2023大学院入試|京都大学 数学・数理解析専攻|基礎科目

京都大学|大学院入試
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2023年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻 数学系の大学院入試問題の「基礎科目」の解答の方針と解答です.

問題は6問あり,全6問を解答します.試験時間は3時間30分です.この記事では,問6まで解答例を掲載しています.

採点基準などは公式に発表されていないため,ここでの解答が必ずしも正解とならない場合もあり得ます.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は京都大学のホームページから入手できます.

過去の入試問題 | Department of Mathematics Kyoto University

第1問

$\R^3$の部分集合$D$を

    \begin{align*}D=\set{(x,y,z)\in\R^3}{\frac{1}{4}\le x^2+y^2-2yz+4z^2\le1}\end{align*}

で定める.積分

    \begin{align*}\iiint_{D}\log{(x^2+y^2-2yz+4z^2)}\,dxdydz\end{align*}

の値を求めよ.

微分積分学の重積分の計算ですね.

解答の方針とポイント

2乗和が見えるので極座標変換が第1感です.

ただし,$-2yz$の項は先に平方完成して,標準形(2乗のみの和)に変形しておくのが大切です.

二次形式

一般に,2乗の項のみからなる多項式を二次形式と言います.

$x_1,\dots,x_n$の多項式$f(x_1,\dots,x_n)=\dsum_{i,j=1}^{n}a_{i,j}x_ix_j$を$x_1,\dots,x_n$の二次形式という.

とくに$i\neq j$なら$a_{i,j}=0$であるとき,この二次形式$f(x_1,\dots,x_n)$を標準形という.

実係数の場合,二次形式の変数をうまく線形変換することで,標準形の二次形式に表すことができます.

本問の二次形式$x^2+y^2-2yz+4z^2$は

    \begin{align*}x^2+y^2-2yz+4z^2=x^2+(y-z)^2+3z^2\end{align*}

と変形できますから,

    \begin{align*}(s,t,u)=(x,y-z,z) \iff(x,y,z)=(s,t+u,u)\end{align*}

とおくことで標準形に書き直せますね.

一般の場合には二次形式をベクトルと対角行列を用いて表し,対角行列の直交行列による対角化を用いることで標準形に書き直すことができます.

極座標変換

線形変換$(s,t,u)=(x,y-z,z)$は全単射で,この写像で本問の積分領域$D$は

    \begin{align*}D':=\set{(s,t,u)\in\R^3}{\frac{1}{4}\le s^2+t^2+3u^2\le1}\end{align*}

に対応し,ヤコビアンは1なので積分は$\iiint_{D’}\log{(s^2+t^2+3u^2)}\,dsdtdu$に対応します.

2乗和が見えて,積分領域が楕円の一部なので,このような場合は3次元の極座標変換

    \begin{align*}(s,t,u)=\bra{r\sin{\theta}\cos{\varphi},r\sin{\theta}\sin{\varphi},\frac{r}{\sqrt{3}}\cos{\theta}}\end{align*}

はすぐに思い付きたいですね.

極座標変換を施すと,$D’$は

    \begin{align*}D'':=\set{(r,\theta,\varphi)\in\R^3}{\frac{1}{2}\le r\le1,\ 0\le\theta\le\pi,\ 0\le\varphi\le2\pi}\end{align*}

に対応し,ヤコビアンは$\frac{r^2}{\sqrt{3}}\sin{\theta}$なので積分は$\frac{1}{\sqrt{3}}\iiint_{D’}r^2\log{r^2}\sin{\theta}\,dsdtdu$に対応し,これは逐次積分にして計算できそうですね.

以上をまとめて,変数変換$(x,y-z,z)=\bra{r\sin{\theta}\cos{\varphi},r\sin{\theta}\sin{\varphi},\frac{r}{\sqrt{3}}\cos{\theta}}$により,本問の積分は計算できそうですね.

解答例

全単射の線形変換$(x,y,z)=(s,t+u,u)$と極座標変換$(s,t,u)=\bra{r\sin{\theta}\cos{\varphi},r\sin{\theta}\sin{\varphi},\frac{r}{\sqrt{3}}\cos{\theta}}$を合成した変数変換

    \begin{align*}(x,y,z)=\bra{r\sin{\theta}\cos{\varphi},r\bra{\sin{\theta}\sin{\varphi}+\frac{1}{\sqrt{3}}\cos{\theta}},\frac{r}{\sqrt{3}}\cos{\theta}}\end{align*}

により,

    \begin{align*}x^2+y^2-2yz+4z^2&=x^2+(y-z)^2+3z^2=s^2+t^2+3u^2=r^2\end{align*}

となり,積分領域$D$は

    \begin{align*}E:=\set{(r,\theta,\varphi)\in\R^3}{\frac{1}{2}\le r\le1,\ 0\le\theta\le\pi,\ 0\le\varphi\le2\pi}\end{align*}

に対応する.ヤコビアン$\det\frac{\partial(x,y,z)}{\partial(r,\theta,\varphi)}$は

    \begin{align*}\det\frac{\partial(x,y,z)}{\partial(r,\theta,\varphi)} &=\det\frac{\partial(x,y,z)}{\partial(s,t,u)}\cdot\det\frac{\partial(s,t,u)}{\partial(r,\theta,\varphi)} \\&=\det\sbmat{1&0&0\\0&1&1\\0&0&1}\cdot\frac{r^2}{\sqrt{3}}\sin{\theta} \\&=1\cdot\frac{r^2}{\sqrt{3}}\sin{\theta} =\frac{r^2}{\sqrt{3}}\sin{\theta}\end{align*}

なので,求める積分は

    \begin{align*}&\iiint_{D}\log{(x^2+y^2-2yz+4z^2)}\,dxdydz \\&=\frac{1}{\sqrt{3}}\iiint_{E}\log{r^2}|r^2\sin{\theta}|\,dr d\theta d\varphi \\&=\frac{2}{\sqrt{3}}\iiint_{E}r^2\log{r}\sin{\theta}\,dr d\theta d\varphi\quad\dots(*)\end{align*}

であり,$E$は縦線集合だからこの重積分$(*)$は逐次積分に等しく,

    \begin{align*}(*)&=\frac{2}{\sqrt{3}}\int_{\frac{1}{2}}^{1}\bra{\int_{0}^{\pi}\bra{\int_{0}^{2\pi}\,d\varphi}\sin{\theta}\,d\theta}r^2\log{r}\,dr \\&=\frac{8\pi}{3\sqrt{3}}\int_{\frac{1}{2}}^{1}(r^3)'\log{r}\,dr =\frac{8\pi}{3\sqrt{3}}\bra{[r^3\log{r}]_{\frac{1}{2}}^{1}-\int_{\frac{1}{2}}^{1}r^2\,dr} \\&=\frac{8\pi}{3\sqrt{3}}\bra{\frac{1}{8}\log{2}-\frac{1}{3}[r^3]_{\frac{1}{2}}^{1}} =\frac{8\pi}{3\sqrt{3}}\bra{\frac{1}{8}\log{2}-\frac{1}{3}\cdot\frac{7}{8}} \\&=\frac{\pi}{9\sqrt{3}}(3\log{2}-7)\end{align*}

となる.

第2問

$a$を実数とし,実$2\times4$行列$A$, $B$を

    \begin{align*}A=\pmat{1&0&a&a+1\\0&1&1&1},\quad B=\pmat{0&0&1&1\\-1&3&3-a&0}\end{align*}

と定める.これらを用いて,線形写像$f:\R^4\to\R^2$, $g:\R^4\to\R^2$を$f(x)=Ax$, $g(x)=Bx$($x\in\R^4$)と定義する.このとき,

    \begin{align*}\dim(\Ker{(f)}\cap\Ker{(g)}),\ \dim(\Ker{(f)}+\Ker{(g)})\end{align*}

を求めよ.

線形代数学和空間共通部分の次元を求める問題ですね.

解答の方針とポイント

線形写像$f$, $g$はそれぞれ行列$A$, $B$を左からかける写像なので,

  • 核$\Ker{f}$は$\m{x}\in\R^4$の方程式$A\m{x}=\m{0}$の解空間
  • 核$\Ker{g}$は$\m{x}\in\R^4$の方程式$B\m{x}=\m{0}$の解空間

ですね.よって,$A\m{x}=\m{0}$と$B\m{x}=\m{0}$を解けば$\Ker{f}$と$\Ker{g}$が得られますね.

和空間と共通部分の次元の関係

一般にふたつの部分空間$U$, $W$の和空間$U+W$と共通部分$U\cap W$の次元には次の関係があります.

線形空間$V$の部分空間$U$, $W$に対して,

    \begin{align*}\dim{(U+W)}+\dim{(U\cap W)}=\dim{U}+\dim{W}\end{align*}

が成り立つ.

この定理から$\dim{(\Ker{f}\cap\Ker{g})}$と$\dim(\Ker{(f)}+\Ker{(g)})$のどちらか一方が得られれば,$\dim{U}$, $\dim{W}$と併せて他方が得られますね.

生成される部分空間の和空間

一般に2つの部分空間$U$, $W$を生成するベクトルが分かっているときは,和空間$U+W$を簡単に表すことができますね.

線形空間$V$上のベクトル$\m{u}_1,\dots,\m{u}_n,\m{w}_1,\dots,\m{w}_m$に対して,

    \begin{align*}U=\spn{(\m{u}_1,\dots,\m{u}_n)},\quad W=\spn{(\m{w}_1,\dots,\m{w}_m)}\end{align*}

とする.このとき

    \begin{align*}U+W={(\m{u}_1,\dots,\m{u}_n,\m{w}_1,\dots,\m{w}_m)}\end{align*}

が成り立つ.

よって,本問では$\Ker{f}$と$\Ker{g}$がどのようなベクトルで生成される空間であるか分かれば,$\Ker{f}+\Ker{g}$が得られますね.

一般に,斉次連立1次方程式の解空間は生成される線形空間として表せることも当たり前にしておきましょう.

解答例

$A=\sbmat{1&0&a&a+1\\0&1&1&1}$だから,連立1次方程式$A\m{x}=\m{0}$の解は

    \begin{align*}\m{x}=\sbmat{-ka-\ell(a+1)\\-k-\ell\\k\\\ell}=k\sbmat{-a\\-1\\1\\0}+\ell\sbmat{-a-1\\-1\\0\\1}\end{align*}

である.ただし,$k,\ell\in\R$は任意定数である.よって,$f$の核$\Ker{f}$は

    \begin{align*}\Ker{(f)}&=\set{\m{x}\in\R^4}{A\m{x}=\m{0}} \\&=\spn{\bra{\sbmat{-a\\-1\\1\\0},\sbmat{-a-1\\-1\\0\\1}}}\end{align*}

である.同様に$g$の核$\Ker{g}$は

    \begin{align*}\Ker{(g)}=\spn{\bra{\sbmat{3\\1\\0\\0},\sbmat{3-a\\0\\1\\-1}}}\end{align*}

である.よって,

    \begin{align*}\Ker{(f)}+\Ker{(g)}=\spn{\bra{\sbmat{-a\\-1\\1\\0},\sbmat{-a-1\\-1\\0\\1},\sbmat{3\\1\\0\\0},\sbmat{3-a\\0\\1\\-1}}}\end{align*}

なので,$\Ker{(f)}+\Ker{(g)}$の次元

    \begin{align*}&\dim{(\Ker{(f)}+\Ker{(g)})} =\rank{\sbmat{-a&-a-1&3&3-a\\-1&-1&1&0\\1&0&0&1\\0&1&0&-1}} \\&=\rank{\sbmat{0&0&3&2-a\\0&0&1&0\\1&0&0&1\\0&1&0&-1}} =\rank{\sbmat{1&0&0&1\\0&1&0&-1\\0&0&1&0\\0&0&0&2-a}} =\begin{cases}3,&a=2,\\4,&a\neq2\end{cases}\end{align*}

である.

また,$\dim{\Ker{(f)}}=\dim{\Ker{(g)}}=2$だから,

    \begin{align*}&\dim{(\Ker{(f)}\cap\Ker{(g)})} \\&=\dim{\Ker{(f)}}+\dim{\Ker{(g)}}-\dim{(\Ker{(f)}+\Ker{(g)})} \\&=\begin{cases}1,&a=2,\\0,&a\neq2\end{cases}\end{align*}

である.

第3問

$V$を有限次元複素ベクトル空間とし,$S,T:V\to V$を対角化可能な線形写像で$ST=TS$が成り立つものとする.$r\ge2$を整数,$\alpha,\beta\in\C$を複素数,$\lambda_1,\dots,\lambda_r\in\C$を相異なる複素数とする.零ベクトルでない$V$の元$v,u_1,\dots,u_r$は

    \begin{align*}v=u_1+u_2+\dots+u_r\end{align*}

を満たし,かつ$1\le j\le r$なるすべての整数$j$について$u_j$は固有値$\lambda_j$に属する$S$の固有ベクトルとする.さらに$v$は固有値$\alpha$に属する$T$の固有ベクトルであり,$u_1$は固有値$\beta$に属する$T$の固有ベクトルとする.このとき$\alpha=\beta$が成り立つことを示せ.

線形代数学の固有値・固有ベクトルの問題ですね.

解答の方針とポイント

本問は異なる固有値に属する固有ベクトルが線形独立であることの証明と似た方法で解くことができます.

異なる固有値に属する固有ベクトルの線形独立性の証明

以下の定理は基本的ですから,当たり前にしておきたいところです.

線形写像$T$の異なる固有値$\lambda_1,\dots,\lambda_r$それぞれに属する固有ベクトル$\m{v}_1,\dots,\m{v}_r$は線形独立である.

本問はこの定理の証明と似たアプローチで解くことができるので,この証明を確認しておきましょう.

数学的帰納法により示す.一般にただひとつのベクトルは線形独立なので$\m{v}_1$は線形独立である.

$\m{v}_1,\dots,\m{v}_m$($m<r$)は線形独立であると仮定する.線形関係

    \begin{align*}c_1\m{v}_1+\dots+c_{m+1}\m{v}_{m+1}=\m{0}\quad\dots(*)\end{align*}

を考える.線形関係$(*)$の両辺に左から$T$を施して

    \begin{align*}& \lambda_{1}c_1\m{v}_1+\dots+\lambda_{m+1}c_{m+1}\m{v}_{m+1}=\m{0}\end{align*}

であり,線形関係$(*)$の両辺に$\lambda_{m+1}$をかけて

    \begin{align*}\lambda_{m+1}c_1\m{v}_1+\dots+\lambda_{m+1}c_{m+1}\m{v}_{m+1}=\m{0}\end{align*}

である.これら2式の辺々引いて

    \begin{align*}(\lambda_{m+1}-\lambda_{1})c_1\m{v}_1+\dots+(\lambda_{m+1}-\lambda_{m})c_{m}\m{v}_{m}=\m{0}\end{align*}

となる.帰納法の仮定より$\m{v}_{1},\dots,\m{v}_{m}$は線形独立なので$(\lambda_{m+1}-\lambda_k)c_k=0$($k=1,\dots,m$)が成り立つ.

固有値$\lambda_1,\dots,\lambda_{m+1}$は異なると仮定していたから,$\lambda_{r+1}-\lambda_k\neq0$なので$c_k=0$を得る.

これをもとの線形関係$(*)$に代入すると$c_{m+1}\m{v}_{m+1}=0$となるから,$\m{v}_{m+1}\neq\m{0}$より$c_{m+1}=0$を得る.

よって,$\m{v}_1,\dots,\m{v}_r,\m{v}_{m+1}$も線形独立である.

線形関係$(*)$に対して,線形写像$T$を施した式と$\lambda_{m+1}$をかけた式から,$\m{v}_{m+1}$を消去して$\m{v}_1,\dots,\m{v}_m$の関係を用いているわけですね.

本問でも$S$, $T$の固有ベクトル$v,u_1,u_2,\dots,u_r$の線形関係が用意されているので,似た議論ができそうです.

固有空間の直和性

いま$u_1,u_2,\dots,u_r$は$S$の異なる固有値に属する固有ベクトルですから,いま示した定理から$u_1,u_2,\dots,u_r$は線形独立です.

よって,問題で与えられている線形結合$v=u_1+u_2+\dots+u_r$から$v$を消すことができれば,線形独立性の議論ができそうで,その$v$を消すためには上の証明と同様の方法が使えそうです.

線形結合$v=u_1+u_2+\dots+u_r$の両辺に$TS$を施すと,$S$, $T$の固有値・固有ベクトルの性質と$TS=ST$より,

    \begin{align*}\alpha Sv=\beta\lambda_1u_1+\lambda_2 Tu_2+\dots+\lambda_r Tu_r\end{align*}

が成り立ちます.よって,線形結合$v=u_1+u_2+\dots+u_r$の両辺に$\alpha S$を施してできる等式

    \begin{align*}\alpha Sv=\alpha\lambda_1 u_1+\alpha\lambda_2 u_2+\dots+\alpha\lambda_r u_r\end{align*}

と併せれば,

    \begin{align*}\m{0}=(\beta-\alpha)\lambda_1 u_1+\lambda_2(Tu_2-\alpha u_2)+\dots+\lambda_r(Tu_r-\alpha u_r)\quad\dots(*)\end{align*}

と$v$を消去することができます.

右辺の形は少し変わっていますが,$TS=ST$より$Tu_k-\alpha u_k$は$S$の固有値$\lambda_k$に属する固有ベクトルであることが証明でき,異なる固有値に属する固有ベクトルたちの線形独立性が使えますね.

解答例

線形写像$X:V\to V$の固有値$\lambda$に関する固有空間を$W_{X}(\lambda)$と表す.

等式$v=u_1+u_2+\dots+u_r$の両辺に$TS$を施すと,問題の条件より

    \begin{align*}&TSv=TS(u_1+u_2+\dots+u_r) \\&\iff STv=T(\lambda_1 u_1+\lambda_2 u_2+\dots+\lambda_r u_r) \\&\iff \alpha Sv=\beta\lambda_1u_1+\lambda_2 Tu_2+\dots+\lambda_r Tu_r\quad\dots(1)\end{align*}

が成り立つ.また,等式$v=u_1+u_2+\dots+u_r$の両辺に$\alpha S$を施すと,問題の条件より

    \begin{align*}&\alpha Sv=\alpha S(u_1+u_2+\dots+u_r) \\&\iff \alpha Sv=\alpha\lambda_1 u_1+\alpha\lambda_2 u_2+\dots+\alpha\lambda_r u_r\quad\dots(2)\end{align*}

が成り立つ.$(1)-(2)$より

    \begin{align*}\m{0}=(\beta-\alpha)\lambda_1 u_1+\lambda_2(Tu_2-\alpha u_2)+\dots+\lambda_r(Tu_r-\alpha u_r)\quad\dots(*)\end{align*}

が成り立つ.

ここで,任意に$k\in\{2,3,\dots,r\}$をとる.問題の条件より

    \begin{align*}STu_k=TSu_k=T(\lambda_k u_k)=\lambda_k Tu_k\end{align*}

なので,$Tu_k\in W_{S}(\lambda_k)$である.固有空間は線形空間だから,$Tu_k,u_k\in W_{S}(\lambda_k)$より$Tu_k-\alpha u_k\in W_{S}(\lambda_k)$である.

$\lambda_1,\dots,\lambda_r$が異なることから,和空間$W_{S}(\lambda_1)+\dots+W_{S}(\lambda_r)$は直和なので,$(*)$より

    \begin{align*}(\beta-\alpha)\lambda_1 u_1=\lambda_2(Tu_2-\alpha u_2)=\dots=\lambda_r(Tu_r-\alpha u_r)=\m{0}\quad\dots(**)\end{align*}

が成り立つ.

ここで,$\alpha=\beta$を背理法により示す.

もし$\alpha\neq\beta$と仮定すると,$(\beta-\alpha)\lambda_1 u_1=\m{0}$かつ$u_1\neq\m{0}$と併せて,$\lambda_1=0$となる.

$\lambda_1,\dots,\lambda_r$が異なることから$\lambda_2,\dots,\lambda_r$は0でないので,$(**)$と併せて$Tu_k=\alpha u_k$が成り立ち,$u_k\in W_{T}(\alpha)$を得る.

固有空間は線形空間だから,

    \begin{align*}u_1=v-u_2-\dots-u_r\in W_{T}(\alpha)\end{align*}

が成り立つ.いま$\alpha\neq\beta$より$W_{T}(\alpha)\cap W_{T}(\beta)=\{\m{0}\}$であるが,$\m{0}\neq u_1\in W_{T}(\alpha)\cap W_{T}(\beta)$が得られたので矛盾する.

よって,仮定は誤りで$\alpha=\beta$が成り立つ.

第4問

$f(x)$を$x\ge1$で定義された実数値連続関数とし,$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)=1$とする.このとき

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}n\int_1^\infty\frac{\exp{\bra{-\frac{n}{x}}}f(x)}{x^2}\,dx\end{align*}

を求めよ.

微分積分学の極限を求める問題ですね.

解答の方針とポイント

$(\frac{n}{x})’=-\frac{n}{x^2}$ですから,$y=\frac{n}{x}$と置換すると,積分の前にある$n$と分母の$x^2$が消えて積分が扱いやすくなりそうです.

この置換では$f(x)=f(\frac{n}{y})$となるので,各$n$に対して条件$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)=1$は$y=0$付近の条件になることに注意しましょう.

極限値の予想

$y=\frac{n}{x}$と置換すると,各$n$に対して

    \begin{align*}&n\int_1^\infty\frac{\exp{\bra{-\frac{n}{x}}}f(x)}{x^2}\,dx=\int_{0}^{n}e^{-y}f\bra{\frac{n}{y}}\,dx\end{align*}

となります.

ここで,$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)=1$より,各$n$に対して$y\approx0$で$f(\frac{n}{y})\approx1$となっています.さらに,$f(\frac{n}{y})\approx1$と思える部分は,$n$が大きくなるにつれ長くなっていきますね.

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一方,$e^{-y}$は$y$が大きくなるにつれ急激に減衰しますから,$e^{-y}f(\frac{n}{y})$の積分では,大きい$y$での値はほとんど積分に寄与しませんね.

よって,$n$が十分大きければ

    \begin{align*}\int_{0}^{n}e^{-y}f\bra{\frac{n}{y}}\,dx &\approx\int_{0}^{n}e^{-y}\cdot1\,dx \\&\approx\int_{0}^{\infty}e^{-y}\,dx=1\end{align*}

となることから極限値は1と予想でき,

    \begin{align*}\abs{\int_{0}^{n}e^{-y}f\bra{\frac{n}{y}}\,dx-1}\xrightarrow[]{n\to\infty}0\end{align*}

を示せば良いことが分かりますね.

積分の評価

上の予想の過程から,予想される極限値1は$\int_{0}^{\infty}e^{-y}\,dx$だと思えるので,

    \begin{align*}&\abs{\int_{0}^{n}e^{-y}f\bra{\frac{n}{y}}\,dx-1} \\&=\abs{\int_{0}^{n}e^{-y}f\bra{\frac{n}{y}}\,dx-\int_{0}^{\infty}e^{-y}\,dx} \\&=\abs{\int_{0}^{n}e^{-y}\bra{f\bra{\frac{n}{y}}-1}\,dy-\int_{n}^{\infty}e^{-y}\,dy} \\&\le\abs{\int_{0}^{n}e^{-y}\bra{f\bra{\frac{n}{y}}-1}\,dy}+e^{-n}\end{align*}

と評価します.第2項目の$e^{-n}$が0に収束することはすぐに分かり,第1項目については

  • $y$が大きくないところでは$f(\frac{n}{y})-1\approx0$
  • $y$が大きいところでは$e^{-x}\approx0$

を用いて評価すれば良いですね.

条件$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)=1$は「任意の$\epsilon>0$に対して,ある$R>1$が存在して,

    \begin{align*}x>R\Ra |f(x)-1|<\epsilon\end{align*}

が成り立つ」と言えますから,このとき第1項目の積分を$\int_{0}^{n/R}$と$\int_{n/R}^{n}$に分ければ評価ができますね.

解答例

任意の$n\in\N$に対して,広義積分の定義と変数変換$y=\frac{n}{x}$により

    \begin{align*}&n\int_{1}^{\infty}\frac{\exp{\bra{-\frac{n}{x}}}f(x)}{x^2}\,dx \\&=\lim_{r\to\infty}n\int_{1}^{r}\frac{\exp{\bra{-\frac{n}{x}}}f(x)}{x^2}\,dx =\lim_{r\to\infty}\int_{n}^{\frac{n}{r}}e^{-y}f\bra{\frac{n}{y}}\,(-dy) \\&=\lim_{r\to\infty}\int_{\frac{n}{r}}^{n}e^{-y}f\bra{\frac{n}{y}}\,dy =\int_{0}^{n}e^{-y}f\bra{\frac{n}{y}}\,dy\end{align*}

である.

ここで,任意に$\epsilon>0$をとる.条件$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)=1$より,ある$R>1$が存在して,

    \begin{align*}x>R\Ra |f(x)-1|<\epsilon\end{align*}

が成り立つ.また,$[1,R]$上で$f$は連続だから$M:=\max\limits_{x\in[1,R]}|f(x)|<\infty$である.よって,

    \begin{align*}&\abs{\int_{0}^{n}e^{-y}f\bra{\frac{n}{y}}\,dy-1} \\&=\abs{\int_{0}^{n}e^{-y}f\bra{\frac{n}{y}}\,dy-\int_{0}^{\infty}e^{-y}\,dy} \\&=\abs{\int_{0}^{n}e^{-y}\bra{f\bra{\frac{n}{y}}-1}\,dy-\int_{n}^{\infty}e^{-y}\,dy} \\&\le\int_{0}^{\frac{n}{R}}e^{-y}\abs{f\bra{\frac{n}{y}}-1}\,dy+\int_{\frac{n}{R}}^{n}e^{-y}\abs{f\bra{\frac{n}{y}}-1}\,dy+e^{-n} \\&\le\epsilon\int_{0}^{\frac{n}{R}}e^{-y}\,dy+(M+1)\int_{\frac{n}{R}}^{n}e^{-y}\,dy+e^{-n} \\&=\epsilon(1-e^{-n/R})+(M+1)(e^{-n/R}-e^{-n})+e^{-n} \xrightarrow[]{n\to\infty}\epsilon\end{align*}

となるから,$\epsilon$の任意性より

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\int_{0}^{n}e^{-y}\bra{f\bra{\frac{n}{y}}-1}\,dy=0\end{align*}

が成り立つ.以上より,

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}n\int_{1}^{\infty}\frac{\exp{\bra{-\frac{n}{x}}}f(x)}{x^2}\,dx=1\end{align*}

を得る.

第5問

$x_0$を正の実数とし,$a_m(t)=\dfrac{1}{1+\bra{t+\frac{1}{m}}^2}$($t\ge0$, $m$は正の整数)と定める.このとき,常微分方程式の初期値問題

    \begin{align*}\begin{cases}x'_m(t)=a_m(t)x_m(t)^{1/2},&t\ge0,\\x_m(0)=x_0\end{cases}\end{align*}

の解$x_m:[0,\infty)\to\R$は,$m\to\infty$のとき,$[0,\infty)$上のある連続関数に一様収束することを示せ.

微分方程式の解の挙動に関する問題ですね.

解答の方針とポイント

変数分離形の常微分方程式なので,初期値問題の解は計算できますね.

変数分離形の常微分方程式

未知関数$x$に関する常微分方程式が$x'(t)=f(t)g(x)$の形をしているとき変数分離形であるといいます.

変数分離形$x'(t)=f(t)g(x)$は$g(x)\equiv0$なる解をもち,また$g(x)\not\equiv0$なら両辺を$g(x)$で割って両辺を$t$で積分することで

    \begin{align*}\int \frac{1}{g(x)}\,dx=\int f(t)\,dt\end{align*}

となり,一般解が得られます.

初期条件$x(t_0)=x_0$がある場合は

    \begin{align*}\int_{x_0}^{x(t)} \frac{1}{g(\xi)}\,d\xi=\int_0^t f(\tau)\,d\tau\end{align*}

とすれば,初期条件から一般解の積分定数$C$を消す作業が必要なくなり少しラクになりますね.

本問の常微分方程式では初期値が$x_0>0$なので,初期時刻の近傍では0でないので両辺を$x_m(t)^{1/2}$で割れて,両辺を$t$で積分すると

    \begin{align*}&\int_{x_0}^{x_m(t)}\frac{1}{x^{1/2}}dx=\int_{0}^{t}\frac{1}{1+\bra{\tau+\frac{1}{m}}^2}\,d\tau \\&\Ra x_m(t)=\bra{\sqrt{x_0}+\frac{1}{2}\tan^{-1}\bra{t+\frac{1}{m}}-\frac{1}{2}\tan^{-1}{\frac{1}{m}}}^2\end{align*}

と解が得られます.

各点収束極限と一様収束極限

一般に関数列$\{f_n\}_n$が一様収束するなら,各点収束極限と一様収束極限は一致します.

本問では具体的な解$x_m$の形から,各点収束極限が

    \begin{align*}\lim_{m\to\infty}x_m(t)=\bra{\sqrt{x_0}+\frac{1}{2}\tan^{-1}t}^2=:y(t)\end{align*}

であることが分かります.よって,$\{x_m\}_m$が$[0,\infty)$上で一様収束するなら,

    \begin{align*}\lim_{m\to\infty}\bra{\sup_{t\in[0,\infty)}|x_m(t)-y(t)|}=0\end{align*}

となるしかありません.

いまは$x_m(t)$も$y(t)$も2乗なので,単純に展開して$|x_m(t)-y(t)|$の差の評価をするのは大変ですが,

    \begin{align*}|x_m(t)-y(t)|&=\bra{\sqrt{x_m(t)}+\sqrt{y(t)}}\abs{\sqrt{x_m(t)}-\sqrt{y(t)}}\end{align*}

であることに注意すれば,$\sqrt{x_m(t)}$と$\sqrt{y(t)}$の一様評価と$\abs{\sqrt{x_m(t)}-\sqrt{y(t)}}$の一様収束を示せば良いことが分かりますね.

大域解の一意存在

例えば

    \begin{align*}\begin{cases}x'(t)=tx(t)^{2},&t\ge0,\\x(0)=1\end{cases}\end{align*}

の解は$x(t)=(1-\frac{1}{2}t^2)^{-1}$となり大域解が存在しないですし,

    \begin{align*}\begin{cases}x'(t)=2x(t)^{1/2},&t\ge0,\\x(0)=0\end{cases}\end{align*}

解は一意ではありませんこのように,変数分離形の常微分方程式の初期値問題の解が大域的に存在することは一般には期待できません.

そこで,ここの解答例では解が大域的に一意存在することもきちんと示しておきましょう.

問題は解$x_m:[0,\infty)\to\R$の一意存在を仮定して良いようにも読めるので,その場合は以上の変数分離形の微分方程式を解く議論で十分です.

常微分方程式の解の一意存在定理として,ピカール-リンデレフの定理(コーシー-リプシッツの定理)が重要でした.ここでは単独の常微分方程式の場合について確認しておきましょう.

[ピカール-リンデレフの定理]$t_0\in\R$, $x_0\in\R$, $T>0$, $R>0$とする.$\R^2$上の閉集合$D$を

    \begin{align*}D:=\set{(t,x)\in\R^2}{|t-t_0|\le T,\ |x-x_0|\le R}\end{align*}

で定め,関数$f:D\to\R$は$D$上で連続かつ,$x$に関してリプシッツ連続であるとする.

このとき,正規形の常微分方程式の初期値問題

    \begin{align*}\begin{cases}x'(t)=f(t,x(t)),\\x(t_0)=x_0\end{cases}\end{align*}

の解$x\in C^1([t_0-\delta,t_0+\delta])$が一意に存在する.ここに,

*** QuickLaTeX cannot compile formula:
\begin{align*}\delta:=\min\brb{T,\frac{R}{M}\},\quad
M:=\sup_{(t,x)\in D}|f(t,x)|\end{align*}

*** Error message:
File ended while scanning use of \align*.

である.さらに,$f\in C^m(D)$なら,解は$x$は$C^{m+1}$級となる.

「関数$f:D\to\R$が$D$上で$x$に関してリプシッツ連続」であるとは,ある$L>0$が存在し任意の$(t,x),(t,y)\in D$に対して$|f(t,x)-f(t,y)|\le L|x-y|$を満たすことをいいます.

本問では初期条件が$x_m(0)=x_0$ですから,ピカール-リンデレフの定理を使うには,うまく$T$と$R$をとって

    \begin{align*}D:=\set{(t,x)\in\R^2}{|t|\le T,\ |x-x_0|\le R}\end{align*}

上で$f(t,x)=a_m(t)x^{1/2}$が連続かつ$x$に関してリプシッツ連続であるようにする必要があります.

連続性は$T>0$, $R>0$であれば成り立ちますが,$x=0$を含む区間上で$x^{1/2}$がリプシッツ連続でなくなってしまうことに注意すると,$R<x_0$なる$R$をとらないといけないことが分かりますね.

そこで,$R=x_0/2$, $T=x_0^{1/2}$ととれば,$\delta:=(x_0/6)^{1/2}$として$[-\delta,\delta]$上で解が一意に存在することが分かります.

次に初期時刻を$t=\delta$にとって同様の議論をすれば,解$x_m$が単調増加であることと併せて,さらに少なくとも時刻$2\delta$まで解が一意存在することが分かります.

これを帰納敵に繰り返せば,時間正方向で大域的に($[0,\infty)$上で)解が一意に存在することが分かりますね.

解答例

[1]任意の正の整数$m$に対して正値解$x_m$が$[0,\infty)$上で一意に存在すると仮定して,$[0,\infty)$上の解の列$\{x_m\}_m$が$m\to\infty$のとき$[0,\infty)$上のある連続関数に一様収束することを示す.

微分方程式の両辺を$x_m(t)>0$で割って,$t$について積分すると

    \begin{align*}&\int_{x_0}^{x_m(t)}\frac{1}{x^{1/2}}dx=\int_{0}^{t}\frac{1}{1+\bra{\tau+\frac{1}{m}}^2}\,d\tau \\&\iff\brc{2x^{1/2}}_{x_0}^{x_m(t)}=\brc{\tan^{-1}\bra{\tau+\frac{1}{m}}}_{0}^{t} \\&\iff\sqrt{x_m(t)}=\sqrt{x_0}+\frac{1}{2}\tan^{-1}\bra{t+\frac{1}{m}}-\frac{1}{2}\tan^{-1}{\frac{1}{m}}\end{align*}

となり,解$x_m(t)$は

    \begin{align*}x_m(t)&=\bra{\sqrt{x_0}+\frac{1}{2}\tan^{-1}\bra{t+\frac{1}{m}}-\frac{1}{2}\tan^{-1}{\frac{1}{m}}}^2\end{align*}

である.各$t\in[0,\infty)$に対して,

    \begin{align*}\lim_{m\to\infty}x_m(t)=\bra{\sqrt{x_0}+\frac{1}{2}\tan^{-1}t}^2=:y(t)\end{align*}

が成り立つ.よって,$t\in[0,\infty)$によらず

    \begin{align*}&\sqrt{x_m(t)}\le\sqrt{x_0}+\frac{\pi}{2}, \\&\sqrt{y(t)}\le\sqrt{x_0}+\frac{\pi}{4}, \\&\abs{\sqrt{x_m(t)}-\sqrt{y(t)}} =\frac{1}{2}\abs{\bra{\tan^{-1}\bra{t+\frac{1}{m}}-\tan^{-1}{\frac{1}{m}}}-\tan^{-1}{t}} \\&\le\frac{1}{2}\bra{\abs{\tan^{-1}\bra{\frac{\frac{1}{m}}{1+t(t+\frac{1}{m})}}}+\abs{\tan^{-1}{\frac{1}{m}}}} <\tan^{-1}\frac{1}{m}\end{align*}

である.ただし,最後の等号では,一般に$\alpha,\beta>0$に対して

    \begin{align*}\tan^{-1}{\alpha}-\tan^{-1}{\beta} &=\tan^{-1}\bra{\tan{\bra{\tan^{-1}{\alpha}-\tan^{-1}{\beta}}}} \\&=\tan^{-1}\bra{\frac{\alpha-\beta}{1+\alpha\beta}}\end{align*}

が成り立つことを用いた.以上より,

    \begin{align*}&\sup_{t\in[0,\infty)}|x_m(t)-y(t)| \\&=\sup_{t\in[0,\infty)}\bra{\sqrt{x_m(t)}+\sqrt{y(t)}}\abs{\sqrt{x_m(t)}-\sqrt{y(t)}} \\&\le\bra{2\sqrt{x_0}+\frac{3\pi}{4}}\tan^{-1}\frac{1}{m} \xrightarrow[]{m\to\infty}0\end{align*}

となり,$[0,\infty)$上の解の列$\{x_m\}$は連続関数$y$に一様収束する.

[2]任意の正の整数$m$に対して正値解$x_m$が$[0,\infty)$上で一意に存在すること([1]の仮定)を示す.

    \begin{align*}D:=\set{(t,x)\in\R^2}{|t|\le\sqrt{x_0},\ |x-x_0|\le\frac{x_0}{2}}\end{align*}

とおく.常微分方程式$x’_m(t)=a_m(t)x_m(t)^{1/2}$は正規形で,$f_m:D\to\R;(t,x)\mapsto a_m(t)x^{1/2}$は$C^1$級である.

よって,ピカール-リンデレフの定理(コーシー-リプシッツの定理)より,

    \begin{align*}&\delta_0:=\min\brb{\sqrt{x_0},\frac{{x_0}/2}{M}},\quad M:=\sup\limits_{(t,y)\in D}|f_m(t,y)|\end{align*}

とおくと,$[-\delta,\delta]$上で$(*)$は一意に解をもつ.いま

    \begin{align*}M\le1\cdot\bra{x_0+\frac{x_0}{2}}^{1/2}=\sqrt{\frac{3x_0}{2}}\end{align*}

なので,

    \begin{align*}\delta_0\ge\min\brb{\sqrt{x_0},\sqrt{\frac{x_0}{6}}}=\sqrt{\frac{x_0}{6}}\end{align*}

である.

いまの初期時刻からの局所解の一意存在と同様に

    \begin{align*}\begin{cases}x'_m(t)=a_m(t)x_m(t)^{1/2},&t\ge0,\\x_m(\delta)=\xi_1\end{cases}\end{align*}

の解は$[\delta_0-\delta_1,\delta_0+\delta_1]$上で一意に存在する.ただし,$\delta_1:=\sqrt{\frac{x_m(\delta_0)}{6}}$である.

$t\in[0,\delta]$において$x’_m(t)=f_m(t,x_m(t))>0$だから解$x_m$は狭義単調増加なので$x_m(\delta_0)>x_0$だから,$\delta_0<\delta_1$である.

以上の議論を繰り返せば,帰納的に存在時刻が少なくとも$\delta_0$ずつ延長でき,解$x_m$が$[0,\infty)$上で一意に存在する.

さらに任意の$t\in[0,\infty)$に対して$x_m>x_0>0$だから,$x_m$は正値解である.

もし解$x_m:[0,\infty)\to\R$の一意存在を仮定して良いのであれば[2]は不要です.

第6問

$\R^3$の部分空間$X$を

    \begin{align*}X=\set{(x,y,z)\in\R^3}{x^4+y^4-z^3=1}\end{align*}

で定める.

  1. $X$は$\R^3$の微分可能部分多様体であることを示せ.
  2. $r\in\R$について,$H_r=\set{(x,y,z)\in\R^3}{z=r}$とする.$X\cap H_r$が空集合ではない$\R^3$の1次元微分可能部分多様体となるような$r$の範囲を求めよ.

微分幾何学の部分多様体であることに関する問題です.

解答の方針とポイント

微分可能部分多様体であることを示す方法としては正則値定理(沈め込み定理)が重要です.

正則値定理(沈め込み定理)

微分可能多様体$M$, $N$と,写像$f:M\to N$に対して,$p\in M$が$f$の正則点であるとは微分$(df)_p:T_p(M)\to T_f(p)(N)$が全射であることをいい,正則点でない$M$上の点は臨界点というのでした.

$p\in M$が$f$の正則点であることと,$\rank{Jf(p)}=\dim{N}$が成り立つことと同値なのでした($Jf(p)$は$f$の$p$におけるヤコビ行列).

さらに,臨界点の像を臨界値といい,臨界値でない$N$の元を正則値といいますね.

正則値の逆像が$\emptyset$または$M$上の微分可能部分多様体であることを述べた次の定理を正則値定理(沈め込み定理)といいます.

[正則値定理]$C^s$級微分可能多様体$M$, $N$と,$C^s$級写像$f:M\to N$に対して,$f$の正則値$q\in N$の逆像$f^{-1}(q)$は$M$の$(\dim{M}-\dim{N})$次元$C^s$級部分多様体である.

本問(1)では$f:\R^3\to\R$を

    \begin{align*}f(x,y,z)=x^4+y^4-z^3-1\end{align*}

で定義すると$X=f^{-1}(0,0)$となりますから,$(0,0)\in\R^3$が正則点であることを示せば,正則値定理が適用できますね.

また,本問(2)では$x^4+y^4\ge0$であることから,$r^3+1\le0\iff r\le-1$のときに1次元部分多様体にならないことはすぐに分かり,$r>-1$のときは正則値定理から1次元微分可能部分多様体となることが分かります.

解答例

(1) $C^\infty$級写像$f:\R^3\to\R$を

    \begin{align*}f(x,y,z)=x^4+y^4-z^3-1\end{align*}

で定める.$X=f^{-1}(0)$であり,$f(1,0,0)\in X$だから$X\neq\emptyset$である.

$f$のヤコビアン$Jf(x,y,z)$は

    \begin{align*}Jf(x,y,z)=[4x^3,4y^3,-3z^2]\end{align*}

なので,$\rank{Jf(x,y,z)}=1\iff(x,y,z)=(0,0,0)$であるが,$(0,0,0)\notin X$だから$X$の全ての点は$f$の正則点である.

よって,正則値定理(沈め込み定理)より$X=f^{-1}(0)$は$\R^3$の微分可能部分多様体である.

(2) 任意の$r\in\R$に対して,

    \begin{align*}X\cap H_r=\set{(x,y,r)\in\R^3}{x^4+y^4=1+r^3}\end{align*}

である.

[1]$r<-1$のとき,$x^4+y^4\ge0$, $1+r^3<0$だから,$X\cap H_r=\emptyset$である.

[2]$r=-1$のとき,$X\cap H_r=\{(0,0,-1)\}$は$\R^3$の0次元部分多様体である.

[3]$r>-1$のとき,$C^\infty$級写像$g:\R^3\to\R^2$を

    \begin{align*}g(x,y,z)=\bmat{x^4+y^4-z^3-1\\z-r}\end{align*}

で定める.$X\cap H_r=g^{-1}(0,0)$であり,$g(1,r^{3/4},r)\in X\cap H_r$だから$X\cap H_r\neq\emptyset$である.

$g$のヤコビアン$Jg(x,y,z)$は

    \begin{align*}Jg(x,y,z)=\bmat{4x^3&4y^3&-3z^2\\0&0&1}\end{align*}

なので,$\rank{Jg(x,y,z)}=2\iff(x,y)=(0,0)$であるが,このような$X\cap H_r$の元は存在しないので$X\cap H_r$の全ての点は$f$の正則点である.

よって,正則値定理(沈め込み定理)より$X\cap H_r=g^{-1}(0)$は$\R^3$の1次元微分可能部分多様体である.

[1]〜[3]より,$X\cap H_r$が空集合ではない$\R^3$の1次元微分可能部分多様体となるような$r$の範囲は$r<-1$である.

参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

管理人

プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.公式LINEを友達登録で【限定プレゼント】配布中.

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