ルベーグ積分4
可測集合の基本性質のまとめと完全加法族

ルベーグ積分の基本
ルベーグ積分の基本

前回の記事ではルベーグ可測集合を定義し,簡単にルベーグ可測であることが分かる集合の具体例を紹介しました.

また,ルベーグ外測度$m^{*}$の定義域$\mathcal{P}(\R)$をルベーグ可測集合全部の族$\mathcal{L}$に制限してできる写像$m$をルベーグ測度というのでした.

$\mathcal{P}(\R)$は$\R$の冪集合($\R$の部分集合全部の族)のことでした.

このルベーグ測度$m$はルベーグ積分において本質的に重要な役割を果たすものなので,ルベーグ測度$m$の性質をよく知っておくことは大切です.

そのためにはルベーグ測度$m$の定義域$\mathcal{L}$の性質をよく知っておく必要があります.

ルベーグ可測集合の族$\mathcal{L}$の重要な性質はいくつもありますが,中でも$\mathcal{L}$が完全加法族であるという性質はルベーグ測度$m$を考える際に重要です.

この記事では

  • ルベーグ可測集合の基本事項の復習
  • ルベーグ可測集合の和集合と共通部分
  • $\mathcal{L}$が完全加法族であること

を順に説明します.

参考文献(ルベーグ積分)

ルベグ積分入門

ロングセラーの入門書です.専門書ですが,文庫なので安く購入できるのも魅力です.

ルベーグ積分と関数解析

ルベーグ積分から更なるステップに進みたい人向けの教科書です.

ルベーグ可測集合の復習

前回の記事で説明したルベーグ可測集合の定義を確認しましょう.

集合$A\subset\R$がルベーグ可測集合 (Lebesgue measurable set)または単に可測集合であるとは,任意の$X\subset\R$に対して

   \begin{align*} m^{*}(X)=m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)\quad\dots(\star) \end{align*}

を満たすことをいう.ここに,$A^c$は$\R$における$A$の補集合である.

ルベーグ積分3|ルベーグ可測集合とルベーグ測度の定義
外測度m*はほぼ「集合の長さを測る写像」と言えますが実は少し不都合があり,「m*の定義域を少し狭めることで不都合を排除しよう」という方法を採用します.この定義域を狭めてできる写像mをルベーグ測度といいます.

また,前々回の記事で説明したように,一般にルベーグ外測度$m^{*}$は劣加法性を満たすのでしたから,

   \begin{align*}m^{*}(X)\le m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)\end{align*}

は常に成り立ちます.さらに,$m^{*}(X)=\infty$なら逆向き$\ge$の不等式も常に成り立ちます.

このことから,可測集合であるための必要十分条件に関する次の命題が成り立つことも思い出しておきましょう(この記事でも度々用います).

集合$A\subset\R$に対して,次は同値である.

  • $A$はルベーグ可測集合である.
  • $m^{*}(X)<\infty$なる任意の$X\subset\R$に対して$m^{*}(X)\ge m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)$が成り立つ.
ルベーグ積分2|外測度の本質的に重要な5つの性質
ルベーグ外測度の「非負値性」「単調性」「劣加法性」「平行移動不変性」「区間の外測度」は本質的に重要な性質であり,ルベーグ測度の定義の土台となります.この記事では,これらの性質が重要な理由と,それぞれの性質の説明と証明をしています.

ルベーグ可測集合の性質

以下ではルベーグ可測集合全部の族を$\mathcal{L}$と表します.ここでは$A,B\in\mathcal{L}$に対して

  • 補集合$A^c$
  • 和集合$A\cup B$
  • 共通部分$A\cap B$
  • 差集合$A\setminus B$

が可測集合であることを証明します.

ルベーグ可測集合の補集合

可測集合$A\subset\R$の補集合$A^c$は可測集合です.

[補集合] $A\in\mathcal{L}$に対して,$A^c\in\mathcal{L}$が成り立つ.


任意に$X\subset\R$をとる.$A\in\mathcal{L}$だから,可測集合の定義より

   \begin{align*}m^{*}(X) =&m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c) \\=&m^{*}(X\cap(A^c)^c)+m^{*}(X\cap A^c)\end{align*}

が成り立つ.よって,$A^c\in\mathcal{L}$が従う.

ルベーグ可測集合の和集合

2つの可測集合$A,B\subset\R$の和集合$A\cup B$と共通部分$A\cap B$は可測集合です.

[和集合] $A,B\in\mathcal{L}$に対して,$A\cup B\in\mathcal{L}$が成り立つ.


任意に$m^{*}(X)<\infty$なる$X\subset\R$をとる.このとき

   \begin{align*}m^{*}(X)\ge m^{*}(X\cap (A\cup B))+m^{*}(X\cap (A\cup B)^c)\end{align*}

が成り立つことを示せば$A\cup B\in\mathcal{L}$が従う.

$A\in\mathcal{L}$だから,可測集合の定義より

   \begin{align*}m^{*}(X)=m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)\end{align*}

が成り立つ.また,$B\in\mathcal{L}$だから,可測集合の定義より

   \begin{align*}m^{*}(X\cap A^c) =&m^{*}((X\cap A^c)\cap B)+m^{*}((X\cap A^c)\cap B^c) \\=&m^{*}(X\cap A^c\cap B)+m^{*}(X\cap(A\cup B)^c)\end{align*}

が成り立つ.ただし,2つ目の等号では第2項目にド・モルガンの法則を用いている.よって,

   \begin{align*}m^{*}(X)=m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c\cap B)+m^{*}(X\cap(A\cup B)^c)\end{align*}

が成り立つから,あとは$m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c\cap B)\ge m^{*}(X\cap (A\cup B))$を示せばよい.

一般に集合$P$, $Q$, $R$に対して,分配法則

  • $P\cap (Q\cup R)=(P\cap Q)\cup (P\cap R)$
  • $P\cup (Q\cap R)=(P\cup Q)\cap (P\cup R)$

が成り立つことを用いると,

   \begin{align*}&(X\cap A)\cup(X\cap A^c\cap B) \\=&X\cap (A\cup(A^c\cap B)) =X\cap ((A\cup A^c)\cap(A\cup B)) \\=&X\cap\R\cap(A\cup B) =X\cap(A\cup B)\end{align*}

だから,外測度$m^{*}$の劣加法性より

   \begin{align*}m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c\cap B)\ge m^{*}(X\cap (A\cup B))\end{align*}

が示された.

帰納的に$A_1,A_2,\dots,A_n\in\mathcal{L}$に対して,$\bigcup\limits_{k=1}^{n}A_k$が成り立つことも分かりますね.

ルベーグ可測集合の共通部分

上で示した命題[和集合]と命題[補集合]を用いると,2つの可測集合$A,B\subset\R$の共通部分$A\cap B$も可測集合であることが直ちに示されます.

[共通部分] $A,B\in\mathcal{L}$に対して,$A\cap B\in\mathcal{L}$が成り立つ.


$A,B\in\mathcal{L}$だから,命題[補集合]を用いると$A^c,B^c\in\mathcal{L}$だから,さらに命題[和集合]より$A^c\cup B^c\in\mathcal{L}$である.

再び命題[補集合]を用いると$(A^c\cup B^c)^c\in\mathcal{L}$であり,ド・モアブルの定理より

   \begin{align*}(A^c\cup B^c)^c =A\cap B\end{align*}

だから,$A\cap B\in\mathcal{L}$が従う.

帰納的に$A_1,A_2,\dots,A_n\in\mathcal{L}$に対して,$\bigcap\limits_{k=1}^{n}A_k\in\mathcal{L}$が成り立つことも分かりますね.

さらに,差集合$A\setminus B$は$A\cap B^c$であることから,次も成り立ちますね.

[差集合] $A,B\in\mathcal{L}$に対して,$A\setminus B\in\mathcal{L}$が成り立つ.


$A,B\in\mathcal{L}$だから,命題[補集合]を用いると$B^c\in\mathcal{L}$であり,さらに命題[共通部分]より$A\cap B^c\in\mathcal{L}$である.

差集合の定義より

   \begin{align*}A\setminus B=A\cap B^c\end{align*}

だから,$A\setminus B\in\mathcal{L}$が従う.

完全加法族

それではこの記事の目標の完全加法族について説明します.

完全加法族

命題[和集合]では有限個の可測集合の和集合についての性質でしたが,実は可算無限個の可測集合であっても和集合は可測となります.

$A_1,A_2,\dots\in\mathcal{L}$に対して$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{L}$が成り立つ.

実は測度論において可測空間と呼ばれる概念があります.

集合$\Omega$を考える.$\mathcal{F}\subset\mathcal{P}(\Omega)$が次を満たすとき,$\mathcal{F}$を完全加法族 (completely additive class)といい,組$(\Omega,\mathcal{F})$を可測空間 (measurable space)という.

  • $\Omega\in\mathcal{F}$
  • $A\in\mathcal{F}\Ra A^c\in\mathcal{F}$
  • $A_1,A_2,\dots\in\mathcal{F}$に対して$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{F}$が成り立つ.

完全加法族は$\m{\sigma\text{-}}$加法族$\m{\sigma\text{-}}$代数などと呼ぶこともよくあります.

前回の記事では$\R\in\mathcal{L}$を示し,今回の記事の命題[補集合]から$A\in\mathcal{L}\Ra A^c\in\mathcal{L}$を示しました.

これらと上の定理を併せて,$\mathcal{L}$は完全加法族であり,組$(\R,\mathcal{L})$が可測空間であることが分かりますね.

この記事では詳しくは説明しませんが,可測空間は測度論における基本的な概念であり,このため上の定理は測度論的に本質的に重要な定理といえます.

補題

上の定理の証明のために,次の補題を用意しておきます.

$A_1,A_2,\dots\subset\mathcal{L}$が互いに素($i\neq j$なら$A_i\cap A_j=\emptyset$)なら,任意の$X\subset\R$と$n\in\N$に対して

   \begin{align*}m^{*}\bra{X\cap B_n}=\sum_{k=1}^{n}m^{*}(X\cap A_k)\end{align*}

が成り立つ.ただし,$B_n=\bigcup\limits_{k=1}^{n}A_k$ ($n\in\N$)である.


数学的帰納法により示す.$n=1$のときは

   \begin{align*}X\cap B_n =X\cap B_1 =X\cap A_1 =X\cap A_n\end{align*}

だから$m^{*}(X\cap B_n)=\sum\limits_{k=1}^{n}m^{*}(X\cap A_k)$が成り立つ.

ある$n$に対して成り立つと仮定する.$A_{n+1}\in\mathcal{L}$から

   \begin{align*}m^{*}(X\cap B_{n+1}) =&m^{*}((X\cap B_{n+1})\cap A_{n+1})+m^{*}((X\cap B_{n+1})\cap A_{n+1}^c)\end{align*}

である.いま$A_1,A_2,\dots,A_{n+1}$は互いに素と仮定しているので$B_{n+1}\cap A_{n+1}=A_{n+1}$, $B_{n+1})\cap A_{n+1}^c=B_{n}$だから,帰納法の仮定と併せると

   \begin{align*}m^{*}(X\cap B_{n+1}) =&m^{*}(X\cap A_{n+1})+m^{*}(X\cap B_{n}) \\=&m^{*}(X\cap A_{n+1})+\sum_{k=1}^{n}m^{*}(X\cap A_k) \\=&\sum_{k=1}^{n+1}m^{*}(X\cap A_k)\end{align*}

を得る.よって,$n+1$でも成り立つ.

定理の証明

この補題を用いて,上の定理を証明しましょう.

(再掲)$A_1,A_2,\dots\in\mathcal{L}$に対して,$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{L}$が成り立つ.


$A=\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n$, $B_n=\bigcup\limits_{k=1}^{n}A_k$ ($n\in\N$)とおく.$A\in\mathcal{L}$を2ステップで示す.

[1] $A_1,A_2,\dots$が互いに素である場合に成り立つことを示す.

任意に$m^{*}(X)<\infty$なる$X\subset\R$をとる.命題[和集合]より,任意の$n\in\N$に対して$B_n\in\mathcal{L}$だから,

   \begin{align*}m^{*}(X)=m^{*}(X\cap B_n)+m^{*}(X\cap B_n^c)\end{align*}

が成り立つ.補題より

   \begin{align*}m^{*}(X\cap B_n) =&\sum_{k=1}^{n}m^{*}(X\cap A_k)\end{align*}

が成り立ち,$B_n\subset A$より$X\cap B_n^c\supset X\cap A^c$だから,外測度$m^{*}$の単調性より

   \begin{align*}m^{*}(X\cap B_n^c)\ge m^{*}(X\cap A^c)\end{align*}

が成り立つ.

よって

   \begin{align*}m^{*}(X)\ge \sum_{k=1}^{n}m^{*}(X\cap A_k)+m^{*}(X\cap A^c)\end{align*}

が成り立つから,両辺で$n\to\infty$とすると

   \begin{align*}m^{*}(X)\ge \sum_{k=1}^{\infty}m^{*}(X\cap A_k)+m^{*}(X\cap A^c)\end{align*}

が成り立つ.右辺の第1項で$m^{*}$の劣加法性を用いれば

   \begin{align*}m^{*}(X) \ge&m^{*}\bra{\bigcup_{k=1}^{\infty}(X\cap A_k)}+m^{*}(X\cap A^c) \\=&m^{*}\bra{X\cap A}+m^{*}(X\cap A^c)\end{align*}

を得る.よって,$A\in\mathcal{L}$が従う.

[2] 一般の$A_1,A_2,\dots$に対して成り立つことを示す.

$A’_1=A_1$, $A’_n=A_n\setminus B_{n-1}$ ($n=2,3,\dots$)とおくと,$A’_1,A’_2,\dots$は互いに素であり,命題[差集合]より$A’_1,A’_2,\dots\in\mathcal{L}$である.

よって,[1]より$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A’_n\in\mathcal{L}$は可測である.

さらに,$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n=\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A’_n$だから$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{L}$が従う.

先ほどの命題[共通部分]の証明と同様にド・モアブルの法則を用いれば,可算無限個の可測集合の共通部分も可測であることとが分かりますね.

ルベーグ測度の性質と具体例

この記事では,ルベーグ可測集合全部の族$\mathcal{L}$が完全加法族であることの証明を目標に,ルベーグ可測集合の基本性質をまとめました.

しかし,この記事で扱った性質は「$A,B\mathcal{L}$ならば」のように元から$\mathcal{L}$に属する集合に対しての性質であって,具体的にどんな集合が$\mathcal{L}$に属しているのかについては説明していません.

そこで,次の記事では

  • $\R$上の区間
  • $\R$上の開集合・閉集合

が全て可測であることを証明します.

コメント

タイトルとURLをコピーしました