線形代数2|連立1次方程式の掃き出し法と行列の基本変形

たとえば

\begin{align*} \begin{cases}x+y+z=2\\x+2y+3z=4\end{cases} \end{align*}

のように,いくつかの1次方程式を同時に満たす複数の未知数に関する方程式を連立1次方程式といいます.

中学以来扱ってきたように連立1次方程式の基本解法として加減法がありますが,加減法は行列を考えることによって本質的に全く同じことができ,この行列を用いた解法を掃き出し法といいます.

加減法が分かっていれば掃き出し法は簡単に理解できる解法ですが,線形代数の理論は掃き出し法がベースにあるといってもよいくらい掃き出し法は重要な考え方です.

この記事では

  • 連立1次方程式を行列とベクトルで表す方法
  • 掃き出し法

を説明します.

なお,この記事では実数$\R$を中心に説明しますが,複素数$\C$など一般のに対しても同様です.

連立1次方程式

連立1次方程式は線形代数の理論と関わりが深い,というより連立1次方程式の理論は線形代数の重要な基盤であると言っても言い過ぎではないでしょう.

方程式の解

念のため,まずは「方程式の解」の定義を明示しておきます.

$x_{1},\dots,x_{n}$の方程式$f(x_{1},\dots,x_{n})=0$に対して,

\begin{align*} f(\alpha_{1},\dots,\alpha_{n})=0 \end{align*}

が成り立つとき,$(x_{1},\dots,x_{n})=(\alpha_{1},\dots,\alpha_{n})$を方程式$f(x_{1},\dots,x_{n})=0$のといい,方程式の解を全て求めることを,方程式を解くという.

また,$\m{x}=\bmat{x_{1}\\\vdots\\x_{n}}$とするとき,$x_{1},\dots,x_{n}$の方程式のことを$\m{x}$の方程式ともいう.

要するに,代入して成り立つものが方程式の解なわけですね.

連立1次方程式

$\m{x}\in\R^n$の1次方程式の連立方程式を$\m{x}$の連立1次方程式といいます.

単一の1次方程式も1個の1次方程式の連立方程式とみなせば,たとえば

\begin{align*} \begin{cases} x+y+z=2\\ 3x-2y+2z=4\\ 2x-3y+z=2\\ x+2y-5=2 \end{cases},\quad \begin{cases} x+y+z=2\\ 2x+2y+2z=5 \end{cases},\quad x+y+2z=0 \end{align*}

はいずれも$\m{x}=\bmat{x\\y\\z}$の連立1次方程式ですね.

このように,

  • (未知数の個数) < (連立している方程式の個数)
  • (未知数の個数) > (連立している方程式の個数)

のいずれの場合もありえます.

ベクトルと行列を用いた連立方程式の表し方

$x$, $y$, $z$に関する連立方程式

\begin{align*} \begin{cases} x+2y+3z=6\\ 4x+5y+6z=9\\ 7x+8y+9z=12 \end{cases} \end{align*}

\begin{align*} x\bmat{1\\4\\7}+y\bmat{2\\5\\8}+z\bmat{3\\6\\9}=\m{c} \end{align*}

ベクトルの和として表せますね.さらに,$A=\bmat{1&2&3\\4&5&6\\7&8&9}$, $\m{x}=\bmat{x\\y\\z}$とすると,連立方程式は

\begin{align*} A\m{x}=\m{c} \end{align*}

行列を用いても表せます.

これを一般化すると,$A=(a_{ij})=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]\in\Mat_{mn}(\R)$と$\m{c}=\bmat{c_{1}\\\vdots\\c_{m}}\in\R^{m}$に対し,$A\m{x}=\m{c}$は$\m{x}=[x_{1},\dots,x_{n}]^{T}$に関する$m$元連立1次方程式ということになります(方程式は$n$個):

\begin{align*} &\begin{cases} a_{11}x_1+\dots+a_{1n}x_n=c_{1}\\ \hspace{3em}\vdots\\ a_{m1}x_1+\dots+a_{mn}x_n=c_{m} \end{cases} \\\iff& x_1\m{a}_1+\dots+x_n\m{a}_n=\m{c} \\\iff& A\m{x}=\m{c} \end{align*}

これについて,以下のように定義します.

$A\in\Mat_{mn}(\R)$と$\m{c}\in\R^{m}$に対し,$A$, $[A,\m{c}]$をそれぞれ連立方程式$A\m{x}=\m{c}$の係数行列 (coefficient matrix)拡大係数行列 (enlarged coefficient matrix)という.

例えば,$A=\bmat{1&2&3\\4&5&6}$, $\m{c}=\bmat{7\\8}$に対し,$\m{x}=\bmat{x\\y\\z}$の連立方程式$A\m{x}=\m{c}$は

\begin{align*} &\bmat{1&2&3\\4&5&6}\bmat{x\\y\\z}=\bmat{7\\8} \\\iff&\begin{cases} x+2y+3z=7\\ 4x+5y+6z=8 \end{cases} \end{align*}

で,この係数行列,拡大係数行列はそれぞれ

\begin{align*} A=\bmat{1&2&3\\4&5&6},\quad [A,\m{c}]=\bmat{1&2&3&7\\4&5&6&8} \end{align*}

ですね.

行列の基本変形

行列の重要な変形に基本変形というものがあります.

基本変形は連立1次方程式の加減法と密接に関わっているので,念のため加減法を復習しましょう.

連立方程式の加減法

連立方程式

\begin{align*} \begin{cases} 2x+3y=8\\ x+2y=5 \end{cases} \end{align*}

は,たとえば以下のように加減法により解くことができます.

\begin{align*} \left\{\begin{matrix} 2x&+&3y&=&8\\ x&+&2y&=&5 \end{matrix}\right. \iff& \left\{\begin{matrix} x&+&2y&=&5\\ 2x&+&3y&=&8 \end{matrix}\right. \\\iff& \left\{\begin{matrix} x&+&2y&=&5\\ &-&y&=&-2 \end{matrix}\right. \\\iff& \left\{\begin{matrix} x&&&=&1\\ &-&y&=&-2 \end{matrix}\right. \\\iff& \left\{\begin{matrix} x&&&=&1\\ &&y&=&2 \end{matrix}\right. \end{align*}

この加減法を一般化して,加減法とは以下のようにいうことができます.

連立1次方程式について,

  1. ある等式を$k$倍する($k\neq0$)
  2. ある等式の$k$倍を別の等式に加える
  3. ある等式と別の等式の順番を入れ替える

という3つの操作を繰り返すことによって解を求める手続きを加減法という.

基本変形

結局,連立1次方程式の加減法は係数だけを見ていれば良いことに気が付きます.

つまり,いまみた加減法は以下のように拡大係数行列$\bmat{2&3&8\\1&2&5}$の変形と対応しています.

\begin{align*} &\left\{\begin{matrix} 2x&+&3y&=&8\\ x&+&2y&=&5 \end{matrix}\right. &\leftrightarrow&&\bmat{2&3&8\\1&2&5} \\\iff& \left\{\begin{matrix} x&+&2y&=&5\\ 2x&+&3y&=&8 \end{matrix}\right. &\leftrightarrow&&\bmat{1&2&5\\2&3&8} \\\iff& \left\{\begin{matrix} x&+&2y&=&5\\ &-&y&=&-2 \end{matrix}\right. &\leftrightarrow&&\bmat{1&2&5\\0&-1&-2} \\\iff& \left\{\begin{matrix} x&&&=&1\\ &-&y&=&-2 \end{matrix}\right. &\leftrightarrow&&\bmat{1&0&1\\0&-1&-2} \\\iff&\left\{\begin{matrix} x&&&=&1\\ &&y&=&2 \end{matrix}\right. &\leftrightarrow&&\bmat{1&0&1\\0&1&2} \end{align*}

この連立1次方程式の加減法に対応する行列の変形を行基本変形といいます.つまり,行列の基本変形を以下のように定義します.

行列について,

  1. ある行を$k$倍する($k\neq0$)
  2. ある行の$k$倍を別の行に加える
  3. ある行と別の行を入れ替える

という3つの変形を併せて行基本変形という.

掃き出し法

拡大係数行列の行基本変形によって連立1次方程式を解く方法を掃き出し法といいます.

掃き出し法で考える際には,元の連立1次方程式とどのように対応しているかを考えることが重要です.

たとえば,連立方程式$\begin{cases}x+2y+z=3\\3x+4y+5z=3\end{cases}$の拡大係数行列は$\bmat{1&2&1&3\\3&4&5&3}$なので,行基本変形により

\begin{align*} \bmat{1&2&1&3\\3&4&5&3} \to&\bmat{1&2&1&3\\0&-2&2&-6} \\\to&\bmat{1&2&1&3\\0&1&-1&3} \\\to&\bmat{1&0&3&-3\\0&1&-1&3} \end{align*}

だから,

\begin{align*} \begin{cases} x+2y+z=3\\ 3x+4y+5z=3 \end{cases} \iff \begin{cases} x+3z=-3\\ y-z=3 \end{cases} \end{align*}

となり,解は$(x,y,z)=(-3-3c,3+c,c)$と表せます.ただし,$c$は任意定数です.

任意定数

今の例で任意定数が登場したので,その考え方を説明しておきます.

連立方程式を変形してできた

\begin{align*} \begin{cases}x+3z=-3\\y-z=3\end{cases} \end{align*}

から,たとえば

  • $z=0$なら$x=-3$, $y=3$
  • $z=1$なら$x=-6$, $y=4$
  • $z=2$なら$x=-9$, $y=5$

のように,$z$の値を決めれば$x$と$y$の値も決まります.

このように,$z=c$とおいて得られる解$x=-3-3c$, $y=3+c$は全ての解となります.これが任意定数の意味です.

なお,任意定数については,のちの記事でも詳しく説明します.

正則行列

前回の記事で定義したように,実数でいう「逆数」に相当する行列を逆行列というのでした.

$n$次正方行列$A$に対し

\begin{align*} AB=BA=I \end{align*}

をみたす$n$次正方行列$B$が存在するとき,$B$は$A$の逆行列 (inverse matrix)であるといい,$B$を$A^{-1}$と表す.また,逆行列をもつ行列は正則 (regular)であるという.

行列の積では交換法則が成り立ちませんから,定義に則れば$AB=I$と$BA=I$の両方を示さなければ正則であるとは言えません.

しかし,実は$AB=I$または$BA=I$のどちらか一方が成り立てば,他方も自動的に成り立ち$A$が正則となることを証明することができます.

この証明のためには,行列の積を用いた行列の基本変形の考え方が重要となります.

次の記事では,行列の基本変形を説明し,この正方行列$A$が正則であるためには$AB=I$または$BA=I$が成り立てば十分であることを証明します.

参考文献

線型代数入門

[齋藤正彦 著/東京大学出版会]

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

発刊されてから本書の内容の流れが線形代数の教科書のスタンダードとなったほど,日本の線形代数の指導にインパクトを与えた名著です.

その証拠に,著者の齋藤正彦氏は本書で日本数学会出版賞を受賞しています.

「線形代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴です.

また,テキストのレベルとしては少なくとも理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたい程度のものとなっています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

最後までありがとうございました!

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