線形代数3|行列のランクと,行列が逆行列をもつための条件

0でない全ての実数は逆数を持ちますが,行列の場合は零行列でなくても正方行列が逆行列を持たないこともあります.

行列が逆行列を持つかどうかの判定する方法の1つに,行列のランクを求める方法があります.

行列のランクは前回の記事で考えた行列の基本変形に基づいて定義することができます.

この記事では行列の正則性(逆行列を持つかどうか)を調べることを目的としますが,ランクは行列を考える上で様々な場面に登場する大切な概念ですから,しっかり考え方を理解してください.

なお,この記事では実数$\R$を中心に説明しますが,複素数$\C$など一般の体に対しても同様です.

行列のランク

行列の「ランク」とよばれる概念を定義します.

簡約行列

まずは階段行列を定義します.

1つ下の行に移るにつれて左から0が増えていくような行列を階段行列といいます.例えば,

\begin{align*} &\bmat{1&2&3&4\\0&1&0&-2\\0&0&0&1},\quad \bmat{0&1&5&8\\0&0&-3&2\\0&0&0&0},\quad \bmat{4&0\\0&3\\0&0} \end{align*}

はいずれも階段行列です.

定義を書いておきますが,ここではどういうものか分かっていれば良いので,定義を真面目に追わなくても大丈夫でしょう..

[階段行列/主成分] $A=(a_{i,j})\in\Mat_{mn}(\R)$が階段形 (echelon form)または階段行列 (echelon matrix)であるとは,任意の$i\in\{1,\dots,m-1\}$に対して,次が成り立つことをいう.

  1. $a_{i,k}=0$ ($k=1,\dots,j$, $j<n$)なら,$a_{i+1,k}=0$ ($k=1,\dots,j+1$)である.
  2. $a_{i,k}=0$ ($k=1,\dots,n$)なら,$a_{i+1,k}=0$ ($k=1,\dots,n$)である.

また,階段行列において,零ベクトルでない行の0でない最も左の成分を,その行の主成分 (ピボット,pivot, pivot element)という.

また,各行の主成分が全て1であるような階段行列を簡約行列といいます.例えば,

\begin{align*} &\bmat{1&0&3&0\\0&1&0&0\\0&0&0&1},\quad \bmat{0&1&0&4\\0&0&1&2\\0&0&0&0},\quad \bmat{1&0\\0&1\\0&0} \end{align*}

はいずれも簡約行列です.

[簡約行列] 次を満たす階段行列を簡約行列 (reduced matrix)という.

  • 主成分は全て1である.
  • 主成分の存在する列において,主成分以外の成分はすべて0である.

この記事では,この簡約行列がキーとなります.

基本変形

前回の記事では行基本変形を説明しましたが,同様に列基本変形を定義することができます.

[基本変形] 行列について,

  • ある行を$k$倍する($k\neq0$)
  • ある行の$k$倍を別の行に加える
  • ある行と別の行を入れ替える

という3つの変形を併せて行基本変形という.また,「行」を「列」に読み替えてできる変形を列基本変形という.

行基本変形,列基本変形をまとめて基本変形という.

さて,先ほど定義した簡約行列と行基本変形について,次が成り立ちます.

行基本変形により,任意の行列は簡約行列に変形できる.

前回の記事で説明した掃き出し法の要領で考えれば,この命題が成り立つことは分かりますね.

例えば,行基本変形により

\begin{align*} \bmat{2&3&-2\\2&-2&8\\-3&0&-6} \to&\bmat{2&3&-2\\1&-1&4\\-3&0&-6} \to\bmat{2&3&-2\\1&-1&4\\-1&0&-2} \\\to&\bmat{1&-1&4\\2&3&-2\\-1&0&-2} \to\bmat{1&-1&4\\0&5&-10\\0&-1&2} \\\to&\bmat{1&-1&4\\0&1&-2\\0&-1&2} \to\bmat{1&-1&4\\0&1&-2\\0&0&0} \end{align*}

となります.

行列$A$を行基本変形により簡約行列$B$に変形することを簡約化 (reduction)という.また,行列$B$自体も$A$の簡約化という.

※数学では,ある$A$を特定の形の$B$に変形する「操作」をしばしば「〜化」といいますが,このとき「$B$自体」も「〜化」ということがよくあります.

よって,今の例より$\bmat{1&-1&4\\0&1&-2\\0&0&0}$は$\bmat{2&3&-2\\2&-2&8\\-3&0&-6}$の簡約化ですね.

行列のランク(階数)の定義

行列の簡約化は1通りには定まらず,簡約化を行うプロセスによって簡約行列は異なったものになり得ることに注意してください.

言い換えれば,行列を行基本変形によって簡約行列に変形するとき,基本変形のプロセスによっては異なる簡約行列になりうる.

しかし,実はどのような経過を辿っても,簡約化の0でない成分をもつ行の数は一定である.

このことは,上で定義した「主成分」という言葉を用いると,以下の定理のように述べることができる.

[簡約化] 行列の簡約化の主成分の個数は,簡約化によらず等しい.

この定理の証明には準備が必要なので,証明は後に回して,先に行列のランクを定義します.

行列$A$に対して,$A$に行基本変形を施して簡約行列$B$になったとする.

このとき,$B$の主成分の個数を$A$のランク (階数,rank)といい,$\rank{A}$や$\operatorname{rk}{A}$などと表す.

例えば,先ほどの例より,$\bmat{1&-1&4\\0&1&-2\\0&0&0}$は$\bmat{2&3&-2\\2&-2&8\\-3&0&-6}$の簡約化だったので,

\begin{align*} \rank{\bmat{2&3&-2\\2&-2&8\\-3&0&-6}} =\rank{\bmat{1&-1&4\\0&1&-2\\0&0&0}} =2 \end{align*}

となりますね.

なお,[簡約化]の定理から,この定義でどのような$B$になったとしても$B$の主成分の個数は同じなので,ランクは行基本変形の方法によらず一意に定まります.

このように,定義が適切であることを「well-definedである」といいますね.

well-definedについては,詳しくは以下の記事を参照してください.

行列の正則性の必要十分条件

行列のランクのような「1つの対象に固有なもの」を不変量 (invariant)といいますが,数学において不変量が重要な役割を果たすことはよくあります.

実際,ランクは線形代数において非常に大切で,例えば正方行列が正則(逆行列を持つ)かどうかの必要十分条件を与えることができます.

[正則性の必要十分条件] $A\in\Mat_{n}(\R)$について,次は同値である.

  1. $\rank{A}=n$を満たす.
  2. $A$は正則である.

このように,正方行列の正則性を考えるための条件として,行列のランクは非常に重要な役割を果たします.

この証明にも準備が必要なので,証明は後に回します.

基本変形と行列の積

それでは,先ほどの簡約化の主成分の個数が一定であることの証明の準備に移ります.

基本変形を引き起こす行列

行列$A:=\bmat{1&2&3\\4&5&6\\7&8&9\\10&11&12}$と,以下の行列を考えます.

\begin{align*} P_{34}:=\bmat{1&0&0&0\\0&1&0&0\\0&0&0&1\\0&0&1&0},\quad Q_{2}^{(3)}:=\bmat{1&0&0&0\\0&3&0&0\\0&0&1&0\\0&0&0&1},\quad R_{14}^{(2)}:=\bmat{1&0&0&2\\0&1&0&0\\0&0&1&0\\0&0&0&1} \end{align*}

このとき,単純な計算より

\begin{align*} P_{34}A=\bmat{1&2&3\\4&5&6\\10&11&12\\7&8&9},\quad Q_{2}^{(3)}A=\bmat{1&2&3\\12&15&18\\7&8&9\\10&11&12},\quad R_{14}^{(2)}A=\bmat{21&24&27\\4&5&6\\7&8&9\\10&11&12} \end{align*}

となります.すなわち,$A$に対して,

  • $P_{34}A$は第3行と第4行の入れ替えが,
  • $Q_{2}^{(3)}A$は第2行の3倍が,
  • $R_{14}^{(2)}A$は第1行に第4行の2倍の付け加え

が起こっています.

一般に,基本変形は以下のように行列をかけることによって引き起こすことができます.

$k\in\R$とし,$A\in\Mat_{n}(\R)$とする.また,

\begin{align*} &P_{ij}=[\m{e}_{1},\dots,\m{e}_{j},\dots,\m{e}_{i},\dots,\m{e}_{n}], \\&Q_{i}^{(k)}=[\m{e}_{1},\dots,k\m{e}_{i},\dots,\m{e}_{n}]\quad(k\neq0), \\&R_{ij}^{(k)}=[\m{e}_{1},\dots,\m{e}_{i}+k\m{e}_{j},\dots,\m{e}_{j},\dots,\m{e}_{n}] \end{align*}

とする.すなわち,

  • $P_{ij}$は$I$の第$i$列と第$j$列を入れ替えた行列
  • $Q_{i}^{(k)}$は単位行列$I$の第$i$列を$k\neq0$倍した行列
  • $R_{ij}^{(k)}$は$I$の第$i$列に第$j$列の$k\in\R$倍を加えた行列

である.このとき,

  1. $P_{ij}A$は$A$の第$i$行と第$j$行を入れ替えてできる行列
  2. $Q_{i}^{(k)}A$は$A$の第$i$行を$k\neq0$倍してできる行列
  3. $R_{ij}^{(k)}A$は$A$の第$i$行に$A$の第$j$行の$k$倍を加えてできる行列

となる.列基本変形については,「行」を「列」に読み替えて,$P_{ij}$, $Q_{i}^{(k)}$, $R_{ij}^{(k)}$を$A$に右からかければよい.

先ほどの例のように,実際に計算することによりこの命題は容易に証明できます.

かけて基本変形を引き起こすこれらの行列$P_{ij}$, $Q_{i}^{(k)}$, $R_{ij}^{(k)}$はいずれも正則です.

$P_{ij}$, $Q_{i}^{(k)}$, $R_{ij}^{(k)}$はいずれも正則で,それぞれ$P_{ij}$, $Q_{i}^{(1/k)}$, $R_{ij}^{(-k)}$が逆行列である.

これも上の命題を考えれば成り立つことがすぐに分かります.

正則性の条件

さて,ここで正則性の条件として重要なものを述べておきます.

$AB=I$かつ$BA=I$を満たすときに$A$(と$B$)は正則行列というのでしたが,実は$AB=I$と$BA=I$のいずれかが成り立てば,$AB=I$かつ$BA=I$が成り立ちます.

正方行列$A$に対して,$AB=I$または$BA=I$をみたす正方行列$B$が存在すれば,$A$は正則で$A^{-1}=B$である.

$A\in\Mat_{n}(\R)$とし,$AB=I$をみたす正方行列$B$が存在すれば$A$は正則であることを,$n$に関する数学的帰納法により示す.

[1] $n=1$のとき

$A=[a]$とすると,$AB=I$から$a\neq0$であり,$B=[a^{-1}]$である.

よって,$BA=[a^{-1}a]=[1]=I$が従う.

なお,$A=[a]$や$B=[a^{-1}]$は1行1列の行列表示である.

[2] $n=k$のときに定理が成り立つと仮定し,$A, B\in\Mat_{k+1}(\R)$は$AB=I$を満たすとする.

もし$A$の第1行の成分が全て0なら積$AB$の$(1,1)$成分が0となって$AB=I$とは成り得ないから,$A$の第1行には0でない成分$a$が存在する.

よって,$A$に列基本変形を施して,$(1,1)$成分が0でない行列$A_{1}$に変形できる:

\begin{align*} A:=\bmat{*&\dots&*&a&*&\dots&*\\ *&\dots&*&*&*&\dots&*\\ \vdots&\ddots&\vdots&\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\ *&\dots&*&*&*&\dots&*} \to A_1:=\bmat{a&*&\dots&*\\ *&*&\dots&*\\ \vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\ *&*&\dots&*}. \end{align*}

さらに,$A_{1}$に行基本変形と列基本変形を施して,第1行と第1列の$(1,1)$を除く全ての成分が0であるような行列$A_{2}$に変形できる:

\begin{align*} A_1 \to A_2:=\bmat{a&0&\dots&0\\ 0&*&\dots&*\\ \vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\ 0&*&\dots&*}. \end{align*}

行基本変形と列基本変形で$A$が$A_{2}$に変形されたから,$XAY=A_{2}$となる正則行列$X$, $Y$が存在する($X$, $Y$は上で定めた$P_{ij}$, $Q_{i}^{(k)}$, $R_{ij}^{(k)}$の積となっている).

ここで,$A_{2}$, $Y^{-1}BX^{-1}$を

\begin{align*} A_{2}=\bmat{a&\m{0}^{T}\\\m{0}&A_{3}},\quad Y^{-1}BX^{-1}=\bmat{x&\m{y}^{T}\\\m{z}&B'} \end{align*}

とおく.$XX^{-1}=YY^{-1}=AB=I$だから,

\begin{align*} \bmat{ax&a\m{y}^{T}\\A_{3}\m{z}&A_{3}B'} =&\bmat{a&\m{0}^{T}\\\m{0}&A_{3}}\bmat{x&\m{y}^{T}\\\m{z}&B'} \\=&A_{2}(Y^{-1}BX^{-1}) \\=&(XAY)(Y^{-1}BX^{-1}) \\=&I_{k+1} \end{align*}

だから,

\begin{align*} ax=1,\quad a\m{y}^{T}=\m{0}^{T},\quad A_{3}\m{z}=\m{0},\quad A_{3}B'=I_{k} \end{align*}

が成り立つ.よって,

  • $A_{3}B’=I_{k}$と帰納法の仮定を併せて,$A_{3}$は正則で逆行列$B’$をもち,
  • $a\neq0$だから$a\m{y}^{T}=\m{0}^{T}$より$\m{y}=\m{0}$が成り立ち,
  • ${A_{3}}^{-1}$を$A_{3}\m{z}=\m{0}$の両辺に左からかけて$\m{z}=\m{0}$が成り立つ.

これより,$Y^{-1}BX^{-1}=\bmat{x&\m{0}^{T}\\\m{0}&B’}$となるから,

\begin{align*} AB =&(X^{-1}A_2Y^{-1})\bra{Y\bmat{x&\m{0}^{T}\\\m{0}&B'}X} \\=&X^{-1}\bmat{a&\m{0}^{T}\\\m{0}&A_{3}}\bmat{x&\m{0}^{T}\\\m{0}&B'}X \\=&X^{-1}\bmat{ax&\m{0}^{T}\\\m{0}&A_{3}B'}X \\=&X^{-1}I_{k+1}X =X^{-1}X =I_{k+1}, \\BA =&\bra{Y\bmat{x&\m{0}^{T}\\\m{0}&B'}X}(X^{-1}A_2Y^{-1}) \\=&Y\bmat{x&\m{0}^{T}\\\m{0}&B'}\bmat{a&\m{0}^{T}\\\m{0}&A_{3}}Y^{-1} \\=&Y\bmat{ax&\m{0}^{T}\\\m{0}&B'A_{3}}Y^{-1} \\=&YI_{k+1}Y^{-1} =YY^{-1} =I_{k+1} \end{align*}

が成り立つ.よって,$A$は正則で,$A^{-1}=B$である.

簡約化の定理の証明

それでは先程述べた以下の定理を証明します.

[簡約化(再掲)] 行列の簡約化の主成分の個数は,簡約化によらず等しい.

背理法により示す.すなわち,行列$A\in\Mat_{mn}(\R)$を行基本変形して,

  • 主成分を$r$個もつ簡約行列$B=[\m{b}_{1},\dots,\m{b}_{n}]$
  • 主成分を$s$個もつ簡約行列$C=[\m{c}_{1},\dots,\m{c}_{n}]$

のどちらにもなり得るとして矛盾を導く($s<r$).

このとき,任意の$k\in\{1,\dots,n\}$に対して,$\m{b}_{k}$の第$r+1$成分以下は全て0であり,$\m{c}_{k}$の第$s+1$成分以下は全て0であることに注意する.

さらに,$B$の主成分以外の成分がすべて0になるように列基本変形を施してできる行列を$B_{1}$とする.

また,同様に$C$の主成分が存在する列$\m{e}_{\ell}$ ($\ell=1,\dots,s$)が第$\ell$列になるように列基本変形を施し,主成分以外の成分がすべて0になるように列基本変形を施してできる行列を$C_{1}$とする.

このとき,

\begin{align*} B_{1}=\bmat{I_{r}&O\\O&O},\quad C_{1}=\bmat{I_{s}&O\\O&O} \end{align*}

である.

行基本変形$A\to B$, $A\to C$を引き起こす行列をそれぞれ$S$, $T$とし,列基本変形$B\to B_{1}$, $C\to C_{1}$を引き起こす行列をそれぞれ$S’$, $T’$とすると,$SA=B$, $TA=C$, $BS’=B_{1}$, $CT’=C_{1}$が成り立つ.

$S$, $T$, $S’$, $T’$はいずれも正則なので,$A=S^{-1}B$, $A=T^{-1}C$, $B=B_{1}S’^{-1}$, $C=C_{1}T’^{-1}$だから,

\begin{align*} &S^{-1}B_{1}S'^{-1}=T^{-1}C_{1}T'^{-1} \\\iff&TS^{-1}B_{1}S'^{-1}T'=C_{1} \end{align*}

を得る.

このとき,$TS^{-1}$, $S’^{-1}T’$, $B_{1}$, $C_{1}$を

\begin{align*} TS^{-1}=\bmat{U_{1}&U_{2}\\U_{3}&U_{4}},\quad S'^{-1}T'=\bmat{U'_{1}&U'_{2}\\U'_{3}&U'_{4}},\quad U_{1},U'_{1}\in\Mat_{r}(\R) \end{align*}

となるように適当な行列$U_{k}$, $U’_{k}$ ($k=1,\dots,4$)で表すと,

\begin{align*} C_{1} =&TS^{-1}B_{1}S'^{-1}T' \\=&\bmat{U_{1}&O\\U_{3}&O}\bmat{U'_{1}&U'_{2}\\U'_{3}&U'_{4}} \\=&\bmat{U_{1}U'_{1}&U_{1}U'_{2}\\U_{3}U'_{1}&U_{3}U'_{2}} \end{align*}

となる.よって,

\begin{align*} I_{r}=U_{1}U'_{1},\quad O=U_{1}U'_{2},\quad O=U_{3}U'_{1} \end{align*}

が成り立つ.$U’_{1}$は正則となるから,${U’_{1}}^{-1}$を$O=U_{3}U’_{1}$の両辺に右からかけて$U_{3}=O$を得る.

よって,

  • $C_{1}$の第$r+1$行以降の成分はすべて0となるが,
  • $C_{1}$の$(r+1,r+1)$成分は1

だから矛盾する.

正則性の条件の証明

それでは,先ほどの正則性の条件の定理を証明します.

[正則性の必要十分条件(再掲)] $A\in\Mat_{n}(\R)$について,次は同値である.

  1. $\rank{A}=n$を満たす.
  2. $A$は正則である.

[$1\Ra2$] $\rank{A}=n$なら,$A$が$n$列であることと併せて$A$の簡約化は$I$である.

よって,行基本変形でこの簡約化を引き起こす正則行列$P$が存在して$PA=I$となるから,$A$は正則である.

[$2\Ra1$] $A$の簡約化を$B$とし,この行基本変形を引き起こす正則行列$P$が存在して$PA=B$が成り立ち,$\rank{A}=\rank{B}$が成り立つ.

$A$が正則なら$P$の正則性と併せて$B$も正則だから,$B$は正則である.

よって,$B$に主成分をもたない行が存在しないから,$\rank{A}=\rank{B}=n$が従う(なお,このとき$B=I$である).

逆行列の求め方

この証明の[$2\Ra1$]の過程から,以下のように具体的な逆行列の求め方が得られます.

$A\in\Mat_{n}(\R)$を正則行列とする.行列$[A,I]$の簡約化が$[I,B]$であれば,$A$は正則で$B=A^{-1}$である.

行基本変形$[A,I]\to[I,B]$を引き起こす正則行列を$P$とすると,$[PA,PI]=[I,B]$が成り立つから$PA=I$かつ$P=B$である.

よって,$BA=I$が成り立つから,$A$は正則で$B=A^{-1}$である.

例えば,$A:=\bmat{1&2&1\\0&2&3\\1&2&2}$とすると,行基本変形により

\begin{align*} [A,I] =&\bmat{1&2&1&1&0&0\\0&2&3&0&1&0\\1&2&2&0&0&1} \to\bmat{1&2&1&1&0&0\\0&2&3&0&1&0\\0&0&1&-1&0&1} \\\to&\bmat{1&2&0&2&0&-1\\0&2&0&3&1&-3\\0&0&1&-1&0&1} \to\bmat{1&0&0&-1&-1&2\\0&2&0&3&1&-3\\0&0&1&-1&0&1} \\\to&\bmat{1&0&0&-1&-1&2\\0&1&0&3/2&1/2&-3/2\\0&0&1&-1&0&1} \end{align*}

となるので,

\begin{align*} A^{-1} =\bmat{-1&-1&2\\3/2&1/2&-3/2\\-1&0&1} =\frac{1}{2}\bmat{-2&-2&4\\3&1&-3\\-2&0&2} \end{align*}

ですね.

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