2026年度|大阪大学 大学院入試|数学専攻|数学問題A

大阪大学|大学院入試
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2026年度の大阪大学 理学研究科 数学専攻の大学院入試問題の数学問題Aの解答の方針と解答例です.

問題は4題あり全問解答します.試験時間は3時間です.この記事では,全4問解説しています.

ただし,公式に採点基準などは発表されていないため,本稿の解答が必ずしも正解になるとは限りません.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は大阪大学の数学専攻の過去問題のページから入手できます.

第1問(微分積分学)

関数$f$が定数関数($f(x)\equiv c$)なら,$g(a)=g(b)=0$なる任意の$C^1$級関数$g:\R\to\R$に対して

\begin{align*}\int_{a}^{b}f(x)g'(x)\,dx=c(g(b)-g(a))=0\end{align*}

が成り立ちます.本問題はこの逆が成り立つことを示す問題で,小問が分かりやすいので少なくとも(3)までは解きたいです.

(4)ではうまく$h$をとってくる必要があるのですが,試験場で焦っていると意外と思い付けないかもしれません.そのため,念のため泥臭く解く方法も紹介します.

$a$, $b$を$a<b$をみたす実数とする.$\R$上の実数値連続関数$f(x)$が,$g(a)=g(b)=0$を満足する任意の$\R$上の実数値$C^1$級関数$g(x)$に対して

\begin{align*}\int_{a}^{b}f(x)g'(x)\,dx=0\end{align*}

をみたすとする.

  1. $[a,b]$上の非負実数値連続関数$k(x)$が\begin{align*}\int_{a}^{b}k(x)\,dx=0\end{align*}をみたすならば,$k(x)$は$[a,b]$上で常に0であることを示せ.
  2. $\R$上の実数値連続関数$h(x)$に対して,次をみたすような$\R$上の実数値$C^1$級関数$g(x)$と実数$\alpha$が存在することを示せ.\begin{align*}g(a)=g(b)=0\quad \text{かつ}\quad g'(x)=h(x)-\alpha\ (x\in\R).\end{align*}
  3. $c=\dfrac{1}{b-a}\dint_{a}^{b}f(x)\,dx$とおくと,任意の$\R$上の実数値連続関数$h(x)$に対して\begin{align*}\int_{a}^{b}(f(x)-c)h(x)\,dx=0\end{align*}が成立することを示せ.
  4. $f(x)$は$[a,b]$上で定数関数であることを示せ.
出典:大阪大学 数学専攻「大学院入試 数学A」

解答の方針とポイント

大筋はそれほど難しくありませんが,端点$x=a,b$のケア,なぜ$g$に$C^1$級が必要なのかなど,答案にするときは細かいことに注意しながら進めましょう.

関数が連続なら,近くで急激に値は変わらない

関数$k$が点$p$で連続であるとは,直観的には$x\approx p$なら$k(x)\approx k(p)$が成り立つということです.そのため,もし非負値関数$k$がある点$p$で$k(p)>0$となるなら,$p$の近くの$x$でも$k(x)>0$となっており,$\int_{a}^{b}k(x)\,dx$の$p$周辺での積分が正となりそうです.

いまの議論を正当化するには,関数の連続性の定義を使えます.

$A\subset\R$とする.関数$f:A\to\R$が$p\in A$で連続であるとは,任意の$\epsilon>0$に対して,ある$\delta>0$が存在して,$x\in A$について

\begin{align*}|x-p|<\delta
\Ra|f(x)-f(p)|<\epsilon\end{align*}

が成り立つ.

$\epsilon>0$は任意ですから$\epsilon=\frac{k(p)}{2}$に対しても成り立つので,$x\in A\cap[p-\frac{\delta}{2},p+\frac{\delta}{2}]$に対して,$|k(x)-k(p)|<\frac{k(p)}{2}$となり,整理して$k(x)>\frac{k(p)}{2}$が得られます.

微分積分学の基本定理は連続関数に対して成り立つ

形式的には,条件$g'(x)=h(x)-\alpha$の両辺を$[a,x]$で積分すると

\begin{align*}g(x)-g(a)=\int_{a}^{x}h(t)\,dt-\alpha(x-a)\end{align*}

となり,$g(a)=g(b)$より

\begin{align*}0=g(b)-g(a)=\int_{a}^{b}h(t)\,dt-\alpha(b-a)\end{align*}

となります.よって,

\begin{align*}\alpha:=\frac{1}{b-a}\int_{a}^{b}h(t)\,dt,\quad
g(x):=\int_{a}^{x}h(t)\,dt-\alpha(x-a)\end{align*}

であることが必要になります.なお,これで$g(a)=0$も満たしています.

そこで,逆にこのように$\alpha$と$g$をおいたときに条件を満たすことを確かめれば良いですね.ただし,$g’$を考える際には$\int_{a}^{x}h(t)\,dt$を微分することになりますが,微分積分学の基本定理は連続関数に対して成り立つことに注意しましょう.

[微分積分学の基本定理]連続関数$f:[a,b]\to\R$に対して,次が成り立つ.

  1. $f$の不定積分は,$f$の原始関数である.
  2. $f$の原始関数$G$は,$f$の不定積分$F$と定数$C\in\R$を用いて$G(x)=F(x)+C$($a\le x\le b$)と表せる.
  3. $f$の原始関数$G$に対して,$\dint_{a}^{b}f(x)\,dx=G(b)-G(a)$が成り立つ.

$f$の仮定と(2)を併せる

本問題の(3)の$h$を(2)の$h$として扱うように露骨に誘導されているので,しっかり乗りましょう.$h$を(2)のように表すと

\begin{align*}&\int_{a}^{b}(f(x)-c)h(x)\,dx
\\&=\int_{a}^{b}(f(x)-c)(g'(x)+\alpha)\,dx
\\&=\int_{a}^{b}f(x)g'(x)\,dx
+\alpha\int_{a}^{b}f(x)\,dx
\\&\quad-c\int_{a}^{b}g'(x)\,dx
-c\alpha(b-a)\end{align*}

となります.$f$の仮定より$\int_{a}^{b}f(x)g'(x)\,dx=0$であり,$g(a)=g(b)$と微分積分学の基本定理より$\int_{a}^{b}g'(x)\,dx=g(b)-g(a)=0$なので,結局

\begin{align*}\alpha\int_{a}^{b}f(x)\,dx-c\alpha(b-a)=0\end{align*}

を示せばよいわけですが,これは$c$の定義からすぐに得られますね.

$g’$に微分積分学の基本定理を使う際には,$g’$が連続($g$が$C^1$級)であることには言及しておいた方がよいでしょう.

具体的に$h$を選んで$f(x)\equiv c$を示す

(1)と(3)から,うまく$h$を選んで$(f(x)-c)h(x)\ge0$となるようにして,$f(x)\equiv c$となることを示したいですね.

ただし,極端な例として$h(x)\equiv0$としてしまうと,当然$f(x)\not\equiv c$であっても矛盾しないので$h(x)$はできるだけ0でなく$f(x)-c$と同じ正負をとる関数を選べばよいですね.

このように考えると,$f(x)-c$自身が$f(x)-c$と同じ正負をとるので,$h(x)=f(x)-c$とおけば解けそうですね.

解答例

(1)の解答

対偶を示す.「$k(x)$は$[a,b]$上で常に0である」が成り立たないとする.このとき,$k$は非負実数値関数だから,ある$p\in[a,b]$が存在して$k(p)>0$が成り立つ.

また,$k$の連続性から,ある$\delta>0$が存在して,$x\in[a,b]$について

\begin{align*}|x-p|<\delta
\Ra|k(x)-k(p)|<\frac{k(p)}{2}\end{align*}

が成り立つ.よって,$x\in[a,b]\cap(p-\delta,p+\delta)$のとき,三角不等式と併せて

\begin{align*}k(p)-k(x)=|k(p)|-|k(x)|\le|k(x)-k(p)|<\frac{k(p)}{2}\end{align*}

となり$\frac{k(p)}{2}<k(x)$を得る.そこで,$[r,s]:=[a,b]\cap[p-\frac{\delta}{2},p+\frac{\delta}{2}]$とし,$k$の非負値性を併せて

\begin{align*}\int_{a}^{b}k(x)\,dx
\ge\int_{r}^{s}k(x)\,dx
>\int_{r}^{s}\frac{k(p)}{2}\,dx
=\frac{k(p)(s-r)}{2}
>0\end{align*}

となり$\dint_{a}^{b}k(x)\,dx\neq0$を得る.

(2)の解答

定数$\alpha$を$\alpha:=\frac{1}{b-a}\int_{a}^{b}h(t)\,dt$で定め,$g:\R\to\R$を

\begin{align*}g(x):=\int_{a}^{x}h(t)\,dt-\alpha(x-a)\end{align*}

で定める.この$\alpha$と$g$が条件を満たすことを以下で示す.

\begin{align*}&g(a)=\int_{a}^{a}h(t)\,dt-\alpha(a-a)=0,
\\&g(b)=\int_{a}^{b}h(t)\,dt-(b-a)\cdot\frac{1}{b-a}\int_{a}^{b}h(t)\,dt=0\end{align*}

であり,$h$は連続だから微分積分学の基本定理より

\begin{align*}g'(x)=h(x)-\alpha\end{align*}

となる.$h$は連続だから$g'(x)$は連続なので$g$は$C^1$級である.

(3)の解答

$h$に対して,(2)の$\alpha$と$g$を定める.このとき,$f$の仮定より

\begin{align*}\int_{a}^{b}f(x)g'(x)\,dx=0\end{align*}

であり,$g’$は連続だから微分積分学の基本定理より

\begin{align*}\int_{a}^{b}g'(x)\,dx=g(b)-g(a)=0\end{align*}

だから,

\begin{align*}&\int_{a}^{b}(f(x)-c)h(x)\,dx
\\&=\int_{a}^{b}(f(x)-c)(g'(x)+\alpha)\,dx
\\&=\int_{a}^{b}f(x)g'(x)\,dx-\int_{a}^{b}cg'(x)\,dx+\alpha\int_{a}^{b}(f(x)-c)\,dx
\\&=\alpha\bra{\int_{a}^{b}f(x)\,dx-c(b-a)}
=\alpha\cdot0=0\end{align*}

が成り立つ.

(4)の解答

$h(x):=f(x)-c$とおくと,$h$は連続なので

\begin{align*}\int_{a}^{b}(f(x)-c)^2\,dx=\int_{a}^{b}(f(x)-c)h(x)\,dx=0\end{align*}

が成り立つ.また,$x\mapsto(f(x)-c)^2$は非負値関数だから,(1)と併せて$(f(x)-c)^2\equiv0$すなわち$f(x)\equiv c$が従う.

補足((4)の泥臭い方法)

試験では焦ってしまい発見的な方法は意外と気付けないものです.そこで,念の為もう少し泥臭く解く方法も与えておきましょう.

(1)のアイディアを使いましょう.つまり,$f(p)>c$となる点$p\in[a,b]$が存在すれば,ある$\eta>0$が存在して

\begin{align*}x\in[a,b]\cap[p-\eta,p+\eta]
\Ra\frac{f(p)-c}{2}<f(x)-c\end{align*}

が成り立ちます.そこで,$(f(x)-c)h(x)$を積分して$p$付近だけを拾ってくるようにするために,$[q,r]:=[a,b]\cap[p-\eta,p+\eta]$とし,

\begin{align*}h(x)=\begin{cases}x-q,&q\le x\le \frac{q+r}{2}\\
-x+r,&\frac{q+r}{2}\le x\le r\\
0,&x\le q, r\le x\end{cases}\end{align*}

とおきましょう.

関数hに関するxy平面上のグラフy=h(x)
積分は$f(x)-c>0$となる$[q,r]$の部分だけ寄与し正となりそう

このように$h$をとると,

\begin{align*}\int_{a}^{b}(f(x)-c)h(x)\,dx
&\ge\frac{f(p)-c}{2}\int_{q}^{r}h(x)\,dx
\\&=\frac{f(p)-c}{2}\cdot\frac{(r-q)^2}{4}>0\end{align*}

となり,(3)に矛盾します.$f(p)<c$となる点$p\in[a,b]$が存在する場合も,$h$の正負を反転させれば同様に(3)に矛盾します.

第2問(線形代数学)

(1)は瞬殺したい問題で,(2)も実対称行列(二次形式)の典型問題です.(3)は実対称行列の性質を使って$W$をうまく書き換えることで解けます.

(3)はちょうど同じ年の京都大学の数学・数理解析専攻の大学院入試の基礎科目の第3問が類題として挙げられます.

$\R^3$を実数を成分とする3次列ベクトル全体からなる実線形空間とする:

\begin{align*}\R^3=\set{\m{x}=\pmat{x_1\\x_2\\x_3}}{x_1,x_2,x_3\in\R}.\end{align*}

$\R^3$の元$\m{x}$, $\m{y}$の標準内積を$\anb{\m{x},\m{y}}$で表し,$\|\m{x}\|=\sqrt{\anb{\m{x},\m{x}}}$とおく:

\begin{align*}\anb{\m{x},\m{y}}=\sum_{j=1}^{3}x_jy_j,\quad
\text{ただし}\quad\m{x}=\pmat{x_1\\x_2\\x_3},\ \m{y}=\pmat{y_1\\y_2\\y_3}\in\R^3.\end{align*}

3次の実正方行列全体のなす実線形空間を$V$とおき,$S=\pmat{2&2&3\\2&3&2\\3&2&2}\in V$とする.

  1. $S$の固有値を全て求めよ.
  2. 集合$\set{\anb{S\m{x},\m{x}}}{\m{x}\in\R^3\ \text{かつ}\ \|\m{x}\|=1}$の最大値を求めよ.
  3. $W=\set{SX-XS}{X\in V}$とおくとき,$W$が$V$の線形部分空間であることを示し,$W$の次元を求めよ.
出典:大阪大学 数学専攻「大学院入試 数学A」

解答の方針とポイント

実対称行列に関する問題の多くが直交行列で対角化可能であることを用いて解くものになっています.本問題もこのことを使い倒します.

対称的な行列の行列式は計算がラクになることがある

正方行列固有値固有方程式を解くことで求められますね.

$n$次複素正方行列$A$と$\lambda\in\C$に対して,次は同値である.

  1. $\lambda$は$A$の固有値である.
  2. $\lambda$は$A$の固有方程式$|xI-A|=0$の解である.

また,本問題の(1)の

\begin{align*}|xI-S|=\vmat{x-2&-2&-3\\-2&x-3&-2\\-3&-2&x-2}\end{align*}

のように対称な場合には,第2行以降を全て第1行に加えたり,第2列以降を全て第1行に加えたりすると行列式が計算しやすくなることがあります.

実際,本問題の$|xI-S|$の第2行と第3行を第1行に加えると

\begin{align*}|xI-S|=\vmat{x-7&x-7&x-7\\-2&x-3&-2\\-3&-2&x-2}=(x-7)\vmat{1&1&1\\-2&x-3&-2\\-3&-2&x-2}\end{align*}

と第1行から$x$が消えるので計算がかなりラクになります.

直交行列の定義と性質

「実対称行列の直交行列による対角化」を説明する前に直交行列についてまとめておきましょう.

実正方行列$P$が直交行列であるとは,$P^TP=PP^T=I$が成り立つことをいう.

実正方行列$P$に対して,$P$が直交行列であるための必要十分条件として次はよく知られているので,当たり前にしておきましょう.

$n$次実正方行列$P$に対して,次は同値である.

  • $P$は直交行列である.
  • $P=[\m{p}_1,\m{p}_2,\dots,\m{p}_n]$とおくとき,$\m{p}_1,\m{p}_2,\dots,\m{p}_n$は$\R^n$の正規直交基底である.
  • 任意の$\m{x},\m{y}\in\R^n$に対して,$\anb{P\m{x},P\m{y}}=\anb{\m{x},\m{y}}$が成り立つ.
  • 任意の$\m{x}\in\R^n$に対して,$\|P\m{x}\|=\|\m{x}\|$が成り立つ.

二次形式の標準化

実対称行列については,次の定理が極めて重要です.

$n$次実対称行列$A$に対して,ある$n$次直交行列$P$が存在して,$A$は$P$により対角化可能である.

$S$は実対称行列で$\anb{S\m{x},\m{x}}$は二次形式ですから$S$の直交行列による対角化を考えて標準化するというのが第1感です.すなわち,(1)で$S$の固有値が7,±1と求まるので,ある3次直交行列$P$が存在して

\begin{align*}P^{-1}SP=\bmat{7&0&0\\0&1&0\\0&0&-1}=:B\end{align*}

が成り立ちますから,

\begin{align*}\anb{S\m{x},\m{x}}=\m{x}^TS\m{x}=(P^T\m{x})^TB(P^T\m{x})\end{align*}

と書き換えられます.よって,$P^T\m{x}=\sbmat{p\\q\\r}$とおいて

\begin{align*}\anb{S\m{x},\m{x}}=7p^2+q^2-r^2\end{align*}

となります(二次形式の標準化).さらに,$\m{x}\in\R^3$に対して,$\|\m{x}\|=1$は$\|P^T\m{x}\|=1$と同値なので,$p^2+q^2+r^2=1$のもとで考えることになりますね.

以上より$p^2+q^2+r^2=1$のもとでの$7p^2+q^2-r^2$の最大値が求めるものですね.

二次形式$\anb{S\m{x},\m{x}}$の標準化$7p^2+q^2-r^2$が分かり,条件$\|\m{x}\|=1$を$p$, $q$, $r$の式で書ければ良いので,直交行列$P$を求める必要はありませんね.

線形部分空間$W$の書き換え

真面目に$W$の元$SX-XS$を考えるのは大変なので,やはり$S$の対角化で工夫できないか考えましょう.$S$を正則行列$P$で$B$に対角化できるとすると,

\begin{align*}SX-XS
&=(PBP^{-1})X-X(PBP^{-1})
\\&=P\{B(P^{-1}XP)-(P^{-1}XP)B\}P^{-1}
\\&=P(BY-YB)P^{-1}\end{align*}

となります($Y=P^{-1}XP$).$P$の正則性から,$X$が$V$上全体を動くとき$Y$も$V$全体を動くので

\begin{align*}W=\set{P(BY-YB)P^{-1}}{Y\in V}\end{align*}

となることが分かります.さらに,やはり$P$の正則性から

\begin{align*}W\cong\set{BY-YB}{Y\in V}\end{align*}

となります.ここまでくれば$B$が対角行列であることから$BY-YB$は比較的簡単に計算でき,次元$\dim{W}$は簡単に分かります.

本問題の(3)と(2)は独立です.とくに上の(2)の解法は$P$が直交行列であることが本質的に重要ですが,いまの(3)の解法では$P$が直交行列であることは必要ありません.

解答例

(1)の解答

$S$の固有多項式

\begin{align*}|xI-S|&=\vmat{x-2&-2&-3\\-2&x-3&-2\\-3&-2&x-2}
=\vmat{x-7&x-7&x-7\\-2&x-3&-2\\-3&-2&x-2}
\\&=(x-7)\vmat{1&1&1\\-2&x-3&-2\\-3&-2&x-2}
=(x-7)\vmat{1&1&1\\0&x-1&0\\0&1&x+1}
\\&=(x-7)(x-1)(x+1)\end{align*}

だから,$S$の固有値は$7,\pm1$である.

(2)の解答

$S$は実対称行列なので,$S$の固有値7,1,−1に属する標準ノルムが1の固有ベクトルをこの順に並べてできる実正方行列$P$は直交行列であり,

\begin{align*}P^{-1}SP=\operatorname{diag}(7,1,-1):=B\end{align*}

が成り立つ.また,$P$は直交行列なので$P^T$は直交行列(正則行列)だから,$\|P^T\m{x}\|=\|\m{x}\|$が成り立ち,$\R^3\to\R^3;\m{x}\mapsto P^T\m{x}$は全単射なので

\begin{align*}\set{\m{x}\in\R^3}{\|\m{x}\|=1}
=\set{P^T\m{x}\in\R^3}{\|P^T\m{x}\|=1}\end{align*}

である.そこで,$\m{x}\in\R^3$に対して,$P^T\m{x}=\sbmat{p\\q\\r}$とおくと

\begin{align*}\anb{S\m{x},\m{x}}
&=\m{x}^TS\m{x}
=\m{x}^T(PBP^{-1})\m{x}
\\&=(P^T\m{x})^TB(P^T\m{x})
=7p^2+q^2-r^2\end{align*}

となるから,これの$p^2+q^2+r^2=1$のもとでの最大値を求めればよい.

$p^2+q^2+r^2=1$のもとで

\begin{align*}7p^2+q^2-r^2
=6p^2-2r^2+1
\le 6p^2+1
\le 7\end{align*}

であり,$(p,q,r)=(1,0,0)$のときすべての不等号で等号が成り立つので,求める最大値は7である.

(3)の解答

$X\in V$に対して$SX-XS\in V$なので$W\subset V$である.また,$V$の零ベクトルは3次零行列$O$で,$SO-OS=O$なので$O\in W$が成り立つ.

さらに,任意に$Q,R\in W$と$k,\ell\in\R$をとる.このとき,ある$X,Y\in V$が存在して,$Q=SX-XS$, $R=SY-YS$が成り立つから

\begin{align*}kQ+\ell R
=k(SX-XS)+\ell(SY-YS)
=S(kX+\ell Y)-(kX+\ell Y)S\in W\end{align*}

なので,$W$は線形結合について閉じている.以上より,$W$は$V$の線形部分空間である.

(2)の$P$と$B$をとる.任意の$X\in V$に対して

\begin{align*}SX-XS
&=(PBP^{-1})X-X(PBP^{-1})
\\&=P\{B(P^{-1}XP)-(P^{-1}XP)B\}P^{-1}\end{align*}

が成り立つ.$P$, $P^{-1}$は正則行列だから,$V\to V;X\mapsto P^{-1}XP$は全単射なので,

\begin{align*}W=\set{P(BX-XB)P^{-1}}{X\in V}\end{align*}

が成り立つ.また,$W$と同様に$W’:=\set{BX-XB}{X\in V}$も$V$の線形部分空間であり,$P$, $P^{-1}$は正則行列だから

\begin{align*}W’\to W;BX-XB\mapsto P(BX-XB)P^{-1}\end{align*}

は同型だから$W\cong W’$が成り立つ.そこで,$X\in V$を$X=(x_{ij})_{i,j=1,2,3}$とすると,

\begin{align*}BX-XB
&=\bmat{7x_{11}&7x_{12}&7x_{13}\\x_{21}&x_{22}&x_{23}\\-x_{31}&-x_{32}&-x_{33}}
-\bmat{7x_{11}&x_{12}&-x_{13}\\7x_{21}&x_{22}&-x_{23}\\7x_{31}&x_{32}&-x_{33}}
\\&=\bmat{0&6x_{12}&8x_{13}\\-6x_{21}&0&2x_{23}\\-8x_{31}&-2x_{32}&0}\end{align*}

なので,$\dim W=\dim W’=6$である.

第3問(位相空間論)

位相空間論の基本的な概念と連続写像の性質に関する問題で,ひとつひとつの知識を丁寧に運用できるかが問われます.

全体的には(3)の$f(0)=0$かつ$f(1)=1$をみたす連続写像$f:I\to Y$が存在しないことを示す問題で,そのために誘導として(1)と(2)があります.

実数全体のなす集合を$\R$とする.$\R$に1次元ユークリッド空間としての位相を入れた位相空間を$X$とする.$\R$に

\begin{align*}\mathcal{O}=\set{U}{\text{$U\subset\R$であり,かつ$\R\setminus U$は高々可算な集合である}}\cup\{\emptyset,\R\}\end{align*}

を開集合系とする位相を入れた位相空間を$Y$とする.

  1. $A$を$\R$の無限部分集合とする.$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$を$A$の点列で,$n\neq m$ならば常に$a_n\neq a_m$をみたすものとする.さらに,任意の正の整数$n$に対して\begin{align*}U_n=\R\setminus\set{a_{n+k}}{k=0,1,2,\dots}\end{align*}と定める.このとき,$A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}U_n$となることを示せ.また,$A$は$Y$のコンパクト部分集合であるかどうか,理由をつけて答えよ.
  2. $B$を$\R$の有限部分集合とする.$B$が2つ以上の元を含むとき,$B$は$Y$の連結部分集合であるかどうか,理由をつけて答えよ.
  3. $X$の部分位相空間$\set{x\in X}{0\le x\le1}$を$I$とおく.連続写像$f:I\to Y$で,$f(0)=0$かつ$f(1)=1$をみたすものは存在しないことを示せ.
出典:大阪大学 数学専攻「大学院入試 数学A」

解答の方針とポイント

各問題のテーマとしては(1)はコンパクト集合,(2)は連結集合,(3)は連続写像とコンパクト集合・連結集合の関係です.

無限集合$A$を被覆する集合族$\{U_n\}_{n=1}^{\infty}$

本問題の(1)の前半の$U_n$は$\R$から点列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$の第$n$項以降を全て取り除いてできる集合です.

ℝの部分集合Uₙ, Uₙ₊₁, Uₙ₊₂
$n$が大きくなると$U_n$は単調に大きくなる

そのため,任意の点がある十分大きな$n$に対して$U_n$に属することになり,$\bigcup_{n=1}^{\infty}U_n=\R\supset A$となることが見てとれますね.

証明としては,集合の包含の定義通りに,任意の$a\in A$に対して$a\in\bigcup_{n=1}^{\infty}U_n$を示せばよいわけですが,これは

  • 任意の正の整数$n$に対して$a\neq a_n$のとき
  • ある正の整数$n$が存在して$a=a_n$のとき

に場合分けすればよいですね.

コンパクト集合は任意の開被覆に部分被覆が存在する集合

本問題の(1)の後半では無限集合$A$がコンパクトであるかどうかを考えますが,一般の位相空間でのコンパクト性は次のように定義されますね.

位相空間$(X,\mathcal{O})$に対して,$A\subset X$がコンパクト集合であるとは,$A\subset\bigcup_{\lambda\in\Lambda}U_\lambda$を満たす任意の開集合族$\{U_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$に対して,ある有限個の$\lambda_1,\dots,\lambda_r\in\Lambda$が存在して$A\subset\bigcup_{i=1}^{r}U_{\lambda_i}$が成り立つことをいう.

この定義は「位相空間$(X,\mathcal{O})$に対して,$A\subset X$がコンパクト集合であるとは,$A$の任意の開被覆に$A$の有限被覆が存在することをいう」と書いても同じことですね.

(1)の前半を誘導と考えると,$A$がコンパクトでないことが言えるのではないかと予想できます.すなわち,$\{U_n\}_{n=1}^{\infty}$が$A$の開被覆になっており,かつどの有限個の$U_n$をとってきても$A$を覆えないのではないかと予想できます.

コンパクト集合の定義の否定を考えて,「ある$A$の開被覆に,$A$の有限被覆が存在しない」とき$A$はコンパクトではないことになりますね.

実際,(1)の前半の点列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$と集合$U_n$に対して,

  • $\set{a_{n+k}}{k=0,1,2,\dots}$は高々可算な集合だから,$Y$の位相の定義から$U_n$は$Y$の開集合である.
  • 例えば$U_1\cup U_2\cup U_3=\R\setminus\{a_3,a_4,\dots\}$であるように,有限個の$U_n$しか取らなければ点列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$のある項以降はそれらの和集合には属さないので,部分被覆は存在しない.

ということが分かり,$A$はコンパクト集合ではありませんね.

連結集合はふたつの空でない開集合で分離できない集合

本問題の(2)では$B$が連結であるかどうかを考えますが,集合が連結であるとは直観的には「空でない開集合で分割されないこと」をいいますね.

位相空間$(X,\mathcal{O})$に対して,$B\subset X$が連結であるとは,次を全てみたす$X$の開集合$U_1$, $U_2$が存在しないことをいう:

\begin{align*}&B\subset U_1\cup U_2,\quad
B\cap U_1\cap U_2=\emptyset
\\&B\cap U_1\neq\emptyset,\quad
B\cap U_2\neq\emptyset.\end{align*}

ユークリッド空間においては元を2個以上もつ有限集合は連結ではありませんから,$Y$においても$B$は連結ではないと予想して,上の定義の条件を満たす$U_1$, $U_2$をとってくることを考えましょう.

$B$を覆う空でない集合として,$b\in B$をひとつとり$U_1:=B\setminus\{b\}$, $U_2:=\{b\}$とおくと連結性の定義の4条件を満たします.しかし,これらは$\R$から高々可算個の元を除いてできる集合ではありませんから,$Y$の開集合ではありません.

ところが,$U_1$にも$U_2$にも$B$でない元をどれだけ付け加えても連結性の定義の4条件は崩れませんから,

\begin{align*}U_1:=\R\setminus\{b\},\quad
U_2:=\R\setminus(B\setminus\{b\})\end{align*}

とおけば,これらは$Y$の開集合で連結性の定義の4条件を全て満たすので$B$は連結でないことが分かりますね.

連続写像はコンパクト性・連結性を保存する

(1)と(2)は$Y$での話なので,$f(I)\subset Y$について(1)と(2)を使うように誘導されているように見てとれます.(1)は無限集合に関する問題で,(2)は$Y$の有限集合に関する問題ですから,$f(I)$が無限集合のときと有限集合のときに場合分けしたくなります.

また,連続写像と集合のコンパクト性・連結性については,次の基本的な定理が成り立つのでした.

位相空間$(X,\mathcal{O})$, $(Y,\mathcal{O}’)$と連続写像$f:X\to Y$を考える.$X$の任意のコンパクト集合$A$に対して,$f(A)$は$Y$のコンパクト集合である.

位相空間$(X,\mathcal{O})$, $(Y,\mathcal{O}’)$と連続写像$f:X\to Y$を考える.$X$の任意の連結集合$B$に対して,$f(B)$は$Y$の連結集合である.

いずれもコンパクト性・連結性の定義と写像の連続性(開集合の引き戻しは開集合)からすぐに得られるので,ほとんどノータイムで証明できるレベルにはなっておきたいです.

以上のこと(と$f(I)$が2元以上もつこと)から,$f(I)$が無限集合でも有限集合でも矛盾することが分かりますね.

解答例

(1)の解答

任意に$a\in A$をとる.

  • 任意の正の整数$n$に対して$a\neq a_n$なら,$a\in U_1\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}U_n$である.
  • ある正の整数$n$が存在して$a=a_n$なら,$n\neq m$ならば$a=a_n\neq a_m$なので$a\in U_{n+1}\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}U_n$である.

いずれの場合も$a\in\bigcup_{n=1}^{\infty}U_n$だから$A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}U_n$が従う.

次に,$A$が$Y$のコンパクト集合でないことを以下で示す.$A$が無限集合であることから,問題(1)の前半の条件を満たす$A$の点列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$が存在し,$U_n$も問題(1)の前半で定めたものとする.

\begin{align*}\R\setminus U_n&=\R\setminus\bra{\R\setminus\set{a_{n+k}}{k=0,1,2,\dots}}
\\&=\set{a_{n+k}}{k=0,1,2,\dots}\end{align*}

は高々可算だから,$U_n$は$Y$の開集合である.よって,上で示したように$\{U_n\}_{n=1}^{\infty}$は$A$の$Y$における開被覆である.

ここで,任意に$U_{n_1},U_{n_2},\dots,U_{n_r}\in\{U_n\}_{n=1}^{\infty}$をとり,$n_*:=\max\{n_1,n_2,\dots,n_r\}$とおくと,

\begin{align*}a_{n_*}\notin\bigcup_{i=1}^{r}U_{n_i}\end{align*}

なので$\{U_{n_i}\}_{i=1}^{r}$は$A$を被覆しない.よって,$A$はコンパクト集合でない.

(2)の解答

$B$は$Y$の連結部分集合でないことを以下で示す.任意に$b\in B$をとり,$C:=B\setminus\{b\}$とする.$B$は元を2個以上もつから$C$は空でない有限集合であることに注意する.

\begin{align*}U_1:=\R\setminus\{b\},\quad
U_2:=\R\setminus C\end{align*}

とおくと,$U_1$, $U_2$は$Y$の開集合である.また,$C=B\cap U_1$, $\{b\}=B\cap U_2$なので$B\cap U_i\neq\emptyset$($i=1,2$)であり,

\begin{align*}&U_1\cup U_2
=(\R\setminus\{b\})\cup(\R\setminus C)
=\R\setminus(\{b\}\cap C)
=\R\supset B,
\\&B\cap U_1\cap U_2
=(B\cap U_1)\cap(B\cap U_2)
=C\cap\{b\}
=\emptyset\end{align*}

である.よって,$B$は$Y$の連結部分集合でない.

(3)の解答

背理法により示す.$f(0)=0$かつ$f(1)=1$をみたす連続写像$f:I\to Y$が存在すると仮定する.

$I$は$X$のコンパクト部分空間だから,$f$の連続性と併せて$f(I)$は$Y$のコンパクト部分集合なので,(1)より$f(I)$は有限集合である.また,$0,1\in f(I)$より$f(I)$は元を2個以上もつから,(2)より$f(I)$は$Y$の連結部分集合でない.

ところが,$I$は$X$の連結部分空間だから,$f$の連続性より$f(I)$は連結部分集合となり矛盾する.

よって,$f(0)=0$かつ$f(1)=1$をみたす連続写像$f:I\to Y$が存在しない.

第4問(複素解析学)

うまく定積分を複素積分に書き直し,複素積分を応用して広義積分を計算する典型的な問題です.

この手の問題は数学系の大学院入試では頻出中の頻出なので,方針は瞬時に立てられるようになっておきたいです.

虚数単位を$i$で表す.$a$を正の実数とし,複素関数

\begin{align*}f(z)=\frac{e^{iaz}-ae^{iz}+a-1}{z^3}\end{align*}

を考える.

  1. 孤立特異点$z=0$における$f(z)$のローラン展開の主要部を求めよ.
  2. $r>0$に対し,曲線$C_r$を$C_r:z=re^{it}$($0\le t\le\pi$)で定める.このとき$\lim\limits_{r\to+0}\dint_{C_r}f(z)\,dz$および$\lim\limits_{r\to\infty}\dint_{C_r}f(z)\,dz$の値を求めよ.
  3. 広義積分$\dint_{0}^{\infty}\dfrac{\sin{(ax)}-a\sin{x}}{x^3}\,dx$の値を求めよ.
出典:大阪大学 数学専攻「大学院入試 数学A」

解答の方針とポイント

「広義積分を複素積分の極限で表し,その複素積分の極限をコーシーの積分定理(や留数定理)を用いて計算する」という標準的な方法で解けます.

関数$f$のローラン展開

一般に,点$\alpha\in\C$の近傍で正則関数$g$の$\alpha$中心のテイラー展開

\begin{align*}g(z)=\sum_{n=0}^{\infty}a_n(z-\alpha)^n\end{align*}

と分かれば,複素関数$\frac{g(z)}{(z-\alpha)^r}$のローラン展開

\begin{align*}\frac{g(z)}{(z-\alpha)^r}=\sum_{n=0}^{\infty}a_n(z-\alpha)^{n-r}\end{align*}

となるので,本問題の(1)では$f(z)$の分子$e^{iaz}-ae^{iz}+a-1$を0中心でテイラー展開して$z^3$で割ればよいですね.

$e^{iaz}$と$e^{iz}$の$z=0$におけるテイラー展開は

\begin{align*}e^{iaz}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(iaz)^n}{n!},\quad
e^{iz}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(iz)^n}{n!}\end{align*}

で,これらは$\C$全体で絶対収束する(収束半径が$\infty$)ので$\C$全体で

\begin{align*}e^{iaz}-ae^{iz}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(a^n-a)(iz)^n}{n!}\end{align*}

となります.よって,$f$の分子$e^{iaz}-ae^{iz}+a-1$のテイラー展開は定数項と1次の項が0になり

\begin{align*}\frac{a(1-a)z^2}{2}+\sum_{n=3}^{\infty}\frac{a(a^{n-1}-1)(iz)^n}{n!}\end{align*}

となります.

最終目標の(3)の広義積分の被積分関数$\frac{\sin{(ax)}-a\sin{x}}{x^3}$は$\operatorname{Im}f(x)$($x\in\R$)です.$f$の分子に実数を加えても$\operatorname{Im}f(x)$は変わらないので,(1)のローラン展開の定数項が0になるように最初から$f(z)$の分子に$a-1$があるわけですね.

$r\approx0$のときの$C_r$上の積分

直観的には,$|z|\approx0$なら本問題の(1)のローラン展開の非負の項は有界で,また$C_r$の長さが$\pi r$であることと併せて,

\begin{align*}\lim_{r\to+0}\int_{C_r}\sum_{n=3}^{\infty}\frac{a(a^{n-1}-1)i^n}{n!}z^{n-3}\,dz=0\end{align*}

となることが予想できますね.実際,$|z|\le1$なら

\begin{align*}\abs{\sum_{n=3}^{\infty}\frac{a(a^{n-1}-1)i^n}{n!}z^{n-3}}
\le\sum_{n=0}^{\infty}\frac{a^n+a}{n!}
=e^a+ae\end{align*}

なので,

\begin{align*}\abs{\int_{C_r}\sum_{n=3}^{\infty}\frac{a(a^{n-1}-1)i^n}{n!}z^{n-3}\,dz}
&\le\int_{C_r}(e^a+ae)\,|dz|
\\&=\pi r(e^a+ae)\xrightarrow[]{r\to+0}0\end{align*}

となります.

複素関数$F$に対して,$\int_{C_r}F(z)\,|dz|$に慣れていない人は,$\int_{C_r}F(z)\,dz=\int_{0}^{\pi}F(re^{it})\cdot ire^{it}\,dt$と書き換えてから三角不等式を使うとよいです.

よって,あとは$\lim\limits_{r\to+0}\int_{C_r}\frac{a(1-a)}{2z}\,dz$を計算すればよいですね.

$r$が十分大きいときの$C_r$上の積分

直観的には,$r=|z|$が十分大きいなら$|f(z)|$の分母$|z|^3=r^3$は大きく,一方$|e^{iaz}-ae^{iz}+a-1|$は大きくないので$|f(z)|$は大体$r^{-3}$程度のオーダーです.よって,$C_r$の長さが$\pi r$であることと併せて,

\begin{align*}\abs{\int_{C_r}f(z)\,dz}
&\le\int_{C_r}|f(z)|\,|dz|
\\&\sim\pi r\cdot\frac{1}{r^3}\xrightarrow[]{r\to\infty}0\end{align*}

となることがみてとれますね.

なお,これは「$|f(re^{it})|$の分子$|e^{iare^{it}}-ae^{ire^{it}}+a-1|$を三角不等式・オイラーの公式を用いて上から評価する」という標準的な方法で正当化できます.

広義積分を複素積分の極限で表す

下図のように積分経路を設定します.

複素平面ℂ上の積分経路
目標の広義積分は$L_{r,R}$上の積分の極限で表せる

このとき,本問題の(3)で求める広義積分は

\begin{align*}\int_{0}^{\infty}\dfrac{\sin{(ax)}-a\sin{x}}{x^3}\,dx
=\lim_{\substack{r\to+0\\R\to\infty}}\int_{L_{r,R}}\operatorname{Im}f(z)\,dz\end{align*}

と表せますね.また,

\begin{align*}\lim_{r\to+0}\int_{C_r}f(z)\,dz,\quad
\lim_{R\to\infty}\int_{C_R}f(z)\,dz\end{align*}

は本問題の(2)から求められます.

ここでの$C_r$は(2)で定めたものと向きが逆なので,(2)の結果の−1倍となります.

よって,あとは

\begin{align*}\lim_{\substack{r\to+0\\R\to\infty}}\int_{L’_{r,R}}\operatorname{Im}f(z)\,dz\end{align*}

について考える必要があります.$L_{r,R}$と$L’_{r,R}$は集合として原点対称であり,$\overline{f(x)}=-f(-x)$であることから,変数変換$\R\setminus\{0\}\to\R\setminus\{0\};x\mapsto-x$を用いると

\begin{align*}\int_{L’_{r,R}}f(z)\,dz=-\int_{L_{r,R}}\overline{f(z)}\,dz\end{align*}

となることが分かります.よって,

\begin{align*}2i\int_{L_{r,R}}\operatorname{Im}f(z)\,dz
=\int_{L_{r,R}\cup C_R\cup L’_{r,R}\cup C_r}f(z)\,dz-\int_{C_R}f(z)\,dz-\int_{C_r}f(z)\,dz\end{align*}

と書き換えられるので,コーシーの積分定理より全経路$L_{r,R}\cup C_R\cup L’_{r,R}\cup C_r$での複素積分が0であることを併せて,目標の広義積分が計算できます.

解答例

(1)の解答

$e^{iaz}$と$e^{iz}$の$z=0$におけるテイラー展開

\begin{align*}e^{iaz}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(iaz)^n}{n!},\quad
e^{iz}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(iz)^n}{n!}\end{align*}

であり,これらの収束半径が$\infty$であることに注意すると,任意の$z\in\C$に対して

\begin{align*}&e^{iaz}-ae^{iz}+a-1
\\&=\bra{1+iaz-\frac{a^2z^2}{2}+\sum_{n=3}^{\infty}\frac{(iaz)^n}{n!}}
\\&\quad-a\bra{1+iz-\frac{z^2}{2}+\sum_{n=3}^{\infty}\frac{(iz)^n}{n!}}+a-1
\\&=\frac{a(1-a)z^2}{2}+\sum_{n=3}^{\infty}\frac{a(a^{n-1}-1)(iz)^n}{n!}\end{align*}

が成り立つ.よって,孤立特異点$z=0$における$f(z)$のローラン展開

\begin{align*}f(z)=\frac{a(1-a)}{2z}+\sum_{n=3}^{\infty}\frac{a(a^{n-1}-1)i^n}{n!}z^{n-3}\end{align*}

であり,この主要部は$\frac{a(1-a)}{2z}$である.

(2)の解答

$\lim\limits_{r\to+0}\dint_{C_r}f(z)\,dz$を求める.$|z|\le1$なら

\begin{align*}\abs{\sum_{n=3}^{\infty}\frac{a(a^{n-1}-1)i^n}{n!}z^{n-3}}
&\le\sum_{n=3}^{\infty}\frac{|a(a^{n-1}-1)i^nz^{n-3}|}{|n!|}
\\&\le\sum_{n=3}^{\infty}\frac{a^n+a}{n!}
\\&\le\sum_{n=0}^{\infty}\frac{a^n+a}{n!}
=e^a+ae\end{align*}

なので,

\begin{align*}&\abs{\int_{C_r}\sum_{n=3}^{\infty}\frac{a(a^{n-1}-1)i^n}{n!}z^{n-3}\,dz}
\\&\le\int_{C_r}\abs{\sum_{n=3}^{\infty}\frac{a(a^{n-1}-1)i^n}{n!}z^{n-3}}\,|dz|
\\&\le(e^a+ae)\int_{C_r}\,|dz|
\\&=\pi(e^a+ae)r\xrightarrow[]{r\to+0}0\end{align*}

が従う.また,$z=re^{it}$のとき$\frac{dz}{dt}=ire^{it}=iz$なので,$r$によらず

\begin{align*}\int_{C_r}\frac{a(1-a)}{2z}\,dz
=\int_{0}^{\pi}\frac{a(1-a)i}{2}\,dt
=\frac{a(1-a)i\pi}{2}\end{align*}

である.よって,$\lim\limits_{r\to+0}\dint_{C_r}f(z)\,dz=\frac{a(1-a)i\pi}{2}$が従う.

$\lim\limits_{r\to\infty}\dint_{C_r}f(z)\,dz$を求める.$z=re^{it}$のとき$\frac{dz}{dt}=ire^{it}$なので,

\begin{align*}\abs{\int_{C_r}f(z)\,dz}
=\abs{\int_{0}^{\pi}f(re^{it})\cdot ire^{it}\,dt}
\le\int_{0}^{\pi}r|f(re^{it})|\,dt\end{align*}

である.また,

\begin{align*}|f(re^{it})|&=\frac{|e^{iare^{it}}-ae^{ire^{it}}+a-1|}{|r^3e^{3it}|}
\\&\le\frac{|e^{iar(\cos{t}+i\sin{t})}|+a|e^{ir(\cos{t}+i\sin{t})}|+a+1}{r^3}
\\&=\frac{e^{-ar\sin{t}}+ae^{-r\sin{t}}+a+1}{r^3}
\\&\le\frac{1+a+a+1}{r^3}
=\frac{2+2a}{r^3}\end{align*}

である.ただし,2つ目の不等号では$0\le t\le\pi$より$\sin{t}\ge0$であることに注意.以上を併せると

\begin{align*}\abs{\int_{C_r}f(z)\,dz}
\le\int_{0}^{\pi}\frac{2+2a}{r^2}\,dt
=\frac{(2+2a)\pi}{r^2}\xrightarrow[]{r\to\infty}0\end{align*}

なので,$\lim\limits_{r\to\infty}\dint_{C_r}f(z)\,dz=0$が従う.

(3)の解答

$r,R>0$は$r<R$を満たすとし,4つの曲線

  • $L_{r,R}:z=x$($r\le x\le R$)
  • $L’_{r,R}:z=x$($-R\le x\le-r$)
  • $C_r:z=re^{i(\pi-\theta)}$($0\le\theta\le\pi$)
  • $C_R:z=Re^{i\theta}$($0\le\theta\le\pi$)

を定め,これらを併せてできる閉曲線を$\Gamma_{r,R}$と定める.

\begin{align*}\int_{0}^{\infty}\frac{\sin{(ax)}-a\sin{x}}{x^3}\,dx
&=\lim_{\substack{r\to+0\\R\to\infty}}\int_{r}^{R}\frac{\sin{(ax)}-a\sin{x}}{x^3}\,dx
\\&=\lim_{\substack{r\to+0\\R\to\infty}}\int_{L_{r,R}}\frac{\sin{(az)}-a\sin{z}}{z^3}\,dz
\\&=\lim_{\substack{r\to+0\\R\to\infty}}\int_{L_{r,R}}\operatorname{Im}f(z)\,dz\end{align*}

である.$x\in\R\setminus\{0\}$に対して$\overline{f(x)}=-f(-x)$だから

\begin{align*}\int_{L_{r,R}}\overline{f(z)}\,dz
&=\int_{r}^{R}\overline{f(x)}\,dx
=-\int_{r}^{R}f(-x)\,dx
\\&=-\int_{-r}^{-R}f(x)\,(-dx)
=-\int_{-R}^{-r}f(x)\,dx
\\&=-\int_{L’_{r,R}}f(z)\,dz\end{align*}

なので,

\begin{align*}\int_{L_{r,R}}\operatorname{Im}f(z)\,dz
&=\int_{L_{r,R}}\frac{f(z)-\overline{f(z)}}{2i}\,dz
\\&=\frac{1}{2i}\int_{L_{r,R}\cup L’_{r,R}}f(z)\,dz\end{align*}

である.また,閉曲線$\Gamma_{r,R}$の周および内部は$f$の正則領域$\C\setminus\{0\}$に含まれるからコーシーの積分定理より$\int_{\Gamma_{r,R}}f(z)\,dz=0$なので,

\begin{align*}\int_{L_{r,R}\cup L’_{r,R}}f(z)\,dz
=-\int_{C_r\cup C_R} f(z)\,dz\end{align*}

となる.以上と(2)を併せて,

\begin{align*}&\int_{0}^{\infty}\frac{\sin{(ax)}-a\sin{x}}{x^3}\,dx
\\&=-\frac{1}{2i}\lim_{\substack{r\to+0\\R\to\infty}}\int_{C_r\cup C_R}f(z)\,dz
=\frac{a(1-a)\pi}{4}\end{align*}

を得る.ただし,最後の等号では(3)の$C_r$は(2)の$C_r$と向きが逆であることに注意.

参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

管理人

プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.公式LINEを友達登録で【限定プレゼント】配布中.

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