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線形代数1|行列の計算の基本!行列の積はなぜこうなる?

線形代数は行列ベクトルを用いて記述されます.

行列とベクトルは線形代数の最初にパッと定義されることが多く,「そういうもの」という程度の理解で曖昧なまま読み進めてしまうことも多いです.

行列は多変数の1次式を簡単に表すことができるというメリットがあります.

この記事では,このメリットを感じるために,最初に行列とベクトルのイメージを掴むところから説明します.

また,行列の積をどうしてそのように定義するのか理解に苦しむ人も多いのですが,これもイメージが掴めていると自然な発想に基づいている事が分かります.

なお,この記事では実数$\R$を中心に説明しますが,複素数$\C$など一般の体に対しても同様です.

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行列とベクトル

ここでは,行列とベクトルの定義をイメージから説明します.

比例

実数$a$に対して$y=ax$が成り立つとき,「$y$は$x$に比例する」といい,$a$を比例係数というのでした.

様々にある関数の中でも$f(x)=ax$で定まる比例の関数$f$は非常に分かりやすい関数のため,他の関数よりも比較的容易に理解することができますね.

ここで,2つの等式

\begin{align*} \begin{cases} y_1=x_1+2x_2+3x_3\\ y_2=4x_1+5x_2+6x_3 \end{cases} \end{align*}

を考えます.比例では$x$と$y$が1つずつでしたが,上の式では

  • $x$が$x_1$, $x_2$, $x_3$の3つ
  • $y$が$y_1$と$y_2$の2つ

に増えていますね.

すなわち,比例では$x$に値を代入すれば$y$の値が分かったように,上の式では$x_1$, $x_2$, $x_3$に値を代入すれば$y_1$, $y_2$の値が分かるという状況になっています.

線形代数では,これを

\begin{align*} \bmat{y_1\\y_2}=\bmat{1&2&3\\4&5&6}\bmat{x_1\\x_2\\x_3} \end{align*}

のように表します.つまり,右辺では係数部分と変数部分を分けているわけですね.

このとき,

  • 左辺を$\m{y}:=\bmat{y_1\\y_2}$
  • 右辺の係数部分を$A:=\bmat{1&2&3\\4&5&6}$
  • 右辺の変数部分を$\m{x}:=\bmat{x_1\\x_2\\x_3}$

とおくと,上の等式は$\m{y}=A\m{x}$と表すことができ,あたかも$A$を「比例定数」とし$\m{y}$は$\m{x}$に「比例」していると捉えることができます.

これについて,

  • $\m{x}$, $\m{y}$のように一列に成分を並べたものを数ベクトル
  • $A$のように長方形型に成分を並べたものを行列

といいます.

行列とベクトルの定義

それでは,行列を以下のように定義します.

$p,q\in\N$とする.また,$S$を集合とし,$a_{ij}\in S$ ($i=1,\dots,m$, $j=1,\dots,n$)とする.このとき,

\begin{align*} \bmat{a_{11}&\dots&a_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}&\dots&a_{mn}} \end{align*}

のように$a_{ij}$を並べたものを$m\times n$行列 (matrix)といい,$(a_{ij})=(a_{ij})_{1 \le i \le m,1 \le j \le n}$などとも表す.全ての成分が$S$に属するような$m\times n$行列全体の集合を$\Mat_{mn}(S)$などと表す.

$\Mat_{n}(S):=\Mat_{nn}(S)$とし,$\Mat_{n}(S)$の元を$n$次正方行列 (square matrix)または単に$n$次行列という.

また,行列$(a_{ij})$に対して,

\begin{align*} \bmat{a_{q1}&\dots&a_{qn}},\quad \bmat{a_{1p}\\\vdots\\a_{np}} \end{align*}

をそれぞれ行列$(a_{ij})$の$p$行$q$列といい,$a_{pq}$を$\m{(p,q)}$成分という.

「並べる」というのは数学的な表現ではありませんが,分かりやすさを第一に考えて「並べる」という表現で満足することにします.

また,一連の記事では$S=\R$または$S=\C$の場合がほとんどで,

  • $\Mat_{mn}(\R)$の元を実行列 (real matrix)
  • $\Mat_{mn}(\C)$の元を複素行列 (complex matrix)

といいます.

また,ベクトルを以下のように定義します.

集合$S$に対して,$\Mat_{n1}(S)$の元を$S$成分の$n$次列ベクトル (column vector),$\Mat_{1n}(S)$の元を$S$成分の$n$次行ベクトル (row vector)という.

また,$S^{n}:=\Mat_{n1}(S)$とも表す.

行列と同様に

  • $\R^{n}$の元を実ベクトル (real vector)
  • $\C^{n}$の元を複素ベクトル (complex vector)

といいます.

ベクトルと行列の例

ベクトルと行列についていくつか例を考える.

例1

列ベクトルについて

\begin{align*} \bmat{1\\2\\3}\in\N^{3}=\Mat_{31}(\N),\quad \bmat{\sqrt{3}\\\sqrt{3}\\\sqrt{3}}\in\R^{3}=\Mat_{31}(\R),\quad \bmat{1\\i\\0\\-i}\in\C^{4}=\Mat_{41}(\C) \end{align*}

です.また,行ベクトルはコンマ“,”を用いて,$[a_{11},\dots,a_{1n}]$のようにも表します.たとえば,

\begin{align*} [1,2,3]\in\Mat_{13}(\N),\quad [\sqrt{3},\sqrt{3},\sqrt{3}]\in\Mat_{13}(\R),\quad [1,i,0,-i]\in\Mat_{14}(\C) \end{align*}

である.

例2

$\R^n$は$n$本の座標軸のある直交座標として考えることができます.例えば,$\m{a}:=\bmat{3\\1}\in\R^2$は

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と$xy$平面上に表せます.

例3

行列を並べることによって,行列を表すこともあります.

例えば,行列$A:=\bmat{1&2&3\\4&5&6\\7&8&9}$は

  • 行列$A_1:=\bmat{1&2\\4&5}$, $A_2:=\bmat{3\\6}$, $A_3:=[7,8]$, $A_4:=[9]$によって,

    \begin{align*} A=\bmat{A_{1}&A_{2}\\A_{3}&A_{4}} \end{align*}

  • 行ベクトル$\m{b}_1=[1,2,3]$, $\m{b}_2=[4,5,6]$, $\m{b}_3=[7,8,9]$によって,

    \begin{align*} A=\bmat{\m{b}_{1}\\\m{b}_{2}\\\m{b}_{3}} \end{align*}

などと表すことができます.

基本的な行列

成分が全て0のベクトル,行列

\begin{align*} &\bmat{0\\\vdots\\0}\in\R^{n}, \\&\bmat{0&\dots&0\\\vdots&\ddots&\vdots\\0&\dots&0}\in\Mat_{mn}(\R) \end{align*}

をそれぞれ零ベクトル (zero vector)零行列 (zero matrix)という.

$A\in\Mat_{n}(\R)$について,第$(k,k)$成分 ($k=1,\dots,n$)を$A$の対角成分 (diagonal element)といい,対角成分以外の成分が$0$なら$A$を対角行列 (diagonal matrix)という.また,第$(k,k)$成分が$a_{k}$の対角行列を

\begin{align*} \diag{(a_{1},\dots,a_{n})} \end{align*}

と表す.とくに,対角成分が全て1の対角行列$\diag{(1,\dots,1)}$を単位行列 (identity matrix)という.

零ベクトルは$\m{0}$,零行列は$O$,単位行列は$I$と表すことが多く,次数を明示するときには,添え字として

  • $\m{0}_{n}$:$n$次零ベクトル
  • $O_{mn}$:$m\times n$次零行列
  • $O_{n}$:$n$次零行列
  • $I_{n}$:$n$次単位行列

とするのが普通です.なお,単位行列はドイツ語でEinheitsmatrixと表記することから,$E$で表すこともよくあります.

例えば

\begin{align*} \bmat{1&0\\0&2},\quad \bmat{\sqrt{2}&0&0\\0&-\sqrt{2}&0\\0&0&\sqrt{2}},\quad \bmat{1&0&0\\0&-1&0\\0&0&0} \end{align*}

はいずれも対角行列であり,

\begin{align*} I_2=\bmat{1&0\\0&1},\quad I_3=\bmat{1&0&0\\0&1&0\\0&0&1} \end{align*}

はいずれも単位行列ですね.

行列$A$の第$(i,j)$成分を第$(j,i)$成分にとり直した行列を$A$の転置行列 (transposed matrix)といい,${}^{t}A$, $A^{T}$などと表す.

すなわち,$A=(a_{ij})$とすると,$A^{T}={}^{t}A=(a_{ji})$である.

$A=\bmat{1&2\\3&4\\5&6}$, $B=\bmat{2\\-3\\1}$に対して,

\begin{align*} {}^{t}A=A^{T}=\bmat{1&3&5\\2&4&6},\quad {}^{t}B=B^{T}=[2,-3,1] \end{align*}

である.

転置行列について,以下は明らかでしょう.

任意の行列$A$に対して,$A$の転置行列の転置行列は$A$である.すなわち,$(A^{T})^{T}=A$である.

行列とベクトルの計算

$\alpha\in\R$に対して,$1\times1$行列$[\alpha]$は単なる実数と同じと考えます.

単なる$\alpha\in\R$を行列やベクトルと区別してスカラー (scalar)といいます.

行列のスカラー倍と和,差

$A=(a_{ij}), B=(b_{ij})\in\Mat_{mn}(\R)$とする.このとき,$A=(a_{ij})$の$\alpha\in\R$倍と,和,差$A\pm B$をそれぞれ

\begin{align*} &\alpha A =(\alpha a_{ij}) =\bmat{\alpha a_{11}&\dots&\alpha a_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\\alpha a_{m1}&\dots&\alpha a_{mn}}, \\&A\pm B =(a_{ij}\pm b_{ij}) =\bmat{a_{11}\pm b_{11}&\dots&a_{1n}\pm b_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}\pm b_{m1}&\dots&a_{mn}\pm b_{mn}} \end{align*}

で定義する(複号同順).

すなわち,$\alpha$倍は全ての成分に$\alpha$をかければ良く,和と差は同じ成分同士で和と差を取れば良いわけですね.

ベクトルは行列の特別な場合(行または列が1つの行列)なので,ベクトルについても同様に$\alpha\in\R$倍と和が定義されます.

$\m{a}\in\R^n$に対して,$\m{a}+\m{a}’=\m{0}$となる$\m{a}’\in\R^n$を$\m{a}$の逆ベクトル (inverse vector)といい,$\m{a}’=-\m{a}$と表す.

$\m{a}\in\R^n$の逆ベクトル$-\m{a}$は$(-1)\m{a}$に一致します.つまり,$-\m{a}=(-1)\m{a}$ですね.

$\m{a},\m{b}\in\R^n\setminus\{\m{0}\}$が平行であるとは,$k\m{a}=\m{b}$をみたす$k\in\R$が存在することをいう.

$\m{a},\m{b}\in\R^{n}$が平行であるとは,図形的には$\m{a}$の伸び縮みだけで$\m{b}$に一致させられることをいうわけですね.

ただし,$k<0$の場合には$\m{a}$と$\m{b}$は逆向きになります(すなわち,逆向きに伸び縮みさせると考えます).

なお,複素ベクトルの場合にも同様に定義されます.よって,$\m{a}:=\bmat{1\\2\\3},\m{b}:=\bmat{2\\4\\6},\m{c}:=\bmat{-i\\-2i\\-3i}\in\C^{3}$は

\begin{align*} 2\m{a}=\m{b},\quad i\m{a}=\m{b},\quad 2i\m{c}=\m{b} \end{align*}

を満たすので,$\m{a}$, $\m{b}$, $\m{c}$は全て互いに平行となります.

行列とベクトルの積

この記事のはじめの方で

\begin{align*} \begin{cases} y_1=x_1+2x_2+3x_3\\ y_2=4x_1+5x_2+6x_3 \end{cases} \end{align*}

\begin{align*} \bmat{y_1\\y_2}=\bmat{1&2&3\\4&5&6}\bmat{x_1\\x_2\\x_3} \end{align*}

と表すと述べましたが,このことを一般に定義しておきましょう.

$\m{x}=[x_{1},\dots,x_{n}]^{T}\in\R^n$, $A=(a_{ij})\in\Mat_{mn}(\R)$に対して,$\m{x}$に左から$A$をかけた積$A\m{x}$を

\begin{align*} A\m{x} =&\bmat{a_{11}&\dots&a_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}&\dots&a_{mn}}\bmat{x_{1}\\\vdots\\x_{n}} \\:=&\bmat{a_{11}x_{1}+\dots+a_{1n}x_{n}\\\vdots\\a_{m1}x_{1}+\dots+a_{mn}x_{n}} \end{align*}

で定義する.

例えば,

\begin{align*} \bmat{1&2&3\\4&5&6}\bmat{x\\y\\z} =\bmat{x+2y+3z\\4x+5y+6z},\quad \bmat{1&2\\3&4\\5&6}\bmat{a\\b} =\bmat{a+2b\\3a+4b\\5a+6b} \end{align*}

ですね.

行列の積

次に行列の積を定義しますが,どのように定義するのが良さそうか考えましょう.

行列とベクトルの積については,定義から$B\in\Mat_{mn}(\R)$と$\m{x}\in\R^n$に対して,$B\m{x}\in\R^m$となりますね.

よって,$B\m{x}$にさらに左から$A\in\Mat_{m\ell}(\R)$をかけると$A(B\m{x})\in\R^{\ell}$となります.

\begin{align*} \begin{matrix} \R^n & \to & \R^m & \to & \R^\ell \\ \rotatebox[origin=c]{90}{$\in$} &  & \rotatebox[origin=c]{90}{$\in$} &  & \rotatebox[origin=c]{90}{$\in$} \\ \m{x} & \mapsto & B\m{x} & \mapsto & A(B\m{x}) \end{matrix} \end{align*}

さて,ここで行列$A$と$B$の積$AB$をするとき,結合法則$A(B\m{x})=(AB)\m{x}$が成り立っていて欲しいと思うのは自然なことですね.

たとえば,$A=\bmat{2&2\\-3&1}$, $B=\bmat{-2&0\\3&1}$, $\m{x}=\bmat{x\\y}$の場合を考えると,

\begin{align*} A(B\m{x}) =&A\bra{\bmat{-2&0\\3&1}\bmat{x\\y}} =A\bmat{-2x\\3x+y} \\=&\bmat{2&2\\-3&1}\bmat{-2x\\3x+y} =\bmat{2(-2x)+2(3x+y)\\-3(-2x)+(3x+y)} \\=&\bmat{2x+2y\\9x+y} =\bmat{2&2\\9&1}\bmat{x\\y} =\bmat{2&2\\9&1}\m{x} \end{align*}

となるので,$AB=\bmat{2&2\\9&1}$と定義されていれば,結合法則$A(B\m{x})=(AB)\m{x}$が成り立ちます.

このように,行列の積が結合法則をもつように定義しようとすると,行列の積の定義は以下のようになります.

$A=(a_{ij})\in\Mat_{mn}(\R)$, $B=(b_{ij})\in\Mat_{n\ell}(\R)$とする.このとき,積$AB$を以下で定義する.

\begin{align*} AB :=\bra{\sum_{k=1}^{n} a_{ik}b_{kj}}_{1\leqq i\leqq m,1\leqq j\leqq \ell} =\bmat{ \sum_{k=1}^{n} a_{1k}b_{k1}&\dots&\sum_{k=1}^{n} a_{1k}b_{k\ell}\\ \vdots&\ddots&\vdots\\ \sum_{k=1}^{n} a_{mk}b_{k1}&\dots&\sum_{k=1}^{n} a_{mk}b_{k\ell} } \end{align*}

たとえば,$A=\bmat{1&2\\3&6}$, $B=\bmat{-1&3\\1&0}$, $C=\bmat{2&0\\-1&0}$とすると,

\begin{align*} &AB =\bmat{1\cdot(-1)+2\cdot1&1\cdot3+2\cdot0\\3\cdot(-1)+6\cdot1&3\cdot3+6\cdot0} =\bmat{1&3\\3&9}, \\&BA =\bmat{(-1)\cdot1+3\cdot3&(-1)\cdot2+3\cdot6\\1\cdot1+0\cdot3&1\cdot2+0\cdot6} =\bmat{8&16\\1&2}, \\&AC =\bmat{1\cdot2+2\cdot(-1)&1\cdot0+2\cdot0\\3\cdot2+6\cdot(-1)&3\cdot0+6\cdot0} =\bmat{0&0\\0&0} \end{align*}

となります.

さて,この例から$AB\neq BA$, $AC=O$となることが分かります.このように,

  • 行列の積は可換(交換可能)とは限らないし,
  • 行列の積が零行列であってもどちらかが零行列であるとは限らない

ということに注意してください.

行列の積の表し方

$A=(a_{ij})\in\Mat_{mn}(\R)$, $B=(b_{ij})\in\Mat_{n\ell}(\R)$に対して,積$AB$を次の命題の形で表すことはとてもよくあります.

$A=(a_{ij})\in\Mat_{mn}(\R)$, $B=(b_{ij})\in\Mat_{n\ell}(\R)$を

\begin{align*} A=\bmat{\m{a}_1\\\vdots\\\m{a}_m},\quad B=[\m{b}_1,\dots,\m{b}_{\ell}] \end{align*}

とすると,積$AB$は以下の4通りの表し方ができる.

\begin{align*} AB =&\bmat{\sum_{k=1}^{n} a_{1k}b_{k1}&\dots&\sum_{k=1}^{n} a_{1k}b_{k\ell}\\ \vdots&\ddots&\vdots\\ \sum_{k=1}^{n} a_{mk}b_{k1}&\dots&\sum_{k=1}^{n} a_{mk}b_{k\ell}} \\=&\bmat{\m{a}_1\m{b}_1&\dots&\m{a}_1\m{b}_\ell\\ \vdots&\ddots&\vdots\\ \m{a}_m\m{b}_1&\dots&\m{a}_m\m{b}_\ell} \\=&[A\m{b}_1,\dots,A\m{b}_\ell] \\=&\bmat{\m{a}_{1}B\\\vdots\\\m{a}_{m}B} \end{align*}

最初の等号は定義に他ならない.任意の$i=1,\dots,m$に対して,

\begin{align*} \m{a}_{i}=[a_{i1},\dots,a_{in}],\quad \m{b}_{i}=\bmat{b_{1i}\\\vdots\\b_{ni}} \end{align*}

だから,

\begin{align*} \m{a}_{i}\m{b}_{j} =a_{i1}b_{1j}+\dots+a_{in}b_{nj} =\sum_{k=1}^{n}a_{ik}b_{kj} \end{align*}

であり,定義からこれは積$AB$の$(i,j)$成分だから,

\begin{align*} AB=\bmat{\m{a}_1\m{b}_1&\dots&\m{a}_1\m{b}_\ell\\ \vdots&\ddots&\vdots\\ \m{a}_m\m{b}_1&\dots&\m{a}_m\m{b}_\ell} \end{align*}

が成り立つ.この等式の第$j$列は

\begin{align*} \bmat{\m{a}_1\m{b}_j\\\vdots\\\m{a}_m\m{b}_j} =\bmat{\m{a}_1\\\vdots\\\m{a}_m}\m{b}_j =A\m{b}_j \end{align*}

だから,積$AB$は

\begin{align*} AB=[A\m{b}_1,\dots,A\m{b}_l] \end{align*}

と表せる.同様に,先ほどの等式の第$i$列は

\begin{align*} [\m{a}_i\m{b}_1,\dots,\m{a}_i\m{b}_l] =\m{a}_{i}[\m{b}_1,\dots,\m{b}_l] =\m{a}_{i}C \end{align*}

だから,積$AB$は

\begin{align*} AB=\bmat{\m{a}_{1}B\\\vdots\\\m{a}_{m}B} \end{align*}

と表せる.

基本的な行列の性質

ここでは,線形代数でよく現れる

  • 零行列
  • 単位行列
  • 転置行列
  • 正則行列

の基本的な性質について説明します.

零行列と単位行列と転置行列

まずは零行列の特徴付けです.

$T\in\Mat_{n}(\R)$に対して,次は同値である.

  1. $T$は零行列である.
  2. 任意の$A\in\Mat_{n}(\R)$に対して,$AT=TA=O$を満たす.

$(1)\Ra(2)$は明らかである.

逆に,もし(1)を満たさなければ,すなわち$T\neq O$ならば,$A=I$としたときに$AT=T\neq O$となって(2)を満たさない.よって,この対偶を考えることにより$(2)\Ra(1)$が従う.

次に,単位行列の特徴付けです.

$T\in\Mat_{n}(\R)$に対して,次は同値である.

  1. $T$は単位行列である.
  2. 任意の$A\in\Mat_{n}(\R)$に対して,$AT=TA=A$を満たす.

$A=(a_{ij})$とする.第$k$成分が1で他の成分が0の$\R^n$のベクトルを$\m{e}_k$とすると,$I=[\m{e}_{1},\dots,\m{e}_{n}]$と表せるから,

\begin{align*} AI =[A\m{e}_{1},\dots,A\m{e}_{n}] =\bmat{a_{11}&\dots&{a}_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{n1}&\dots&a_{nn}} =A \end{align*}

が従う.$IA=A$も同様に計算から従う.よって,$(1)\Ra(2)$が成り立つ.

逆に,もし(1)を満たさなければ,すなわち$T\neq I$であれば,$A=T$としたときに$AT=T\neq I$となって(2)を満たさない.よって,この対偶を考えることにより$(2)\Ra(1)$が従う.

最後に,転置行列の性質です.

$A\in\Mat_{mn}(\R)$, $B\in\Mat_{n\ell}(\R)$に対し,$(AB)^{T}=B^{T}A^{T}$である.

$A\in\Mat_{mn}(\R)$, $B\in\Mat_{n\ell}(\R)$を$A=\bmat{\m{a}_1\\\vdots\\\m{a}_m}$, $B=[\m{b}_1,\dots,\m{b}_{\ell}]$とすると,

\begin{align*} (AB)^{T} =\bmat{\m{a}_1\m{b}_1&\dots&\m{a}_1\m{b}_\ell\\\vdots&\ddots&\vdots\\\m{a}_m\m{b}_1&\dots&\m{a}_m\m{b}_\ell}^{T} =\bmat{\m{a}_1\m{b}_1&\dots&\m{a}_m\m{b}_1\\\vdots&\ddots&\vdots\\\m{a}_1\m{b}_\ell&\dots&\m{a}_m\m{b}_\ell} =\bmat{\m{b}_{1}^{T}\m{a}_{1}^{T}&\dots&\m{b}_{1}^{T}\m{a}_{m}^{T}\\\vdots&\ddots&\vdots\\\m{b}_{\ell}^{T}\m{a}_{1}^{T}&\dots&\m{b}_{\ell}^{T}\m{a}_{m}^{T}} =B^{T}A^{T} \end{align*}

が従う.

正則行列

ここで,逆行列は実数でいう逆数に相当する概念である逆行列を定義します.

$A\in\Mat_n(\R)$に対し,

\begin{align*} AB=BA=I \end{align*}

をみたす$B\in\Mat_n(\R)$が存在するとき,$B$は$A$の逆行列 (inverse matrix)であるといい,$B$を$A^{-1}$と表す.また,逆行列をもつ行列は正則 (regular)であるという.

先ほど逆行列は「実数でいう逆数の概念」であると書きました.

しかし,実数の場合には0でなければ逆数を持ちますが,行列の場合には零行列$O$でなくても逆行列を持たないことがあるという点は大きく異なります.

例えば,$\bmat{1&2\\2&4}$は逆行列を持たないことがのちの記事で(それほど難しくなく)分かります.

他にも,全ての成分が0である行や列をもつ行列なども正則行列になり得ません.

正則行列はどの行,どの列も0でない成分を含む.

正則行列$A=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]$に対して,$\m{a}_{k}=\m{0}$となる$k\in\{1,\dots,n\}$が存在するとする.

このとき,$A$の逆行列を$B$とすると,から$BA=[B\m{a}_{1},\dots,B\m{a}_{n}]$だから,$BA$の第$k$行は零ベクトルであるが,$BA=I$だからこれは矛盾である.

よって,全ての$k\in\{1,\dots,n\}$に対して$\m{a}_{k}\neq\m{0}$である.

行に関しては,$A$を行ベクトルで表して積$AB$を考えれば,同様に従う.

さて,正則行列の積について,次が成り立ちます.

正則な$A,B\in\Mat_{n}(\R)$に対して,積$AB$は正則であり,$(AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1}$が成り立つ.

$AA^{-1}=A^{-1}A=BB^{-1}=B^{-1}B=I$より,

\begin{align*} &(AB)(B^{-1}A^{-1}) =A(BB^{-1})A^{-1} =AIA^{-1} =AA^{-1} =I, \\&(B^{-1}A^{-1})(AB) =B^{-1}(A^{-1}A)B =B^{-1}IB =B^{-1}B =I \end{align*}

が成り立つから,$(AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1}$を得る.

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