線形代数8
線形独立のイメージと線形独立性とランクの関係

行列に関して重要な量としてランク(階数)がありました.前々回の記事と前回の記事では,ランクを考えることで

  • 正方行列が正則であるための条件
  • 連立1次方程式が解を持つための条件

などが分かることを説明しました.

前回の記事まではランク(階数)を基本変形によって考えてきましたが,ベクトルの線形独立という考え方をもとにしても考えることができます.

線形独立性はとても重要な概念で,線形代数学全体において頻繁に現れます.

この記事では

  • 線形独立とは何か
  • 線形独立性と行列のランクの関係

を説明します.

なお,この記事では特に断らない限り実行列・実ベクトルを扱うことにしますが,複素行列など一般のを成分とする行列・ベクトルに対しても同様です.

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手を動かしてまなぶ 線形代数

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数学で初めて出会った概念で詰まった時には,具体例を考えることで理解できるようになることはよくあります.

特に線形代数は高校数学で扱ってきた数学よりも抽象度がやや増すので,いきなり抽象的に理解するよりも「具体例を理解→抽象化」という学び方が効果的です.

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また,続巻も発行されていますが,この第1巻だけでも正方行列の対角化(固有値・固有ベクトル)まで学ぶことができます.

線形結合

ベクトル$\m{a}_1,\dots,\m{a}_n$が線形独立であるとは,平たく言えば「ベクトルたちが完全にバラバラな向きを向いていること」をいいます.

このことを定式化するために,まずは線形結合を定義しておきましょう.

線形結合

[線形結合] $\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r,\m{a}\in\R^{n}$が

\begin{align*} \m{a}=c_1\m{a}_1+c_2\m{a}_2+\dots+c_r\m{a}_r \end{align*}

と表せるとき,$\m{a}$は$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$の($\R$上の)線形結合 (linear combination)で表せるという.

例えば,$\m{a}$が$\m{a}_1$, $\m{a}_2$, $\m{a}_3$の線形結合で表せる($\m{a}=c_1\m{a}_1+c_2\m{a}_2+c_3\m{a}_3$が成り立つ)ときは,下図のようになっているわけですね.

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つまり,$\m{a}_1$, $\m{a}_2$, $\m{a}_3$をうまく伸び縮みさせて足して$\m{a}$を作れるときに,$\m{a}$を線形結合で表せるというわけですね.

線形結合の具体例

例1

任意の$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r\in\R^{n}$に対して,

\begin{align*} 0\cdot\m{a}_1+\dots+0\cdot\m{a}_r=\m{0} \end{align*}

はいつでも成り立つので,$\m{0}$は任意のベクトルたちの線形結合で表せることが分かりますね.

このように,係数が全て$0$の線形結合で$\m{0}$を表す等式を自明な線形関係 (trivial linear relation)といいます.

一方,少なくとも1つの係数が$0$でない線形結合で$\m{0}$を表す等式を非自明な線形関係 (nontrivial linear relation)といいます.

この自明な線形関係はこのあとの線形独立性の定義で重要になります.

例2

$\R^2$において

\begin{align*} \bmat{1\\3}=2\bmat{1\\0}+(-5)\bmat{1\\1}+4\bmat{1\\2} \end{align*}

なので,$\bmat{1\\3}$は$\bmat{1\\0}$, $\bmat{1\\1}$, $\bmat{1\\2}$の線形結合で表すことができます.他にも

\begin{align*} \bmat{1\\3}=(-2)\bmat{1\\0}+3\bmat{1\\1},\quad \bmat{1\\3}=(-1)\bmat{1\\1}+2\bmat{1\\2} \end{align*}

など$\bmat{1\\3}$は$\bmat{1\\0}$, $\bmat{1\\1}$の線形結合,$\bmat{1\\1}$, $\bmat{1\\2}$の線形結合でも表すことができます.

このように,線形結合での表し方は1通りとは限りません.

例3

$x$, $y$, $z$に関する連立方程式

\begin{align*} \begin{cases} x+2y+3z=6\\ 4x+5y+6z=9\\ 7x+8y+9z=12 \end{cases} \end{align*}

を考えます.この連立方程式は$\m{a}_1:=\bmat{1\\4\\7}$, $\m{a}_2:=\bmat{2\\5\\8}$, $\m{a}_3:=\bmat{3\\6\\9}$, $\m{c}:=\bmat{6\\9\\12}$とおくと,

\begin{align*} &x\bmat{1\\4\\7}+y\bmat{2\\5\\8}+z\bmat{3\\6\\9}=\bmat{6\\9\\12} \\\iff& x\m{a}_1+y\m{a}_2+z\m{a}_3=\m{c} \end{align*}

と表せます.

このことから,この連立方程式を解くことは「$\m{a}_1$, $\m{a}_2$, $\m{a}_3$の線形結合$x\m{a}_1+y\m{a}_2+z\m{a}_3$で$\m{c}$を表す」ということと同じであることが分かります.

線形独立

それではこの記事のテーマの線形独立性について説明します.

線形独立性の定義

いまの例3のように,一般に$\m{x}$の連立1次方程式$A\m{x}=\m{c}$は,$A=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{r}]$とおけば

\begin{align*} A\m{x}=\m{c} \iff x_1\m{a}_1+x_2\m{a}_2+\dots+x_r\m{a}_r=\m{c} \end{align*}

と表すことができます.このことから,

  • $\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$の線形結合で$\m{c}$を表すこと
  • 連立方程式$A\m{x}=\m{c}$を解くこと

は全く同じことだと分かりますね.

ここで本題の線形独立性を定義します.

$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r\in\R^{n}$の線形関係が自明な線形関係のみもつとき,すなわち

\begin{align*} x_1\m{a}_1+x_2\m{a}_2+\dots+x_r\m{a}_r=\m{0} \end{align*}

を満たす$x_1,x_2,\dots,x_r$が$x_1=x_2=\dots=x_r=0$のみであるとき,$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$は線形独立 (linearly independent)であるという.

一方,$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$が線形独立でないとき,$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$は線形従属 (linearly dependent)であるという.

この定義の上で上で考えたことから,$A=[\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r]$とすると

  • $x_1\m{a}_1+x_2\m{a}_2+\dots+x_r\m{a}_r=\m{0}$を満たす$x_1,x_2,\dots,x_r$は$x_1=x_2=\dots=x_r=0$のみ
  • 連立方程式$A\m{x}=\m{0}$の解が$\m{x}=\m{0}$のみ

が全く同じことであると分かりますね.

つまり,$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$が線形独立かどうかを知りたければ,連立1次方程式$A\m{x}=\m{0}$が自明解$\m{x}=\m{0}$しか持たないかどうかを考えればいいことになりますね.

なお,この定数項ベクトルが$\m{0}$である連立1次方程式を斉次連立1次方程式といいます.

線形独立性の具体例

例1

$\m{e}_{1}=\bmat{1\\0\\\vdots\\0},\m{e}_2=\bmat{0\\1\\\vdots\\0},\dots,\m{e}_{n}=\bmat{0\\0\\\vdots\\1}\in\R^{n}$の線形結合で$\m{0}$を表すとき,

\begin{align*} x_{1}\m{e}_{1}+\dots+x_{n}\m{e}_{n}=\m{0} \iff\bmat{x_1\\x_2\\\vdots\\x_n}=\bmat{0\\0\\\vdots\\0} \end{align*}

だから$x_{1}=\dots=x_{n}=0$となって,$\m{e}_{1},\dots,\m{e}_{n}$の線形関係は自明な線形関係のみであることが分かります.

よって,$\m{e}_{1},\dots,\m{e}_{n}$は線形独立ですね.

例2

$\m{a}_{1}=[2,1]^{T}\in\R^2$の線形結合で$\m{0}$を表すとき,

\begin{align*} x_{1}\m{a}_{1}=\m{0} \iff&\bmat{2x_1\\x_1}=\bmat{0\\0} \end{align*}

だからこれを解くと$x_{1}=0$となって,$\m{a}_{1}$の線形関係は自明な線形関係のみであることが分かります.

よって,$\m{a}_{1}$は線形独立ですね.

この例からも分かるように1個のみのベクトルは必ず線形独立ですね.

例3

$\m{a}_{1}=[1,2]^{T},\m{a}_{2}=[1,3]^{T}\in\R^2$の線形結合で$\m{0}$を表すとき,

\begin{align*} x_{1}\m{a}_{1}+x_{2}\m{a}_{2}=\m{0} \iff&\bmat{x_1+x_2\\2c_1+3c_2}=\bmat{0\\0} \\\iff&\begin{cases} x_{1}+x_{2}=0\\ 2x_{1}+3x_{2}=0 \end{cases} \end{align*}

だからこれを解くと$x_{1}=x_{2}=0$となって,$\m{a}_{1},\m{a}_{2}$の線形関係は自明な線形関係のみであることが分かります.

よって,$\m{a}_{1},\m{a}_{2}$は線形独立ですね.

例4

$\m{a}_{1}=[1,2]^{T},\m{a}_{2}=[2,4]^{T}\in\R^2$は

\begin{align*} 2\m{a}_1-\m{a}_2=\m{0} \end{align*}

と非自明な線形結合をもつので,$\m{a}_1$, $\m{a}_2$が線形従属であることが分かりました.

線形独立性とランク

次に,線形独立性と行列のランクの関係を説明します.

斉次連立1次方程式の解

前回の記事では次の定理を(別々に)証明しました.

$n\times r$行列$A$と$n$次列ベクトル$\m{c}$に対し,次は同値である.

  • $\rank{A}=\rank{[A,\m{c}]}$が成り立つ
  • $\m{x}$の連立方程式$A\m{x}=\m{c}$が解をもつ

さらに,次も同値である.

  • $n=\rank{A}=\rank{[A,\m{c}]}$が成り立つ
  • $\m{x}$の方程式$A\m{x}=\m{c}$の解は一意である

斉次連立1次方程式$A\m{x}=\m{0}$を考えると,$\rank{A}=\rank{[A,\m{0}]}$ですからこの定理の前半から必ず解をもちます.ただこの定理を使わなくても,必ず自明解$\m{x}=\m{0}$をもつことから解をもつことは明らかですね.

つまり,斉次連立1次方程式$A\m{x}=\m{0}$では,この定理の前半は常に満たされるわけですね.

したがって,この定理の後半から$n=\rank{A}$が成り立てば斉次連立1次方程式$A\m{x}=\m{0}$の解は一意となりますから,解は常に存在することが分かっている自明解$\m{x}=\m{0}$のみであることになります.

よって,斉次連立1次方程式$A\m{x}=\m{0}$に対して,この定理は次のように言い換えることができますね.

$n\times r$行列$A$に対し,次は同値である.

  • $\rank{A}=n$が成り立つ
  • $\m{x}$の連立方程式$A\m{x}=\m{c}$が自明解$\m{x}=\m{0}$のみもつ

線形独立性とランク

また,先ほどから考えていたように,$A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_r]$とすると

  • $x_1\m{a}_1+x_2\m{a}_2+\dots+x_r\m{a}_r=\m{0}$を満たす$x_1,x_2,\dots,x_r$は$x_1=x_2=\dots=x_r=0$のみ
  • 連立方程式$A\m{x}=\m{0}$の解が$\m{x}=\m{0}$のみ

は同値なのでしたから,いまの系はさらに次のように書き直すことができますね.

$n\times r$行列$A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_r]$に対し,次は同値である.

  • $\rank{A}=r$が成り立つ
  • $\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$は線形独立である

さらに,$n$次正方行列$A$に対して,

  • $A$が正則である
  • $\rank{A}=n$である

は同値でしたから,さらに次の系が従いますね.

$n$次正方行列$A=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]$に対して,次は同値である.

  1. $A$は正則である
  2. $\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}$は線形独立である

なお,$A$が正則であることと$\rank{A}=n$が同値であることについて詳しくは以前の記事を参照してください.

行列式

この記事までで,正方行列$A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]$の正則性は

  • $A$のランク$\rank{A}$
  • 連立方程式$A\m{x}=\m{c}$の一意性
  • $\m{a}_1,\dots,\m{a}_n$の線形独立性

などを調べることで判定できることが分かりました.

この他に正方行列の正則性を判定するためのものとして行列式があります.

行列式を定義するためには置換という概念を用いる必要があり,最初は少しややこしく感じてしまいますが,線形代数の中では欠かせないものとなっています.

次の記事では,行列式のイメージを図形的な観点から説明します.

参考文献

以下は参考文献です.

手を動かしてまなぶ 線形代数

[藤岡敦 著/裳華房]

線形代数の入門書で,説明も非常に丁寧なので初学者にも読み進めやすい教科書です.

数学で初めて出会った概念で詰まった時には,具体例を考えることで理解できるようになることはよくあります.

特に線形代数は高校数学で扱ってきた数学よりも抽象度がやや増すので,いきなり抽象的に理解するよりも「具体例を理解→抽象化」という学び方が効果的です.

本書は具体例と例題が豊富で,実際に手を動かしながらイメージを掴んで抽象的に理解することを目指しています.

また,続巻も発行されていますが,この第1巻だけでも正方行列の対角化(固有値・固有ベクトル)まで学ぶことができます.

線型代数入門

[齋藤正彦 著/東京大学出版会]

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

発刊されてから本書の内容の流れが線形代数の教科書のスタンダードとなったほど,日本の線形代数の指導にインパクトを与えた名著です.

その証拠に,著者の齋藤正彦氏は本書で日本数学会出版賞を受賞しています.

「線形代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴です.

また,テキストのレベルとしては少なくとも理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたい程度のものとなっています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.