定理により積分の一般的な計算方法が考えられ,当時の数学者によって積分は微分と併せて大きく発展していくことになります.

リーマン積分

その後,数学界全体で数学をより厳密に整備し直すべきだという風潮が広まります.

リーマン積分の考え方

この風潮は積分に対しても例外ではありませんでした.

1800年代になると,ベルンハルト・リーマン (Bernhard Riemann)は積分の厳密な定義を与えました.

リーマンは$\displaystyle\int_{0}^{1}f(x)\,dx$を計算するには「$xy$平面上の$y=f(x)$のグラフと$x$軸で囲まれる$0\le x\le 1$の領域を縦長にスライスし,長方形によって近似すればよい」と考えました.

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この考え方による積分をリーマン積分といいます.

ただし,上図は分かりやすさのためスライスの幅が等しく長方形の縦の長さがスライスの左端の値になっていますが,本来のリーマン積分はスライスの幅がバラバラでもよく長方形の高さも左端の値でなくても構いません.

もちろん,この図のように「荒いスライス」では長方形で近似した面積(水色部分)と,もともと考えていた$\displaystyle\int_{0}^{1}f(x)\,dx$に差があります.

そこで,このスライスの幅をもっと細かくすると下図のようになります.

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この図は先ほどよりも$\displaystyle\int_{0}^{1}f(x)\,dx$との誤差が小さくなっており,近似した長方形の面積はより$\displaystyle\int_{0}^{1}f(x)\,dx$に近付くことが見てとれます.

このように,「(スライスの最大幅)→0の極限により,いつでも長方形近似による面積が『同じ値』に収束するとき,リーマン積分可能であるといい,この極限を$\displaystyle\int_{0}^{1}f(x)\,dx$と表そう」というわけですね.

ディリクレ関数(リーマン積分不可能な関数)

しかし,実はリーマン積分では「長方形近似の高さ」を決める段階で問題が生じて,リーマン積分を考えられない関数もあります.

例えば,次で定まる関数$f$はディリクレ(Dirichlet)関数という名前がついています:

\begin{align*} f(x)=\begin{cases}1&(x\in\Q)\\0&(x\in\R\setminus\Q)\end{cases} \end{align*}

$\Q$は有理数の集合,$\R$は実数の集合です.そのため,$\R\setminus\Q$は無理数の集合となります.

つまり,ディリクレ関数$f$は

  • $f(4)=f\bra{\frac{1}{2}}=f\bra{\frac{4}{3}}=1$
  • $f(-\sqrt{2})=f(\pi)=f(\log_{2}{5})=0$

のように,有理数を代入すると1を返し,無理数を代入すると0を返すような関数です.

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「え?こんなのが関数?」と思うかも知れませんが,何かを1つ与えたときに1つだけ数を返してくれるものを関数というので,ディリクレ関数もれっきとした関数です.

ディリクレ関数がリーマン積分不可能であることを示すためには,これは有理数と無理数の稠密性を用います.

[有理数と無理数の稠密性] 任意の実数$a$, $b$ ($a<b$)に対して,$a<c<b$となる有理数$c$,無理数$c$が存在する.

大雑把に言えば,「数直線をどこまで拡大しても有理数と無理数が存在する」「有理数と無理数は極めて細かく入り組んでいる」ということですね.このため,上のディリクレ関数$y=f(x)$のグラフは「0と1を極めて細かく飛び移るグラフ」になっています.

リーマン積分は領域を縦にスライスしていくわけですが,[有理数と無理数の稠密性]よりどのスライスの中にも

  • 高さ1の点
  • 高さ0の点

が含まれますね.よって,長方形近似を作るとき,

  • 全ての長方形の高さを1にする
  • 全ての長方形の高さを0にする

のどちらも可能です.

しかし,「(スライスの最大幅)→0の極限により,いつでも長方形近似の面積和が「同じ値」に収束するとき,リーマン積分可能という」のでしたから,違う値に収束させられるディリクレ関数はリーマン積分不可能になるわけですね.

このように,「リーマン積分は不連続関数にあまり強くない」と言えるわけですね.

ルベーグ積分

1900年頃,リーマン積分よりも不連続関数に強い積分として,アンリ・ルベーグ (Henri Lebesgue)は積分の新しい定義を考えました.現在ではこの積分をルベーグ積分とよびます.

リーマン積分が「縦切り」なら,ルベーグ積分は「横切り」ということができるのですが,これについて少し考えてみましょう.

ルベーグ積分の考え方

簡単な問題を考えましょう.

次の$y=f(x)$のグラフをもつ関数$f$の水色領域の面積$\dint_{0}^{3}f(x)\,dx$を求めよ.

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積分の計算を用いるまでもありませんね.

面積$\dint_{0}^{3}f(x)\,dx$は

  • $2\times$($f(x)=2$となる$x$の集合の長さ)
  • $3\times$($f(x)=3$となる$x$の集合の長さ)
  • $1\times$($f(x)=1$となる$x$の集合の長さ)

の和に等しいから,

\begin{align*} \int_{0}^{3}f(x)\,dx =2\times\frac{3}{2}+3\times\frac{1}{2}+1\times1 =\frac{11}{2} \end{align*}

である.

この解答のように,一般に有限個の値$\{\alpha_{1},\alpha_{2},\dots,\alpha_{n}\}$しか取らない関数$f$に対して,積分は

  • $\alpha_{1}\times$($f(x)=\alpha_{1}$となる$x$の集合の長さ)
  • $\alpha_{2}\times$($f(x)=\alpha_{2}$となる$x$の集合の長さ)
  • ……
  • $\alpha_{n}\times$($f(x)=\alpha_{n}$となる$x$の集合の長さ)

の和で求めることができます.

この考え方をすれば,下図のグラフをもつ関数$g$の積分は

  • ($f(x)=1$となる$x$の集合の長さ)=($g(x)=1$となる$x$の集合の長さ)
  • ($f(x)=2$となる$x$の集合の長さ)=($g(x)=2$となる$x$の集合の長さ)
  • ($f(x)=3$となる$x$の集合の長さ)=($g(x)=3$となる$x$の集合の長さ)

なので,上の関数$f$の積分と等しくなることがすぐに分かりますね.

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上の関数$f$と$g$ではとりうる値が有限個だったので有限和でしたが,関数のとりうる値は有限個とは限りません.

そのような場合には,リーマン積分と同じく横にスライスして近似和を考えて,このスライスを細かくしていくことでルベーグ積分を定義します.

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つまり,リーマン積分では関数の定義域に注目して考えた一方で,関数の値域に注目して考えるのがルベーグ積分なわけですね.

この意味で,先ほどリーマン積分は「縦切り」,ルベーグ積分は「横切り」という表現を使ったわけですね.

ディリクレ関数のルベーグ積分

先ほどのディリクレ関数$f$を$0\le x\le 1$でルベーグ積分してみましょう.

ディリクレ関数のとりうる値は0と1でしたから,

  • $0\times$($f(x)=0$かつ$0\le x\le 1$となる$x$の集合の長さ)
  • $1\times$($f(x)=1$かつ$0\le x\le 1$となる$x$の集合の長さ)

の和がルベーグ積分ということになります.

このうち,前者は0をかけているのでもちろん0で,後者は1をかけており$f(x)=1$となる$x$は有理数なので

$\dint_{0}^{1}f(x)\,dx=$($0\le x\le 1$での有理数の集合の長さ)

となりますね.

しかし,有理数は数直線上で「まばら」な集合なので,($0\le x\le 1$での有理数の集合の長さ)といわれてもあまりピンとこないかもしれません.

本来は「有理数の集合の長さ」というのものをきちんと定義すべきなのですが,実は($0\le x\le 1$での有理数の集合の長さ)は0となります.

したがって,ディリクレ関数の積分は

\begin{align*} \int_{0}^{1}f(x)\,dx=0 \end{align*}

と計算できるわけですね.

なお,有理数でない実数を無理数というのですから,($0\le x\le 1$での無理数の集合の長さ)は1となります.

このことからも分かるように「有理数は無理数に比べて少ない」ことが示唆されるわけですが,実際にこのことは「カントール(Cantor)の対角線論法」によって証明することができます.

ルベーグ積分の良さ

最後にルベーグ積分の良さをいくつか挙げます.

数学的に扱いやすい

微分と積分を扱う分野は「解析学」と呼ばれるのですが,例えば

  • リーマン積分ができる関数列の極限関数でリーマン積分を考えられるとは限らない
  • リーマン積分と極限の順序交換ができるための条件が面倒

など解析学としては,実は少々扱いづらいという欠点があります.

一方,ルベーグ積分ではこれらの欠点が大きく改善され

  • ルベーグ積分ができる関数列の極限関数もルベーグ積分を考えられる
  • ルベーグ積分と極限の順序交換ができるための条件が比較的簡単

となります.

また,少し専門的にはなりますが,ルベーグ積分は「完備性」と相性が良く関数解析学の理論を使うために好都合というのが,ルベーグ積分が重用される特に大きな理由です.

このように,ルベーグ積分は数学的に非常に扱いやすく,現代の解析学で用いる数学の多くはルベーグ積分です.

たとえば,私の研究の専門分野である「非線形偏微分方程式論」では,ルベーグ積分がないと何もできないと言っても言い過ぎではありません.

測度論の理解に良い

ルベーグ積分という理論の良さというわけではないのですが,書きたいので挙げておきます.

ルベーグ積分はより広く測度論という分野に属します.

大雑把に言えば,測度論とは「長さや頻度なのど量を測る理論」のことで,測度論に属する他のトピックとしては確率論が挙げられます.

高校数学で確率といえば,場合の数の延長で扱われ微分積分とは関係なさそうに思えるかもしれませんが,実は専門的な確率論は微分積分を使い倒します.

さて,ルベーグ積分の考え方が理解できていると測度論の考え方にも馴染みやすくなります.

最近ではブラック・ショールズ方程式といった確率微分方程式の認知度が上がり始めており,この分野に入門するために確率論を学ぶ必要があり,そのために「まずはルベーグ積分を学ぼう」という方も少なからずいらっしゃいます.

このように,ルベーグ積分は測度論への入門としては,非常に良いトピックということができます.

参考文献

以下は参考文献です.

ルベグ積分入門

[吉田洋一 著/ちくま学芸文庫]

初学者向けに丁寧に書かれたルベーグ積分の入門書です.

初版は1965年でもとは培風館から出版されていましたが,現在は筑摩書房より出版されているロングセラーの教科書です.

現在は文庫ですが内容は培風館の時と同じくきちんと専門的で,文庫になったことで1500円程度とずいぶん安く購入できるようになりました

第1章ではリーマン積分と比べてルベーグ積分がどのように「良い積分」となっているのか説明されているのは初学者がルベーグ積分のイメージをつくる際に役立ちますね.

また,第2章で「集合と写像の基本事項」について説明しており,数学的な基礎が不安な人にも配慮されています.

ルベーグ積分の重要定理である「ルベーグの収束定理」(テキストの表記では「Lebesgueの項別積分定理」)は第5章にあります.

なお,第6章ではルベーグ積分と微分の関係,第7章では多変数のルベーグ積分,第8章以降では速度論の一般論が説明されています.

最後までありがとうございました!

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