線形代数6
行列のランクと,行列が逆行列をもつための条件

線形代数学の基本
線形代数学の基本

${}0$以外の実数は全て逆数を持ちますが,行列の場合は零行列$O$でない正方行列$A$であっても逆行列を持たないことがよくあります.

そこで,正方行列$A$が逆行列$A^{-1}$を持つかどうかの判定する方法の1つに,行列$A$のランクを利用する方法があります.

また,正則性の判定条件の副産物として,正方行列$A$の逆行列$A^{-1}$を求めることができるようになります.

そこで,この記事では

  • 行基本変形の確認
  • 階段行列と簡約行列
  • ランクの定義
  • 正方行列の正則性の判定
  • 逆行列の求め方

を順に説明していきます.

行列のランクは今後も頻繁に用いる大切な概念なので,しっかり考え方を理解しておいてください.

なお,この記事では特に断らない限り実行列・実ベクトルを扱うことにしますが,複素行列など一般のを成分とする行列・ベクトルに対しても同様です.

参考文献(線形代数)

手を動かしてまなぶ 線形代数

線形代数の入門書で,説明も非常に丁寧なので初学者にも読み進めやすい教科書です.

線型代数入門

理論系でガッツリ線形代数を学ぶ人のための入門書です.

簡約行列

まずは行列のランクを定義するために必要な簡約行列を目指して説明します.

階段行列

まずは階段行列を定義します.1つ下の行に移るにつれて左から0が増えていく

   \begin{align*} \bmat{\color{blue}\m{*}&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}*&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}*&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}* \\0&\dots&0&\color{blue}\m{*}&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}*&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}* \\0&\dots&0&0&\dots&0&\color{blue}\m{*}&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}* \\\vdots&\ddots&\vdots&\vdots&\ddots&\vdots&\vdots&\ddots&\vdots&\vdots} \end{align*}

のような形の行列を階段行列といいます.例えば,

   \begin{align*} &\bmat{\color{blue}\m{1}&\color{blue}2&\color{blue}3&\color{blue}4\\0&\color{blue}\m{1}&\color{blue}0&\color{blue}-2\\0&0&0&\color{blue}\m{1}},\quad \bmat{0&\color{blue}\m{1}&\color{blue}5&\color{blue}8\\0&0&\color{blue}\m{-3}&\color{blue}2\\0&0&0&0},\quad \bmat{\color{blue}\m{4}&\color{blue}0\\0&\color{blue}\m{3}\\0&0} \end{align*}

はいずれも階段行列です.

また,階段行列の各行の$0$でない一番左の成分(上の例で太字になっている成分)をその行の主成分と言います.

全ての成分が$0$の行には主成分は存在しないとします.

きちんと階段行列の定義を述べると以下のようになりますが,ここではどういうものか分かっていれば問題ありません.

[階段行列/主成分] $m\times n$行列$A=(a_{ij})$が階段形 (echelon form)または階段行列 (echelon matrix)であるとは,任意の$i\in\{1,\dots,m-1\}$に対して,次が成り立つことをいう.

  1. $m\ge2$なら$a_{2,1}=0$
  2. $a_{i,k}=0$ ($k=1,\dots,j$, $j<n$)なら,$a_{i+1,k}=0$ ($k=1,\dots,j+1$)である.
  3. $a_{i,k}=0$ ($k=1,\dots,n$)なら,$a_{i+1,k}=0$ ($k=1,\dots,n$)である.

また,階段行列において,零ベクトルでない行の0でない最も左の成分を,その行の主成分 (ピボット,pivot, pivot element)という.

簡約行列

各行の主成分が全て1であり,主成分が存在する列は主成分以外の成分が全て0である

   \begin{align*} \bmat{\color{blue}\m{1}&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}0&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}0&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}* \\0&\dots&0&\color{blue}\m{1}&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}0&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}* \\0&\dots&0&0&\dots&0&\color{blue}\m{1}&\color{blue}\dots&\color{blue}*&\color{blue}* \\\vdots&\ddots&\vdots&\vdots&\ddots&\vdots&\vdots&\ddots&\vdots&\vdots} \end{align*}

のような形の階段行列を簡約行列といいます.例えば,

   \begin{align*} &\bmat{\color{blue}\m{1}&\color{blue}0&\color{blue}3&\color{blue}0\\0&\color{blue}\m{1}&\color{blue}0&\color{blue}0\\0&0&0&\color{blue}\m{1}},\quad \bmat{0&\color{blue}\m{1}&\color{blue}0&\color{blue}4\\0&0&\color{blue}\m{1}&\color{blue}2\\0&0&0&0},\quad \bmat{\color{blue}\m{1}&\color{blue}0\\0&\color{blue}\m{1}\\0&0} \end{align*}

はいずれも簡約行列です.

[簡約行列] 次を満たす階段行列を簡約行列 (reduced matrix)という.

  • 主成分は全て1である.
  • 主成分の存在する列において,主成分以外の成分はすべて0である.

行列の簡約化

さて,簡約行列に関して次の命題が成り立ちます.

任意の行列は行基本変形により簡約行列に変形できる.

前々回の記事で説明した掃き出し法と同様に考えれば,この命題が成り立つことはそう難しくないですね.

例えば,行列$\bmat{2&3&-2\\2&-2&8\\-3&0&-6}$は行基本変形により

   \begin{align*} \bmat{2&3&-2\\2&-2&8\\-3&0&-6} \to&\bmat{2&3&-2\\1&-1&4\\-3&0&-6} \to\bmat{2&3&-2\\1&-1&4\\-1&0&-2} \\\to&\bmat{1&-1&4\\2&3&-2\\-1&0&-2} \to\bmat{1&-1&4\\0&5&-10\\0&-1&2} \\\to&\bmat{1&-1&4\\0&1&-2\\0&-1&2} \to\bmat{1&0&2\\0&1&-2\\0&0&0} \end{align*}

と簡約行列に変形できますね.

線形代数4|連立1次方程式の掃き出し法と行列の基本変形
連立1次方程式は加減法で解くことができますが,連立1次方程式を行列を用いて表すことにより,行列の変形を考えて解くこともできます.この行列を用いた解法を「掃き出し法」といい,線形代数の理論の基盤となる考え方です.

行列$A$を行基本変形により簡約行列$B$に変形することを簡約化 (reduction)という.また,行列$B$自体も$A$の簡約化という.

上の例より$\bmat{2&3&-2\\2&-2&8\\-3&0&-6}$の簡約化は$\bmat{1&0&2\\0&1&-2\\0&0&0}$ですね.

ランク(階数)の定義

どんな行列も簡約化できることは上の命題で説明した通りですが,実は簡約化の主成分の個数は一意に定まることが証明できます.

このことがランクの定義に重要な役割を果たします.

簡約化の主成分の個数の一意性

[簡約化の主成分の個数の一意性] 行列の簡約化の主成分の個数は,簡約化の仕方によらず一定である.

実は簡約化自体も一意に定まりますが,ここではそこまで証明しません.


背理法により示す.すなわち,行列$m\times n$行列$A$を行基本変形して,

  • 主成分を$r$個もつ簡約行列$B=[\m{b}_{1},\dots,\m{b}_{n}]$
  • 主成分を$s$個もつ簡約行列$C=[\m{c}_{1},\dots,\m{c}_{n}]$

のどちらにもなり得るとして矛盾を導く($s<r$).

このとき,任意の$k\in\{1,\dots,n\}$に対して,$\m{b}_{k}$の第$r+1$成分以下は全て0であり,$\m{c}_{k}$の第$s+1$成分以下は全て0であることに注意する.

さらに,$B$の主成分以外の成分がすべて0になるように列基本変形を施してできる行列を$B_{1}$とする.

また,同様に$C$の主成分が存在する列$\m{e}_{\ell}$ ($\ell=1,\dots,s$)が第$\ell$列になるように列基本変形を施し,主成分以外の成分がすべて0になるように列基本変形を施してできる行列を$C_{1}$とする.

このとき,

   \begin{align*} B_{1}=\bmat{I_{r}&O\\O&O},\quad C_{1}=\bmat{I_{s}&O\\O&O} \end{align*}

である.

行基本変形$A\to B$, $A\to C$を引き起こす行列をそれぞれ$S$, $T$とし,列基本変形$B\to B_{1}$, $C\to C_{1}$を引き起こす行列をそれぞれ$S’$, $T’$とすると,$SA=B$, $TA=C$, $BS’=B_{1}$, $CT’=C_{1}$が成り立つ.

$S$, $T$, $S’$, $T’$はいずれも正則なので,$A=S^{-1}B$, $A=T^{-1}C$, $B=B_{1}S’^{-1}$, $C=C_{1}T’^{-1}$だから,

   \begin{align*} &S^{-1}B_{1}S'^{-1}=T^{-1}C_{1}T'^{-1} \\\iff&TS^{-1}B_{1}S'^{-1}T'=C_{1} \end{align*}

を得る.

このとき,$TS^{-1}$, $S’^{-1}T’$, $B_{1}$, $C_{1}$を

   \begin{align*} TS^{-1}=\bmat{U_{1}&U_{2}\\U_{3}&U_{4}},\quad S'^{-1}T'=\bmat{U'_{1}&U'_{2}\\U'_{3}&U'_{4}},\quad U_{1},U'_{1}\in\Mat_{r}(\R) \end{align*}

となるように適当な行列$U_{k}$, $U’_{k}$ ($k=1,\dots,4$)で表すと,

   \begin{align*} C_{1} =&TS^{-1}B_{1}S'^{-1}T' \\=&\bmat{U_{1}&O\\U_{3}&O}\bmat{U'_{1}&U'_{2}\\U'_{3}&U'_{4}} \\=&\bmat{U_{1}U'_{1}&U_{1}U'_{2}\\U_{3}U'_{1}&U_{3}U'_{2}} \end{align*}

となる.よって,

   \begin{align*} I_{r}=U_{1}U'_{1},\quad O=U_{1}U'_{2},\quad O=U_{3}U'_{1} \end{align*}

が成り立つ.一般に$r$次正方行列$A$, $B$が$I_r=AB$を満たせば$A$, $B$は共に正則だから$U’_{1}$は正則となる.

そこで,${U’_{1}}^{-1}$を$O=U_{3}U’_{1}$の両辺に右からかけて$U_{3}=O$を得る.よって,

  • $C_{1}$の第$r+1$行以降の成分はすべて0となるが,
  • $C_{1}$の$(r+1,r+1)$成分は1

だから矛盾する.

なお,証明の終盤で用いた「$r$次正方行列$A$, $B$が$I_r=AB$を満たせば$A$, $B$は共に正則となる」という定理は線形代数において非常に重要です.詳しくは前回の記事で説明しています.

線形代数5|正則の条件を簡単に!基本変形と行列の積の話
正方行列Aが正則(逆行列をもつ)とは,AB=BA=Iとなる行列Bが存在することと定義されます.ところが,実はAB=IまたはBA=Iのどちらかが成り立ちさえすれば,自動的にAB=BA=Iが満たされAが正則となります.

行列のランク(階数)の定義

この[簡約化の主成分の個数の一意性]の定理から,どんな行列も簡約化したときの主成分の個数は一定となりますね.

このことから,次のようにランクを定義することができます.

[ランク] 行列$A$に行基本変形を施して簡約行列$B$になったとき,$B$の主成分の個数を$A$のランク (階数rank)といい,

   \begin{align*} \operatorname{rank}{A},\quad \operatorname{rk}{A} \end{align*}

などと表す.

例えば,上でみたように$\bmat{2&3&-2\\2&-2&8\\-3&0&-6}$の簡約化は$\bmat{1&0&2\\0&1&-2\\0&0&0}$で,$\bmat{1&0&2\\0&1&-2\\0&0&0}$の主成分の個数は2なので,

   \begin{align*} \rank{\bmat{2&3&-2\\2&-2&8\\-3&0&-6}} =2 \end{align*}

となるわけですね.

定義が矛盾なく機能することを「定義がwell-definedである」といい,今の場合は「[簡約化]の定理から[ランク]の定義がwell-definedである」と表現することができます.

well-definedを理解する|三角比の定義から具体例に考える
数学では,定義がwell-definedであることはとても重要ですが,あまり授業で積極的に扱われることは少ないようで,曖昧な理解になってしまっている人は少なくないようです.そこで,この記事では三角比の定義を具体例としてwell-definedを説明します.

行列の正則性と逆行列の求め方

それでは,ランクと行列の正則性の関係を説明します.

正則性の必要十分条件

ランクから正方行列が正則(逆行列を持つ)かどうかの必要十分条件を与えることができます.

[正則性の必要十分条件] $n$次正方行列$A$について,次は同値である.

  1. $\rank{A}=n$を満たす.
  2. $A$は正則である(逆行列$A^{-1}$が存在する).

[$(1)\Ra(2)$] $\rank{A}=n$とする.

これは$A$の簡約化の主成分が$n$個あることを意味し,$A$が$n$次正方行列列であることと併せて$A$の簡約化は$I$である.

よって,行基本変形でこの簡約化を引き起こす正則行列$P$が存在して$PA=I$となるから,$A$は正則である.

[$(2)\Ra(1)$] $A$が正則であるとする.

$A$の簡約化を$B$とすると,この行基本変形を引き起こす正則行列$P$が存在して$PA=B$が成り立ち,$\rank{A}=\rank{B}$が成り立つ.

$A$が正則なら$P$の正則性と併せて$B$も正則なので,$B$に主成分をもたない行が存在しないから,$\rank{B}=n$が従う.

よって,$\rank{A}=n$を得る.

 

一般に行列のランクのような「1つの対象に固有なもの」を不変量 (invariant)といいます.

ランクという不変量から正方行列の正則性の必要十分条件が分かるように,数学において不変量が重要な役割を果たすことはよくあります.

逆行列の求め方

いま示した定理より,$n$次正方行列$A$が正則なら$\rank{A}=n$なので$A$の簡約化は単位行列$I$ということになります.

このことを用いると,具体的に逆行列を求める際に非常に実用的な以下の系が成り立ちます.

$n$次正方行列$A$を正則行列とする.行列$[A,I]$の簡約化が$[I,B]$であれば,$A$は正則で$B=A^{-1}$である.


行基本変形$[A,I]\to[I,B]$を引き起こす正則行列を$P$とすると,$[PA,PI]=[I,B]$が成り立つから$PA=I$かつ$P=B$である.

よって,$BA=I$が成り立つから,$A$は正則で$B=A^{-1}$である.

この系を用いて具体的に逆行列を求めてみましょう.

 

$A:=\bmat{1&2&1\\0&2&3\\1&2&2}$の逆行列を求めよ.

行基本変形により

   \begin{align*} [A,I] =&\bmat{1&2&1&1&0&0\\0&2&3&0&1&0\\1&2&2&0&0&1} \to\bmat{1&2&1&1&0&0\\0&2&3&0&1&0\\0&0&1&-1&0&1} \\\to&\bmat{1&2&0&2&0&-1\\0&2&0&3&1&-3\\0&0&1&-1&0&1} \to\bmat{1&0&0&-1&-1&2\\0&2&0&3&1&-3\\0&0&1&-1&0&1} \\\to&\bmat{1&0&0&-1&-1&2\\0&1&0&3/2&1/2&-3/2\\0&0&1&-1&0&1} \end{align*}

となるから

   \begin{align*} A^{-1} =\bmat{-1&-1&2\\3/2&1/2&-3/2\\-1&0&1} =\frac{1}{2}\bmat{-2&-2&4\\3&1&-3\\-2&0&2} \end{align*}

である.

連立1次方程式の解を持つ条件

例えば,連立1次方程式

   \begin{align*} \begin{cases} 2x+3y=2\\ x-y=3\\ \end{cases} \end{align*}

は$A=\bmat{2&3\\1&-1}$, $\m{x}=\bmat{x\\y}$, $\m{c}=\bmat{2\\3}$とおくと$A\m{x}=\m{c}$と表せます.

このように,中学校以来よく扱ってきた$\m{x}$の連立1次方程式は,係数行列$A$とベクトル$\m{c}$を用いて$A\m{x}=\m{c}$と表すことができるのでした.

このとき,この連立1次方程式が解を持つかどうかは係数行列$A$と拡大係数行列$[A,\m{c}]$を用いて考えることができます.

次の記事では

  • 連立1次方程式が解をもつ条件
  • 解の自由度

を考えます.

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