2014大学院入試|京都大学 数学・数理解析専攻|基礎科目II

京都大学|大学院入試
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2014年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻の大学院入試問題の「基礎科目II」の解答の方針と解答例です.

問題は7題あり

  • 数学系は第1〜5問を
  • 数理解析系は第1〜3問と,第4〜7問から2問を選択して

解答します.試験時間は3時間です.この記事では,第1〜7問について解説しています.

ただし,公式に採点基準などは発表されていないため,本稿の解答が必ずしも正解になるとは限りません.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は京都大学の数学教室の過去問題のページから入手できます.

第1問(微分積分学)

実数値関数$f(x)$は$[0,\infty)$で連続で,$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)=1$とする.このとき

\begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n!}\int_{0}^{\infty}f(x)e^{-x}x^n\,dx=1\end{align*}

であることを証明せよ.

積分の極限を計算する問題です.

解答の方針とポイント

$\frac{1}{n!}$は$n\to\infty$でかなり強く0に収束するので,有界部分の積分の極限が極限値に影響しないことに気付けるかがポイントです.

有界部分での積分の極限

問題の積分の積分区間を有界閉区間$[0,R]$にすると

\begin{align*}\abs{\frac{1}{n!}\int_{0}^{R}f(x)e^{-x}x^n\,dx}
&\le\frac{\|f\|_{\infty}}{n!}\int_{0}^{R}x^n\,dx
\\&=\frac{\|f\|_{\infty}R^{n+1}}{(n+1)!}
\xrightarrow[]{n\to\infty}0\end{align*}

となるので,有界部分での積分は極限に影響してこないことが分かります.ただし,$\|f\|_{\infty}:=\sup\limits_{x\in[0,\infty)}|f(x)|$です.そのため,十分大きな$R>0$に対して

\begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}f(x)e^{-x}x^n\,dx=1\end{align*}

を示せば十分と分かりますね.

遠方での積分の極限

十分遠方では$f(x)\approx1$ですから,十分大きな$R>0$に対して

\begin{align*}\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}f(x)e^{-x}x^n\,dx
&\approx\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}e^{-x}x^n\,dx\end{align*}

となります.積分$\int_{R}^{\infty}e^{-x}x^n\,dx$はガンマ関数

\begin{align*}\Gamma(\alpha)=\int_{0}^{\infty}x^{\alpha-1}e^{-x}\,dx\quad(\alpha>0)\end{align*}

と積分区間が異なるだけなので,$\Gamma(\alpha+1)=\alpha\Gamma(\alpha)$を示す方法と同様に,部分積分を繰り返すことで積分$\int_{R}^{\infty}e^{-x}x^n\,dx$が計算できそうですね.

解答例

任意に$\epsilon>0$をとる.$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)=1$より,$R>0$が存在して,$x\ge R$なら$\abs{f(x)-1}<\epsilon$が成り立つ.

また,$f$は有界閉区間$[0,R]$上で連続なので有界だから,ある$M>0$が存在して,$\sup\limits_{x\in[0,R]}|f(x)|\le M$が成り立つ.よって,

\begin{align*}\abs{\frac{1}{n!}\int_{0}^{R}f(x)e^{-x}x^n\,dx}
&\le\frac{1}{n!}\int_{0}^{R}|f(x)|e^{-x}x^n\,dx
\\&\le\frac{1}{n!}\int_{0}^{R}M\cdot1\cdot x^n\,dx
\\&=\frac{M}{n!}\cdot\frac{R^{n+1}-0}{n+1}
\\&=\frac{MR^{n+1}}{(n+1)!}
\xrightarrow[]{n\to\infty}0\end{align*}

を得る.一方,

\begin{align*}&\abs{\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx-\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}e^{-x}x^n\,dx}
\\&=\abs{\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}(f(x)-1)e^{-x}x^n\,dx}
\\&\le\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}|f(x)-1|e^{-x}x^n\,dx
\\&<\frac{\epsilon}{n!}\int_{R}^{\infty}e^{-x}x^n\,dx\end{align*}

が成り立つ.部分積分を繰り返し行うことにより

\begin{align*}&\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}e^{-x}x^n\,dx
=\frac{e^{-R}R^n}{n!}+\frac{1}{(n-1)!}\int_{R}^{\infty}e^{-x}x^{n-1}\,dx
\\&=\frac{e^{-R}R^n}{n!}+\frac{e^{-R}R^{n-1}}{(n-1)!}+\frac{1}{(n-2)!}\int_{R}^{\infty}e^{-x}x^{n-2}\,dx
\\&=\dots
\\&=\frac{e^{-R}R^n}{n!}+\frac{e^{-R}R^{n-1}}{(n-1)!}+\dots+\frac{e^{-R}R}{1!}+\frac{1}{0!}\int_{R}^{\infty}e^{-x}\,dx
\\&=\frac{e^{-R}R^n}{n!}+\frac{e^{-R}R^{n-1}}{(n-1)!}+\dots+\frac{e^{-R}R}{1!}+\frac{e^{-R}}{0!}
\\&=e^{-R}\sum_{k=0}^{n}\frac{R^k}{k!}
\xrightarrow[]{n\to\infty}e^{-R}e^{R}=1\end{align*}

なので,

\begin{align*}&\limsup_{n\to\infty}\abs{\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx-1}
\\&\le\limsup_{n\to\infty}\abs{\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx-\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}e^{-x}x^n\,dx}
\\&\quad+\limsup_{n\to\infty}\abs{\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}e^{-x}x^{n}\,dx-1}
\\&\le\epsilon+0=\epsilon\end{align*}

となり,$\epsilon$の任意性より

\begin{align*}\limsup_{n\to\infty}\abs{\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx-1}=0\end{align*}

が成り立つ.よって,これは$\lim\limits_{n\to\infty}$で成り立ち

\begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx=1\end{align*}

を得る.以上より,

\begin{align*}&\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n!}\int_{0}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx
\\&=\lim_{n\to\infty}\bra{\frac{1}{n!}\int_{0}^{R}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx+\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx}
\\&=1\end{align*}

が従う.





第2問(線形代数学)

$n$, $m$を正の整数とする.$x$を変数とする$n$次以下の$\C$係数多項式の全体を$V_n$とし,和,差,スカラー倍により$V_n$を$\C$上のベクトル空間とみなす.$m$個の複素数$\alpha_1,\dots,\alpha_m$に対し,線形写像$F:V_n\to\C^m$を$F(f)=(f(\alpha_1),\dots,f(\alpha_m))$で定める.このとき,

  1. $F$が単射になるための必要十分条件を$n$, $m$, $\alpha_1,\dots,\alpha_m$のみを用いて述べよ.
  2. $F$が全射になるための必要十分条件を$n$, $m$, $\alpha_1,\dots,\alpha_m$のみを用いて述べよ.

線形写像$F$が単射・全射となるための条件を求める問題です.

解答の方針とポイント

問の表現では$\alpha_1,\dots,\alpha_m$がすべて異なるとは言えないので,以下では$\alpha_1,\dots,\alpha_m$に同じものがあり得るとして解答します.

線形写像が単射となるための条件

線形写像が単射であることの必要十分条件が,核を用いて書けることは重要ですね.

同じ体上の線形空間$U$, $V$に対して,線形写像$F:U\to V$を考える.次は同値である.

  • $F$は単射
  • $\operatorname{Ker}F=\{\m{0}_U\}$

核の定義より

\begin{align*}\operatorname{Ker}F=\set{f\in V_n}{f(\alpha_1)=\dots=f(\alpha_m)=0}\end{align*}

です.$\alpha_1,\dots,\alpha_m$で同じものを全てまとめて$\beta_1,\dots,\beta_r$とすると,$n\ge r$のとき

\begin{align*}f(x)=(x-\beta_1)\dots(x-\beta_r)\in\operatorname{Ker}F\end{align*}

が存在するので,$F$は単射でないことが分かります.逆に$n<r$なら,$F(f)=\m{0}$となる$f\neq0$はとれなさそうですね.

線形写像が全射となるための条件

線形写像が全射であるための条件は,単射ほど扱いやすいものはありませんので,定義にしたがって考えます.

もし$\alpha_1=\alpha_2$なら$F(f)$の第1成分と第2成分は必ず等しくなりますから,$\C^m$の第1成分と第2成分が異なる元は$\operatorname{Im}F$に属さないので全射になり得ませんね.

同様に考えて,$F$が全射になるためには,$\alpha_1,\dots,\alpha_m$が全て異なることが必要です.

さらに,$n$次多項式は$n+1$点での値を決めればひとつに決まる(ラグランジュ補間)ことに注意すれば,$n+1<m$であれば$F$は全射になり得ず,$n+1\ge m$であれば$F$は全射になりますね.

[ラグランジュ補間]異なる$\alpha_1,\dots,\alpha_m\in\C$と$(\gamma_1,\dots,\gamma_m)\in\C^m$に対して,$m-1$次多項式

\begin{align*}g(x)
&=\frac{\gamma_1(x-\alpha_2)(x-\alpha_3)\dots(x-\alpha_m)}{(\alpha_1-\alpha_2)(\alpha_1-\alpha_3)\dots(\alpha_1-\alpha_m)}
\\&\quad+\frac{\gamma_2(x-\alpha_1)(x-\alpha_3)\dots(x-\alpha_m)}{(\alpha_2-\alpha_1)(\alpha_2-\alpha_3)\dots(\alpha_2-\alpha_m)}
\\&\quad+\dots+\frac{\gamma_m(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)\dots(x-\alpha_{m-1})}{(\alpha_m-\alpha_1)(\alpha_m-\alpha_2)\dots(\alpha_m-\alpha_{m-1})}\end{align*}

は$g(\alpha_i)=\gamma_i$($i=1,2,\dots,m$)を満たす.

解答例

(1)の解答

$r:=\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$とし,$\alpha_1,\dots,\alpha_m$の等しいものを全てまとめて$\beta_1,\dots,\beta_r$とする.$F$は線形だから,$F$が単射であることと,$\operatorname{Ker}F=\{0\}$であることは同値である.

もし$n\ge r$なら

\begin{align*}f(x)=(x-\beta_1)\dots(x-\beta_r)\in V_n\setminus\{0\}\end{align*}

は$F(f)=(0,\dots,0)$を満たすから,$\operatorname{Ker}F\neq\{0\}$である.よって,$F$が単射なら$n<r$を満たすことが必要である.

逆に$n<r$とすると,$f(x)\in V_n\setminus\{0\}$なら$\beta_1,\dots,\beta_r$の少なくとも1つを根にもたないので,$F(f)\neq(0,\dots,0)$である.よって,$\operatorname{Ker}F=\{0\}$となり,$F$は単射である.

以上より,$F$が単射となるための必要十分条件は$n<\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$である.

(2)の解答

もし$m>\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$なら,$\alpha_i=\alpha_j$, $i<j$なる$i,j\in\{1,\dots,m\}$が存在するから,任意の$f\in V_n$に対し,$F(f)=(\dots,f(\alpha_i),\dots,f(\alpha_j),\dots)$は第$i$成分と第$j$成分が等しいから全射になりえない.

よって,$F$が全射なら$m=\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$であることが必要である.また,

  • $\C$上の線形空間$V_n$の次元は$n+1$
  • $\C$上の線形空間$\C^m$の次元は$m$

だから,$n+1<m$のときは$F$は全射になりえず,$F$が全射であるためには$n+1\ge m$を満たすことが必要である.

逆に,$m=\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$かつ$n+1\ge m$が成り立つとする.任意の$(\gamma_1,\dots,\gamma_m)\in\C^{m}$に対して,

\begin{align*}g(x)=\sum_{i=1}^{m}\gamma_i\prod_{\substack{j=1\\j\neq i}}^{m}\frac{x-\alpha_j}{\alpha_i-\alpha_j}\end{align*}

は$m-1$次の$\C$係数多項式で,$F(g)=(\gamma_1,\dots,\gamma_m)$を満たす.さらに,$m-1\le n$だから$g\in V_n$である.よって,$F$は全射である.

以上より,$F$が全射となるための必要十分条件は$\begin{cases}m=\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}\\n\ge m-1\end{cases}$である.





第3問(複素解析学)

$L_R$($R>0$)は複素平面において$-R+2i$を始点,$R+2i$を終点とする線分を表す.このとき

\begin{align*}\lim_{R\to\infty}\int_{L_R}\frac{\cos{z}}{z^2+1}\,dz\end{align*}

の値を求めよ.

複素積分の極限を求める問題です.

解答の方針とポイント

問題の複素積分の積分経路が実軸上の区間であれば留数定理の典型問題です.よって,問題の積分を実軸上の区間を積分経路とする積分に書き換えましょう.

実軸上の積分の極限

もし問題の積分の積分経路が実軸上の区間$\ell_R:=[-R,R]$であれば,原点中心・半径$R$の上半円$C_R$を用いて

\begin{align*}&\lim_{R\to\infty}\int_{\ell_R}\frac{\cos{z}}{z^2+1}\,dz
\\&=\lim_{R\to\infty}\operatorname{Re}\int_{\ell_R}\frac{e^{iz}}{z^2+1}\,dz
\\&=\lim_{R\to\infty}\operatorname{Re}\bra{\int_{C_R\cup\ell_R}\frac{e^{iz}}{z^2+1}\,dz-\int_{C_R}\frac{e^{iz}}{z^2+1}\,dz}\end{align*}

表せます.

実軸上の線分[-R,R]と,原点中心・半径Rの上半円からなる積分経路
$C_R\cup \ell_R$は閉曲線なので,この経路上の複素積分で留数定理が使えます

さらに,第1項$\int_{C_R\cup\ell_R}\frac{e^{iz}}{z^2+1}\,dz$は留数定理から$R$によらず値が求まり,第2項の極限$\lim\limits_{R\to\infty}\int_{C_R}\frac{e^{iz}}{z^2+1}\,dz$は被積分関数が$O(R^{-2})$($R\to\infty$)の減衰をしているので0に収束します.

よって,問題の極限の積分を$\ell_R$上の積分を使って書き換えることができれば,問の解ける可能性が見えます.

問題の積分の極限を書き換える

被積分関数$\frac{\cos{z}}{z^2+1}$は$\operatorname{Im}z\in[0,2]$の範囲で$|\operatorname{Re}z|\to\infty$とすると一様に0に減衰します.よって,

  • $R+2i$を始点,$R$を終点とする線分を$L_{R+}$
  • $R$を始点,$-R$を終点とする線分を$\ell_R$
  • $-R$を始点,$-R+2i$を終点とする線分を$L_{R-}$

で定め,$\Gamma_R:=L_{R}\cup L_{R+}\cup\ell_R\cup L_{R-}$を考えると,

\begin{align*}\lim_{R\to\infty}\int_{L_R}\frac{\cos{z}}{z^2+1}\,dz=\lim_{R\to\infty}\int_{\Gamma_R}\frac{\cos{z}}{z^2+1}\,dz-\lim_{R\to\infty}\int_{\ell_R}\frac{\cos{z}}{z^2+1}\,dz\end{align*}

が成り立つことが分かりますね.ただし,積分経路の向きは$L_R$の向きに整合するようにとります.

iの周りを1周する経路Γ_R
$L_R$の向きから$\Gamma_R$は負の向き(時計回り)になることに注意

このとき,第1項$\int_{C_R\cup\ell_R}\frac{e^{iz}}{z^2+1}\,dz$はやはり留数定理から$R$によらず値が求まりますね.

解答例

[1]問の極限を実軸上の積分を用いて書き換える.領域$\C\setminus\{\pm i\}$上の正則関数$f$を

\begin{align*}f(z)=\frac{\cos{z}}{z^2+1}=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2(z^2+1)}\end{align*}

で定める.また,$R>1$に対して

  • $R+2i$を始点,$R$を終点とする線分を$L_{R+}$
  • $R$を始点,$-R$を終点とする線分を$\ell_{R}$
  • $-R$を始点,$-R+2i$を終点とする線分を$L_{R-}$

とし,$\Gamma_R:=L_{R}\cup L_{R+}\cup\ell_R\cup L_{R-}$とする.$\Gamma_R$は閉曲線で,$L_R$の向きと整合するように$\Gamma_R$の向きを考えると,$\Gamma_R$は負方向となる.このとき,

\begin{align*}\int_{L_R}\frac{\cos{z}}{z^2+1}\,dz
=\bra{\int_{\Gamma_R}-\int_{L_{R+}}-\int_{\ell_R}-\int_{L_{R-}}}f(z)\,dz\end{align*}

である.閉曲線$\Gamma_R$の内部に存在する$f$の極は$i$のみで,これは1位の極である.よって,留数定理より

\begin{align*}\int_{\Gamma_R}f(z)\,dz
&=-2\pi i\cdot\operatorname{Res}(f,i)
=-\lim_{z\to i}2\pi i\cdot(z-i)f(z)
\\&=-\lim_{z\to i}\frac{2\pi i(e^{iz}+e^{-iz})}{2(z+i)}
=-\frac{2\pi i(e^{-1}+e)}{2\cdot2i}
\\&=-\frac{\pi(e^{-1}+e)}{2}\end{align*}

を得る.また,

\begin{align*}\int_{L_{R+}}f(z)\,dz=\frac{i}{2}\int_{2}^{0}\frac{e^{i(R+ti)}+e^{i(-R-ti)}}{(R+ti)^2+1}\,dt\end{align*}

であり,

\begin{align*}\abs{\frac{e^{i(R+ti)}+e^{i(-R-ti)}}{(R+ti)^2+1}}
&\le\frac{|e^{Ri-t}|+|e^{-Ri+t}|}{|R+ti|^2-1}
=\frac{e^{-t}+e^t}{R^2+t^2-1}
\\&=\frac{2\cosh{t}}{R^2+t^2-1}
\le\frac{2\cosh{2}}{R^2-1}\end{align*}

なので,

\begin{align*}&\abs{\int_{L_{R+}}f(z)\,dz}\le\frac{2\cosh{2}}{R^2-1}\xrightarrow[]{R\to\infty}0\end{align*}

が成り立つ.同様に,

\begin{align*}\abs{\int_{L_{R-}}f(z)\,dz}&=\abs{\frac{i}{2}\int_{0}^{2}\frac{e^{i(-R+ti)}+e^{i(R-ti)}}{(-R+ti)^2+1}\,dt}
\\&\le\frac{1}{2}\int_{0}^{2}\frac{|e^{-Ri-t}|+|e^{Ri+t}|}{|-R+ti|^2-1}\,dt
\\&\le\frac{1}{2}\int_{0}^{2}\frac{2\cosh{2}}{R^2-1}\,dt
\\&=\frac{2\cosh{2}}{R^2-1}\xrightarrow[]{R\to\infty}0\end{align*}

が成り立つ.よって,求める極限は

\begin{align*}-\frac{\pi(e^{-1}+e)}{2}-\lim_{R\to\infty}\int_{\ell_R}f(z)\,dz\end{align*}

に等しい.

[2]極限$\lim\limits_{R\to\infty}\int_{\ell_R}f(z)\,dz$を計算する領域$\C\setminus\{\pm i\}$上の正則関数$g$を

\begin{align*}g(z)=\frac{e^{iz}}{z^2+1}\end{align*}

で定める.また,$R>1$に対して,原点中心・半径$R$の上半円を曲線$C_R$とし,$\gamma_R:=C_R\cup \ell_R$とする.$\gamma_R$は閉曲線で,$\ell_R$の向きと整合するように$\gamma_R$の向きを考えると,$\gamma_R$は負方向となる.

このとき,$z\in\R$なら$f(z)=\operatorname{Re}g(z)$であることから,

\begin{align*}\int_{\ell_R}f(z)\,dz
&=\operatorname{Re}\int_{\ell_R}g(z)\,dz
\\&=\operatorname{Re}\bra{\int_{\gamma_R}g(z)\,dz-\int_{C_R}g(z)\,dz}\end{align*}

である.閉曲線$\gamma_R$の内部に存在する$g$の極は$i$のみで,これは1位の極である.よって,留数定理より

\begin{align*}\int_{\gamma_R}g(z)\,dz
&=-2\pi i\cdot\operatorname{Res}(g,i)
=-\lim_{z\to i}2\pi i\cdot(z-i)g(z)
\\&=-\lim_{z\to i}\frac{2\pi ie^{iz}}{(z+i)}
=-\frac{2\pi ie^{-1}}{2i}
=-\pi e^{-1}\end{align*}

を得る.また,

\begin{align*}\abs{\int_{C_R}g(z)\,dz}
&=\abs{\int_{0}^{\pi}\frac{e^{iRe^{i\theta}}}{(Re^{i\theta})^2+1}(Rie^{i\theta}\,d\theta)}
\\&\le R\int_{0}^{\pi}\frac{e^{-R\sin{\theta}}}{R^2-1}\,d\theta
\\&\le R\int_{0}^{\pi}\frac{1}{R^2-1}\,d\theta
\\&=\frac{\pi R}{R^2-1}\xrightarrow[]{R\to\infty}0\end{align*}

なので,

\begin{align*}\lim_{R\to\infty}\int_{\ell_R}f(z)\,dz=-\pi e^{-1}\end{align*}

が成り立つ.

[1],[2]より,求める極限は

\begin{align*}\lim_{R\to\infty}\int_{L_R}\frac{\cos{z}}{z^2+1}\,dz
&=-\frac{\pi(e^{-1}+e)}{2}-(-\pi e^{-1})
\\&=\frac{\pi(e^{-1}-e)}{2}\end{align*}

である.





第4問(群論)

群$G=(\Z/4\Z)\times(\Z/6\Z)\times(\Z/9\Z)$の指数3の部分群の個数を求めよ.

群$G$を割って位数が3となる部分群の個数を求める問題です.

解答の方針とポイント

分かりやすい群に書き換えて考えましょう.

素数位数を利用する

$H$を$G$の指数3の部分群とします:$|G/H|=3$.素数位数の群については,次の命題が基本的ですね.

$p$を素数とする.位数$p$の任意の群は$\Z/p\Z$に同型である.

この命題より$G/H\cong\Z/3\Z$が成り立ち,$G$の任意の元の3倍は$H$に属することが分かります.よって,同型定理より

\begin{align*}(G/3G)/(H/3G)\cong G/H\end{align*}

が成り立つので,$G$の指数3の部分群と,$G/3G$の指数3の部分群は全単射に対応します.これより,$G/3G$の指数3の部分群の個数を求めることに帰着しますね.

$G/3G\cong(\Z/3\Z)\times(\Z/3\Z)$の指数3の部分群

$3G=\Z/4\Z\times\{0,3\}\times\{0,3,6\}$なので$G/3G\cong(\Z/3\Z)\times(\Z/3\Z)$ですから,$(\Z/3\Z)\times(\Z/3\Z)$の指数3の部分群の個数を求めれば良いですね.

よって,$(\Z/3\Z)\times(\Z/3\Z)$の指数3の部分群の位数は$|(\Z/3\Z)\times(\Z/3\Z)|/3=3$です.この部分群は$\Z/3\Z$に同型なので巡回群ですから,$(0,0)$でない各元が生成する部分群を考えて,指数3の部分群は

\begin{align*}\anb{(1,0)},\quad\anb{(0,1)},\quad\anb{(1,1)},\quad\anb{(1,2)}\end{align*}

の4個が得られます.

解答例

任意の$n\in\{2,3,\dots\}$に対して$\Z_n:=\Z/n\Z$と表す.$G$は可換群なので,任意の部分群が正規であることに注意する.

[1]$G$の指数3の部分群と,$G/3G$の指数3の部分群が全単射に対応することを示す.

$G$の指数3の部分群$H$を任意にとる.$|G/H|=3$は素数3なので$G/H\cong \Z_3$だから,$g\in G$なら$3g+H=3(g+H)=H$なので$3g\in H$が成り立つ.よって,$3G:=\set{3g\in G}{g\in G}\subset H$なので,同型定理より

\begin{align*}(G/3G)/(H/3G)\cong G/H\end{align*}

が成り立ち,$H/3G$は$G/3G$の指数3の部分群と分かる.

一方,$G/3G$の部分群は$3G\subset H$を満たす$G$の部分群$H$を用いて$H/3G$と表すことができる.$H/3G$が$G/3G$の指数3の部分群なら,再び同型定理より

\begin{align*}(G/3G)/(H/3G)\cong G/H\end{align*}

が成り立ち,$H$は$G$の指数3の部分群と分かる.

よって,$G$の指数3の部分群と,$G/3G$の指数3の部分群が全単射に対応する.

[2]$G/3G$の指数3の部分群の個数を求める.

自然な準同型$\phi:G\to\{0\}\times\Z_3\times\Z_3$は

\begin{align*}&\operatorname{Im}\phi=\{0\}\times\Z_3\times\Z_3,
\\&\operatorname{Ker}\phi=\Z_4\times\{0,3\}\times\{0,3,6\}=3G\end{align*}

を満たすから,準同型定理により$G/3G\cong\Z_3\times\Z_3$である.よって,$\Z_3\times\Z_3$の指数3の部分群の個数を求めればよく,$\Z_3\times\Z_3$の指数3の部分群の位数は$|\Z_3\times\Z_3|/3=3$である.

任意の$x\in\Z_3\times\Z_3\setminus\{(0,0)\}$に対して,$2x\neq(0,0)$, $3x=(0,0)$だから,$x$により生成される部分群$\anb{x}=\{(0,0),x,2x\}$の位数は3である.また,$\anb{x}=\anb{y}$となる$y\in\Z_3\times\Z_3\setminus\{(0,0)\}$は$y=2x$に限る.

したがって,求める個数は

\begin{align*}\frac{\abs{\Z_3\times\Z_3\setminus\{(0,0)\}}}{2}=\frac{3^2-1}{2}=4\end{align*}

である.





第5問(微分幾何学)

$f:S^2\to S^1$を$C^{\infty}$級写像とする.ただし,$S^n$は$n$次元球面

\begin{align*}\set{(x_0,\dots,x_n)\in\R^{n+1}}{\dsum_{i=0}^{n}x_i^2=1}\end{align*}

を表す.このとき,$S^2$上の少なくとも2点において$f$の微分は零写像になることを示せ.

写像$f$の臨界点の存在を示す問題です.

解答の方針とポイント

直観的には,$f$は球面$S^2$を円周$S^1$になめらかに貼り付ける写像なので,$S^2$は$S^1$上のどこかで折り返すことになり,そこで$f$の微分は零写像となりそうですね.

$S^1$の普遍被覆と$S^2$の持ち上げ

問題の$f:S^2\to S^1$のまま考えるのでは扱いが難しいですが,$f$の持ち上げ$F:S^2\to\R$を考えるとラクになります.

位相空間$X$, $Y$に対して,全射$\pi:X\to Y$が被覆写像であるとは,任意の$y\in Y$に対して,ある$Y$の開集合$U$が存在して,以下が成り立つことをいう:$X$のある互いに素な開集合の族$\{V_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$が存在して,

  • $\pi^{-1}(U)=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} V_\lambda$
  • $\pi|_{V_\lambda}:V_\lambda\to U$は同相写像

が成り立つ.

被覆写像の典型例としては,写像

\begin{align*}p:\R\to S^1;x\longmapsto(\cos{2\pi x},\sin{2\pi x})\end{align*}

が挙げられます.

被覆写像$p:X\to Y$と連続写像$f:Z\to Y$に対して,$Z$が単連結なら,ある$F:Z\to X$が存在して$p\circ F=f$が成り立つ.このときの$F$を$f$の$p$による持ち上げ(リフト)という.

より一般に持ち上げが存在するための条件は基本群を用いて表せます.

上の被覆写像$p:\R\to S^1$に対して,連続写像$f:S^2\to S^1$の持ち上げ$F:S^2\to\R$が存在し,$F$はコンパクト集合上の連続関数なので最大値・最小値を持ちます.この最大点・最小点が$f$の停留点となっていそうですね.

$f$の臨界点

$f$は多様体間の写像なので,$f$の$x\in S^2$での微分が零写像になることは,$x$が$f$の臨界点であるということに他なりません.よって,$F$の最大点$a$と最小点$b$での$f$のヤコビ行列が零行列であることを示せばよいですね.

合成写像の微分公式より,$f$の$x\in S^2$でのヤコビ行列は

\begin{align*}Jf_x=Jp_{F(x)}JF_x\end{align*}

であり,$JF_a=[0,0]$, $JF_b=[0,0]$なので,$Jf_a=Jf_b=0$が成り立ちますね.

解答例

$f$が定値写像なら,任意の$p\in S^2$に対して$df_p=0$となるので成り立つ.以下,$f$は定値写像でないとする.

$S^2$は単連結だから,被覆写像$p:\R\to S^1;x\longmapsto(\cos{2\pi x},\sin{2\pi x})$に対して,$f$の持ち上げ$F:S^2\to\R$が存在する:$p\circ F=f$.被覆写像$p$は局所$C^{\infty}$級微分同相で,$f$が$C^{\infty}$級であることより$F$も$C^{\infty}$級である.

$F$は連続で$S^2$はコンパクトだから,$F(S^2)$は最大値$M$,最小値$m$をもつ.$a\in F^{-1}(M)$, $b\in F^{-1}(m)$をとる.$f$は定値写像でないから$F^{-1}(M)\cap F^{-1}(m)=\emptyset$なので$a\neq b$である.

$a\in S^2$の座標近傍$(U,\phi)$をひとつとり,この座標を$(u,v)$と表す.$M=F(a)=F\circ\phi^{-1}(\phi(a))$が最大値だから,$F$の$a\in S^2$での$(U,\phi)$に関するヤコビ行列$JF_a$は

\begin{align*}JF_a
=\brc{\pd{(F\circ\phi^{-1})}{u}(\phi(a)),\pd{(F\circ\phi^{-1})}{v}(\phi(a))}
=[0,0]\end{align*}

である.$f=p\circ F$だから$f$の$a\in S^2$での$(U,\phi)$に関するヤコビ行列は

\begin{align*}Jf_a=Jp_{F(a)}JF_a=0\end{align*}

である.$b\in S^2$でも同様にして,$b\in S^2$の座標近傍をひとつとると$JF_b=[0,0]$が従う.以上より,$S^2$上の少なくとも2点$a$, $b$において$f$の微分は零写像になる.





第6問(微分方程式)

$a$は0でない実数,$p(t)$は$\R$上の連続な周期関数で周期$T$($T>0$)をもつとする.このとき常微分方程式

\begin{align*}\frac{d}{dt}x(t)=ax(t)+p(t)\end{align*}

の解$x(t)$で,周期$T$をもつ周期関数となるものが唯一つ存在することを示せ.

常微分方程式が周期関数解をもつことを示す問題です.

解答の方針とポイント

問題の常微分方程式は1階線形なので,両辺に$e^{-at}$をかけて

\begin{align*}&e^{-at}\frac{dx}{dt}(t)-ae^{-at}x(t)=e^{-at}p(t)
\\&\iff(e^{-at}x(t))’=e^{-at}p(t)
\\&\iff x(t)=e^{at}x(0)+e^{at}\int_{0}^{t}e^{-as}p(s)\,ds\end{align*}

と解けます.よって,この解が周期$T$の周期関数となるには

\begin{align*}x(0)=x(T)
\iff x(0)=\frac{e^{aT}}{1-e^{aT}}\int_{0}^{T}e^{-as}p(s)\,ds\end{align*}

が成り立つことが必要で,逆にこの条件を満たしていれば解が周期$T$の周期関数であることが従います.

解答例

常微分方程式は

\begin{align*}&\frac{dx}{dt}(t)=ax(t)+p(t)
\\&\iff e^{-at}\frac{dx}{dt}(t)-ae^{-at}x(t)=e^{-at}p(t)
\\&\iff(e^{-at}x(t))’=e^{-at}p(t)
\\&\iff e^{-at}x(t)=x(0)+\int_{0}^{t}e^{-as}p(s)\,ds
\\&\iff x(t)=e^{at}x(0)+\int_{0}^{t}e^{a(t-s)}p(s)\,ds\end{align*}

と解け,この最後の等式の右辺は$\R$上で定義できるから,任意の$x_0\in\R$に対して,初期条件$x(0)=x_0$を満たす解が一意に存在する.

この解が周期$T$の周期関数となるには

\begin{align*}x(0)=x(T)
&\iff x_0=e^{aT}x_0+\int_{0}^{T}e^{a(T-s)}p(s)\,ds
\\&\iff x_0=\frac{1}{1-e^{aT}}\int_{0}^{T}e^{a(T-s)}p(s)\,ds\end{align*}

が成り立ち,初期値$x_0$が唯一つに定まる.ただし,$a\neq0$, $T>0$より$e^{aT}\neq1$に注意.逆にこのとき任意の$t\in\R$に対して

\begin{align*}e^{a(t+T)}x(0)-e^{at}x(0)
&=e^{at}(e^{aT}-1)x(0)
\\&=-e^{at}\int_{0}^{T}e^{a(T-s)}p(s)\,ds
\\&=-\int_{0}^{T}e^{a(t+T-s)}p(s)\,ds\end{align*}

なので,

\begin{align*}x(t+T)
&=e^{a(t+T)}x(0)+\int_{0}^{t+T}e^{a(t+T-s)}p(s)\,ds
\\&=e^{at}x(0)-\int_{0}^{T}e^{a(t+T-s)}p(s)\,ds+\int_{0}^{t+T}e^{a(t+T-s)}p(s)\,ds
\\&=e^{at}x(0)+\int_{T}^{t+T}e^{a(t+T-s)}p(s)\,ds
\\&=e^{at}x(0)+\int_{0}^{t}e^{a(t-s)}p(s+T)\,ds
\\&=e^{at}x(0)+\int_{0}^{t}e^{a(t-s)}p(s)\,ds
\\&=x(t)\end{align*}

が成り立つ.すなわち,$x$は周期$T$の周期関数である.

以上より,周期$T$の周期関数解が唯一つ存在する.





第7問(線形代数学)

$n$を正の整数とし,$n$次実正方行列$A=(a_{ij})_{1\le i,j\le n}$において,不等式

\begin{align*}|a_{ii}|>\sum_{\substack{1\le j\le n\\j\neq i}}|a_{ij}|\end{align*}

がすべての$i=1,\dots,n$に対して成立しているとする.ただし,右辺の和は1から$n$までの整数$j$で$i$以外のものにわたる.このとき,$A$は正則であることを示せ.

成分に関する不等式を満たす正方行列が正則行列であることを示す問題です.

解答の方針とポイント

正方行列が正則であるための必要十分条件はいろいろ知られているので,一つの方法にこだわらず解答に使いやすい条件で解くことが大切です.連立1次方程式$A\m{x}=\m{0}$の第$i$成分は

\begin{align*}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}x_j=0,\quad\m{x}=\sbmat{x_1\\\vdots\\x_n}\end{align*}

となって,条件の不等式が使えそうですね.よって,本問題では斉次連立1次方程式を用いた正則条件が使えそうです.

正方行列$A$に対して,次は同値である.

  • $A$は正則行列
  • 連立1次方程式$A\m{x}=\m{0}$は自明解のみもつ

もし$A$が正則でなければ,ある$\m{p}=\sbmat{p_1\\\vdots\\p_n}\in\R^n\setminus\{\m{0}\}$が存在して$A\m{p}=\m{0}$が成り立ちます.任意の$i\in\{1,2,\dots,n\}$に対して

\begin{align*}|a_{ii}p_i|\le\sum_{\substack{1\le j\le n\\j\neq i}}|a_{ij}||p_j|\end{align*}

となるので,条件の不等式を使おうと思うと右辺の$|p_j|$が$j$によらないように評価すればよく,$|p_k|=\max\limits_{i\in\{1,2,\dots,n\}}|p_i|$とすると

\begin{align*}|a_{ii}p_i|\le|p_k|\sum_{\substack{1\le j\le n\\j\neq i}}|a_{ij}|<|a_{ii}p_k|\end{align*}

が成り立ちます.しかし,この不等式は$i=k$のときには成り立ちませんから矛盾ですね.

解答例

$A$は正則でないと仮定する.このとき,ある$\m{p}=\sbmat{p_1\\\vdots\\p_n}\in\R^n\setminus\{\m{0}\}$が存在して$A\m{p}=\m{0}$が成り立つ.$\{|p_1|,|p_2|,\dots,|p_n|\}$は有限集合なので,ある$k\in\{1,2,\dots,n\}$が存在して,

\begin{align*}|p_k|=\max\{|p_1|,|p_2|,\dots,|p_n|\}\end{align*}

が成り立つ.このとき,$A\m{p}=\m{0}$の第$k$成分より

\begin{align*}\sum_{j=1}^{n}a_{kj}p_j=0
\iff\sum_{\substack{1\le j\le n\\j\neq k}}a_{kj}p_j=-a_{kk}p_k\end{align*}

が成り立つので,

\begin{align*}|a_{kk}p_k|&=\biggl|\sum_{\substack{1\le j\le n\\j\neq k}}a_{kj}p_j\biggr|\le\sum_{\substack{1\le j\le n\\j\neq k}}|a_{kj}||p_j|
\\&\le|p_k|\sum_{\substack{1\le j\le n\\j\neq k}}|a_{kj}|
<|p_k||a_{kk}|\end{align*}

が成り立つ.ただし,最後の不等号は$|p_k|>0$に注意.$|a_{kk}p_k|=|p_k||a_{kk}|$だからこれは矛盾なので,仮定は誤りで$A$は正則である.

参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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