のとき
が同型であることはよく知られています(はのヘルダー共役).
この同型について,任意のに対して
が成り立ち,これを双対性といいます.空間でも同様に双対性が成り立ち,これらの双対性を用いる論法を双対性議論(duality argument)などといいます.
この記事では複素数値関数に対する双対性,双対性を示します..
この記事では
を順に解説します.
準備(定義関数)
本題に入る前に定義関数とヘルダーの不等式を準備しておきます.
定義関数
[定義関数]集合とその部分集合に対して
で定まる写像を上の定義関数であるという.
この記事ではに対して,上の定義関数をと表します:
ヘルダーの不等式
双対性の証明のベースとなるのはヘルダーの不等式です.
[ヘルダーの不等式]を可測集合とし,はを満たすとする.このとき,上のルベーグ可測関数に対して,不等式
が成り立つ.
実は実数値関数に対する双対性()はヘルダーの不等式から簡単に証明でき,実際にの場合は以下の記事で証明しています.

ヘルダーの不等式の証明・応用|ルベーグ積分の基本不等式
ルベーグ積分(測度論)を扱う分野では「ヘルダーの不等式」は基本的な不等式のひとつとして重要です.この記事では,ヘルダーの不等式の証明と,ヘルダーの不等式の応用(双対性)を説明します.
また,のときはとなり,とくに性質を使うまでもなく
が得られ,この場合も含めてヘルダーの不等式ということもあります.以下,このの場合も含めてヘルダーの不等式といいます.
空間の双対性議論
この記事では複素数値関数に対する双対性を示しましょう.
ルベーグ空間
まずはルベーグ空間の定義を確認します.
[ルベーグ空間]をルベーグ可測集合とし,とする.このとき,ノルム
を備えた複素数値ルベーグ可測関数全部の空間をルベーグ空間といいと表す.

ルベーグ空間(Lᵖ空間)|ルベーグ積分に関するノルム・内積
測度空間Xに対して,Xでp乗可積分な関数の(商)空間をLᵖ(X)と表します.この記事ではLᵖ(X)の正確な定義を説明し,LᵖノルムによってLᵖ(X)がノルム空間・内積空間となることを解説します.

本質的有界な関数のルベーグ空間L^∞|ノルム空間として定義
(適切な同一視のもとで)本質的有界な可測関数全部の集合L^∞はバナッハ空間(完備なノルム空間)となります.この空間L^∞を「ルベーグ空間」と言います.
空間の双対性
[双対性]をルベーグ可測集合とし,とする.このとき,任意のに対して,
が成り立つ.ただし,はのヘルダー共役である:
ヘルダーの不等式より,任意のに対して,
だから,あとは逆向きの不等式を示せばよい.
の場合の証明
のときはなので,である.任意にをとる.をルベーグ測度とする.
本質的有界性の定義より,あるルベーグ可測集合でを満たすものが存在して
が成り立つ.このとき,を
で定めると
だから
となって,の任意性からが従う.
のとき,である.
とし,をで定める.このとき,
だから
が従う.
空間の双対性
次に,空間の双対性を説明します.
空間
まずは空間を定義します.
[空間] に対して,を開集合とし,とする.このとき,ノルム
が有限なLebesgue可測な関数全部の空間をやなどと表す.
この空間は,例えば時間発展する非線形偏微分方程式で
である場合などに用います.

シュレディンガー方程式の分散性|基本解のLpLq評価の導出
シュレディンガー方程式の基本解に関してLpLq評価という基本的な不等式があります.LpLq評価はシュレディンガー方程式を考える上で重要なストリッカーツ評価のベースとなります.
空間の双対性
空間の双対性と同様に,空間について以下が成り立つ.
[空間の双対性] に対して,を開集合とし,とする.このとき,任意のに対して,
が成り立つ.ただし,はのHölder共役である().
とする.Hölderの不等式より,任意のに対して,
だから,あとは
を示せば[空間の双対性]が従う.これを
に分けて証明する.
[1] のとき,である.
任意の, に対して,ある可測集合でを満たすものが存在して,が成り立つなら
が成り立つ.このとき,を
で定めると
だから
となって,の任意性からが従う.
[2] のとき,である.
任意のに対して,ある可測集合でを満たすものが存在して,が成り立つとき,
が成り立つ.このとき,とし,を
で定めると
だから
となって,の任意性からが従う.
[3] のとき,である.
とし,を
で定めると
である.すなわちだから
が従う.
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