線形代数15|「固有値」「固有ベクトル」「対角化」とは?

正方行列の対角化は非常に応用範囲が広く,対角化があることによって線形代数が広く応用される分野になっていると言っても言い過ぎではありません.

正方行列の対角化を行うために

  • 固有値
  • 固有ベクトル

の2つの概念が鍵となっています.

全ての正方行列が対角化できるわけではありませんが,「固有値」を考えれば直ちに対角化が可能であることが分かる場合もあります.

この記事では

  • 正方行列の対角化とは何か
  • 正方行列$A$のべき$A^k$の対角化を用いた計算例
  • 固有値固有ベクトルとは何か
  • どのようなときに対角化できるか
  • 固有値,固有ベクトルの図形的な意味

を説明します.

対角化と行列の冪

まずは正方行列$A$のべき$A^k$の計算に便利な対角化について説明します.

行列の冪と対角行列

例えば,正方行列$B=\bmat{2&0&0\\0&-1&0\\0&0&1}$に対しては

\begin{align*} &B^2=B\cdot B=\bmat{4&0&0\\0&1&0\\0&0&1}, \\&B^3=B^2\cdot B=\bmat{8&0&0\\0&-1&0\\0&0&1}, \\&B^4=B^3\cdot B=\bmat{16&0&0\\0&1&0\\0&0&1} \end{align*}

であり,任意の正の整数$k$に対して$B^k=\bmat{2^k&0&0\\0&(-1)^k&0\\0&0&1}$となります(数学的帰納法で簡単に証明できます).

これについて,一般に次が成り立ちます.

$n$次対角行列$X$の第$(i,i)$成分が$x_i$であるとする($i=1,2,\dots,n$).このとき,任意の正の整数$k$に対して,次が成り立つ.

\begin{align*} X^k=\bmat{{x_1}^k&0&\dots&0\\0&{x_2}^k&\ddots&\vdots\\\vdots&\ddots&\ddots&0\\0&\dots&0&{x_n}^k} \end{align*}

イメージは上の3次正方行列$B$の冪$B^k$で,この命題は数学的帰納法で証明できます(難しくないので省略).

このように,対角行列の冪は簡単に計算できることは,とても重要な基礎事項です.

一方,対角行列でない正方行列,たとえば$A=\bmat{1&2\\3&4}$に対して

\begin{align*} A^2 =&A\cdot A =\bmat{1\cdot1+2\cdot3&1\cdot2+2\cdot4\\3\cdot1+4\cdot3&3\cdot2+4\cdot4} =\bmat{7&10\\15&22}, \\A^3 =&A^2\cdot A =\bmat{7\cdot1+10\cdot3&7\cdot2+10\cdot4\\15\cdot1+22\cdot3&15\cdot2+22\cdot4} =\bmat{37&54\\81&118}, \\A^4 =&A^3\cdot A =\dots \end{align*}

と計算することができますが,この計算を見ても分かるように一般には正方行列$A$のべき$A^k$を直接計算するのはとても面倒です.

対角化と行列の冪

そこで,対角行列の冪が簡単に計算できることを用いて,一般の正方行列$A$の冪$A^k$を(直接計算するより)簡単に計算する方法を考えます.

$n$次正方行列$A$に対して,$B=P^{-1}AP$が成り立つような

が得られたとします.

このとき,両辺を$k$乗($k=1,2,\dots$)すると,行列の積の結合法則から

\begin{align*} B^k =&(P^{-1}AP)^k \\=&\underbrace{(P^{-1}AP)(P^{-1}AP)\dots(P^{-1}AP)}_{k} \\=&P^{-1}A(PP^{-1})A(PP^{-1})A\dots A(PP^{-1})AP \\=&P^{-1}AAA\dots AAP \\=&P^{-1}A^kP \end{align*}

が成り立ちます.

これより,両辺に左から$P$をかけ,右から$P^{-1}$をかけると$A^k=PB^{k}P^{-1}$が成り立つことが分かります.

  • $B$は対角行列なので$B^k$は簡単に計算でき
  • もともと$P$は得られている

ので,単純な計算により$PB^kP^{-1}$が求まり,$A^k$が計算できることになりますね.

ここで考えた$B=P^{-1}AP$について,一般に以下のように定義します.

[対角化] 正方行列$A$に対して,正則行列$P$が存在して$B:=P^{-1}AP$が対角行列となるとき,$A$は$P$により対角化可能であるといい,$B$を$A$の対角化という.

ということで,対角化可能な正方行列$A$の冪$A^k$は簡単に計算できる,というのが今説明したことですね.

さて,全ての正方行列が対角化可能であるとは限りません.

つまり,$B=P^{-1}AP$を満たす対角行列$B$と正則行列$P$が存在しないこともあります.

固有値と固有ベクトル

そこで,どのようなときに正方行列$A$が対角化可能であるかを考えましょう.

実は正方行列$A$が対角化可能であるための必要十分条件はよく知られています(のちの記事で説明します)が,その前にこの記事では簡単に対角化可能であることが分かる場合について述べます.

対角化と固有値・固有ベクトル

対角化可能性の条件を述べるために,固有値固有ベクトルが必要となります.

まず,対角化可能な$n$次正方行列$A$を考え,$B=P^{-1}AP$を満たす対角行列$B$と正則行列$P$を

\begin{align*} &B=\bmat{\lambda_1&0&\dots&0\\0&\lambda_2&\ddots&\vdots\\\vdots&\ddots&\ddots&0\\0&\dots&0&\lambda_n}, \\&P=[\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n] \end{align*}

としましょう.$B$は対角行列で,$P$は$n$次ベクトル$\m{v}_1,\dots,\m{v}_n$を並べてできた行列ですね.

$B=P^{-1}AP$の両辺に左から$P$をかけると

\begin{align*} &PB=AP \\\iff& [\lambda_1\m{v}_1,\dots,\lambda_n\m{v}_n]=[A\m{v}_1,A\m{v}_2,\dots,A\m{v}_n]&\dots(*) \end{align*}

となります.

(なお,左辺$PB$が$[\lambda_1\m{v}_1,\dots,\lambda_n\m{v}_n]$に等しいことは,$P$を$P=\bmat{v_{11}&\dots&v_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\v_{n1}&\dots&v_{nn}}$と成分で表して,実際に$PB$を計算すれば

\begin{align*} PB =&\bmat{\lambda_{1}v_{11}&\dots&\lambda_{n}v_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\\lambda_{1}v_{n1}&\dots&\lambda_{n}v_{nn}} \\=&[\lambda_1\m{v}_1,\dots,\lambda_n\m{v}_n] \end{align*}

となって分かりますね.)

ここで,等式$(*)$の各列を比較すると

  • $A$の対角化$B$の対角成分の$(i,i)$成分$\lambda_i$
  • $A$を対角化させる$P$の第$i$列$\m{v}_i$

は$\lambda_i\m{v}_i=A\m{v}_i$を満たしています.

ここで,固有値固有ベクトルを次のように定義します.

[固有値・固有ベクトル] $A\in\Mat_{n}(\C)$に対して,$\lambda\in\C$と$\m{v}\in\C^n\setminus\{\m{0}\}$が存在して$\lambda\m{v}=A\m{v}$が成り立つとき,$\lambda$を$A$の固有値,$\m{v}$を$A$の固有値$\lambda$に属する固有ベクトルという.

ただし,$\Mat_{n}(\C)$は複素数成分の$n$次正方行列の集合,$\C^n$は複素数成分の$n$次ベクトルである.

いきなり複素数が出てきて面食らった人もいるかもしれませんが,この記事では実数だと思って読み進めてもほとんど問題ありません.

この記事では主に対角化にフォーカスして説明しているので,固有値と固有ベクトルの性質については次以降の記事で説明します.

この「固有値」,「固有ベクトル」という言葉を用いると,先ほど述べたことは以下のようになりますね.

$n$次正方行列$A$が正則行列$P=[\m{v}_1,\dots,\m{v}_n]$によって対角化されて対角行

\begin{align*} B=\bmat{\lambda_1&0&\dots&0\\0&\lambda_2&\ddots&\vdots\\\vdots&\ddots&\ddots&0\\0&\dots&0&\lambda_n} \end{align*}

となるとき

  • $\lambda_i$は$A$の固有値($i=1,\dots,n$)
  • $P$の第$i$列$\m{v}_i$は,$A$の固有値$\lambda_i$に属する固有ベクトル

である:

\begin{align*} &B=P^{-1}AP \\\iff&PB=AP \\\iff&[\lambda_1\m{v}_1,\dots,\lambda_n\m{v}_n]=[A\m{v}_1,A\m{v}_2,\dots,A\m{v}_n] \end{align*}

この意味で,正方行列の対角化は固有値と固有ベクトルと密接に関わっていることになります.

対角化可能性の基本定理

さて,正方行列が対角化可能なことが簡単に分かる[対角化可能性の基本定理]があります.

この[対角化可能性の基本定理]の名前は私が勝手に呼んでいるもので,一般的なものではありません.

この[対角化可能性の基本定理]を証明するため,次の[補題1]と[補題2]を用います.

[補題1] ベクトル$\lambda_1,\dots,\lambda_r$に対して,次は同値である.

  • $\m{v}_1,\dots,\m{v}_n$は線形独立である.
  • 行列$[\m{v}_1,\dots,\m{v}_n]$は正則である.

この[補題1]は以前の記事で証明しました.

[補題2] 正方行列$A$の異なる固有値$\lambda_1,\dots,\lambda_r$に対して,それぞれの固有値に属する固有ベクトルを$\m{v}_1,\dots,\m{v}_r$とすると,$\m{v}_1,\dots,\m{v}_r$は線形独立である.

この[補題2]はのちの記事で証明するとし,この記事では認めて使います.

[対角化可能性の基本定理] $n$次正方行列$A$が異なる$n$個の固有値をもつとき,$A$は対角化可能である.


[対角化可能性の基本定理] $A$の異なる$n$個の固有値を$\lambda_1,\dots,\lambda_n$とし,それぞれの固有値に属する固有ベクトルを$\m{v}_1,\dots,\m{v}_n$とする.

このとき,[補題2]より$\m{v}_1,\dots,\m{v}_n$は線形独立であり,[補題1]より$\m{v}_1,\dots,\m{v}_n$を並べてできる$n$次正方行列$P:=[\m{v}_1,\dots,\m{v}_n]$は正則行列である.

固有値と固有ベクトルの定義より,任意の$i=1,2,\dots,n$に対して$\lambda_i\m{v}_i=A\m{v}_i$が成り立つから,第$(i,i)$成分が固有値$\lambda_i$の対角行列を$B$とすると

\begin{align*} PB =&[\m{v}_1,\dots,\m{v}_n] \bmat{\lambda_1&0&\dots&0\\0&\lambda_2&\ddots&\vdots\\\vdots&\ddots&\ddots&0\\0&\dots&0&\lambda_n} \\=&[\lambda_1\m{v}_1,\dots,\lambda_n\m{v}_n] \\=&[A\m{v}_1,A\m{v}_2,\dots,A\m{v}_n] \\=&A[\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n] =AP \end{align*}

となるから,$PB=AP$の両辺に左から$P^{-1}$をかけて$B=P^{-1}AP$を得る.

よって,$A$は対角化可能である.

この証明では,固有ベクトルを並べてできる行列$P$が正則であることがネックとなっています.

そのために固有ベクトルが全て線形独立であることが必要十分であり,このために$n$個の異なるの固有値が存在すれば十分という[補題2]を用いたわけですね.

固有値と固有ベクトルの図形的な意味

さて,この記事ではここまでで「対角化のために固有値と固有ベクトルが重要」という流れで固有値,固有ベクトルを説明しましたが,最後に固有値と固有ベクトルの図形的なイメージを説明しておきます.

まず,零ベクトルでない$\m{a}\in\R^n$を用意します.

この$\m{a}$に左から$n$次正方行列$A$をかけると$A\m{a}\in\R^n$となりますが,一般にこの$A\m{a}$が$\m{a}$に平行かどうかは分かりません.

つまり,$\m{a}$によっては

  • $\m{a}$と$A\m{a}$が平行になっていたり

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  • 平行になっていなかったり

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します.

実際に好きに$\m{a}$をとってくると後者のように平行でないことが多いのですが,うまく$\m{a}$をとると前者のように$\m{a}$と$A\m{a}$が平行になることもあります.

このように$\m{a}$と$A\m{a}$が平行なら

\begin{align*} A\m{a}=\lambda\m{a} \end{align*}

となる$\lambda\in\R$が存在します.この等式はまさに固有値と固有ベクトルの定義式ですね!

このときの$\m{a}$を固有ベクトルといい,このときの伸び率$\lambda$を固有値というわけですね.

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なお,2つのベクトルが平行であるかどうかは2つのベクトルが零ベクトルでないときに初めてできる話なので$A\m{a}=\m{0}$のときは,$\m{a}$と$A\m{a}$は平行であるとはいえません.

しかし,$A\m{a}=\m{0}$の場合は$0\m{a}=A\m{a}$が成り立つので,$0$は$A$の固有値であり$\m{a}$は$A$の固有値$0$に属する固有ベクトルということになります.

固有値と固有ベクトルの求め方

この記事では,固有値と固有ベクトルがどう役に立つのかを説明してきましたが,これらをどのように求めるかは説明しませんでした.

実は正方行列$A$の固有値は$A$の固有方程式という代数方程式の解と一致することが証明できるので,実際に$A$の固有方程式を解けば$A$の固有値が得られます.

また,$A$の固有値$\lambda$が得られていれば,あとは固有値・固有ベクトルの定義にしたがって連立方程式を解くことで,$A$の固有値$\lambda$に属する固有ベクトルを求めることができます.

つまり,

  1. 固有方程式
  2. 固有値
  3. 固有ベクトル

の順番で,固有値と固有ベクトルを求めることができます.

次の記事では,固有値と固有ベクトルの求め方を詳しく説明します.

参考文献

線型代数入門

[齋藤正彦 著/東京大学出版会]

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

発刊されてから本書の内容の流れが線形代数の教科書のスタンダードとなったほど,日本の線形代数の指導にインパクトを与えた名著です.

その証拠に,著者の齋藤正彦氏は本書で日本数学会出版賞を受賞しています.

「線形代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴です.

また,テキストのレベルとしては少なくとも理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたい程度のものとなっています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

最後までありがとうございました!

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