平成30年度/京都大学大学院/理学研究科/数学・数理解析専攻の大学院入試問題の「基礎科目」の解答の方針と解答です.
ただし,採点基準などは公式に発表されていないため,ここでの解答が必ずしも正解とならない場合もあり得るので注意してください.
なお,過去問は京都大学のホームページから入手できます.
【参考:京都大学数学教室の過去問】
大学院入試の解答に関する記事一覧はこちら
問題と解答の方針
問題は8問あり,数学系志願者は問1~問6の6問を,数理解析系志願者は
- 問1〜問4の4問
- 問5,問7から1問
- 問6,問8から1問
の全6問を解答します.試験時間は3時間30分です.
この記事では,問7まで解答例を掲載しています.
なお,解答作成には万全を期していますが,論理の飛躍,誤りがあることは有り得ます.
問1
広義積分
を計算せよ.ただし,$V=\set{(x,y,z)\in\R^{3}}{x^{2}+y^{2}\le z}$とする.
解答の方針
被積分関数および積分領域$V$の条件にある$x^2+y^2$に注目して,$(x,y)$について極座標変換するのが良さそうである:
その際,ヤコビ行列式は$\vmat{\od{x}{r}&\od{x}{\theta}&\od{x}{\eta}\\\od{y}{r}&\od{y}{\theta}&\od{y}{\eta}\\\od{z}{r}&\od{z}{\theta}&\od{z}{\eta}}=r$となる.
解答例
$x$, $y$に関する極座標変換$(x,y,z)=(r\cos\theta,r\sin\theta,\eta)$により,ヤコビ行列式は
だから,$V$は
となる.よって,
となる.
問2
$a$, $b$を実数とする.実行列
について,以下の問に答えよ.
(1) 行列$A$の階数を求めよ.
(2) 連立1次方程式
が解を持つような実数$a$, $b$をすべて求めよ.
解答の方針
一般に,$\m{x}$の連立方程式$A\m{x}=\m{c}$が解をもつための必要十分条件は,係数行列$A$と拡大係数行列$[A,\m{c}]$の階数が一致することである.
解答例
$\m{c}:=[1,1,1]^{T}$とする.
(1) 連立方程式の拡大係数行列$\brc{A,\m{c}}$に行基本変形を施すと,
である.この行基本変形により,
である.
(2) 上の行基本変形により,$(a,b)\neq\bra{\frac{5}{2},2}$のとき$\operatorname{rank}{A}=\operatorname{rank}{[A,\m{c}]}$であり,$a=\frac{5}{2},b=2$のときはこれを満たさない.
よって,求める実数$a,b$は$(a,b)\neq\bra{\frac{5}{2},2}$である.
問3
広義積分
を求めよ.
解答の方針
実軸上でこの被積分関数になればよいので,$f(z):=\frac{e^{\pi i z}}{1+z^{2}+z^{4}}$とおけば,留数定理により計算できる.
すなわち,
とすれば,求める積分は$\lim\limits_{R\to\infty}\dint_{L_R}f(z)\,dx$である.
また,$1+z^2+z^4$は$e^{\pi i/3}$, $e^{2\pi i/3}$, $e^{4\pi i/3}$, $e^{5\pi i/3}$を根に持つので,$R>1$として
とすれば,$e^{\pi i/3}$, $e^{2\pi i/3}$を除く$C_{R}\cup L_{R}$の周および内部で$f$は正則である.
なお,一般に複素関数$g$, $h$が$g(a)\neq0$, $h(a)=0$, $h(a)\neq0$をみたすなら,$a$での$\frac{g}{h}$の留数は
で求められる.
解答例
関数$f:\C\to\C$を
で定め,任意の$R>1$に対して$C_{R},L_{R}\subset\C$を
で定める.このとき,
である.ただし,$\xi\in\C$に対して,$\xi$の実部を$\Re\xi$で表す.また,
なので,$1+z^{2}+z^{4}=0$の解は$z$の6乗根のうち$\pm1$を除いた$e^{\pi i/3}$, $e^{2\pi i/3}$, $e^{4\pi i/3}$, $e^{5\pi i/3}$である.
よって,$e^{\pi i/3},e^{2\pi i/3},e^{4\pi i/3},e^{5\pi i/3}$は$f$の1位の極であり,この他に$f$は極をもたないから,$e^{\pi i/3}$, $e^{2\pi i/3}$を除く$C_{R}\cup L_{R}$の周および内部で$f$は正則である.
$e^{\pi i/3}$, $e^{2\pi i/3}$での$f$の留数は
だから,留数定理より,
である.さらに,三角不等式を繰り返し用いて
となるから,
である.よって,$\lim\limits_{R\to\infty}\dint_{C_{R}}f(z)\,dz=0$が従う.以上より,
である.
問4
閉区間$[0,1]$上の実数値関数列$\{f_{n}\}_{n=1}^{\infty}$について,各$f_{n}$は広義単調増加であるものとする.つまり,$0\le x<y\le 1$なら,$f_{n}(x)\le f_{n}(y)$である.この関数列$\{f_{n}\}_{n=1}^{\infty}$が$n\to\infty$で関数$f$に各点収束したとする.
(1) 任意の$0\le x<y\le1$に対し,不等式
を示せ.
(2) 関数$f$が連続であるとき,関数列$\{f_{n}\}_{n=1}^{\infty}$は$f$に$[0,1]$上で一様収束することを示せ.
解答の方針
(1) 極限は等号付き不等号を保存するから,極限関数も広義単調増加となる.
また,$|a-b|$は$a-b$または$b-a$のいずれかであるが,このうちの小さくない方が$|a-b|$に一致する.すなわち,一般に$|a-b|=\max\{a-b,b-a\}$が成り立つ.
(2) $[0,1]$は有界閉集合(コンパクト)なので連続な$f$は一様連続(Heine-Cantorの定理)だから,十分に細かく$[0,1]$を分割すれば分割内での$f$の値の差は一様に小さくできる.
分割$[p,q]$内では,
となるので,第1項は各点収束$f_n\to f$から小さくでき,分割$[p,q]$が十分細かければ$f$の一様連続性から第2項も小さくなる.
これと同様のことを,(1)を用いて$\sup\limits_{x\in[p,q]}|f_n(x)-f(x)|$に対して行う.
解答例
(1) 任意の$0\le s<t<1$に対して$f_{n}(s)\le f_{n}(t)$だから,両辺で$n\to\infty$とすると$f(s)\le f(t)$が従う.よって,$f$は広義単調増加だから,任意の$n\in\{1,2,\dots\}$と$z\in[x,y]$に対して,
が従う.
(2) 任意に$\epsilon>0$をとる.$f$は有界閉区間$[0,1]$で連続だから,$f$は$[0,1]$上一様連続である.すなわち,ある$\delta>0$が存在して,$|x-y|<\delta$なら$|f(x)-f(y)|<\epsilon$が成り立つ.
ここで,$\frac{1}{N}<\delta$を満たす$N\in\N$をとると,任意の$k\in\{0,1,\dots,N-1\}$に対して,
が成り立つ.
また,関数列$\{f_{n}\}_{n=1}^{\infty}$が$n\to\infty$で関数$f$に各点収束するから,任意の$k\in\{0,1,\dots,N-1\}$に対して,ある$n_{k}\in\N$が存在して,$n>n_{k}$なら
が成り立つ.よって,(1)を用いると,$n>n_{k}$なら
が成り立つ.よって,$n>\max\{n_{0},n_{1},\dots,n_{N-1}\}$なら,
が成り立つから,題意が従う.
問5
$p$を素数とし,$\mathbb{F}_{p}=\Z/p\Z$を位数$p$の有限体とする.行列の乗法による群$G$を
で定める.このとき,$G$から乗法群$\C^{\times}=\C\setminus\{0\}$への準同型写像の個数を求めよ.
解答の方針
$A:=\bmat{1&1&0\\0&1&0\\0&0&1}$, $B:=\bmat{1&0&1\\0&1&0\\0&0&1}$, $C:=\bmat{1&0&0\\0&1&1\\0&0&1}$が$G$の元として最も単純で,
となることは,いずれもJordan標準形,もしくはJordan標準形に近い形をしていることから直ちに分かる.
このことから,$G=\anb{A,B,C}$となること,すなわち$G$が$A$, $B$, $C$により生成されることが予想でき,実際に
が成り立つ.また,$AC=BCA$より$B=ACA^{-1}C^{-1}$なので,結局は$G=\anb{A,C}$となる.
あとは準同型$f:G\to\C^\times$による,$A$, $C$の移り先を$p$が素数であることに気をつけて考えればよい.
解答例
$I$を3次正方行列とし,$A, B\in G$を
で定める.
任意の$n\in\Z$に対して,
が成り立つ.実際,$n=1$のときは明らかで,ある$n$で成り立つとすると
となるから帰納的に従う.$B$, $C$も同様である.よって,任意の$a,b,c\in\mathbb{F}_{p}$に対して,
となることが分かり,$G=\anb{A,B,C}$を得る.
いま,$A^{-1}=A^{p-1}$, $C=C^{p-1}$だから$A$, $C$はいずれも正則で,
より$B=ACA^{-1}C^{-1}$となることと併せて,結局$G=\anb{A,C}$が従う.
ここで,$f:G\to\C^{\times}$を準同型とすると,$f(A)^{p}=f(A^{p})=I$で$p$は素数だから$f(A)=e^{2\pi ik/p}$ ($k=1,\dots,p$)である.同様に$f(C)=e^{2\pi i\ell/p}$ ($\ell=1,\dots,p$)である.
また,$\C^{\times}$は可換だから
である.よって,任意の$B^{b}C^{c}A^{a}\in G$に対して,
が成り立つ.
逆に,$k,\ell\in\{1,\dots,p\}$を固定し,写像$f:G\to\C^{\times}$を
で定める.任意の$B^{b}C^{c}A^{a},B^{b’}C^{c’}A^{a’}\in G$に対して,
なので,
となるから,$f$は準同型である.また,$f(A)=e^{2\pi ik/p}$, $f(C)=e^{2\pi i\ell/p}$である.
よって,$k$, $\ell$の選び方はともに$|\{1,2,\dots,p\}|=p$通りだから,$G$から乗法群$\C^{\times}=\C\setminus\{0\}$への準同型写像の個数は$p^{2}$である.
問6
$\R^{4}$の部分空間$M$を
で定める.
(1) $M$が 2 次元微分可能多様体になることを示せ.
(2) $M$上の関数$f$を
で定めるとき,$f$の臨界点をすべて求めよ.ただし,$p\in M$が$f$の臨界点であるとは,$p$における$M$の局所座標$(u,v)$に関して
となることである.
解答の方針
(1) $g:\R^4\to\R^2$を
で定義し,$g$に正則値定理(沈め込み定理)を用いればよい.
(2) $f:M\to\R$の変化が$M$上で0となる点$p\in M$が臨界点である.言い換えれば,$f$の$\R^4$への自然な延長$F:\R^4\to\R;(x,y,z,w)\mapsto x$の変化が$M$に現れないような点$p\in M$が$f$の臨界点である.
したがって,$f$の微分$df_p:T_{p}M\to\R$の定義域$T_{p}M$が$dF_p:\R^4\to\R$にすっぽり覆われているような,すなわち
を満たすような点$p\in M$を求めればよい.また,逆写像定理より$T_{p}M=\Ker{dg_{p}}$であることにも注意する.
多様体$M$は$x$と$y$のペア,$z$と$w$のペアで対称なので,$T_{p}M=\{(0,0)\}\times\R^2$の場合のみ$T_{p}M\subset\{0\}\times\R^3$となることが予想され,実際これは正しいことが分かる.
解答例
写像$g:\R^{4}\to\R^{2}$, $A, B\in\operatorname{Mat}_{2}(\R)$を
で定める.
(1) $p:=(x,y,z,w)\in M$に対して
である.
だから,複号任意で$x\neq\pm y$または$z\neq\pm w$なら$|A|$, $|B|$のいずれか一方は0でないから,$\operatorname{rank}Jg_{p}=2$が成り立つ.
よって,$p=(1,0,0,0)$は正則点で$g(1,0,0,0)=(0,0)$だから,正則値定理より$M=g^{-1}(0,0)$が存在して$\R^{4}$の閉部分多様体で,次元は$4-2=2$である.
(2) $f:M\to\R$の$\R^4$への延長$F:\R^4\to\R$を$\tilde{f}(x,y,z,w)=x$で定める.
このとき,$p=(x,y,z,w)\in M$が$f$の臨界点であることと,$T_{p}M\subset\operatorname{Ker}dF_{p}$が成り立つことは同値である.
さらに,$M\subset\R^{4}$より$T_{p}M\subset\R^{4}$とみなすことができ,$JF_{p}=[1,0,0,0]$より$\operatorname{Ker}dF_{p}=\{0\}\times\R^{3}$なので,$T_{p}M\subset\{0\}\times\R^{3}$となる$p\in M$を全て求めればよい.
ここで,
であることに注意する.
[1] $z\neq\pm w$のとき,$B$は正則だから
なので,第1成分が0でないベクトルが$T_{p}M$に属するから$T_{p}M\subset\{0\}\times\R^{3}$とはなり得ない.
[2] $z=\pm w$かつ$z\neq0$のとき,複号同順で
なので,たとえば$\bra{1,\pm1,-\frac{x}{z},-\frac{y}{z}}\in T_{p}M$だから,$T_{p}M\subset\{0\}\times\R^{3}$とはなり得ない.
[3] $z=w=0$のとき,$p\in M$と併せて
となる.
[1]-[3]より,$p\in M$なら$p=(\pm1,0,0,0),(0,\pm1,0,0)$を満たす.
逆に,このとき$A$は正則で$B$は零行列となるから,
となるから,$f$の臨界点は$(\pm1,0,0,0)$, $(0,\pm1,0,0)$である.
問7
$A$を実正方行列,$k$を正の整数とし,$\operatorname{rk}(A^{k+1})=\operatorname{rk}(A^{k})$が成り立つとする.このとき,任意の整数$m\ge k$に対し,$\operatorname{rk}(A^{m})=\operatorname{rk}(A^{k})$であることを証明せよ.ここで,行列$X$に対し,$\operatorname{rk}(X)$は$X$の階数を表す.
解答の方針
Jordan細胞は固有値が0でなければ,その冪も対角成分は0でないから階数は変化しない.
一方,たとえば固有値0の4次Jordan細胞$B:=\bmat{0&1&0&0\\0&0&1&0\\0&0&0&1\\0&0&0&0}$は
となるので,4乗まで階数は1ずつ小さくなりそのあとは零行列なので階数は変化しない.
これにより,$A$をJordan標準形に変形し,固有値0のJordan細胞に注目すれば示すことができる.
解答例
ある正則行列$P$により$A$をJordan標準形に相似変換できたとする:
ここに,$a_{1},\dots,a_{q}\in\C\setminus\{0\}$であり,$J_{n}(a)$は固有値$a$の$n$次Jordan細胞である.任意の$m\in\N$に対して
であり,正則行列をかけることによって階数は不変だから,
である.ここで,Jordan細胞$J_{n}(a)$は以下を満たす:
- $a\in\R\setminus\{0\}$のとき,任意の$m\in\N$に対して$\operatorname{rk}(J_{n}(a)^{m+1})=\operatorname{rk}(J_{n}(a)^{m})$
- $a=0$かつ$n\ge2$のとき,
- 任意の$m\in\{1,2,\dots,n-1\}$に対して,$\operatorname{rk}(J_{n}(a)^{m+1})+1=\operatorname{rk}(J_{n}(a)^{m})$
- 任意の$m\in\{n,n+1,\dots\}$に対して,$\operatorname{rk}(J_{n}(a)^{m+1})=\operatorname{rk}(J_{n}(a)^{m})$
- $a=0$かつ$n=1$のとき,任意の$m\in\N$に対して$\operatorname{rk}(J_{n}(a)^{m+1})=\operatorname{rk}(J_{n}(a)^{m})$
よって,$\operatorname{rk}(A^{k+1})=\operatorname{rk}(A^{k})$が成り立つことと,$k:=\max\{n_{1},\dots,n_{p}\}$であることは同値であるだから,任意の整数$m\ge k$に対し,
が従う.
参考文献
演習 大学院入試問題
まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されている.
全2巻で,
- 1巻 第1編 線形代数
1巻 第2編 微分・積分学
1巻 第3編 微分方程式 - 2巻 第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻 第5編 複素関数論
2巻 第6編 確率・統計
が扱われている.
問題の種類としては発想問題よりも,ちゃんと地に足つけた考え方で解ける問題が多い.
計算量が多い問題,基本問題も多く扱われているが,試験では基本問題ほど手早く処理することが求められるので,その意味で試験への対応力が養われるであろう.(私自身,計算力があまり高くないので苦労した.)
目次や詳しい内容は以下の記事を参照してください.
数学系の大学院入試の問題集である.まえがきで「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」とあるように,幅広い分野から豊富に問題が掲載されている.
詳解と演習大学院入試問題〈数学〉
上述の姫野氏の問題集とは対照的に,問題数はそこまで多くないが1問1問の解説が丁寧になされている.また,構成が読みやすい.
第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率
典型的な問題でも複数の解法を紹介しているので,私は参考になることも多かった.
個人的に,この本は非常に好感が持てる良書であった.
目次や詳しい内容は以下の記事を参照してください.
数学系の大学院入試の問題集である.受験生が間違いやすいポイントや解法のコツなども書かれているので,数学的な考え方を身に付けることができる好著である.