線形代数12
行列式の基本性質まとめ!計算の具体例も紹介

線形代数学の基本
線形代数学の基本

前々回の記事で置換の基本事項を説明し,前回の記事行列式を定義しました.

以前の記事から示唆していたように,

  • 行列式$|A|$が$0$でないこと
  • $A$が正則であること

が同値となる(証明は次の記事)ので,行列式を計算できることは大切です.

そこで,この記事では

  • 行列式の基本性質
  • 行列式と基本変形の関係
  • 行列式の具体的な計算

を順に説明します.

なお,この記事では特に断らない限り実行列・実ベクトルを扱うことにしますが,複素行列など一般のを成分とする行列・ベクトルに対しても同様です.

また,この記事では$n$を$2$以上の整数とし,$\{1,\dots,n\}$の置換全部の集合を$S_n$とします.

参考文献(線形代数)

手を動かしてまなぶ 線形代数

線形代数の入門書で,説明も非常に丁寧なので初学者にも読み進めやすい教科書です.

線型代数入門

理論系でガッツリ線形代数を学ぶ人のための入門書です.

準備

まずは行列式の性質を示す際に必要となる2つの補題を用意しておきます.

補題1

1つ目は「$\sigma$を$S_n$全体で漏れなく重複なく動かすとき,$\sigma^{-1}$も$S_n$全体を漏れなく重複なく動く」という補題です.

[補題1] $S_{n}=\set{\sigma^{-1}}{\sigma\in S_{n}}$が成り立つ.


任意の$\sigma\in S_{n}$に対して,$\sigma:M_n\to M_n$は全単射だから$\sigma^{-1}:M_n\to M_n$なので,$\sigma^{-1}\in S_n$である.

よって,$S_n$が有限集合であることから,$S_n\to S_n;\sigma\longmapsto\sigma^{-1}$が単射であることを示せばよい.

$\sigma_{1},\sigma_{2}\in S_{n}$が$\sigma_{1}^{-1}=\sigma_{2}^{-1}$を満たせば,

   \begin{align*} \sigma_{1} =(\sigma_{1}^{-1})^{-1} =(\sigma_{2}^{-1})^{-1} =\sigma_{2} \end{align*}

が成り立つ.よって,単射なので$S_{n}=\set{\sigma^{-1}}{\sigma\in S_{n}}$が従う.

補題2

2つ目は「$\sigma\in S_n$を固定し,$\tau$を$S_n$全体で漏れなく重複なく動かすとき,$\sigma\tau$, $\tau\sigma$も$S_n$全体を漏れなく重複なく動く」という補題です.

[補題2] 任意の$\sigma\in S_{n}$に対して,$S_{n}=\set{\sigma\tau}{\tau\in S_{n}}=\set{\tau\sigma}{\tau\in S_{n}}$が成り立つ.


任意の$\tau\in S_{n}$に対して,$\tau:M_n\to M_n$は全単射だから$\sigma\tau:M_n\to M_n$も全単射なので,$\sigma\tau\in S_n$である.

よって,$S_n$が有限集合であることから,$S_n\to S_n;\tau\longmapsto\sigma\tau$が単射であることを示せばよい.

$\tau_{1},\tau_{2}\in S_{n}$が$\sigma\tau_{1}=\sigma\tau_{2}$を満たせば,

   \begin{align*} \tau_{1} =(\sigma^{-1}\sigma)\tau_{1} =\sigma^{-1}(\sigma\tau_{1}) =\sigma^{-1}(\sigma\tau_{2}) =(\sigma^{-1}\sigma)\tau_{2} =\tau_{2} \end{align*}

が成り立つ.よって,単射なので$S_{n}=\set{\sigma\tau}{\tau\in S_{n}}$が従う.

同様に$S_{n}=\set{\tau\sigma}{\tau\in S_{n}}$も従う.

行列式の基本性質

転置行列の行列式

行列式は転置行列にしても変わりません.

正方行列$A$に対して,$|A|=|A^{T}|$が成り立つ.


$A=(a_{ij})\in\Mat_{n}(\R)$とする.任意の$\sigma\in S_{n}$に対して$\{1,\dots,n\}=\{\sigma(1),\dots,\sigma(n)\}$だから

   \begin{align*} a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} =a_{\sigma^{-1}(1)1}a_{\sigma^{-1}(2)2}\dots a_{\sigma^{-1}(n)n} \end{align*}

なので

   \begin{align*} |A| =&\sum_{\sigma\in S_n}\sgn{(\sigma)}a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} \\=&\sum_{\sigma\in S_n}\sgn{(\sigma)}a_{\sigma^{-1}(1)1}a_{\sigma^{-1}(2)2}\dots a_{\sigma^{-1}(n)n} \\=&\sum_{\sigma\tau\in S_n}\sgn{(\sigma)}a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\dots a_{\sigma(n)n} =|A^{T}| \end{align*}

が従う.

なお,3行目最初の等号については,上の[補題1]より$S_{n}=\{\sigma\tau|\sigma\in S_{n}\}$だから,和としては等しい.

この命題から行列式について行で成り立つ性質は列でも成り立つということが分かり,逆に行列式について列で成り立つ性質は行でも成り立つことも分かりますね.

行列式の交代性

行列式の次の命題の性質を交代性 (反対称性, antisymmetry)といいます.

$A=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]\in\Mat_{n}(\R)$と$\sigma\in S_{n}$に対して,以下が成り立つ.

   \begin{align*} |A|=\sgn{(\sigma)}|\m{a}_{\sigma(1)},\dots,\m{a}_{\sigma(n)}| \end{align*}


$A=(a_{ij})$とする.置換の性質より

   \begin{align*} &\sgn{(\sigma)}|\m{a}_{\sigma(1)},\dots,\m{a}_{\sigma(n)}| \\=&\sgn{(\sigma)}\sum_{\tau\in S_{n}}\sgn(\tau)a_{1,\tau\sigma(1)}\dots a_{n,\tau\sigma(n)} \\=&\sum_{\tau\in S_{n}}\sgn{(\tau\sigma)}a_{1,\tau\sigma(1)}\dots a_{n,\tau\sigma(n)} =|A| \end{align*}

が従う.なお,2行目最初の等号については,上の[補題2]より$S_{n}=\{\sigma^{-1}|\sigma\in S_{n}\}$だから,和としては等しい.

この命題から,次の系が容易に得られます.

等しい2つの列をもつ正方行列の行列式は0である.


$A=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]\in\Mat_{n}(\R)$について,$i,j\in\{1,\dots,n\}$ ($i<j$)が$\m{a}_{i}=\m{a}_{j}$をみたすとする.

互換$\sigma:=(i,j)\in S_{n}$について,行列式の交代性から

   \begin{align*} |A| =&\sgn(\sigma)|\m{a}_{\sigma(1)},\dots,\m{a}_{\sigma(i)},\dots,\m{a}_{\sigma(j)},\dots,\m{a}_{\sigma(n)}| \\=&-|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{j},\dots,\m{a}_{i},\dots,\m{a}_{n}| \\=&-|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i},\dots,\m{a}_{j},\dots,\m{a}_{n}| =-|A| \end{align*}

だから,$|A|=0$が従う.

行列式の線形性

行列式の次の命題の性質を線形性 (linearity)といいます.

$\alpha,\beta\in\R$とする.$n$次行列の行列式について,以下が成り立つ.

   \begin{align*} &|\m{a}_{1},\dots,\alpha\m{a}_{i_{1}}+\beta\m{a}_{i_{2}},\dots,\m{a}_{n}| \\=&\alpha|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i_{1}},\dots,\m{a}_{n}|+\beta|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i_{2}},\dots,\m{a}_{n}| \end{align*}


任意の$k=1,\dots,i_{1},i_{2},\dots,n$に対して,$\m{a}_{k}:=[a_{k1},\dots,a_{kn}]^{T}$とすると

   \begin{align*} &|\m{a}_{1},\dots,\alpha\m{a}_{i_{1}}+\beta\m{a}_{i_{2}},\dots,\m{a}_{n}| \\=&\sum_{\sigma\in S_{n}}\sgn(\sigma)a_{1\sigma(1)}\dots(\alpha a_{i_{1}\sigma(i)}+\beta a_{i_{2}\sigma(i)})\dots a_{n\sigma(n)} \\=&\alpha\sum_{\sigma\in S_{n}}\sgn(\sigma)a_{1\sigma(1)}\dots a_{i_{1}\sigma(i)}\dots a_{n\sigma(n)} \\&+\beta\sum_{\sigma\in S_{n}}\sgn(\sigma)a_{1\sigma(1)}\dots a_{i_{2}\sigma(i)}\dots a_{n\sigma(n)} \\=&\alpha|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i_{1}},\dots,\m{a}_{n}|+\beta|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i_{2}},\dots,\m{a}_{n}| \end{align*}

が従う.

積の行列式

任意の$A,B\in\Mat_{n}(\R)$に対し,$|AB|=|A||B|$が成り立つ.


$A=(a_{ij})=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]$, $B=(b_{ij})=[\m{b}_{1},\dots,\m{b}_{n}]$とすると,行列式の線形性より

   \begin{align*} |AB| =&\abs{[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]\bmat{b_{11}&\dots&b_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\b_{n1}&\dots&b_{nn}}} \\=&\abs{\sum_{k_{1}=1}^{n}b_{k_{1}1}\m{a}_{k_{1}},\dots,\sum_{k_{n}=1}^{n}b_{k_{n}n}\m{a}_{k_{n}}} \\=&\sum_{k_{1}=1}^{n}\dots\sum_{k_{n}=1}^{n}b_{k_{1}1}\dots b_{k_{n}n}|\m{a}_{k_{1}},\dots,\m{a}_{k_{n}}| \end{align*}

である.

もし$k_{1},\dots,k_{n}$の中に同じものがあれば,交代性の系から$|\m{a}_{k_{1}},\dots,\m{a}_{k_{n}}|=0$だから

   \begin{align*} |AB| =&\sum_{\sigma\in S_{n}}b_{\sigma(1)1}\dots b_{\sigma(n)n}|\m{a}_{\sigma(1)},\dots,\m{a}_{\sigma(n)}| \\=&\sum_{\sigma\in S_{n}}\sgn{(\sigma)}b_{\sigma(1)1}\dots b_{\sigma(n)n} \cdot\sgn{(\sigma)}|\m{a}_{\sigma(1)},\dots,\m{a}_{\sigma(n)}| \\=&|A|\sum_{\sigma\in S_{n}}\sgn{(\sigma)}b_{\sigma(1)1}\dots b_{\sigma(n)n} =|A||B^{T}| =|A||B| \end{align*}

となる.

この命題から逆行列の行列式について,以下が得られます.

正則行列$A\in\Mat_{n}(\R)$に対して,$|A^{-1}|=|A|^{-1}$が成り立つ.


$AA^{-1}=I$だから$|A||A^{-1}|=|AA^{-1}|=|I|=1$となって,$|A^{-1}|=|A|^{-1}$が成り立つ.

行列式の計算

以下の命題は,行列式を具体的に求める際に非常に有用な性質です.

$a_{1j}=0$ ($j=2,\dots,n$)をみたす$A=(a_{ij})\in\Mat_{n}(\R)$について,以下が成り立つ.

   \begin{align*} |A| =\vmat{a_{11}&0&\dots&0\\a_{21}&a_{22}&\dots&a_{2n}\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\a_{n1}&a_{n2}&\dots&a_{nn}} =a_{11}\vmat{a_{22}&\dots&a_{2n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{n2}&\dots&a_{nn}} \end{align*}


仮定より$\sigma(1)\neq1$なら$a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)}=0$なので

   \begin{align*} |A| =&\sum_{\sigma\in S_n}\sgn(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} \\=&a_{11}\sum_{\substack{\sigma\in S_n\\\sigma(1)=1}} \sgn(\sigma)a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} \end{align*}

である.

$\set{\sigma\in S_n}{\sigma(1)=1}$は$\{2,\dots,n\}$の置換全体の集合なので,$S_{n-1}$と同一視できるから

   \begin{align*} a_{11}\sum_{\substack{\sigma\in S_n\\\sigma(1)=1}} \sgn(\sigma)a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} =a_{11} \vmat{a_{22}&\dots&a_{2n}\\ \vdots&\ddots&\vdots\\ a_{n2}&\dots&a_{nn}} \end{align*}

となる.

この命題を用いるには$a_{1j}=0$ ($j=2,\dots,n$)であることが必要なので,行列式をこの形に変形する必要がありますね.

そこで,行列の基本変形に関する次の命題が非常に便利です.

行列式について,次が成り立つ.

  1. 2つの列を入れ替えると,行列式の値は$-1$倍になる.
  2. 任意の列を$c$倍すると,行列式の値は$c$倍になる.
  3. 任意の列に他の列の何倍かを加えても行列式の値は変わらない.

(1)は行列式の交代性より成り立ち,(2)は行列式の線形性より成り立つ.

(3) $c\in\R$, $k,\ell\in M_{n}$ ($k\neq\ell$)に対して,$A=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]$の第$k$列の$c$倍を第$\ell$列に加えた行列の行列式は,行列式の線形性と交代性の系より

   \begin{align*} &|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{\ell}+c\m{a}_{k},\dots,\m{a}_{n}| \\=&|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{\ell},\dots,\m{a}_{n}|+c|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{k},\dots,\m{a}_{k},\dots,\m{a}_{n}| \\=&|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}|+c\cdot 0 =|A| \end{align*}

となる.

例えば,行列式$\vmat{-11&-5&-6\\-11&-1&-14\\11&9&17}$を計算したいときは,いまみた2つの命題を使えば

   \begin{align*} \vmat{-11&-5&-6\\-11&-1&-14\\11&9&17} =&11\vmat{-1&-5&-6\\-1&-1&-14\\1&9&17} \\=&11\vmat{1&5&6\\1&1&14\\1&9&17} =11\vmat{0&4&-8\\1&1&14\\0&8&3} \\=&-11\vmat{1&1&14\\0&4&-8\\0&8&3} =-11\cdot1\vmat{4&-8\\8&3} \\=&-11\cdot\{4\cdot3-(-8)\cdot8\} =-836 \end{align*}

と計算できますね.

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