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無理数は有理数よりも多い?|対角線論法による濃度差の証明

集合論
集合論

たとえば

  • 23=0.66666
  • 15=0.20000

のように,(整数)/(整数)の形で表せる数のことを有理数といい,有理数は必ず循環小数で表すことができるのでした.

逆に循環小数も必ず(整数)/(整数)の形で表せるので,循環小数は有理数でもあることも思い出しておきましょう.

一方,有理数でない(循環小数で表せない)実数のことを無理数といいます.

義務教育下では有理数は小学校以来扱ってきますが,無理数は中学数学で2次方程式を解くために導入される平方根に関連してが現れるのが最初でしょう.

ここで次の問題を考えます.

無理数と有理数はどちらの方が多いか?

実は数学には「モノの多さ」を計る指標として濃度というものがあります.

濃度を考えると「無理数の方が多い」と結論付けることができ,この証明の論法として対角線論法が有名です.

この記事では濃度の基本的な考え方を説明し,「無理数が有理数よりも多い」ということを対角線論法を用いて説明します.

「個数」を数学的に扱おう

冒頭でも説明したように,「個数」を数学的に捉えるために集合の濃度の考え方が必要となります.

ここでは集合の基礎知識を整理し,濃度の考え方を説明します.

準備(集合の基礎)

この記事を読むのに必要な前提知識を最初にまとめておきます.

  • 集合:数学的なモノの集まり
  • げん:集合に属する1つ1つの対象
  • 部分集合:集合に含まれる集合

集合を表すには{}の間に元を並べる方法が基本的で,例えば「123を元にもつ集合」は{1,2,3}と表し,集合{1,2}は集合{1,2,3}の部分集合というわけですね.

  • 有限集合:元の個数が有限の集合
  • 無限集合:元の個数が無限の集合

また,この記事を通して

  • N:正の整数の集合{1,2,3,}
  • Z:整数の集合{,3,2,1,0,1,2,3,}
  • Q:有理数の集合
  • R:実数(数直線上の数)の集合
  • RQ:無理数の集合

で表します.

N, Z, Q, Rは大学以降で数学を学習・研究する上で一般的な記号です.

数学的な「個数」

それでは,数学的に「個数が等しい」というのをどのように考えればよいかを考えていきましょう.

例えば,

  • A={1,2,3,4}
  • B={3,π,2.2,2}

は集合としてはABですが,どちらも元の個数は4です.このように元の個数が等しければ,例えば

    \begin{align*}\begin{matrix} 1&\longleftrightarrow&-3\\ 2&\longleftrightarrow&\pi\\ 3&\longleftrightarrow&2.2\\ 4&\longleftrightarrow&-\sqrt{2} \end{matrix}\end{align*}

と対応付けられますね.一般に同じ個数の元を持つ2つの(有限)集合A, Bがあれば,Aの元とBの元で過不足なく「カップル」が作れますね.

Aの元とBの元で過不足なくカップルが作れることを,集合A, B1対1に対応すると言います.

数学では「集合A, Bが1対1に対応する」は「全単射ABが存在する」とも言います.

集合の濃度

いまみた例は有限集合でしたが,無限集合でも「『元の多さ』が等しいこと」を次のように定めます.

(有限集合とは限らない)集合Aの「元の多さ」を濃度 (cardinality)といい,cardAと表す.とくにAn個の元からなる有限集合のとき,cardA=nと表す.

また,集合A, Bが1対1に対応するときcardA=cardBと表す.

「元の多さ」というのは少々数学的ではない表現ですが,この記事ではこの表現で満足することにします.

例えば,有限集合なら

  • A={1,2,3}なら,cardA=3
  • B={2,3,π,4,3.75}なら,cardB=5

といった具合ですね.

さて,「有理数と無理数でどちらが多いか」ということがこの記事のテーマでしたから,濃度の言葉で言えば

  • cardQ
  • card(RQ)

のどちらが大きいかを考えようというわけですね.

Qは「有理数の集合」,RQは無理数の集合なのでした.

濃度の具体例・性質

いま定義した集合の濃度について,重要な具体例と性質を説明します.

可算濃度(正の整数の集合Nの濃度)

無限集合で濃度が等しい具体例を考えましょう.

正の整数の集合Nと整数の集合Zに対して,cardN=cardZが成り立つことを示せ.

対応

    \begin{align*}\N\to\Z;\left\{\begin{matrix}1&\longmapsto&0\\2n&\longmapsto&n\\2n+1&\longmapsto&-n\end{matrix}\right.\end{align*}

によってN, Zは1対1に対応する.ただし,nは正の整数である.

    \begin{align*}\begin{matrix} \N&&\Z\\ 1&\longrightarrow&0\\ 2&\longrightarrow&1\\ 3&\longrightarrow&-1\\ 4&\longrightarrow&2\\ 5&\longrightarrow&-2\\ &\vdots& \end{matrix}\end{align*}

よって,cardN=cardZが成り立つ.

集合としてはNよりZの方が大きいのに,濃度が等しいのは不思議に思えるかもしれません.

無限集合においては,一方の集合が他方の集合に含まれていても濃度が等しいことはよくあり,これは無限集合の面白さの源泉の1つになっています.

さて,ここで重要な濃度である可算濃度を定義しておきます.

濃度cardN可算濃度といい0と表す:

    \begin{align*}\operatorname{card}{\N}=\aleph_0.\end{align*}

また,濃度が0の集合を可算集合または可付番集合という.

はヘブライ文字で「アレフ」と読みます.また,0は「アレフゼロ」と読みます.

上の問題で示したことは「cardZ=0である」「Zは可算集合(可付番集合)である」などと表現できますね.

Nの元と1対1に対応付けられることから,濃度が0の集合Sは「Sの元に1から番号をつけて並べることができる」と表現することもできますね.

濃度の差

さて,濃度の大小を次のように定義することも自然ですね.

集合Aが集合Bの部分集合Bと1対1に対応付けられるとき,cardAcardBと定める.

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さらに,cardAcardBをみたすとき,cardA<cardBと定める.

cardAcardBかつcardAcardBのとき,ABは1対1に対応します.すなわち,cardA=cardBが成り立ちます.

つまり,

  • ABが1対1に対応しない
  • Aがピッタリと対応するBに含まれるBがある

という2つを満たすとき,Sの濃度はTの濃度より大きいというわけですね.

この定義から,次のことが従います.

[無限集合の濃度]任意の無限集合Sに対して,0cardSが成り立つ.

無限集合Sから要素を1つずつ取り出し順にa1,a2,と名付けていくと,Sの部分集合{a1,a2,}ができる.

このとき,正の整数nanに対応させれば1対1対応となるから,

    \begin{align*}\aleph_0 =\operatorname{card}\N =\operatorname{card}\{a_1,a_2,\dots\} \le\operatorname{card}S\end{align*}

が成り立つ.

この正の整数の集合Nの濃度を可算濃度というのでしたから,可算濃度0は無限集合の中でも最小の濃度ということができますね.

厳密に証明するには選択公理というものが必要です.しかし,直感的には以上の証明でも理解できるので,この記事ではこれ以上立ち入らないことにします.

有理数の集合Qの可算性

さて,この記事の主役の1つである有理数の集合の濃度cardQが実は可算濃度0であることを証明しておきましょう.

有理数の集合Qに対して,cardQ=0が成り立つ.

cardZ=0だったので,cardQ=cardZを示せばよい.

Qの元はqp (p, qは互いに素な整数,q0)と表せる.対応

    \begin{align*}\Q\to\Z;\frac{q}{p}\longmapsto 2^{q}(2p-1)\end{align*}

によってQZの部分集合は1対1に対応する.よって,cardQcardZが成り立つ.

また,NQなのでcardQcardZが成り立つ.

以上で両方の向きの不等号が証明できたから,cardQ=cardZ=0が成り立つ.

証明中の対応は,たとえば

  • 12  211(221)=3
  • 23  221(231)=10
  • 35  231(251)=36
  • 35  231{2(5)1}=36

と対応しており,

  • 分子を行き先の整数の素因数2の個数
  • 分母を行き先の整数の素因数分解の奇数部分

に対応させているわけですね.

つまり,この証明では全ての整数が2q×(奇数) (q0以上の整数)の形に表せることを用いているわけですね.

いま考えたように

  • 正の整数の集合N
  • 整数の集合Z
  • 有理数の集合Q

は集合としては異なりますが,濃度が全て可算無限α0で等しいことは重要なので,当たり前にしておきたいところです.

対角線論法による濃度差の証明

以上で「無理数が有理数より多い」ことの証明の準備が整いました.

有理数の集合Qと無理数の集合RQに対して

    \begin{align*}\operatorname{card}\Q<\operatorname{card}{(\R\setminus\Q)}\end{align*}

が成り立つ.

0=cardQなので,0<card(RQ)を示せばよい.

Sを1以下の正の無理数の集合とすると,SRQの部分集合だから

    \begin{align*}\operatorname{card}{S}\le\operatorname{card}{(\R\setminus\Q)}\end{align*}

である.よって,0<cardSを示せば,0<card(RQ)が成り立つ.

Sは無限集合だから,先ほど示した定理[無限集合の濃度]より0cardSが成り立つので,あとは0cardSを示せばよい.

cardS=0と仮定する.

このとき,矛盾が導かれればこの仮定が誤りとなり,cardS0が成り立つ.

仮定cardS=cardNよりSNは1対1に対応付けられる.

このとき,S={α1,α2,α3,α4,}とし,nNαnSが対応付けられたとする:

    \begin{align*}\begin{matrix} 1&\longrightarrow&\alpha_1\\ 2&\longrightarrow&\alpha_2\\ 3&\longrightarrow&\alpha_3\\ 4&\longrightarrow&\alpha_4\\ &\vdots& \end{matrix}\end{align*}

また,αnの小数第k位の数をpk(n)と表す:

    \begin{align*}&\alpha_1=0.p^{(1)}_{1}p^{(1)}_{2}p^{(1)}_{3}p^{(1)}_{4}\dots, \\&\alpha_2=0.p^{(2)}_{1}p^{(2)}_{2}p^{(2)}_{3}p^{(2)}_{4}\dots, \\&\alpha_3=0.p^{(3)}_{1}p^{(3)}_{2}p^{(3)}_{3}p^{(3)}_{4}\dots, \\&\alpha_4=0.p^{(4)}_{1}p^{(4)}_{2}p^{(4)}_{3}p^{(4)}_{4}\dots, \\&\qquad\vdots\end{align*}

このとき,0以上1以下のα=0.p1p2p3p4

  • p1p1(1)
  • p2p2(2)
  • p3p3(3)
  • p4p4(4)
  • ……

をみたし,αが循環小数にならないようにとると

  • α1αは小数第1位の数が異なる
  • α2αは小数第2位の数が異なる
  • α3αは小数第3位の数が異なる
  • α4αは小数第4位の数が異なる
  • ……

となっているので,αα1,α2,のどれとも異なったSの元となっている.

しかし,NSは全て対応付けられていたはずなので,新たなSの元がとれてしまうのは仮定に反している.

よって,そもそも「NSが1対1に対応付けられる」とした仮定が誤っていることになる.

すなわち,NSは1対1に対応付けられることはないから,cardS0となる.

Sの元0.p1p2p3p4をつくるときに,

  • 0.p1(1)p2(1)p3(1)p4(1)
  • 0.p1(2)p2(2)p3(2)p4(2)
  • 0.p1(3)p2(3)p3(3)p4(3)
  • 0.p1(4)p2(4)p3(4)p4(4)
  • ……

と対角にp1(1),p2(2),を考えていきました.このことから,この論法のことを対角線論法と言います.

この論法を考えたドイツの数学者ゲオルク・フェルディナント・ルートヴィッヒ・フィリップ・カントール (Georg Ferdinand Ludwig Philipp Cantor)にちなんで,カントールの対角線論法ということもあります.

また,この記事では示しませんが,実数の集合Rの濃度と有理数の集合RQの濃度が等しいことが分かります.すなわち,cardR=card(RQ)が成り立ちます.

この濃度も数学では重要で,連続濃度といいで表します.

証明中でαが循環小数にならないようにとれることは

  1. k=2n (n=1,2,)のとき,pk(k)1ならpk=1とし,pk(k)=1ならpk=0とする
  2. k2n (n=1,2,)のとき,pk(k)2ならpk=2とし,pk(k)=2ならpk=3とする

αが構成できることから分かります:

参考文献

以下は参考文献です.

集合・位相入門

[松坂和夫 著/岩波書店]

本書は「集合論」「位相空間論」をこれから学ぶ人のための入門書です.

本書は説明が丁寧で行間が少ないテキストなので,初学者にとっても読みやすくなっています.

実際,本書は1968年に発刊されて以来売れ続けている超ロングセラーで,2018年に新装版が発売されたことからも現在でも広く使われていることが分かります.

具体例が多く扱われているのも特徴で,新しい概念のイメージも掴みやすいように書かれています.

また,各セクションの終わりに少なくない数の演習問題も載っており,演習書的な使い方もできます.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

コメント

  1. 通りすがり より:

    >αが循環小数にならないようにとると

    と書いてありますが、こうなるように選ぶ事が出来ることは示されていますでしょうか?
    αの小数分の各桁の数値は当然可算回決定しないといけない訳ですが、一般にその元となるαnの方もどういう順序で並んでいるか(この証明では)分からない状況の中で、αがいかなる周期でも循環していないことを示すには、容易でないと思われます(すくなくとも上記の証明では示されてません)。

    • yama-taku より:

      確かに証明中では示していませんが,簡単に構成できるので具体例を示しておきますね:αの小数第kpkについて,
      [1]k=2n (n=1,2,)のとき,pk(k)1ならpk=1とし,pk(k)=1ならpk=0とする.
      [2]k2n (n=1,2,)のとき,pk(k)2ならpk=2とし,pk(k)=2ならpk=3とする.
      とするとαの小数第2n位にのみ0または1が現れます.これは循環小数ではないですね.

      • 通りすがり より:

        そういう具体的な構成を与えるなら、別にpk(k)が偶数ならpk=3, pk(k)が奇数ならpk=4とする、とかで十分でないですか?「循環小数でない」というのは、多分0.89999….. のようなものを排除する為、ですかね? でも今書いた方法なら、そもそも「循環小数ではない」というのを示す必要もないはずです。

        • yama-taku より:

          主張されている構成法ではαは循環小数になり得ます.
          というのは,最初にご指摘されているようにαnはどのように並んでいるか分かりません.
          そのため,たとえばpk(k)が全て偶数となっているかも知れず,この場合はα=0.333ですね(他にもpk(k)が交互に偶数,奇数となっていれば,0.3434と循環小数になりますね).

          また後半の主張について,この証明は新たな無理数αを取ってきて矛盾を示す論法なので,αが循環小数でない( αが有理数でない αが無理数である)ということは重要です.
          そのため,0.8999のようなものを排除するのは当然ですが,0.3434のようなものも排除しないといけませんね.
          そこで,周期的でない構成法であれば循環しないことは容易に分かるので,(本質的に別の構成法もあるでしょうが)先ほどの構成法を例示した次第です.