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ペロン・フロベニウスの定理|成分が正の行列の最大固有値の性質

線形代数学
線形代数学

ペロン-フロベニウスの定理とは,全ての成分が正の正方行列または全ての成分が非負の正方行列の最大固有値に関する定理です.

歴史的には

  • 成分が正の正方行列に対する場合(Oskar Perron)
  • 成分が非負の正方行列に対する場合(Ferdinand Georg Frobenius)

の順に示されました.

この記事では

  • 2種類のペロン・フロベニウスの定理
  • 正行列のペロン・フロベニウスの定理の具体例
  • 正行列のペロン・フロベニウスの定理の証明

を順に解説します.

多項式f(x)に正方行列Aを代入してできる正方行列f(A)の固有値に関するフロベニウスの定理とは別の定理です.

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2種類のペロン・フロベニウスの定理

冒頭でも触れたように,ペロン-フロベニウスの定理は成分が正の場合・非負(0以上)の場合の2通りあります.

全ての成分が正の行列正行列といい,全ての成分が非負の行列を非負行列という.

また,RNにおいて,全ての成分が正のベクトル正ベクトルといい,全ての成分が非負のベクトルを非負ベクトルという.

正行列・非負行列は正方行列の定値性(正定値・不定値)とは別物です.

正行列に対するペロン-フロベニウスの定理

[正行列のペロン-フロベニウスの定理]正の正方行列Aは次を満たす正の固有値αをもつ.

  1. Aの任意の固有値βに対して,|β|<αが成り立つ.
  2. 固有値αの(代数的)重複度は1であり,固有値αに属する正の固有ベクトルが存在する.
  3. α以外の固有値に属する正の固有ベクトルは存在しない.

別の書き方をすると「Aの全ての固有値の絶対値の大小を比較したとき,絶対値が最大の固有値αはもともと正の数であって,(2), (3)が成り立つ」という定理ですね.

非負行列に対するペロン-フロベニウスの定理

成分が非負の正方行列の場合には,結論が少し弱くなりますが次が成り立ちます.

[非負行列のペロン-フロベニウスの定理]非負の正方行列Aは次を満たす非負の固有値αをもつ.

  1. Aの任意の固有値βに対して,|β|αが成り立つ.
  2. 固有値αに属する非負の固有ベクトルが存在する.

非負の場合は最大固有値αの(代数的)重複度は1とは限らなくなり,(代数的)重複度が1でない場合は非負でない固有ベクトルをもつこともあります.

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正行列に対するペロン・フロベニウスの定理の具体例

3次正方行列A=[122311212]固有値固有ベクトルを実際に求め,ペロン-フロベニウスの定理を満たしていることを確かめよ.

A固有多項式

    \begin{align*}|xI-A|&=\vmat{x-1&-2&-2\\-3&x-1&-1\\-2&-1&x-2} =\vmat{x-5&-2&-2\\x-5&x-1&-1\\x-5&-1&x-2} \\&=(x-5)\vmat{1&-2&-2\\1&x-1&-1\\1&-1&x-2} =(x-5)\vmat{1&-2&-2\\0&x+1&1\\0&1&x} \\&=(x-5)\vmat{x+1&1\\1&x} =(x-5)(x^2+x-1)\end{align*}

なので,Aの固有値は5,1±52である.

よって,Aの固有値のうち最大のものは5で,これは確かに正で(代数的)重複度は1となっている.

最大固有値に属する固有ベクトル

行基本変形により

    \begin{align*}A-5I&=\bmat{-4&2&2\\3&-4&1\\2&1&-3}\to\bmat{0&4&-4\\1&-5&4\\2&1&-3} \\&\to\bmat{0&4&-4\\1&-5&4\\0&11&-11}\to\bmat{0&1&-1\\1&0&-1\\0&0&0}\end{align*}

となるので,掃き出し法によりAの固有値5に属する固有ベクトルとして[111]を得る.

この固有ベクトルは確かに正ベクトルである.

最大固有値以外の固有値に属する固有ベクトル

α:=1±52とおくと,行基本変形により

    \begin{align*}A-\alpha I&=\bmat{1-\alpha&2&2\\3&1-\alpha&1\\2&1&2-\alpha}=\bmat{1-\alpha&2&2\\1&-\alpha&\alpha-1\\2&1&2-\alpha} \\&\to\bmat{0&2-\alpha(\alpha-1)&2+(\alpha-1)^2\\1&-\alpha&\alpha-1\\ 0&1+2\alpha&4-3\alpha} \\&=\bmat{0&-\alpha^2+\alpha+2&\alpha^2-2\alpha+3\\1&-\alpha&\alpha-1\\ 0&1+2\alpha&4-3\alpha}\end{align*}

となる.αは方程式x2+x1=0の解として得られていたからα2+α1=0が成り立つことに注意すると,さらに

    \begin{align*}A-\alpha I&\to\bmat{0&1+2\alpha&4-3\alpha\\1&-\alpha&\alpha-1\\ 0&1+2\alpha&4-3\alpha} \to\bmat{0&1+2\alpha&4-3\alpha\\1&-\alpha&\alpha-1\\ 0&0&0}\end{align*}

となる.よって,掃き出し法によりAの固有値152に属する固有ベクトルはk[4α+23α42α+1]となる(kR{0}).

α=1±52のどちらでも固有値αの固有ベクトルが正ベクトルになることはないことが確認でき,確かに最大固有値以外は正ベクトルを持たない.

ペロン-フロベニウスの定理を使えば,以上の計算を全くする必要なく(1)〜(3)の条件を満たす正の固有値が存在していることが分かるわけですね.

正行列のペロン・フロベニウスの定理の証明

この記事では,正の正方行列に対するペロン-フロベニウスの定理を証明します.

非負の正方行列に対するペロン-フロベニウスの定理の証明については,この記事の最後で紹介している参考文献を参照してください.

[正行列のペロン-フロベニウスの定理(再掲)]正の正方行列Aは次を満たす正の固有値αをもつ.

  1. Aの任意の固有値βに対して,|β|<αが成り立つ.
  2. 固有値αの(代数的)重複度は1であり,固有値αに属する正の固有ベクトルが存在する.
  3. α以外の固有値に属する正の固有ベクトルは存在しない.

以下では

  • A=(aij)N次正方行列
  • xRNの第i成分[x]i
  • を成分の最大値ノルム:x:=maxi{1,,N}|[x]i|
  • IN単位行列

とし,6ステップに分けて証明します.

ステップ1(漸化式を満たす正ベクトルの列)

正ベクトルの点列{un}n=0で,任意のn{0,1,2,}に対し

    \begin{align*}\m{u}_{n+1}=\frac{A\m{u}_n}{\|A\m{u}_n\|},\quad \|\m{u}_{n}\|=1\quad\dots(\star)\end{align*}

を満たすものが存在する.

具体的に構成する.u0:=[11]RNとおき,u1,u2,

    \begin{align*}\m{u}_{n+1}:=\frac{A\m{u}_n}{\|A\m{u}_n\|}\end{align*}

で帰納的に定義する.このときの点列{un}が条件を満たすことを,数学的帰納法により示す.

[1]u0は全ての成分が1なので正ベクトルであり,は最大値ノルムとしているからu0=1を満たす.

[2]ukは正ベクトルであり,n=kで条件()を満たすとする(k=1,2,).

このとき,ukは正ベクトルなので,Aが正行列であることと併せてAukは正行列である.よって,

    \begin{align*}\m{u}_{k+1}=\frac{A\m{u}_k}{\|A\m{u}_k\|}\end{align*}

も正ベクトルである.また,ノルムの斉次性より

    \begin{align*}\|\m{u}_{k+1}\|=\nor{\frac{A\m{u}_k}{\|A\m{u}_k\|}}=\frac{1}{\|A\m{u}_k\|}\|A\m{u}_k\|=1\end{align*}

をみたす.

[1]と[2]より,正ベクトルの点列{un}n=0で,任意のn{0,1,2,}に対し()を満たすものが存在する.

のちのステップ3で,この点列{un}の部分列が収束して,このときの極限uA固有ベクトルとなることを示します.

ステップ2(最大固有値となるαの導入)

関数f:(R>0)NR

    \begin{align*}f(\m{x}):=\min_{i=1,\dots,N}\frac{[A\m{x}]_i}{[\m{x}]_i}\end{align*}

で定める.このとき,ステップ1の{un}に対して,α:=limnf(un)が存在し,α>0が成り立つ.

(R>0)Nは正ベクトル全部の集合(正の実数全部の集合R>0N個の直積)です.

数列{f(un)}単調有界実数列の収束定理を用いるために,数列{f(un)}単調増加し,上に有界であることを示す.

(Af(un)I)un+1が非負ベクトルであることの証明

任意のn{0,1,2,}に対して,

ベクトル(Af(un)I)unの第i成分i=1,,N)は

    \begin{align*}[(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n]_i &=[A\m{u}_n]_i-f(\m{u}_n)[\m{u}_n]_i \\&\ge[A\m{u}_n]_i-\frac{[A\m{u}_n]_i}{[\m{u}_n]_i}[\m{u}_n]_i =0\end{align*}

である.よって,(Af(un)I)unは非負ベクトルである.よって,これに左から成分が正の行列Aunをかけてできる

    \begin{align*}\frac{A}{\|\m{u}_n\|}(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n &=(A-f(\m{u}_n)I)\frac{A\m{u}_n}{\|\m{u}_n\|} \\&=(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_{n+1}\end{align*}

も非負ベクトルである.

数列{f(un)}が単調増加することの証明

任意にn{0,1,2,}i=1,,Nをとる.0<[un+1]i1なので

    \begin{align*}\frac{[A\m{u}_{n+1}]_i}{[\m{u}_{n+1}]_i}-f(\m{u}_n) &=\frac{[A\m{u}_{n+1}]_i}{[\m{u}_{n+1}]_i}-\frac{f(\m{u}_n)[\m{u}_{n+1}]_i}{[\m{u}_{n+1}]_i} \\&=\frac{[A\m{u}_{n+1}-f(\m{u}_n)\m{u}_{n+1}]_i}{[\m{u}_{n+1}]_i} \\&\ge[A\m{u}_{n+1}-f(\m{u}_n)\m{u}_{n+1}]_i \\&=[(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_{n+1}]_i\end{align*}

なので,(Af(un)I)un+1が非負ベクトルであることと併せて

    \begin{align*}&\frac{[A\m{u}_{n+1}]_i}{[\m{u}_{n+1}]_i}\ge f(\m{u}_n)\end{align*}

となるから,両辺でmini{1,,N}をとってf(un+1)f(un)が成り立つ.すなわち,数列{f(un)}は(広義)単調増加する.

数列{f(un)}が上に有界であることの証明

関数F:(R>0)NR

    \begin{align*}F(\m{x}):=\max_{j=1,\dots,N}\frac{[A\m{x}]_j}{[\m{x}]_j}\end{align*}

で定める.このとき,数列{f(un)}が単調増加することの証明と同様に,数列{f(un)}は(広義)単調減少することが証明できる.

よって,f(un)F(un)に注意すれば

    \begin{align*}f(\m{u}_0)\le f(\m{u}_1)\le f(\m{u}_2)\le \dots\le F(\m{u}_2)\le F(\m{u}_1)\le F(\m{u}_0)\end{align*}

が成り立つので,実数列{f(un)}は上に有界である(F(u0)が上界のひとつ).

単調有界実数列の収束定理を数列{f(un)}に適用

数列{f(un)}は単調増加し,上に有界であると分かったから,単調有界実数列の収束定理より極限

    \begin{align*}\alpha:=\lim\limits_{n\to\infty}f(\m{u}_n)\end{align*}

が存在する.

また,任意のnNに対して0<f(u0)f(un)だから,α>0である.

以降,αはこのステップ2で定まったαのことを指します.

ステップ3以降で,このαA固有値であり,定理で述べた性質をもつことを示します.

ステップ3(αに属する正の固有ベクトルの存在)

αA固有値で,固有値αに属する正の固有ベクトルが存在する.

任意にnNをとる.

(Af(un)I)unの評価

ステップ2で示した不等式

    \begin{align*}&\frac{[A\m{u}_{n+1}]_i}{[\m{u}_{n+1}]_i}-f(\m{u}_n)\ge[(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_{n+1}]_i\end{align*}

と漸化式un+1=AunAunと併せると,

    \begin{align*}\frac{[A\m{u}_{n+1}]_i}{[\m{u}_{n+1}]_i}-f(\m{u}_n) &\ge\brc{\frac{A(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n}{\|A\m{u}_n\|}}_i \\&=\frac{[A(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n]_i}{\|A\m{u}_n\|}\end{align*}

を得る.この分母と分子をそれぞれ評価する.

    \begin{align*}M:=\sum_{i,j=1}^{N}a_{ij},\quad m:=\min_{i,j\in\{1,\dots,N\}}a_{ij}\end{align*}

を定めると,行列の積の定義とAが正行列であることより

    \begin{align*}\|A\m{u}_n\| &=\max\limits_{i\in\{1,\dots,N\}}\sum_{j=1}^{N}a_{ij}[\m{u}_n]_j \\&\le\max\limits_{i\in\{1,\dots,N\}}\sum_{j=1}^{N}a_{ij}\cdot1 \le M\end{align*}

であり,行列の積の定義とmの定義より

    \begin{align*}[A(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n]_i &=\sum_{j=1}^{N}a_{ij}[(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n]_j \\&\ge m\sum_{j=1}^{N}[(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n]_j\end{align*}

である.よって,

    \begin{align*}\frac{[A\m{u}_{n+1}]_i}{[\m{u}_{n+1}]_i}-f(\m{u}_n) &\ge\frac{m}{M}\sum_{j=1}^{N}[(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n]_j \\&\ge\frac{m}{M}\|(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n\|\end{align*}

を得る.

(Af(un)I)unの極限

    \begin{align*}f(\m{u}_{n+1})-f(\m{u}_n)\ge\frac{m}{M}\|(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n\|\end{align*}

の左辺で極限nをとると

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\{f(\m{u}_{n+1})-f(\m{u}_n)\}=\alpha-\alpha=0\end{align*}

なので,mM(Af(un)I)un0と併せると,はさみうちの原理より

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\|(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n\|=0\end{align*}

が成り立つ.よって,ノルムの連続性から

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}(A-f(\m{u}_n)I)\m{u}_n=\m{0}\quad\dots(*)\end{align*}

が成り立つ.

αAの固有値で,αに属する正の固有ベクトルが存在することの証明

点列{un}n=0は有界だから,ボルツァーノ-ワイエルシュトラスの定理より収束部分列{un(k)}k=0をもつ.この極限をuとする.

un(k)=1の両辺で極限kをとると,ノルムの連続性からu=1となるのでu0である.

また,{(Af(un)I)un}n=0の部分列{(Af(un(k))I)un(k)}k=0の極限は

    \begin{align*}\lim_{k\to\infty}(A-f(\m{u}_{n(k)})I)\m{u}_{n(k)}=(A-\alpha I)\m{u}\quad\dots(**)\end{align*}

となる.一般にもとの点列の極限が存在すれば任意の部分列の極限と一致するから,()()より

    \begin{align*}(A-\alpha I)\m{u}=\m{0} \iff A\m{u}=\alpha\m{u}\end{align*}

となる.よって,αAの固有値であり,uAの固有値αの固有ベクトルであることが示された.

{un}は正ベクトルの列だからuは非負ベクトルである.また,u0だから,Aが正行列であることと併せて,Auは正ベクトルである.

よって,αuは正ベクトルだから,α>0と併せてuは正ベクトルであることが分かる.

ステップ4(固有値αの重複度は1)

A固有値αの(代数的)重複度は1である.

x,yRNの標準内積をx,yで表す.

A転置行列ATも正行列だから,ステップ3までの結果が使えて,ATの正固有値λと,固有値λに属する正の固有ベクトルvが存在する.このとき,

    \begin{align*}(\alpha-\lambda)\anb{\m{v},\m{u}} &=\anb{\m{v},\alpha\m{u}}-\anb{\lambda\m{v},\m{u}} \\&=\anb{\m{v},A\m{u}}-\anb{A^T\m{v},\m{u}} =0\end{align*}

であり,u, vは共に正ベクトルだから,v,u>0なのでv,u0である.よって,α=λが成り立つ.

ここで,固有値α固有空間の次元が1でないと仮定すると,固有値αの固有ベクトルu, uが存在して任意aRに対してuau0となる.

u0×u=uが正ベクトルであることとスカラー倍の連続性から,あるkRが存在してuku成分の少なくとも1つが0の非負ベクトルとなり,仮定からuku零ベクトルではない.

一方,Aが成分が正の行列であることからA(uku)=α(uku)は正ベクトルとなって,ukuの成分に0があることに矛盾する.

よって,αの固有空間の次元は1だから,Aのジョルダン標準形の固有値αに関するジョルダン細胞J(α)の個数は1である.

もし,J(α)の次数が2以上であれば,uAの固有値αに属する固有ベクトルであることから,wRNが存在してAw=αw+uが成り立つ.よって,

    \begin{align*}0<&\anb{\m{v},\m{u}} =\anb{\m{v},A\m{w}-\alpha\m{w}} \\=&\anb{A^T\m{v},\m{w}}-\alpha\anb{\m{v},\m{w}} \\=&\anb{\lambda\m{v},\m{w}}-\alpha\anb{\m{v},\m{w}} =0\end{align*}

となって矛盾するから,J(α)の次数は1である.すなわち,αの重複度は1である.

ステップ5(正の固有ベクトルが属する固有値はαのみ)

α以外のA固有値に属する正の固有ベクトルは存在しない.

Aの固有値μが正の固有ベクトルvを持つとする.ステップ4でのATの固有値αの固有ベクトルvを考えると

    \begin{align*}(\mu-\alpha)\anb{\m{v},\m{v}'} &=\anb{\m{v},\mu\m{v}'}-\anb{\alpha\m{v},\m{v}'} \\&=\anb{\m{v},A\m{v}'}-\anb{A^T\m{v},\m{v}'} =0\end{align*}

である.v, vは共に正ベクトルだから,v,v>0なのでv,v0である.よって,α=μが成り立つ.

ステップ6(α以外の固有値の絶対値)

Aαと異なる任意の固有値βに対して,|β|<αが成り立つ.

zAの固有値βに属する固有ベクトルとする:Az=βz, z0

このとき,Az=βzの第i成分について,三角不等式を用いると

    \begin{align*}\sum_{j=1}^{N}a_{ij}\abs{[\m{z}]_j} &=\sum_{j=1}^{N}\abs{a_{ij}[\m{z}]_j} \ge\abs{\sum_{j=1}^{N}a_{ij}[\m{z}]_j}\quad\dots(*) \\&=\abs{[A\m{z}]_i} =\abs{[\beta\m{z}]_i} =|\beta|\abs{[\m{z}]_i}\end{align*}

だから,ATの固有値αに属する正の固有ベクトルvを用いると,

    \begin{align*}\alpha\sum_{j=1}^{N}[\m{v}]_j\abs{[\m{z}]_j} &=\sum_{j=1}^{N}[\alpha\m{v}]_j\abs{[\m{z}]_j} =\sum_{j=1}^{N}[A^T\m{v}]_j\abs{[\m{z}]_j} \\&=\sum_{j=1}^{N}\bra{\sum_{i=1}^Na_{ij}[\m{v}]_i}\abs{[\m{z}]_j} \\&=\sum_{i=1}^{N}\bra{\sum_{j=1}^Na_{ij}\abs{[\m{z}]_j}}[\m{v}]_i \\&\ge\sum_{i=1}^{N}\bra{|\beta|\abs{[\m{z}]_i}}[\m{v}]_i\quad\dots(**) \\&=|\beta|\sum_{i=1}^{N}[\m{v}]_i\abs{[\m{z}]_i}\end{align*}

となる.z0vが正ベクトルであることからi=1N[v]i|[z]i|0なのでα|β|が従う.

よって,あとはα|β|を示せばよく,これを背理法により示す.

もしα=|β|であれば,()で等号が成り立つから()でも等号が成り立つ.

一般に,複素数ξ1,,ξnに対して三角不等式|k=1nξk|k=1n|ξk|で等号が成り立つのはargξ1==argξnの場合に限るから,zの各成分の偏角は全て等しい(ただし,偏角は[π,pi)の範囲で定めている).

zの各成分の偏角をθとすると

    \begin{align*}A(e^{-i\theta}\m{z})=e^{-i\theta}A\m{z}=e^{-i\theta}\beta\m{z}=\beta(e^{-i\theta}\m{z})\end{align*}

だから,βは固有ベクトルeiθzを持つ.

また,Aは成分が正の行列だからA(eiθz)は正ベクトルなので,eiθzは正ベクトルだからステップ5からβ=αとなる.

これは仮定βαに矛盾するからα=|β|は誤りでα>|β|が従う.

以上で成分が正の行列に対するペロン-フロベニウスの定理が示されました.

参考文献

以下は参考文献です.

線型代数入門

[齋藤正彦 著/東京大学出版会]

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

発刊されてから本書の内容の流れが線形代数の教科書のスタンダードとなったほど,日本の線形代数の指導にインパクトを与えた名著です.

その証拠に,著者の齋藤正彦氏は本書で日本数学会出版賞を受賞しています.

「線形代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴です.

また,テキストのレベルとしては少なくとも理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたい程度のものとなっています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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