2014年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻の大学院入試問題の専門科目では,全12題あり
- 数学系は第1問〜第10問から
- 数理解析系は第1問〜第12問から
2題を選択して解答します.試験時間は3時間です.この記事では,第6〜8問(解析系)について,解答の方針から解説し解答例を掲載しています.
ただし,公式に採点基準などは発表されていないため,本稿の解答が必ずしも正解になるとは限りません.ご注意ください.
また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.
なお,過去問は京都大学の数学教室の過去問題のページから入手できます.
第6問(実解析)
$f$を$\R$上の実数値$C^1$級関数とする.さらに,
\begin{align*}\int_{-\infty}^{\infty}x^2f(x)^2\,dx<\infty,\quad
\int_{-\infty}^{\infty}f'(x)^2\,dx<\infty\end{align*}
が成り立っているとする.このとき以下を示せ.
- $g(x)=xf(x)^2$とおくと,$g’$は$\R$上可積分であり,$\lim\limits_{x\to\pm\infty}g(x)=0$となる.
- $\dint_{-\infty}^{\infty}f(x)^2\,dx\le2\brb{\dint_{-\infty}^{\infty}x^2f(x)^2\,dx}^{1/2}\brb{\dint_{-\infty}^{\infty}f'(x)^2\,dx}^{1/2}$.
$f$の重み付きの可積分性と,導関数の可積分性から,$f$の可積分性と評価を示す問題です.
解答の方針とポイント
$f$の重み付きの可積分性$|\cdot|f\in L^2(\R)$から$f$は遠方での可積分性が良く,$f$の導関数の可積分性$f’\in L^2(\R)$からあまり振動していないことが分かります.なお,(2)は(1)を用いれば直ちに得られます.
遠方の可積分性と有界領域での可積分性を別々に示す
(1)では$g$を単純に微分して$g'(x)=f(x)^2+2xf(x)f'(x)$なので,この第1項と第2項がともに$\R$上可積分であることを示せば$g’$が可積分であることが分かりますね.
仮定$|\cdot|f,f’\in L^2(\R)$なので,コーシー-シュワルツの不等式より第2項が可積分であることはすぐ分かりますから,問題は第1項ですね.
第1項の遠方$\R\setminus[-1,1]$の可積分性は$|\cdot|f\in L^2(\R)$から
\begin{align*}\int_{\R\setminus[-1,1]}f(x)^2\,dx\le\int_{\R\setminus[-1,1]}x^2f(x)^2\,dx<\infty\end{align*}
が成り立ち,$[-1,1]$上では連続だから有界なので可積分ですね.
導関数との関係は微分積分学の基本定理を用いる
関数$g$とその導関数$g’$を結び付けるには微分積分学の基本定理を使うのが自然ですね.
[微分積分学の基本定理]関数$f:[a,b]\to\R$が連続なら,関数$f$の任意の原始関数$F$に対して,
\begin{align*}\int_{a}^{b}f(x)\,dx=F(b)-F(a)\end{align*}
が成り立つ.
微分積分学の基本定理は積分する関数$f$が連続でなければ使えません.(1)では関数$f$が$C^1$級なので,$g’$は連続ですから
\begin{align*}g(x)=\int_{0}^{x}g'(y)\,dy+g(0)\end{align*}
が成り立ちます.$g’$が$\R$上可積分であることが上で示されたので,極限$\lim\limits_{x\to\infty}\int_{0}^{x}g'(y)\,dy=\int_{0}^{\infty}g'(y)\,dy$が存在しますから,極限$\lim\limits_{x\to\infty}g(x)$が存在しますね.
よって,あとは$\dint_{-\infty}^{\infty}x^2f(x)^2\,dx<\infty$から$g(x)=xf(x)^2$は$x\to\infty$で0に収束しますね.
解答例
(1)の解答
$f$は有界閉集合$[-1,1]$上連続だから$M:=\max\limits_{x\in[-1,1]}|f(x)|$が存在するので,
\begin{align*}\int_{\R}f(x)^2\,dx
&=\int_{[-1,1]}f(x)^2\,dx+\int_{\R\setminus[-1,1]}f(x)^2\,dx
\\&\le2M^2+\int_{\R}x^2f(x)^2\,dx<\infty\end{align*}
である.また,コーシー-シュワルツの不等式から
\begin{align*}&\int_{\R}|xf(x)f'(x)|\,dx
\le\bra{\int_{\R}x^{2}f(x)^2\,dx}^{1/2}\bra{\int_{\R}f'(x)^2\,dx}^{1/2}<\infty\end{align*}
である.よって,$g'(x)=f(x)^{2}+2xf(x)f'(x)$の第1項も第2項も$\R$上可積分だから,$g’$は$\R$上可積分である.$f\in C^1(\R)$より$g\in C^1(\R)$なので,微分積分学の基本定理より
\begin{align*}g(x)&=\int_{0}^{x}g'(y)\,dy+g(0)\xrightarrow[]{x\to\infty}\int_{0}^{\infty}g'(y)\,dy+g(0)\end{align*}
と$x\to\infty$で$g(x)$は収束する.もし$\lim\limits_{x\to\infty}g(x)\neq0$なら,ある$\epsilon>0$と$R>0$が存在して,$x>R$のとき$|g(x)|>\epsilon$が成り立つから,
\begin{align*}\int_{\R}x^2f(x)^2\,dx=\int_{\R}xg(x)\,dx\ge\int_{[R,\infty)}xg(x)\,dx\ge\epsilon\int_{R}^{\infty}x\,dx=\infty\end{align*}
となって仮定に矛盾する.よって,$\lim\limits_{x\to\infty}g(x)=0$が従う.同様に$\lim\limits_{x\to-\infty}g(x)=0$が従う.
(2)の解答
$\lim\limits_{x\to\pm\infty}g(x)=0$とコーシー-シュワルツの不等式より
\begin{align*}\int_{\R}f(x)^{2}\,dx
&=\int_{\R}(g'(x)-2xf(x)f'(x))\,dx
\\&=-\int_{\R}2xf(x)f'(x)\,dx
\\&\le2\int_{\R}|xf(x)f'(x)|\,dx
\\&\le2\bra{\int_{\R}|xf(x)|^2\,dx}^{1/2}\bra{\int_{\R}|f'(x)|^2\,dx}^{1/2}\end{align*}
が従う.
第7問(関数解析学)
$H$を実Hilbert空間とし,$T$を$H$上のコンパクト作用素とする.任意の$x\in H$に対して,$H$の点列$\{T^n x\}_{n=1}^{\infty}$が$n\to\infty$のとき0に弱収束しているとする.以下の問に答えよ.
- 任意の$x\in H$に対して,$H$の点列$\{T^n x\}_{n=1}^{\infty}$が$n\to\infty$のとき0に強収束していることを示せ.(補足説明:(1)で強収束とは,$H$のノルムに関する収束を意味する.)
- 作用素列$\{T^n\}_{n=1}^{\infty}$は0に作用素ノルムで収束していることを示せ.
(ある条件をもつ)コンパクト作用素の冪が作用素ノルムについて0に収束することを示す問題です.
解答の方針とポイント
任意の$x\in H$に対して$T^n x=T^{n-1}(Tx)$と表せることを意識するのがポイントです.
点列が収束するための部分列の十分条件
一般には0に弱収束しても0に強収束するとは限りませんが,(1)で考える点列$\{T^n x\}_{n=1}^{\infty}$は$T$を繰り返しかけてできる点列で,$T$がコンパクト作用素であることから0に強収束します.
バナッハ空間$X$からバナッハ空間$Y$への線形作用素$T$がコンパクト作用素であるとは,$\mathcal{D}(T)=X$を満たし,$X$上の任意の有界点列$\{f_n\}_{n\in\N}$に対して,$Y$上の点列$\{Tf_n\}_{n\in\N}$が収束部分列をもつことをいう.
実際,もし点列$\{T^n x\}_{n=1}^{\infty}$が0に強収束しないとすると,ある$\epsilon>0$と部分列$\{T^{n(k)}x\}_{k=1}^{\infty}$が存在して,任意の$k\in\{1,2,\dots\}$に対し$\|T^{n(k)}x\|_H\ge\epsilon$が成り立ちます.
点列$\{T^{n(k)-1}x\}_{k=1}^{\infty}$は有界ですから,$T$がコンパクトであることより$\{T^{n(k)}x\}_{k=1}^{\infty}$は0に強収束する部分列をもちますが,これは矛盾なので点列$\{T^n x\}_{n=1}^{\infty}$が0に強収束します.
なお,いまの議論は次の命題を用いたのと本質的に同じです.この命題も良く知られているので,収束の証明のひとつの引き出しとして知っておくとよいでしょう.
ノルム空間$X$上の点列$\{u_n\}_{n=1}^{\infty}$を考える.$\{u_n\}_{n=1}^{\infty}$の任意の部分列が$u\in X$に収束する部分列をもてば,$\{u_n\}_{n=1}^{\infty}$は$u$に収束する.
上の議論と同様に背理法で証明できます.
アスコリ-アルツェラの定理で一様収束部分列を捕まえる
$H$上の単位閉球$S$に対して,$T^{n+1}$の作用素ノルムは
\begin{align*}\|T^{n+1}\|_{H\to H}=\sup_{x\in T(S)}\|T^n x\|_H\le\sup_{x\in\overline{T(S)}}\|T^n x\|_H\end{align*}
なので,集合$\overline{T(S)}$上の汎関数$f_n:\overline{T(S)}\to[0,\infty);x\mapsto\|T^n x\|_{H}$が0に一様収束することを示せばよいですね.
ここで,$T$のコンパクト性より$\overline{T(S)}$はコンパクト集合ですから,「コンパクト」と「一様収束」というキーワードからアスコリ-アルツェラの定理が連想されますね.
[アスコリ-アルツェラの定理]コンパクト距離空間$(X,d)$上の関数列$\{f_n\}_{n\in\N}$が$X$上で一様有界かつ同程度連続なら,$\{f_n\}_{n\in\N}$は$X$上一様収束する部分列をもつ.ただし,関数列$\{f_n\}_{n\in\N}$について
- $X$上同程度連続であるとは,任意の$\epsilon>0$に対して,ある$\delta>0$が存在して,$d(x,x’)<\delta$を満たす任意の$x,x’\in X$に対して$\sup\limits_{n\in\N}|f_n(x)-f_n(x’)|\le\epsilon$が成り立つことをいう.
- $X$上一様有界であるとは,ある$M>0$が存在して,任意の$x\in X$に対して$\sup\limits_{n\in\N}|f_n(x)|\le M$が成り立つことをいう.
そこで,(1)と同様の議論を使いましょう.$\{f_n\}_{n=1}^{\infty}$が0に一様収束しないと仮定すると,ある$\epsilon>0$と部分列$\{f^{n(k)}\}_{k=1}^{\infty}$が存在して,任意の$k\in\{1,2,\dots\}$に対し$\sup\limits_{x\in \overline{T(S)}}|f^{n(k)}(x)|\ge\epsilon$が成り立ちます.
各$f^{n(k)}$の定義域$\overline{T(S)}$はコンパクト集合ですから,アスコリ-アルツェラの定理が使えれば,ある部分列$\{f^{n(k(\ell))}\}_{\ell}$が存在して一様収束し,(1)より$\{f^{n(k)}\}_{k=1}^{\infty}$は0に各点収束していることと併せて矛盾ですね.
同程度連続性と一様有界性の証明
任意の$x,x’\in\overline{T(S)}$に対して,
\begin{align*}&\begin{aligned}|f_{n(k)}(x)-f_{n(k)}(x’)|&=\abs{\|T^{n(k)}x\|_H-\|T^{n(k)}x’\|_H}
\\&\le\|T^{n(k)}(x-x’)\|_H
\\&\le\|T^{n(k)}\|_{H\to H}\|x-x’\|_H,\end{aligned}
\\&|f_{n(k)}(x)|=\|T^{n(k)}x\|_H\le\|T^{n(k)}\|_{H\to H}\|x\|_H\end{align*}
が成り立つので,あとは$\|T^{n(k)}\|_{H\to H}$が一様有界で,$\sup_{x\in\overline{T(S)}}\|x\|_H<\infty$であることを示せば,$\{f^{n(k)}\}_{k=1}^{\infty}$の同程度連続性と一様有界性が成り立ちますね.
$\|T^{n(k)}\|_{H\to H}$が一様有界であることは任意の$x\in\overline{T(S)}$に対して$\{T^{n(k)}x\}_{k=1}^{\infty}$が有界なので一様有界性原理から従い,$\sup_{x\in\overline{T(S)}}\|x\|_H<\infty$は$\overline{T(S)}$がコンパクトであることから従います.
[一様有界性原理]バナッハ空間$X$,ノルム空間$Y$に対して,$B(X,Y)$に属する作用素の族$\{T_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$を考える.任意の$u\in X$に対して,$\sup_{\lambda\in\Lambda}\|T_\lambda u\|<\infty$が成り立てば,
\begin{align*}\sup_{\lambda\in\Lambda}\|T_\lambda\|<\infty\end{align*}
が成り立つ.
解答例
$T^0$は恒等作用素$H\to H$であると定める.
(1)の解答
点列$\{T^n x\}_{n=1}^{\infty}$が0に強収束しないと仮定する.このとき,ある$\epsilon>0$と部分列$\{T^{n(k)}x\}_{k=1}^{\infty}$が存在して,任意の$k\in\{1,2,\dots\}$に対し$\|T^{n(k)}x\|_H\ge\epsilon$が成り立つ.
一般に弱収束列は有界だから点列$\{\|T^{n(k)-1}x\|_H\}$は有界なので,$T$のコンパクト性より$\{T^{n(k)}x\}_{k=1}^{\infty}$は0に強収束する部分列をもつ.
しかし,これは任意の$k\in\{1,2,\dots\}$に対し$\|T^{n(k)}x\|_H\ge\epsilon$が成り立つことに矛盾する.よって,$\{T^nx\}$は0に強収束する.
(2)の解答
$S$を$H$上の単位球面とする:$S=\set{u\in H}{\|u\|_{H}=1}$.このとき,
\begin{align*}\|T^{n+1}\|_{H\to H}
=\sup_{u\in S}\|T^{n+1}u\|_H
=\sup_{x\in T(S)}\|T^n x\|_H
\le\sup_{x\in\overline{T(S)}}\|T^n x\|_H\end{align*}
である.ただし,$\|\cdot\|_{H\to H}$は作用素ノルムである.
ここで,$n\in\N$に対して$f_n(x)=\|T^n x\|_H$で定まる汎関数$f_n:\overline{T(S)}\to\R$を定め,関数列$\{f_n\}_{n=1}^{\infty}$は0に一様収束しないと仮定する.
このとき,ある$\epsilon>0$と部分列$\{f_{n(k)}\}_{k=1}^{\infty}$が存在して,任意の$k\in\{1,2,\dots\}$に対し$\sup\limits_{x\in\overline{T(S)}}|f_{n(k)}(x)|\ge\epsilon$が成り立つ.また,
- 任意の$x\in H$に対して$\{T^{n(k)}x\}_{k=1}^{\infty}$が弱収束列だから有界列なので,一様有界性原理より$M_1:=\sup\limits_{k\in\N}\|T^{n(k)}\|_{H\to H}<\infty$
- $T$はコンパクト作用素で$S$は有界集合だから$\overline{T(S)}$はコンパクト集合で有界だから,$M_2:=\sup\limits_{x\in\overline{T(S)}}\|x\|_H<\infty$
である.以下で$\{f_{n(k)}\}_{k=1}^{\infty}$が同程度連続かつ一様有界であることを示す.
[1]任意の$\epsilon>0$に対して,$x,x’\in\overline{T(S)}$が$\|x-x’\|_H<\epsilon/M_1$を満たせば,
\begin{align*}\sup_{k\in\N}|f_{n(k)}(x)-f_{n(k)}(x’)|&=\sup_{k\in\N}\abs{\|T^{n(k)}x\|_H-\|T^{n(k)}x’\|_H}
\\&\le\sup_{k\in\N}\|T^{n(k)}x-T^{n(k)}x’\|_H
\\&=\sup_{k\in\N}\|T^{n(k)}(x-x’)\|_H
\\&\le\sup_{k\in\N}\|T^{n(k)}\|_{H\to H}\|x-x’\|_H
\\&<M_1\cdot\frac{\epsilon}{M_1}=\epsilon\end{align*}
が成り立つから,$\{f_{n(k)}\}_{k=1}^{\infty}$は同程度連続.
[2]任意の$x\in\overline{T(S)}$に対して,
\begin{align*}\sup_{k\in\N}|f_{n(k)}(x)|&=\sup_{k\in\N}\|T^{n(k)}x\|_H
\\&\le\sup_{k\in\N}\|T^{n(k)}\|_{H\to H}\|x\|_H\le M_1M_2\end{align*}
が成り立つから,$\{f_{n(k)}\}_{k=1}^{\infty}$は一様有界.
[1][2]と$T$のコンパクト性より$\overline{T(S)}$がコンパクトであることから,$\{f_{n(k)}\}_{k=1}^{\infty}$にアスコリ-アルツェラの定理を適用できて,一様収束する部分列$\{f_{n(k(\ell))}\}_{\ell=1}^{\infty}$が存在する.
(1)より$\{f_n\}_{n=1}^{\infty}$は0に各点収束するから$\{f_{n(k(\ell))}\}_{\ell=1}^{\infty}$も0に各点収束する.一般に,一様収束極限が存在すれば各点収束極限に一致するから,$\{f_{n(k(\ell))}\}_{\ell=1}^{\infty}$は0に一様収束する.
しかし,これは任意の$\ell\in\{1,2,\dots\}$に対し$\sup\limits_{x\in\overline{T(S)}}|f_{n(k(\ell))}(x)|\ge\epsilon$が成り立つことに矛盾する.よって,$\{f_n\}$は0に一様収束するから,作用素列$\{T^n\}_{n=1}^{\infty}$は0に作用素ノルムで収束する.
第8問(微分方程式)
$C^2$級関数$u:\R^2\to\R$はすべての$(t,x)\in\R^2$で次の方程式をみたす.
\begin{align*}\frac{\partial^2u}{\partial t^2}(t,x)+u(t,x)=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(t,x)\end{align*}
このとき,$\R$上の3つの実数値関数$E$, $v_+$, $v_-$を次で定める.
- $E(t)=\dint_{-t}^{t}\biggl\{\abs{\dfrac{\partial u}{\partial t}(t,x)}^2+\abs{\dfrac{\partial u}{\partial x}(t,x)}^2+|u(t,x)|^2\biggr\}\,dx$,
- $v_{\pm}(t)=u(t,\pm t)$(複号同順)
以下の問に答えよ.
- $\frac{dE}{dt}(t)$を関数$v_{\pm}$とその導関数を用いて表し,$E(t)$が$t\in\R$について単調増加であることを示せ.
- $\sup\limits_{t\ge0}E(t)<\infty$なら,$\lim\limits_{t\to\infty}v_{\pm}(t)=0$となることを示せ.
偏微分方程式の解$u$のエネルギー$E$が有限なら,$x=\pm t$のとき$u(x,t)$が$t\to\infty$で0に減衰することを示す問題です.
解答の方針とポイント1
(1)は形式的にはそれほど難しくありませんが,きちんと示そうとすると少々面倒なので丁寧に示しましょう.(2)は$E$が単調増加かつ上に有界であることから$E(t)$が$t\to\infty$で収束するので,あとは(1)で求めた$E(t)$の式と併せて示します.
$E'(t)$の形式的な導出
$E$の非積分関数を$w$とおきましょう:$w:=u_t^2+u_x^2+u^2$.$E(t)$の式の中の$t$は
- $E(t)$の積分区間の$t$
- $E(t)$の被積分関数の$t$
の2種類あるので,形式的にはチェインルールから$E'(t)$を計算できますね.つまり,$E$を$f(p,q)=\int_{-p}^{p}w(q,x)\,dx$と$g(t)=(t,t)$の合成と考えれば
\begin{align*}E'(t)&=f_p(t,t)+f_q(t,t)
\\&=w(t,t)+w(t,-t)+\int_{-t}^{t}w_t(t,x)\,dx\end{align*}
と計算できますね.微分方程式$u_{tt}(t,x)+u(t,x)=u_{xx}(t,x)$より
\begin{align*}w_t&=2(u_tu_{tt}+u_xu_{tx}+uu_t)
\\&=2\bra{u_tu_{xx}+u_xu_{tx}}=2(u_tu_x)_x(t,x)\end{align*}
なので,
\begin{align*}E'(t)&=2(u_t(t,t)u_x(t,t)-u_t(t,-t)u_x(t,-t))+w(t,t)+w(t,-t)
\\&=(u_t(t,t)+u_x(t,t))^{2}+(u_t(t,-t)-u_x(t,-t))^2+v_+(t)^2+v_-(t)^2
\\&=v’_+(t)^2+v’_-(t)^2+v_+(t)^2+v_-(t)^2\ge0\end{align*}
となり,$E$は$\R$上単調増加です.
微分と積分の順序交換
$f$の$p$偏導関数は微分積分学の基本定理から簡単に得られますが,$f$の$q$偏導関数は微分と積分の順序交換を用いることになります.微分と積分の順序交換を正当化するには次の定理を用いるのが常套手段です.
[微分と積分の順序交換条件]$A$を可測集合,$I$を開区間とする.$A\times I$上の可測関数$f(x,t)$は$t$について偏微分可能で,任意の$t\in I$に対して$f(\cdot,t)$は可積分であるとする.このとき,($t$によらない)ある$A$上の関数$g$が存在して,
- 任意の$t\in I$に対して$\abs{\frac{\partial f}{\partial t}(x,t)}\le g(x)$ a.e. $x\in A$
- $g$は$A$上可積分:$\int_{A}g(x)\,dx<\infty$
を満たすなら,
\begin{align*}\frac{d}{dt}\int_{A}f(x,t)\,dx=\int_{A}\frac{\partial f}{\partial t}(x,t)\,dx\end{align*}
が成り立つ.
この定理を使う際のポイントは
- (ほとんど至るところ)$|\frac{\partial f}{\partial t}(x,t)|\le g(x)$を満たす関数$g$をとる
- $\int_{A}g(x)\,dx<\infty$を満たす
の2つを示すことですね.この[微分と積分の順序交換条件]の定理の証明には,平均値の定理とルベーグの収束定理を用います.
$f,f’\in L^2[0,\infty)$なら遠方$x\to\infty$で減衰する
(1)で得られた$E$の単調増加性と,(2)の$E$の有界性の仮定から,極限$\lim\limits_{t\to\infty}E(t)$が存在します.また,(1)で得られた$E'(t)=v’_+(t)^2+v’_-(t)^2+v_+(t)^2+v_-(t)^2$と併せて,微分積分学の基本定理より
\begin{align*}\lim_{t\to\infty}E(t)=\|v’_+\|_{L^2[0,\infty)}^2+\|v’_-\|_{L^2[0,\infty)}^2+\|v_+\|_{L^2[0,\infty)}^2+\|v_-\|_{L^2[0,\infty)}^2\end{align*}
となり($E(0)=0$に注意),$v_{\pm},v’_{\pm}\in L^2[0,\infty)$が成り立ちます.よって,コーシー-シュワルツの不等式より$v_{\pm}v’_{\pm}\in L^1[0,\infty)$が成り立ちます.
よって,$(v_{\pm}^2)’\in L^1[0,\infty)$なので,
\begin{align*}\lim_{t\to\infty}v_{\pm}^2(t)&=\lim_{t\to\infty}\int_{0}^{t}(v_{\pm}^2)'(s)\,ds+v_{\pm}(0)^2
\\&=2\|v_{\pm}v’_{\pm}\|_{L^1[0,\infty)}+v_{\pm}(0)^2\end{align*}
と$\lim\limits_{t\to\infty}v_{\pm}^2(t)$が収束します.よって,$v_{\pm}^2$が$[0,\infty)$上可積分であることと併せて$\lim\limits_{t\to\infty}v_{\pm}(t)=0$が従いますね.
一般に$f\in H^s(\R^d)$($s>\frac{d}{2}$)が成り立てば$\lim\limits_{|x|\to\infty}f(x)=0$が成り立ちます.
解答例1
以下では全て複号同順とする.$v_{\pm}$は$C^2$級関数$u$と$C^{\infty}$級関数$\R\to\R^2;t\mapsto(t,\pm t)$の合成なので$C^2$級関数である.また,$C^1$級関数$w:\R^2\to\R$を
\begin{align*}w:=u_t^2+u_x^2+u^2\end{align*}
で定める.
(1)の解答
関数$f:\R^2\to\R$, $g:\R\to\R^2$を
\begin{align*}f(p,q)=\int_{-p}^{p}w(q,x)\,dx,\quad
g(t)=(t,t)\end{align*}
で定めると$E=f\circ g$である.$w$は連続なので,任意の$p,q\in\R$に対して,微分積分学の基本定理より
\begin{align*}\frac{\partial f}{\partial p}(p,q)=w(q,p)-(-1)w(q,-p)=w(q,p)+w(q,-p)\end{align*}
である.また,任意の$p,R>0$に対して,
- $w_t$は有界閉集合$[-R,R]\times[-p,p]$上で連続だから有界なので,ある$M>0$が存在して,任意の$x\in[-p,p]$に対して$\sup\limits_{q\in[-R,R]}|w_t(q,x)|\le M$
- $\int_{-p}^{p}M\,dx=2Mp<\infty$
が成り立つから,任意の$q\in[-R,R]$に対して,平均値の定理とルベーグの収束定理より,
\begin{align*}\frac{\partial f}{\partial q}(p,q)=\int_{-p}^{p}w_t(q,x)\,dx\end{align*}
である.$R>0$は任意なので,$\R$上でもこの微分と積分の順序交換が成り立つ.よって,$E$は$\R$上微分可能で
\begin{align*}E'(t)&=f_p\circ g(t)\cdot\frac{dt}{dt}+f_q\circ g(t)\cdot\frac{dt}{dt}
\\&=w(t,t)+w(t,-t)+\int_{-t}^{t}w_t(t,x)\,dx\end{align*}
が成り立つ.また,与えられた微分方程式$u_{tt}+u=u_{xx}$より
\begin{align*}w_t&=2(u_tu_{tt}+u_xu_{tx}+uu_t)
\\&=2\bra{u_tu_{xx}+u_xu_{tx}}=2(u_tu_x)_x(t,x)\end{align*}
なので,微分積分学の基本定理と併せて,
\begin{align*}E'(t)&=2(u_t(t,t)u_x(t,t)-u_t(t,-t)u_x(t,-t))+w(t,t)+w(t,-t)
\\&=\bra{u_t(t,t)^2+2u_t(t,t)u_x(t,t)+u_x(t,t)^2}
\\&\quad+\bra{u_t(t,-t)^2-2u_t(t,-t)u_x(t,-t)+u_x(t,-t)^2}
\\&\quad+u(t,t)^2+u(t,-t)^2
\\&=(u_t(t,t)+u_x(t,t))^2+(u_t(t,-t)-u_x(t,-t))^2+v_+(t)^2+v_-(t)^2
\\&=v’_+(t)^2+v’_-(t)^2+v_+(t)^2+v_-(t)^2\ge0\end{align*}
だから,$E$は$\R$上単調増加である.
(2)の解答
仮定$\sup\limits_{t\ge0}E(t)<\infty$と(1)より極限$\lim\limits_{t\to\infty}E(t)$が存在する.また,$E$は$\R$上$C^1$級だから,微分積分学の基本定理より
\begin{align*}&\lim_{t\to\infty}E(t)=\lim_{t\to\infty}\int_{0}^{t}E'(s)\,ds+E(0)
\\&=\|v’_+\|_{L^2[0,\infty)}^2+\|v’_-\|_{L^2[0,\infty)}^2+\|v_+\|_{L^2[0,\infty)}^2+\|v_-\|_{L^2[0,\infty)}^2\end{align*}
なので$v_+,v’_+\in L^2([0,\infty))$である. よって,コーシー-シュワルツの不等式より
\begin{align*}\int_{0}^{\infty}|v_{\pm}(s)v’_{\pm}(s)|\,ds\le\|v_{\pm}\|_{L^2([0,\infty))}\|v’_{\pm}\|_{L^2([0,\infty))}\end{align*}
だから,$\int_{0}^{\infty}v’_{\pm}(s)v_{\pm}(s)\,ds$は絶対収束するので収束する.よって,
\begin{align*}v_{\pm}(t)^2&=\int_{0}^{t}(v_{\pm}^2)'(s)\,ds+v_{\pm}(0)^2
\\&\xrightarrow[]{t\to\infty}2\int_{0}^{\infty}v_{\pm}(s)v’_{\pm}(s)\,ds+v_{\pm}(0)^2\end{align*}
と$t\to\infty$で$v_{\pm}(t)^2$は収束する.もし$\lim\limits_{t\to\infty}v_{\pm}^2(t)\neq0$なら,$v_{\pm}^2$が$[0,\infty)$上可積分であることに矛盾するから$\lim\limits_{t\to\infty}v_{\pm}^{2}(t)=0$が分かり,$\lim\limits_{t\to\infty}v_{\pm}(t)=0$が従う.
解答の方針とポイント2
(2)は,任意の$R>0$に対してソボレフ型不等式
\begin{align*}\|f\|_{L^\infty([R,R+1])}\le\|f\|_{L^2([R,R+1])}+\|f’\|_{L^2([R,R+1])}\end{align*}
が成り立つことを用いても証明できます.
一般に,関数のノルムを導関数たちの$L^p$ノルムで上から評価する不等式をソボレフ型不等式といい,偏微分方程式論の解析では重要な道具となることが多いです.
解答例2((2)のみ)
以下,複号同順とする.$\sup\limits_{t\ge0}E(t)<\infty$と(1)より極限$\lim\limits_{t\to\infty}E(t)$が存在する.また,$E$は$\R$上$C^1$級だから,微分積分学の基本定理より
\begin{align*}&\lim_{t\to\infty}E(t)=\lim_{t\to\infty}\int_{0}^{t}E'(s)\,ds+E(0)
\\&=\|v’_+\|_{L^2[0,\infty)}^2+\|v’_-\|_{L^2[0,\infty)}^2+\|v_+\|_{L^2[0,\infty)}^2+\|v_-\|_{L^2[0,\infty)}^2\end{align*}
なので$v_+,v’_+\in L^2([0,\infty))$である.
ここで,任意に$R>0$をとる.$|v_{\pm}|$は有界閉区間$[R,R+1]$上で連続だから,ある$t_{\pm}\in[R,R+1]$で最小値をとる.任意の$t\in[R,R+1]$に対して,微分積分学の基本定理より
\begin{align*}|v_{\pm}(t)|&=\abs{v_{\pm}(t_{\pm})+\int_{t_{\pm}}^{t}v’_{\pm}(s)\,ds}
\\&\le|v_{\pm}(t_{\pm})|+\int_{R}^{R+1}|v’_{\pm}(s)|\,ds\end{align*}
が成り立つ.第1項は
\begin{align*}|v_{\pm}(t_{\pm})|=\bra{\int_{R}^{R+1}|v_{\pm}(t_{\pm})|^2\,ds}^{1/2}\le\|v_{\pm}\|_{L^2[R,R+1]}\end{align*}
と評価でき,第2項はコーシー-シュワルツの不等式より
\begin{align*}\int_{R}^{R+1}|v’_{\pm}(s)|\,ds\le\|1\|_{L^2[R,R+1]}\|v’_{\pm}\|_{L^2[R,R+1]}=\|v’_{\pm}\|_{L^2[R,R+1]}\end{align*}
と評価できるから,$\|v_{\pm}\|_{L^\infty[R,R+1]}\le\|v_{\pm}\|_{L^2[R,R+1]}+\|v’_{\pm}\|_{L^2[R,R+1]}$が成り立つ.よって,
\begin{align*}\lim_{t\to\infty}|v_{\pm}(t)|&=\lim_{t\to\infty}\sup_{s\in[t,t+1]}|v_{\pm}(s)|
\\&\le\lim_{t\to\infty}\bra{\|v_{\pm}\|_{L^2([t,t+1])}+\|v’_{\pm}\|_{L^2([t,t+1])}}=0\end{align*}
だから,$\lim\limits_{t\to\infty}v_{\pm}(t)=0$が従う.
参考文献
以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.
詳解と演習大学院入試問題〈数学〉
[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]
理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.
実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.
第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率
一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの問題集|詳解と演習 大学院入試問題(数理工学社)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.
演習 大学院入試問題
[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]
上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.
全2巻で,
1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計
が扱われています.
地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.
なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの問題集|演習 大学院入試問題[数学](サイエンス社)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.



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