2014大学院入試|京都大学 数学・数理解析専攻|基礎科目I

大学院入試
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2014年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻の大学院入試問題の「基礎科目I」の解答の方針と解答です.

ただし,採点基準などは公式に発表されていないため,ここでの解答が必ずしも正解とならない場合もあり得ます.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は京都大学のホームページから入手できます.

過去の入試問題 | Department of Mathematics Kyoto University

問題と解答の方針

問題は4問あり,全4問を解答します.試験時間は2時間です.

問1

(i) $\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$は実数列で,任意の正整数$k$について

   \begin{align*}\lim_{n\to\infty}(a_{n+k}-a_n)=0\end{align*}

をみたすとする.このとき,この数列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$は収束するか?理由をつけて答えよ.

(ii) 次の広義積分は収束するか?理由をつけて答えよ:

   \begin{align*}\int_0^{\infty}\bra{1-e^{-1/x}}\,dx.\end{align*}

解答の方針

(1) $k$は任意にとったあとは動かないので,$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$はCauchy列ではないことに注意.

よって,増大は$0$に近付いていくが,発散するような実数列が反例となっている.

(2) $x\ge1$においてTaylor展開$1-e^{-1/x}=\dfrac{1}{x}-\dfrac{1}{2!x^2}+\dots$の右辺が交項級数となるから,$1-e^{-1/x}\ge\dfrac{1}{x}-\dfrac{1}{2!x^2}$である.これにより問の広義積分が収束しないことが分かる.

解答例


(i) 収束しない例が存在する.

実際,$a_{n}=\log{n}$により$\{a_{n}\}$を定めると,任意の$k\in\N_{>0}$に対して

   \begin{align*}&\lim_{n\to\infty}\bra{a_{n+k}-a_n} =\lim_{n\to\infty}\log\bra{\frac{n+k}{n}} =\log{1} =0, \\& \lim_{n\to\infty}a_n =\infty\end{align*}

となる.

(ii) Taylor展開により,各$x\ge1$に対して

   \begin{align*}&e^{-1/x}=1-\frac{1}{x}+\frac{1}{2!x^2}-\frac{1}{3!x^3}+\dots \\\Ra\ &1-e^{-1/x}=\frac{1}{x}-\frac{1}{2!x^2}+\frac{1}{3!x^3}+\dots\end{align*}

である.$x\ge1$なら(1)の右辺は交項級数だから,

   \begin{align*}1-e^{-1/x}\ge\frac{1}{x}-\frac{1}{2!x^2}\end{align*}

である.よって,

   \begin{align*}\int_{0}^{\infty}\bra{1-e^{-1/x}}\,dx =&\int_{1}^{\infty}\bra{1-e^{-1/x}}\,dx \\\ge&\int_{1}^{\infty}\bra{\frac{1}{x}-\frac{1}{2!x^2}}\,dx \\=&\brc{\log{x}+\frac{1}{2x}}_{1}^{\infty} =\infty\end{align*}

だから,$\dint_{0}^{\infty}\bra{1-e^{-1/x}}\ dx$は発散する.

問2

$n$は$2$以上の整数とする.$\R^2$上の関数

   \begin{align*}f(x,y)=x^{2n}+y^{2n}-nx^2+2nxy-ny^2\end{align*}

について次の問に答えよ:

(i) $f$の最大値・最小値は存在するか?理由をつけて答えよ.

(ii) $f$が極大値・極小値をとる点をすべて求めよ.

解答の方針

(i) $x=y$, $x\to\infty$とすることで最大値を持たないことはすぐ分かる.問題は最小値.

極座標変換$(x,y)\mapsto(r,\theta)$により,$\theta$によらない定数$R>0$が存在して,$r>R$なら$f(x,y)\ge1$であることが分かる.$f(0,0)=0<1$より$\set{(x,y)\in\R^2}{f(x,y)\le1}$は空でなく,またコンパクトだから,$f$の連続性と併せてHeineの定理から最小値の存在を得る.

(ii) $(a,b)\in\R^2$で$f$がもつを持つなら,すべての偏導関数が$(a,b)$で0になることが必要.これにより求めた$(a,b)$が極値になるかを個別に調べればよい.

解答例


(i) 極座標変換$x=r\sin\theta$, $y=r\cos\theta$により,

   \begin{align*}f(x,y) =&r^{2n}\bra{\sin^{2n}\theta+\cos^{2n}\theta}+nr^2(\sin{2\theta}-1) \\\ge& r^{2n}\bra{\sin^{2n}\theta+\cos^{2n}\theta}-2nr^2\end{align*}

である.$\sin\theta$, $\cos\theta$は同時に$0$にならないから$\sin^{2n}\theta+\cos^{2n}\theta>0$で,コンパクト集合$[0,2\pi]$上で連続だから

   \begin{align*}M:=\min_{\theta\in[0,2\pi]}\bra{\sin^{2n}\theta+\cos^{2n}\theta}>0\end{align*}

が存在する.よって,

   \begin{align*}\lim_{r\to\infty}f(x,y) \ge\lim_{r\to\infty}\bra{Mr^{2n-2}-2n}r^2 =\infty\end{align*}

となる.よって,$f$の最大値は存在しない.

また,これより定数$R>0$が存在して$r\ge R$で$f(x,y)\ge1$をみたすことも分かる.

コンパクト集合$D_{R}:=\set{(x,y)\in\R^2}{x^2+y^2\le R^2}$上で$f$は連続だから,$\min_{x,y\in D_R}f(x,y)$が存在する.

また,$f(0,0)=0\le1$なので$f$の最小値は$D_R$上に存在する.

(ii) $(a,b)\in\R^2$で$f$が極値をもつためには

   \begin{align*}\begin{cases} \pd{f}{x}(a,b)=0\\ \pd{f}{y}(a,b)=0 \end{cases} \iff& \begin{cases} 2na^{2n-1}-2na+2nb=0\\ 2nb^{2n-1}-2nb+2na=0 \end{cases} \\\iff& \begin{cases} a^{2n-1}-a+b=0\\ b^{2n-1}-b+a=0 \end{cases}\end{align*}

が成り立つことが必要である.2式の辺々を加えて

   \begin{align*}a^{2n-1}+b^{2n-1}=0 \iff a=-b\end{align*}

が成り立つ.ただし,$a,b\in\R$に注意.$a^{2n-1}-a+b=0$に$b=-a$を代入して

   \begin{align*}b^{2n-1}-2a=0 \iff b\bra{b^{2n-2}-2}=0 \iff b=0,\pm2^{1/(2n-2)}\end{align*}

だから$(a,b)=(0,0),\bra{\pm2^{1/(2n-2)}, \mp2^{1/(2n-2)}}$を得る(複号同順).

[1] $|x|<1$なら

   \begin{align*}f(x,0)=&x^{2n}-nx^2=x^2\bra{x^{2n-2}-n}\le x^2(1-n)\le0, \\f(x,x)=&2x^{2n}\ge0\end{align*}

だから,$(0,0)$は極値をとらない.

[2] $(a,b)=\bra{\pm2^{1/(2n-2)}, \mp2^{1/(2n-2)}}$のとき,

   \begin{align*}\ppd{f}{x}(a,b) =&2n(2n-1)a^{2n-2}-2n \\=&4n(2n-1)-2n =2n(4n-3), \\\ppdd{f}{x}{y}(a,b) =&2n\end{align*}

である.同様に$\ppd{f}{x}(a,b)=2n(4n-3)$, $\ppdd{f}{y}{x}(a,b)=2n$である.よって,

   \begin{align*}\vmat{f_{xx}(a,b)&f_{xy}(a,b)\\f_{yx}(a,b)&f_{yy}(a,b)} =&\vmat{2n(4n-3)&2n\\2n&2n(4n-3)} =4n^2\vmat{4n-3&1\\1&4n-3} \\=&4n^2\{(4n-3)^2-1^2\} =4n^2(4n-4)(4n-2)>0\end{align*}

となり,$f_{xx}(a,b)=2n(4n-3)>0$と併せて$(\pm2^{1/(2n-2)},\mp2^{1/(2n-2)})$はともに極小値をとる.

以上より極小値をとる点は$(\pm2^{1/(2n-2)},\mp2^{1/(2n-2)})$であり,極大値をとる点は存在しない.

問3

次の$4$次実正方行列$A$, $B$は正則か?正則ならば逆行列を求め,正則でないならば階数を求めよ.

   \begin{align*}A=\pmat{2&0&1&3\\0&8&2&4\\2&0&1&4\\0&4&0&1},\quad B=\pmat{1&1&1&0\\2&2&0&3\\3&4&2&4\\4&5&3&4}\end{align*}

解答の方針

$A$, $B$を行基本変形により階段行列に変形することにより判定できる.

また,$4$次単位行列$I$に対して,$A$が正則なときは$[A,I]$を行基本変形で$[I,B]$の形に変形でき,このとき$A^{-1}=B$である.

解答例


行基本変形により

   \begin{align*}[A,E] =&\bmat{2&0&1&3&1&0&0&0\\0&8&2&4&0&1&0&0\\2&0&1&4&0&0&1&0\\0&4&0&1&0&0&0&1} \to\bmat{2&0&1&3&1&0&0&0\\0&0&2&2&0&1&0&-2\\0&0&0&1&-1&0&1&0\\0&4&0&1&0&0&0&1} \\\to&\bmat{2&0&1&0&4&0&-3&0\\0&0&2&0&2&1&-2&-2\\0&0&0&1&-1&0&1&0\\0&4&0&0&1&0&-1&1} \to\bmat{2&0&1&0&4&0&-3&0\\0&0&1&0&1&\frac{1}{2}&-1&-1\\0&0&0&1&-1&0&1&0\\0&4&0&0&1&0&-1&1} \\\to&\bmat{2&0&0&0&3&-\frac{1}{2}&-2&1\\0&0&1&0&1&\frac{1}{2}&-1&-1\\0&0&0&1&-1&0&1&0\\0&4&0&0&1&0&-1&1} \to\bmat{1&0&0&0&\frac{3}{2}&-\frac{1}{4}&-1&\frac{1}{2}\\0&1&0&0&\frac{1}{4}&0&-\frac{1}{2}&\frac{1}{4}\\0&0&1&0&1&\frac{1}{2}&-1&-1\\0&0&0&1&-1&0&1&0}\end{align*}

だから,$A$は正則で逆行列$A^{-1}$は

   \begin{align*}A^{-1}=\frac{1}{4}\bmat{6&-1&-4&2\\1&0&-2&1\\4&2&-4&-4\\-4&0&4&0}\end{align*}

である.

また,行基本変形により

   \begin{align*}\\B =&\bmat{1&1&1&0\\2&2&0&3\\3&4&2&4\\4&5&3&4} \to\bmat{1&1&1&0\\2&2&0&3\\0&1&-1&4\\0&1&-1&4} \to\bmat{1&1&1&0\\2&2&0&3\\0&1&-1&4\\0&0&0&0}\end{align*}

だから,$B$は正則でなく階数は$3$である.

問4

$3$次の複素正方行列

   \begin{align*}A=\pmat{3&0&-1\\-2&1&1\\2&0&0},\quad B=\pmat{1&x&0\\0&1&0\\-1&x&2}\end{align*}

に対して,$A$と$B$が相似となるような複素数$x$をすべて求めよ.ただし,行列$A$と$B$が相似とは,複素正則行列$P$で$A=P^{-1}BP$をみたすものが存在することをいう.

解答の方針

一般に,等しい次数の正方行列$A$, $B$に対して,

  • 行列$A$と$B$が相似である
  • $A$と$B$のJordan標準形がJordan細胞の順番の違いを除いて一致する

が同値である.

解答例


$I$を$3$次単位行列とする.

   \begin{align*}|tI-A| =&\vmat{t-3&0&1\\2&t-1&-1\\-2&0&t} \\=&\{(t-3)(t-1)t+0+0\}-\{-2(t-1)+0+0\} \\=&(t-1)\bra{t^2-3t+2} =(t-1)^2(t-2)\end{align*}

だから,$A$の固有値は$1$, $2$で,固有値$1$の重複度は$2$である.行基本変形により

   \begin{align*}|I-A| =\bmat{-2&0&1\\2&0&-1\\-2&0&1} \to\bmat{-2&0&1\\0&0&0\\0&0&0}\end{align*}

だから,固有値1の固有空間の次元は$2$である.よって,$A$は対角成分が$1$, $2$, $2$である行列に対角化可能である.

一方,

   \begin{align*}|tI-B| =&\vmat{t-1&-x&0\\0&t-1&0\\1&-x&t-2} \\=&\{(t-1)^2(t-2)+0+0\}-\{0+0+0\} \\=&(t-1)^2(t-2)\end{align*}

だから,$A$の固有値は$1$, $2$で,固有値$1$の重複度は$2$である.行基本変形により

   \begin{align*}|I-B| =\bmat{0&-x&0\\0&0&0\\1&-x&-1} \to\bmat{0&-x&0\\0&0&0\\1&0&-1}\end{align*}

だから,固有値$1$の固有空間の次元は

  • $x=0$のとき$1$
  • $x=0$のとき$2$

である.よって,$x=0$のとき$B$は対角成分が$1$, $1$, $2$である行列に対角化可能で,$x\neq0$のとき$B$は対角化可能でない.

$A$, $B$が相似であることと,$A,B$のJordan標準形が一致することは同値だから,$x=0$のときに$A$と$B$は相似であり,$x\neq0$のときは$A$と$B$は相似でない.

参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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