線形代数15
基底の考え方を具体例から丁寧に解説!

線形代数学の基本
線形代数学の基本

$\R^2$のベクトル$\m{e}_1=\bmat{1\\0}$, $\m{e}_2=\bmat{0\\1}$を用意すると,

   \begin{align*} \bmat{a\\b}=a\m{e}_1+b\m{e}_2 \end{align*}

なので,この2つのベクトル$\m{e}_1$, $\m{e}_2$のスカラー倍と和(線形結合)で全てのベクトルを表すことができますね.

また,このとき$\m{e}_1$と$\m{e}_2$の伸ばし方は1通りしかありません.つまり,上の図より$a\m{e}_1$, $b\m{e}_2$の長さが少しでも違うと$\bmat{a\\b}$を表すことができません.

この$\anb{\m{e}_1,\m{e}_2}$のようなベクトルの組を$\R^2$の基底といいます.

この記事では

  • 生成される部分空間
  • 線形独立なベクトルの性質
  • 部分空間の基底の定義と具体例

を順に説明します.

なお,$\R^n$の部分空間について詳しくは前回の記事を参照してください.

なお,この記事では特に断らない限り実行列・実ベクトルを扱うことにしますが,複素行列など一般のを成分とする行列・ベクトルに対しても同様です.

またこの記事の内容は一般の線形空間でも同様に成り立ちますが,簡単のためここでは$\R^n$の部分空間に限って話を進めます.

参考文献(線形代数)

手を動かしてまなぶ 線形代数

線形代数の入門書で,説明も非常に丁寧なので初学者にも読み進めやすい教科書です.

線型代数入門

理論系でガッツリ線形代数を学ぶ人のための入門書です.

線形独立性

まずはベクトルの線形独立性を復習し,基底のイメージを理解するのに必要な性質を説明します.

線形独立性の定義

以前の記事で線形独立性について説明しましたが,念の為に定義を確認しておきましょう.

$\m{a},\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r\in\R^{n}$に対して,

   \begin{align*} \m{a}=x_1\m{a}_1+x_2\m{a}_2+\dots+x_r\m{a}_r \end{align*}

が成り立つとき,$\m{a}$は$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$の線形結合で表せるという.

どんなベクトルたちに対しても係数を全て$0$にとれば,$\m{0}$は必ず線形結合でも表せることが分かりますね.これについて次のように線形独立性が定義されるのでした.

$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r\in\R^{n}$が自明な線形関係のみもつとき,すなわち

   \begin{align*} x_1\m{a}_1+x_2\m{a}_2+\dots+x_r\m{a}_r=\m{0} \end{align*}

を満たす$x_1,x_2,\dots,x_r$が$x_1=x_2=\dots=x_r=0$のみであるとき,$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$は線形独立 (linearly independent)であるという.

一方,$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$が線形独立でないとき,$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$は線形従属 (linearly dependent)であるという.

線形独立なベクトルの具体例については以前の記事を参照してください.

線形独立性の性質

以前の記事では連立1次方程式と絡めて線形独立性を説明しましたが,この記事では以前の記事では説明しなかった次の性質が重要となります.

$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r\in\R^n$が線形独立であるとする.このとき,$\m{a}\in\R^n$が

  • $\m{a}=c_1\m{a}_1+c_2\m{a}_2+\dots+c_r\m{a}_r$
  • $\m{a}=d_1\m{a}_1+d_2\m{a}_2+\dots+d_r\m{a}_r$

と2通りに表されたとすると,$c_1=d_1,c_2=d_2,\dots,c_r=d_r$が成り立つ.


仮定より

   \begin{align*} &c_1\m{a}_1+\dots+c_r\m{a}_r=d_1\m{a}_1+\dots+d_r\m{a}_r \\\iff&(c_1-d_1)\m{a}_1+(c_2-d_2)\m{a}_2+\dots+(c_r-d_r)\m{a}_r=\m{0} \end{align*}

である.いま$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$は線形独立だから,

   \begin{align*} c_1-d_1=c_2-d_2=\dots=c_r-d_r=0 \end{align*}

なので,$c_1=d_1,c_2=d_2,\dots,c_r=d_r$が成り立つ.

これは高校数学で学ぶ

  • 「平面ベクトル$\m{a}$, $\m{b}$がともに$\m{0}$でなく平行でないとき,$k\m{a}+\ell\m{b}=k’\m{a}=\ell’\m{b}$が成り立てば$k=k’$かつ$\ell=\ell’$である」
  • 「空間ベクトル$\m{a}$, $\m{b}$, $\m{c}$がいずれも$\m{0}$でなく同一平面上にないとき,$k\m{a}+\ell\m{b}+m\m{c}=k’\m{a}=\ell’\m{b}+m’\m{c}$が成り立てば$k=k’$かつ$\ell=\ell’$かつ$m=m’$である」

の一般化ですね.つまり,実は

  • 平面ベクトルでは「$\m{a}$, $\m{b}$がともに$\m{0}$でなく平行でない」$\iff$「$\m{a}$, $\m{b}$が線形独立」
  • 空間ベクトルでは「$\m{a}$, $\m{b}$, $\m{c}$がいずれも$\m{0}$でなく同一平面上にない」$\iff$「$\m{a}$, $\m{b}$, $\m{c}$が線形独立」

ということになっていたわけですね.

生成される部分空間

基底の定義を理解するには,上で説明した線形独立性と生成される部分空間が重要です.

生成される部分空間

$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r\in\R^n$とする.このとき,部分集合

   \begin{align*} V=\set{c_1\m{a}_1+\dots+c_r\m{a}_r}{c_1,\dots,c_r\in\R} \end{align*}

は$\R^n$の部分空間である.


$V$が$\R^n$の部分集合で空でないことは明らか.任意に$k\in\R$と$\m{a},\m{b}\in V$をとる.このとき,$c_p,d_p\in\R$ ($p=1,\dots,r$)を用いて

   \begin{align*} \m{a}=c_1\m{a}_1+\dots+c_r\m{a}_r,\quad \m{b}=d_1\m{a}_1+\dots+d_r\m{a}_r \end{align*}

と表せるから,

   \begin{align*} \m{a}+\m{b} =&(c_1\m{a}_1+\dots+c_r\m{a}_r)+(d_1\m{a}_1+\dots+d_r\m{a}_r) \\=&(c_1+d_1)\m{a}_1+\dots+(c_r+d_r)\m{a}_r\in V, \\k\m{a} =&k(c_1\m{a}_1+\dots+c_r\m{a}_r) \\=&(kc_1)\m{a}_1+\dots+(kc_r)\m{a}_r)\in V \end{align*}

となる.よって,$V$は和とスカラー倍に閉じているから$\R^n$の部分空間である.

この部分空間は重要な部分空間で次のように呼ばれます.

$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r\in\R^n$とする.このとき,$\R^n$の部分空間

   \begin{align*} V=\set{c_1\m{a}_1+\dots+c_r\m{a}_r}{c_1,\dots,c_r\in\R} \end{align*}

は$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$によって張られる部分空間 (span)または生成される部分空間 (generated space)といい,$\spn{(\m{a}_1,\dots,\m{a}_r)}$などと表す.

言い換えれば,$\spn{(\m{a}_1,\dots,\m{a}_r)}$は$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$の線形結合で表されるベクトル全部からなる部分空間ということができますね.

生成される部分空間の具体例

生成される部分空間をいくつか具体的に考えてみましょう.

例1

$\R^3$において$V=\spn{\bra{\bmat{1\\2}}}$とおくと,

   \begin{align*} V=\set{t\bmat{1\\2}}{t\in\R} \end{align*}

なので,$\bmat{1\\2}$を伸び縮みさせてできる$2$次列ベクトル全部の集合が$V$ですね.

つまり,$\R^2$を$xy$空間とするとき,$V$は直線$y=\frac{1}{2}x$を表しますね.

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例2

$\R^3$において$V=\spn{\bra{\bmat{1\\0\\0},\bmat{0\\1\\0}}}$とおくと,

   \begin{align*} V=\set{s\bmat{1\\0\\0}+t\bmat{0\\1\\0}}{s,t\in\R} =\set{\bmat{s\\t\\0}}{s,t\in\R} \end{align*}

なので,第1成分,第2成分が任意の$3$次列ベクトルの集合が$V$ですね.

つまり,$\R^3$を$xyz$空間とするとき,$V$は$xy$平面を表しますね.

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基底

それではこの記事のテーマの基底について,定義と具体例を説明します.

基底の定義

$\R^n$の部分空間$V$に対して,$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r\in V$が

  • $\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$が線形独立
  • $V=\spn{(\m{a}_1,\dots,\m{a}_r)}$

を満たすとき,組$\anb{\m{a}_1,\dots,\m{a}_r}$を$V$の基底という.

基底は「組」なので順番が変わると異なる基底とみなします.例えば,$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2}$が基底であるとき,$\anb{\m{a}_2,\m{a}_1}$も基底ですが,これらは異なる基底とみなします.

しかし,しばらくは基底の順番を気にしなくても問題ありません.

それぞれの条件は

  • その線形結合での表し方が一意である
  • $V$の全てのベクトルが$\m{a}_1,\dots,\m{a}_r$の線形結合で表せる

ということを述べているわけですね.

基底の具体例

基底をいくつか具体的に考えてみましょう.

例1

$\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3\in\R^3$を

   \begin{align*} \m{e}_1:=\bmat{1\\0\\0},\quad \m{e}_2:=\bmat{0\\1\\0},\quad \m{e}_3:=\bmat{0\\0\\1} \end{align*}

とすると,$\anb{\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3}$が$\R^3$の基底であることを示せ.

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[1] $\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3$が線形独立であることを示す.

   \begin{align*} \rank{[\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3]} =\rank{\bmat{1&0&0\\0&1&0\\0&0&1}} =3 \end{align*}

だから,$\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3$は線形独立である.

[2] $\R^3=\spn{(\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3)}$を示す($\supset$と$\subset$を示せばよい).

$\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3\in\R^3$より$\R^3\supset\spn{(\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3)}$である.

また,任意の$\m{a}\in\R^3$は

   \begin{align*} \m{a}=a\m{e}_1+b\m{e}_2+c\m{e}_3 \end{align*}

なので,$\m{a}\in\spn{(\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3)}$だから$\R^3\subset\spn{(\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3)}$である.

したがって,$\R^3=\spn{(\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3)}$を得る.

[1], [2]より$\anb{\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3}$は$\R^3$の基底である.

一般に$\m{e}_k\in\R^n$を

  • 第$k$成分が$1$
  • 第$k$成分以外が全て$0$

のベクトルとすると,$\anb{\m{e}_1,\dots,\m{e}_n}$は$\R^n$の基底となります.この基底を$\R^n$の標準基底といいます.

例2

$\m{a}_1,\m{a}_2\in\R^3$を

   \begin{align*} \m{a}_1:=\bmat{1\\2\\3},\quad \m{a}_2:=\bmat{-2\\0\\1} \end{align*}

とすると,$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2}$が$V=\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2)}$の基底であることを示せ.


$V=\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2)}$は分かっているから,$\m{a}_1,\m{a}_2$の線形独立性を示せばよい.

行基本変形により行列のランクは変化しないから,

   \begin{align*} \rank{[\m{a}_1,\m{a}_2]} =\rank{\bmat{1&-2\\2&0\\3&1}} =\rank{\bmat{1&-2\\0&4\\0&7}} =\rank{\bmat{1&0\\0&1\\0&0}} =2 \end{align*}

だから,$\m{a}_1,\m{a}_2$は線形独立である.よって,$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2}$は$V$の基底である.

例3

$\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3\in\R^3$を

   \begin{align*} \m{a}_1:=\bmat{1\\1\\1},\quad \m{a}_2:=\bmat{-2\\-2\\1},\quad \m{a}_3:=\bmat{0\\1\\-1} \end{align*}

とすると,$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3}$が$\R^3$の基底であることを示せ.


[1] $\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3$が線形独立であることを示す.

行基本変形により行列のランクは変化しないから,

   \begin{align*} &\rank{[\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3]} =\rank{\bmat{1&-2&0\\1&-2&1\\1&1&-1}} \\=&\rank{\bmat{1&-2&0\\0&0&1\\0&3&-1}} =\rank{\bmat{1&0&0\\0&1&0\\0&0&1}} =3 \end{align*}

だから,$\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3$は線形独立である.

[2] $\R^3=\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3)}$を示す($\supset$と$\subset$を示せばよい).

$\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3\in\R^3$より$\R^3\supset\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3)}$である.

また,任意の$\m{a}\in\R^3$に対して,連立1次方程式

   \begin{align*} &x\m{a}_1+y\m{a}_2+z\m{a}_3=\m{a} \\\iff&[\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3]\m{x}=\m{a} \end{align*}

を考える.ただし,$\m{x}=\bmat{x\\y\\z}$である.

このとき,[1]より$\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3$は線形独立だったから$[\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3]$は正則なので解$\m{x}$が存在する.よって,$\m{a}\in\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3)}$なので,$\R^3\subset\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3)}$である.

したがって,$\R^3=\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3)}$を得る.

[1], [2]より$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3}$は$\R^3$の基底である.

例1の$\anb{\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3}$も$\R^3$の基底でした.

このように,同じ空間であっても全く別のベクトルからなる基底が存在することが分かりますね.

部分空間の同型と次元

生成される部分空間の例2で見たように

   \begin{align*} V=\set{s\bmat{1\\0\\0}+t\bmat{0\\1\\0}}{s,t\in\R} \end{align*}

は$xyz$空間上の$xy$平面を表すのでした.つまり,$V$は$\R^2$と同一視できることが分かります.

このように,2つの部分空間が同一視できるとき同型であるといいます.

また,例1と例3で見たように$\R^3$は$\anb{\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3}$や$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3}$を基底にもつことから,直感的に3方向からなる空間なので「$\R$は3次元である」と言えそうです.

実は一般に$\R^n$の部分空間$V$の基底$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n}$, $\anb{\m{b}_1,\m{b}_2,\dots,\m{b}_m}$が存在すれば$m=n$であることが証明でき,このように基底をなすベクトルの個数をその空間の次元といいます.

次の記事では

  • 部分空間の同型
  • 部分空間の次元

を説明します.

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