2015年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻の大学院入試問題の「基礎科目II」の解答の方針と解答です.
ただし,採点基準などは公式に発表されていないため,ここでの解答が必ずしも正解とならない場合もあり得ます.ご注意ください.
また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.
なお,過去問は京都大学のホームページから入手できます.
大学院入試の解答に関する記事一覧はこちら
問題と解答の方針
問題は7問あり,数学系志願者は問1~問5の5問を,数理解析系志願者は問1〜問5から5問を選択して解答します.試験時間は3時間です.
この記事では問5まで掲載しています.
問1
$f(x)$, $\phi(x)$は区間$[0,\infty)$上の実数値連続関数とし,さらに$\phi(x)$は
\begin{align*}&\phi(x)=\phi(x+1)\quad (x \ge 0),
\\&\int_0^1\phi(x)\,dx=1\end{align*}
をみたすとする.このとき,任意の実数$a>0$に対し,
\begin{align*}\lim_{\lambda\to\infty}\int_0^{a}f(x)\phi(\lambda x)\,dx
=\int_0^{a}f(x)\,dx\end{align*}
が成り立つことを示せ.
解答の方針
気持ちとしては,$\phi(\lambda x)$は周期$1/\lambda$であり,$\lambda$が十分大きければ周期が非常に小さい周期関数となる.
$f$の連続性から,この周期$1/\lambda$の中で$f(x)$はほとんど変化しないので,各周期の中ではほとんど定数$f(x)=A$とみなせる.よって,各周期の中での積分の値はほとんど$A/\lambda$と考えられる.
この考え方を正当化するためには,積分区間を$1/\lambda$ずつに区切る必要がある.または,もともと$\phi$が周期1の周期関数であることから,$y=\lambda x$と変数変換すれば$\phi(y)$が現れるので区間を1ずつに区切って考えれば良い.
Riemann-Lebesgueの定理を知っていれば,問題の主張のイメージは掴めるであろう.
解答例
$\lambda>0$とする.変数変換$y=\lambda x$により
\begin{align*}\abs{\int_{0}^{a}f(x)\phi(\lambda x)\,dx-\int_{0}^{a}f(x)\,dx}
=&\abs{\int_{0}^{a}f(x)(\phi(\lambda x)-1)\,dx}
\\=&\frac{1}{\lambda}\abs{\int_{0}^{a\lambda}f\bra{\frac{y}{\lambda}}(\phi(y)-1)\,dy}\end{align*}
ここで,$a\lambda$を超えない最大の整数$N$をとる.三角不等式より
\begin{align*}&\abs{\int_{0}^{a\lambda}f\bra{\frac{y}{\lambda}}(\phi(y)-1)\,dy}
\\\le&\abs{\int_{0}^{N}f\bra{\frac{y}{\lambda}}(\phi(y)-1)\,dy}+\abs{\int_{N}^{a\lambda}f\bra{\frac{y}{\lambda}}(\phi(y)-1)\,dy}
\\\le&\sum_{k=0}^{N-1}\abs{\int_{k}^{k+1}f\bra{\frac{y}{\lambda}}(\phi(y)-1)\,dy}+\int_{N}^{a\lambda}\abs{f\bra{\frac{y}{\lambda}}(\phi(y)-1)}\,dy\end{align*}
である.よって,$\lambda\to\infty$で
\begin{align*}&I:=\frac{1}{\lambda}\sum_{k=0}^{N-1}\abs{\int_{k}^{k+1}f\bra{\frac{y}{\lambda}}(\phi(y)-1)\,dy},
\\&J:=\frac{1}{\lambda}\int_{N}^{a\lambda}\abs{f\bra{\frac{y}{\lambda}}(\phi(y)-1)}\,dy\end{align*}
がともに0に収束することを示せば良い.
$f$, $\phi$はそれぞれコンパクト集合$[0,a]$, $[0,a\lambda]$で連続だから
\begin{align*}M_1:=\max\limits_{x\in[0,a]}\abs{f(x)},\quad
M_2:=\max\limits_{y\in[0,a\lambda]}\abs{\phi(y)-1}\end{align*}
が存在する.ここで,任意に$\epsilon>0$をとる.
[1] $I$に関して
各$k$に対する変数変換$z=y-k$と,$\phi$の周期性$\phi(x)=\phi(x+1)$ ($x\ge0$)より
\begin{align*}I
=&\frac{1}{\lambda}\sum_{k=0}^{N-1}\abs{\int_{0}^{1}f\bra{\frac{z+k}{\lambda}}\bra{\phi(z+k)-1}\,dz}
\\=&\frac{1}{\lambda}\sum_{k=0}^{N-1}\abs{\int_{0}^{1}f\bra{\frac{z+k}{\lambda}}\bra{\phi(z)-1}\,dz}\end{align*}
である.
また,$f$はコンパクト集合$[0,a]$で連続だからHeine-Cantorの定理より$[0,a]$で一様連続なので,任意の$z\in[0,1]$, $k\in\{0,\dots,N-1\}$に対して,ある$\delta>0$が存在して,$\frac{1}{\lambda}<\delta$なら
\begin{align*}\abs{f\bra{\frac{z+k}{\lambda}}-f\bra{\frac{k}{\lambda}}}<\epsilon\end{align*}
が成り立つ.よって,$\lambda>\frac{1}{\delta}$とすると,
\begin{align*}&\abs{\int_{0}^{1}f\bra{\frac{z+k}{\lambda}}\bra{\phi(z)-1}\,dz}
\\\le&\abs{\int_{0}^{1}\bra{f\bra{\frac{z+k}{\lambda}}-f\bra{\frac{k}{\lambda}}}\bra{\phi(z)-1}\,dz}+\abs{\int_{0}^{1}f\bra{\frac{k}{\lambda}}\bra{\phi(z)-1}\,dz}
\\\le&\int_{0}^{1}\abs{f\bra{\frac{z+k}{\lambda}}-f\bra{\frac{k}{\lambda}}}\abs{\phi(z)-1}\,dz+\abs{f\bra{\frac{k}{\lambda}}\bra{\int_{0}^{1}\phi(z)\,dz-1}}
\\\le&\int_{0}^{1}\epsilon\abs{\phi(z)-1}\,dz+\abs{f\bra{\frac{k}{\lambda}}\cdot0}
\le M_{2}\epsilon\end{align*}
だから,$\lambda>\frac{1}{\delta}$なら
\begin{align*}I
\le
\frac{1}{\lambda}\sum_{k=0}^{N-1}M_2\epsilon
=\frac{N}{\lambda}M_2\epsilon
\le aM_2\epsilon\end{align*}
が成り立つ.ただし,最後の不等式では$N\le a\lambda$を用いた.
[2] $J$に関して
$\frac{1}{R}<\epsilon$なる$R>0$をとると,$\lambda>R$なら
\begin{align*}J
\le\frac{1}{\lambda}\int_{N}^{a\lambda}M_1M_2\,dy
=\frac{M_1M_2(a\lambda-N)}{\lambda}
<\frac{M_1M_2\cdot1}{\lambda}
<\frac{M_1M_2}{R}
\le M_1M_2\epsilon\end{align*}
が成り立つ.ただし,1つ目の不等式では$a\lambda-1<N$を用いた.
[1], [2]より,$\lambda>\max\{\frac{1}{\delta},R\}$なら$I+J<(a+M_{1})M_{2}\epsilon$となるから題意が従う.
問2
$n$を正の整数とし,$A$を$n$次実正方行列で,交代行列であるとする.すなわち$A$の転置行列${}^{t}A$が$-A$に一致するとする.このとき,以下の問に答えよ.
(i) 任意の列ベクトル$\m{u}\in\R^n$に対し$\|(E-A)\m{u}\|\ge\|\m{u}\|$が成立することを示せ.ただし$E$は単位行列であり,$\|\m{u}\|$はユークリッドノルム$\sqrt{{}^{t}\m{u}\m{u}}$である.
(ii) $E-A$は正則行列であり,$(E+A)(E-A)^{-1}$は直交行列となることを示せ.
解答の方針
(i) $\|(E-A)\m{u}\|^2\ge\|\m{u}\|^2$を示せば良い.
これは左辺を展開することにより示すことができる.
(ii) 前半は(i)を用いて背理法により示す.後半は$(E+A)(E-A)^{-1}$の逆行列が$(E-A)(E+A)^{-1}$だから,
\begin{align*}(E-A)(E+A)^{-1}=((E+A)(E-A)^{-1})^T\end{align*}
を示せば良い.なお,$E+A$も正則であることにはしっかり言及しておくべきであろう.
解答例
(i) $\|(E-A)\m{u}\|$, $\|\m{u}\|$は共に非負だから,任意の$\m{u}\in\R^{n}$に対して,$\|(E-A)\m{u}\|^2\ge\|\m{u}\|^2$が成り立つことを示せばよい.
\begin{align*}\|(E-A)\m{u}\|^2
=&((E-A)\m{u})^{T}(E-A)\m{u}
\\=&\m{u}^{T}(E-A)^{T}(E-A)\m{u}
\\=&\m{u}^{T}(E-A^{T})(E-A)\m{u}
\\=&\m{u}^{T}(E-(A^{T}+A)+A^{T}A)\m{u}
\\=&\m{u}^{T}(E+A^{T}A)\m{u}
\\=&\|\m{u}\|^2+\m{u}^{T}A^{T}A\m{u}
\\=&\|\m{u}\|^2+(A\m{u})^{T}A\m{u}
\\=&\|\m{u}\|^2+\|A\m{u}\|^2
\ge\|\m{u}\|^2\end{align*}
を得る.よって,$\|(E-A)\m{u}\|\ge\|\m{u}\|$が従う.
(ii) $E-A$が正則でないと仮定すると$\operatorname{rank}(E-A)<n$なので,$\m{x}$の方程式$(E-A)\m{x}=\m{0}$は非自明解$\m{x}=\m{a}$をもつ.
よって,(i)と併せて
\begin{align*}0\le\|\m{a}\|\le\|(E-A)\m{a}\|=\|\m{0}\|=0\end{align*}
が成り立つから,$\|\m{a}\|=0 \iff \m{a}=\m{o}$となるが,$\m{a}$は非自明解だったから矛盾.したがって,$E-A$は正則である.
$A$が交代行列なら$-A$も交代行列なので,$E-(-A)=E+A$も正則となり$(E+A)^{-1}$が存在する.
$E+A=E-A^{T}=(E-A)^{T}$だから,$(E+A)^{-1}=((E-A)^{-1})^{T}$なので,
\begin{align*}(E-A)(E+A)^{-1}
=&(2E-(E+A))(E+A)^{-1}
\\=&2(E+A)^{-1}-E
=2((E-A)^{-1})^{T}-E
\\=&(2(E-A)^{-1}-E)^{T}
\\=&((2E-(E-A))(E-A)^{-1})^{T}
\\=&((E+A)(E-A)^{-1})^{T}\end{align*}
が成り立つ.よって,
\begin{align*}&((E+A)(E-A)^{-1})((E+A)(E-A)^{-1})^{T}
\\=&((E+A)(E-A)^{-1})((E-A)(E+A)^{-1})
\\=&(E+A)I(E+A)^{-1}
=I\end{align*}
となるから,$(E+A)(E-A)^{-1}$は直交行列である.
問3
$a$を正の実数とするとき,次の広義積分を求めよ.
\begin{align*}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{x\sin{x}}{(x^2+a^2)^2}\,dx\end{align*}
解答の方針
$f(z)=\dfrac{ze^{iz}}{(z^2+a^2)^2}$とおいて,上半円とその直径の経路で留数定理を用いる.
必要なのは$\sin$なので,最終的に虚部をとれば良い.
解答例
$R>a$で考えれば十分.
\begin{align*}&L:=\set{z\in\C}{z=x,x\in[-R,R]},\quad
\\&C:=\set{z\in\C}{z=Re^{i\theta},\theta\in[0,\pi]},\quad
\\&\Gamma:=L \cap C,\quad
\\&f(z)=\frac{ze^{iz}}{(z^2+a^2)^2}\end{align*}
とおく.このとき,
\begin{align*}\int_{L}f(z)\,dz
=&\int_{-R}^{R}\frac{x\cos{x}}{(x^2+a^2)^2}\,dx+i\int_{-R}^{R}\frac{x\sin{x}}{(x^2+a^2)^2}\,dx,
\\\abs{\int_{C}f(z)\,dz}
=&\abs{\int_{0}^{\pi}\frac{Re^{i\theta}e^{iRe^{i\theta}}}{(R^2e^{2i\theta}+a^2)^2}iRe^{i\theta}\,d\theta}
\\\le&\int_{0}^{\pi}\frac{R^2e^{-R\sin{\theta}}}{\abs{R^2e^{2i\theta}+a^2}^2}\,d\theta
\le\int_{0}^{\pi}\frac{R^2}{\bra{R^2-a^2}^2}\,d\theta
\\\le&\frac{2\pi R^2}{\bra{R^2-a^2}^2}
=\frac{2\pi}{\bra{R-\frac{a^2}{R}}^2}
\to0\quad(R\to\infty)\end{align*}
である.
また,$\Gamma$の周及び$z=ia$を除く内部で$f$は正則で,$z=ia$は$f$の2位の極である.
$\Gamma$は正の向きが定まっているから,留数定理より
\begin{align*}\frac{1}{2\pi i}\int_{\Gamma}f(z)\,dz
=&\mrm{Res}(f,ia)
=\lim_{z\to ia}\od{}{z}\bra{(z-ia)^2f(z)}
\\=&\lim_{z\to ia}\od{}{z}\bra{\frac{ze^{iz}}{(z+ia)^2}}
\\=&\lim_{z\to ia}\bra{\frac{e^{iz}+ize^{iz}}{(z+ia)^2}-2\frac{ze^{iz}}{(z+ia)^3}}
\\=&\frac{e^{-a}-ae^{-a}}{(2ia)^2}-2\frac{iae^{-a}}{(2ia)^3}
\\=&\frac{e^{-a}-ae^{-a}-e^{-a}}{(2ia)^2}
=\frac{-ae^{-a}}{-4a^2}
=\frac{e^{-a}}{4a}\end{align*}
が$R$によらず得られる.以上より,
\begin{align*}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{x\sin{x}}{(x^2+a^2)^2}\,dx
=&\lim_{R\to\infty}\int_{-R}^{R}\frac{x\sin{x}}{(x^2+a^2)^2}\,dx
\\=&\lim_{R\to\infty}\bra{\Im\int_{L}f(z)\,dz}
\\=&\lim_{R\to\infty}\bra{\Im\int_{\Gamma}f(z)\,dz-\Im\int_{C}f(z)\,dz}\\
=&\frac{\pi e^{-a}}{2a}-\Im\bra{\lim_{R\to\infty}\int_{C}f(z)\,dz}
=\frac{\pi e^{-a}}{2a}\end{align*}
を得る.ただし,複素数$z$に対して,$\Im{z}$は$z$の虚部を表す.
問4
以上3500以下の整数$x$のうち,$x^3+3x$が$3500$で割り切れるものの個数を求めよ.
解答の方針
$\Z/3500\Z$での$x^3+3x=0$の解の個数を求めればよい.中国式剰余定理より,
\begin{align*}\Z/3500\Z\cong\Z/2^2\Z\times\Z/7\Z\times\Z/5^3\Z\end{align*}
なので,$\Z/2^2\Z$, $\Z/7\Z$, $\Z/5^3\Z$それぞれでの$x^3+3x=0$の解の個数を求めてかけ合わせればよい.
解答例
素因数分解により$3500=2^2\times5^3\times7$なので,中国式剰余定理より
\begin{align*}\Z/3500\Z\cong\Z/7\Z\times\Z/125\Z\times\Z/4\Z\end{align*}
だから,1以上3500以下の整数$x$に対して,$x^{3}+3x$が3500で割り切れることと
\begin{align*}\begin{cases}
x^3+3x\equiv0\pmod{7}\\
x^3+3x\equiv0\pmod{125}\\
x^3+3x\equiv0\pmod{4}
\end{cases}\end{align*}
が成り立つことは同値である.
[1] $\Z/7\Z$は整域だから,$x\in\Z/7\Z$について
\begin{align*}x^3+3x=0
\iff& x^3-4x=0
\\\iff& x(x+2)(x-2)=0
\\\iff& x=0,2,5\end{align*}
である.
[2] $x\in\Z/4\Z$について
\begin{align*}x^3+3x=0
\iff& x^3-x=0
\\\iff& x(x+1)(x-1)=0\end{align*}
なので,$x=0,1,3$はこれをみたすが,$2(2+1)(2-1)=6\neq0$なので,$x=2$はみたさない.よって,
\begin{align*}x^3+3x=0 \iff x=0,1,3\end{align*}
である.
[3] $\Z/125\Z$について,
- $x=0$のとき,$x^3+3x=0$が成り立つ.
- $x\in\Z$が素因数5をちょうど1つまたは2つもつとき,$x$は125の倍数でなく$x^2+3$は素因数5をもたないから,
\begin{align*}x^3+3x=x(x^2+3) \not\equiv 0\pmod{125}\end{align*}
である. - $x\in\Z\setminus\{0\}$が素因数5をもたないとき,$x\in\Z$と125は互いに素だから$ax+125b=1$なる$a,b\in\Z$が存在する.よって,$ax\equiv1\pmod{125}$なので,$x\in\Z/125\Z$はとみなすと$x$は単元なので
\begin{align*}x^3+3x\equiv0\pmod{125}
\iff x^2+3\equiv0\pmod{125}\end{align*}
をみたす.ここで,5を法とすると$x\equiv0,1,2,3,4$ならそれぞれ$x^2+3\equiv3,4,2,2,4$だから,$x^2+3\not\equiv0 \pmod{5}$なので,当然$x^2+3\not\equiv0 \pmod{125}$である.
したがって,$x^3+3x=0\iff x=0$である.
以上より,求める個数は$3\times3\times1=9$である.
問5
2次元球面
\begin{align*}S^2=\{(x,y,z)\in\R^3|x^2 + y^2 + z^2 = 1\}\end{align*}
上の関数
\begin{align*}f(x,y,z) = xy + yz + zx\end{align*}
の臨界点をすべて求め,それらが非退化かどうかも答えよ.ただし,$p\in S^2$が$f$の臨界点であるとは,$S^2$の$p$のまわりの局所座標$(u,v)$に関して
\begin{align*}\pd{f}{u}(p)=\pd{f}{v}(p)=0\end{align*}
となることである.また,$f$の臨界点$p$は
\begin{align*}\pmat{
\ppd{f}{u}&\ppdd{f}{u}{v}\\
\ppdd{f}{v}{u}&\ppd{f}{v}
}\end{align*}
が正則行列であるとき非退化であるという.なおこれらの定義は$(u,v)$のとり方にはよらない.
解答の方針
2次元球面の座標近傍系をとって$f$のヤコビ行列を計算すれば良いが,単なる直交射影などで座標近傍系をとると計算が非常に煩雑になる.
$f$が$x$, $y$, $z$の対称式であることに注意して,$x$, $y$, $z$に対称になるように斜めに直交射影をとれば,計算が楽になる.
そのために回転の線形変換を用いる.
解答例
この解答ではいずれも複号同順とする.
\begin{align*}&A:=\frac{1}{\sqrt{2}}\bmat{-1&1&0\\-1&-1&0\\0&0&\sqrt{2}},\quad
B:=\frac{1}{\sqrt{3}}\bmat{1&0&-\sqrt{2}\\0&\sqrt{3}&0\\\sqrt{2}&0&1},
\\&g:S^2\to\R^3;\bmat{x\\y\\z}\mapsto AB\bmat{x\\y\\z}\end{align*}
とする($A$は$z$軸回転を引き起こす行列,$B$は$y$軸回転を引き起こす行列).
\begin{align*}AB=\frac{1}{\sqrt{6}}\bmat{-1&\sqrt{3}&\sqrt{2}\\-1&-\sqrt{3}&\sqrt{2}\\2&0&\sqrt{2}}\end{align*}
は正則なので,$g$は$S^2$から$S^2$への全単射である.
ここで,直行射影により$S^2$の座標近傍系$\{(U_{\pm},\phi_{\pm}),(V_{\pm},\varphi_{\pm}),(W_{\pm},\psi_{\pm})\}$を定める:
\begin{align*}&U_{\pm}:=\set{(x,y,z)\in S^2}{x\gtrless0},
\\&\phi_{\pm}:U_{\pm}\to\R^2;(x,y,z)\mapsto(y,z),
\\&V_{\pm}:=\set{(x,y,z)\in S^2}{y\gtrless0},
\\&\varphi_{\pm}:V_{\pm}\to\R^2;(x,y,z)\mapsto(x,z),
\\&W_{\pm}:=\set{(x,y,z)\in S^2}{z\gtrless0},
\\&\psi_{\pm}:W_{\pm}\to\R^2;(x,y,z)\mapsto(x,y).\end{align*}
このとき,
\begin{align*}&{\phi_{\pm}}^{-1}:\phi_{\pm}\bra{U_{\pm}}\to U_{\pm};
(u,v)\mapsto\bra{\pm\sqrt{1-u^2-v^2},u,v},\\
&{\varphi_{\pm}}^{-1}:\varphi_{\pm}\bra{V_{\pm}}\to V_{\pm};
(u,v)\mapsto\bra{u,\pm\sqrt{1-u^2-v^2},v},\\
&{\psi_{\pm}}^{-1}:\psi_{\pm}\bra{W_{\pm}}\to W_{\pm};
(u,v)\mapsto\bra{u,v,\pm\sqrt{1-u^2-v^2}}\end{align*}
である.$g$は$S^2$から$S^2$への全単射だから,
\begin{align*}\brb{\bra{g\bra{U_{\pm}},\phi_{\pm}\circ g^{-1}},
\bra{g\bra{V_{\pm}},\varphi_{\pm}\circ g^{-1}},
\bra{g\bra{W_{\pm}},\psi_{\pm}\circ g^{-1}}}\end{align*}
も$S^2$の座標近傍系となる.いま,
\begin{align*}&(f\circ g)(x,y,z)
\\=&f\bra{\frac{-x\sqrt{3}+y+\sqrt{2}z}{\sqrt{6}},\frac{-x-\sqrt{3}y+\sqrt{2}z}{\sqrt{6}},\frac{2x+\sqrt{2}z}{\sqrt{6}}}
\\=&\frac{1}{6}\left\{\bra{-x+\sqrt{3}y+\sqrt{2}z}\bra{-x-\sqrt{3}y+\sqrt{2}z}\right.
\\&+\bra{-x-\sqrt{3}y+\sqrt{2}z}\bra{2x+\sqrt{2}z}
\\&\left.+\bra{2x+\sqrt{2}z}\bra{-x+\sqrt{3}y+\sqrt{2}z}\right\}
\\=&\frac{1}{6}\brb{\bra{-x+\sqrt{2}z}^2-3y^2+\bra{-2x+2\sqrt{2}z}\bra{2x+\sqrt{2}z}}
\\=&\frac{1}{6}\bra{x^2-2\sqrt{2}xz+2z^2-3y^2-4x^2+2\sqrt{2}xz+4z}
\\=&\frac{1}{6}\bra{-3x^2-3y^2+6z^2}
=\frac{1}{2}\bra{-1+3z^2}\end{align*}
である.
[1] 座標近傍$\bra{g\bra{U_{\pm}},\phi_{\pm}\circ g^{-1}}$において,$p\in g\bra{U_{\pm}}$を$(u,v)$で表すと,$\bra{f\circ g\circ {\phi_{\pm}}^{-1}}(u,v)=\frac{1}{2}(-1+3v^2)$だから,
\begin{align*}\brc{\pd{f}{u}(p),\pd{f}{v}(p)}=\brc{0,\frac{3}{2}v},\quad
\bmat{\ppd{f}{u}&\ppdd{f}{u}{v}\\\ppdd{f}{v}{u}&\ppd{f}{v}}=\bmat{0&0\\0&\frac{3}{2}}\end{align*}
なので,$(u,0)\in\phi_{\pm}\bra{U_{\pm}}$に対応する$p\in S^2$が臨界点である.つまり,
\begin{align*}\bra{g\circ{\phi_{\pm}}^{-1}}(u,0)
=g\bra{\pm\sqrt{1-u^2},u,0}
\quad
(\abs{u}<1)\end{align*}
が臨界点である.また,いずれの臨界点は退化である.
[2] 座標近傍$\bra{g\bra{V_{\pm}},\varphi_{\pm}\circ g^{-1}}$において,$p\in g\bra{V_{\pm}}$を$(u,v)$で表すと,$\bra{f\circ g\circ {\varphi_{\pm}}^{-1}}(u,v)=\frac{1}{2}(-1+3v^2)$だから,
\begin{align*}\brc{\pd{f}{u}(p),\pd{f}{v}(p)}=\brc{0,\frac{3}{2}v},\quad
\bmat{\ppd{f}{u}&\ppdd{f}{u}{v}\\\ppdd{f}{v}{u}&\ppd{f}{v}}=\bmat{0&0\\0&\frac{3}{2}}\end{align*}
なので,$(u,0)\in\varphi_{\pm}\bra{V_{\pm}}$に対応する$p\in S^2$が臨界点である.つまり,
\begin{align*}\bra{g\circ{\varphi_{\pm}}^{-1}}(u,0)
=g\bra{u,\pm\sqrt{1-u^2},0}
\quad
(\abs{u}<1)\end{align*}
が臨界点である.また,この臨界点は退化である.
[3] 座標近傍$\bra{g\bra{W_{\pm}},\varphi_{\pm}\circ g^{-1}}$において,$p\in g\bra{W_{\pm}}$を$(u,v)$で表すと,$\bra{f\circ g\circ {\psi_{\pm}}^{-1}}(u,v)=\frac{1}{2}\bra{-1+3\bra{1-u^2-v^2}}$だから,
\begin{align*}\brc{\pd{f}{u}(p),\pd{f}{v}(p)}=\brc{-3u,-3v},\quad
\bmat{\ppd{f}{u}&\ppdd{f}{u}{v}\\\ppdd{f}{v}{u}&\ppd{f}{v}}=\bmat{-3&0\\0&-3}\end{align*}
なので,$(0,0)\in\psi_{\pm}\bra{W_{\pm}}$に対応する$p\in S^2$が臨界点である.つまり,
\begin{align*}\bra{g\circ{\psi_{\pm}}^{-1}}(0,0)
=g\bra{0,0,\pm1}
=\brb{\bra{\pm\sqrt{2},\pm\sqrt{2},\pm\sqrt{2}}}\end{align*}
が臨界点である.また,この臨界点は非退化である.
[1], [2]の臨界点を$g(\cos\theta,\sin\theta,0)$と併せて書けることに注意すると,$f$の臨界点全部の集合は
\begin{align*}\set{\bra{\frac{-\cos\theta+\sqrt{3}\sin\theta}{\sqrt{6}},
\frac{-\cos\theta-\sqrt{3}\sin\theta}{\sqrt{6}},
\frac{2\cos\theta}{\sqrt{6}}}}{\theta\in[0,2\pi)}
\brb{\bra{\pm\sqrt{2},\pm\sqrt{2},\pm\sqrt{2}}}\end{align*}
であり,このうち非退化であるのは,
\begin{align*}\brb{\bra{\pm\sqrt{2},\pm\sqrt{2},\pm\sqrt{2}}}\end{align*}
である.
参考文献
以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.
詳解と演習大学院入試問題〈数学〉
[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]
理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.
実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.
第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率
一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの問題集|詳解と演習 大学院入試問題(数理工学社)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.
演習 大学院入試問題
[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]
上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.
全2巻で,
1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計
が扱われています.
地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.
なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの問題集|演習 大学院入試問題[数学](サイエンス社)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.
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