2015年度 院試解説|京都大学 数学・数理解析専攻|基礎科目I

京都大学|大学院入試
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2015年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻 数学系の大学院入試問題の「基礎科目I」の解答の方針と解答です.

問題は4問あり,全4問を解答します.試験時間は2時間です.この記事では,問4まで解答例を掲載しています.

ただし,公式に採点基準などは発表されていないため,本稿の解答が必ずしも正解になるとは限りません.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は京都大学の数学教室の過去問題のページから入手できます.

第1問(微分積分学)

次の広義積分を求めよ.

\begin{align*}\iint_{D}\frac{y^2e^{-xy}}{x^2+y^2}\,dxdy.\end{align*}

ここで,$D=\set{(x,y)\in\R^2}{0<y\le x}$とする.

重積分の広義積分の計算問題です.

解答の方針とポイント

広義積分であることを気にしない形式的な計算から答えは予想できます.

ふたつの意味で広義積分になっている

本問題の積分領域$D$は以下の形をしており,

  • 積分領域$D$が有界閉集合でない
  • 積分領域$D$の境界点$(0,0)$で被積分関数$\frac{y^2e^{-xy}}{x^2+y^2}$が定義されない

のふたつの意味で広義積分になっています.

積分領域D
積分領域$D$は第1象限の直線$y=x$と$x$軸で囲まれた部分

形式的な計算

被積分関数の分母と積分領域$D$の条件にある$x^2+y^2$から,極座標変換$x=r\cos{\theta}$, $y=r\sin{\theta}$で変数変換するのが良さそうです.重積分の変数変換ではヤコビアンを忘れないように注意しましょう.

このことから,形式的に極座標変換から

\begin{align*}&\iint_{D}\frac{y^2e^{-xy}}{x^2+y^2}\,dxdy
\\&=\int_{0}^{\frac{\pi}{4}}\bra{\int_{0}^{\infty}\frac{r^2\sin^2\theta\cdot e^{-r^2\cos\theta\sin\theta}}{r^2}\cdot r\,dr}\,d\theta
\\&=\int_{0}^{\frac{\pi}{4}}\bra{\int_{0}^{\infty}r\sin^2\theta e^{-r^2\cos\theta\sin\theta}\,dr}\,d\theta
\\&=\int_{0}^{\frac{\pi}{4}}\brc{-\frac{\sin{\theta}}{2\cos{\theta}}e^{-\frac{1}{2}r^2\sin{2\theta}}}_{0}^{\infty}\,d\theta
\\&=\int_{0}^{\frac{\pi}{4}}\frac{\sin{\theta}}{2\cos{\theta}}\,d\theta
=-\frac{1}{2}\int_{0}^{\pi/4}\frac{(\cos{\theta})’}{\cos{\theta}}\,d\theta
\\&=-\frac{1}{2}\brc{\log{|\cos{\theta}|}}_{0}^{\pi/4}
=-\frac{1}{2}\brb{\log{\bra{\cos{\frac{\pi}{4}}}}-\log{(\cos{0})}}
\\&=-\frac{1}{2}\log{\frac{1}{\sqrt{2}}}
=\frac{1}{4}\log{2}\end{align*}

と計算することができます.「形式的」と書いたのは,本来

  • 重積分の広義積分は有界閉集合上での積分の極限で定義される
  • リーマン積分の変数変換は有界閉集合上で成り立つ

ためです.

どのような場合に広義積分でも気にせず変数変換してよいかについては,例えば「解析入門II」(杉浦光夫著,東京大学出版会)の第Ⅶ章定理4.6を参照してください.

重積分の広義積分の定義

非負実数値多変数関数の重積分の広義積分は,有界閉集合上で通常の重積分を計算したものの極限(または上限)により定義されるのでした.

体積確定集合$D\subset\R^n$上の非負値関数$f$を考える.さらに

\begin{align*}D_n\subset D_{n+1},\quad D=\bigcup_{n=1}^{\infty}D_n\end{align*}

を満たす体積確定な有界閉集合の列$\{D_n\}$をとる.任意の$n$に対して$f$が$D_n$上可積分であれば

\begin{align*}\int_{D}f(x)\,dx:=\lim_{n\to\infty}\int_{D_n}f(x)\,dx\end{align*}

を$f$の$D$上の広義積分という.

$f$が非負であることから,この定義の$f$の$D$上の広義積分は列$\{D_n\}$のとりかたによらないことが従います.

ざっくり言えば,どんどん集合$D$に近付く有界閉集合上で$f$が可積分なら,その極限を$D$上での広義積分と定義するわけですね.本問題では被積分関数の原点付近での様子や,$D$が$x$軸を含まないことから,有界閉集合の列$\{D_n\}$を

\begin{align*}D_n:=\set{(x,y)\in D}{\frac{1}{n^2}\le x^2+y^2\le n^2,\frac{\pi}{4n}\le\tan^{-1}\frac{y}{x}}\end{align*}

などととって計算すれば良いですね.

有界閉集合Dₙ
有界閉集合の列$\{D_n\}$は単調増大で,和集合は積分領域$D$となります

極座標変換のヤコビ行列式が$r$であることに注意して

\begin{align*}&\iint_{D_n}\frac{y^2e^{-xy}}{x^2+y^2}\,dxdy
\\&=\int_{\pi/4n}^{\pi/4}\bra{\int_{1/n}^{n}re^{-r^2\cos\theta\sin\theta}\sin^2\theta\,dr}\,d\theta
\\&=\int_{0}^{\pi/4}\frac{\sin{\theta}}{2\cos{\theta}}\bra{e^{-\frac{1}{2n^2}\sin{2\theta}}-e^{-\frac{1}{2}n^2\sin{2\theta}}}\mathbb{I}_{[\frac{\pi}{4n},\frac{\pi}{4}]}(\theta)\,d\theta\end{align*}

と計算できます.ただし,$\mathbb{I}_{[\frac{\pi}{4n},\frac{\pi}{4}]}$は指示関数です.よって,この$n\to\infty$での極限を求めればよく,これは被積分関数が$\frac{\sin{\theta}}{2\cos{\theta}}$に一様収束することから極限と積分の順序交換ができて求められますね.

ルベーグの収束定理を用いて極限と積分の順序交換を保証してもよいです.

解答例

$(x,y)\in D$に対して,$(x,y)=(r\cos\theta,r\sin\theta)$とおく.$n\in\N$に対して

\begin{align*}D_n:=\set{(x,y)\in D}{\frac{1}{n}\le r\le n,\frac{\pi}{4n}\le\theta}\end{align*}

とおくと,$\{D_n\}$は$D_n\subset D_{n+1}$, $D=\bigcup_{n=1}^{\infty}D_n$を満たす面積確定な有界閉集合の列である.被積分関数は$D$上で非負だから

\begin{align*}\iint_{D}\frac{y^2e^{-xy}}{x^2+y^2}\,dxdy
=\lim_{n\to\infty}\iint_{D_n}\frac{y^2e^{-xy}}{x^2+y^2}\,dxdy\end{align*}

である.各$n\in\N$に対して,$D_n$は

\begin{align*}E_n:=\set{(r,\theta)\in\R^2}{\frac{1}{n}\le r\le n,\frac{\pi}{4n}\le\theta\le \frac{\pi}{4}}\end{align*}

に対応し,$(r,\theta)\to(x,y)$のヤコビ行列式は$r$だから

\begin{align*}&\iint_{D_n}\frac{y^2e^{-xy}}{x^2+y^2}\,dxdy
\\&=\int_{\pi/4n}^{\pi/4}\bra{\int_{1/n}^{n}re^{-r^2\cos\theta\sin\theta}\sin^2\theta\,dr}\,d\theta
\\&=\int_{\pi/4n}^{\pi/4}\brc{-\frac{\sin{\theta}}{2\cos{\theta}}e^{-\frac{1}{2}r^2\sin{2\theta}}}_{1/n}^{n}\,d\theta
\\&=\frac{1}{2}\int_{0}^{\pi/4}\tan{\theta}\bra{e^{-\frac{1}{2n^2}\sin{2\theta}}-e^{-\frac{1}{2}n^2\sin{2\theta}}}\mathbb{I}_{[\frac{\pi}{4n},\frac{\pi}{4}]}(\theta)\,d\theta\end{align*}

となる.ただし,$\mathbb{I}_{[\frac{\pi}{4n},\frac{\pi}{4}]}$は指示関数である.

ここで,$[0,\frac{\pi}{4}]$上の関数列$\{f_n\}$を

\begin{align*}f_n(\theta)=\tan{\theta}\bra{e^{-\frac{1}{2n^2}\sin{2\theta}}-e^{-\frac{1}{2}n^2\sin{2\theta}}}\mathbb{I}_{[\frac{\pi}{4n},\frac{\pi}{4}]}(\theta)\end{align*}

で定め,この関数列が$\tan{\theta}$に一様収束することを示す.

\begin{align*}&\sup_{\theta\in[0,\frac{\pi}{4}]}|\tan{\theta}-f_n(\theta)|
\\&\le\sup_{\theta\in[0,\frac{\pi}{4n}]}|\tan{\theta}-f_n(\theta)|+\sup_{\theta\in[\frac{\pi}{4n},\frac{\pi}{4}]}|\tan{\theta}-f_n(\theta)|\end{align*}

であり,第1項について

\begin{align*}\sup_{\theta\in[0,\frac{\pi}{4n}]}|\tan{\theta}-f_n(\theta)|
=\sup_{\theta\in[0,\frac{\pi}{4n}]}\tan{\theta}
=\tan{\frac{\pi}{4n}}\xrightarrow[]{n\to\infty}0\end{align*}

が成り立ち,第2項について

\begin{align*}&\sup_{\theta\in[\frac{\pi}{4n},\frac{\pi}{4}]}|\tan{\theta}-f_n(\theta)|
\\&=\sup_{\theta\in[\frac{\pi}{4n},\frac{\pi}{4}]}\tan{\theta}\bra{\bra{1-e^{-\frac{1}{2n^2}\sin{2\theta}}}+e^{-\frac{1}{2}n^2\sin{2\theta}}}
\\&\le\tan{\frac{\pi}{4}}\bra{\bra{1-e^{-\frac{1}{2n^2}\sin{\frac{\pi}{2}}}}+e^{-\frac{1}{2}n^2\sin{\frac{\pi}{2n}}}}
\xrightarrow[]{n\to\infty}0\end{align*}

が成り立つ.よって,$[0,\frac{\pi}{4}]$上の関数列$\{f_n\}$は$\tan$に一様収束する.

以上を併せて

\begin{align*}\iint_{D}\frac{y^2e^{-xy}}{x^2+y^2}\,dxdy
&=\lim_{n\to\infty}\frac{1}{2}\int_{0}^{\pi/4}f_n(\theta)\,d\theta
=\frac{1}{2}\int_{0}^{\pi/4}\tan{\theta}\,d\theta
\\&=-\frac{1}{2}\brc{\log{|\cos{\theta}|}}_{0}^{\pi/4}
=-\frac{1}{2}\log{\frac{1}{\sqrt{2}}}
=\frac{1}{4}\log{2}\end{align*}

を得る.





第2問(微分積分学)

$\R^2$で定義された関数

\begin{align*}f(x,y)=\frac{4x^2+(y+2)^2}{x^2+y^2+1}\end{align*}

のとりうる値の範囲を求めよ.

多変数関数のとりうる値の範囲を求める問題です.関数は連続なので,本質的には最大値・最小値を求める問題ですね.

解答の方針とポイント1

関数$f$が非負で$f(0,-2)=0$なので,最小値が0であることはすぐに分かります.問題は最大値ですが,分母も分子も$x$, $y$ともに2次式なので,十分遠方ではそれほど大きくはなっていなさそうですね.

極値と停留点

関数の最大値・最小値は極値がその候補になるのでした.微分可能な関数の極値点に関しては次が成り立ちますね.

$A\subset\R^n$上の実数値関数$f$は,点$\m{a}\in A$で極値をもつとする.このとき,$\m{a}$が$A$の内点で,$\m{a}$で$f$は微分可能なら,$\m{a}$は$f$の停留点である.すなわち,$\nabla{f}(\m{a})=\m{0}$が成り立つ.

本問題の関数$f:\R^2\to\R$は微分可能で定義域上の全ての点が内点なので,$(a,b)\in\R^2$で極値をもつなら,点$(a,b)$は$f$の停留点でなければなりません.すなわち,

\begin{align*}f_x(a,b)=f_y(a,b)=0\end{align*}

を満たします.そこで,本問題の関数で実際にこれを解いて,$f$の停留点は$(0,\frac{1}{2})$, $(0,-2)$と分かり,それぞれの点で$f(0,\frac{1}{2})=5$, $f(0,-2)=0$となります.

有界閉集合上の連続関数の最大値・最小値

各$\theta\in\R$に対して

\begin{align*}\lim_{r\to\infty}f(r\cos{\theta},r\sin{\theta})
&=\lim_{r\to\infty}\frac{4\cos^2{\theta}+(\sin{\theta}+\frac{2}{r})^2}{1+\frac{1}{r^2}}
\\&=4\cos^2{\theta}+\sin^2{\theta}=1+3\cos^2{\theta}\end{align*}

なので,十分遠方では大きくても4程度であることが分かります.よって,上で求めた$f(0,\frac{1}{2})=5$が最大値になっていそうです.

このことを厳密に示すには,次の$\R^n$上の有界閉集合(コンパクト集合)上の連続関数に関する定理が使えますね.

コンパクト集合$X$上の実数値連続関数$f:X\to\R$は最大値・最小値を持つ.

解答例1

実数の2乗は非負だから$f(x,y)\ge0$であり,$f(0,-2)=0$なので最小値は0である.以下,最大値について考える.

\begin{align*}f_x(x,y)&=\frac{8x(x^2+y^2+1)-2x(4x^2+y^2+4y+4)}{(x^2+y^2+1)^2}
\\&=\frac{2x(3y^2-4y)}{(x^2+y^2+1)^2}
=\frac{2xy(3y-4)}{(x^2+y^2+1)^2},
\\f_y(x,y)&=\frac{2(y+2)(x^2+y^2+1)-2y(4x^2+y^2+4y+4)}{(x^2+y^2+1)^2}
\\&=\frac{-2(3x^2y-2x^2+2y^2+3y-2)}{(x^2+y^2+1)^2}\end{align*}

だから,

\begin{align*}\begin{cases}f_x(x,y)=0\\f_y(x,y)=0\end{cases}
\iff\begin{cases}x=0\ \text{or}\ y=0\ \text{or}\ y=\frac{4}{3}\\3x^2y-2x^2+2y^2+3y-2=0\end{cases}\end{align*}

である.$g(x,y)=3x^2y-2x^2+2y^2+3y-2$とおく.

\begin{align*}&g(0,y)=2y^2+3y-2=(2y-1)(y+2),
\\&g(x,0)=-2x^2-2<0,
\\&g\bra{x,\frac{4}{3}}=4x^2-2x^2+\frac{32}{9}+4-2=2x^2+\frac{50}{9}>0\end{align*}

だから,$f$の停留点は$(0,\frac{1}{2})$, $(0,-2)$に限る.$f(0,\frac{1}{2})=5$, $f(0,-2)=0$である.

また,極座標変換$x=r\cos\theta$, $y=r\sin\theta$で

\begin{align*}f(x,y)
&=\frac{4x^2+y^2+4y+4}{x^2+y^2+1}
\\&=\frac{4r^2\cos^{2}{\theta}+r^2\sin^{2}{\theta}+4r\sin{\theta}+4}{r^2+1}
\\&\xrightarrow[]{r\to\infty}1+3\cos^{2}{\theta}\le1+3=4\end{align*}

が$\theta$によらず一様に成り立つから,ある$R>0$が存在して,$x^2+y^2\ge R^2$を満たすとき$f(x,y)\le\frac{9}{2}$をみたす.よって,$f(0,\frac{1}{2})=5$と併せて,$f$の最大値は

\begin{align*}D:=\set{(x,y)\in\R^2}{x^2+y^2\ge R^2}\end{align*}

上でとり得ないことが分かる.

$\overline{D^c}:=\set{(x,y)\in\R^2}{x^2+y^2\le R^2}$はコンパクト集合で$f$は$D^c$上で微分可能だから,$f$は$D^c$上の停留点または$\partial{D^c}$上で最大値をとる.

いま,$\overline{D^c}$の境界上で$f(x,y)\le\frac{9}{2}<5$だったから,$f$は停留点$(0,\frac{1}{2})$で最大値5をとる.

関数$f$は連結集合$\R^2$上の連続関数だから,$f(x,y)$の最小値以上,最大値以下の値をとるので,$f$のとりうる値の範囲は$0\le f(x,y)\le5$である.

解答の方針とポイント2

$f$が点$(0,\frac{1}{2})$で最大値5をとりそうなことを答案を書く前の計算で確認したのち,

\begin{align*}f(x,y)=\frac{-x^2-4y^2+4y-1}{x^2+y^2+1}+5\end{align*}

と5を引き出すことによって,平方完成から示すこともできます.

解答例2

実数の2乗は非負だから$f(x,y)\ge0$であり,$f(0,-2)=0$なので最小値は0である.また,

\begin{align*}f(x,y)&=\frac{4x^2+(y+2)^2-5(x^2+y^2+1)}{x^2+y^2+1}+5
\\&=\frac{-x^2-4y^2+4y-1}{x^2+y^2+1}+5
\\&=-\frac{x^2+(2y-1)^2}{x^2+y^2+1}+5\end{align*}

だから$f(x,y)\le5$で,$f(0,\frac{1}{2})=5$だから最大値は5である.

関数$f$は連結集合$\R^2$上の連続関数だから,$f(x,y)$の最小値以上,最大値以下の値をとるので,$f$のとりうる値の範囲は$0\le f(x,y)\le5$である.





第3問(線形代数学)

$a$, $b$を複素数とする.3次正方行列

\begin{align*}A=\pmat{2&a&a\\b&2&0\\-b&0&2},\quad
B=\pmat{2&1&0\\0&2&0\\0&0&2}\end{align*}

について,以下の問に答えよ.

  1. 行列$A$の固有値を求めよ.
  2. 行列$A$と行列$B$が相似となるような複素数$a$, $b$をすべて求めよ.ただし,$A$と$B$が相似であるとは,複素正則行列$P$で$A=P^{-1}BP$をみたすものが存在することをいう.

2つの行列$A$, $B$が相似変換で移り合う条件を求める問題ですね.

解答の方針とポイント

京都大学の大学院入試ではジョルダン標準形に関する問題が頻出で,本問題もジョルダン標準形がポイントです.

2つの正方行列が相似であるための必要十分条件

$n$次正方行列$X$に対して,ある$n$次正則行列$P$が存在して$J=P^{-1}XP$がジョルダン行列となるとき,$J$をジョルダン標準形というのでした.$P$の取り方によってジョルダン標準形が変わることがあります.

ところが,$P$をどのように取ってもジョルダン標準形はジョルダン細胞の順番の差を除いて一意に定まるのでしたから,2つの正方行列$A$, $B$が相似であるための必要十分条件は次のようになりますね.

正方行列$A$, $B$に対して,次は同値である.

  • $A$と$B$は相似である
  • $A$のジョルダン標準形と$B$のジョルダン標準形がジョルダン細胞の順番の違いを除いて一致する

よって,本問題では$A$と$B$のジョルダン標準形が一致するような$a$, $b$を求めればよいわけですね.

ジョルダン標準形のジョルダン細胞の個数

ジョルダン標準形のジョルダン細胞の個数はランクを用いて得られますね.

正方行列$A$が固有値$\lambda\in\C$をもつとする.$A$のジョルダン標準形の$\lambda$に関する$m$次以上のジョルダン細胞の個数は

\begin{align*}\operatorname{rank}(A-\lambda I)^{m-1}-\operatorname{rank}(A-\lambda I)^{m}\end{align*}

である.ただし,$m=1$のとき$(A-\lambda I)^0=I_3$とみなす.

$B$はもとよりジョルダン行列$J_2(2)\oplus J_1(2)$ですから,$A$と$B$が相似であるための必要十分条件は$A$がジョルダン細胞を2個もつことなので

\begin{align*}\operatorname{rank}(A-2I)^0-\operatorname{rank}(A-2I)^1=2\end{align*}

ですね.

解答例

$I$を3次単位行列とする.

(1)の解答

$A$の固有多項式

\begin{align*}|xI-A|
&=\vmat{x-2&-a&-a\\-b&x-2&0\\b&0&x-2}
\\&=\{(x-2)^3+0+0\}-\{-ab(x-2)+ab(x-2)+0\}
\\&=(x-2)^3\end{align*}

であるから,$A$の固有値は2,2,2である.

(2)の解答

$A$, $B$が相似であることと,$A$のジョルダン標準形と$B$のジョルダン標準形がジョルダン細胞の順番の違いを除いて一致することは同値である.

$B$はもとよりジョルダン行列$J_2(2)\oplus J_1(2)$である.$A$は3次だから,$A$と$B$が相似であることと,$A$のジョルダン標準形が2に関するジョルダン細胞を2個もつこと,すなわち

\begin{align*}&\operatorname{rank}(A-2I)^{0}-\operatorname{rank}(A-2I)^{1}=2
\\&\iff\operatorname{rank}(A-2I)=1\end{align*}

と同値である.

\begin{align*}\operatorname{rank}(2I-A)=\operatorname{rank}\pmat{0&a&a\\b&0&0\\0&0&0}\end{align*}

なので,$ab=0$かつ$(a,b)\neq(0,0)$をみたす組$(a,b)$が求める複素数の組である.





第4問(線形代数学)

$a$, $b$, $c$, $d$を複素数とする.次の行列階数を求めよ.

\begin{align*}\pmat{2&-3&6&0&-6&a\\
-1&2&-4&1&8&b\\
1&0&0&1&6&c\\
1&-1&2&0&-1&d}\end{align*}

線形代数学のランクの問題ですね.

解答の方針とポイント

行列階数(ランク)は基本変形により階段行列に変形することがポイントですね.

基本変形により行列$A$を階段行列に変形したときの,主成分の個数を$A$の階数またはランクといい,$\operatorname{rk}{A}$や$\operatorname{rank}{A}$などと表す.

本問題はこの定義だけで十分ですが,行列のランクにより

などができることも当たり前にしておきましょう.

解答例

行基本変形により

\begin{align*}&\pmat{2&-3&6&0&-6&a\\-1&2&-4&1&8&b\\1&0&0&1&6&c\\1&-1&2&0&-1&d}
\\&\to\pmat{0&-3&6&-2&-18&a-2c\\0&2&-4&2&14&b+c\\1&0&0&1&6&c\\0&-1&2&-1&-7&d-c}
\\&\to\pmat{0&0&0&1&3&(a-2c)-3(d-c)\\0&0&0&0&0&(b+c)+2(d-c)\\1&0&0&1&6&c\\0&1&-2&1&7&c-d}
\\&\to\pmat{1&0&0&1&6&c\\0&1&-2&1&7&c-d\\0&0&0&1&3&a+c-3d\\0&0&0&0&0&b-c+2d}\end{align*}

だから,階数

\begin{align*}\operatorname{rank}\pmat{2&-3&6&0&-6&a\\-1&2&-4&1&8&b\\1&0&0&1&6&c\\1&-1&2&0&-1&d}
=\begin{cases}3&(c=b+2d)\\4&(c\neq b+2d)\end{cases}\end{align*}

である.





参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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