線形代数25|固有空間が大切な理由!対角化可能性の必要十分条件

線形代数学の基本
線形代数学の基本

正方行列$A$は対角化には冪$A^n$が簡単に計算できたり様々な応用があります.

しかし,正方行列はいつでも対角化可能であるとは限らないため,正方行列がいつ対角化可能であるかを知ることは重要な問題です.

実は対角化したい正方行列の固有空間を考えることで,正方行列が対角化可能であるための必要十分条件を与えることができます.

この記事では,

  • 固有空間
  • 対角化可能であるための必要十分条件
  • 対角化可能性の判定

を順に説明します.

なお,この記事では特に断らない限り複素行列・複素ベクトルを扱うことにします.

線形代数学の参考文献

以下は線形代数学に関するオススメの教科書です.

大学教養 線形代数(加藤文元 著)

数学科など理論系の学生向けの線形代数の入門書です.平易な具体例から丁寧に説明されているので,初学者にも読み進めやすい教科書です.

手を動かしてまなぶ 線形代数(藤岡敦 著)

理論と演習のバランスをとりながら勉強したい人にオススメの入門書です.

固有空間

固有空間を定義するために,まずは次の補題を示しましょう.

$n$次正方行列$A$の固有値$\lambda$に対して,

   \begin{align*}V=\set{\m{a}\in\C^n}{A\m{a}=\lambda A}\end{align*}

は$\C^n$の部分空間となる.

$V$は「$A$の固有値$\lambda$に属する固有ベクトル全部と$\m{0}$を併せた集合」ということができますね.

$\m{0}\in V$だから$V$は空でない.

[1] 和について閉じていることを示す.任意の$\m{a},\m{b}\in\C^n$に対して,

   \begin{align*}A(\m{a}+\m{b})=A\m{a}+A\m{b}=\lambda\m{a}+\lambda\m{b}=\lambda(\m{a}+\m{b})\end{align*}

だから,$\m{a}+\m{b}\in V$である.

[2] スカラー倍について閉じていることを示す.任意の$\m{a}\in\C^n$, $k\in\C$に対して,

   \begin{align*}A(c\m{a})=c(A\m{a})=c(\lambda\m{a})=\lambda(c\m{a})\end{align*}

だから,$c\m{a}\in V$である.

この補題の部分空間$V$を固有空間といいます.

$n$次正方行列$A$の固有値$\lambda$に対して,

   \begin{align*}W_A(\lambda):=\set{\m{a}\in\R^n}{A\m{a}=\lambda\m{a}}\end{align*}

で定まる$\C^n$の部分空間$W_A(\lambda)$を$A$の固有値$\lambda$の固有空間 (eigenspace)という.

固有空間の定義の条件部分の等式は

   \begin{align*}A\m{a}=\lambda\m{a}\iff(A-\lambda I)\m{a}=\m{0}\end{align*}

と書き換えられるので,行列の核$\Ker$を用いて$W_A(\lambda)=\Ker{(A-\lambda I)}$とも表せますね.

対角化可能であるための必要十分条件

ここで正方行列対角化可能であるための必要十分条件を固有空間を用いて述べましょう.このためには

の2つがポイントです.

対角化可能性と固有ベクトルの個数

次の命題は対角化可能性の必要十分条件の基本です.

$n$次正方行列$A$に対して,次は同値である.

  1. $A$は対角化可能である
  2. $A$は線形独立な$n$個の固有ベクトルをもつ

[$(1)\Ra(2)$の証明] ある$n$次正則行列$P$と$n$次対角行列$B$が存在して$P^{-1}AP=B$が成り立つ.このとき,

   \begin{align*}B=&\bmat{\lambda_1&0&\dots&0\\0&\lambda_2&\ddots&\vdots\\\vdots&\ddots&\ddots&0\\0&\dots&0&\lambda_n}\quad\dots(*), \\P=&[\m{p}_1,\m{p}_2,\dots,\m{p}_n]\quad\dots(**)\end{align*}

とおくと,

   \begin{align*}AP=PB \iff[A\m{p}_1,A\m{p}_2,\dots,A\m{p}_n]=[\lambda_1\m{p}_1,\lambda_2\m{p}_2,\dots,\lambda_n\m{p}_n]\end{align*}

が成り立つ.両辺で各列を比較すると$A\m{p}_k=\lambda_k\m{p}_k$ ($k=1,2,\dots,n$)が成り立つから,$\m{p}_k$は固有ベクトルである.

また,一般に正則行列をなす列ベクトルは線形独立なので,$P$をなす列ベクトル$\m{p}_1,\m{p}_2,\dots,\m{p}_n$が線形独立である.

よって,$A$は線形独立な$n$個の固有ベクトルをもつ.

[$(2)\Ra(1)$の証明] $A$の線形独立な$n$個の固有ベクトルを$\m{p}_1,\m{p}_2,\dots,\m{p}_n$とし,それぞれ$A$の固有値$\lambda_1,\lambda_2,\dots,\lambda_n$に属する固有ベクトルとする($\lambda_1,\lambda_2,\dots,\lambda_n$の中には等しいものがあってもよい).

さらに,対角行列$B$を$(*)$で定める.固有値・固有ベクトルの定義より$\lambda_k\m{p}_k=A\m{p}_k$ ($k=1,2,\dots,n$)が成り立つから,正方行列$P$を$(**)$で定めると

   \begin{align*}PB=&[\lambda_1\m{p}_1,\lambda_2\m{p}_2,\dots,\lambda_n\m{p}_n] \\=&[A\m{p}_1,A\m{p}_2,\dots,A\m{p}_n] \\=&A[\m{p}_1,\m{p}_2,\dots,\m{p}_n] =AP\end{align*}

となる.いま$\m{p}_1,\dots,\m{p}_n$は線形独立だから,$P$は正則行列である.

よって,$PB=AP$の両辺に左から$P^{-1}$をかけて$B=P^{-1}AP$と対角化可能である.

本質的には前回の記事で証明した対角化可能性の基本定理の証明とほとんど同じですね.

固有空間の次元

いま示した命題から正方行列$A$が対角化可能であるためには,線形独立な固有ベクトルはできるだけ多く存在して欲しいですね

固有空間の次元$\dim{W_A(\lambda)}$が大きいほど$W_A(\lambda)$に属する線形独立なベクトルの個数が多いので,次元$\dim{W_A(\lambda)}$がどこまで大きくなり得るかがポイントになりそうですね.

そこで,実は次元$\dim{W_A(\lambda)}$について,以下の定理が成り立ちます.

[固有空間の次元] $\lambda_1,\dots,\lambda_r\in\C$は異なる定数とし,$n_1,\dots,n_r\in\N$とする.正方行列$A$の固有多項式$|xI-A|$が

   \begin{align*}(x-\lambda_1)^{n_1}(x-\lambda_2)^{n_2}\dots(x-\lambda_r)^{n_r}\end{align*}

であるとき,任意の$k=1,\dots,r$に対して

   \begin{align*}1\le \dim{W_A(\lambda_k)}\le n_k\end{align*}

が成り立つ.

つまり,固有多項式が因数$x-\lambda_k$をちょうど$n_k$個もつとき,$\dim{W_A(\lambda_k)}$は$n_k$より大きくならないというわけですね.

$W_{k}:=W_{A}(\lambda_k)$, $d_k:=\dim{W_k}$とおく.

$\lambda_{k}$は$A$の固有値だから$W_k$は$\m{0}$以外の元をもち$d_k\ge1$が従うので,あとは$d_k\le n_k$が示せばよい.

$W_k$の基底を$\anb{\m{p}_1,\dots,\m{p}_{d_k}}$とする.

$\m{p}_1,\dots,\m{p}_{d_k}$は$\C^n$上で線形独立だから,$\anb{\m{p}_1,\dots,\m{p}_{d_k},\m{p}_{d_k+1},\dots,\m{p}_n}$が$\C^n$の基底となるようにできる.

このとき,$P:=[\m{p}_1,\dots,\m{p}_n]$とすると,$P$は正則行列

   \begin{align*}I=P^{-1}P=\brc{P^{-1}\m{p}_1,\dots,P^{-1}\m{p}_n}\end{align*}

だから,各列を比較して$\m{e}_\ell=P^{-1}\m{p}_\ell$ ($\ell=1,\dots,n$)が成り立つ.加えて,$\m{p}_1,\dots,\m{p}_{d_k}$は$A$の固有値$\lambda_k$に属する固有値だったから

   \begin{align*}P^{-1}AP =&P^{-1}[A\m{p}_1,\dots,A\m{p}_{d_k},A\m{p}_{d_{k}+1},\dots,A\m{p}_n] \\=&P^{-1}[\lambda_i\m{p}_1,\dots,\lambda_i\m{p}_{d_k},A\m{p}_{d_{k}+1},\dots,A\m{p}_n] \\=&[\lambda_iP^{-1}\m{p}_1,\dots,\lambda_iP^{-1}\m{p}_{d_k},P^{-1}A\m{p}_{d_{k}+1},\dots,P^{-1}A\m{p}_n] \\=&[\lambda_i\m{e}_1,\dots,\lambda_i\m{e}_{d_k},P^{-1}A\m{p}_{d_{k}+1},\dots,P^{-1}A\m{p}_n]\end{align*}

となる.よって,固有多項式は

   \begin{align*}|xI-A|=&|P|^{-1}|xI-A||P|=|P^{-1}||xI-A||P| \\=&|P^{-1}(xI-A)P|=|xP^{-1}IP-P^{-1}AP| \\=&\abs{xI-[\lambda_i\m{e}_1,\dots,\lambda_i\m{e}_{d_k},P^{-1}A\m{p}_{d_{k}+1},\dots,P^{-1}A\m{p}_n]} \\=&|[x\m{e}_1,\dots,x\m{e}_{d_k},x\m{e}_{d_k+1},\dots,x\m{e}_n] \\&\quad -[\lambda_i\m{e}_1,\dots,\lambda_i\m{e}_{d_k},P^{-1}A\m{p}_{d_{k}+1},\dots,P^{-1}A\m{p}_n]| \\=&|(x-\lambda_i)\m{e}_1,\dots,(x-\lambda_i)\m{e}_{d_k},*,\dots,*| \\=&(x-\lambda_k)^{d_k}|\m{e}_1,\dots,\m{e}_{d_k},*,\dots,*|\end{align*}

が成り立つ.なお,最後の等号では行列式の線形性を用いた.

固有多項式$|xI-A|$は因数$x-\lambda_k$を高々$n_k$個しか持たないから$d_k\le n_k$を得る.

対角化可能であるための必要十分条件

いま示した[固有空間の次元]の定理から,次のように対角化可能であるための必要十分条件が得られます.

[対角化可能性] $\lambda_1,\dots,\lambda_r\in\C$は異なる定数とし,$n_1,\dots,n_r\in\N$とする.正方行列$A$の固有多項式$|xI-A|$が

   \begin{align*}(x-\lambda_1)^{n_1}(x-\lambda_2)^{n_2}\dots(x-\lambda_r)^{n_r}\end{align*}

であるとき,次は同値である.

  1. $A$は対角化可能
  2. 全ての$k\in\{1,\dots,r\}$に対して$\dim{W_{A}(\lambda_k)}=n_k$

$A$は$n$次正方行列であるとする.このとき,固有多項式$|xI-A|$は$n$次多項式であり,仮定から$n_{1}+\dots+n_{r}$次多項式でもあるから

   \begin{align*}n_{1}+\dots+n_{r}=n\end{align*}

が成り立つことに注意する.ここで,

  • 異なる固有値に属する固有ベクトルは線形独立
  • $\dim{W_A(\lambda_k)}\le n_k$(前定理)
  • $\dim{W_A(\lambda_k)}$は$A$の固有値$\lambda$に属する線形独立な固有ベクトルの最大個数に一致

を併せると

   \begin{align*}\dim{W_A(\lambda_k)}=n_k\quad(k=1,\dots,r)\end{align*}

が成り立つことと,線形独立な固有ベクトルが$n$個存在することは同値である.

これは上で示した命題より$A$が対角化可能であることと同値である.

$A$の全ての固有値$\lambda_k$に属する線形独立な固有ベクトルが固有多項式$|xI-A|$の因数$x-\lambda_k$の個数分存在すれば,$A$は対角化可能というわけですね.

対角化可能性の判定の具体例

異なる固有値が次数と同じだけ存在する正方行列は対角化可能ですから,対角化可能かどうかすぐに分からないのは固有方程式が重解を持つ場合ですね.

以下では固有多項式が重解をもつ対角化不可能な例と対角化可能な例を紹介します.

対角化不可能な具体例

まずは対角化不可能な例です.

$A:=\bmat{1&3&2\\0&-1&0\\1&2&0}$は対角化可能か?対角化可能なら対角化せよ.

$A$の固有多項式$|xI-A|$は余因子展開により

   \begin{align*}|xI-A|=&\vmat{x-1&-3&-2\\0&x+1&0\\-1&-2&x}=(x+1)\vmat{x-1&-2\\-1&x} \\=&(x+1)(x^2-x-2)=(x+1)^2(x-2)\end{align*}

だから,$A$の固有値は$-1$, $2$である.

$A$の固有値$-1$に属する固有ベクトルは$(A-(-1)I)\m{x}=\m{0}$の非自明解である.行基本変形

   \begin{align*}A-(-1)I =\bmat{2&3&2\\0&0&0\\1&2&1} \to\bmat{1&0&1\\0&1&0\\0&0&0}\end{align*}

より$W_{A}(-1)=\spn{\bra{\bmat{1\\0\\-1}}}$だから$\dim{W_{A}(-1)}=1$である.$|xI-A|$の因数$x+1$の個数は2だったから$A$は対角化不可能である.

対角化可能な具体例

次は固有方程式が重解をもちますが対角化可能な例を考えましょう.

流れ自体は前回の記事で説明した対角化と同じです.

$A:=\bmat{5&6&0\\-1&0&0\\1&2&2}$は対角化可能か?対角化可能なら対角化せよ.

$A$の固有多項式$|xI-A|$は余因子展開により

   \begin{align*}|xI-A|=&\vmat{x-5&-6&0\\1&x&0\\-1&-2&x-2} =(x-2)\vmat{x-5&-6\\1&x} \\=&(x-2)(x^2-5x+6)=(x-2)^2(x-3)\end{align*}

だから,$A$の固有値は$2$, $3$である.

[1] $A$の固有値$2$に属する固有ベクトルは$(A-2I)\m{x}=\m{0}$の非自明解である.行基本変形

   \begin{align*}A-2I=\bmat{3&6&0\\-1&-2&0\\1&2&0} \to\bmat{1&2&0\\0&0&0\\0&0&0}\end{align*}

より,線形独立な$\m{p}_1:=\bmat{2\\-1\\0}$, $\m{p}_2:=\bmat{0\\0\\1}$を用いて$W_{A}(2)=\spn{(\m{p}_{1},\m{p}_{2})}$と表せるから$\dim{W_{A}(2)}=2$である.

これは固有多項式$|xI-A|$の因数$x-2$の個数に一致する.

[2] $A$の固有値$3$に属する固有ベクトルは$(A-3I)\m{x}=\m{0}$の非自明解である.行基本変形

   \begin{align*}A-3I=\bmat{2&6&0\\-1&-3&0\\1&2&-1} \to\bmat{1&3&0\\0&1&1\\0&0&0}\end{align*}

より,線形独立な$\m{p}_3:=\bmat{3\\-1\\-1}$を用いて$W_{A}(3)=\spn{(\m{p}_{3})}$と表せるから$\dim{W_{A}(3)}=1$である.

これは固有多項式$|xI-A|$の因数$x-3$の個数に(当然)一致する.

[1], [2]より$A$は対角化可能で,

   \begin{align*}P:=[\m{p}_1,\m{p}_2,\m{p}_3]=\bmat{2&0&3\\-1&0&-1\\0&1&1}\end{align*}

とおくと,$P^{-1}AP=\bmat{2&0&0\\0&2&0\\0&0&3}$となる.

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プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.公式LINEを友達登録で【限定プレゼント】配布中.

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あーるえぬ

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