線形代数10
行列式を定義するための置換の性質を理解する

線形代数学の基本
線形代数学の基本

前回の記事では正方行列$A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]$の行列式$|A|$の直感的なイメージを説明し

  • $|A|\neq0$をみたすこと
  • $A$が正則であること

が同値となりそうなことをみました(このことはのちの記事で成り立つことを証明します).

さて,前回の記事ではきちんと行列式を定義したのは2次正方行列に対してのみで,3次以上の正方行列に対しては定義していませんでした.

これは一般の$n$次正方行列の行列式を定義には置換というものを必要とするためです.

置換を用いない定義もありますが,多くの教科書で置換による定義がされています.

この記事では

  • 置換の定義
  • 重要な置換

を順に説明します.

参考文献(線形代数)

手を動かしてまなぶ 線形代数

線形代数の入門書で,説明も非常に丁寧なので初学者にも読み進めやすい教科書です.

線型代数入門

理論系でガッツリ線形代数を学ぶ人のための入門書です.

置換

この記事では,$n$を2以上の整数,$M_{n}$を集合$\{1,\dots,n\}$とします.

置換の定義

まずは置換を定義します.

全単射$\sigma:M_n\to M_n$を$M_{n}$上の置換 (permutation)といい,

   \begin{align*} \sigma= \pmat{1&2&\dots&n\\ \sigma(1)&\sigma(2)&\dots&\sigma(n)} \end{align*}

と表し,$M_{n}$上の置換全体の集合を$S_{n}$と表す.

また,恒等写像$M_n\to M_n$を単位置換 (identity permutation)という.

例えば,$\sigma\in S_3$, $\tau\in S_4$を$\sigma=\pmat{1&2&3\\2&3&1}$, $\tau=\pmat{1&2&3&4\\4&3&2&1}$で定めると,

   \begin{align*} & \sigma(1)=2,\quad \sigma(2)=3,\quad \sigma(3)=1 \\& \tau(1)=4,\quad \tau(2)=3,\quad \tau(3)=2,\quad \tau(4)=1 \end{align*}

というわけですね.

また,$\epsilon\in S_5$を単位置換とすると,$\epsilon=\pmat{1&2&3&4&5\\1&2&3&4&5}$と表せますね.

置換の積

$\sigma,\tau\in S_{n}$に対して,写像の合成$\sigma\circ\tau$を$\sigma$と$\tau$の積 (product)といい,$\sigma\cdot\tau$や$\cdot$を省略して$\sigma\tau$と表す.

$\sigma,\tau\in S_3$を$\sigma=\pmat{1&2&3\\2&1&3}$, $\tau=\pmat{1&2&3\\3&1&2}$で定めると,

   \begin{align*} &\sigma\tau(1)=\sigma(3)=3,\quad \sigma\tau(2)=\sigma(1)=2,\quad \sigma\tau(3)=\sigma(2)=1 \end{align*}

なので$\sigma\cdot\tau=\pmat{1&2&3\\3&2&1}$であり,

   \begin{align*} \tau\sigma(1)=\tau(2)=1,\quad \tau\sigma(2)=\tau(1)=3,\quad \tau\sigma(3)=\tau(3)=2 \end{align*}

なので$\tau\cdot\sigma=\pmat{1&2&3\\1&3&2}$ですね.

この例からも分かるように,一般に置換の積は可換とは限りません.

$\sigma\in S_{n}$に対して$\sigma$の逆写像を逆置換 (innverse permutation)といい$\sigma^{-1}$で表す.

例えば,$\sigma=\pmat{1&2&3\\2&3&1}\in S_{3}$, $\tau=\pmat{1&2&3&4\\4&3&2&1}\in S_{4}$に対して,

   \begin{align*} &\sigma^{-1}=\pmat{2&3&1\\1&2&3}=\pmat{1&2&3\\3&1&2}, \\&\tau^{-1}=\pmat{4&3&2&1\\1&2&3&4}=\pmat{1&2&3&4\\4&3&2&1} \end{align*}

ですね.

以上より$S_n$は非可換群となります.この群は群論でも重要な群で$n$次対称群と呼ばれます.群については以下の記事を参照してください.

重要な置換

次に置換の中でも重要な置換を説明していきます.

巡回置換

$S_{n}$の元のうち

   \begin{align*} \pmat{ k_1&k_2&\dots&k_{r-1}&k_r&k_{r+1}&\dots&k_n\\ k_2&k_3&\dots&k_r&k_1&k_{r+1}&\dots&k_n } \end{align*}

の形の置換を巡回置換 (cyclic permutation)といい,$(k_1,k_2,\dots,k_r)$と表す.

例えば,巡回置換$\sigma=(1,2,4)\in S_{6}$は,

   \begin{align*} \sigma =&\pmat{1&2&4&3&5&6\\2&4&1&3&5&6} \\=&\pmat{1&2&3&4&5&6\\2&4&3&1&5&6} \end{align*}

です.つまり,$\sigma=(1,2,4)$は$1,2,4$をこの順に1つずつずらし,$3,5,6$を変えない置換ですね.

巡回置換$\sigma,\tau\in S_{n}$が同じものを巡回させないとき,$\sigma\tau=\tau\sigma$が成り立つ.

もう少しきちんと書くと,「巡回置換$\sigma=(m_{1},\dots,m_{k}),\tau=(m_{1}’,\dots,m_{\ell}’)\in S_{n}$に対して,$\{m_{1},\dots,m_{k}\}\cap\{m_{1}’,\dots,m_{\ell}’\}=\emptyset$なら$\sigma\tau=\tau\sigma$が成り立つ」ということですね.


$\sigma=(m_{1},\dots,m_{k}),\tau=(m_{1}’,\dots,m_{\ell}’)$とする.

任意の$m\in M_{n}$に対して,

  • $m\in\{m_{1},\dots,m_{k}\}$のとき,条件から$\tau$は$m$, $\sigma(m)$を巡回させないから

       \begin{align*}\sigma\tau(m) =\sigma(m) =\tau\sigma(m)\end{align*}

  • $m\in\{m_{1}’,\dots,m_{\ell}’\}$のとき,同様に$\sigma\tau(m)=\tau\sigma(m)$
  • $m\notin\{m_{1},\dots,m_{k},m_{1}’,\dots,m_{\ell}’\}$のとき

       \begin{align*}\sigma\tau(m) =\sigma(m) =m =\tau(m) =\tau\sigma(m)\end{align*}

が成り立つ.よって,任意の$m\in M_{n}$に対して$\sigma\tau(m)=\tau\sigma(m)$が成り立つから,$\sigma\tau=\tau\sigma$が従う.

一般に集合$X$を定義域とする写像$f$, $g$が等しいとは,任意の$x\in X$に対して$f(x)=g(x)$が成り立つことをいう.

例えば,$\sigma\in S_{8}$を

   \begin{align*} \sigma=\pmat{1&2&3&4&5&6&7&8\\3&6&4&1&2&5&8&7} \end{align*}

で定めます.この$\sigma$は以下のように巡回置換の積で表すことができます.

  • まず1に繰り返し$\sigma$を施すと,$1\to3\to4\to1$と循環する.
  • $1,3,4$でない$M_{8}$の元,例えば$2$に繰り返し$\sigma$を施すと,$2\to6\to5\to2$と循環する.
  • $1,3,4,2,5,6$でない$M_{8}$の元,例えば$7$に繰り返し$\sigma$を施すと,$7\to8\to7$と循環する.

このように考えれば,$\sigma=(1,3,4)(2,5,6)(7,8)$として巡回置換の積で表されます.

また,上の命題より$\sigma$をなす巡回置換$(1,3,4)$, $(2,5,6)$, $(7,8)$は入れ替えても等しいですね:

   \begin{align*} \sigma =&(1,3,4)(2,5,6)(7,8) =(1,3,4)(7,8)(2,5,6) \\=&(2,5,6)(1,3,4)(7,8) =(7,8)(1,3,4)(2,5,6) \\=&(2,5,6)(7,8)(1,3,4) =(7,8)(2,5,6)(1,3,4) \end{align*}

この例から次の定理が成り立つことが分かりますね.

任意の$\sigma\in S_{n}$は同じものを巡回させない巡回置換の積で表せる.

互換

ちょうど2つの元を巡回させる巡回置換を互換 (transposition)という.

$i,j$を入れ替える互換は,$i,j$を巡回させる巡回置換なので$(i,j)$と表せますね.

次は巡回置換と互換の積を結び付ける重要な命題です.

$S_{n}$の任意の巡回置換は$S_{n}$の互換の積で表せる.


任意の巡回置換$\sigma=(m_{1},\dots,m_{k})\in S_{n}$を考える.

このとき,$\sigma$が互換$\tau_{i}:=(m_{1},m_{i})$ $(i=2,3,\dots,k)$の積で$\sigma=\tau_{k}\dots\tau_{3}\tau_{2}$と表せることを以下で示す.

任意の$m\in\{1,\dots,k\}$に対して,

  • $i\in\{1,\dots,k-1\}$のとき

       \begin{align*}&\tau_{k}\dots\tau_{i+1}\tau_{i}\dots\tau_{3}\tau_{2}(m_{i}) \\=&\tau_{k}\dots\tau_{i}(m_{i}) =\tau_{k}\dots\tau_{i+1}(m_{1}) \\=&\tau_{k}\dots\tau_{i+2}(m_{i+1}) =m_{i+1} =\sigma(i)\end{align*}

  • $i=k$のとき

       \begin{align*}\tau_{i}\tau_{i-1}\dots\tau_{3}\tau_{2}(m_{i}) =&\tau_{k}\tau_{k-1}\dots\tau_{3}\tau_{2}(m_{k}) \\=&\tau_{k}(m_{k}) =m_{1} =\sigma(m_{k})\end{align*}

  • $i\notin\{1,\dots,k\}$のとき

       \begin{align*}\tau_{k}\tau_{k-1}\dots\tau_{3}\tau_{2}(m_{i}) =m_{i} =\sigma(m_{i})\end{align*}

が成り立つ.

よって,任意の$m\in M_{n}$に対して$\sigma(m)=\tau_{k}\dots\tau_{3}\tau_{2}(m)$が成り立つから,$\sigma=\tau_{k}\dots\tau_{3}\tau_{2}$が従う.

例えば,巡回置換$\sigma=(1,2,3,4)$は互換の積として,

   \begin{align*} \sigma=(3,4)(2,4)(1,4)=(1,2)(2,3)(3,4) \end{align*}

などと表せますね.

ここまでで

  • 全ての置換は巡回置換の積で表せる
  • 巡回置換は互換の席で表せる

が成り立つことが分かりましたから次が従いますね.

$S_{n}$の任意の置換は$S_{n}$の互換の積で表せる.

行列式の定義

この記事で準備した置換を用いて,次の記事では行列式を定義します.

行列式の定義には置換の符号というものも必要になるので,次の記事では

  • 置換の符号
  • 行列式の定義

を順に説明します.

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