チェザロ平均(a₁+a₂+…+aₙ)/nの極限|ε-N論法の応用例

微分積分学
微分積分学

数列$\{a_n\}$の初項から第$n$項までの平均

    \begin{align*}\frac{a_1+a_2+\dots+a_n}{n}\end{align*}

のことを$\{a_n\}$のチェザロ(Cesàro)平均といいます.

このチェザロ平均について,この記事では次の問題を考えましょう.

実数列$\{a_n\}$が$\alpha$に収束するとき,$\{a_n\}$のチェザロ平均の$n\to\infty$の極限が

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{a_1+a_2+\dots+a_n}{n}=\alpha\end{align*}

となることを示せ.

同じことですが,数列$\{a_n\}$の初項から第$n$項までの和を$s_n$とおくと,示したい極限は

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{s_n}{n}=\alpha\end{align*}

と表すこともできますね.

この記事では

  • 問題の直感的な考え方
  • 問題を解くために必要な知識
  • チェザロ平均の極限

を順に説明します.

また,このチェザロ平均の極限を考えることで,普通の極限を拡張することができます.これについては以下の記事を参照してください.

チェザロ総和|普通の意味では収束しない級数を収束させたい
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問題の直感的な考え方

まずは冒頭の問題が成り立つ直感的な考え方を説明します.

ここでは$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=1$となる実数列$\{a_n\}$に対して

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{a_1+a_2+\dots+a_n}{n}=1\end{align*}

となりそうなことを以下で段階を踏んで考察してみましょう.

考察1

まずは$1=a_1=a_2=\dots$と全ての項が$1$である数列$\{a_n\}$を考えると,$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=1$が成り立っていますね.

このとき,初項から第$n$項までの平均は$1$ですから,

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{a_1+a_2+\dots+a_n}{n}=\lim_{n\to\infty}\frac{n}{n}=1\end{align*}

が確かに成り立ちますね.

考察2

次に十分大きい$N\in\N$が存在して,$1=a_{N+1}=a_{N+2}=\dots$である数列$\{a_n\}$を考えると,$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=1$が成り立っていますね.

このとき,$n>N$なら

    \begin{align*}\frac{a_1+a_2+\dots+a_n}{n} =&\frac{(a_1+a_2+\dots+a_{N})+(a_{N+1}+\dots+a_n)}{n} \\=&\frac{a_1+a_2+\dots+a_{N}}{n}+\frac{a_{N+1}+\dots+a_n}{n} \\=&\frac{a_1+a_2+\dots+a_{N}}{n}+\frac{n-N}{n}\end{align*}

であり,$N$は固定された値であることに注意すると,最後の式で極限$n\to\infty$をとれば

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{a_1+a_2+\dots+a_n}{n}=1\end{align*}

が確かに成り立ちますね.

つまり,$n$が十分大きければほとんど$1$を足し続けていることになるので,$a_1,a_2,\dots,a_{N}$が$1$から離れていたとしても$n$を十分大きくすればこの誤差がどんどん$0$に潰れていき,$1$に収束するというわけですね.

考察3

一般に実数列$\{a_n\}$が$1$に収束するときは,$n$を十分大きくすれば$a_n$は$1$にどこまでも近くできるということになります.

つまり,十分大きい$N\in\N$が存在して,$n>N$なら$1\approx a_n$が成り立っていることになります.

このことから,考察2と同様に$n$を十分大きくすれば$\dfrac{a_1+a_2+\dots+a_n}{n}$はほとんど$1$のもの値たちで平均をとることになっています.

このことから,やはりこの場合も

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{a_1+a_2+\dots+a_n}{n}=1\end{align*}

が成り立ちそうなことが見てとれますね.

問題を解くために必要な知識

次に冒頭の問題を解くために必要な知識として

  • 三角不等式
  • $\epsilon\text{-}N$論法による数列の極限の定義

を確認しておきます.

三角不等式

まずは三角不等式を確認しておきましょう.

[三角不等式] $x,y,z\in\R$に対して,

    \begin{align*}|x|+|y|\ge|x+y|\end{align*}

が成り立つ.

つまり,絶対値はバラバラにしたほうが大きいか等しいというわけですね.

「三角不等式」という名前の由来は幾何ベクトル$\m{x},\m{y}$について

    \begin{align*}|\m{x}|+|\m{y}|\ge|\m{x}+\m{y}|\end{align*}

が成り立つことに由来しています.

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この図では$\m{x}$と$\m{y}$は平行ではありませんが,$\m{x}$と$\m{y}$が数直線上にあるときは$\m{x}$と$\m{y}$は成分で表すことができて,上の定理の実数バージョンの三角不等式が成り立つわけですね.

$\epsilon\text{-}N$論法による数列の極限の定義

次に数列の極限の定義($\epsilon\text{-}N$論法)を確認しておきましょう.

実数列$\{a_n\}$が$\alpha\in\R$に収束するとは,任意の$\epsilon>0$に対して,ある$N\in\N$が存在して,

    \begin{align*}n>N\Ra|a_n-\alpha|<\epsilon\end{align*}

が成り立つことをいう.また,このとき$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=\alpha$や$a_n\to\alpha\ (n\to\infty)$などと表す.

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つまり,「最初にどんなに小さな誤差$\epsilon>0$を考えていても,『$n>N$なら$a_n$と$\alpha$の誤差が$\epsilon$未満』となる十分大きな$N\in\N$が存在する」ときに$\{a_n\}$が$\alpha$に収束するというわけですね.

この論法を$\epsilon\text{-}N$論法と言いますね.

この$\epsilon\text{-}N$論法について詳しくは以下の記事を参照してください.

数列の収束の定義(ε-N論法)|例題から考え方を理解しよう
高校数学では学ぶ数列の極限の定義は直感的で分かりやすいのですが,数学的には少々曖昧です.そこで,数列の極限を厳密に定義する方法として,この記事ではε-N論法をイメージから説明します.

チェザロ平均の極限

それでは冒頭の問題を解きましょう.

実数列$\{a_n\}$が$\alpha$に収束するとき,$\{a_n\}$の初項から第$n$項までの平均の$n\to\infty$の極限

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{a_1+a_2+\dots+a_n}{n}=\alpha\end{align*}

を示せ.


任意に$\epsilon>0$をとる.$\{a_{n}\}$が$\alpha\in\R$に収束することから,ある$N_1\in\N$が存在して,

    \begin{align*}n>N_1\Ra |a_{n}-\alpha|<\frac{\epsilon}{2}\end{align*}

が成り立つ.また,$|a_{1}-\alpha|,|a_{2}-\alpha|,\dots,|a_{N}-\alpha|$の最大値を$M$とする.このとき,$N_2:=\lceil\frac{2N_1M}{\epsilon}\rceil$とすれば,

    \begin{align*}n>N_2\Ra\frac{N_1M}{n}<\frac{N_1M}{N_2}\le\frac{\epsilon}{2}\end{align*}

が成り立つ.ただし,$x\in\R$に対して$\lceil x\rceil$は$x$以上の最小の整数を表す(天井関数).

よって,$N:=\max{\{N_1,N_2\}}$とすれば,$n>N$なら

    \begin{align*}&\abs{\frac{a_{1}+a_{2}+\dots+a_{n}}{n}-\alpha} \\=&\abs{\frac{(a_{1}+a_{2}+\dots+a_{n})-n\alpha}{n}} \\=&\frac{|(a_{1}-\alpha)+(a_{2}-\alpha)+\dots+(a_{n}-\alpha)|}{n} \\\le&\frac{|a_{1}-\alpha|+|a_{2}-\alpha|+\dots+|a_{n}-\alpha|}{n} \\\le&\frac{|a_{1}-\alpha|+\dots+|a_{N_1}-\alpha|}{n} \\&\qquad+\frac{|a_{N_1+1}-\alpha|+\dots+|a_{n}-\alpha|}{n} \\\le&\frac{N_1M}{n}+\frac{(n-N_1)\frac{\epsilon}{2}}{n} <\frac{\epsilon}{2}+\frac{\epsilon}{2}\bra{1-\frac{N_1}{n}} <\epsilon\end{align*}

となる.よって,数列の極限の定義($\epsilon\text{-}N$論法)より

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{a_{1}+a_{2}+\dots+a_{n}}{n}=\alpha\end{align*}

を得る.

冒頭でも触れたように,このチェザロ平均の極限をベースにすると,チェザロ総和という考え方により普通の極限を拡張することができます.

これについては以下の記事を参照してください.

チェザロ総和|普通の意味では収束しない級数を収束させたい
1と-1を交互に足し続ける級数1-1+1-1+1-1+……は普通の意味では収束しませんが,「チェザロ総和」という考え方のもとでは1/2に総和可能ということができます.この記事では,チェザロ総和の考え方とチェザロ総和可能な数列を考えます.

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