2026年度の東京大学 数理科学研究科の大学院入試問題の専門科目Aの解答の方針と解答例です.
問題は7題あり,必答問題は第1・2問で,残りの第3〜7問から2問を選択して解答します.試験時間は3時間です.この記事では,第1〜7問について解説しています.
ただし,公式に採点基準などは発表されていないため,本稿の解答が必ずしも正解になるとは限りません.ご注意ください.
また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.
なお,最近の過去問は東京大学の数理科学研究科のホームページから入手できます.
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第1問:微分積分学
第1問は必答問題です.この第1問は難易度は高くないですが,計算問題なので丁寧に解いて確実に正解したい問題です.
重積分
\begin{align*}I=\iint_D\frac{\min\{x^2,1-y^2\}}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy\end{align*}
の値を求めよ.ただし
\begin{align*}D=\set{(x,y)\in\R^2}{x^2+y^2\le3}\end{align*}
である.
重積分の計算問題です.真面目に計算することもできますが,少し面倒なので工夫してラクをしたいです.
解答の方針とポイント
$D$が円板であることと,被積分関数の分母に$x^2+y^2$があることから極座標変換を瞬時に思い付きたい問題です.また,$\min$は領域の分割で処理しましょう.
積分領域の分割
被積分関数に絶対値が含まれている場合は積分領域を分けて考えるように,$\min$がある場合も積分領域を分けると良さそうです.つまり
- $x^2\le1-y^2$を満たす領域$D_1$(原点中心の閉円板)
- $x^2\ge1-y^2$を満たす領域$D_2$(原点中心の閉円環領域)
に分けて,それぞれで積分すれば良く
\begin{align*}I=\iint_{D_1}\frac{x^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy+\iint_{D_2}\frac{1-y^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy\end{align*}
となりますね.
極座標変換による計算の工夫
重積分の極座標変換は
- 積分領域が円板または扇形であるとき
- 被積分関数に$x^2+y^2$が含まれているとき
に有効であることが多いですね.本問題もこれらに当てはまるので極座標変換をしたいところです.ところが$D_1$, $D_2$で素直に極座標変換すると分子に$\cos^2{\theta}$や$1-r^2\sin^2{\theta}$が現れるので計算が少々面倒です.
そこで,$D_1$での積分は対称性より
\begin{align*}I_1:=\iint_{D_1}\frac{x^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy=\iint_{D_1}\frac{y^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy\end{align*}
であることから,
\begin{align*}2I_1=\iint_{D_1}\frac{x^2+y^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy\end{align*}
が成り立ちますから,ここから極座標変換すれば$\theta$が現れず処理がラクになります.$D_2$での積分も同様に対称性から計算がラクになります.
解答例
有界閉集合$D_1,D_2\subset D$を
\begin{align*}&D_1:=\set{(x,y)\in D}{x^2+y^2\le1},
\\&D_2:=\set{(x,y)\in D}{x^2+y^2\ge1}\end{align*}
で定めると,$D_1\cap D_2$は零集合かつ$D=D_1\cup D_2$であり
- $(x,y)\in D_1$なら$\min\{x^2,1-y^2\}=x^2$
- $(x,y)\in D_2$なら$\min\{x^2,1-y^2\}=1-y^2$
だから,
\begin{align*}I=\iint_{D_1}\frac{x^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy+\iint_{D_2}\frac{1-y^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy\end{align*}
である.$x$, $y$の対称性より
\begin{align*}&I_1:=\iint_{D_1}\frac{x^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy=\iint_{D_1}\frac{y^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy,
\\&I_2:=\iint_{D_2}\frac{1-y^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy=\iint_{D_2}\frac{1-x^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy\end{align*}
であり,極座標変換$x=r\cos{\theta}$, $y=r\sin{\theta}$より
\begin{align*}2I_1
&=\iint_{D_1}\frac{x^2+y^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy
\\&=\int_{0}^{2\pi}\bra{\int_{0}^{1}\frac{r^2}{(1+r^2)^3}\cdot r\,dr}\,d\theta
\\&=\pi\int_{0}^{1}\bra{\frac{1}{(1+r^2)^2}-\frac{1}{(1+r^2)^3}}\cdot2r\,dr
\\&=\pi\brc{-\frac{1}{1+r^2}+\frac{1}{2(1+r^2)^2}}_{0}^{1}
\\&=\pi\bra{\bra{-\frac{1}{2}+\frac{1}{8}}-\bra{-1+\frac{1}{2}}}
=\frac{\pi}{8},
\\2I_2&=\iint_{D_2}\frac{2-x^2-y^2}{(1+x^2+y^2)^3}\,dxdy
\\&=\int_{0}^{2\pi}\bra{\int_{1}^{\sqrt{3}}\frac{2-r^2}{(1+r^2)^3}\cdot r\,dr}\,d\theta
\\&=\pi\int_{1}^{\sqrt{3}}\bra{\frac{3}{(1+r^2)^3}-\frac{1}{(1+r^2)^2}}\cdot 2r\,dr
\\&=\pi\brc{-\frac{3}{2(1+r^2)^2}+\frac{1}{1+r^2}}_{1}^{\sqrt{3}}
\\&=\pi\bra{\bra{-\frac{3}{32}+\frac{1}{4}}-\bra{-\frac{3}{8}+\frac{1}{2}}}
=\frac{\pi}{32}\end{align*}
となるから,
\begin{align*}I=I_1+I_2=\frac{\pi}{16}+\frac{\pi}{64}=\frac{5\pi}{64}\end{align*}
を得る.
第2問:線形代数学
第2問は必答問題です.この第2問は易しいので落としてはいけません.
$a,b\in\R$とする.
\begin{align*}A=\pmat{a&1&1&0\\-2&0&1&1\\0&1&2&1\\-2&0&1&1},\qquad
B=\pmat{4&b&2&3\\1&0&1&1\\3&b&1&2\\-2&-b&0&-1}\end{align*}とおく.線型写像$f_A:\R^4\to\R^4$および$f_B:\R^4\to\R^4$を,$\m{v}\in\R^4$に対して$f_A(\m{v})=A\m{v}$および$f_B(\m{v})=B\m{v}$とおくことによって定める.
- $f_A$の像$\operatorname{Im}f_A$の実線型空間としての次元を求めよ.
- $\operatorname{Ker}f_B$を$f_B$の核とする.$\R^4=\operatorname{Im}f_A\oplus \operatorname{Ker}f_B$となるための$a$, $b$に対する必要十分条件を求めよ.
線形写像の像と核に関する問題です.$f_A$も$f_B$も行列を左からかける線形写像なので,行列の行基本変形により解くことができます.
解答の方針とポイント
実$m\times n$行列$X$を左からかける線形写像を$f_X:\R^n\to\R^m$とすると,
\begin{align*}\operatorname{Im}f_X=\operatorname{Im}X,\quad
\operatorname{Ker}f_X=\operatorname{Ker}X\end{align*}
が成り立ちます.行列の像と行列の核は当たり前に求められるようにしておきましょう.
行列の像と核
実$m\times n$行列$A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]$に対して
\begin{align*}\operatorname{Im}A=\operatorname{span}(\m{a}_1,\dots,\m{a}_n)\end{align*}
が成り立つ.
これは$\R^n$の標準基底$(\m{e}_1,\dots,\m{e}_n)$に対して
\begin{align*}A(c_1\m{e}_1+\dots+c_n\m{e}_n)
&=c_1A\m{e}_1+\dots+c_nA\m{e}_n
\\&=c_1\m{a}_1+\dots+c_n\m{a}_n\end{align*}
となるためですね.また,$\operatorname{span}(\m{a}_1,\dots,\m{a}_n)$の基底は次の事実から得られますね.
行基本変形により行列をなす列ベクトルの線形関係は不変である.すなわち,行基本変形により行列$[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]$と$[\m{a}’_1,\dots,\m{a}’_n]$が移り合うなら,$\m{a}_1,\dots,\m{a}_n$の線形関係と$\m{a}’_1,\dots,\m{a}’_n$の線形関係は一致する.
階段行列(簡約行列)$[\m{a}’_1,\dots,\m{a}’_n]$に行基本変形すれば$\m{a}’_1,\dots,\m{a}’_n$のどれが線形独立であるかが分かり,上の命題から$\m{a}_1,\dots,\m{a}_n$の対応するベクトルたちが線形独立であることが分かります.
これにより$\operatorname{span}(\m{a}_1,\dots,\m{a}_n)$の基底が得られますね.

一方,$m\times n$行列$A$の核は連立1次方程式$A\m{x}=\m{0}_m$($\m{x}\in\R^n$)の解集合ですから,この連立1次方程式を解けばよいですね.
具体的には$A$を行基本変形により簡約行列に変形して,主成分をもたない列に対応する未知数に任意定数をおくことで,全ての解を表すことができますね.

部分空間の直和
必要十分条件を求める問題では,必要条件から攻めるのが常套手段ですね.
$\R^4=\operatorname{Im}f_A\oplus \operatorname{Ker}f_B$が成り立つとすると,両辺の次元を比較して$4=\dim\operatorname{Im}f_A+\dim\operatorname{Ker}f_B$であることが必要で,右辺の各項が
\begin{align*}\dim\operatorname{Im}f_A=\begin{cases}2,&a=2,\\3,&a\neq2,\end{cases}\quad
\dim\operatorname{Ker}f_B=2\end{align*}
と求まることと併せて$a=2$と分かります.これより$\operatorname{Im}f_A$の基底$\bra{\sbmat{1\\1\\2\\1},\sbmat{0\\1\\1\\1}}$が得られます.
また$\operatorname{Ker}f_B$の基底$\bra{\sbmat{-b\\1\\0\\b},\sbmat{1\\0\\1\\-2}}$も求まるので,$\operatorname{Im}f_A\oplus \operatorname{Ker}f_B$ならこれら4つの列ベクトルが線形独立となりますから,これより$b$の条件が得られます.
最後に逆(十分性)を示せばよいですね.
解答例
$f_A$の像と核は
\begin{align*}&\operatorname{Im}f_A=\set{f_A(\m{u})\in\R^4}{\m{u}\in\R^4}=\set{A\m{u}\in\R^4}{\m{u}\in\R^4}=\operatorname{Im}A,
\\&\operatorname{Ker}f_A=\set{\m{u}\in\R^4}{f_A(\m{u})=\m{0}_4}=\set{\m{u}\in\R^4}{A\m{u}=\m{0}_4}=\operatorname{Ker}A\end{align*}
となる.また,同様に$\operatorname{Im}f_B=\operatorname{Im}B$, $\operatorname{Ker}f_B=\operatorname{Ker}B$が成り立つ.
(1)の解答
$\dim\operatorname{Im}f_A=\dim\operatorname{Im}A=\operatorname{rank}A$である.また,行基本変形により
\begin{align*}A\to\bmat{a&1&1&0\\-2&0&1&1\\2&1&1&0\\0&0&0&0}
\to\bmat{a-2&0&0&0\\-4&-1&0&1\\2&1&1&0\\0&0&0&0}\end{align*}
と変形できるから,
\begin{align*}\dim\operatorname{Im}f_A=\begin{cases}2,&a=2,\\3,&a\neq2\end{cases}\end{align*}
である.
(2)の解答
行基本変形により
\begin{align*}B\to\bmat{1&0&1&1\\0&b&-2&-1\\0&b&-2&-1\\0&-b&2&1}
\to\bmat{1&b&-1&0\\0&b&-2&-1\\0&0&0&0\\0&0&0&0}\end{align*}
と変形できるから,連立1次方程式$B\m{x}=\m{0}$は
\begin{align*}x=-by+z,\quad
w=by-2z\end{align*}
と解ける.よって,
\begin{align*}\operatorname{Ker}f_B
&=\operatorname{Ker}B
=\set{y\sbmat{-b\\1\\0\\b}+z\sbmat{1\\0\\1\\-2}}{y,z\in\R}
\\&=\operatorname{span}\bra{\sbmat{-b\\1\\0\\b},\sbmat{1\\0\\1\\-2}}\end{align*}
となり,$\sbmat{-b\\1\\0\\b}$と$\sbmat{1\\0\\1\\-2}$は平行でないから$\operatorname{Ker}f_B$の基底は$\bra{\sbmat{-b\\1\\0\\b},\sbmat{1\\0\\1\\-2}}$である.
よって,$\R^4=\operatorname{Im}f_A\oplus \operatorname{Ker}f_B$となるなら
\begin{align*}\dim\operatorname{Im}f_A=\dim\R^4-\dim\operatorname{Ker}f_B=4-2=2\end{align*}
だから,(1)と併せて$a=2$が必要である.
さらに,行基本変形により行列をなす列ベクトルの線形関係は不変だから,$a=2$なら(1)より$\operatorname{Im}f_A$の基底は$\bra{\sbmat{1\\1\\2\\1},\sbmat{0\\1\\1\\1}}$だから,
\begin{align*}\bmat{-b\\1\\0\\b},\ \bmat{1\\0\\1\\-2},\ \bmat{1\\1\\2\\1},\ \bmat{0\\1\\1\\1}\end{align*}
が線形独立であることが必要である.これらの列ベクトルを並べてできる行列を行基本変形すると
\begin{align*}&\bmat{-b&1&1&0\\1&0&1&1\\0&1&2&1\\b&-2&1&1}
\to\bmat{-b&1&1&0\\1&0&1&1\\0&1&2&1\\0&-1&2&1}
\to\bmat{-b&1&1&0\\1&0&1&1\\-1&1&1&0\\-1&-1&1&0}
\\&\to\bmat{1-b&0&0&0\\1&0&1&1\\-1&1&1&0\\0&-2&0&0}
\to\bmat{1-b&0&0&0\\1&0&1&1\\-1&1&1&0\\0&1&0&0}\end{align*}
なので$b\neq1$であることが必要である.
逆に$a=2$かつ$b\neq1$なら,$\operatorname{Im}f_A$の基底は$\bra{\sbmat{1\\1\\2\\1},\sbmat{0\\1\\1\\1}}$で,$\operatorname{Ker}f_B$の基底は$\bra{\sbmat{-b\\1\\0\\b},\sbmat{1\\0\\1\\-2}}$であり,これら4つの列ベクトルは線形独立だから$\R^4=\operatorname{Im}f_A\oplus \operatorname{Ker}f_B$となる.
以上より,求める必要十分条件は$a=2$かつ$b\neq1$である.
第3問:微分積分学
第3問は選択問題です.一見してどういうことをすればよいかはパッと見えますが,(3)の証明のアイディアは少々難しいです.
実数$x$についてのべき級数
\begin{align*}\sum_{k=0}^{\infty}c_kx^k\end{align*}
を考える.ただし,$\{c_k\}_{k=0}^{\infty}$は
\begin{align*}\lim_{k\to\infty}kc_k=0\end{align*}
を満たす実数列とする.
- べき級数$\sum_{k=0}^{\infty}c_kx^k$の収束半径は1以上であることを示せ.
- 任意の$x\in(0,1)$に対して\begin{align*}f(x)=\sum_{k=0}^{\infty}c_kx^k\end{align*}とおく.このとき,任意の$n=0,1,2,\dots$に対して\begin{align*}\abs{f(x)-\sum_{k=0}^{n}c_k}\le(1-x)\sum_{k=0}^{n}k|c_k|+\sum_{k=n+1}^{\infty}|c_k|x^k\end{align*}がなりたつことを示せ.
- 区間$(0,1)$上の(2)で定めた関数$f$を考える.ある実数$L$が存在し\begin{align*}\lim_{x\to1-0}f(x)=L\end{align*}がなりたつならば\begin{align*}\sum_{k=0}^{\infty}c_k=L\end{align*}となることを示せ.
アーベルの連続性定理の逆に関する問題ですね.
アーベルの連続性定理の逆は無条件では成り立たず,逆が成り立つためには何らかの条件が必要です.本問題は係数$c_k$が$\lim\limits_{k\to\infty}kc_k=0$を満たせば,アーベルの連続性定理の逆が成り立つことを示す問題です.
解答の方針とポイント
メインは(3)です.(1)は$|x|<1$で(3)の$f(x)$が定義できることを保証し,(2)は(3)を解くための補題になっています.
アーベルの連続性定理
本問題を解くには必要ありませんが,アーベルの連続性定理を簡単に説明しておきます.
[アーベルの連続性定理]原点中心の冪級数$f(x)$の収束半径は1であるとする.このとき,点$x=1$で収束すれば,$\lim\limits_{x\to1-0}f(x)=f(1)$が成り立つ.
原点中心の冪級数$f(x)$の収束半径が1であるとき,$|x|<1$では収束し$|x|>1$で発散しますが$|x|=1$では収束することも発散することもあります.ところが,「$x=1$で収束すれば$f(x)$は$x=1$で連続である」ということを述べているのがアーベルの連続性定理というわけです.
(3)では$\lim\limits_{x\to1-0}f(x)=L$に近付くなら,$f(1)=\sum_{k=0}^{\infty}c_k=L$であることを示すので,アーベルの定理の逆を示す問題になっています.
ところが,アーベルの連続性定理の逆は成り立たないため,逆が成り立つには何らかの追加の条件が必要です.本問題は条件$\lim\limits_{k\to\infty}kc_k=0$を追加することでアーベルの連続性定理の逆が成り立つことを示す問題になっているわけですね.
アーベルの連続性定理の逆が成り立たないことの反例として$f(x)=1-x+x^2-x^3+\dots$が挙げられます.この冪級数の収束半径は1で$f(x)=\frac{1}{1+x}$($|x|<1$)となるので$\lim\limits_{x\to1-0}f(x)=\frac{1}{2}$が成り立ちますが,$f(1)=1-1+1-1+\dots$は発散します.
冪級数の収束半径(コーシー-アダマールの公式)
次のコーシー-アダマールの公式は冪級数の収束半径を求める基本公式です.
冪級数$f(x)=\sum_{k=0}^{\infty}c_kx^k$に対して,
\begin{align*}\varlimsup_{k\to\infty}\sqrt[k]{|c_k|}=\frac{1}{R}\end{align*}
が成り立つとき, $f(x)$の収束半径は$R$である.ただし,左辺が0のときは$R=\infty$,左辺が$\infty$のときは$R=0$とみなす.
本問題の(1)では$c_k$の条件$\lim\limits_{k\to\infty}kc_k=0$が与えられていることから,十分大きな$k\in\N$で$|c_k|<\frac{1}{k}$が成り立つので,$\varlimsup\limits_{k\to\infty}\sqrt[k]{1/k}$から収束半径が評価できますね.
目標の形と比較する
本問題の(2)では$f(x)$を代入すると
\begin{align*}\abs{f(x)-\sum_{k=0}^{n}c_k}=\abs{\sum_{k=0}^{\infty}c_kx^k-\sum_{k=0}^{n}c_k}\end{align*}
となります.目標の形が$k\le n$での和と$k>n$での和に分かれていますから,
\begin{align*}\sum_{k=0}^{\infty}c_kx^k=\sum_{k=0}^{n}c_kx^k+\sum_{k=n+1}^{\infty}c_kx^k\end{align*}
に分けて,三角不等式を用いてそれぞれの項を評価すれば良いですね.
アーベルの連続性定理の逆が成り立つには追加の条件が必要
本問題の(3)で$|\sum_{k=0}^{n}c_k-L|$を考えるわけですが,$x\to1-0$で$|f(x)-L|\to0$となることと(2)を併せて
\begin{align}|\sum_{k=0}^{n}c_k-L|
&\le|f(x)-L|+\abs{f(x)-\sum_{k=0}^{n}c_k}\notag
\\&\le|f(x)-L|+(1-x)\sum_{k=1}^{n}k|c_k|+\sum_{k=n+1}^{\infty}|c_k|x^k\label{ineq:prob_3}\end{align}
と評価することはすぐに思い付きます.よって,この最右辺が$n\to\infty$で0に収束することを示せば良いですね.ただし,
- アーベルの連続性定理の逆は無条件には成り立たない
- 不等式\eqref{ineq:prob_3}を得るには条件$\lim\limits_{k\to\infty}kc_k=0$を使っていない
ことから,不等式\eqref{ineq:prob_3}に少なくとも条件$\lim\limits_{k\to\infty}kc_k=0$を併せないと証明できないことになります.
収束する実数列のチェザロ平均も収束する
このように考えると,不等式\eqref{ineq:prob_3}第2項の$(1-x)\sum_{k=0}^{n}k|c_k|$に$kc_k$が現れていることから,ここで条件$\lim\limits_{k\to\infty}kc_k=0$が活きてきそうです.
ここで思い付くのが実数列$\{n|c_n|\}_{n=0}^{\infty}$のチェザロ平均$\frac{1}{n+1}\sum_{k=0}^{n}k|c_k|$で,チェザロ平均については次の性質が有名ですね.
実数列$\{a_n\}$は$\alpha\in\R$に収束するとする.このとき,実数列$\{a_n\}$のチェザロ平均は$\alpha$に収束する:
\begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}a_k=\alpha\end{align*}

したがって,不等式\eqref{ineq:prob_3}の第2項がチェザロ平均となるように$x_n:=\frac{n}{n+1}$とおけば,$\lim\limits_{n\to\infty}x_n=1$と併せて不等式\eqref{ineq:prob_3}の第1項と第2項が0に収束することが分かります.
なお,任意の$\epsilon>0$に対して$k$が十分大きければ$|c_k|<\frac{\epsilon}{k}$となることから,$n$が十分大きくすれば不等式\eqref{ineq:prob_3}の第3項も
\begin{align*}\sum_{k=n+1}^{\infty}|c_k|x_n^k
\le\sum_{k=n+1}^{\infty}\frac{\epsilon}{k}x_n^k
\le\frac{\epsilon}{n+1}\cdot\frac{x_n^{n+1}}{1-x_n}
<\epsilon\end{align*}
と任意に小さくできることが分かります.
解答例
(1)の解答
$\lim\limits_{k\to\infty}kc_k=0$より,ある$N\in\N$が存在して,$k>N$のとき$|kc_k|<1$が成り立つ.よって,$k>N$のとき$|c_k|<\frac{1}{k}$で,
\begin{align*}\lim_{k\to\infty}\log\sqrt[k]{\frac{1}{k}}
=\lim_{k\to\infty}\bra{-\frac{\log{k}}{k}}=0\end{align*}
だから$\lim\limits_{k\to\infty}\sqrt[k]{\frac{1}{k}}=1$が成り立つ.よって,
\begin{align*}\varlimsup\limits_{k\to\infty}\sqrt[k]{|c_k|}
\le\varlimsup\limits_{k\to\infty}\sqrt[k]{\frac{1}{k}}
\le1\end{align*}
なので,べき級数$\sum_{k=0}^{\infty}c_kx^k$の収束半径は1以上である.
(2)の解答
任意に$x\in(0,1)$, $n\in\{0,1,2,\dots\}$をとる.三角不等式より
\begin{align*}\abs{f(x)-\sum_{k=0}^{n}c_k}
&=\abs{\sum_{k=0}^{n}c_k(x^k-1)+\sum_{k=n+1}^{\infty}c_kx^k}
\\&\le\sum_{k=0}^{n}|c_k(x^k-1)|+\sum_{k=n+1}^{\infty}|c_kx^k|
\\&=\sum_{k=0}^{n}|x^k-1||c_k|+\sum_{k=n+1}^{\infty}|c_k|x^k\end{align*}
が成り立つ.ここで,$k=0$のときは$x^k-1=0=k(1-x)$であり,$k=1,2,\dots$のときは$x^\ell\le1$($\ell=1,2,\dots,k-1$)より
\begin{align*}|x^{k}-1|=|(1-x)(1+x+x^2+\dots+x^{k-1})|\le k(1-x)\end{align*}
が成り立つ.よって,
\begin{align*}\abs{f(x)-\sum_{k=0}^{n}c_k}
\le(1-x)\sum_{k=0}^{n}k|c_k|+\sum_{k=n+1}^{\infty}|c_k|x^k\end{align*}
を得る.
(3)の解答
ある実数$L$が存在し$\lim\limits_{x\to1-0}f(x)=L$が成り立つとし,任意に$\epsilon>0$をとる.$x_n=\frac{n}{n+1}$($n=1,2,\dots$)とおく.
三角不等式と(2)より,任意の$n\in\{1,2,\dots\}$に対して,
\begin{align*}\abs{\sum_{k=0}^{n}c_k-L}
&\le|f(x_n)-L|+\abs{f(x_n)-\sum_{k=0}^{n}c_k}
\\&\le|f(x_n)-L|+\frac{1}{n+1}\sum_{k=0}^{n}k|c_k|+\sum_{k=n+1}^{\infty}|c_k|x_n^k\end{align*}
が成り立つ.
[1]$n\to\infty$のとき$x_n\to1-0$なので,$\lim\limits_{x\to1-0}f(x)=L$と併せて,ある$N_1\in\N$が存在して$n>N_1$なら
\begin{align*}|f(x_n)-L|<\frac{\epsilon}{3}\end{align*}
が成り立つ.
[2]$\lim\limits_{k\to\infty}k|c_k|=0$より$\{k|c_k|\}_{k=0}^{\infty}$のチェザロ平均$\frac{1}{n+1}\sum_{k=1}^{n}k|c_k|$も0に収束するから,ある$N_2\in\N$が存在して$n>N_2$なら
\begin{align*}\abs{\frac{1}{n+1}\sum_{k=0}^{n}k|c_k|}<\frac{\epsilon}{3}\end{align*}
が成り立つ.
[3]$\lim\limits_{k\to\infty}kc_k=0$より,ある$N_3\in\N$が存在して,$k>N_3$なら$|kc_k|<\frac{\epsilon}{3}$が成り立つ.よって,$n>N_3$のとき
\begin{align*}\sum_{k=n+1}^{\infty}|c_k|x_n^k
&\le\sum_{k=n+1}^{\infty}\frac{\epsilon}{3k}x_n^k
\le\sum_{k=n+1}^{\infty}\frac{\epsilon}{3(n+1)}x_n^k
\\&\le\frac{\epsilon}{3(n+1)}\cdot\frac{x_n^{n+1}}{1-x_n}
=\frac{\epsilon x_n^{n+1}}{3}
\\&<\frac{\epsilon 1^{n+1}}{3}
=\frac{\epsilon}{3}\end{align*}
が成り立つ.
以上より,$n>\max\{N_1,N_2,N_3\}$のとき,
\begin{align*}\abs{\sum_{k=0}^{n}c_k-L}
<\frac{\epsilon}{3}+\frac{\epsilon}{3}+\frac{\epsilon}{3}
=\epsilon\end{align*}
となるから$\sum_{k=0}^{\infty}c_k=\lim_{n\to\infty}\sum_{k=0}^{n}c_k=L$が従う.
第4問:複素解析学・線形代数学
第4問は選択問題です.いきなり一般の場合を解こうとすると簡単ではありません.しかし,そのような問題でも,簡単な場合を考えることで一般の場合の糸口を掴むことができることは多いです.
$z$を変数とする$\C$上の正則関数全体のなす複素線型空間を$V$とし,$D=z\dfrac{d}{dz}$とおく.$f\in V$に対し,
\begin{align*}\{f,Df,D^2f,\dots\}=\set{D^nf}{n\in\Z,n\ge0}\end{align*}
の張る線型部分空間が有限次元ならば,$f(z)$は$z$の多項式であることを証明せよ.
条件を満たす正則関数が多項式であることを示す問題です.
解答の方針とポイント
正則関数が多項式であることを示すには,テイラー展開で係数が有限個のみ0でないことを示すというのが自然な方法ですね.
正則関数のマクローリン展開と作用素$D$
$f\in V$は$\C$全体の正則関数なので,$\C$全体でマクローリン展開ができます:
\begin{align*}f(z)=\sum_{k=0}^{\infty}a_kz^k.\end{align*}
このとき, $a_k\neq0$なる$k\in\{0,1,2,\dots\}$が有限個であることを示せば,$f(z)$は多項式であることになりますね.また,$D(z^k)=kz^k$なので
\begin{align*}D^nf(z)=\sum_{k=0}^{\infty}k^n a_kz^k\end{align*}
となります.
線形部分空間の次元が小さい場合で実験する
問題の線形部分空間$U:=\operatorname{span}\set{D^nf}{n\in\Z,n\ge0}$の次元$\dim{U}$が一般の場合をいきなり考えるのは難しいので,$\dim{U}$が小さいときにどのように示せばよいか考えましょう.
例えば,$\dim{U}=2$のときは$f$と$Df$と$D^2f$は線形従属となるので,ある$c_0,c_1,c_2\in\C$が存在して
\begin{align*}c_0f(z)+c_1Df(z)+c_2D^2f(z)=0,\quad(c_0,c_1,c_2)\neq(0,0,0)\end{align*}
が成り立ち,これを冪級数で表すと
\begin{align*}&(c_0+0^1c_1+0^2c_2)a_0
\\&\quad+(c_0+1^1c_1+1^2c_2)a_1z
\\&\quad+(c_0+2^1c_1+2^2c_2)a_2z^2+\dots=0\end{align*}
となります.もし$a_0a_1a_2\neq0$なら
\begin{align*}\begin{cases}c_0+0^1c_1+0^2c_2=0,\\c_0+1^1c_1+1^2c_2=0,\\c_0+2^1c_1+2^2c_2=0\end{cases}\end{align*}
となります.これを真面目に解こうとするのは面倒ですが,これは$t\in\C$の2次方程式$c_0+tc_1+t^2c_2=0$が解$t=0,1,2$をもつということになり$c_0=c_1=c_2=0$が成り立ち,$(c_0,c_1,c_2)\neq(0,0,0)$に矛盾します.
もしくは0,1,2に関するヴァンデルモンド行列$A:=\sbmat{1&0^1&0^2\\1&1^1&1^2\\1&2^1&2^2}$を係数行列とする斉次連立1次方程式であることからも,$|A|\neq0$と併せて解が自明解$c_0=c_1=c_2=0$のみと分かります.
同様に$a_i\neq0$なる$i\in\{0,1,2,\dots\}$が3個以上あると矛盾するので,そのような$i$は高々2個しかないことが分かり,$f$が多項式であることが分かります.
いまの議論は一般の$\dim{U}$でも同様にできるので,これで解けそうですね.
解答例
便宜上,$D^0$を恒等作用素とし,$0^0=1$とする.$f\in V$は$\C$上正則なので,$f$のマクローリン展開の収束半径は∞で
\begin{align*}f(z)=\sum_{k=0}^{\infty}a_kz^k\quad(a_k\in\C;k=0,1,2,\dots)\end{align*}
とおく.
[1]任意の$n\in\{1,2,\dots\}$と$z\in\C$に対して
\begin{align}D^nf(z)=\sum_{k=1}^{\infty}k^na_kz^k=\sum_{k=0}^{\infty}k^na_kz^k \label{eq:prob_4 D^nf}\end{align}
が成り立つことを数学的帰納法により示す.
収束半径が∞の冪級数は$\C$上全体で項別微分可能で,収束半径も変わらないから任意の$z\in\C$に対して
\begin{align*}Df(z)=z\sum_{k=1}^{\infty}ka_kz^{k-1}=\sum_{k=1}^{\infty}ka_kz^k\end{align*}
が成り立つ.すなわち,$n=1$のとき等式\eqref{eq:prob_4 D^nf}が成り立つ.また,ある$n\in\{1,2,\dots\}$に対して,等式\eqref{eq:prob_4 D^nf}が成り立ったとすると,
\begin{align*}D^{n+1}f(z)=D\sum_{k=1}^{\infty}k^na_kz^k=z\sum_{k=1}^{\infty}k^{n+1}a_kz^{k-1}=\sum_{k=1}^{\infty}k^{n+1}a_kz^k\end{align*}
が成り立つから,任意の$n\in\{1,2,\dots\}$に対して等式\eqref{eq:prob_4 D^nf}が成り立つ.
[2]0でない係数$a_k$は有限個であることを示す.これが示されれば,ある$K\in\N$が存在して$k>K$なら$a_k=0$となるから$f(z)$は多項式である.
$d:=\dim\operatorname{span}\set{D^nf}{n\in\Z,n\ge0}$とおくと,$f,Df,D^2f,\dots,D^df$は線形従属だから
\begin{align*}c_0f(z)+c_1Df(z)+c_2D^2f(z)+\dots+c_dD^df(z)=0\end{align*}
が$z\in\C$の恒等式となる少なくとも1つは0でない$c_0,c_1,\dots,c_d\in\C$が存在する.この左辺は
\begin{align*}\sum_{k=0}^{\infty}(c_0+kc_1+k^2c_2+\dots+k^d c_d)a_kz^k\end{align*}
なので,
\begin{align*}\bra{c_0+kc_1+k^2c_2+\dots+k^d c_d}a_k=0\quad(k=0,1,2,\dots)\end{align*}
が成り立つ.多項式$c_0+tc_1+t^2c_2+\dots+t^d c_d$は零多項式ではなく高々$d$次だから,$c_0+kc_1+k^2c_2+\dots+k^d c_d=0$を満たす$k\in\{0,1,2,\dots\}$は$d$個以下である.
よって,0でない係数$a_k$は有限個($d$個以下)なので$f(z)$は多項式である.
第5問:微分方程式(微分積分学)
第5問は選択問題です.問題が長くてとっつきにくく感じるかもしれませんが,誘導がしっかりしているので難易度は低いです.是非とも解きたい問題です.
$u_0$と$v_0$を$(u_0,v_0)\neq(3,2)$をみたす正の実数とする.$u$と$v$は区間$[0,\infty)$上の正値の連続関数で,区間$(0,\infty)$上で$C^1$級であり,
\begin{gather*}\begin{cases}\dfrac{du}{dt}(t)=2u(t)-u(t)v(t)\\
\dfrac{dv}{dt}(t)=-3v(t)+u(t)v(t)\end{cases}\qquad(t>0),\\
u(0)=u_0,\qquad
v(0)=v_0\end{gather*}をみたすとする.$\R^2$の部分集合$D$を
\begin{align*}D=\set{(x,y)\in\R^2}{x>0,\ y>0}\end{align*}
と定め,集合$D$上の実数値関数$F$を
\begin{align*}F(x,y)=x-3\log{x}+y-2\log{y}\qquad(x>0,\ y>0)\end{align*}
によって定める.
- 任意の$t>0$に対して\begin{align*}F(u(t),v(t))=F(u_0,v_0)\end{align*}がなりたつことを示せ.
- 関数$F$が集合$D$で最大値をとるかどうかを判定せよ.また,集合$D$で最小値をとるかどうかを判定せよ.
- 任意の$t>0$に対して,$(u(t),v(t))\neq(3,2)$であることを示せ.さらに,極限$\lim\limits_{t\to\infty}(u(t),v(t))$は存在しないことを示せ.
- 正の実数$T$が存在して,$(u(T),v(T))=(u_0,v_0)$がなりたつとする.この$T$について\begin{align*}\frac{1}{T}\int_{0}^{T}u(t)\,dt\end{align*}を求めよ.
ロトカ-ヴォルテラの微分方程式の解の性質に関する問題ですが,ロトカ-ヴォルテラの微分方程式を知らなくても誘導に従えば解けます.
解答の方針とポイント
技術的には微分積分学の基本的な知識で解けます.丁寧に誘導に乗りましょう.
2変数関数$F$の性質
(1)は任意の$t>0$に対して$F(u(t),v(t))=F(u(0),v(0))$を示す問題なので,言い換えると$F(u(t),v(t))$が$t$についての定数関数であることを示す問題です.
そのためには微分して0であることを示せばよく,この合成関数$F(u(t),v(t))$の外側の関数$F$が多変数関数なので,微分するには
\begin{align*}\frac{d\bigl(F(u(t),v(t))\bigr)}{dt}
=\frac{\partial F}{\partial x}(u(t),v(t))\frac{du}{dt}(t)+\frac{\partial F}{\partial y}(u(t),v(t))\frac{dv}{dt}(t)\end{align*}
とチェインルールを使えばよいですね.また,$F(x,y)$は
- 変数が$x$のみの関数$x-3\log{x}$
- 変数が$y$のみの関数$y-2\log{y}$
の和ですから,両方が最小となる$(x,y)=(3,2)$で$F(x,y)$が最小となりますね.
解$(u(t), v(t))$の性質
(1)から$F(u(t),v(t))$は定数関数で,(2)から$F$は点$(3,2)$以外で値$F(3,2)$をとりませんから,仮定$(u_0,v_0)\neq(3,2)$より$(u(t),v(t))\neq(3,2)$となることが分かりますね.
また,極限$(a,b):=\lim\limits_{t\to\infty}(u(t),v(t))$が存在すると仮定すると,微分方程式から
\begin{align*}\lim_{t\to\infty}\frac{du}{dt}(t)=a(2-b),\quad
\lim_{t\to\infty}\frac{dv}{dt}(t)=(-3+a)b\end{align*}
となります.極限$\lim\limits_{t\to\infty}(u(t),v(t))$が存在するなら$\lim_{t\to\infty}\frac{du}{dt}(t)=\lim_{t\to\infty}\frac{dv}{dt}(t)=0$となりそうで,これが正しければ$a=3,0$, $b=2,0$となる必要があります.
ところが,(1)と仮定$(u_0,v_0)\neq(3,2)$と$F$の連続性からいずれの場合も成り立ち得ず矛盾が得られます.
$u(t)$の平均
微分方程式の2つ目の等式$\frac{dv}{dt}(t)=-3v(t)+u(t)v(t)$は$u(t)$について解くことができて,
\begin{align*}\frac{1}{T}\int_{0}^{T}u(t)\,dt
=\frac{1}{T}\int_{0}^{T}\bra{3+\frac{1}{v(t)}\cdot\frac{dv}{dt}(t)}\,dt\end{align*}
となります.ここで$\frac{1}{v(t)}\cdot\frac{dv}{dt}(t)$は簡単に積分できますから,あとは計算により求まりますね.
解答例
$F(x,y)=x-3\log{x}+y-2\log{y}$より
\begin{align*}&\frac{\partial F}{\partial x}(x,y)=1-\frac{3}{x},\quad
\frac{\partial F}{\partial y}(x,y)=1-\frac{2}{y}\end{align*}
である.
(1)の解答
$G:[0,\infty)$を$G(t):=F(u(t),v(t))$で定めると,$t>0$で
\begin{align*}\frac{dG}{dt}(t)
&=\frac{\partial F}{\partial x}(u(t),v(t))\frac{du}{dt}(t)+\frac{\partial F}{\partial y}(u(t),v(t))\frac{dv}{dt}(t)
\\&=\bra{1-\frac{3}{u(t)}}(2u(t)-u(t)v(t))
\\&\quad+\bra{1-\frac{2}{v(t)}}(-3v(t)+u(t)v(t))
\\&=(2u(t)-u(t)v(t))-3(2-v(t))
\\&\quad+(-3v(t)+u(t)v(t))-2(-3+u(t))
\\&=0\end{align*}
だから$G$は定数関数である.また,$F$は$D$上連続で, $u$, $v$は$[0,\infty)$上連続だから,$G$は$[0,\infty)$上連続である.よって,任意の$t>0$に対して
\begin{align*}F(u(t),v(t))=G(t)=G(0)=F(u_0,v_0)\end{align*}
が成り立つ.
(2)の解答
$x>0$に対して
\begin{align*}F(x,x)=2x-5\log{x}=x\bra{2-5\frac{\log{x}}{x}}\xrightarrow[]{x\to\infty}\infty\end{align*}
だから,$F$は$D$上で最大値をとらない.また,
\begin{align*}F_1(x):=x-3\log{x},\quad
F_2(y):=y-2\log{y}\end{align*}
とおくと$F(x,y)=F_1(x)+F_2(y)$である.$F’_1(x)=1-\frac{3}{x}$より
- $F_1$は$(0,3]$で単調減少
- $[3,\infty)$で単調増加
だから,$F_1$は$x=3$でのみ最小値$F_1(3)=3-3\log{3}$をとる.同様に,$F_2$は$y=2$でのみ最小値$F_2(2)=2-2\log{2}$をとる.よって,$F$は$(x,y)=(3,2)$でのみ最小値
\begin{align*}F(3,2)&=3-3\log{3}+2-2\log{2}
\\&=5-\log{108}\end{align*}
をとる.以下,$(x,y)\in D$に対して
\begin{align*}F(x,y)=F(3,2)\iff(x,y)=(3,2)\end{align*}
であることに注意する.
(3)の解答
$(u_0,v_0)\neq(3,2)$より$F(u_0,v_0)\neq F(3,2)$なので,(1)と併せると任意の$t>0$に対して$F(u(t),v(t))\neq F(3,2)$だから$(u(t),v(t))\neq (3,2)$である.
次に極限$\lim\limits_{t\to\infty}(u(t),v(t))$が存在すると仮定し,この極限を$(a,b)$とおく.もし$a=0$なら
\begin{align*}\lim_{t\to\infty}(u(t)-3\log{u(t)})=\infty\end{align*}
だから,
\begin{align*}F(u_0,v_0)&=\lim_{t\to\infty}F(u_0,v_0)=\lim_{t\to\infty}F(u(t),v(t))
\\&=\lim_{t\to\infty}(u(t)-3\log{u(t)}+v(t)-2\log{v(t)})\end{align*}
と併せると,$\lim\limits_{t\to\infty}(v(t)-2\log{v(t)})=-\infty$となる必要があるが,(2)の$F_2$の最小値が有限であることに矛盾するから$a\neq0$が従う.同様に,もし$b=0$なら
\begin{align*}&\lim_{t\to\infty}(v(t)-2\log{v(t)})=\infty,
\\&F(u_0,v_0)=\lim_{t\to\infty}(u(t)-3\log{u(t)}+v(t)-2\log{v(t)})\end{align*}
より$\lim\limits_{t\to\infty}(u(t)-3\log{u(t)})=-\infty$が必要だが,$F_1$の最小値が有限であることに矛盾するから$b\neq0$が従う.
次に,もし$b\lessgtr2$なら
\begin{align*}\lim_{t\to\infty}\frac{du}{dt}(t)=a(2-b)\neq0\end{align*}
なので,ある$R>0$が存在し,$t>R$のとき$\frac{du}{dt}(t)\gtrless\frac{a(2-b)}{2}$が成り立ち
\begin{align*}u(t)\gtrless u(R)+\frac{a(2-b)}{2}(t-R)\end{align*}
となるから$\lim\limits_{t\to\infty}u(t)$が収束することに矛盾する(複号同順).よって,$b=2$が成り立つ.同様に,もし$a\neq3$なら
\begin{align*}\lim_{t\to\infty}\frac{dv}{dt}(t)=b(-3+a)\neq0\end{align*}
より$\lim\limits_{t\to\infty}v(t)$が収束することに矛盾するから,$a=3$が成り立つ.
よって,$F$の連続性と(1)を併せて
\begin{align*}F(u_0,v_0)&=\lim_{t\to\infty}F(u_0,v_0)=\lim_{t\to\infty}F(u(t),v(t))
\\&=F\bra{\lim_{t\to\infty}(u(t),v(t))}=F(3,2)\end{align*}
となり,(2)より$(u_0,v_0)=(3,2)$が成り立つが,これは矛盾だから極限$\lim\limits_{t\to\infty}(u(t),v(t))$は存在しない.
(4)の解答
$\frac{dv}{dt}(t)=-3v(t)+u(t)v(t)$より
\begin{align*}u(t)-3=\frac{1}{v(t)}\cdot\frac{dv}{dt}(t)=\frac{d(\log{v(t)})}{dt}\end{align*}
だから,$v(T)=v_0$と併せて
\begin{align*}\frac{1}{T}\int_{0}^{T}u(t)\,dt
&=\frac{1}{T}\int_{0}^{T}\bra{3+\frac{d(\log{v(t)})}{dt}}\,dt
\\&=3+\frac{\log{v(T)}-\log{v_0}}{T}
=3\end{align*}
を得る.ただし,$v$と$\log$はいずれも$C^1$級だから$\log{v}$は$C^1$となり,$\frac{d(\log{v})}{dt}$は連続なので微分積分学の基本定理が使えることに注意.
補足(ロトカ-ヴォルテラの微分方程式の直観と解の導出)
$a,b,c,d>0$に対して,連立微分方程式
\begin{align*}\begin{cases}\dfrac{du}{dt}(t)=au(t)-bu(t)v(t)\\
\dfrac{dv}{dt}(t)=-cv(t)+du(t)v(t)\end{cases}\end{align*}
をロトカ-ヴォルテラの微分方程式といいます.
ロトカ-ヴォルテラの微分方程式の直観
直観的には
- 第1式$\od{u}{t}(t)=au(t)-bu(t)v(t)$:被食者の個体数$u(t)$が多いほど被食者の個体数の増加は速く,被食者の個体数$u(t)$と捕食者の個体数$v(t)$が多いほど被食者が捕食されやすく個体数の減少が速い
- 第2式$\od{v}{t}(t)=-cv(t)+du(t)v(t)$:被食者の個体数$u(t)$と捕食者の個体数$v(t)$が多いほど個体数の増加は速く,捕食者の個体数$v(t)$が多いほど飢えやすく捕食者の個体数の減少が速い
という被食者の個体数$u(t)$と捕食者の個体数$v(t)$に関するモデルを表します.
ロトカ-ヴォルテラの微分方程式の解の導出
ロトカ-ヴォルテラの微分方程式は次のように解くことができます;微分方程式の第1式の両辺を$u(t)$で割り,第2式の両辺を$v(t)$で割って整理すると
\begin{align*}(\log{|u(t)|})’-a=-bv(t),\quad
(\log{|v(t)|})’+c=du(t)\end{align*}
となります.このことを用いると,第1式の$d$倍と第2式の$b$倍の辺々を加えてできる等式は
\begin{align*}du'(t)+bv'(t)=a\log{v(t)}’+c\log{u(t)}’\end{align*}
と整理できるので,さらに両辺を積分して整理すると
\begin{align*}du(t)-c\log{u(t)}+bv(t)-a\log{v(t)}=C\end{align*}
とロトカ-ヴォルテラの微分方程式が解けます.
この左辺が問題の$F(u(t),v(t))$の正体ですね.
第6問:複素解析学・線形代数学
第6問は選択問題です.パッと見では(1)と(2)の関係性が不明で不気味ですが,解いてみるとストレートに進みます.
- $i$を虚数単位とする.実数$t$に対して次の積分の値を求めよ.\begin{align*}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{itx}}{x^2+1}\,dx\end{align*}
- $n$を正の整数とする.相異なる実数$t_1,t_2,\dots,t_n$に対して$n$次正方行列\begin{align*}A=\bra{e^{-|t_j-t_k|}}_{j,k=1,\dots,n}\end{align*}は正定値であることを示せ.
(1)は複素解析学の問題,(2)は線形代数学の問題で一見関係ないように見えますが,(1)を正しく解ければ(2)への繋げ方が自然と見えてきます.
解答の方針とポイント
(1)は留数定理を用いる基本的な問題で,(2)は実対称行列$A$をどのようにみるかがポイントです.
$t>0$の場合は留数定理を用いる典型的な問題
(1)の広義積分を$I(t)$とおきます.$t=1$の場合の広義積分
\begin{align*}I(1)=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{ix}}{x^2+1}\,dx\end{align*}
を計算するために,実軸上の区間と上半円を繋げてできる閉曲線上で留数定理を使うのは複素解析学の典型的な方法ですね.具体的には$\C$上の経路$\Gamma_R$を下図のように定め,正則関数$f:\C\setminus\{\pm i\}\to\C$を$f(z)=\frac{e^{itz}}{z^2+1}$とおくと,
\begin{align*}I(1)=\lim_{R\to\infty}\bra{\int_{\Gamma_R}-\int_{C_R}}f(z)\,dz\end{align*}
となり,$\Gamma_R$上の積分で留数定理を使い,$C_R$上の積分が0に収束することを示します.
この方法は$t=1$の場合に限らず,$t>0$であれば同様に適用できます.
$t\le0$の場合は$t>0$の場合と少し議論が変わる
$t=0$の場合の広義積分$I(0)$はそもそもただの実関数なので単純に計算できます.
一方,$t<0$の場合で上の$t>0$のときと同様の積分経路をとると,$C_R$の評価で0に収束することが証明できなくなります.もう少し詳しく書くと,$C_R$の評価で
\begin{align*}\abs{\int_{C_R}f(z)\,dz}
\le\int_{0}^{\pi}\frac{Re^{-tR\sin{\theta}}}{|R^2e^{2i\theta}+1|}\,d\theta\end{align*}
となり,$-tR\sin{\theta}$が$-tR$まで大きくなりうるので$e^{-tR\sin{\theta}}$を十分に制御できません.
そこで,経路$C_R$を上半円ではなく下半円にとれば$-\pi\le\theta\le0$なので$e^{-tR\sin{\theta}}\le1$と評価でき,積分も0に収束します.
正方行列$A$の書き換え
(1)を解くと
\begin{align*}I(t)=\begin{cases}\pi e^{-t},&t>0,\\\pi,&t=0,\\\pi e^t,&t<0\end{cases}\end{align*}
となります.また(2)の正方行列$A$の成分$e^{-|t_j-t_k|}$であることをふまえると,$I(t)=\pi e^{-|t|}$とまとめて表せば(2)に使えるのではないかと気付きます.実際,
\begin{align*}\pi A=\brc{\int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{i(t_j-t_k)x}}{x^2+1}\,dx}_{j,k=1,\dots,n}\end{align*}
と置き換えられ,この各成分の被積分関数を並べた正方行列を$B(x)$とおくと
\begin{align*}B(x)=\frac{1}{x^2+1}\m{e}(x)\overline{\m{e}(x)}^T,\quad
\m{e}(x):=\bmat{e^{it_1x}\\\vdots\\e^{it_nx}}\end{align*}
と表せます.この形が見えると,任意の$\m{y}\in\R^n\setminus\{\m{0}\}$に対して$\m{y}^TA\m{y}$が0でない非負値関数の積分と分かり$\m{y}^TA\m{y}>0$が得られますね.
解答例
(1)の解答
問の積分を$I(t)$とおく.
[1]$t=0$のときは
\begin{align*}I(0)&=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{x^2+1}\,dx=\brc{\tan^{-1}(x)}_{-\infty}^{\infty}
\\&=\frac{\pi}{2}-\bra{-\frac{\pi}{2}}=\pi\end{align*}
である.
[2]$t>0$のときは,$R>1$に対して$\C$上の経路
\begin{align*}&L_R:=\set{z\in\C}{z=x,x\in[-R,R]},
\\&C_R:=\set{z\in\C}{z=Re^{i\theta},\theta\in[0,\pi]},
\\&\Gamma_R:=L_R\cup C_R\end{align*}
で定め,正則関数$f:\C\setminus\{\pm i\}\to\C$を$f(z)=\frac{e^{itz}}{z^2+1}$とおくと,
\begin{align*}I(t)=\lim_{R\to\infty}\int_{L_R}f(z)\,dz
=\lim_{R\to\infty}\bra{\int_{\Gamma_R}-\int_{C_R}}f(z)\,dz\end{align*}
と書き換えられる.$i$を除く$\Gamma_R$の周および内部で$f$は正則で,$\Gamma_R$は正方向の向きが付いた閉曲線だから,留数定理より
\begin{align*}\int_{\Gamma_R}f(z)\,dz
&=2\pi i\cdot\mathrm{Res}(f,i)
=2\pi i\cdot\lim_{z\to i} f(z)(z-i)
\\&=2\pi i\cdot\lim_{z\to i}\frac{e^{itz}}{z+i}
=\pi e^{-t}\end{align*}
である.また,任意の$z\in C_R$は$z=Re^{i\theta}$($\theta\in[0,\pi]$)と表せるから
\begin{align*}\abs{\int_{C_R}f(z)\,dz}
&=\abs{\int_{0}^{\pi}\frac{e^{itRe^{i\theta}}}{R^2e^{2i\theta}+1}\cdot Rie^{i\theta}\,d\theta}
\\&\le\int_{0}^{\pi}\abs{\frac{e^{itRe^{i\theta}}}{R^2e^{2i\theta}+1}\cdot Rie^{i\theta}}\,d\theta
\\&=\int_{0}^{\pi}\frac{Re^{-tR\sin{\theta}}}{|R^2e^{2i\theta}+1|}\,d\theta
\\&\le\int_{0}^{\pi}\frac{Re^{0}}{R^2-1}\,d\theta
=\frac{\pi R}{R^2-1}
\xrightarrow[]{R\to\infty}0\end{align*}
である.ただし,$t>0$, $\theta\in[0,\pi]$のとき$-tR\sin{\theta}\le0$であることに注意.よって,$I(t)=\pi e^{-t}$を得る.
[3]$t<0$のときは,$R>1$に対して$\C$上の経路
\begin{align*}&L_R:=\set{z\in\C}{z=-x,x\in[-R,R]},
\\&C_R:=\set{z\in\C}{z=Re^{i\theta},\theta\in[-\pi,0]},
\\&\Gamma_R:=L_R\cup C_R\end{align*}
で定め,正則関数$f:\C\setminus\{\pm i\}\to\C$を$f(z)=\frac{e^{itz}}{z^2+1}$とおくと,
\begin{align*}I(t)=\lim_{R\to\infty}\bra{-\int_{L_R}f(z)\,dz}
=\lim_{R\to\infty}\bra{\int_{C_R}-\int_{\Gamma_R}}f(z)\,dz\end{align*}
と書き換えられる.$-i$を除く$\Gamma_R$の周および内部で$f$は正則で,$\Gamma_R$は正方向の向きが付いた閉曲線だから,留数定理より
\begin{align*}\int_{\Gamma_R}f(z)\,dz
&=2\pi i\cdot\mathrm{Res}(f,-i)
=2\pi i\cdot\lim_{z\to-i} f(z)(z+i)
\\&=2\pi i\cdot\lim_{z\to-i}\frac{e^{itz}}{z-i}
=-\pi e^t\end{align*}
である.また,任意の$z\in C_R$は$z=Re^{i\theta}$($\theta\in[-\pi,0]$)と表せるから
\begin{align*}\abs{\int_{C_R}f(z)\,dz}
&=\abs{\int_{-\pi}^{0}\frac{e^{itRe^{i\theta}}}{R^2e^{2i\theta}+1}\cdot(Rie^{i\theta})\,d\theta}
\\&\le\int_{-\pi}^{0}\abs{\frac{e^{itRe^{i\theta}}}{R^2e^{2i\theta}+1}\cdot(Rie^{i\theta})}\,d\theta
\\&=\int_{-\pi}^{0}\frac{Re^{-tR\sin{\theta}}}{|R^2e^{2i\theta}+1|}\,d\theta
\\&\le\int_{-\pi}^{0}\frac{Re^{0}}{R^2-1}\,d\theta
=\frac{\pi R}{R^2-1}
\xrightarrow[]{R\to\infty}0\end{align*}
である.ただし,$t<0$, $\theta\in[-\pi,0]$のとき$-tR\sin{\theta}\le0$であることに注意.よって,$I(t)=\pi e^t$を得る.
[1]〜[3]を併せて$I(t)=\pi e^{-|t|}$を得る.
(2)の解答
(1)より
\begin{align*}\pi e^{-|t_j-t_k|}=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{i(t_j-t_k)x}}{x^2+1}\,dx=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{i(t_k-t_j)x}}{x^2+1}\,dx\end{align*}
なので,
\begin{align*}\pi A=\brc{\int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{i(t_j-t_k)x}}{x^2+1}\,dx}_{j,k=1,\dots,n}\end{align*}
である.よって,$x\in\R$に対して
\begin{align*}B(x)=\brc{\frac{e^{i(t_j-t_k)x}}{x^2+1}}_{j,k=1,\dots,n}\end{align*}
とおき,任意に$\m{y}=[y_1,\dots,y_n]^T\in\R^n\setminus\{\m{0}\}$をとると
\begin{align*}\m{y}^T A\m{y}
&=\frac{1}{\pi}\sum_{j,k=1}^{n}y_j\bra{\int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{i(t_j-t_k)x}}{x^2+1}\,dx}y_k
\\&=\frac{1}{\pi}\int_{-\infty}^{\infty}\sum_{j,k=1}^{n}\frac{y_j e^{i(t_j-t_k)x} y_k}{x^2+1}\,dx
\\&=\frac{1}{\pi}\int_{-\infty}^{\infty}\m{y}^T B(x)\m{y}\,dx\end{align*}
が成り立つ.そこで,$x\in\R$に対して$\m{e}(x)=\brc{e^{it_1x},e^{it_2x},\dots,e^{it_nx}}^T$とおくと,$B(x)=\frac{\m{e}(x)\overline{\m{e}(x)}^T}{x^2+1}$だから,$\m{y}$が実であることと併せて
\begin{align*}\m{y}^T B(x)\m{y}=\frac{(\m{y}^T\m{e}(x))(\overline{\m{e}(x)^T\m{y}})}{x^2+1}
=\frac{|\m{y}^T\m{e}(x)|^2}{x^2+1}\ge0\end{align*}
が成り立つ.また,$t_1,t_2,\dots,t_n\in\R$が全て異なることから$e^{it_1x},e^{it_2x},\dots,e^{it_nx}$は線形独立なので,$\m{y}\neq\m{0}$と併せて$\m{y}^T\m{e}(x)$は恒等的に値0をとる関数ではない.
よって,
\begin{align*}\m{y}^T A\m{y}=\frac{1}{\pi}\int_{-\infty}^{\infty}\m{y}^T B(x)\m{y}\,dx>0\end{align*}
だから$A$は正定値である.
第7問:位相空間論
第7問は選択問題です.問題の$f_t$の仮定が直観的に理解できればそれほど難しくありません.
$X$および$Y$をコンパクト距離空間とし,$[0,1]=\set{t\in\R}{0\le t\le1}$とする.また,$f:X\times[0,1]\to Y$を連続写像とし,$t\in[0,1]$について$f_t:X\to Y$を
\begin{align*}f_t(x)=f(x,t)\quad(x\in X)\end{align*}
によって定義する.任意の$x_0\in X$と任意の$t_0\in[0,1]$について$X$の開集合$U_{(x_0,t_0)}$と$[0,1]$の開集合$V_{(x_0,t_0)}$が存在して,$x_0\in U_{(x_0,t_0)}$, $t_0\in V_{(x_0,t_0)}$であり,かつ任意の$t\in V_{(x_0,t_0)}$について$f_t$の$U_{(x_0,t_0)}$への制限が単射であると仮定する.
- $Y$の任意の閉集合$C$について,集合\begin{align*}A(C)=\set{t\in[0,1]}{f_t(X)\cap C\neq\emptyset}\end{align*}が$[0,1]$の閉集合であることを証明せよ.
- 任意の0以上の整数$n$と$y_0\in Y$について,集合\begin{align*}B_n(y_0)=\set{t\in[0,1]}{\text{$f_t^{-1}(\{y_0\})$の濃度は$n$以下である}}\end{align*}が$[0,1]$の開集合であることを証明せよ.
集合が閉集合・開集合であることを示す問題です.技術的にはコンパクト性と$f_t$の条件をどう組み合わせるかが重要です.
解答の方針とポイント
直観的に捉えられれば(1)はそれほど難しくありません.(2)は関数$f_t$に局所的な単射性の条件があることで,$t$を少し動かしたところで$f_t(x)=y_0$となる$x$が増えないということが重要です.
$A(C)$は$f$の逆像の射影
本問題の(1)の$A(C)$の元は「$t$を止めたときの$X$の$f_t$による像$f_t(X)$が$C$と共通部分をもつような$t$」ですから,$t\in A(C)$は
となっており,$t\notin A(C)$は
となっています.このことから,$f^{-1}(C)$を$[0,1]$に射影してできる集合が$A(C)$ということが分かります.$f_t$は連続ですから$C$が閉なら$f^{-1}(C)$も閉なので,$f^{-1}(C)$の$[0,1]$への射影が閉であることを示せばよいですね.
ただし,一般の直積位相空間$X\times Y$から$Y$への射影で閉集合が閉集合に移るとは限らないことに注意しましょう.
たとえば,第2成分への射影$p:\R\times[0,1]\to[0,1]$と閉集合$A:=\set{(x,\frac{1}{x})}{x\ge1}$に対して,$p(A)=(0,1]$なので$p(A)$は閉ではありません.
ところが,いまは$X$がコンパクト空間ですから$X\times[0,1]$もコンパクト空間なので,閉集合のコンパクト空間$[0,1]$への射影は閉集合となります.
集合$B_n(y_0)$の様子
例えば,固定した$t\in[0,1]$に対して,$f_t(x)=y_0$となる$x\in X$が2個ある場合は下図のようになり,$t\in B_2(y_0)$かつ$t\notin B_1(y_0)$となりますね.
このとき,$f_t(x_0)=y_0$となる$x_0\in X$を1つ考え,$f$の局所的な単射性の条件を考えると,$t_0$の十分近くの$t$に対して,$f_t(x)=y_0$となる$x_0$の十分近くの$x$は高々1個しかないことが分かります.
すなわち,逆像$f^{-1}(\{y_0\})$を$X\times[0,1]$上に図示したとき,図が枝分かれなどしていないことが$f$の局所的な単射性の条件から分かります.
$B_n(y_0)$が開集合であることを示す方針
本問題の(2)で$B_n(y_0)$が開集合であることを示すには,任意の$t_0\in B_n(y_0)$に対して,$t_0$に十分近い$t$に対しても$f_t^{-1}(\{y_0\})$の濃度がやはり$n$以下であることを示せばよいですね.
$x_0\in X$が$f_{t_0}(x_0)=y_0$を満たすときは,$f$の局所的な単射性の条件から,$t_0$の十分近くの$t$に対して,$f_t(x)=y_0$となる$x_0$の十分近くの$x$は高々1個しか存在しません.
また,$x_0\in X$が$f_{t_0}(x_0)\neq y_0$を満たすときは,$f$の連続性より$(x_0,t_0)$の近くの十分近い$(x,t)$に対して$f(x,t)\neq y_0$となります.
したがって,$f_{t_0}^{-1}(\{y_0\})=\{x_1,x_2,\dots,x_r\}$とおき
- $t_0$の近くの$t$に対して$f_t(x)=y_0$となる$x$は各$x_i$の近くでしか存在しない
- $x_i$の近くで高々1つしか存在しない
ことを言えば良さそうです.
ただ,$f_{t_0}(x’)\neq y_0$を満たす$x’\in X$は有限個とは限らないので,ここでコンパクト性を用いて有限性に持ち込む必要があることに注意しましょう.
解答例
(1)の解答
第2成分への射影$p:X\times[0,1]\to[0,1]$を用いると,
\begin{align*}A(C)=p(f^{-1}(C))\end{align*}
である.よって,$f$は連続だから$C$が$Y$上の閉集合であることと併せて$f^{-1}(C)$は$X\times[0,1]$上の閉集合である.
また,$X$, $[0,1]$はいずれもコンパクトなので,これらの直積$X\times[0,1]$もコンパクトだから$f^{-1}(C)$はコンパクトである.
$p$は射影だから連続なので,コンパクト集合$f^{-1}(C)$の$p$による像$A(C)$はコンパクトである.したがって,$[0,1]$が距離空間であることと併せて$A(C)$は閉集合である.
(2)の解答
$f^{-1}(\{y_0\})=\emptyset$なら,任意の$n\in\{0,1,2,\dots\}$に対して$B_n(y_0)=[0,1]$なので$B_n(y_0)$は開である.以下,$f^{-1}(\{y_0\})\neq\emptyset$とする.
任意に$t_0\in B_n(y_0)$をとる.
[1]$B_n(y_0)$の定義より,ある異なる$x_1,x_2,\dots,x_r\in X$($r\le n$)が存在して,
\begin{align*}f_{t_0}^{-1}(\{y_0\})=\{x_1,x_2,\dots,x_r\}\end{align*}
が成り立つ.ただし,$r=0$のとき,この集合は空であるとみなす.
問題の条件より,任意の$i\in\{1,2,\dots,r\}$に対して,$X$の開集合$U_i$と$[0,1]$の開集合$V_i$が存在して,$x_i\in U_i$, $t_0\in V_i$であり,かつ任意の$t\in V_i$について$f_t$の$U_i$への制限は単射である.
このとき,任意の$t\in\bigcap_{i=1}^{r}V_i$に対して,$f_t(x)=y_0$となる$x\in U_i$は各$i\in\{1,2,\dots,r\}$に対して高々1個だから
\begin{align*}\abs{f_t^{-1}(\{y_0\})\cap\bra{\bigcup_{i=1}^{r}U_i}}
&=\abs{\bigcup_{i=1}^{r}\bra{f_t^{-1}(\{y_0\})\cap U_i}}
\\&\le\sum_{i=1}^{r}\abs{f_t^{-1}(\{y_0\})\cap U_i}
\le r\le n\end{align*}
である.
[2]$X’:=X\setminus\bra{\bigcup_{i=1}^{r}U_i}$とおく.ただし,[1]で$r=0$のときは$X’=X$とおく.
$X’$は$X$における開集合の和の補集合だから閉集合なので,$X$のコンパクト性から$X’$はコンパクトであることに注意する.
$f$の連続性と1点集合$\{y_0\}$が閉であることより$f^{-1}(\{y_0\})$は閉である.任意の$x’\in X’$に対して1点集合$\{(x’,t_0)\}$が閉であることと併せて,$f^{-1}(\{y_0\})$と$\{(x’,t_0)\}$の$X\times[0,1]$の直積距離$d_{x’}$は正である.
そこで,任意の$x’\in X’$に対して,開集合
\begin{align*}&U’_{x’}:=\set{x\in X}{d_X(x,x’)<\frac{d_{x’}}{2}},
\\&V’_{x’}:=\set{t\in[0,1]}{|t_0-t|<\frac{d_{x’}}{2}}\end{align*}
を定めると,$x’\in U’_{x’}$, $t_0\in V’_{x’}$であり,かつ$(U’_{x’}\times V’_{x’})\cap f^{-1}(\{y_0\})=\emptyset$である.
$\bigcup_{x’\in X’}U’_{x’}$は$X’$の開被覆だから,$X’$のコンパクト性より,ある$x’_1,\dots,x’_m\in X’$が存在して$\{U’_{x’_j}\}_{j=1}^{m}$は$X’$を被覆する.このとき,任意の$t\in \bigcap_{j=1}^{m}V’_{x’_j}$に対して
\begin{align*}f_t^{-1}(\{y_0\})\cap\bra{\bigcup_{j=1}^{m}U’_{x’_j}}=\emptyset\end{align*}
である.
[1][2]より,
\begin{align*}\bra{\bigcap_{i=1}^{r}V_i}\cap\bra{\bigcap_{j=1}^{m}V’_{x’_j}}\end{align*}
は$t_0$の開近傍の有限個の共通部分だから$t_0$の開近傍で,$B_n(y_0)$に含まれるから$B_n(y_0)$は開集合である.
参考文献
基礎を固めるために私が実際に使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.
詳解と演習大学院入試問題〈数学〉
[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]
理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.
実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.
第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率
一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの問題集|詳解と演習 大学院入試問題(数理工学社)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.
演習 大学院入試問題
[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]
上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.
全2巻で,
1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計
が扱われています.
地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.
なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの問題集|演習 大学院入試問題[数学](サイエンス社)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.



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