線形代数24|正方行列が対角化できる基本定理を理解する

線形代数学の基本
線形代数学の基本

前回の記事では正方行列の対角化について解説し,対角化においては固有値固有ベクトルが密接に関わっていることを説明しました.

対角化はできればとても便利ですが,残念ながらどんな正方行列でも対角化できるわけではありません.

そのため,正方行列が対角化可能であるかが判定できる方法があると良いわけですが,実は対角化可能であることを判定できる基本的な方法があります.

この記事では

  • 異なる固有値に属する固有ベクトル
  • 対角化可能性の基本定理

について説明します.

なお,この記事では特に断らない限り複素行列・複素ベクトルを扱うことにします.

線形代数学の参考文献

以下は線形代数学に関するオススメの教科書です.

大学教養 線形代数(加藤文元 著)

数学科など理論系の学生向けの線形代数の入門書です.平易な具体例から丁寧に説明されているので,初学者にも読み進めやすい教科書です.

手を動かしてまなぶ 線形代数(藤岡敦 著)

理論と演習のバランスをとりながら勉強したい人にオススメの入門書です.

対角化可能性の基本定理

最初に対角化可能であることが簡単に分かる場合の定理を紹介して,具体例をみてみましょう.

定理

次の定理がこの記事の主定理です.

$n$次正方行列$A$が異なる$n$個の固有値$\lambda_1,\lambda_2,\dots,\lambda_n$をもつとする.

このとき,$A$の固有値$\lambda_1,\lambda_2,\dots,\lambda_n$それぞれに属する固有ベクトルを1つずつ取り$\m{p}_1,\dots,\m{p}_n$とすると,

   \begin{align*}P=[\m{p}_1,\m{p}_2,\dots,\m{p}_n]\end{align*}

は正則行列となり,この$P$によって$A$は

   \begin{align*}P^{-1}AP=\bmat{\lambda_1&0&\dots&0\\0&\lambda_2&\ddots&\vdots\\\vdots&\ddots&\ddots&0\\0&\dots&0&\lambda_n}\end{align*}

と対角化可能である.

この定理では

  • $n$次正方行列$A$が異なる固有値を$n$個もてば$A$は対角化可能
  • $P$は固有ベクトルを並べればよい
  • $P^{-1}AP$の対角行列の成分は全て固有値になる

の3つを意識しましょう.

具体例1(2次正方行列)

正方行列$A=\bmat{1&2\\2&1}$を対角化せよ.また,$A$を対角化する正則行列$P$を1つ求めよ.

この正方行列の固有値は$-1,3$で

  • 固有値$-1$に属する固有ベクトルは$c\bmat{1\\-1}$ ($c\neq0$)
  • 固有値$3$に属する固有ベクトルは$d\bmat{1\\1}$ ($d\neq0$)

であることは前回の記事で示したので,これを用いて対角化する.

例えば$c=d=1$とすると

  • 固有値$-1$に属する固有ベクトル$\bmat{1\\-1}$
  • 固有値$3$に属する固有ベクトル$\bmat{1\\1}$

が得られ,これらの固有ベクトルを並べて$P=\bmat{1&1\\-1&1}$とすると,上の定理より

   \begin{align*}P^{-1}AP=\bmat{-1&0\\0&3}\end{align*}

と対角化可能である.

わざわざ$P^{-1}AP$を計算しなくても,固有値が対角成分に並ぶことが分かるのは強力ですね.

$P$に並べる列ベクトルは固有ベクトルであればいいので,例えば$P=\bmat{2&3\\-2&3}$や$P=\bmat{-2&-\pi\\2&-\pi}$などとしても

   \begin{align*}P^{-1}AP=\bmat{-1&0\\0&3}\end{align*}

と対角化可能されます.

また,$P$に並べる固有ベクトルの順番と$P^{-1}AP$の対角成分の順番は対応するので,例えば$P=\bmat{-1&1\\1&1}$と固有ベクトルを逆に並べた場合は対角化も

   \begin{align*}P^{-1}AP=\bmat{3&0\\0&-1}\end{align*}

と対角成分の固有値は逆になります.

具体例2(3次正方行列)

3次正方行列に対して,固有値・固有ベクトルを求めるところから対角化まで通してみましょう.

固有値・固有ベクトルを求める部分は前回の記事を参照してください.

正方行列$A=\bmat{2&-2&0\\0&-1&0\\3&0&1}$を対角化せよ.また,$A$を対角化する正則行列$P$を1つ求めよ.

$A$の固有多項式は

   \begin{align*}|xI-A|=&\vmat{x-2&2&0\\0&x+1&0\\-3&0&x-1} \\=&(x-2)(x+1)(x-1)\end{align*}

なので,固有方程式$|xI-A|=0$の解は$2,1,-1$である.

$A$は3次正方行列で,異なる固有値を3個もつから,上で示した対角化可能性の基本定理より対角化可能である.

さらに,固有値$2,1,-1$それぞれに属する固有ベクトル$\m{p}_1,\m{p}_2,\m{p}_3$を任意にとり,$P=[\m{p}_1,\m{p}_2,\m{p}_3]$とおくと

   \begin{align*}P^{-1}AP=\bmat{2&0&0\\0&1&0\\0&0&-1}\quad\dots(*)\end{align*}

と対角化される.よって,あとは$\m{p}_1,\m{p}_2,\m{p}_3$を求めればよい.

[1] 固有値$2$に属する固有ベクトル$\m{p}_1$は$A\m{p}_1=2\m{p}_1\iff(A-2I)\m{p}_1=\m{0}$を満たし,行基本変形より

   \begin{align*}A-2I=\bmat{0&-2&0\\0&-3&0\\3&0&-1}\to\bmat{3&0&-1\\0&1&0\\0&0&0}\end{align*}

となるから,掃き出し法より$\m{p}_1=c_1\bmat{1\\0\\3}$ ($c_1\neq0$)である.

[2] 固有値$1$に属する固有ベクトル$\m{p}_2$は$A\m{p}_2=1\m{p}_2\iff(A-I)\m{p}_2=\m{0}$を満たし,行基本変形より

   \begin{align*}A-I=\bmat{1&-2&0\\0&-2&0\\3&0&0}\to\bmat{1&0&0\\0&1&0\\0&0&0}\end{align*}

となるから,掃き出し法より$\m{p}_2=c_2\bmat{0\\0\\1}$ ($c_2\neq0$)である.

[3] 固有値$-1$に属する固有ベクトル$\m{p}_3$は$A\m{p}_3=(-1)\m{p}_3\iff(A+I)\m{p}_3=\m{0}$を満たし,

   \begin{align*}A+I=\bmat{3&-2&0\\0&0&0\\3&0&2}\end{align*}

となるから,$\m{p}_3=c_3\bmat{2\\3\\-3}$ ($c_3\neq0$)である.

[1]-[3]で$c_1=c_2=c_3=1$とすると,固有値$2,1,-1$それぞれに属する固有ベクトル$\bmat{1\\0\\3},\bmat{0\\0\\1},\bmat{2\\3\\3}$が得られる.

これらを並べた$P=\bmat{1&0&2\\0&0&3\\3&1&3}$によって,$A$は$(*)$と対角化可能である.

対角化可能性の基本定理の証明

まずは定理の証明の鍵となる性質を示し,上の定理を証明しましょう.

異なる固有値に属する固有ベクトル

対角化可能性の判定においては,次の命題が鍵となるので確実に理解しておきましょう.

$n$次正方行列$A$の異なる固有値$\lambda_1,\dots,\lambda_r$に対して,それぞれの固有値に属する固有ベクトルを$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$とすると,$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$は線形独立である.

$r$に関する数学的帰納法により示す.一般にただひとつのベクトルは線形独立なので$\m{a}_1$は線形独立だから,$r=1$のときは成り立つ.

次に$r=m<n$のときに成り立つと仮定する.

$A$の相異なる固有値$\lambda_1,\dots,\lambda_{m+1}$に属する固有ベクトルをそれぞれ$\m{a}_1,\dots,\m{a}_{m+1}$とし,線形関係$c_1\m{a}_1+\dots+c_{m+1}\m{a}_{m+1}=\m{0}$を考える.

線形関係の両辺に$\lambda_{m+1}$をかけて

   \begin{align*}\lambda_{m+1}c_1\m{a}_1+\dots+\lambda_{m+1}c_{m+1}\m{a}_{m+1}=\m{0}\end{align*}

であり,線形関係の両辺に左から$A$をかけて

   \begin{align*}&Ac_1\m{a}_1+\dots+Ac_{m+1}\m{a}_{m+1}=\m{0} \\\iff& \lambda_{1}c_1\m{a}_1+\dots+\lambda_{m+1}c_{m+1}\m{a}_{m+1}=\m{0}\end{align*}

である.これら2式の辺々引いて

   \begin{align*}(\lambda_{m+1}-\lambda_{1})c_1\m{a}_1+\dots+(\lambda_{m+1}-\lambda_{m})\m{a}_{m}=\m{0}\end{align*}

となるから,帰納法の仮定より$\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{m}$は線形独立なので$(\lambda_{m+1}-\lambda_{k})c_k=0$ ($k=1,\dots,m$)が成り立つ.

いま,固有値$\lambda_1,\dots,\lambda_{m+1}$は異なると仮定していたから,$\lambda_{m+1}-\lambda_{k}\neq0$なので$c_k=0$を得る.

これをもとの線形関係に代入すると$c_{m+1}\m{a}_{m+1}=0$となるから,$\m{a}_{m+1}\neq\m{0}$より$c_{m+1}=0$を得る.

よって,$r=m+1$のときにも成り立つ.

この命題から次が成り立ちますね.

$n$次正方行列$A$が異なる$n$個の固有値をもつとき,それぞれの固有値に属する固有ベクトルを1つずつ取り$\m{p}_1,\dots,\m{p}_n$とすると,正方行列$[\m{p}_1,\dots,\m{p}_n]$は正則である.

一般に$\m{a}_1,\dots,\m{a}_n\in\C^n$が線形独立なら正方行列$[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]$は正則である.

上の命題から$\m{p}_1,\dots,\m{p}_n$は線形独立だから,$n$次正方行列$P=[\m{p}_1,\dots,\m{p}_n]$は正則行列である.

定理の証明

それでは本題の定理を証明しましょう.

$n$次正方行列$A$が異なる$n$個の固有値$\lambda_1,\lambda_2,\dots,\lambda_n$をもつとき,

   \begin{align*}P=[\m{p}_1,\m{p}_2,\dots,\m{p}_n]\end{align*}

は正則行列となり,この$P$によって$A$は

   \begin{align*}P^{-1}AP=\bmat{\lambda_1&0&\dots&0\\0&\ddots&\ddots&\vdots\\\vdots&\ddots&\ddots&0\\0&\dots&0&\lambda_n}\end{align*}

と対角化可能である.

ただし,$\m{p}_1,\dots,\m{p}_n$はそれぞれ$A$の固有値$\lambda_1,\lambda_2,\dots,\lambda_n$に属する固有値である.

対角行列$B$を

   \begin{align*}B=\bmat{\lambda_1&0&\dots&0\\0&\lambda_2&\ddots&\vdots\\\vdots&\ddots&\ddots&0\\0&\dots&0&\lambda_n}\end{align*}

で定める.固有値・固有ベクトルの定義より$\lambda_k\m{p}_k=A\m{p}_k$ ($k=1,2,\dots,n$)が成り立つから,

   \begin{align*}PB=&[\m{p}_1,\m{p}_2,\dots,\m{p}_n]\bmat{\lambda_1&0&\dots&0\\0&\lambda_2&\ddots&\vdots\\\vdots&\ddots&\ddots&0\\0&\dots&0&\lambda_n} \\=&[\lambda_1\m{p}_1,\lambda_2\m{p}_2,\dots,\lambda_n\m{p}_n] =[A\m{p}_1,A\m{p}_2,\dots,A\m{p}_n] \\=&A[\m{p}_1,\m{p}_2,\dots,\m{p}_n] =AP\end{align*}

となる.いま$\lambda_1,\dots,\lambda_n$は全て異なるから,上で示した系より$P=[\m{p}_1,\dots,\m{p}_n]$は正則行列である.

よって,$PB=AP$の両辺に左から$P^{-1}$をかけて$B=P^{-1}AP$と対角化可能である.

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