線形代数11|数ベクトル空間の部分空間と基底の考え方

$\R^n$上では,

  • $\m{a},\m{b}\in\R^n$に対して,$\m{a}+\m{b}$
  • $k\in\R$と$\m{a}\in\R^n$に対して,スカラー倍$k\m{a}$

が定義されていますね.

ここで,例えば$\R^2$の部分集合

\begin{align*} V=\set{t\bmat{1\\1}}{t\in\R} \end{align*}

上で「和」と「スカラー倍」を考えると,

  • $\m{a},\m{b}\in V$に対して$\m{a}+\m{b}\in V$
  • $k\in\R$と$\m{a}\in V$に対して$k\m{a}\in V$

が成り立ちます(記事の中で証明します).つまり,$V$の中で「和」と「スカラー倍」が完結しているわけですね.

このように和とスカラー倍が常に$V$に収まるとき,$V$を$\R^n$の部分空間といいます.

この記事では

  • $\R^n$の部分空間
  • $\R^n$の部分空間の基底

について説明します.

なお,この記事では実数$\R$を中心に説明しますが,複素数$\C$など一般の体に対しても同様です.

部分空間

冒頭で述べたように,$R^n$の部分空間を次で定義します.

[部分空間] $\R^n$の部分集合$V$が次の2条件を同時に満たすとき,$V$を$\R^n$の部分空間 (subspace)または線形部分空間 (linear subspace)という.

  • $\m{a},\m{b}\in V$に対して$\m{a}+\m{b}\in V$
  • $k\in\R$と$\m{a}\in V$に対して$k\m{a}\in V$

要は$V$の任意の元を和とスカラー倍で計算しても,計算結果が$V$の外に出ることがないということなので,この2つの条件をそれぞれ

  • $V$は和について閉じている
  • $V$はスカラー倍について閉じている

といいます.

上の定義では和とスカラー倍を分けて書いていますが,テキストによっては

「$k\in\R$と$\m{a},\m{b}\in V$に対して$k\m{a}+\m{b}\in V$」

「$k,\ell\in\R$と$\m{a},\m{b}\in V$に対して$k\m{a}+\ell\m{b}\in V$」

が成り立つことを部分空間の定義にしていることもあります.

しかし,これらはどちらも和とスカラー倍に閉じていることを同時に述べているだけで上の定義と同値です.

定義から,$\R^n$自身や零ベクトルのみからなる集合$\{\m{0}\}$が$\R^n$の部分空間であることは定義からすぐに分かりますね.これらの部分空間を自明な部分空間 (trivial subspace)といいます.

例1

まずは冒頭で挙げた集合$V$が部分空間であることを示しましょう.

定義通りに$V$が和とスカラー倍について閉じていることを示せばよいですね.

$\R^2$の部分集合

\begin{align*} V=\set{t\bmat{1\\1}}{t\in\R} \end{align*}

が$\R^2$の部分空間となることを示せ.


$V$が$\R^2$の部分集合であることは明らか.任意に$k\in\R$と$\m{a},\m{b}\in V$をとる.

$\m{a}=t\bmat{1\\1}$, $\m{b}=t’\bmat{1\\1}$ ($t,t’\in\R$)と表せるから,

\begin{align*} &\m{a}+\m{b}=t\bmat{1\\1}+t'\bmat{1\\1}=(t+t')\bmat{1\\1}, \\&k\m{a}=k\bra{t\bmat{1\\1}}=(kt)\bmat{1\\1} \end{align*}

となる.$t+t’,kt\in\R$だから$\m{a}+\m{b},k\m{a}\in V$である.

すなわち,$V$は和とスカラー倍に閉じているから$\R^2$の部分空間である.

この$V$は$\bmat{1\\1}$の実数倍のベクトルのみからなる集合なので,$\R^2$を$xy$平面とみると$V$は$xy$平面上の$y=x$のグラフとして図示できますね.

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例2

次のような集合も例1と同様に部分空間になることが分かります.

$\R^3$の部分集合

\begin{align*} V=\set{s\bmat{1\\0\\0}+t\bmat{0\\1\\0}}{s,t\in\R} \end{align*}

が$\R^3$の部分空間となることを示せ.


$V$が$\R^3$の部分集合であることは明らか.任意に$k\in\R$と$\m{a},\m{b}\in V$をとる.

$\m{a}=s\bmat{1\\0\\0}+t\bmat{0\\1\\0}$, $\m{b}=s’\bmat{1\\0\\0}+t’\bmat{0\\1\\0}$ ($t,s\in\R$)と表せるから,

\begin{align*} \m{a}+\m{b} =&\bra{s\bmat{1\\0\\0}+t\bmat{0\\1\\0}}+\bra{s'\bmat{1\\0\\0}+t'\bmat{0\\1\\0}} \\=&(s+s')\bmat{1\\0\\0}+(t+t')\bmat{0\\1\\0}, \\k\m{a} =&k\bra{s\bmat{1\\0\\0}+t\bmat{0\\1\\0}} =(ks)\bmat{1\\0\\0}+(kt)\bmat{0\\1\\0} \end{align*}

となる.$s+s’,t+t’,ks,kt\in\R$だから$\m{a}+\m{b},k\m{a}\in V$である.

すなわち,$V$は和とスカラー倍に閉じているから$\R^3$の部分空間である.

$\m{e}_1:=\bmat{1\\0\\0}$, $\m{e}_2:=\bmat{0\\1\\0}$とすると,この$V$は$\m{e}_1,\m{e}_2$の線形結合からなる集合なので,$\R^3$を$xyz$空間とみると$V$は$xyz$空間上の$xy$平面として図示できますね.

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例1と例2の部分空間は原点を通っていますが,これは一般の部分空間$V$に対しても成り立ちます.

実際,部分空間$V$は任意のスカラー倍に対して閉じているので$0$倍についても閉じているので,任意の$\m{a}\in V$に対して

\begin{align*} \m{0}=0\m{a}\in V. \end{align*}

が成り立ちますね.

例3

次に部分空間でない例を考えます.

$\R^2$の部分集合

\begin{align*} &V=\set{\bmat{t\\1+t}}{t\in\R}, \\&W=\set{\bmat{t\\t^2}}{t\in\R} \end{align*}

はともに$\R^2$の部分空間とはならないことを示せ.


$\m{0}\notin V$だから,$V$は部分空間ではない.

$\bmat{1\\1},\bmat{-1\\1}\in W$であるが

\begin{align*} \bmat{1\\1}+\bmat{-1\\1}=\bmat{0\\2}\notin W \end{align*}

だから,$W$は和について閉じておらず$W$は部分空間ではない.

この$V, W$を図示すると下図のようになります.

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例2のあとにみたように部分空間は$\m{0}$を必ず元にもつので,$V$のグラフが原点を通っていない時点で$V$は部分空間でないと分かります.

また,部分空間は和とスカラー倍で閉じているため「真っ直ぐ」な空間となっているはずで,$W$のように曲がっていると部分空間でないと分かります.

部分空間の基底

部分空間$V$に対して,「$V$の元がどのようなベクトルたちの線形結合で表されるか」が分かれば,$V$がどのような空間であるかが分かります.

これについて,部分空間の基底という概念を定義しますが,そのために部分空間の中でも重要な生成される部分空間を定義します.

生成される部分空間

先程の例2のように,複数のベクトルの線形結合からなる集合は部分空間となります.

$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r\in\R^n$とする.このとき,部分集合

\begin{align*} V=\set{c_1\m{a}_1+\dots+c_r\m{a}_r}{c_1,\dots,c_r\in\R} \end{align*}

は$\R^n$の部分空間である.

証明は先程の例2と同様です.


$V$が$\R^n$の部分集合であることは明らか.任意に$k\in\R$と$\m{a},\m{b}\in V$をとる.

$\m{a}=\sum_{p=1}^{r}c_p\m{a}_p$, $\m{b}=\sum_{p=1}^{r}d_p\m{a}_p$ ($c_p,d_p\in\R$, $p=1,\dots,r$)と表せるから,

\begin{align*} \m{a}+\m{b} =&\sum_{p=1}^{r}c_p\m{a}_p+\sum_{p=1}^{r}d_p\m{a}_p \\=&\sum_{p=1}^{r}(c_p+d_p)\m{a}_p, \\k\m{a} =&k\sum_{p=1}^{r}c_p\m{a}_p =\sum_{p=1}^{r}(kc_p)\m{a}_p \end{align*}

となる.$c_p+d_p,kc_p\in\R$ ($p=1,\dots,r$)だから$\m{a}+\m{b},k\m{a}\in V$である.

すなわち,$V$は和とスカラー倍に閉じているから$\R^n$の部分空間である.

このこの線形結合によって表される部分空間は重要な部分空間で,生成される部分空間などと呼ばれます.

$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r\in\R^n$とする.このとき,$\R^n$の部分空間

\begin{align*} V=\set{c_1\m{a}_1+\dots+c_r\m{a}_r}{c_1,\dots,c_r\in\R} \end{align*}

は$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$によって張られる部分空間 (span)または生成される部分空間 (generated space)といい,$\spn{(\m{a}_1,\dots,\m{a}_r)}$などと表す.

つまり,$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$の線形結合で表されるベクトル全部からなる部分空間を$\spn{(\m{a}_1,\dots,\m{a}_r)}$と表すわけですね.

基底

$V=\spn{(\m{a}_1,\dots,\m{a}_r)}$とし,$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$が線形独立であるとします.

このとき,$\m{a}\in V$を$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$の線形結合で表す方法は1通りしかありません.

実際,$\m{a}$が

  • $\m{a}=c_1\m{a}_1+\dots+c_r\m{a}_r$
  • $\m{a}=d_1\m{a}_1+\dots+d_r\m{a}_r$

と2通りで表せたとすると,

\begin{align*} &c_1\m{a}_1+\dots+c_r\m{a}_r=d_1\m{a}_1+\dots+d_r\m{a}_r \\\iff&(c_1-d_1)\m{a}_1+\dots+(c_r-d_r)\m{a}_r=\m{0} \end{align*}

となるので,$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$の線形独立性から$c_p-d_p=0$つまり$c_p=d_p$が成り立ちますね($p=1,\dots,r$).

なお,線形独立性については以前の記事を参照してください.

ここで,部分空間の基底を定義しましょう.

$\R^n$の部分空間$V$に対して

  • $V=\spn{(\m{a}_1,\dots,\m{a}_r)}$
  • $\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$が線形独立

を満たす$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r\in\R^n$が存在するとき,組$\anb{\m{a}_1,\dots,\m{a}_r}$を$V$の基底という.

1つ目の条件は「$V$の全てのベクトルを$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$で表せ,かつ$V$以外のベクトルは表せない」ということを述べており,さらに2つ目の条件で「その表し方が一意に定まる」ということを述べているわけですね.

基底は「組」なので順番が変わると異なる基底と考えます.例えば,$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2}$が基底であるとき,$\anb{\m{a}_2,\m{a}_1}$も基底ですが,これらは異なる基底とみなします.

例1

$\m{e}_r\in\R^n$を第$r$成分が1で,他の成分が全て0であるベクトルとする.

このとき,$\anb{\m{e}_1,\dots,\m{e}_n}$が$\R^n$の基底であることを示せ.


[1] もとより$\R^n\supset\spn{(\m{e}_1,\dots,\m{e}_n)}$である.また,任意の$\m{a}=\bmat{a_1\\\vdots\\a_n}\in\R^n$は

\begin{align*} \m{a}=a_1\m{e}_1+\dots+a_n\m{e}_n \end{align*}

なので,$\R^n\subset\spn{(\m{e}_1,\dots,\m{e}_n)}$である.よって,$\R^n=\spn{(\m{e}_1,\dots,\m{e}_n)}$である.

[2] $\rank{[\m{e}_1,\dots,\m{e}_n]}=n$だから,$\m{e}_1,\dots,\m{e}_n$は線形独立である.

[1], [2]より$\anb{\m{e}_1,\dots,\m{e}_n}$は$\R^n$の基底である.

この基底$\anb{\m{e}_1,\dots,\m{e}_n}$を$\R^n$の標準基底といいます.

例2

$\m{a}_1,\m{a}_2\in\R^3$を

\begin{align*} \m{a}_1:=\bmat{1\\2\\3},\quad \m{a}_2:=\bmat{-2\\0\\1} \end{align*}

とすると,$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2}$が$V=\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2)}$の基底であることを示せ.


$V=\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2)}$は分かっているから,あとは$\m{a}_1,\m{a}_2$の線形独立性を示せばよい.

行基本変形より

\begin{align*} [\m{a}_1,\m{a}_2] =\bmat{1&-2\\2&0\\3&1} \to\bmat{1&-2\\0&4\\0&7} \end{align*}

だから,$\rank{[\m{a}_1,\m{a}_2]}=2$なので,$\m{a}_1,\m{a}_2$は線形独立である.

以上より$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2}$は$V$の基底である.

例3

$\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3\in\R^3$を

\begin{align*} \m{a}_1:=\bmat{1\\2\\3},\quad \m{a}_2:=\bmat{-2\\0\\1},\quad \m{a}_3:=\bmat{0\\1\\-1} \end{align*}

とすると,$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3}$が$\R^3$の基底であることを示せ.


[1] $A:=[\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3]$とおくと,$A$の行列式は

\begin{align*} |A|=(-6+0+0)-(4+1+0)=-11\neq0 \end{align*}

だから,$\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3$は線形独立である.

[$\R^3$が生成されること]

もとより$\R^n\supset\spn{(\m{e}_1,\dots,\m{e}_n)}$である.

また,$|A|\neq0$より任意の$\m{a}\in\R^n$に対して連立方程式$A\m{x}=\m{a}$の解が存在するので,$\m{a}$は$\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3$の線形結合で表せる.すなわち,$\R^3\subset\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3)}$となる.

よって,$\R^3=\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3)}$が成り立つ.

[1], [2]より$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3}$は$\R^n$の基底である.

例1で$n=3$とすると,$\anb{\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3}$が$\R^3$の基底であることが分かります.

このことと例3を併せると,同じ空間であっても全く別のベクトルからなる基底が存在することが分かりますね.

部分空間の同型と次元

部分空間の例2で見たように

\begin{align*} V=\set{s\bmat{1\\0\\0}+t\bmat{0\\1\\0}}{s,t\in\R} \end{align*}

は$\R^3$の部分空間で,$\R^3$を$xyz$空間とみれば$V$は$xy$平面となります.よって,$V$は$\R^2$と同一視できることが分かります.

このように,2つの部分空間が同一視できるとき同型であるといいます.

また,基底の例1と例3でみたように$\R^3$の基底として$\anb{\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3}$や$\anb{\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3}$があるわけですが,実は1つの部分空間の基底をなすベクトルの個数は全て同じであることが証明できます.

この部分空間の基底をなすベクトルの個数を次元と言います.

次の記事では

  • 部分空間の同型
  • 部分空間の次元

を説明します.

参考文献

線型代数入門

[齋藤正彦 著/東京大学出版会]

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

発刊されてから本書の内容の流れが線形代数の教科書のスタンダードとなったほど,日本の線形代数の指導にインパクトを与えた名著です.

その証拠に,著者の齋藤正彦氏は本書で日本数学会出版賞を受賞しています.

「線形代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴です.

また,テキストのレベルとしては少なくとも理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたい程度のものとなっています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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