2026年度の東京大学 数理科学研究科の大学院入試問題の専門科目Bの解答の方針と解答例です.
問題は18題あり,選択して3題を解答します.試験時間は4時間です.この記事では,第9〜12問(解析系分野)について解説しています.
ただし,公式に採点基準などは発表されていないため,本稿の解答が必ずしも正解になるとは限りません.ご注意ください.
また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.
なお,最近の過去問は東京大学の数理科学研究科のホームページから入手できます.
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第9問:測度論
(1)と(2)は測度論の基本的な知識を正しく運用できるかがポイントになる問題です.一方,慣れていないと(3)の方針は少し難しいですが,解析学ではよく用いる方法なので思い付けるようになっておきたいです.
$\mathcal{B}(\R)$および$\mathcal{B}((0,\infty))$をそれぞれ$\R$および$(0,\infty)$のボレル集合族とする.$\mu$を$(\R,\mathcal{B}(\R))$上の測度とする.$\mathcal{B}((0,\infty))\times\mathcal{B}(\R)$-可測関数$\phi:(0,\infty)\times\R\to[0,1]$は次をみたすものとする.
- 任意の$x\in\R$に対して,$(0,\infty)$上の関数$p\mapsto\phi(p,x)$は単調非増大かつ連続.
- 任意の$x\in\R$に対して,$\lim\limits_{p\to0}\phi(p,x)=1$.
- 任意の$p>0$に対して,$\dint_{\R}\phi(p,x)\mu(dx)<\infty$.
- 任意の$p>0$に対して,$\lim\limits_{|x|\to\infty}\phi(p,x)=0$.
$p>0$に対して,$f(p)=\dint_{\R}\phi(p,x)\,\mu(dx)$と定める.
- $f:(0,\infty)\to\R$は単調非増大かつ連続な関数であることを示せ.
- $\lim\limits_{p\to0}f(p)<\infty$と$\mu(\R)<\infty$が同値であることを示せ.
- 正の整数$n$で添字付けられた$(\R,\mathcal{B}(\R))$上の測度の列$\{\mu_n\}_n$を,任意の$n$について$\mu_n(\R)=1$となるものとする.さらに,\begin{align*}f_n(p)=\int_{\R}\phi(p,x)\mu_n(dx)\end{align*}と定めると,次をみたすとする:関数$h:(0,\infty)\to\R$が存在して
- 任意の$p>0$に対して$\lim\limits_{n\to\infty}f_n(p)=h(p)$となる.
- $\lim\limits_{p\to0}h(p)=1$である.
をみたす.このとき,任意の$\epsilon>0$に対して,コンパクト集合$K\subset\R$で$\inf\limits_{n\ge1}\mu_n(K)\ge1-\epsilon$となるものが存在することを示せ.
解答の方針とポイント
(1)と(2)は難しくないのでサッと解きたいです.(3)で測度の列$\{\mu_n\}_n$の緊密性を示す問題で,条件の$\mu_n$の性質をどのように用いるかが重要です.
関数$f$の性質
本問題の(1)は関数$f$の性質を示す問題で,$f$が単調非増大であることは$\phi$が第1変数に関して単調非増大であることからすぐに示せます.
また,$f$が$(0,\infty)$上で連続であることの定義は「任意の$p\in(0,\infty)$に対して$\lim\limits_{h\to0}f(p+h)=f(p)$」で,$\lim\limits_{h\to0}f(p+h)=f(p)$は
\begin{align*}\lim\limits_{h\to0}\int_{\R}\phi(p+h,x)\,\mu(dx)=\int_{\R}\phi(p,x)\,\mu(dx)\end{align*}
と書き換えられますから,$\phi$が第1変数に関して連続であることからルベーグの収束定理を用いて極限と積分の順序交換をすればよいですね.
$\mu(\R)$は$\phi$の$x$軸上の積分と思える
$p=0$に対して$\phi(p,x)$は定義されていませんが,任意の$x\in\R$に対して仮定$\lim\limits_{p\to0}\phi(p,x)=1$が成り立ちますから,直観的には
\begin{align*}\lim_{p\to0}f(p)=\lim_{p\to0}\int_{\R}\phi(p,x)\,\mu(dx)\end{align*}
は$x$軸上で恒等的に値1をとる関数を積分していると捉えられて$\mu(\R)$に等しそうです.
実際,$\phi$は第1変数について単調非増大ですからルベーグの単調収束定理が使えて$\lim_{p\to0}f(p)=\mu(\R)$が成り立ち,両辺が有限であることが同値であると分かります.
測度の列$\{\mu_n\}_n$の緊密性
本問題の(3)は測度の列$\{\mu_n\}_n$が緊密であることを示す問題です.
可測空間$(\R,\mathcal{B}(\R))$上の確率測度の列$\{\mu_n\}_{n=1}^{\infty}$が緊密であるとは,任意の$\epsilon>0$に対して,あるコンパクト集合$K\subset\R$が存在して
\begin{align*}\inf\limits_{n\ge1}\mu_n(K)\ge1-\epsilon\end{align*}
であることをいう.
緊密性は完備可分距離空間$S$に対して$(S,\mathcal{B}(S))$上の確率測度の列に対しても定義され,このことは$\{\mu_n\}_n$が相対コンパクトであることと同値です(プロホロフの定理).しかし,本問題ではそこまでの知識は必要ないので詳しい説明は省略します.
本問題の(3)の直観と方針
固定した$n$に対しては$\mu_n(\R)=1$なので,任意の$\epsilon>0$に対して十分大きなコンパクト集合$K_n\subset\R$をとれば$\mu_n(K_n)\ge1-\epsilon$が成り立ちます.しかし,$\bigcup_{n=1}^{\infty}K_n$はコンパクトとは限りませんから1個ずつ考えるのではうまくいきません.
本問題の(3)で与えられている条件を考えると,十分大きな$n$に対しては
\begin{align*}\mu_n(\R)\approx\lim_{p\to0}h(p)=\lim_{p\to0}\int_{\R}\phi(p,x)\,\mu_n(dx)\end{align*}
と思えます.
さらに,まだ使っていない仮定「任意の$p>0$に対して,$\lim\limits_{|x|\to\infty}\phi(p,x)=0$」をふまえると,遠方の$\phi(p,\cdot)$の積分はほとんど寄与しないと考えられるので,十分大きな$R>0$を考えて
\begin{align*}\mu_n([-R,R])\approx\lim_{p\to0}\int_{[-R,R]}\phi(p,x)\,\mu_n(dx)>1-\epsilon\end{align*}
が成り立ちそうです.
以上より
- 十分大きな$n$では一様に$\mu_n([-R,R])>1-\epsilon$となる$R>0$をとる
- 小さい有限個の$n$に対しては個別に$\mu_n(K_n)>1-\epsilon$となるコンパクト集合$K_n$をとる
ことで,緊密性が成り立ちそうですね.
いまの方針のように,十分大きな$n$に対しては一様にとり,それ未満の$n$に対しては個別にとり,最終的にそれらを合わせて証明する方法は解析学ではよく用いられます.
本問題の(3)の実際の示し方
上の方針から本質的には,十分大きな$n$に対して一様に条件を満たすコンパクト集合をとることができればよいですね.
本問題の(3)で与えられている条件から,任意の$\epsilon>0$に対して
- ある$p_0>0$が存在して,$|h(p_0)-1|<\frac{\epsilon}{4}$
- ある$N\in\N$が存在して,$n>N$なら$|f_n(p_0)-h(p_0)|<\frac{\epsilon}{4}$
が成り立つので,三角不等式と併せて$n>N$なら$|f_n(p_0)-1|<\frac{\epsilon}{2}$が得られます.
また,仮定「任意の$p>0$に対して,$\lim\limits_{|x|\to\infty}\phi(p,x)=0$」から,任意の$\eta\in(0,1)$に対して,ある$R>0$が存在して,$|x|>R$なら$\phi(p_0,x)<\eta$となるので
\begin{align*}f_n(p_0)&=\int_{[-R,R]}\phi(p_0,x)\,\mu_n(dx)+\int_{\R\setminus[-R,R]}\phi(p_0,x)\,\mu_n(dx)
\le\int_{[-R,R]}\,\mu_n(dx)+\eta\int_{\R\setminus[-R,R]}\,\mu_n(dx)
\\&=\mu_n([-R,R])+\eta(1-\mu_n([-R,R]))
=\eta+(1-\eta)\mu_n([-R,R])\end{align*}
が成り立ちますから,$\mu_n([-R,R])\ge\frac{f_n(p_0)-\eta}{1-\eta}$が得られます.
$f_n(p_0)>1-\frac{\epsilon}{2}$と併せて,$n>N$なら
\begin{align*}\mu_n([-R,R])>\frac{1-\frac{\epsilon}{2}-\eta}{1-\eta}\end{align*}
となるので,右辺が$1-\epsilon$に等しくなるように$\eta$をとればよいですね.
解答例
(1)の解答
$p_1<p_2$を満たす$p_1,p_2>0$を任意にとる.このとき,任意の$x\in\R$に対して$\phi(p_1,x)\ge\phi(p_2,x)$が成り立つから
\begin{align*}f(p_1)=\int_{\R}\phi(p_1,x)\,\mu(dx)\ge\int_{\R}\phi(p_2,x)\,\mu(dx)=f(p_2)\end{align*}
となるので,$f$は単調非増大である.
また,任意に$p>0$をとる.このとき
- $\phi$の第1変数に関する連続性より,任意の$x\in\R$に対して$\lim\limits_{h\to0}\phi(p+h,x)=\phi(p,x)$
- 任意の$h\in(-\frac{p}{2},\frac{p}{2})$に対して,$p+h>\frac{p}{2}$なので任意の$x\in\R$に対して$|\phi(p+h,x)|\le\phi(\frac{p}{2},x)$
- $\phi$の可積分性より,$\int_{\R}\phi(\frac{p}{2},x)\,\mu(dx)<\infty$
が成り立つので,ルベーグの収束定理より
\begin{align*}\lim_{h\to0}f(p+h)=\lim_{h\to0}\int_{\R}\phi(p+h,x)\,\mu(dx)=\int_{\R}\phi(p,x)\,\mu(dx)=f(p)\end{align*}
が成り立つから,$f$は$p$で連続である.$p$の任意性より$f$は$(0,\infty)$上で連続である.
(2)の解答
\begin{align*}\mu(\R)&=\int_{\R}\mu(dx)
=\int_{\R}\lim_{p\to0}\phi(p,x)\mu(dx)
\\&=\lim_{p\to0}\int_{\R}\phi(p,x)\mu(dx)
=\lim_{p\to0}f(p)\end{align*}
が成り立つから,$\lim\limits_{p\to0}f(p)<\infty$と$\mu(\R)<\infty$は同値である.
(3)の解答
任意に$\epsilon>0$をとる.
- $\lim\limits_{p\to0}h(p)=1$より,ある$p_0>0$が存在して,$|h(p_0)-1|<\frac{\epsilon}{4}$
- $\{f_n\}_n$は$h$に各点収束するから,ある$N\in\N$が存在して,$n>N$なら$|f_n(p_0)-h(p_0)|<\frac{\epsilon}{4}$
が成り立つ.よって,$n>N$なら
\begin{align*}|f_n(p_0)-1|\le|f_n(p_0)-h(p_0)|+|h(p_0)-1|<\frac{\epsilon}{2}\end{align*}
が成り立つ.また,$\lim\limits_{|x|\to\infty}\phi(p_0,x)=0$より,ある$R>0$が存在して,$|x|>R$なら$\phi(p_0,x)<\frac{1}{2}$が成り立つ.ここで,$\phi$が非負値関数であることに注意.
したがって,$n>N$なら
\begin{align*}\mu_n([-R,R])&=2\mu_n([-R,R])-\mu_n([-R,R])
\\&=2\mu_n([-R,R])+\mu_n(\R\setminus[-R,R])-\mu_n(\R)
\\&=2\int_{[-R,R]}\,\mu_n(dx)+\int_{\R\setminus[-R,R]}\,\mu_n(dx)-1
\\&\ge2\int_{[-R,R]}\phi(p_0,x)\,\mu_n(dx)+\int_{\R\setminus[-R,R]}2\phi(p_0,x)\,\mu_n(dx)-1
\\&=2\int_{\R}\phi(p_0,x)\,\mu_n(dx)-1
=2f_n(p_0)-1
\\&>2\bra{1-\frac{\epsilon}{2}}-1
=1-\epsilon\end{align*}
が成り立つ.
また,任意の$n\in\{1,2,\dots,N\}$に対して,測度$\mu_n$の連続性より
\begin{align*}\lim_{m\to\infty}\mu_n([-m,m])=\mu_n\bra{\bigcup_{m=1}^{\infty}[-m,m]}=\mu_n(\R)=1\end{align*}
なので,ある$R_n\in\N$が存在して$\mu_n([-R_n,R_n])>1-\epsilon$が成り立つ.
以上より,$L:=\max\{R_1,R_2,\dots,R_N,R\}$とおくと,$K:=[-L,L]$は$\R$上のコンパクト集合で$\inf\limits_{n\ge1}\mu_n(K)\ge1-\epsilon$が成り立つ.
第10問:複素解析学
積分で定義された関数$F$の性質に関する問題です.
(1)は複素解析学でよくある議論を用いて解けます.(2)は初手でどのような有理関数列$\{R_n\}_{n=1}^{\infty}$が取れそうかさえ思い付ければ,あとの必要な評価は標準的な方法でできます.(3)は簡単な例で実験して発想できますが気にすることが色々あり少々難しいです.
$\gamma:[0,1]\to\C$を$C^1$級曲線,その像を$[\gamma]=\gamma([0,1])$とする.連続関数$f:\gamma([0,1])\to\C$に対して$\C\setminus[\gamma]$上の関数を次の積分で定める.
\begin{align*}F(z)=\int_{\gamma}\frac{f(w)}{w-z}\,dw\end{align*}
- $F(z)$は$\C\setminus[\gamma]$上で正則であることを示せ.
- 有理関数の列$\{R_n(z)\}_{n=1}^{\infty}$で$\C\setminus[\gamma]$上で$F(z)$に広義一様収束するものが存在することを示せ.
- $\gamma(t)=t$かつ$f(w)$が0でない多項式のとき$F(z)$は$\C$上の有理型関数には解析接続できないことを示せ.
解答の方針とポイント
実は各問題にあまり繋がりはなく,誘導になっているわけではありません.
コーシーの積分公式とテイラー展開
領域$D\subset\C$上で定義された複素関数$F$が正則であるとは
のいずれかで定義されることが多いです.現代は(A)の定義が主流で,$(\text{A})\Ra(\text{B})$は
- ステップ1:正則関数についてコーシーの積分公式が成り立つことを示す
- ステップ2:コーシーの積分公式を変形してテイラー展開する
というステップで証明できます.
さて,関数$F$はコーシーの積分公式のような形をしていることに気付きますので,ステップ2と同様の変形をすることで$F$がテイラー展開でき,これにより本問題の(1)が解けそうです.
具体的には,任意の$\alpha\in\C\setminus[\gamma]$に対して,$\alpha$の十分近くの$z\in\C$と$w\in[\gamma]$に対して
\begin{align*}\frac{1}{w-z}
=\frac{1}{w-\alpha}\cdot\frac{1}{1-\frac{z-\alpha}{w-\alpha}}
=\sum_{m=0}^{\infty}\frac{(z-\alpha)^m}{(w-\alpha)^{m+1}}\end{align*}
と変形できることを用います.このように$\frac{1}{1-\zeta}$($|\zeta|<1$)の形に変形して等比級数の形に変形することは多いので慣れておきましょう.

複素積分の定義
多項式$f$と恒等的に0でない多項式$g$に対して,$\frac{f}{g}$で表される複素関数を有理関数という.
本問題の(2)について,複素積分はリーマン積分と同様に定義されますから
\begin{align*}F(z)=\lim_{n\to\infty}\sum_{k=1}^{n}\frac{f(\gamma(\frac{k}{n}))(\gamma(\frac{k}{n})-\gamma(\frac{k-1}{n}))}{\gamma(\frac{k}{n})-z}\end{align*}
が成り立ちますね.よって,$n\in\{1,2,\dots\}$に対して
\begin{align*}R_n(z):=\sum_{k=1}^{n}\frac{f(\phi_{n,k})(\phi_{n,k}-\phi_{n,k-1})}{\phi_{n,k}-z},\quad
\phi_{n,k}:=\gamma(\frac{k}{n})\end{align*}
とおくと,$R_n$は有理関数で$\{R_n\}_n$は$F$に各点収束します.よって,あとはこれが実は広義一様収束していることを示せばよいですね.
そのためには,任意にコンパクト集合$K\subset\C\setminus[\gamma]$をとり,
\begin{align*}&|F(z)-R_n(z)|
\le\sum_{k=1}^{n}\int_{\gamma|_{[\frac{k-1}{n},\frac{k}{n}]}}\frac{\abs{(\phi_{n,k}-z)f(w)-(w-z)f(\phi_{n,k})}}{|w-z||\phi_{n,k}-z|}\,|dw|,
\\&\abs{(\phi_{n,k}-z)f(w)-(w-z)f(\phi_{n,k})}
\le(|\phi_{n,k}|+|z|)|f(w)-f(\phi_{n,k})|+|\phi_{n,k}-w||f(\phi_{n,k})|\end{align*}
と評価すれば,$f$の$\gamma|_{[\frac{k-1}{n},\frac{k}{n}]}$上での一様連続性・有界性や,$K$と$[\gamma]$の距離が正であることから小さく評価できますね.
具体的な多項式$f$で実験して一般の場合を考える
本問題の(3)をいきなり一般の多項式でやろうとすると難しいので,最も単純な多項式$f(z)=1$で実験しましょう.このとき,$z\in\C\setminus[0,\infty)$に対して
\begin{align*}F(z)=\int_{0}^{1}\frac{1}{t-z}\,dt=\log{(1-z)}-\log{(-z)}\end{align*}
となります.ただし,$\log$は偏角$(-\pi,\pi)$に関する枝の対数関数であるとします.このとき
- $\log{(1-z)}$は$z\in\C\setminus[1,\infty)$に対して定義される
- $\log{(-z)}$は$z\in\C\setminus[0,\infty)$に対して定義される
ので,任意の$\alpha\in(0,1)$に対して,$z=\alpha+si$に対して
\begin{align*}\lim_{s\to0}\log{(1-z)}=\log{(1-\alpha)}\end{align*}
であり,$\log{(-z)}$は$s\to+0$と$s\to-0$で$\log$の定義域のカットに逆側から近付くので$\lim\limits_{s\to0}\log{(-z)}$は存在しません.
もし$F$が$\C$上の有理型関数$G$に解析接続できるなら,$(0,1)$上の$G$の極でない点$\alpha$について$\lim\limits_{s\to0}F(\alpha+si)=G(\alpha)$と極限を持つはずなので,これは矛盾ですね.
正則関数$f$と恒等的に0でない正則関数$g$に対して,$\frac{f}{g}$で表される複素関数を有理型関数という.
もう少し難しくして,例えば$f(z)=z^2$の場合には
\begin{align*}F(z)=\int_{0}^{1}\frac{t^2}{t-z}\,dt
=\int_{0}^{1}\bra{t+z+\frac{z^2}{t-z}}\,dt
=\frac{1}{2}+z+z^2\int_{0}^{1}\frac{1}{t-z}\,dt\end{align*}
と変形できるので,第3項で上と同様の議論を行えば有理型関数に解析接続できないことが分かります.同様の変形は一般の多項式$f$の場合にもできるので,これで(3)が解けますね.
解答例
(1)の解答
任意に点$\alpha\in\C\setminus[\gamma]$をとる.$[\gamma]$はコンパクト集合$[0,1]$の連続写像$\gamma$による像だからコンパクトなので,$\alpha$と$[\gamma]$の距離は正で,この距離を$d_\alpha$とおく.
$\alpha$の$\frac{d_\alpha}{2}$開近傍を$B$とおくと,任意の$z\in B$と$w\in[\gamma]$に対して$|\frac{z-\alpha}{w-\alpha}|<\frac{1}{2}<1$だから
\begin{align*}\frac{1}{w-z}&=\frac{1}{(w-\alpha)-(z-\alpha)}
\\&=\frac{1}{w-\alpha}\cdot\frac{1}{1-\frac{z-\alpha}{w-\alpha}}
\\&=\frac{1}{w-\alpha}\sum_{m=0}^{\infty}\bra{\frac{z-\alpha}{w-\alpha}}^m
\\&=\sum_{m=0}^{\infty}\frac{(z-\alpha)^m}{(w-\alpha)^{m+1}}\end{align*}
が成り立つ.$f([\gamma])$はコンパクト集合の連続像だからコンパクトなので,$M:=\max\brb{1,\sup\limits_{z\in[\gamma]}|f(z)|}$は有限である.よって,$z\in B$と$w\in[\gamma]$に対して一様に
\begin{align*}&\abs{\frac{f(w)(z-\alpha)^m}{(w-\alpha)^{m+1}}}
=\frac{|f(w)|}{|w-\alpha|}\abs{\frac{z-\alpha}{w-\alpha}}^m
\le\frac{M}{2^m d_\alpha}\end{align*}
であり,
\begin{align*}\sum_{m=0}^{\infty}\frac{M}{2^m d_\alpha}
=\frac{M}{d_\alpha}\cdot\frac{1}{1-\frac{1}{2}}
=\frac{2M}{d_\alpha}<\infty\end{align*}
だから,ワイエルシュトラスのMテストにより$\sum\limits_{m=0}^{\infty}\frac{f(w)(z-\alpha)^m}{(w-\alpha)^{m+1}}$は$B\times[\gamma]$上で一様収束する.
よって,任意の$z\in B$に対して
\begin{align*}F(z)=\sum_{m=0}^{\infty}\bra{\int_{\gamma}\frac{f(w)}{(w-\alpha)^{m+1}}\,dw}(z-\alpha)^m\end{align*}
と$F$は$\alpha$の開近傍において$\alpha$中心でテイラー展開できるから,$\alpha\in\C\setminus[\gamma]$の任意性と併せて$F$は$\C\setminus[\gamma]$上で正則である.
(2)の解答
曲線$\gamma$の長さを$L$とおく.$L=0$のときは$F(z)=0$なので$R_n(z)=0$とすれば成り立つから,以下では$L>0$とする.
$n\in\{1,2,\dots\}$, $k\in\{0,1,2,\dots,n\}$, $z\in\C\setminus[\gamma]$に対して
\begin{align*}\phi_{n,k}:=\gamma\bra{\frac{k}{n}},\quad
R_n(z):=\sum_{k=1}^{n}\frac{f(\phi_{n,k})(\phi_{n,k}-\phi_{n,k-1})}{\phi_{n,k}-z}\end{align*}
とおくと,これは有理関数の和なので有理関数で,複素積分の定義より各点収束$F=\lim\limits_{n\to\infty}R_n$が成り立つ.そこで,あとは$\{R_n\}$が$\C\setminus[\gamma]$上で$F$に広義一様収束することを示せばよい.
コンパクト集合$K\subset\C\setminus[\gamma]$と$\epsilon>0$を任意にとる.任意の$z\in K$に対して
\begin{align*}|F(z)-R_n(z)|
&=\abs{\sum_{k=1}^{n}\int_{\gamma|_{[\frac{k-1}{n},\frac{k}{n}]}}\frac{f(w)}{w-z}\,dw
-\sum_{k=1}^{n}\int_{\gamma|_{[\frac{k-1}{n},\frac{k}{n}]}}\frac{f(\phi_{n,k})}{\phi_{n,k}-z}\,dw}
\\&\le\sum_{k=1}^{n}\int_{\gamma|_{[\frac{k-1}{n},\frac{k}{n}]}}\frac{\abs{(\phi_{n,k}-z)f(w)-(w-z)f(\phi_{n,k})}}{|w-z||\phi_{n,k}-z|}\,|dw|\end{align*}
であり,この被積分関数の分子は
\begin{align*}&\abs{(\phi_{n,k}-z)f(w)-(w-z)f(\phi_{n,k})}
\\&=\abs{(\phi_{n,k}-z)(f(w)-f(\phi_{n,k}))+(\phi_{n,k}-w)f(\phi_{n,k})}
\\&\le(|\phi_{n,k}|+|z|)|f(w)-f(\phi_{n,k})|+|\phi_{n,k}-w||f(\phi_{n,k})|\end{align*}
と評価できる.
ここで,$K$と$[\gamma]$はともにコンパクトだから閉なので,$K$と$[\gamma]$の距離を$d$とすると$d>0$である.また,$[\gamma]$, $K$はともにコンパクトなので有界となり,
\begin{align*}M’:=\max\brb{1,\sup_{t\in[0,1]}|\gamma(t)|,\sup_{z\in K}|z|}\end{align*}
は有限である.このとき
- $[\gamma]$はコンパクトで$f|_{[\gamma]}:[\gamma]\to\C$は連続なので一様連続だから,ある$\delta>0$が存在して,$|z-w|<\delta$なる任意の$z,w\in[\gamma]$に対して\begin{align*}|f(z)-f(w)|<\frac{d^2}{4LM’}\epsilon\end{align*}
- $[0,1]$はコンパクトで$\gamma:[0,1]\to\C$は連続なので一様連続だから,ある$N\in\N$が存在して,$|s-t|<\frac{1}{N}$なる任意の$s,t\in[0,1]$に対して\begin{align*}|\gamma(s)-\gamma(t)|<\min\brb{\frac{d^2}{4LM}\epsilon,\delta}\end{align*}
が成り立つ.ただし,$M$は(1)で定めたものである.以上より,$n>N$なら
\begin{align*}&\sup_{z\in K}|F(z)-R_n(z)|
\\&\le\sup_{z\in K}\sum_{k=1}^{n}\int_{\gamma|_{[\frac{k-1}{n},\frac{k}{n}]}}\frac{(M’+M’)\cdot\frac{d^2}{4LM’}\epsilon+\frac{d^2}{4LM}\epsilon\cdot M}{d^2}\,|dw|
\\&=\frac{3}{4L}\epsilon\sum_{k=1}^{n}\int_{\gamma|_{[\frac{k-1}{n},\frac{k}{n}]}}\,|dw|
=\frac{3}{4}\epsilon
<\epsilon\end{align*}
となり,有理関数列$\{R_n\}_{n=1}^{\infty}$は$\C\setminus[\gamma]$上で$F$に広義一様収束する.
(3)の解答
$\log$を$\exp:\set{z\in\C}{\operatorname{Im}z\in(-\pi,\pi)}\to\C\setminus(-\infty,0]$の逆関数で定まる対数関数とする.
このとき,任意の$z\in\C\setminus[0,\infty)$に対して,$[0,1]\to\C;t\mapsto\frac{1}{t-z}$が定義されて,$\frac{d(\log{(t-z)})}{dt}=\frac{1}{t-z}$なので
\begin{align*}\int_{0}^{1}\frac{1}{t-z}\,dt=\log{(1-z)}-\log{(-z)}\end{align*}
が成り立つから,
\begin{align*}F(z)&=\int_{\gamma}\frac{f(w)}{w-z}\,dw
=\int_{0}^{1}\frac{f(t)}{t-z}\,dt
\\&=\int_{0}^{1}\frac{f(z)}{t-z}\,dt+\int_{0}^{1}\frac{f(t)-f(z)}{t-z}\,dt
\\&=f(z)(\log{(1-z)}-\log{(-z)})+\int_{0}^{1}\frac{f(t)-f(z)}{t-z}\,dt\end{align*}
が成り立つ.$\frac{f(t)-f(z)}{t-z}$は$t$, $z$に関する多項式だから,$\int_{0}^{1}\frac{f(t)-f(z)}{t-z}\,dt$は$\C$全体の多項式に拡張される.
0でない多項式$f$は$(0,1)$上で恒等的に0ではないから,$(0,1)$上の$f$の零点は有限個であることに注意する.
ここで,もし$F$が$\C$上の有理型関数$G$に拡張されるならば,$G$の$(0,1)$における極は有限個だから,ある$\alpha\in(0,1)$が存在して$\alpha$は$G$の極ではなく$f(\alpha)\neq0$である.$z=\alpha+si$に対して
\begin{align*}&\lim_{s\to0}\log{(1-z)}=\log{(1-\alpha)},
\\&\lim_{s\to+0}\log{(-z)}=\log{\alpha}-\pi i,\quad
\lim_{s\to-0}\log{(-z)}=\log{\alpha}+\pi i\end{align*}
なので,
\begin{align*}\bra{\lim_{s\to+0}F(\alpha+si)}-\bra{\lim_{s\to-0}F(\alpha+si)}=2\pi if(\alpha)\neq0\end{align*}
となって,極限$\lim\limits_{s\to0}F(\alpha+si)$は存在しない.一方,$G$は$\alpha$で連続だから
\begin{align*}\lim_{s\to0}F(\alpha+si)=\lim\limits_{s\to0}G(\alpha+si)=G(\alpha)\end{align*}
と極限$\lim\limits_{s\to0}F(\alpha+si)$は存在する.これは矛盾なので,$F(z)$は$\C$上の有理型関数には解析接続できない.
第11問:関数解析学
$U$が等長作用素なら$\|U^nx\|=\|x\|$ですから,0でないヒルベルト空間上で$\{U^n\}_n$が0に強収束することはありません.しかし,$\{U^n\}_n$が0に弱収束することはあり,このことに関する条件について考える問題です.
以下,実ヒルベルト空間の元$x$, $y$に対し,$(x,y)$で$x$と$y$の内積を表すものとする.0でない可分な実ヒルベルト空間$H$に関する下記の命題(a), (b), (c)を考える.
(a) $H$上の全射かつ等長な線型作用素$U$であって,次の条件を満たすものが存在する:すべての$x,y\in H$に対し,$\lim\limits_{n\to\infty}(U^nx,y)=0$が成り立つ.
(b) $H$の稠密な部分空間$H_0$と,$H$上の全射かつ等長な線型作用素$U$であって,次の条件を満たすものが存在する:すべての$x,y\in H_0$に対し,$\lim\limits_{n\to\infty}(U^nx,y)=0$が成り立つ.
(c) $H$は無限次元である.以下の問に答えよ.
- (a)と(b)が同値であることを示せ.
- (b)と(c)が同値であることを示せ.
- 0でない可分な実ヒルベルト空間$K$と,その上の有界線型作用素$T$であって,下記の(d)をみたすが,(e)をみたさないものの例を一つ挙げよ.
(d) $K$の稠密な部分空間$K_0$であって,次の条件をみたすものが存在する:すべての$x,y\in K_0$に対し,$\lim\limits_{n\to\infty}(T^nx,y)=0$が成り立つ.
(e) すべての$x,y\in K$に対し,$\lim\limits_{n\to\infty}(T^nx,y)=0$が成り立つ.
解答の方針とポイント
(1)は標準的な関数解析の議論で解けるので時間をかけずに解きたいです.(2)と(3)は弱収束する作用素列の具体例にどれだけ触れてきたかが差になりそうです.
命題(a), (b)の条件は作用素列$\{U^n\}$の弱収束
作用素の列が弱収束することは,次のように定義されます.
ヒルベルト空間$H$に対して,有界線形作用素$T,T_n:H\to H$を考える.このとき,$\{T_n\}_n$が$T:H\to H$に弱収束するとは,任意の$x\in H$に対して$H$上の列$\{T_nx\}_n$が$Tx$に弱収束することをいう.
リースの表現定理より,$\{T_n\}_n$が$T:H\to H$に弱収束することの定義は「任意の$x,y\in H$に対して
\begin{align*}\lim_{n\to\infty}(T_n x,y)=(Tx,y)\end{align*}
が成り立つことをいう」ということもできますから,
- 命題(a)は「$\{U^n\}_n$が0に弱収束する$H$上の全射かつ等長な線型作用素$U$が存在する」
- 命題(b)は「$\{U^n\}_n$が$H$のある稠密な部分空間$H_0$上で0に弱収束する$H$上の全射かつ等長な線型作用素$U$が存在する」
と言い換えることができます.
問題を解く上で弱収束という言葉に書き換える必要はありませんが,作用素列の収束に関する知識としては重要です.
$(\text{a})\iff(\text{b})$の証明の方針
$(\text{a})\Ra(\text{b})$は当たり前なので,本問題の(1)はほとんど$(\text{b})\Ra(\text{a})$を示す問題です.
稠密部分空間$H_0$で成り立つ性質を全空間$H$に拡張する際,$H$上の点を$H_0$の点で近似して議論するのは関数解析学の標準的な方法です.
この問題では,任意の$x,y\in H$に対して,$x$に近い$x_0$と$y$に近い$y_0$をとり
\begin{align*}|(U^nx,y)|
&=|((U^nx,y)-(U^nx_0,y))+((U^nx_0,y)-(U^nx_0,y_0))+(U^nx_0,y_0)|
\\&\le|(U^n(x-x_0),y)|+|(U^nx_0,y-y_0)|+|(U^nx_0,y_0)|\end{align*}
と評価すれば,第1項は$\|x-x_0\|$が小さいことから,第2項は$\|y-y_0\|$が小さいことから,第3項は(b)の条件から小さく評価することができますね.
0に強収束しないが弱収束する作用素の列の例
直接$(\text{b})\iff(\text{c})$を示すこともできますが,(1)と併せると$(\text{a})\iff(\text{c})$を示せばよいですね.
$U$は等長なので$\|U^nx\|=\|x\|$ですから$H$上で$\{U^n\}_n$が0に強収束することはありません.そのため,$(\text{a})\iff(\text{c})$を示すには,$\{U^n\}_n$が0に強収束しないが弱収束するような$U$が鍵になります.
項の2乗の級数が収束する実数列全部のヒルベルト空間$\ell^2$上の作用素$U$を
\begin{align*}U(x_1,x_2,x_3,\dots)=(0,x_1,x_2,x_3,\dots),\end{align*}
と定めると,この
- $U$は全体をシフトさせるだけなので,等長だから$\{U^n\}_n$は0に強収束しない
- 任意の$x,y\in H$に対して,$n$を大きくすれば$U^nx$と$y$の大きな成分同士が重ならなくなり$(U^nx,y)$は小さくなって,$\{U^n\}_n$は0に弱収束する
という例になっています.
この例は弱収束するが強収束しない作用素列の典型例なので,知識として知っておきたいです.
いま考えた$\ell^2$上の作用素$U$は全射にはなっていないものの
- 無限次元なら成分を後方へ「逃し続ける」ことで,大きな成分同士が重ならなくなり弱収束する
- 有限次元なら等長作用素は成分を後方へ「逃す」ことができず,有限の項が一定の量を持ち続けるので弱収束しない
という直観が得られますね.これをもとに$(\text{a})\iff(\text{c})$の証明の方針を考えましょう.
$(\text{a})\Ra(\text{c})$の証明の方針
$H$が有限次元であれば,$H$の正規直交基底$(e_1,e_2,\dots,e_d)$がとれます.
このとき,$x\in H\setminus\{0\}$, $n\in\N$に対して$U^n x:=a_{1,n}e_1+\dots+a_{d,n}e_d$とおくと
\begin{align*}\|x\|^2=\|U^nx\|^2=a_{1,n}^2+\dots+a_{d,n}^2\end{align*}
となりますから,$|a_{1,n}|,\dots,|a_{d,n}|$のどれかは$\frac{\|x\|}{\sqrt{d}}$であることが分かります.
この議論が上の「有限の項が一定の量を持ち続ける」に対応する部分です.
よって,ある$k\in\{1,\dots,d\}$が存在して,$\frac{\|x\|}{\sqrt{d}}\le|a_{k,n}|$となる$n\in\{1,2,\dots\}$は無限個存在するので,$(U^n x,e_k)$は0に収束せず(a)が成り立たないことが分かります.
$(\text{c})\Ra(\text{a})$の証明の方針
上で考えた$\ell^2$上の作用素$U$は全射にはなっていませんが,これは次の定理を考えることで解決します.
0でない可分な無限次元ヒルベルト空間は完全正規直交系$\{e_k\}_{k=-\infty}^{\infty}$をもつ.
上の$\ell^2$の元の表示$(x_1,x_2,x_3,\dots)$では片方が途切れている($k\le0$のときの$x_k$がない)ため全射になっていないので,添え字が正の方にも負の方にも伸びている完全正規直交系$\{e_k\}_{k=-\infty}^{\infty}$を考えて
\begin{align*}U\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_ke_k=\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_ke_{k+1}\end{align*}
で作用素$U$を定めれば,この$U$は命題(a)の$U$の例になっています.
メタ的ですが,0でない可分なヒルベルト空間という問題の条件がこの定理を示唆しているように読めます.
実数列のヒルベルト空間$\ell^2$の稠密な部分空間
本問題の(3)は「$K_0$上で$\{T^n\}$は0に弱収束するが,$K$全体では$\{T^n\}$は0に弱収束しない」ような稠密部分空間$K_0$と$K$上の有界線形作用素$T$をとってくる問題ですね.
\begin{align*}K_0:=\set{\{x_k\}_{k=1}^{\infty}\in\ell^2}{\exists N\in\N\ \text{s.t.}\ 0=x_N=x_{N+1}=\dots}\end{align*}
とおくと,$K_0$は$\ell^2$の稠密部分空間です.
これは$L^2(\R)$が$C_0(\R)$で近似できるのと同様です.
ここで,$\ell^2$上の1項ずつシフトさせるだけの作用素$T$では,上で考えたように$\ell^2$全体で$\{T^n\}_n$は0に弱収束してしまうためうまくいっていません.
ただ,$T$が
\begin{align*}T(x_1,x_2,x_3,\dots)=(0,*,*,*,\dots)\end{align*}
という作用素でさえあれば$K_0$で$\{T^n\}_n$は0に弱収束するので,「$T$を作用させると初項に0が挿し込まれるが,($T$が有界な程度に)全体のノルムが大きくなっていく」ような$T$をとるとうまくいきそうです.
例えば,
\begin{align*}T(x_1,x_2,x_3,\dots)=(0,2x_1,2x_2,2x_3,\dots)\end{align*}
とすると,$K_0$で$\{T^n\}_n$は0に弱収束し,$\|Tx\|=2\|x\|$となります.ここまで気付けると,この$T$で$(T^n x,y)$が0に収束しない$x,y\in K$を見つけることはそれほど難しくないでしょう.
解答例
(1)の解答
(a)が成り立つとする.このとき,$H_0=H$として(b)が成り立つので,$(a)\Ra(b)$が従う.
次に,(b)が成り立つとし,任意の$x,y\in H$をとる.$x=0$または$y=0$のときは成り立つので,以下では$x\neq0$かつ$y\neq0$とする.
任意に$\epsilon>0$をとる.$H$における$H_0$の稠密性と$x\neq0$より,ある$x_0\in H_0\setminus\{0\}$が存在して,
\begin{align*}\|x_0-x\|<\frac{\epsilon}{2\|y\|}\end{align*}
が成り立つ.さらに,$H$における$H_0$の稠密性より,ある$y_0\in H_0$が存在して,
\begin{align*}\|y_0-y\|<\frac{\epsilon}{2\|x_0\|}\end{align*}
が成り立つ.三角不等式より
\begin{align*}|(U^nx,y)|
&=|((U^nx,y)-(U^nx_0,y))+((U^nx_0,y)-(U^nx_0,y_0))+(U^nx_0,y_0)|
\\&\le|(U^n(x-x_0),y)|+|(U^nx_0,y-y_0)|+|(U^nx_0,y_0)|\end{align*}
が成り立ち,コーシー-シュワルツの不等式と$U$の等長性より
\begin{align*}&|(U^n(x-x_0),y)|\le\|U^n(x-x_0)\|_H\|y\|_H=\|x-x_0\|_H\|y\|_H<\frac{\epsilon}{2}
\\&|(U^nx_0,y-y_0)|\le\|U^nx_0\|_H\|y-y_0\|_H=\|x_0\|_H\|y-y_0\|_H<\frac{\epsilon}{2}\end{align*}
だから,仮定(b)と併せて$\limsup\limits_{n\to\infty}|(U^nx,y)|\le\epsilon$が成り立つ.よって,$\epsilon>0$の任意性より$\limsup\limits_{n\to\infty}|(U^nx,y)|\le0$が成り立つから
\begin{align*}0\le\liminf_{n\to\infty}|(U^nx,y)|\le\limsup_{n\to\infty}|(U^nx,y)|\le0\end{align*}
となって$\lim\limits_{n\to\infty}(U^nx,y)=0$が従う.
(2)の解答
(1)より(a)と(c)が同値であることを示せばよい.
[$(\text{a})\Ra(\text{c})$の証明](c)が成り立たないとする.すなわち,$H$が有限次元であるとし,$H$の正規直交基底$(e_1,\dots,e_d)$($d=\dim{H}$)をとる.
$U^n e_1:=a_{1,n}e_1+\dots+a_{d,n}e_d$($n=1,2,\dots$)とおくと,任意の$n\in\{1,2,\dots\}$に対して,$U$の等長性より
\begin{align*}1=\|e_1\|_H^2=\|U^n e_1\|_H^2=a_{1,n}^2+\dots+a_{d,n}^2\le d\max_{i\in\{1,2,\dots,d\}}a_{i,n}^2\end{align*}
となるから,$\frac{1}{d}\le\max\limits_{i\in\{1,2,\dots,d\}}a_{i,n}^2$が成り立つ.
よって,ある$k\in\{1,\dots,d\}$が存在して,$\frac{1}{\sqrt{d}}\le|a_{k,n}|$となる$n\in\{1,2,\dots\}$は無限個存在するから
\begin{align*}\limsup_{n\to\infty}|(U^n e_1,e_k)|=\limsup_{n\to\infty}|a_{k,n}|\ge\frac{1}{\sqrt{d}}\end{align*}
となり(a)は成り立たない.
[$(\text{c})\Ra(\text{a})$の証明](c)が成り立つとする.$H$は可分なヒルベルト空間なので,$H$の完全正規直交系$\{e_k\}_{k=-\infty}^{\infty}$が存在する.このとき,係数をシフトさせる
\begin{align*}U\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_ke_k=\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_ke_{k+1}\quad(a_k\in\R;k\in\Z)\end{align*}
で定まる$H$上の全射かつ等長な線形作用素$U$が(a)の条件を満たすことを示す.ただし,$U$が全射かつ等長であることは,任意の$x=\sum\limits_{k=-\infty}^{\infty}a_ke_k\in H$($a_k\in\R;k\in\Z$)に対して,
\begin{align*}&U\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_ke_{k-1}=\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_kUe_{k-1}=\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_ke_k=x,
\\&\|Ux\|=\bra{\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_{k-1}^2}^{1/2}=\bra{\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_k^2}^{1/2}=\|x\|\end{align*}
が成り立つことから分かる.
次に,任意に$x=\sum\limits_{k=-\infty}^{\infty}a_ke_k,y=\sum\limits_{k=-\infty}^{\infty}b_ke_k\in H$($a_k,b_k\in\R;k\in\Z$)をとる.任意に$\epsilon>0$をとる.
\begin{align*}\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_k^2=\|x\|_H^2<\infty,\quad
\sum_{k=-\infty}^{\infty}b_k^2=\|y\|_H^2<\infty\end{align*}
なので,ある$N,N’\in\Z$が存在して
\begin{align*}\sum_{k=-\infty}^{N}a_k^2<\epsilon^2,\quad
\sum_{k=N’}^{\infty}b_k^2<\epsilon^2\end{align*}
が成り立つ.よって,任意の$n\ge N’-N-1$に対して,三角不等式とコーシー-シュワルツの不等式と併せて
\begin{align*}|(U^nx,y)|
&=\abs{\sum_{k=-\infty}^{\infty}a_{k-n}b_k}
\\&\le\abs{\sum_{k=-\infty}^{N’-1}a_{k-n}b_k}+\abs{\sum_{k=N’}^{\infty}a_{k-n}b_k}
\\&\le\bra{\sum_{k=-\infty}^{N’-1}a_{k-n}^2}^{1/2}\bra{\sum_{k=-\infty}^{N’-1}b_k^2}^{1/2}
\\&\quad+\bra{\sum_{k=N’}^{\infty}a_{k-n}^2}^{1/2}\bra{\sum_{k=N’}^{\infty}b_k^2}^{1/2}
\\&\le\epsilon\cdot\|y\|_H+\|x\|\cdot\epsilon
=(\|x\|_H+\|y\|_H)\epsilon\end{align*}
が成り立つ.よって,$\limsup\limits_{n\to\infty}|(U^nx,y)|\le(\|x\|_H+\|y\|_H)\epsilon$だから,$\|x\|\ge0$, $\|y\|\ge0$と$\epsilon>0$の任意性と併せて
\begin{align*}0\le\liminf_{n\to\infty}|(U^nx,y)|\le\limsup_{n\to\infty}|(U^nx,y)|\le0\end{align*}
が成り立ち,$\lim\limits_{n\to\infty}(U^nx,y)=0$を得る.
(3)の解答
$\N:=\{1,2,\dots\}$, $\mathcal{F}:=2^{\N}$とし,可測空間$(\N,\mathcal{F})$上の計数測度を$\mu$とおく.このとき,測度空間$(\N,\mathcal{F},\mu)$上の実ヒルベルト空間$L^2(\N;\R)(=\ell^2(\N))$を$K$とおき,$K$上の線形作用素$T$を
\begin{align*}T(x_1,x_2,x_3,\dots)=(0,2x_1,2x_2,2x_3,\dots)\end{align*}
で定める.この$K$と$T$が(d)をみたすが(e)をみたさない有界線形作用素であることを示す.
任意の$x:=\{x_k\}_{k=1}^{\infty}\in K$に対して,
\begin{align*}\|Tx\|_K=\bra{\sum_{k=1}^{\infty}|2x_k|^2}^{1/2}=2\|x\|_K\end{align*}
なので,$T$は有界作用素である.また,$x=(1,0,0,0,\dots)$, $y=\{2^{-k}\}_{k=1}^{\infty}$とおくと,
\begin{align*}(T^nx,y)_K=2^n\cdot\frac{1}{2^{n+1}}=\frac{1}{2}\end{align*}
なので(e)は成り立たないから,あとは(d)が成り立つことを示せばよい.以下,
\begin{align*}K_0:=\set{\{x_k\}_{k=1}^{\infty}\in K}{\exists N\in\N\ \text{s.t.}\ 0=x_N=x_{N+1}=\dots}\end{align*}
が(d)の条件を満たすことを示す.
[$K_0$が$K$の部分空間であることの証明]任意に$\alpha\in\R$と$x=\{x_k\}_{k=1}^{\infty},y=\{y_k\}_{k=1}^{\infty}\in K_0$をとる.このとき,ある$N_1,N_2\in\N$が存在して
\begin{align*}0=x_{N_1}=x_{N_1+1}=\dots,\quad
0=x_{N_2}=x_{N_2+1}=\dots\end{align*}
を満たすので,$N:=\max\{N_1,N_2\}$とおくと
\begin{align*}0=\alpha x_N+y_N=\alpha x_{N+1}+y_{N+1}=\dots\end{align*}
だから,$\alpha x+y=\{\alpha x_k+y_k\}_{k=1}^{\infty}\in K_0$を満たす.よって,$K_0$は$K$の部分空間である.
[$K_0$が$K$で稠密であることの証明]任意に$\epsilon>0$と$x=\{x_k\}_{k=1}^{\infty}\in K$をとる.ある$N’\in\N$が存在して
\begin{align*}\sum_{k=N’+1}^{\infty}x_k^2<\epsilon^2\end{align*}
が成り立つから,
\begin{align*}y_k=\begin{cases}x_k,&k\le N’,\\0,&k>N’\end{cases}\end{align*}
で定まる実数列$y=\{y_k\}_{k=1}^{\infty}\in K_0$は$\|x-y\|_K<\epsilon$を満たす.よって,$K_0$は$K$において稠密である.
[(d)の$K_0$の条件を満たすことの証明]任意に$x=\{x_k\}_{k=1}^{\infty},y=\{y_k\}_{k=1}^{\infty}\in K_0$をとる.このとき,ある$N\in\N$が存在して$0=y_N=y_{N+1}=\dots$を満たすから,$n\ge N-1$のとき
\begin{align*}(T^nx,y)&=\sum_{k=1}^{n}0\cdot y_k+\sum_{k=n+1}^{\infty}2^nx_{k-n}y_k
\\&=\sum_{k=n+1}^{\infty}2^nx_{k-n}\cdot0
=0\end{align*}
となって,$\lim\limits_{n\to\infty}(T^nx,y)=0$が従う.
第12問:ルベーグ積分
ルベーグ積分論の知識というより,積分に関する計算力・目標の形へどう変形するかの発想力が重要です.補足などが多くゴツく見えますが,丁寧に考えれば今年の解析系の問題の中ではとっつきやすいです.
なお,ガンマ関数と熱核を組み合わせたような問題の関数$g_a$はベッセル核とよばれるもので,解析学ではソボレフ空間などに深く関係します.ただし,問題自体はベッセル核の性質を知らなくても解けます.
$n$を正の整数とし,$a$を正の実数とする.$x\in\R^n$に対して
\begin{align*}g_a(x)=\frac{1}{(4\pi)^{\frac{n}{2}}\Gamma(\frac{a}{2})}\int_{(0,\infty)}e^{-\frac{|x|^2}{4t}}e^{-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}\,dt\end{align*}
とおく.ここで,$x=(x_1,\dots,x_n)\in\R^n$に対して$|x|=\sqrt{x_1^2+\dots+x_n^2}$であり,正の実数$p$に対して
\begin{align*}\Gamma(p)=\int_{(0,\infty)}e^{-t}t^{p-1}\,dt\end{align*}
である.この問題では,必要であれば,
\begin{align*}\int_{\R^n}e^{-|y|^2}\,dy=\pi^{\frac{n}{2}}\end{align*}
が成り立つことを証明なしに用いてよい.以下の問に答えよ.
- 関数$g_a$は$\R^n$上ルベーグ可積分であることを示せ.
- $a$と$b$を正の実数とする.ルベーグ測度に関してほとんど全ての$x\in\R^n$に対して\begin{align*}(g_a*g_b)(x)=g_{a+b}(x)\end{align*}が成り立つことを示せ.ここで,\begin{align*}(g_a*g_b)(x)=\int_{\R^n}g_a(x-y)g_b(y)\,dy\end{align*}である.
- $0<a<n$とする.このとき,$a$と$n$に依存する$C>0$が存在して,$0<|x|<1$をみたす任意の$x\in\R^n$に対して\begin{align*}g_a(x)\le C|x|^{-(n-a)}\end{align*}が成り立つことを示せ.
解答の方針とポイント1
被積分関数が非負値であることから,トネリの定理により積分の順序交換・重積分と逐次積分の書き換えができます.(1)と(2)は基本的にトネリの定理でうまく計算するだけです.
ここでは
\begin{align*}C_a:=\frac{1}{(4\pi)^{\frac{n}{2}}\Gamma(\frac{a}{2})},\quad
f_a(t,x):=e^{-\frac{|x|^2}{4t}}e^{-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}\end{align*}
とおきましょう.このとき,$g_a(x)=C_a\int_{(0,\infty)}f_a(t,x)\,dt$となります.
関数$g_a$は$x\neq0$では有限の値で定義される
$g_a(x)$の被積分関数$f_a(t,x)$は,$x\neq0$なら
- $t\approx0$では$e^{-\frac{|x|^2}{4t}}$により十分減衰する
- $t\approx\infty$では$e^{-t}$により十分減衰する
ため$g_a(x)$は有限の値をとります.そのため,$g_a$は$\R^n$上ほとんど至るところで定義されるので,$\R^n$上でルベーグ積分を考えることができますね.
$f_a(t,0)=e^{-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}$なので,$x=0$かつ$a\le n$なら$t\approx0$で特異性が強く$g_a(x)=\infty$となります.
トネリの定理
非負値可測関数については重積分と逐次積分が一致し,このことを述べた定理をトネリの定理といいます.
[トネリの定理]関数$f:\R^m\times\R^n\to\overline{\R}$が$\R^m\times\R^n$上可測かつ非負値であれば
\begin{align*}\int_{\R^m\times\R^n}f(x,y)\,d(x,y)
=\int_{\R^m}\bra{\int_{\R^n}f(x,y)\,dy}\,dx
=\int_{\R^n}\bra{\int_{\R^m}f(x,y)\,dx}\,dy\end{align*}
が成り立つ.ただし,この等式は$\infty$をとる場合にも成り立ち,$\overline{\R}$は拡大実数$\R\cup\{\pm\infty\}$である.
積分領域は必ずしも$\R^m$と$\R^n$でなくても,可測集合なら同様に重積分と逐次積分は等しくなります.
本問題の(1)では
\begin{align*}\int_{\R^n}g_a(x)\,dx
=C_a\int_{\R^n}\bra{\int_{(0,\infty)}e^{-\frac{|x|^2}{4t}}e^{-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}\,dt}\,dx\end{align*}
が有限であることを示せばよいわけですが,この被積分関数で$x$が含まれている部分は$e^{-\frac{|x|^2}{4t}}$だけで,これはガウス積分で計算できるので先に$x$の積分をすると良さそうです.いまは被積分関数が非負値かつ連続(可測)ですからトネリの定理から問題なく積分の順序交換できますね.
合成積$g_a*g_b$と$g_{a+b}$の対応を考える
本問題の(2)でも素直に合成積$(g_a*g_b)(x)$にトネリの定理を用いて,先に合成積の積分($y$の積分)をする形に書き換えると
\begin{align*}g_a*g_b(x)
=C_aC_b\int_{I^2}e^{-(s+t)}t^{\frac{a-n}{2}-1}s^{\frac{b-n}{2}-1}\bra{\int_{\R^n}e^{-\frac{|x-y|^2}{4t}-\frac{|y|^2}{4s}}\,dy}\,d(s,t)\end{align*}
となり,合成積の積分($y$の積分)は被積分関数の冪$-\frac{|x-y|^2}{4t}-\frac{|y|^2}{4s}$を$y$について平方完成することでガウス積分で計算でき,
\begin{align*}(g_a*g_b)(x)
=\frac{1}{(4\pi)^{\frac{n}{2}}\Gamma(\frac{a}{2})\Gamma(\frac{b}{2})}\int_{(0,\infty)^2}\frac{e^{-(s+t)}e^{-\frac{|x|^2}{4(s+t)}}t^{\frac{a}{2}-1}s^{\frac{b}{2}-1}}{(s+t)^{n/2}}\,d(s,t)\end{align*}
となります.目標の形の
\begin{align*}g_{a+b}(x)=\frac{1}{(4\pi)^{\frac{n}{2}}\Gamma(\frac{a+b}{2})}\int_{(0,\infty)}e^{-\frac{|x|^2}{4t}}e^{-t}t^{\frac{(a+b)-n}{2}-1}\,dt\end{align*}
と見比べると,係数をベータ関数$B$を用いて
\begin{align*}\frac{1}{(4\pi)^{\frac{n}{2}}\Gamma(\frac{a}{2})\Gamma(\frac{b}{2})}
=\frac{1}{(4\pi)^{\frac{n}{2}}\Gamma\bra{\frac{a+b}{2}}B\bra{\frac{a}{2},\frac{b}{2}}}\end{align*}
と変形したくなり,ちょうど$t^{\frac{a}{2}-1}s^{\frac{b}{2}-1}$の部分が$B\bra{\frac{a}{2},\frac{b}{2}}$の被積分関数にできそうです.また,$r=s+t$をひとまとまりにできると$f_{a+b}(r)$が作れそうです.
変数変換で目標の形に変形する
そこで,まず$\sqrt{t}=\sqrt{r}\cos{\theta}$, $\sqrt{s}=\sqrt{r}\sin{\theta}$と極座標変換すると
\begin{align*}&\int_{(0,\infty)^2}\frac{e^{-(s+t)}e^{-\frac{|x|^2}{4(s+t)}}t^{\frac{a}{2}-1}s^{\frac{b}{2}-1}}{(s+t)^{n/2}}\,d(s,t)
\\&=2\bra{\int_{(0,\infty)}f_{a+b}(r,x)\,dr}\bra{\int_{(0,\frac{\pi}{2})}(\cos{\theta})^{a-1}(\sin{\theta})^{b-1}\,d\theta}\end{align*}
となり,さらに$u=\cos^2{\theta}$と変数変換すると
\begin{align*}&2\int_{(0,\frac{\pi}{2})}(\cos{\theta})^{a-1}(\sin{\theta})^{b-1}\,d\theta
\\&=\int_{(0,1)}u^{\frac{a}{2}-1}(1-u)^{\frac{b}{2}-1}\,du
=B\bra{\frac{a}{2},\frac{b}{2}}\end{align*}
となって$g_{a+b}(x)$に等しいことが分かります.
以下の解答例では上の2つの変数変換を併せて$t=ru$, $s=r(1-u)$($0<r$, $0<u<1$)として計算しています.
また,等式$\Gamma(a)\Gamma(b)=\Gamma(a+b)B(a,b)$を示す際にも同様の計算をするので,そこに思い至ることができれば発想しやすいでしょう.
$g_a(x)$のオーダー
本問題の(3)の目標の不等式は$g_a(x)\le C|x|^{-(n-a)}$で,この$|x|$のオーダー$a-n$は$g_a(x)$の被積分関数
\begin{align*}f_a(t,x)=e^{-\frac{|x|^2}{4t}}e^{-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}\end{align*}
の$t$の冪に現れていますから,第一感としてこれを利用できないか考えます.
その方法としては$t\sim|x|^{\alpha}\phi(s)$の形の変数変換を施せば$|x|^\beta$の形が現れそうで,また式を眺めると$\frac{|x|^2}{4t}$のかたまりが見つかるので
\begin{align*}s=\frac{|x|^2}{4t}\bra{\iff t=\frac{|x|^2}{4s}}\end{align*}
の変換が自然に思い付きます.この変換で
\begin{align*}g_a(x)=2^{n-a}C_a|x|^{a-n}\int_{I}e^{-s}e^{-\frac{|x|^2}{4s}}s^{\frac{n-a}{2}-1}\,ds\end{align*}
となり,この積分の部分は可積分なので$|x|$のオーダーが得られます.
解答例1
任意の$\mu\in\R^n$, $k>0$に対して,
\begin{align*}\int_{\R^n}e^{-k|x-\mu|^2}\,dx
=\int_{\R^n}e^{-|y|^2}|k^{-n/2}|\,dy
=\bra{\frac{\pi}{k}}^{n/2}\end{align*}
である.ただし,$y=\sqrt{k}(x-\mu)$であり,ヤコビ行列式が$\det{\frac{\partial x}{\partial y}}=k^{-n/2}$であることを用いた.また,$I:=(0,\infty)$とおき,$a>0$, $x\in\R^n$, $t\in I$に対して
\begin{align*}C_a:=\frac{1}{(4\pi)^{\frac{n}{2}}\Gamma(\frac{a}{2})},\quad
f_a(t,x):=e^{-\frac{|x|^2}{4t}}e^{-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}\end{align*}
とおく.
(1)の解答
任意の$x\in\R^n$, $t\in I$に対して$f_a(t,x)>0$なので,トネリの定理より
\begin{align*}\int_{\R^n}g_a(x)\,dx
&=C_a\int_{I}e^{-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}\bra{\int_{\R^n}e^{-\frac{|x|^2}{4t}}\,dx}\,dt
\\&=C_a\int_{I}e^{-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}(4t\pi)^{n/2}\,dt
\\&=\frac{1}{\Gamma(\frac{a}{2})}\int_{I}e^{-t}t^{\frac{a}{2}-1}\,dt
=1<\infty\end{align*}
が成り立つ.よって,$g_a$は$\R^n$上ルベーグ可積分である.
(2)の解答
任意の$x,y\in\R^n$, $s,t\in(0,\infty)$に対して$f_a(t,x-y)f_b(s,y)>0$なので,トネリの定理より
\begin{align*}(g_a*g_b)(x)&=\int_{\R^n}\bra{C_a\int_{I}f_a(t,x-y)\,dt}\bra{C_b\int_{I}f_b(s,y)\,ds}\,dy
\\&=C_aC_b\int_{I^2}e^{-s-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}s^{\frac{b-n}{2}-1}\bra{\int_{\R^n}e^{-\frac{|x-y|^2}{4t}-\frac{|y|^2}{4s}}\,dy}\,d(s,t)\end{align*}
が成り立つ.ここで,
\begin{align*}&-\frac{|x-y|^2}{4t}-\frac{|y|^2}{4s}
\\&=-\frac{(s+t)|y|^2}{4st}+\frac{2x\cdot y}{4t}-\frac{|x|^2}{4t}
\\&=-\frac{s+t}{4st}\bra{|y|^2-\frac{2sx\cdot y}{s+t}+\frac{s^2|x|^2}{(s+t)^2}}+\frac{s|x|^2}{4t(s+t)}-\frac{|x|^2}{4t}
\\&=-\frac{s+t}{4st}\abs{y-\frac{sx}{s+t}}^2-\frac{|x|^2}{4(s+t)}\end{align*}
より
\begin{align*}\int_{\R^n}e^{-\frac{|x-y|^2}{4t}-\frac{|y|^2}{4s}}\,dy
=e^{-\frac{|x|^2}{4(s+t)}}\bra{\frac{4st\pi}{s+t}}^{n/2}\end{align*}
だから,
\begin{align*}(g_a*g_b)(x)
=\frac{1}{(4\pi)^{n/2}\Gamma(\frac{a}{2})\Gamma(\frac{b}{2})}\int_{I^2}\frac{e^{-s-t}e^{-\frac{|x|^2}{4(s+t)}}t^{\frac{a}{2}-1}s^{\frac{b}{2}-1}}{(s+t)^{n/2}}\,d(s,t)\end{align*}
となる.$t=ru$, $s=r(1-u)$($0<r$, $0<u<1$)とおくと,ヤコビ行列式は
\begin{align*}\abs{\det\frac{\partial(t,s)}{\partial(r,u)}}
=\abs{\det\bmat{u&r\\1-u&-r}}
=r\end{align*}
だから,
\begin{align*}&\int_{I^2}\frac{e^{-s-t}e^{-\frac{|x|^2}{4(s+t)}}t^{\frac{a}{2}-1}s^{\frac{b}{2}-1}}{(s+t)^{n/2}}\,d(s,t)
\\&=\int_{I\times(0,1)}\frac{e^{-r}e^{-\frac{|x|^2}{4r}}(ru)^{\frac{a}{2}-1}(r(1-u))^{\frac{b}{2}-1}}{r^{n/2}}\cdot r\,d(r,u)
\\&=\bra{\int_{(0,1)}u^{\frac{a}{2}-1}(1-u)^{\frac{b}{2}-1}\,du}\bra{\int_{(0,\infty)}e^{-r}e^{-\frac{|x|^2}{4r}}r^{\frac{(a+b)-n}{2}-1}\,dr}
\\&=B\bra{\frac{a}{2},\frac{b}{2}}\int_{I}f_{a+b}(r,x)\,dr\end{align*}
である.ただし,3つ目の等号では被積分関数が非負であることからトネリの定理を用いた.また,$B$はベータ関数である.以上より,
\begin{align*}(g_a*g_b)(x)
&=\frac{B\bra{\frac{a}{2},\frac{b}{2}}}{(4\pi)^{n/2}\Gamma(\frac{a}{2})\Gamma(\frac{b}{2})}\int_{I}f_{a+b}(r,x)\,dr
\\&=\frac{1}{(4\pi)^{n/2}\Gamma(\frac{a+b}{2})}\int_{I}f_{a+b}(r,x)\,dr
=g_{a+b}(x)\end{align*}
が従う.
(3)の解答
任意の$x\in\R^n\setminus\{0\}$, $t>0$に対して,$s=\frac{|x|^2}{4t}$とおくと$\frac{ds}{dt}=-\frac{4s^2}{|x|^2}$だから
\begin{align*}g_a(x)
&=C_a\int_{I}e^{-s}e^{-\frac{|x|^2}{4s}}\bra{\frac{|x|^2}{4s}}^{\frac{a-n}{2}-1}\cdot\abs{-\frac{|x|^2}{4s^2}}\,ds
\\&=2^{n-a}C_a|x|^{a-n}\int_{I}e^{-s}e^{-\frac{|x|^2}{4s}}s^{\frac{n-a}{2}-1}\,ds
\\&\le 2^{n-a}C_a|x|^{a-n}\int_{I}e^{-s}s^{\frac{n-a}{2}-1}\,ds
\\&=2^{n-a}C_a\Gamma\bra{\frac{n-a}{2}}|x|^{a-n}\end{align*}
である.ただし,$\frac{n-a}{2}>0$であることに注意.
以上より,$C:=2^{n-a}C_a\Gamma\bra{\frac{n-a}{2}}$とおくと,$0<|x|<1$をみたす任意の$x\in\R^n$に対して$g_a(x)\le C|x|^{-(n-a)}$が成り立つ.
解答の方針とポイント2((2)のみ)
本問題の(2)では,$L^1$関数のフーリエ変換の一意性より$\widehat{g_a*g_b}=\widehat{g_{a+b}}$を示せばよく,また合成積のフーリエ変換はフーリエ変換の積に等しいので
\begin{align*}\widehat{g_a}(\xi)\widehat{g_b}(\xi)=\widehat{g_{a+b}}(\xi)\quad(\xi\in\R^n)\end{align*}
を示せば良いですね.ベッセル核$g_a$のフーリエ変換は
\begin{align*}\widehat{g_a}(\xi)=(1+|\xi|^2)^{-a/2}\end{align*}
となることはよく知られており(実際に比較的簡単に計算もでき),このことを用いると
\begin{align*}\widehat{g_a*g_b}(\xi)
&=\widehat{g_a}(\xi)\widehat{g_b}(\xi)
=(1+|\xi|^2)^{-\frac{a}{2}}\cdot(1+|\xi|^2)^{-\frac{b}{2}}
\\&=(1+|\xi|^2)^{-\frac{a+b}{2}}
=\widehat{g_{a+b}}(\xi)\end{align*}
と示すことができます.
解答例2((2)のみ)
($I$, $C_a$, $f_a$は解答例1と同様とします.)$f\in L^1(\R^n)$上のフーリエ変換を$\hat{f}(\xi)=\int_{\R^n}e^{-ix\cdot\xi}f(x)\,dx$で定める.
(1)と同様に
\begin{align*}&C_a\int_{\R^n}\bra{\int_{I}|e^{-ix\cdot\xi}f_a(t,x)|\,dt}\,dx
\\&=C_a\int_{\R^n}\bra{\int_{I}f_a(t,x)\,dt}\,dx
=1<\infty\end{align*}
が成り立つから,$e^{-ix\cdot\xi}e^{-\frac{|x|^2}{4t}}e^{-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}$は$(t,x)$について$I\times\R^n$上可積分である.よって,フビニの定理より
\begin{align*}\hat{g_a}(\xi)=C_a\int_{I}e^{-t}t^{\frac{a-n}{2}-1}\bra{\int_{\R^n}e^{-ix\cdot\xi}e^{-\frac{|x|^2}{4t}}\,dx}\,dt\end{align*}
が成り立つ.熱核$(4\pi t)^{-\frac{n}{2}}e^{-\frac{|x|^2}{4t}}$のフーリエ変換は$e^{-t|\xi|^2}$なので,
\begin{align*}\widehat{g_a}(\xi)
&=(4\pi)^{\frac{n}{2}}C_a\int_{I}e^{-t(1+|\xi|^2)}t^{\frac{a}{2}-1}\,dt
\\&=\frac{1}{\Gamma(\frac{a}{2})}\int_{I}e^{-s}\bra{\frac{s}{1+|\xi|^2}}^{\frac{a}{2}-1}\cdot\frac{1}{1+|\xi|^2}\,ds
\\&=\frac{1}{(1+|\xi|^2)^{\frac{a}{2}}\Gamma(\frac{a}{2})}\int_{I}e^{-s}s^{\frac{a}{2}-1}\,ds
\\&=(1+|\xi|^2)^{-\frac{a}{2}}\end{align*}
である.ただし,$s:=t(1+|\xi|^2)$とおいた.よって,任意の$\xi\in\R^n$に対して
\begin{align*}\widehat{g_a*g_b}(\xi)
&=\widehat{g_a}(\xi)\widehat{g_b}(\xi)
=(1+|\xi|^2)^{-\frac{a}{2}}\cdot(1+|\xi|^2)^{-\frac{b}{2}}
\\&=(1+|\xi|^2)^{-\frac{a+b}{2}}
=\widehat{g_{a+b}}(\xi)\end{align*}
が従う.$L^1(\R^n)$でのフーリエ変換の一意性より$g_a*g_b=g_{a+b}$がほとんど至るところで成り立つ.
参考文献
基礎を固めるために私が実際に使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.
詳解と演習大学院入試問題〈数学〉
[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]
理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.
実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.
第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率
一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの問題集|詳解と演習 大学院入試問題(数理工学社)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.
演習 大学院入試問題
[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]
上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.
全2巻で,
1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計
が扱われています.
地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.
なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの問題集|演習 大学院入試問題[数学](サイエンス社)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.



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