2022年度|京都大学院試|数学・数理解析専攻|専門科目

京都大学|大学院入試
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2022年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻の大学院入試問題の「専門科目」の解答の方針と解答です.

ただし,公式に採点基準などは発表されていないため,本稿の解答が必ずしも正解になるとは限りません.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は京都大学のホームページから入手できます.

過去の入試問題 | Department of Mathematics Kyoto University

問題

問題は12問あり,数学系志願者は問1~問10から選択して2問を,数理解析系志願者は問1〜問12から選択して2問を解答します.試験時間は3時間です.

この記事では問6〜問8を掲載しています.

問6

$\mu$を$[0,\infty)$上のBorel測度とする.$f$は$[0,\infty)$上の関数で一様連続かつ非負値とし,

    \begin{align*} \int_{[0,\infty)}e^{f(x)}\,\mu(dx) \end{align*}

を満たすと仮定する.

このとき,極限

    \begin{align*} \lim_{n\to\infty}\int_{[0,\infty)}\bra{1+\int_{0}^{1/n}f(x+t)\,dt}^{n}\,\mu(dx) \end{align*}

を求めよ.

$f$が一様連続であることから,十分大きい$n$に対して一様に

    \begin{align*} \int_{0}^{1/n}f(x+t)\,dt \approx\int_{0}^{1/n}f(x)\,dt =\frac{1}{n}f(x) \end{align*}

と近似できます.そのため,極限$\lim\limits_{n\to\infty}$と積分$\dint_{[0,\infty)}$の順序交換ができれば,

    \begin{align*} &\lim_{n\to\infty}\int_{[0,\infty)}\bra{1+\int_{0}^{1/n}f(x+t)\,dt}^{n}\,\mu(dx) \\=&\int_{[0,\infty)}\lim_{n\to\infty}\bra{1+\frac{1}{n}f(x)}^{n}\,\mu(dx) \\=&\int_{[0,\infty)}e^{f(x)}\,\mu(dx) \end{align*}

となることが予想できます.以上を$f$の一様連続性をきちんと用いて正当化すれば良いですね.

問7

区間$I=(0,1)$に対し,$L^{2}(I)$を$I$上の$2$乗可積分複素数値関数全体の空間とし,

    \begin{align*}(f,g):=\int_{I}f(x)\overline{g(x)}\,dx,\quad \|f\|_{2}:=\sqrt{(f,f)},\quad \|f\|_{1}:=\int_{I}|f(x)|\,dx\end{align*}

とする.このとき,以下の問に答えよ.

(1) $L^{2}(I)$の列$\{f_{n}\}_{n=1}^{\infty}$が

    \begin{align*}\|f\|_{1}\longrightarrow0,\qquad \|f\|_{2}=1\ (n\ge1)\end{align*}

を満たすとき,$\{f_{n}\}_{n=1}^{\infty}$は$0$に$L^{2}(I)$で弱収束することを示せ.

(2) $T:L^{2}(I)\to L^{2}(I)$がコンパクト作用素であるとき,

    \begin{align*}\forall\varepsilon>0,\ \exists C_{\varepsilon}>0;\ \forall f\in L^{2}(I),\ \|Tf\|_{2}\le\varepsilon\|f\|_{2}+C_{\varepsilon}\|f\|_{1}\end{align*}

を示せ.

(1) 定義より任意の$g\in L^2(I)$に対して$(f_n,g)\to0$を示せばよいのですが,単純に$g\in L^2(I)$に対して単純にSchwartzの不等式を用いても$n\to\infty$での減衰は得られません.

そこで,$C^{\infty}_{0}$が$L^2(I)$で稠密であることから$\|g-h\|_2$はいくらでも小さく$g\in C^{\infty}_{0}$をとることができます.

この$h$は有界なので,$|(f_n,h)|\le\|f_n\|_{1}\|g\|_{\infty}\to0$が成り立ちます.

(2) $\|Tf\|_2\le\varepsilon\|f\|_2$なる$f\in L^2(I)$に対しては例えば$C_{\varepsilon}=1$と取れる($C_{\varepsilon}$は任意の正数でよい)ことはすぐに分かるので,問題は$\|Tf\|_2>\varepsilon\|f\|_2$なる$f\in L^2(I)$に対して一様に$C_{\varepsilon}$がとれるかですね.

    \begin{align*} \|Tf\|_{2}\le\varepsilon\|f\|_2+\|T\|\|f\|_2 \end{align*}

となるので,$\|Tf\|_2\le\varepsilon\|f\|_2$のもとで$\|f\|_2/\|f\|_1$が有界であることを示せばよいですね.この途中で$T$のコンパクト性と(1)を用います.

問8

$n$を2以上の整数,$\Omega=\{x\in\R^{n}:|x|<1\}$とし,$\overline{\Omega}$をその閉包とする.$C^{2}(\overline{\Omega})$を$\Omega$上$C^{2}$級かつ$2$階までの各偏導関数が$\overline{\Omega}$上の連続関数に拡張できるような実数値関数全体の集合とする.$f\in C^{2}(\overline{\Omega})$とする.各$\varepsilon>0$に対し,$u_{\varepsilon}\in C^{2}(\overline{\Omega})$を方程式

    \begin{align*} -\varepsilon\Delta{u_{\varepsilon}}+u_{\varepsilon}=f,&\qquad x\in\Omega, \\u_{\varepsilon}=0,&\qquad x\in\partial\Omega \end{align*}

の解とする.ただし,$\Delta=\sum_{i=1}^{n}\ppd{}{x_{i}}$である.このとき,以下の問に答えよ.

(i) $\varepsilon$に依存しないある$C_{1},C_{2}>0$が存在して

    \begin{align*} \sqrt{\varepsilon}\|\nabla u_{\varepsilon}\|_{L^{2}(\Omega)}\le C_{1}\|f\|_{L^{2}(\Omega)}, \qquad\varepsilon\|\Delta u_{\varepsilon}\|_{L^{2}(\Omega)}\le C_{2}\|f\|_{L^{2}(\Omega)} \end{align*}

(ii) $\lim\limits_{\varepsilon\downarrow0}\|u_{\varepsilon}-f\|_{L^{2}(\Omega)}=0$を示せ.

一般に区分的$C^1$級の境界をもつ有界領域$\Omega\subset\R^d$に対して,その閉包$\overline{\Omega}$上の$C^1$級関数$f$と$C^2$級関数$g$は部分積分(Greenの第一恒等式)

    \begin{align*} \int_{\Omega}(f(x)\Delta{g}(x)+\nabla{f}(x)\cdot\nabla{g}(x))\,dx =\int_{\partial\Omega}f(x)(\nabla{g}(x)\cdot\m{n})\,ds \end{align*}

を満たします.ただし,$\m{n}$は$\Omega$の境界$\partial\Omega$での外向き単位法線ベクトルです.

とくに境界$\partial\Omega$上で$f=0$または$\nabla{g}=0$であれば右辺が$0$なので,

    \begin{align*} \int_{\Omega}f(x)\Delta{g}(x)\,dx=-\int_{\Omega}\nabla{f}(x)\cdot\nabla{g}(x)\,dx \end{align*}

となります.さらに$f=g$なら

    \begin{align*} \int_{\Omega}f(x)\Delta{f}(x)\,dx=-\|\nabla{f}\|_{L^2(\Omega)}^2 \end{align*}

となりますね.この部分積分と$2$階線形楕円型方程式$-\varepsilon\Delta{u_{\varepsilon}}+u_{\varepsilon}=f$をうまく組み合わせて評価式を導出します.

参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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