関数空間の補間定理として,[Marcinkiewicz(マルチンキーヴィッツ)の実補間定理]がある.
定義はのちに述べるが,作用素の有界性には,(普通の)
有界性と弱
有界性がある.言葉からも分かるように,作用素
が
有界であれば,弱
有界である.
[Marcinkiewiczの実補間定理]は,ある種の三角不等式を満たす作用素が弱
有界性と弱
有界性(
)をもつとき,任意の
に対して作用素
が
有界性をもつことを保証する定理である.
つまり,両端と
で弱有界であれば,その間で
有界となる.「両端は弱でよい」というのが[Marcinkiewiczの実補間定理]の優れた点である.
また,非線形作用素にも適用できる点も優れている.
なお,Marcinkiewiczは様々な発音で読まれるが,「マルチンキェーヴィツ」がMarcinkiewiczの正確な発音に近いようである.
【参考記事:リース-ソリンの複素補間定理】
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Lp有界性と弱Lp有界性
まず,有界性を定義する.
を測度空間とする.
に対して,
上の作用素
が
有界であるとは,次を満たすことをいう:
なお,一般に集合上の作用素
とは,
のことをいう.
次に,上位集合(優位集合)と分布関数を定義する.
を測度空間とする.
上の実数値または複素数値関数
と
に対して,
を上位集合(優位集合,superlevel set)という.また,次で定まる関数を分布関数という:
測度空間としては,
,
は
のLebesugue集合やBorel集合,
をLebesgue測度として考えれば良い.また,定義から容易に分かるように,
であることにも注意する.
この分布関数を用いて,弱有界性を定義する.
を測度空間とする.
に対して,
上の作用素
が弱
有界であるとは,次を満たすことをいう:
冒頭でも述べたように,作用素が
有界であれば,弱
有界である.
実際,作用素が
有界であれば,ある
が存在して
をみたす.
有界作用素
は,任意の
に対して,
を満たす.したがって,作用素は弱
有界作用素である.
この意味で,弱有界性ではないことを強調して,
有界性を「強
有界性」と言うこともある.
なお,ここでは本質的に[Chebyshevの不等式]を用いている.
[Chebyshevの不等式] を測度空間とする.任意の
に対して,次の不等式が成り立つ.
Marcinkiewiczの実補間定理
この節では,Marcinkiewiczの実補間定理の主張とその証明を述べる.
補題
準備として,まずは補題を示す.
を測度空間とする.任意の
に対して,
が成り立つ.また,に対して,
であるとき,
が成り立つ.
[証明]
補題の前半は,
となって従う.
補題の後半は,が
をみたすとき
により
だから,前半の等式の右辺の積分範囲が
になることが分かる.
[証明終]
Marcinkiewiczの実補間定理とその証明
今示した補題により,[Marcinkiewiczの実補間定理]を示す.
[Marcinkiewiczの実補間定理] を測度空間とする.
とする.次の1〜3を満たす
上の作用素
を考える.
の任意の分解
に対して,
上ほとんど至るところで
が成り立つ.
は弱
有界である.
-
のとき,
は弱
有界である.
のとき,ある
が存在して,任意の
に対して,
上ほとんど至るところで
が成り立つ.
このとき,任意のに対して,
は
有界作用素に拡張できる.
[証明]
のときと,
のときで分けて証明する.
Step.1
のときを示す.
任意のに対して,
とする. から
なので,
である.ここに,は
のHölder共役である.また,
だから,
だから,が成り立つ.
したがって,仮定1から かつ
であれば,
をみたす.この対偶を考えて,
なら
または
が成り立つ.
したがって,補題と仮定2,3より
である.ただし,は適当な定数であり,一定とは限らない(以下同様).よって,
が従う.
Step.2
のときを示す.
任意のに対して,
とする.
[1]と同様に,だから,1から
だから,が成り立つ.
したがって,補題4.1と仮定2,3より
である.よって,
が従う.
[証明終]
参考文献
以下は参考文献である.
- 「非線形発展方程式の実解析的方法」(小川卓克 著,丸善出版(シュプリンガー現代数学シリーズ))
- “Introduction to Nonlinear Dispersive Equations”(Felipe Linares, Gustavo Ponce 著,Springer)
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