線形代数13
数ベクトル空間の部分空間の定義と具体例

$n$次列ベクトル全部の集合$\R^n$上では,和$\m{a}+\m{b}$とスカラー倍$k\m{a}$を考えてきました.例えば,$\R^2$上では

\begin{align*} \bmat{1\\2}+\bmat{3\\-3}=\bmat{4\\-1},\quad 3\bmat{2\\-1}=\bmat{6\\-3},\quad \end{align*}

ですね.ここで,集合$V=\set{t\bmat{1\\1}\in\R^2}{t\in\R}\subset\R^2$上で和とスカラー倍を考えましょう.

$V$はベクトル$\bmat{1\\1}$を実数倍してできるベクトルの集合なので,次のように図示できますね.

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さて,任意に$\m{a},\m{b}\in V$と$k\in\R$をとると,$\m{a}$も$\m{b}$も$\bmat{1\\1}$を実数倍してできるベクトルなので

  • $\m{a}+\m{b}$も$\bmat{1\\1}$を実数倍してできるベクトルとなって$\m{a}+\m{b}\in V$
  • $k\m{a}$も$\bmat{1\\1}$を実数倍してできるベクトルとなって$k\m{a}\in V$

となります.このように「$\R^n$の部分集合$V$の元のどんな和もスカラー倍も常に$V$に属する」とき,$V$を$\R^n$の部分空間といいます.

この記事では

  • $\R^n$の部分空間の定義
  • $\R^n$の部分空間の具体例
  • $\R^n$の部分空間の基本性質

を順に説明します.

なお,この記事では特に断らない限り実行列・実ベクトルを扱うことにしますが,複素行列など一般のを成分とする行列・ベクトルに対しても同様です.

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部分空間の定義と具体例

まずは部分空間がどのようなものか具体例を通して考えましょう.

部分空間の定義

冒頭で述べたように,$R^n$の部分空間を次で定義します.

[部分空間] $\R^n$の部分集合$V$が空でなく次の2条件を同時に満たすとき,$V$を$\R^n$の部分空間 (subspace)または線形部分空間 (linear subspace)という.

  • 任意の$\m{a},\m{b}\in V$に対して$\m{a}+\m{b}\in V$が成り立つ.
  • 任意の$k\in\R$, $\m{a}\in V$に対して$k\m{a}\in V$が成り立つ.

要は$V$の任意の元を和とスカラー倍で計算しても$V$の外に出ることがないということなので,この2つの条件をそれぞれ

  • $V$は和について閉じている
  • $V$はスカラー倍について閉じている

といいます.

実は一般に線形代数ではある性質を満たす集合を線形空間というものが定義され,例えば$\R^n$も線形空間の一種です.

そして,本来は線形空間の部分集合で線形空間の性質を満たす集合を部分空間と呼びます.

しかし,簡単のために,この一連の記事では一般の線形空間は扱わず,$\R^n$上の部分空間を上記のように定義して扱います(上の定義が本来の部分空間の定義と同値であることは証明できます).

部分空間の具体例

それでは,いくつか部分空間を紹介していきます.

例0

$\R^n$自身も零ベクトルのみからなる集合$\{\m{0}\}$も,$\R^n$の和についてもスカラー倍についても閉じているので,$\R^n$の部分集合です.

よって,$\R^n$も$\{\m{0}\}$も$\R^n$の部分空間です.

これら$\R^n$, $\{\m{0}\}$を$\R^n$の自明な部分空間 (trivial subspace)といいます.

例1

次に冒頭で挙げた集合$V$が部分空間であることを示しましょう.

定義通りに$V$が和とスカラー倍について閉じていることを示せばよいですね.

$\R^2$の部分集合

\begin{align*} V=\set{t\bmat{1\\1}\in\R^2}{t\in\R} \end{align*}

が$\R^2$の部分空間となることを示せ.

$V$は$\bmat{1\\1}$の実数倍のベクトルを全て集めてきた集合というわけですね.

$V$が$\R^2$の部分集合で空でないことは明らか.

[和について閉じていること] 任意に$\m{a}=t\bmat{1\\1},\m{b}=t’\bmat{1\\1}\in V$ ($t,t’\in\R$)をとる.このとき,

\begin{align*} \m{a}+\m{b}=t\bmat{1\\1}+t'\bmat{1\\1}=(t+t')\bmat{1\\1} \end{align*}

となる.これは$\bmat{1\\1}$の実数倍のベクトルなので$V$に属する.

すなわち,$\m{a}+\m{b}\in V$が成り立つ.

[スカラー倍について閉じていること] 任意に$\m{a}=t\bmat{1\\1}\in V$, $k\in\R$ ($t\in\R$)をとる.このとき,

\begin{align*} k\m{a}=k\bra{t\bmat{1\\1}}=(kt)\bmat{1\\1} \end{align*}

となる.これは$\bmat{1\\1}$の実数倍のベクトルなので$V$に属する.

よって,$V$は和とスカラー倍に閉じているから$\R^2$の部分空間である.

冒頭でも書いたように,$V$は$xy$平面上の$y=x$のグラフとして図示できますね.

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例2

次のような集合も例1と同様に部分空間になることが分かります.

$\R^3$の部分集合

\begin{align*} V=\set{\bmat{x\\y\\z}\in\R^3}{2x+y-z=0} \end{align*}

が$\R^3$の部分空間となることを示せ.

$V$は$2\times(\text{第$1$成分})+(\text{第$2$成分})-(\text{第$3$成分})=0$を満たすベクトルを全て集めてきた集合というわけですね.

$V$が$\R^3$の部分集合で空でないことは明らか.

[和について閉じていること] 任意に$\m{a}=\bmat{x\\y\\z},\m{b}=\bmat{x’\\y’\\z’}\in V$をとる.

このとき,$\m{a},\m{b}\in V$であることから$2x+y-z=0$と$2x’+y’-z’=0$を満たす.ここで,

\begin{align*} \m{a}+\m{b}=\bmat{x\\y\\z}+\bmat{x'\\y'\\z'}=\bmat{x+x'\\y+y'\\z+z'} \end{align*}

であり,

\begin{align*} 2(x+x')+(y+y')-(z+z') =(2x+y-z)+(2x'+y'-z') =0+0=0 \end{align*}

が成り立っている.よって,$\m{a}+\m{b}\in V$が成り立つ.

[スカラー倍について閉じていること] 任意に$\m{a}=\bmat{x\\y\\z}\in V$, $k\in\R$をとる.

このとき,$\m{a}\in V$であることから$2x+y-z=0$を満たす.ここで,

\begin{align*} k\m{a}=k\bmat{x\\y\\z}=\bmat{kx\\ky\\kz} \end{align*}

であり,

\begin{align*} 2(kx)+(ky)-(kz) =k(2x+y-z) =k\times0=0 \end{align*}

が成り立っている.これより$\m{a}+\m{b}\in V$が成り立つ.

よって,$V$は和とスカラー倍に閉じているから$\R^2$の部分空間である.

この解答を見ればわかるように,大切なことは「$V$に属するかどうかは『$2\times(\text{第$1$成分})+(\text{第$2$成分})-(\text{第$3$成分})=0$を満たすかどうか』を確認すれば良い」という点ですね.

幾何学的には$xyz$空間上の平面$2x+y-z=0$となります.

部分空間の基本性質

次に部分空間が満たす基本性質を紹介します.

基本性質

$V$を$\R^n$の部分空間とする.このとき,次が成り立つ.

  1. $\m{0}\in V$
  2. 任意の$\m{a},\m{b}\in V$, $k,\ell\in\R$に対して$k\m{a}+\ell\m{b}\in V$

(1) $V$は部分空間だからスカラー倍について閉じており,任意の$\m{a}\in V$に対して$\m{0}=0\m{a}\in V$が成り立つ.

(2) $V$は部分空間だからスカラー倍について閉じており$k\m{a},\ell\m{b}\in V$が成り立つ.

さらに,和についても閉じているから$k\m{a}+\ell\m{b}\in V$が成り立つ.

言葉で説明すれば

  • 1つ目の性質は「$V$は必ず零ベクトル$\m{0}$を持つ」
  • 2つ目の性質は「$V$に属する2つのベクトルをどのように伸ばして足し合わせても$V$の元である」

と言うことができますね.

このことから,$\R^n$の部分空間は直感的には

  • 原点を通り
  • 「真っ直ぐ」に伸びた空間

ということができますね.

実は$\R^n$の部分集合$V$に対して,

  • $V$が部分空間であること
  • 2つ目の性質が成り立つこと

は同値となります.そのため,教科書によってはこの命題の2つ目の性質を持って部分空間を特徴づけていることもあります.

例3

今の次に部分空間でない例を考えます.

$\R^2$の部分集合

\begin{align*} &V=\set{\bmat{t\\1+t}}{t\in\R}, \\&W=\set{\bmat{t\\t^2}}{t\in\R} \end{align*}

はともに$\R^2$の部分空間とはならないことを示せ.

これら$V, W$を図示すると下図のようになります.

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上の基本性質で説明したように$V$は$\m{0}$を元にもっていない時点で部分空間でないと分かります.

また,部分空間は和とスカラー倍で閉じているため「真っ直ぐ」な空間となっているはずで,$W$のように曲がっていると部分空間でないと分かります.

$\m{0}\notin V$だから,$V$は部分空間ではない.

$\bmat{1\\1},\bmat{-1\\1}\in W$であるが

\begin{align*} \bmat{1\\1}+\bmat{-1\\1}=\bmat{0\\2}\notin W \end{align*}

だから,$W$は和について閉じておらず$W$は部分空間ではない.

上の基本性質を当たり前にしておけば,直感的に部分空間かどうか判断できますね.

部分空間の基底

上の基本性質で説明したように,$\R^n$の部分空間は直感的には

  • 原点を通り
  • 「真っ直ぐ」に伸びた空間

ということができるのでした.

このことから,いくつかベクトルを用意すればそれらのスカラー倍と和で部分空間の全てベクトルを表せそうな気がします.

例えば,例1の

\begin{align*} V=\set{t\bmat{1\\1}\in\R^2}{t\in\R} \end{align*}

はもちろん$\bmat{1\\1}$のスカラー倍で$V$の全てのベクトルを表せますし,例2の

*** QuickLaTeX cannot compile formula:
\begin{align*}
V=\set{\bmat{x\\y\\z}\in\R^3}{\begin{alined}x,y,z\in\R2,\\2x+y-z=0\end{aligned}}
\end{align*}

*** Error message:
Environment alined undefined.
leading text: \end{align*}

は$2x+y-z=0$を満たすような点全部と考えれば平面ですから,ベクトルを2つ用意すれば$V$の全てのベクトルを表すことができそうです.

これについて,次の記事では部分空間の基底を説明します.

参考文献

以下は参考文献です.

手を動かしてまなぶ 線形代数

[藤岡敦 著/裳華房]

線形代数の入門書で,説明も非常に丁寧なので初学者にも読み進めやすい教科書です.

数学で初めて出会った概念で詰まった時には,具体例を考えることで理解できるようになることはよくあります.

特に線形代数は高校数学で扱ってきた数学よりも抽象度がやや増すので,いきなり抽象的に理解するよりも「具体例を理解→抽象化」という学び方が効果的です.

本書は具体例と例題が豊富で,実際に手を動かしながらイメージを掴んで抽象的に理解することを目指しています.

また,続巻も発行されていますが,この第1巻だけでも正方行列の対角化(固有値・固有ベクトル)まで学ぶことができます.

線型代数入門

[齋藤正彦 著/東京大学出版会]

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

発刊されてから本書の内容の流れが線形代数の教科書のスタンダードとなったほど,日本の線形代数の指導にインパクトを与えた名著です.

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「線形代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴です.

また,テキストのレベルとしては少なくとも理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたい程度のものとなっています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.