2016年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻 数学系の大学院入試問題の「基礎科目I」の解答の方針と解答です.
問題は4問あり,全4問を解答します.試験時間は2時間です.この記事では,問4まで解答例を掲載しています.
ただし,公式に採点基準などは発表されていないため,本稿の解答が必ずしも正解になるとは限りません.ご注意ください.
また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.
なお,過去問は京都大学の数学教室の過去問題のページから入手できます.
第1問(線形代数学)
線形写像$f:\R^4\to\R^3$を行列
\begin{align*}A=\pmat{2&1&1&0\\4&0&2&1\\2&-1&1&2}\end{align*}
を用いて$f(x)=Ax$($x\in\R^4$)として定める.$V$を3つのベクトル
\begin{align*}\pmat{1\\2\\-2\\-4},\quad
\pmat{0\\-2\\1\\3},\quad
\pmat{1\\1\\0\\-4}\end{align*}
が張る$\R^4$の部分空間としたとき,$f$の$V$への制限$g=f|_V:V\to\R^3$の階数を求めよ.ただし,$g$の階数とは,$g(V)$の次元のことである.
$\R^4$の部分空間$V$上で定義された線形写像$g$の像$g(V)=\operatorname{Im}g$の次元を求める問題ですね.
解答の方針とポイント
$V\subset\R^4$の元は
\begin{align*}x\sbmat{1\\2\\-2\\-4}+y\sbmat{0\\-2\\1\\3}+z\sbmat{1\\1\\0\\-4}\quad(x,y,z\in\R)\end{align*}
と表せますから,$f$の線形性より
\begin{align*}g(V)=\set{xf\bra{\sbmat{1\\2\\-2\\-4}}+yf\bra{\sbmat{0\\-2\\1\\3}}+zf\bra{\sbmat{1\\1\\0\\-4}}}{x,y,z\in\R}\end{align*}
となりますね.よって,$f\bra{\sbmat{1\\2\\-2\\-4}}$, $f\bra{\sbmat{0\\-2\\1\\3}}$, $f\bra{\sbmat{1\\1\\0\\-4}}$が生成する部分空間の次元を求めればよいですね.
解答例
与えられた$V$の3つのベクトルを
\begin{align*}\m{a}:=\bmat{1\\2\\-2\\-4},\quad
\m{b}:=\bmat{0\\-2\\1\\3},\quad
\m{c}:=\bmat{1\\1\\0\\-4}\end{align*}
とおく.任意の$V$の元は$x\m{a}+y\m{b}+z\m{c}$と表されるから,$f$の線形性より$g(V)$の元は
\begin{align*}xf(\m{a})+yf(\m{b})+zf(\m{c})\end{align*}
と表される($x,y,z\in\R$).よって,$g(V)=\operatorname{span}(f(\m{a}),f(\m{b}),f(\m{c}))$である.
\begin{align*}&f(\m{a})=\bmat{2&1&1&0\\4&0&2&1\\2&-1&1&2}\bmat{1\\2\\-2\\-4}=\bmat{2\\-4\\-10},
\\&f(\m{b})=\bmat{2&1&1&0\\4&0&2&1\\2&-1&1&2}\bmat{0\\-2\\1\\3}=\bmat{-1\\5\\9},
\\&f(\m{c})=\bmat{2&1&1&0\\4&0&2&1\\2&-1&1&2}\bmat{1\\1\\0\\-4}=\bmat{3\\0\\-7}\end{align*}
であり,行基本変形により
\begin{align*}&[f(\m{a}),f(\m{b}),f(\m{c})]
\to\bmat{2&-1&3\\-4&5&0\\-10&9&-7}
\\&\to\bmat{2&-1&3\\0&3&6\\0&4&8}
\to\bmat{2&0&5\\0&1&2\\0&0&0}\end{align*}
と変形できる.よって,$g$の階数は$\dim{g(V)}=2$である.
第2問(線形代数学)
正方行列$A$が対角化可能である$a\in\R$の条件を求める問題ですね.
解答の方針とポイント
正方行列の固有値は固有方程式を解くことで得られます.
複素正方行列$A$と$\lambda\in\C$に対して,次は同値である.
- $\lambda$は$A$の固有値である
- $\lambda$は固有方程式$|xI-A|=0$の解である
また,固有値$\lambda$が固有方程式の$k$重解であるとき,固有値$\lambda$の重複度は$k$であるという.
一般に正方行列$A$が対角化可能であるための必要十分条件は,$A$の各固有値に対して,重複度と固有空間の次元が一致すること(重複度と同じ個数の線形独立な固有ベクトルが存在すること)でした.
よって,固有方程式を解いて固有値とその重複度が全て求まれば,あとは各固有値$\lambda$について固有空間
\begin{align*}W_A(\lambda)=\set{\m{p}\in\C^3}{A\m{p}=\lambda\m{p}}\end{align*}
の次元を求め,これが$\lambda$の重複度に等しいとき対角化可能になるわけですね.
解答例
(1)の解答
$I$を3次単位行列とする.
\begin{align*}|xI-A|
&=\vmat{x-a&-1&-2\\0&x-1&0\\2&0&x}
\\&=(x-a)(x-1)x+4(x-1)
\\&=(x-1)\bra{x^2-ax+4}
\\&=(x-1)(x-\alpha)(x-\beta)\end{align*}
である.よって,
\begin{align*}\alpha:=\frac{a+\sqrt{a^2-16}}{2},\quad
\beta:=\frac{a-\sqrt{a^2-16}}{2}\end{align*}
とおくと,$A$の固有値は1, $\alpha$, $\beta$である.
(2)の解答
$\alpha$, $\beta$を(1)で定めたものとする.
[1]1, $\alpha$, $\beta$がすべて異なるとき,すなわち
\begin{align*}\begin{cases}1\neq\alpha\\1\neq\beta\\\alpha\neq\beta\end{cases}
&\iff\begin{cases}2-a\neq\sqrt{a^2-16}\\2-a\neq-\sqrt{a^2-16}\\a^2-16\neq0\end{cases}
\\&\iff\begin{cases}(2-a)^2\neq a^2-16\\a^2\neq16\end{cases}
\\&\iff\begin{cases}a\neq5\\a\neq\pm4\end{cases}
\iff a\neq5,\pm4\end{align*}
のとき,$A$の固有値の重複度は全て1だから$A$は対角化可能である.
[2]$a=5$のとき,$\alpha=4$, $\beta=1$である.行基本変形により
\begin{align*}&I-A\to\bmat{1-5&-1&-2\\0&1-1&0\\2&0&1}
\\&\to\bmat{-4&-1&-2\\0&0&0\\2&0&1}\to\bmat{2&0&1\\0&1&0\\0&0&0}\end{align*}
だから,固有値1に関する固有空間の次元は$3-\operatorname{rank}(I-A)=1$である.一方,固有値1の重複度は2だから$A$は対角化可能でない.
[3]$a=4$のとき,$\alpha=\beta=2$である.行基本変形により
\begin{align*}&2I-A\to\bmat{2-4&-1&-2\\0&2-1&0\\2&0&2}
\\&\to\bmat{-2&-1&-2\\0&1&0\\2&0&2}\to\bmat{1&0&1\\0&1&0\\0&0&0}\end{align*}
だから,固有値2に関する固有空間の次元は$3-\operatorname{rank}(2I-A)=1$である.一方,固有値2の重複度は2だから$A$は対角化可能でない.
[4]$a=-4$のとき,$\alpha=\beta=-2$である.行基本変形により
\begin{align*}&-2I-A\to\bmat{-2-(-4)&-1&-2\\0&-2-1&0\\2&0&-2}
\\&\to\bmat{2&-1&-2\\0&-3&0\\2&0&-2}\to\bmat{1&0&-1\\0&0&0\\0&1&0}\end{align*}
だから,固有値−2に属する固有空間の次元は$3-\operatorname{rank}(-2I-A)=1$である.一方,固有値−2の重複度は2だから,$A$は対角化可能でない.
以上より,$A$が対角化可能となる$a$の条件は$a\neq5,\pm4$である.
第3問(微分積分学)
次の極限値を求めよ.
\begin{align*}\lim_{n\to\infty}\int_{0}^{\infty}e^{-x}(nx-[nx])\,dx\end{align*}
ただし,$n$は自然数とし,$[y]$は$y$を超えない最大の整数を表す.
正整数$n$をパラメータとしてもつ広義積分の極限を求める問題ですね.
解答の方針とポイント1
$nx-[nx]$が周期$\frac{1}{n}$の周期関数で,$[0,\frac{1}{n}]$上で0から1まで直線的に増加します.$e^{-x}$は$[0,\infty)$で一様連続ですから,$n$が十分大きいときには全ての区間$[\frac{k}{n},\frac{k+1}{n})$の中で$e^{-x}$は一定値であると近似できます.
よって,$nx-[nx]$の平均が$\frac{1}{2}$であることから,求める極限は
\begin{align*}\frac{1}{2}\int_{0}^{\infty}e^{-x}\,dx=\frac{1}{2}\end{align*}
であることが予想できますね.
直観的には,リーマン-ルベーグの定理と同様の原理ですね.
ただ,実際の答案では$e^{-x}$の一様連続性を明示的に使わなくても,$e^{-x}$が単調減少なので
\begin{align*}&\sum_{k=0}^{\infty}\dint_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-\frac{k+1}{n}}(nx-k)\,dx
\\&<\int_0^{\infty}e^{-x}(nx-[nx])\,dx
\\&<\sum_{k=0}^{\infty}\dint_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-\frac{k}{n}}(nx-k)\,dx\end{align*}
と評価できて,この右辺と左辺の級数が$n\to\infty$で$\frac{1}{2}$に収束することは基本的な計算から得られます.
解答例1
$k\in\{0,1,2,\dots\}$に対して$\frac{k}{n}\le x<\frac{k+1}{n}$なら$[nx]=k$であることと,$e^{-x}$が単調減少であることに注意すると,
\begin{align*}\int_{0}^{\infty}e^{-x}(nx-[nx])\,dx
&=\sum_{k=0}^{\infty}\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-x}(nx-[nx])\,dx
\\&=\sum_{k=0}^{\infty}\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-x}(nx-k)\,dx\end{align*}
であり,
\begin{align*}&\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-x}(nx-k)\,dx
<\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-\frac{k}{n}}(nx-k)\,dx
=\frac{1}{2n}e^{-\frac{k}{n}},
\\&\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-x}(nx-k)\,dx
>\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-\frac{k+1}{n}}(nx-k)\,dx
=\frac{1}{2n}e^{-\frac{k+1}{n}}\end{align*}
が成り立つ.これらの級数は等比級数だから
\begin{align*}\sum_{k=0}^{\infty}e^{-\frac{k}{n}}=\frac{1}{1-e^{-1/n}},\quad
\sum_{k=0}^{\infty}e^{-\frac{k+1}{n}}=\frac{e^{-1/n}}{1-e^{-1/n}},\quad\end{align*}
なので,
\begin{align*}\frac{e^{-1/n}}{2n(1-e^{-1/n})}<\int_{0}^{\infty}e^{-x}(nx-[nx])\,dx<\frac{1}{2n(1-e^{-1/n})}\end{align*}
である.テイラーの定理より$e^{-1/n}=1-\frac{1}{n}+\frac{e^c}{2n^2}$なる$c\in(-\frac{1}{n},0)$が存在するから,
\begin{align*}&\frac{1}{2n(1-e^{-1/n})}=\frac{1}{2-\frac{e^c}{n}}\xrightarrow[]{n\to\infty}\frac{1}{2},
\\&\frac{e^{-1/n}}{2n(1-e^{-1/n})}=\frac{e^{-1/n}}{2-\frac{e^c}{n}}\xrightarrow[]{n\to\infty}\frac{1}{2}\end{align*}
となる.ただし,$n\to\infty$のとき$c\to0$となることを用いた.以上より,はさみうちの原理を用いて
\begin{align*}\lim_{n\to\infty}\dint_{0}^{\infty}e^{-x}\bra{nx-[nx]}\,dx=\frac{1}{2}\end{align*}
を得る.
解答の方針とポイント2
上の解答の途中までは同じで,
\begin{align*}\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-x}(nx-k)\,dx\end{align*}
を部分積分により直接計算してもよいです.
解答例2
$k\in\{0,1,2,\dots\}$に対して$\frac{k}{n}\le x<\frac{k+1}{n}$なら$[nx]=k$であることと,$e^{-x}$が単調減少であることに注意すると,
\begin{align*}\int_{0}^{\infty}e^{-x}(nx-[nx])\,dx
&=\sum_{k=0}^{\infty}\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-x}(nx-[nx])\,dx
\\&=\sum_{k=0}^{\infty}\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-x}(nx-k)\,dx\end{align*}
であり,
\begin{align*}\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}e^{-x}(nx-k)\,dx
&=\brc{-e^{-x}(nx-k)}_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}+\int_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}ne^{-x}\,dx
\\&=-e^{-\frac{k+1}{n}}-\brc{ne^{-x}}_{\frac{k}{n}}^{\frac{k+1}{n}}
\\&=ne^{-\frac{k}{n}}-(1+n)e^{-\frac{k+1}{n}}\end{align*}
が成り立つ.この各項の級数は等比級数だから
\begin{align*}\int_{0}^{\infty}e^{-x}(nx-[nx])\,dx
&=\frac{n}{1-e^{-1/n}}-\frac{(1+n)e^{-1/n}}{1-e^{-1/n}}
\\&=\frac{n-(1+n)e^{-1/n}}{1-e^{-1/n}}\end{align*}
である.テイラーの定理より$e^{-1/n}=1-\frac{1}{n}+\frac{e^c}{2n^2}$なる$c\in(-\frac{1}{n},0)$が存在するから,
\begin{align*}\frac{n-(1+n)e^{-1/n}}{1-e^{-1/n}}
&=\frac{n-(1+n)(1-\frac{1}{n}+\frac{e^c}{2n^2})}{\frac{1}{n}-\frac{e^c}{2n^2}}
\\&=\frac{\frac{1}{n}-\frac{e^c}{2n}-\frac{e^c}{2n^2}}{\frac{1}{n}-\frac{e^c}{2n^2}}
=\frac{1-\frac{e^c}{2}-\frac{e^c}{2n}}{1-\frac{e^c}{2n}}
\\&\xrightarrow[]{n\to\infty}\frac{1-\frac{1}{2}}{1}=\frac{1}{2}\end{align*}
となる.ただし,$n\to\infty$のとき$c\to0$となることを用いた.以上より,
\begin{align*}\lim_{n\to\infty}\dint_{0}^{\infty}e^{-x}\bra{nx-[nx]}\,dx=\frac{1}{2}\end{align*}
を得る.
第4問(微分積分学)
$\R^2$で定義された関数
\begin{align*}f(x,y)=\frac{xy(xy+4)}{x^2+y^2+1}\end{align*}
の最大値および最小値のそれぞれについて,存在するなら求め,存在しないならそのことを示せ.
2変数関数$f$の最大値・最小値を求める問題ですね.
解答の方針とポイント1
分母よりも分子の方が次数が大きいので,ある方向には遠方で無限大に発散しそうです.実際,$x=y$とし,極限$x\to\infty$をとれば無限大に発散しますね.
よって,あとは最小値の存在とその値を考えれば良いわけですが,$f$は負の値をとり$f(x,0)=f(0,y)=0$なので$x,y\neq0$で考えれば十分です.さらに,$f$の対称性より$x>0$で考えれば十分ですね.
このとき,$x>0$, $y\neq0$で停留点を求めると$(1,-1)$であり,$f(1,-1)=-1$となります.これが最小値の候補ですね.
つぎに,極座標変換$x=r\cos\theta$, $y=r\sin\theta$で$r\ge2$のとき$f(x,y)\ge-4/5>-1$なので,$f$の最小値は$r\ge2$でとることはありません.
よって,$r\le2$で最小値を考えれば十分で,このような$(x,y)$の集合はコンパクト集合であり,$f$は連続だから,この集合の境界上,もしくは停留点で最小値をもちます.境界上では$f(x,y)\ge-\frac{4}{5}$でしたから,停留点$(1,-1)$で最小値−1をとると分かりますね.
解答例1
極限
\begin{align*}\lim_{x\to\infty}f(x,x)
=\lim_{x\to\infty}\frac{x^{2}(x^{2}+4)}{2x^2+1}
=\lim_{x\to\infty}\frac{x^{2}+4}{2+\frac{1}{x^2}}
=\infty\end{align*}
より最大値は存在しない.よって,以下では最小値について考える.
$f$は負の値をとり(たとえば$f(1,-1)<0$),任意の$x,y\in\R$に対して$f(x,0)=f(0,y)=0$なので,$x,y\neq0$で考えれば十分である.また,$f(x,y)=f(-x,-y)$なので,さらに$x>0$で考えれば十分である.
\begin{align*}\frac{\partial f}{\partial x}(x,y)
&=\frac{(2xy^2+4y)(x^2+y^2+1)-2x(x^2y^2+4xy)}{(x^2+y^2+1)^2}
\\&=\frac{2y(xy+2)(x^2+y^2+1)-2y(x^3y+4x^2)}{(x^2+y^2+1)^2}
\\&=\frac{2y(x^3y+xy^3+xy+2x^2+2y^2+2-x^3y-4x^2)}{(x^2+y^2+1)^2}
\\&=\frac{2y(xy^3+xy-2x^2+2y^2+2)}{(x^2+y^2+1)^2}\end{align*}
である.また,$x$, $y$の対称性より
\begin{align*}\frac{\partial f}{\partial y}(x,y)=\frac{2x\bra{x^3y+xy+2x^2-2y^2+2}}{(x^2+y^2+1)^2}\end{align*}
である.$x,y\neq0$で考えていることに注意すると,
\begin{align*}\begin{cases}\frac{\partial f}{\partial x}(x,y)=0\\\frac{\partial f}{\partial y}(x,y)=0\end{cases}
&\iff\begin{cases}xy^3+xy-2x^2+2y^2+2=0\\x^3y+xy+2x^2-2y^2+2=0\end{cases}
\\&\iff\begin{cases}xy^3-x^3y-4x^2+4y^2=0\\xy^3+x^3y+2xy+4=0\end{cases}
\\&\iff\begin{cases}(y+x)(y-x)(xy+4)=0\\xy^3+x^3y+2xy+4=0\end{cases}\end{align*}
である.
- $y=-x$のとき\begin{align*}xy^3+x^3y+2xy+4=-2(x^4+x^2-2)=-2(x^2+2)(x^2-1)\end{align*}
- $y=x$のとき\begin{align*}xy^3+x^3y+2xy+4&=2(x^4+x^2+2)\\&=2\bra{x^2+\frac{1}{2}}^2+\frac{7}{2}>0\end{align*}
- $xy=-4$のとき\begin{align*}xy^3+x^3y+2xy+4=-4y^2-4x^2-4<0\end{align*}
なので,$x>0$, $y\neq0$での$f$の停留点は$(1,-1)$に限り,$f(1,-1)=-1$である.
ここで,極座標変換$x=r\cos\theta$, $y=r\sin\theta$で$r\ge2$のとき,
\begin{align*}f(x,y)&=\frac{r^2\sin\theta\cos\theta\bra{r^2\sin\theta\cos\theta+4}}{r^2+1}
\\&=\frac{\bra{r^2\sin\theta\cos\theta+2}^2-4}{r^2+1}
\\&\ge\frac{0^2-4}{r^2+1}\ge-\frac{4}{5}>-1\end{align*}
である.よって,$f$の最小値は$\set{(x,y)\in\R^2}{x^2+y^2\ge4}$上ではとり得ない.
$f$はコンパクト集合$D:=\set{(x,y)\in\R^2}{x^2+y^2\le4}$上で連続だから,$f$は$D$の境界上または$D$内部の停留点で最小値をとる.
$D$の境界上で$f(x,y)\ge-\frac{4}{5}>-1$だったから,$f$は停留点$(1,-1)$, $(-1,1)$で最小値−1をとる.
解答の方針とポイント2
$f$が点$(1,-1)$で最小値−1をとりそうなことを答案を書く前の計算で確認したのち,
\begin{align*}f(x,y)=\frac{xy(xy+4)+x^2+y^2+1}{x^2+y^2+1}-1\end{align*}
と−1を引き出すことによって,平方完成から示すこともできます.
解答例2
極限
\begin{align*}\lim_{x\to\infty}f(x,x)
=\lim_{x\to\infty}\frac{x^{2}(x^{2}+4)}{2x^2+1}
=\lim_{x\to\infty}\frac{x^{2}+4}{2+\frac{1}{x^2}}
=\infty\end{align*}
より最大値は存在しない.また,
\begin{align*}f(x,y)&=\frac{xy(xy+4)+x^2+y^2+1}{x^2+y^2+1}-1
\\&=\frac{(x+y)^2+(xy+1)^2}{x^2+y^2+1}-1\end{align*}
だから$f(x,y)\ge-1$で,$f(1,-1)=-1$だから最小値は−1である.
参考文献
以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.
詳解と演習大学院入試問題〈数学〉
[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]
理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.
実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.
第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率
一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの問題集|詳解と演習 大学院入試問題(数理工学社)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.
演習 大学院入試問題
[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]
上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.
全2巻で,
1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計
が扱われています.
地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.
なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの問題集|演習 大学院入試問題[数学](サイエンス社)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.



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