前回の記事では実数列の収束をε-N論法により定義しました.
実数列$\{a_n\}$が収束しないとき$\{a_n\}$は発散するといいますが,高校数学でも学ぶように実数列の発散の中には
- 正の無限大$\infty$に発散
- 負の無限大$-\infty$に発散
- 振動
の3種類があります.
しかし,実数列の収束と同様に,発散も高校数学の範囲内では厳密には扱いません.
この記事では
- 実数列の3種類の発散の厳密な定義
- 発散する実数列の具体例
を順に説明します.
「微分積分学の基本」の一連の記事
実数列の3種類の発散の厳密な定義
まずは3種類の発散の定義を厳密に述べておきましょう.
正の無限大$\infty$への発散
具体例から考えてみましょう.
一般項$a_n=n^2$で定まる実数列$\{a_n\}$を考える.
$a_n>1000000$となるには$n$をどんな実数より大きくすればよいか?
この問題は簡単ですね.
$a_n=n^2$, $n>0$だから,
なので,例えば$n$を1000より大きくすればよい.
いまの問題は$a_n>1000000$でしたが,「$a_n>10^{100}$となるには$n$をどんな実数より大きくすればよいか?」という問題に変わっても,同じように解けますね.
つまり,どんな$R>0$に対しても,$n$が十分大きいところで常に$a_n>R$となるようにできますね.
この性質をもつ数列は正の無限大$\infty$に発散すると言います.
実数列$\{a_n\}$が(正の)無限大$\infty$に発散するとは,任意の$R>0$に対して,ある$N\in\N$が存在して,
が成り立つことをいう.また,このとき$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=\infty$や$a_n\to\infty$ ($n\to\infty$)などと表す.
少し砕けた言い方をすれば,実数列$\{a_n\}$が正の無限大$\infty$に発散するとは「どんなに大きな正の数$R$に対しても,十分大きな正の整数$N$をうまくとって,$n>N\Ra a_n>R$が成り立つようにできる」ということになります.
また,上の具体例からも分かるように,$N$は$R$に応じて決めてよいという点は大切です.
実数列の収束のε-N論法による定義と考え方は似ていますね.
負の無限大$-\infty$への発散
正の無限大$\infty$への発散と同様ですが,ここでも具体例から考えてみましょう.
一般項$a_n=-\dfrac{1}{2}n$で定まる実数列$\{a_n\}$を考える.
$a_n<-10000$となるには$n$をどんな実数より大きくすればよいか?
この問題も簡単ですね.
$a_n=-\dfrac{1}{2}n$だから,
なので,例えば$n$を20000より大きくすればよい.
先ほどと同じように,どんな$S<0$に対しても,$n$が十分大きいところで常に$a_n<S$となるようにできますね.
この性質をもつ数列は負の無限大$-\infty$に発散すると言います.
実数列$\{a_n\}$が負の無限大$-\infty$に発散するとは,任意の$S<0$に対して,ある$N\in\N$が存在して,
が成り立つことをいう.また,このとき$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=-\infty$や$a_n\to-\infty$ ($n\to\infty$)などと表す.
こちらも実数列$\{a_n\}$が負の無限大$-\infty$に発散するとは「どんなに小さな負の数$S$に対しても,十分大きな正の整数$N$をうまくとって,$n>N\Ra a_n<S$が成り立つようにできる」といえますね.
また,上の具体例からも分かるように,$N$は$S$に応じて決めてよいという点は大切です.
振動
振動は次で定義されます.
実数列$\{a_n\}$が振動するとは,$\{a_n\}$は発散する(収束しない)が,正の無限大$\infty$にも負の無限大$-\infty$にも発散しないことをいう.
「発散」という言葉からは「どこかに飛んでいく」ようなイメージを持ちそうですが,収束しない数列は全て発散するということに注意してください.
発散の中でも
- 項がどこまでも大きくなっていく正の無限大$\infty$への発散
- 項がどこまでも小さくなっていく負の無限大$-\infty$への発散
が定義されるわけですが,そのどちらでもない発散もあり得ます.そのような「売れ残り」的な発散を振動というわけですね.
発散する実数列の具体例
具体的に3種類の発散を定義に従ってきちんと示しましょう.
例1(無限大$\infty$に発散)
一般項$a_n=n^2$で定まる実数列$\{a_n\}$が$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=\infty$となることを示せ.
任意に$R>0$をとる.$N=\left\lceil\sqrt{R}\right\rceil$とおくと,$n>N$なら
となるので,実数列$\{a_n\}$は無限大$\infty$に発散する.
一般に$x\in\R$以上の最小の整数は$\lceil x\rceil$と表し,この関数$\lceil\cdot\rceil$を天井関数などといいます.
初手として,任意の$R>0$をとるのは鉄板です.
この$R$に対して,どれくらい大きな$N\in\N$をとれば良いのかが問題となるわけですが,$N^2\ge R$を解くと$N\ge\sqrt{R}$となります.
よって,$N\ge\sqrt{R}$となる正の整数$N$を取ればよいので,$N$を$\sqrt{R}$以上の最小の整数$\left\lceil\sqrt{R}\right\rceil$としたわけですね.
例2(負の無限大$-\infty$に発散)
一般項$a_n=-n^2-n$で定まる実数列$\{a_n\}$が$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=-\infty$となることを示せ.
任意に$S<0$をとる.$N=\left\lceil\sqrt{-S}\right\rceil$とおくと,$n>N$なら
となるので,実数列$\{a_n\}$は負の無限大$-\infty$に発散する.
やはり負の無限大$-\infty$への発散を示す際も,任意の$S<0$を初手にとるのは鉄板です.
今回は$n>N\Ra-n^2-n<S$となる$N\in\N$を考えればいいわけですが,$-N^2-N<S$を解くのは(解いても良いですが)少し面倒です.
そこで,$a_n<-n^2$と少し緩めて解きやすい$-N^2\ge S$に持ち込み,この解$N\ge\sqrt{-S}$から$N=\left\lceil\sqrt{-S}\right\rceil$とおいたわけですね.
例3(振動)
一般項$a_n=(-1)^{n}n$で定まる実数列$\{a_n\}$が振動することを示せ.
どんどん振り幅が大きくなっていくので振動しそうですね.振動は「売れ残り」なので,
- 収束
- 正の無限大$\infty$に発散
- 負の無限大$-\infty$に発散
のどれでもないことを示せばいいですね.
[1] 実数列$\{a_n\}$が収束しないことを背理法により示す.
実数列$\{a_n\}$が$\alpha$に収束すると仮定すると,任意の$\epsilon>0$に対して,ある$N\in\N$が存在して,
が成り立つ.$\epsilon$は任意なので,$\epsilon=1$として$n=N+1,N+2$の場合を考えると
が成り立つので,
となる.ただし,$x,y\in\R$に対して,三角不等式$|x+y|\le|x|+|y|$が成り立つことを用いた.一方,
であるが,$2N+3<1$は成り立たないから矛盾である.よって,実数列$\{a_n\}$は収束しない.
[2] 実数列$\{a_n\}$が無限大$\infty$には発散しないことを背理法により示す.
$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=\infty$と仮定すると,任意の$R>0$に対して,ある$N\in\N$が存在して,
が成り立つ.しかし,$a_{N+1}$と$a_{N+2}$のいずれか一方は負だから矛盾である.
よって,実数列$\{a_n\}$は無限大$\infty$には発散しない.
[3] 実数列$\{a_n\}$が負の無限大$-\infty$には発散しないことを背理法により示す.
$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=-\infty$と仮定すると,任意の$S<0$に対して,ある$N\in\N$が存在して,
が成り立つ.しかし,$a_{N+1}$と$a_{N+2}$のいずれか一方は正だから矛盾である.
よって,実数列$\{a_n\}$は負の無限大$-\infty$には発散しない.
[1]-[3]より,実数列$\{a_n\}$は振動する.
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