線形代数10|[余因子展開]と[行列式による正則条件]を解説

前回の記事行列式を定義しました.

行列式を用いることで正方行列が正則であるかどうかの判定ができ,行列式は線形代数では非常に重要な道具となっています.

結論から言えば

  • $|A|\neq0$
  • $A$が正則であること

が同値となります.

この記事では,

  • 余因子展開
  • 行列式による正則条件

を順に説明します.

なお,この記事では実数$\R$を中心に説明しますが,複素数$\C$など一般のに対しても同様です.

余因子

冒頭で書いた行列式による正則条件が$|A|\neq0$であることを証明するには余因子を説明する必要があります.

余因子

それでは,行列式により正則性(逆行列をもつかどうか)を判定できることを説明しますが,そのために余因子を説明する必要があります.

$A\in\Mat_{n}(\R)$に対して,$A$の第$i$行と第$j$列を取り除いてできる${n-1}$次行列の行列式を$(i,j)$小行列式 (minor determinant)といい,$(i,j)$小行列式に$(-1)^{i+j}$をかけたものを$(i,j)$余因子 (cofactor)という.

この記事では,行列$A=(a_{ij})$の$(i,j)$余因子を$a_{ij}^{*}$と表します.

例えば,$A=\bmat{1&2&3\\4&5&6\\7&8&9}$に対して

\begin{align*} &a_{12}^{*} =(-1)^{1+2}\vmat{4&6\\7&9} =6, \\&a_{33}^{*} =(-1)^{3+3}\vmat{1&2\\4&5} =-3 \end{align*}

ですね.

$A\in\Mat_{n}(\R)$に対して,$A$の$(i,j)$余因子$a_{ij}^{*}$は$A$の第$j$列を$\m{e}_{i}$に置き換えてできる行列の行列式に等しい:

\begin{align*} a_{ij}^{*}=|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{j-1},\m{e}_{i},\m{a}_{j+1},\dots,\m{a}_{n}| \end{align*}


行列$[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{j-1},\m{e}_{i},\m{a}_{j+1},\dots,\m{a}_{n}]$を

\begin{align*} [\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{j-1},\m{e}_{i},\m{a}_{j+1},\dots,\m{a}_{n}] =\bmat{A_{1}&\m{0}&A_{2}\\\m{p}&1&\m{q}\\A_{1}&\m{0}&A_{2}} \end{align*}

とおく.

$\sigma,\tau\in S_{n}$を巡回置換$\sigma:=(1,\dots,j)$, $\tau:=(1,\dots,i)$とすると

\begin{align*} \vmat{A_{1}&\m{0}&A_{2}\\\m{p}&1&\m{q}\\A_{1}&\m{0}&A_{2}} =&\sgn{\sigma}\vmat{\m{0}&A_{1}&A_{2}\\1&\m{p}&\m{q}\\\m{0}&A_{1}&A_{2}} =\sgn{\sigma}\sgn{\tau}\vmat{1&\m{p}&\m{q}\\\m{0}&A_{1}&A_{2}\\\m{0}&A_{1}&A_{2}} \\=&(-1)^{i+j-2}\vmat{A_{1}&A_{2}\\A_{1}&A_{2}} =(-1)^{i+j}\vmat{A_{1}&A_{2}\\A_{1}&A_{2}} =a_{ij}^{*} \end{align*}

を得る.

余因子展開

次の命題は余因子展開 (cofactor expansion)とよばれ,理論上非常に有用です.

[余因子展開] $A=(a_{ij})\in\Mat_{n}(\R)$の行列式は,任意の$j=1,2,\dots,n$に対して,以下が成り立つ.

\begin{align*} |A|=\sum_{i=1}^{n}a_{ij}a_{ij}^{*}\bra{=a_{1j}a_{1j}^{*}+\dots+a_{nj}a_{nj}^{*}} \end{align*}


$A=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]$とすると,行列式の線形性と補題より

\begin{align*} |A| =&\abs{\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{j-1},\sum_{i=1}^{n}a_{ij}\m{e}_{i},\m{a}_{j+1},\dots,\m{a}_{n}} \\=&\sum_{i=1}^{n}a_{ij}\abs{\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{j-1},\m{e}_{i},\m{a}_{j+1},\dots,\m{a}_{n}} \\=&\sum_{i=1}^{n}a_{ij}a_{ij}^{*} \end{align*}

を得る.

例えば,$A=(a_{ij})=\bmat{1&2&3\\4&5&6\\7&8&9}$に対して

\begin{align*} |A|=&a_{11}a_{11}^{*}+a_{21}a_{21}^{*}+a_{31}a_{31}^{*} \\=&1\cdot(-1)^{1+1}\vmat{5&6\\8&9}+4\cdot(-1)^{2+1}\vmat{2&3\\8&9}+7\cdot(-1)^{3+1}\vmat{2&3\\5&6} \\=&1\cdot(-1)^{2}\cdot(-3)+4\cdot(-1)^{3}\cdot(-6)+7\cdot(-1)^{4}\cdot(-3) \\=&-3+24-21=0 \end{align*}

と余因子展開から行列式$|A|$が計算できるわけですね.

余因子展開は理論上では非常に重要ですが,実際に行列式を計算する際には前回の記事で説明した基本変形による基本的な方法が便利でしょう.

行列式と逆行列

さて,余因子を用いることで,次ののように正則行列の逆行列を与えることができます.

$A\in\Mat_{n}(\R)$に対して,次は同値である.

  1. $A$は正則である.
  2. $|A|\neq0$が成り立つ.

さらに,これらの少なくとも一方,すなわち両方をみたすとき,以下が成り立つ.

\begin{align*} A^{-1}=\frac{1}{|A|}\bmat{a_{11}^{*}&\dots&a_{n1}^{*}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{1n}^{*}&\dots&a_{nn}^{*}} \end{align*}


$A$が正則であることと$\rank{A}=n$は同値で,これは$A$の簡約化が$I$であることと同値である.

行列式が0なら行基本変形を施しても行列式は0であるし,行列式が非0なら行基本変形を施しても行列式は非0であるから$(1)\iff(2)$が成り立つ.

また,$A=(a_{ij})=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]$, $B:=\bmat{a_{11}^{*}&\dots&a_{n1}^{*}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{1n}^{*}&\dots&a_{nn}^{*}}$とすると,積$BA$の第$(i,j)$成分は

\begin{align*} \sum_{k=1}^{n}a_{kj}a_{ki}^{*} =&\sum_{k=1}^{n}a_{kj}|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i-1},\m{e}_{k},\m{a}_{i-1},\m{a}_{n}| \\=&\abs{\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i-1},\sum_{k=1}^{n}a_{kj}\m{e}_{k},\m{a}_{i-1},\m{a}_{n}} \\=&\abs{\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i-1},\m{a}_{j},\m{a}_{i-1},\m{a}_{n}} \end{align*}

である.

これは

  • $i\neq j$のときは,第$i$列と第$j$列が等しいから交代性の系より0に等しく,
  • $i=j$のときは,$|A|$に等しい.

よって,$AB=|A|I$となるから,$|A|\neq0$なら$\frac{1}{|A|}B$はAの逆行列となり,$A$は正則である.

例えば,2次行列$A=(a_{ij})=\bmat{a&b\\c&d}$について

\begin{align*} &a_{11}^{*}=(-1)^{1+1}d,\quad a_{12}^{*}=(-1)^{1+2}c, \\&a_{21}^{*}=(-1)^{2+1}b,\quad a_{22}^{*}=(-1)^{2+2}a \end{align*}

です.よって,いまの逆行列の定理から,$|A|=ad-bc\neq0$なら$A$は正則で

\begin{align*} A^{-1} =&\frac{1}{|A|}\bmat{a_{11}^{*}&a_{21}^{*}\\a_{12}^{*}&a_{22}^{*}} \\=&\frac{1}{ad-bc}\bmat{d&-b\\-c&a} \end{align*}

となりますね.

参考文献

線型代数入門

[齋藤正彦 著/東京大学出版会]

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

発刊されてから本書の内容の流れが線形代数の教科書のスタンダードとなったほど,日本の線形代数の指導にインパクトを与えた名著です.

その証拠に,著者の齋藤正彦氏は本書で日本数学会出版賞を受賞しています.

「線形代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴です.

また,テキストのレベルとしては少なくとも理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたい程度のものとなっています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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