例えば,$\R^3$の基底として
が挙げられます.
$\R^3$の他の基底も考えてみると分かってくるのですが,実は$\R^3$の基底はいつでも3個のベクトルからなります.
このことはより一般に成り立ち,任意の$\R^n$の部分空間において基底をなすベクトルの個数は一定であることが証明できます.
そこで,$\R^n$の部分空間$V$の基底をなすベクトルの個数を$V$の次元といいます.
この記事では
- $\R^n$の部分空間の次元の定義
- $\R^n$の部分空間の次元の具体例
- 基底をなすベクトルの個数が一定であることの証明
を順に説明します.
なお,特に断らない限り以下では実行列・実ベクトルを扱うことにしますが,複素行列など一般の体を成分とする行列・ベクトルに対しても同様です.
「線形代数学の基本」の一連の記事
- 行列と列ベクトル
- 行列式
- $\R^n$の部分空間と基底
$\R^n$の部分空間の次元の定義
冒頭でも説明したように次の定理が成り立ちます(この記事の最後に証明しています).
$\R^n$の部分空間$V$が2つの基底$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_k}$, $\anb{\m{b}_1,\m{b}_2,\dots,\m{b}_\ell}$をもつとき$k=\ell$が成り立つ.
この定理を踏まえて,次のように次元を定義します.
$\R^n$の部分空間$V$の基底がなすベクトルの個数を$V$の次元(dimension)といい$\dim{V}$と表す.
また,自明な部分空間$\{\m{0}\}$の次元は$0$と定める.
$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n}$が基底なら$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n$は線形独立なので,直感的には$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n$たちの線形結合で$n$方向に広がった空間を表せるわけですね.
このことから次元は空間が広がっている「方向」の数を表すといえるわけですね.
具体的には$\R^2$が縦横の2方向,$\R^3$が縦横高さの3方向で空間を表現できることからも直感的に受け入れやすいですね.
高校数学でも,平面ベクトルの問題は2つのベクトルを基準,空間ベクトルの問題は3つのベクトルを基準にして考えることが多かったのは,$\R^2$のどの基底も2つのベクトルからなり,$\R^3$のどの基底も3つのベクトルからなることが背景にあるわけですね.
$\R^n$の部分空間の次元の具体例
いくつかの$\R^n$の部分空間について,具体的に次元を求めましょう.
例1($\R^2$の次元)
$\dim{\R^2}$を求めよ.
一般に$\R^n$は$n$個のベクトルからなる基底
をもつので,$\dim{\R^n}=n$となりますね.
この基底を$\R^n$の標準基底というのでした.
例2($\R^2$の1次元部分空間)
$\bmat{x\\y}\in V$は$y=\dfrac{1}{2}x$を満たすので,$V$を図示すると$xy$平面上の直線$y=\dfrac{1}{2}x$となりますね.
言い換えると,第1成分が第2成分の$2$倍であるようなベクトルの空間ですから,$V$上の全ての元が$\bmat{2\\1}$の実数倍で表されます.
よって,基底は$\anb{\bmat{2\\1}}$となって$\dim{V}=1$となりそうです.
$x-2y=0$なら$\bmat{x\\y}=\bmat{2y\\y}$だから,
となり,$V$の全ての元は$\bmat{2\\1}$の線形結合で表せる.
また,一般に1つのみのベクトルは線形独立だから$\bmat{2\\1}$は線形独立である.
したがって,$\anb{\bmat{2\\1}}$は$V$の基底であり,この基底は1個のベクトルからなるので$\dim{V}=1$である.
例3($\R^3$の2次元部分空間)
$V$を図示すると$xyz$平面上の平面$x-2y-3z=0$となりますね.
$\dim{\R^2}=2$だったように,平面の部分空間は2つのベクトルからなる基底をもち次元は$2$となりそうです.
$x-2y-3z=0$なら$\bmat{x\\y\\z}=\bmat{2y+3z\\y\\z}$だから,
と書き換えられるから,$V$の全ての元は$\bmat{2\\1\\0},\bmat{3\\0\\1}$の線形結合で表せる.
また,この2つのベクトルを並べてできる行列のランクは
だから$\bmat{2\\1\\0},\bmat{3\\0\\1}$は線形独立である.
したがって,$\anb{\bmat{2\\1\\0},\bmat{3\\0\\1}}$は$V$の基底であり,この基底は2個のベクトルからなるので$\dim{V}=2$である.
一般に$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r\in\R^n$が$\rank{[\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r]}=r$を満たせば$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_r$は線形独立なのでした.
これについて詳しくは以下の記事を参照してください.
例4($\R^4$の2次元部分空間)
例3までが理解できていれば,集合の条件式からベクトルの文字の個数を減らして,どのベクトルで生成されているかを考えれば良さそうですね.
連立1次方程式$\begin{cases}x+y+3z+4w=0\\x-y-z+2w=0\end{cases}$を$x,y$について解くと,
となるので,このとき$\bmat{x\\y\\z\\w}=\bmat{-z-3w\\-2z-w\\z\\w}$だから,
と書き換えられるから,$V$の全ての元は$\bmat{-1\\-2\\1\\0},\bmat{-3\\-1\\0\\1}$の線形結合で表せる.
また,この2つのベクトルを並べてできる行列のランクは
だから$\bmat{-1\\-2\\1\\0},\bmat{-3\\-1\\0\\1}$は線形独立である.
したがって,$\bmat{-1\\-2\\1\\0},\bmat{-3\\-1\\0\\1}$は$V$の基底であり,この基底は2個のベクトルからなるので$\dim{V}=2$である.
例3でもし条件式がなければ$\R^3$で,例4でもし条件式がなければ$\R^4$です.
しかし,実際には
- 例3は条件式が1つあることで次元が$1$落ちて$\dim{V}=\dim{\R^3}-1=2$
- 例4は条件式が2つあることで次元が$2$落ちて$\dim{V}=\dim{\R^4}-2={}2$
となっているわけですね.
つまり,直感的には空間が広がっている「方向」の数が次元でしたから,(本質的に新しい)条件が1つ加わるごとに空間の「方向」がひとつ減って次元が落ちるわけですね.
基底をなすベクトルの個数が一定であることの証明
それでは最後に冒頭で紹介した次元の定義のもととなった次の定理を証明しましょう.
(再掲)$\R^n$の部分空間$V$が2つの基底$\anb{\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_k}$, $\anb{\m{b}_1,\m{b}_2,\dots,\m{b}_\ell}$が得られたとき$k=\ell$が成り立つ.
背理法により示す.$k<\ell$と仮定する.
$\anb{\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{k}}$は$V$の基底なので,$\m{b}_{1},\dots,\m{b}_{k}$は$\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{k}$の線形結合で表せる.
このとき,
である.いま$\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{k}$は線形独立だから$[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{k}]$は正則行列で,同様に$[\m{b}_{1},\dots,\m{b}_{k}]$も正則行列だから$P$は正則である.
よって,
となって,$\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{k}$はいずれも$\m{b}_{1},\dots,\m{b}_{k}$の線形結合で表せる.
また,$\m{b}_{k+1}$は$\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{k}$の線形結合で表せるから,$\m{b}_{k+1}$は$\m{b}_{1},\dots,\m{b}_{k}$の線形結合で表せることになり,$\m{b}_{1},\dots,\m{b}_{k},\m{b}_{k+1}$が線形独立であることに矛盾する.
$k>\ell$と仮定した場合も同様に矛盾が導かれるから,結局$k=\ell$が得られる.
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