前々回の記事で定義したように,ルベーグ外測度$m^{*}$の定義域$\mathcal{P}(\R)$をルベーグ可測集合全体の族$\mathcal{L}$に制限してできる写像をルベーグ測度$m$というのでした.
ルベーグ測度$m$はルベーグ積分において本質的に重要なので,$m$の定義域である$\mathcal{L}$にどのような集合が属しているのかを知っておきたいところです.
結論から言えば,
- $\R$上の区間
- $\R$上の開集合・閉集合
は可測であることが証明できます.
このことと前回の記事で証明したように可測集合の和集合・共通部分・補集合も可測であることを併せると,かなり多くの$\R$の部分集合がルベーグ可測集合であることが分かります.
ルベーグ可測集合でない集合も存在しますが,それなりに工夫をしないと作れません.
そこで,この記事では
- $\R$上の区間・開集合・閉集合の可測性の証明
- ボレル集合族$\mathcal{B}$
を順に説明します.
「ルベーグ積分の基本」の一連の記事
- ルベーグ積分入門
- ルベーグ測度
- ルベーグ可測関数とルベーグ積分
- ルベーグ積分の性質と項別積分
- ルベーグ積分の基本性質を証明する(準備中)
- 単関数列の項別積分定理のイメージと証明(準備中)
- ルベーグの単調収束定理と具体例(準備中)
- ルベーグの収束定理と具体例(準備中)
$\R$上の区間の可測性
例えば,右半開区間$[3,5)$は
と表されます.このように,全ての区間は無限区間$[a,\infty)$, $(a,\infty)$, $(-\infty,b]$, $(-\infty,b)$の形の区間の共通部分で表すことができます.
さて,前回の記事で説明したように,可測集合の共通部分も可測集合なのでした.

よって,上の4タイプの無限区間が全て可測であることが証明できれば,全ての区間が可測であることが分かりますね.
任意の区間$I\subset\R$はルベーグ可測である.すなわち,$I\in\mathcal{L}$である.
$a,b\in\R$に対して,無限区間$[a,\infty)$, $(a,\infty)$, $(-\infty,b]$, $(-\infty,b)$が全て可測であることを示せばよい.
まず,$I:=[a,\infty)$とし$I\in\mathcal{L}$を示す.
任意に集合$X\subset\R$をとる.外測度$m^{*}$の$\inf$の性質より,任意の$\epsilon>0$に対して,ある右半開区間の列$\{I_n\}$が存在して
が成り立つ.ここで$J_n:=I\cap I_n$, $K_n:=I^c\cap I_n$ ($n=1,2,\dots$)とおくと,$\{J_n\}$と$\{K_n\}$はともに右半開区間の列で
が成り立ち,$|I_n|=|J_n|+|K_n|$($n=1,2,\dots$)が成り立ちます.よって,
が成り立つから$m^{*}(X)+\epsilon>m^{*}(X\cap I)+m^{*}(X\cap I^c)$を得る.
よって,$\epsilon$の任意性と併せて$m^{*}(X)\ge m^{*}(X\cap I)+m^{*}(X\cap I^c)$だから$I\in\mathcal{L}$が従う.
同様に$(-\infty,b)\in\mathcal{L}$であることも従う.さらに,$(a,\infty)=(-\infty,a]^c$, $(-\infty,b]=(b,\infty)^c$であり,可測集合の補集合も可測集合だから$(a,\infty),(-\infty,b]\in\mathcal{L}$が従う.
$[a,\infty)\in\mathcal{L}$の証明は,実は前々回の記事で$[0,\infty)$の可測性を証明したのと同じ方法ですね.
$\R$上の開集合・閉集合の可測性
次に,開集合と閉集合の可測性を証明しましょう.
任意の開集合$A\subset\R$はルベーグ可測である.すなわち,$A\in\mathcal{L}$である.
$A=\emptyset$なら$A$は開集合で可測集合である.よって,あとは$A\neq\emptyset$で示せばよい.
以下,開集合$A$が高々可算個の開区間の列$\{I_n\}$の和集合で表せる,すなわち,$A=\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}I_n$と表せることを示す.
これが示されれば,前回の記事で示したように一般に可測集合の可算和も可測だから,先ほど示した$\R$上の区間が可測であることと併せて$A$は可測であることが分かる.
有理数全部の集合$\Q$は可算集合だから$A\cap\Q$は可算集合である.そこで,$A\cap\Q$の全ての元に$A\cap\Q=\{a_1,a_2,\dots\}$と添字を付ける.
$A$は空でない開集合なので,$A$に含まれる有理数は無限に存在するから,$A\cap\Q$は可算無限である.
任意の$a_n\in A\cap\Q$に対して,$(a_n-r,a_n+r)\subset A$を満たす$r>0$の上限の$\frac{1}{2}$を$r_n$とおく:
さらに,このとき$I_n:=(a_n-r_n,a_n+r_n)$とする.$I_n$の定義より$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}I_n\subset A$が成り立つ.
一方,任意に$a\in A$をとる.$A$は開集合だから,ある$\epsilon>0$が存在して$(a-\epsilon,a+\epsilon)\subset A$が成り立つ.
$\R$における$\Q$の稠密性から,ある$k\in\N$が存在して$a_k\in(a-\frac{\epsilon}{4},a+\frac{\epsilon}{4})$が成り立つので,
が成り立つ.
よって,$r_k\ge\frac{3\epsilon}{8}>\frac{\epsilon}{4}$だから$a\in I_k$と分かるので,$a\in\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}I_n$が成り立つ.
よって,開集合$A$が$A=\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}I_n$と開区間の可算和で表されるから,$A$は可測集合である.
一般に閉集合の補集合は開集合であることから,閉集合の可測性は直ちに示されます.
任意の閉集合$A\subset\R$はルベーグ可測である.すなわち,$A\in\mathcal{L}$である.
いま示したように開集合は可測だから,開集合$A^c$は可測である.
また,前回の記事で示したように可測集合の補集合も可測だから,$A=(A^c)^c$は可測である.
ボレル集合族
前回の記事で可測空間を定義しました.
集合$\Omega$を考える.$\mathcal{F}\subset\mathcal{P}(\Omega)$が次を満たすとき,$\mathcal{F}$を完全加法族 (completely additive class)といい,組$(\Omega,\mathcal{F})$を可測空間 (measurable space)という.
- $\Omega\in\mathcal{F}$
- $A\in\mathcal{F}\Ra A^c\in\mathcal{F}$
- $A_1,A_2,\dots\in\mathcal{F}$に対して$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{F}$が成り立つ.
この定義において$\Omega$が位相空間のとき,完全加法族$\mathcal{F}$として次のものが存在します.
位相空間$\Omega$に対して,$\Omega$上の開集合について和集合,共通部分,補集合を可算回とってできる集合全部からなる集合族$\mathcal{B}(\Omega)\subset\mathcal{P}(\Omega)$をボレル(Borel)集合族という.
上で示したように$\R$上の(自然な位相における)全ての開集合はルベーグ可測であり,ルベーグ可測集合の和集合,共通部分,補集合を可算回とっても可測でしたから,ボレル集合族$\mathcal{B}(\Omega)$は
を満たすことが分かりますね.
なお,実は$\mathcal{B}(\R)\neq\mathcal{L}$である(すなわち,ルベーグ可測だがボレル可測でない集合が存在する)ことも示すことができます.
ボレル集合族$\mathcal{B}(\Omega)$に対して,次の定理が成り立ちます.
位相空間$\Omega$に対して,ボレル集合族$\mathcal{B}(\Omega)$は完全加法族となる.すなわち,$(\Omega,\mathcal{B}(\Omega))$は可測空間である.
ルベーグ積分の文脈ではBorel集合族が登場する機会は多くありませんが,より広い測度論においてBorel集合族は重要な完全加法族です.
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