ルベーグ積分2
外測度の本質的に重要な5つの性質

前回の記事ではルベーグ積分においては「集合の長さ」を考えることが重要であることを説明し,そのために「集合の長さ」を外側から測る(ルベーグ)外測度を定義しました.

外測度はルベーグ積分において重要なルベーグ測度の土台となる重要な概念なので,外測度の性質を知っておくことは大切です.

そこで,この記事では外測度の本質的に重要な5つの性質

  1. 非負値性
  2. 単調性
  3. 平行移動不変性
  4. 劣加法性
  5. 区間の外測度

  • どのように重要なのか
  • それぞれの性質の証明

を順に説明します.

名前を見るといかめしい印象を受けてしまうかも知れませんが,内容自体はシンプルで直感的に理解できるものばかりなので,恐れず1つずつ理解してくださいね.

なお,この一連の記事では外測度を$m^{*}$で表し,右半開区間$I=[a,b)$の長さを$|I|$で表し$b-a$としています.

参考文献

以下は参考文献です.この記事の著者も数学教室の集団授業の指定テキストとして使っています.

ルベグ積分入門

[吉田洋一 著/ちくま学芸文庫]

初学者向けに丁寧に書かれたルベーグ積分の入門書です.

初版は1965年でもとは培風館から出版されていましたが,現在は筑摩書房より出版されているロングセラーの教科書です.

現在は文庫ですが内容は培風館の時と同じくきちんと専門的で,文庫になったことで1500円程度とずいぶん安く購入できるようになりました

第1章ではリーマン積分と比べてルベーグ積分がどのように「良い積分」となっているのか説明されているのは初学者がルベーグ積分のイメージをつくる際に役立ちますね.

また,第2章で「集合と写像の基本事項」について説明しており,数学的な基礎が不安な人にも配慮されています.

ルベーグ積分の重要定理である「ルベーグの収束定理」(テキストの表記では「Lebesgueの項別積分定理」)は第5章にあります.

なお,第6章ではルベーグ積分と微分の関係,第7章では多変数のルベーグ積分,第8章以降では測度論の一般論が説明されています.

外測度の5つの性質が重要な理由

まずは冒頭で挙げた5つの性質がどのような性質で,どのように重要かを説明します.

外測度の5つの性質

もし写像$m$が「$\R$の部分集合の『長さ』を測る」ものであれば,次の4つの性質を満たしていて欲しいというのは自然な考え方でしょう.

  1. $m(A)\ge0$が成り立つ.また,$m(\emptyset)=0$が成り立つ.
  2. $A\subset B$なら$m(A)\le m(B)$が成り立つ.
  3. $A, B$が平行移動で移り合うなら$m(A)=m(B)$が成り立つ.
  4. $A_1, A_2,\dots$のどの2つの共通部分も空集合なら$m\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}=\sum\limits_{n=1}^{\infty}m(A_n)$が成り立つ.

それぞれ言葉で説明すると,次のように言うことができますね.

  1. どんな集合も測ると$0$以上であり,空集合$\emptyset$を測ると$0$である.
  2. 大きい集合を測った方が大きいか等しい.
  3. 平行移動して移り合う2つの集合を測ると等しい.
  4. 被りのない集合たちの和集合を測るのと,それぞれを測って和を取るのでは等しい.

そこで我々は「前回の記事で定義した外測度

$m^{*}(A)=\inf\set{\dsum_{n=1}^{\infty}|I_n|}{\begin{gathered}A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n,\\\text{$I_n$は右半開区間}\end{gathered}}$

がこれらの性質を満たしているのではないか?」と考えたいところですが,惜しいことに外測度$m^{*}$は4つ目の性質のみ満たしません.

しかし,4つ目の性質を少し緩めて2つに分けた

  • 共通部分が空集合とは限らない$A_1, A_2,\dots$に対して$m^{*}\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}\le\sum\limits_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$が成り立つ.
  • 右半開区間$I$に対して,$m^{*}(I)=|I|$が成り立つ.

を満たすことは証明することができます.すなわち,外測度は次の5つの性質を満たします.

外測度$m^{*}$は次の5つの性質を満たす.

[非負値性] 集合$A\subset\R$に対して$m^{*}(A)\ge0$が成り立つ.また,$m^{*}(\emptyset)=0$が成り立つ.

[単調性] 集合$A, B\subset\R$が$A\subset B$を満たすとき$m^{*}(A)\le m^{*}(B)$が成り立つ.

[平行移動不変性] 集合$A, B\subset\R$が平行移動で移り合うとき$m^{*}(A)=m^{*}(B)$が成り立つ.

[劣加法性] 集合$A_1, A_2,\dots\subset\R$に対して$m^{*}\bra{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n}\le\sum_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$が成り立つ.

[区間の外測度] 右半開区間$I\subset\R$に対して,$m^{*}(I)=|I|$が成り立つ.

ルベーグ測度

先ほど写像$m$が「$\R$の部分集合の『長さ』を測る」ものであれば満たしていて欲しい4つの性質として

  1. $m(A)\ge0$が成り立つ.また,$m(\emptyset)=0$が成り立つ.
  2. $A\subset B$なら$m(A)\le m(B)$が成り立つ.
  3. $A, B$が平行移動で移り合うなら$m(A)=m(B)$が成り立つ.
  4. $A_1, A_2,\dots$のどの2つの共通部分も空集合なら$m\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}=\sum\limits_{n=1}^{\infty}m(A_n)$が成り立つ.

を挙げました.この4つ目の性質は完全加法性$\sigma$-加法性などと呼ばれ,測度論的において基礎的な性質です.

しかし,残念ながら$m$の定義域を$\R$の冪集合$\mathcal{P}(\R)$で考えている限りでは,このような$m$は存在しないことが知られています.

$\R$の冪集合$\mathcal{P}(\R)$は$\R$の部分集合全部を集めてできる集合のことでした.よって,$\mathcal{P}(\R)$は「集合の集合」になっているわけですね.

実は$m^{*}$の定義域を$\mathcal{P}(\R)$全体と欲張らずに少しだけ小さくすると,これら4つの性質を満たすことが証明でき,この定義域を制限してできる写像$m$をルベーグ測度と呼びます.

このルベーグ測度$m$はルベーグ積分を定義する際に本質的に重要となるもので,そのためルベーグ測度を特徴付ける上の4つの性質も本質的に重要です.

そのため,この記事のテーマの「外測度が満たす5つの重要性質」はルベーグ測度の性質を導くために重要と言えるわけですね.

外測度の5つの性質の証明

それでは上で説明した5つの性質の証明を与えていきましょう.

非負値性

外測度の非負値性は「どんな集合の外測度も$0$以上であり,空集合$\emptyset$の外測度は$0$である」というものでした.

集合$A\subset\R$に対して$m^{*}(A)\ge0$が成り立つ.また,$m^{*}(\emptyset)=0$が成り立つ.


任意の$A\subset\R$に対して,外測度$m^{*}$の定義

$m^{*}(A)=\inf\set{\dsum_{n=1}^{\infty}|I_n|}{\begin{gathered}A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n,\\\text{$I_n$は右半開区間}\end{gathered}}$

について,$\sum_{n=1}^{\infty}|I_n|\ge0$だから$m^{*}(A)\ge0$である.

また,外測度の定義より$0\le m^{*}(\emptyset)$である.さらに,空集合$\emptyset$は任意の集合の部分集合だから,任意の$\epsilon>0$に対して$\emptyset\subset[0,\epsilon)$なので,外測度の定義より

\begin{align*} m^{*}(\emptyset)\le|[0,\epsilon)|=\epsilon \end{align*}

である.これより$\epsilon$の任意性より$m^{*}(\emptyset)\le0$が成り立つ.よって,$m^{*}(\emptyset)=0$を得る.

ただし,可算集合$A$に対して$n^{*}(A)=0$であることを前回の記事の最後に具体例として示したように,空集合$\emptyset$でなくとも外測度が$0$になることもあるので注意してください.

なお,この性質から外測度$m^{*}$は$m^{*}:\mathcal{P}(\R)\to[0,\infty]$なる写像ということができますね.

単調性

外測度の単調性は「大きい集合の方が外測度は大きいか等しい」というものでした.

集合$A, B\subset\R$が$A\subset B$を満たすとき

\begin{align*} m^{*}(A)\le m^{*}(B) \end{align*}

が成り立つ.


$A\subset B$より,右半開区間の列$\{I_n\}$が$B\subset\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}I_n$を満たせば$A\subset\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}I_n$を満たすので,

\begin{align*} \set{\{I_n\}}{B\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n} \subset\set{\{I_n\}}{A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n} \end{align*}

が成り立つ.よって,外測度$m^{*}$の定義と併せて

\begin{align*} m^{*}(A) =&\inf\set{\dsum_{n=1}^{\infty}|I_n|}{A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n} \\\le&\inf\set{\dsum_{n=1}^{\infty}|I_n|}{B\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n} =m^{*}(B) \end{align*}

が成り立つ.

この証明が分かりにくい人は,以下のように言い換えると分かりやすいかも知れません:

$B$を被覆する右半開区間の列$\{I_n\}$は必ず$A$を被覆するので,$A$を被覆する右半開区間の列$\{I_n\}$の方が選択肢が多いか等しいことになります.このため,$\set{\sum\limits_{n=1}^{\infty}|I_n|}{B\subset\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}I_n}$より$\set{\sum\limits_{n=1}^{\infty}|I_n|}{A\subset\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}I_n}$の方が多くの元を含み得るため,$\inf$は後者の方が小さいか等しくなりますね.

平行移動不変性

外測度の平行移動不変性は「平行移動して移り合う集合の外測度は等しい」というものでした.

集合$A, B\subset\R$が平行移動で移り合うとき

\begin{align*} m^{*}(A)=m^{*}(B) \end{align*}

が成り立つ.


集合$X\subset\R$をちょうど$c\in\R$だけ平行移動して得られる集合$\set{x+c\in\R}{x\in X}$を$X+c$と表す.

$A$, $B$が平行移動で移り合うことから,ある$c\in\R$が存在して$A+c=B$が成り立つ.

このとき,$B\subset\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}I_n$を満たす右半開区間の列$\{I_n\}$に対して,$A\subset\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}(I_n+c)$が成り立つ.

各$n$に対して$|I_n|=|I_n+c|$なので,

\begin{align*} m^{*}(A) =&\inf\set{\dsum_{n=1}^{\infty}|I_n+c|}{\begin{gathered}A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}(I_n+c)\end{gathered}} \\\le&\inf\set{\dsum_{n=1}^{\infty}|I_n|}{\begin{gathered}B\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n\end{gathered}} =m^{*}(B) \end{align*}

が成り立つ.

また,$A=B-c$と考えれば同様に$m^{*}(B)\le m^{*}(A)$が成り立つから,$m^{*}(A)=m^{*}(B)$を得る.

劣加法性

外測度の劣加法性は「和集合の外測度より,外測度の和の方が大きいか等しい」というものでした.

集合$A_1, A_2,\dots\subset\R$に対して

\begin{align*} m^{*}\bra{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n}\le\sum_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n) \end{align*}

が成り立つ.

少し直感的な説明をしておきます.

有限集合の元の個数のイメージをもてば,この性質も直感的に理解できます.有限集合$X$の元の個数を$n(X)$で表すことにすると,有限集合$A$, $B$に対して,

\begin{align*} n(A\cup B) =n(A)+n(B)-n(A\cap B) \end{align*}

となりますから,$n(A\cup B)\le n(A)+n(B)$が成り立ちます.

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これは$n(A)+n(B)$では$A\cap B$に属する元の個数を$n(A)$, $n(B)$の両方でカウントしますが,和集合$n(A\cup B)$では1回しかカウントしないことが理由ですね.

これと同様に外測度の劣加法性の右辺$m^{*}\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}$では共通部分をまとめて外測度を考えているのに対し,左辺$\sum\limits_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$では共通部分をそれぞれの集合の外測度で考えるため,この不等式が得られるわけですね.


一般に$m^{*}\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}\le\infty$なので,$\sum\limits_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)=\infty$のときは成り立つ.よって,以下$\sum\limits_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)<\infty$のときを示す.

このとき,任意の$n$に対して$m^{*}(A_n)<\infty$が成り立つから,外測度$m^{*}(A_n)$の$\inf$の性質より

\begin{align*} m^{*}(A_n)+\frac{\epsilon}{2^n}>\sum_{k=1}^{\infty}|I_n^{(k)}| \end{align*}

なる右半開区間の列$\{I_n^{(k)}\}_k$が存在する.

$m^{*}(A_n)<\infty$でなければこの不等式は成り立たないので,先に$\sum_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)=\infty$の場合を排除している.

このとき,$\set{I_n^{(k)}}{n,k=1,2,\dots}$を並べ替えて$\{I_{\ell}\}$と表すと$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\subset \bigcup\limits_{\ell=1}^{\infty}I_{\ell}$が成り立つから,外測度の定義より

\begin{align*} m^{*}\bra{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n} \le\sum_{\ell=1}^{\infty}|I_{\ell}| \le\lim_{L\to\infty}\sum_{\ell=1}^{L}|I_{\ell}| \end{align*}

が成り立つ.

また,任意の$\epsilon>0$, $L\in\N$に対して

\begin{align*} \sum_{\ell=1}^{L}|I_{\ell}| \le\sum_{n=1}^{\infty}\sum_{k=1}^{\infty}|I_n^{(k)}| <\sum_{n=1}^{\infty}\bra{m^{*}(A_n)+\frac{\epsilon}{2^n}} =\epsilon+\sum_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n) \end{align*}

が成り立つから,

\begin{align*} m^{*}\bra{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n} \le\epsilon+\sum_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n) \end{align*}

が成り立つ.$\epsilon$の任意性より$m^{*}\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}\le\sum\limits_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$を得る.

区間の外測度

外測度について「右半開区間の外測度は長さに一致する」という次の性質が成り立つのでした.

右半開区間$I\subset\R$に対して,

\begin{align*} m^{*}(I)=|I| \end{align*}

が成り立つ.

左辺の$I$の外測度$m^{*}(I)$の定義は「$I$を覆うあらゆる右半開区間の列$\{I_n\}$を考えたときの,$\sum_{n=1}^{\infty}|I_n|$の集合の下限$\inf$」なので,右辺の区間の長さ$|I|$のような単純な定義ではありません.

そのため,これらが等しいことは直ちに明らかではありませんが,いつでも一致することが証明できるというのがこの性質なわけですね.


$I\subset I$が成り立つから,外測度の定義より$m^{*}(I)\le I$が成り立つ.

また,$I$の外測度$m^{*}(I)$の定義より,任意の$\epsilon>0$に対して,$I\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}$なる右半開区間の列$\{I_n\}$が存在し

\begin{align*} m^{*}(I)+\epsilon>\sum_{n=1}^{\infty}|I_n| \end{align*}

が成り立つ.

また,$I\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}$より$|I|\le\sum_{n=1}^{\infty}|I_n|$が成り立つことと併せて

\begin{align*} m^{*}(I)+\epsilon>|I| \end{align*}

が成り立つから,$\epsilon$の任意性より$m^{*}(I)\ge|I|$を得る.よって,$m^{*}(I)=|I|$が従う.

証明中に用いた「右半開区間$I\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}$なら$|I|\le\sum_{n=1}^{\infty}|I_n|$が成り立つ」という部分は,直感的には捉え易いと思いますが本来は証明すべき箇所です.

しかし,この証明は少々厄介なのでこの記事では省略します.証明が知りたい方は序盤に紹介した参考文献を参照してください.