ルベーグ積分3
ルベーグ可測集合とルベーグ測度の定義

前々回の記事では「集合の長さ」を外側から測る(ルベーグ)外測度$m^{*}$を定義し,前回の記事ではこの外測度$m^{*}$について本質的に重要な5つの性質

  • 非負値性
  • 単調性
  • 平行移動不変性
  • 劣加法性
  • 区間の外測度

を解説しました.

外測度$m^{*}$はほぼ「集合の長さを測る写像」と言えるものですが,実は少し「不都合」があり理論上このままではうまく話を進められません.

そこで我々は「$m^{*}$の定義域を少し狭めることで『不都合』を排除しよう」という方法を採用します.

こうして$m^{*}$の定義域を狭めて不都合を解消した写像$m$をルベーグ測度といい,このルベーグ測度$m$はルベーグ積分において本質的に重要なものとなります.

この記事では

  • ルベーグ外測度の不都合
  • ルベーグ可測集合の定義と具体例
  • ルベーグ測度の定義

を順に説明します.

なお,この一連の記事では外測度を$m^{*}$で表し,右半開区間$I=[a,b)$の長さを$|I|$で表し$b-a$としています.

参考文献

以下は参考文献です.この記事の著者も数学教室の集団授業の指定テキストとして使っています.

ルベグ積分入門

[吉田洋一 著/ちくま学芸文庫]

初学者向けに丁寧に書かれたルベーグ積分の入門書です.

初版は1965年でもとは培風館から出版されていましたが,現在は筑摩書房より出版されているロングセラーの教科書です.

現在は文庫ですが内容は培風館の時と同じくきちんと専門的で,文庫になったことで1500円程度とずいぶん安く購入できるようになりました

第1章ではリーマン積分と比べてルベーグ積分がどのように「良い積分」となっているのか説明されているのは初学者がルベーグ積分のイメージをつくる際に役立ちますね.

また,第2章で「集合と写像の基本事項」について説明しており,数学的な基礎が不安な人にも配慮されています.

ルベーグ積分の重要定理である「ルベーグの収束定理」(テキストの表記では「Lebesgueの項別積分定理」)は第5章にあります.

なお,第6章ではルベーグ積分と微分の関係,第7章では多変数のルベーグ積分,第8章以降では測度論の一般論が説明されています.

ルベーグ外測度の不都合

前回の記事でも少し触れましたが,もし写像$m$が「$\R$の部分集合の『長さ』を測る」ものであれば「$A_1, A_2,\dots$のどの2つの共通部分も空集合なら

\begin{align*} m\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}=\sum\limits_{n=1}^{\infty}m(A_n)\quad\dots(*) \end{align*}

が成り立つ」という性質を満たしていて欲しいと思うことは自然なことでしょう.つまり,$A_1,A_2,\dots$に「被り」がなければ

  • $A_1,A_2,\dots$を併せて測った左辺$m\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}$
  • $A_1,A_2,\dots$を別々に測って足し合わせた右辺$\sum\limits_{n=1}^{\infty}m(A_n)$

が等しいという性質は自然な性質に思えます.

さて,前回の記事で証明したようにルベーグ外測度

$m^{*}(A)=\inf\set{\dsum_{n=1}^{\infty}|I_n|}{\begin{gathered}A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n,\\\text{$I_n$は右半開区間}\end{gathered}}$

は次を満たすのでした.

[劣加法性] 集合$A_1, A_2,\dots\subset\R$に対して$m^{*}\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}\le\sum\limits_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$が成り立つ.

[区間の外測度] 右半開区間$I\subset\R$に対して,$m^{*}(I)=|I|$が成り立つ.

しかし,残念ながら外測度$m^{*}$は上で望んだ性質$(*)$を満たしていません.

つまり,$A_1, A_2,\dots$のどの2つの共通部分も空集合でも,$(*)$で$m$を$m^{*}$に取り替えた等式を満たすとは限りません.

実はルベーグ積分(測度論)においてはこの性質$(*)$が本質的に重要な性質なため,外測度$m^{*}$が性質$(*)$を満たしていないことは話を進めるにあたって致命的となります.これが冒頭でも説明した$m^{*}$の不都合です.

ルベーグ可測集合

そこで,外測度$m^{*}$の定義域である$\R$の冪集合$\mathcal{P}(\R)$を少し狭めることで,上の性質$(*)$を獲得させたいと考えます.

$\R$の冪集合$\mathcal{P}(\R)$とは,$\R$の部分集合全部の集合のことでした.

ルベーグ可測集合の定義

そのために,ここでルベーグ可測集合を定義します.

集合$A\subset\R$がルベーグ可測集合 (Lebesgue measurable set)または単に可測集合であるとは,任意の$X\subset\R$に対して

\begin{align*} m^{*}(X)=m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)\quad\dots(\star\star) \end{align*}

を満たすことをいう.ここに,$A^c$は$\R$における$A$の補集合である.

この「任意の$X\subset\R$に対して条件$(\star\star)$を満たす」という$A\subset\R$の条件をカラテオドリ (Carathéodory)の条件という.

この定義から分かるように,$A\subset\R$に対して

  • $A$がルベーグ可測集合
  • $A$がカラテオドリの条件を満たす

は同値ですね.

集合としては

\begin{align*} X=(X\cap A)\cup(X\cap A^c) \end{align*}

が成り立ちます(右辺は直和).よって,どんな$A$, $X$に対しても

\begin{align*} m^{*}(X)=m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c) \end{align*}

が成り立ちそう(つまり,どんな$A$もカラテオドリの条件を満たしそう)に思えるかもしれません.

しかし,実はヘンテコな集合$A$に対しては$(\star\star)$を満たさない$X$が存在することがあります.つまり,非可測集合が存在します.

のちの記事で証明することですが,開集合や閉集合は可測集合であり,可測集合の和集合や共通部分も可測集合となります.このことから,非可測集合はそれなりに変なことをしないと簡単には作れそうにないことが分かりますね.

詳しくは後述しますが,実は$m^{*}$の定義域をルベーグ可測集合全体に制限してできる写像は先ほどの性質$(*)$を満たすことが証明でき,こうしてできる写像をルベーグ測度と定義します.

ルベーグ可測集合であるための必要十分条件

ルベーグ測度の前にもう少しルベーグ可測集合について考えましょう.

先ほど(前回の記事で)説明したように,外測度$m^{*}$は劣加法性「集合$A_1, A_2,\dots\subset\R$に対して$m^{*}\bra{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n}\le\sum_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$」を満たすのでした.

この劣加法性で$A_1=X\cap A$, $A_2=X\cap A^c$, $A_3=A_4=\dots=\emptyset$とおくと,

\begin{align*} m^{*}(X)\le m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c) \end{align*}

が成り立つことが分かります.

そのため,実はルベーグ可測集合であるためには$\ge$の向きの不等式を示せば十分であることが分かりますね.つまり,次が成り立ちますね.

集合$A\subset\R$に対して,次は同値である.

  • $A$はルベーグ可測集合である.
  • 任意の$X\subset\R$に対して$m^{*}(X)\ge m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)$が成り立つ.

ルベーグ可測集合の具体例

ここでは具体的に簡単に可測であることが証明できる集合を紹介します.

例1

$\R$が可測集合であることを示せ.


任意の集合$X\subset\R$に対して

\begin{align*} m^{*}(X)=m^{*}(X\cap \R)+m^{*}(X\cap \R^c) \end{align*}

が成り立つことを示せば良いですね.

$X\subset\R$より$X\cap\R=X$, $X\cap \R^c=X\cap\emptyset=\emptyset$であり,外測度の性質$m^{*}(\emptyset)=0$を併せると

\begin{align*} m^{*}(X\cap \R)+m^{*}(X\cap \R^c) =m^{*}(X)+m^{*}(\emptyset) =m^{*}(X) \end{align*}

が成り立つので,$\R$は可測集合ですね.

例2

無限区間$[0,\infty)$が可測集合であることを示せ.


任意に集合$X\subset\R$をとる.$I=[0,\infty)$とおくとき,上の命題から

\begin{align*} m^{*}(X)\ge m^{*}(X\cap I)+m^{*}(X\cap I^c) \end{align*}

が成り立つことを示せば良いですね.

外測度$m^{*}$の$\inf$の性質より,任意の$\epsilon>0$に対して,ある右半開区間の列$\{I_n\}$が存在して

\begin{align*} m^{*}(X)+\epsilon>\sum_{n=1}^{\infty}|I_n| \end{align*}

が成り立ちます.ここで$J_n:=I\cap I_n$, $K_n:=I^c\cap I_n$ ($n=1,2,\dots$)とおくと,$\{J_n\}$と$\{K_n\}$はともに右半開区間の列で

\begin{align*} X\cap I\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}J_n,\quad X\cap I^c\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}K_n \end{align*}

が成り立ちます.また,$|I_n|=|J_n|+|K_n|$($n=1,2,\dots$)が成り立ちます.よって,

\begin{align*} \sum_{n=1}^{\infty}|I_n| =\sum_{n=1}^{\infty}(|J_n|+|K_n|) \ge m^{*}(X\cap I)+m^{*}(X\cap I^c) \end{align*}

が成り立つから$m^{*}(X)+\epsilon>m^{*}(X\cap I)+m^{*}(X\cap I^c)$を得る.

よって,$\epsilon$の任意性と併せて$m^{*}(X)\ge m^{*}(X\cap I)+m^{*}(X\cap I^c)$が従う.

ルベーグ測度

それではルベーグ測度を定義しましょう.

ルベーグ可測集合全部の集合を$\mathcal{L}$とする.このとき,外測度$m^{*}$の定義域を$\mathcal{L}$に制限してできる写像$m=m^{*}|_{\mathcal{L}}$をルベーグ測度 (Lebesgue measure)という.

また,$A\in\mathcal{L}$に対して$m(A)$を$A$の測度 (measure)という.

$X\subset Y$を満たす集合$X$, $Y$に対して,$Y$を定義域とする写像$f$を考えたとき,$f$の定義域を$X$に制限してできる写像を$f|_{X}$と表しますね.定義域が異なる写像は異なる写像とみなすので,$f$と$f|_{X}$は異なる写像です.

よって,ルベーグ外測度$m^{*}$とルベーグ測度$m$は異なる写像です.

このルベーグ測度$m$は性質$(*)$を満たすことが証明できます.

Lebesgue測度$m$と$A_1, A_2,\dots\in\mathcal{L}$を考える.このとき,$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{L}$であり,$A_1, A_2,\dots$のどの2つの共通部分も空集合なら

\begin{align*} m\bra{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n}=\sum\limits_{n=1}^{\infty}m(A_n)\quad\dots(*) \end{align*}

が成り立つ.

この$m$の性質$(*)$を完全加法性$\sigma$-加法性などといい,上でも説明したようにこの完全加法性はルベーグ積分(測度論)の基礎となる重要な性質で,完全加法性があることによって様々な性質を証明することができます.

ただし,この完全加法性の証明のためにはルベーグ可測集合の性質について理解しておくことが重要です.

そこで,次の記事ではルベーグ可測集合の基本的な性質を説明します.