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数ベクトル空間の部分空間の定義|証明のテンプレも例題から解説

線形代数学の基本
線形代数学の基本

2次列ベクトル全部の集合R2の部分集合

V={t[11] | tR}

を考えましょう.このVはベクトル[11]実数倍してできるベクトルの集合なので,次のように図示できますね.

Rendered by QuickLaTeX.com

任意のa,bVkRに対して,a+bスカラー倍ka

a+b,kaV

を満たすことは(計算しても図形的にも)簡単に分かりますね.

このように「Rnの部分集合Vの元のどんな和もスカラー倍も常にVに属する」とき,VRn部分空間といいます.

この記事では

  • Rnの部分空間の定義
  • Rnの部分空間の具体例
  • Rnの部分空間の基本性質

を順に説明します.

なお,特に断らない限り以下では実行列・実ベクトルを扱うことにしますが,複素行列など一般のを成分とする行列・ベクトルに対しても同様です.

線形代数学の参考文献

以下は線形代数学に関するオススメの教科書です.

大学教養 線形代数(加藤文元 著)

数学科など理論系の学生向けの線形代数の入門書です.平易な例から丁寧に説明されています.

手を動かしてまなぶ 線形代数(藤岡敦 著)

理論と演習のバランスをとりながら勉強したい人にオススメの入門書です.

部分空間の定義

冒頭で述べた列ベクトル全部の空間Rn部分空間をきちんと述べると次のようになります.

[部分空間]Rnの部分集合Vが空でなく次の2条件を同時に満たすとき,VRn部分空間(subspace)という.

  • 任意のa,bVに対してa+bVが成り立つ.
  • 任意のkR, aVに対してkaVが成り立つ.

要はVの任意の元をスカラー倍で計算してもVの外に出ることがないということなので,この2つの条件をそれぞれ

  • Vは和について閉じている
  • Vはスカラー倍について閉じている

といいます.

実はより一般に線形空間というものが定義され,線形空間の部分集合で線形空間の性質を満たす集合を線形部分空間と呼びます.

しかし,Rn上の部分空間について考えれば本質的な部分は十分に理解できるので,この線形代数の基本の一連の記事ではRn上の部分空間のみについて説明します.





部分空間の具体例

それでは,いくつか部分空間を紹介していきます.

例1(自明な部分空間1)

まずは簡単な部分空間をひとつ考えましょう.

R2の部分集合VとしてR2自身を考える.すなわち,V=R2とする.

このとき,VR2の部分空間となることを示せ.

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定義通りにVスカラー倍について閉じていることを示しましょう.

任意のa,bV(=R2)kRに対して,a+b,kaはもちろんVの元である.すなわち,

a+b,kaV

なので,VR2の部分空間である.

一般にRnに対してRn自身はいつでもRnの部分空間となります.

このようにRnはいつでもRnの部分空間になることから,RnRn自明な部分空間(trivial subspace)と呼ばれます.

例2(自明な部分空間2)

もうひとつ簡単な部分空間を考えましょう.

R2の部分集合Vとして零ベクトル0のみからなる集合を考える.すなわち,V={0}とする.

このとき,VR2の部分空間となることを示せ.

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やはり定義通りにVスカラー倍について閉じていることを示しましょう.

任意のa,bV(={0})kRをとる.

このとき,V0のみからなる集合なので,もちろんa=b=0である.よって,

a+b=0,ka=0

となってa+b,kaVと分かるから,VR2の部分空間である.

一般にRnに対して零ベクトルのみからなる集合{0}はいつでもRnの部分空間となります.

このように,Rn{0}もいつでも部分空間になることから,{0}Rnと同じく自明な部分空間(trivial subspace)と呼ばれます.

例3(R2の部分空間)

次に冒頭で挙げた集合Vが部分空間であることを示しましょう.

R2の部分集合

V={t[11] | tR}

R2の部分空間となることを示せ.

Rendered by QuickLaTeX.com

V[11]の実数倍のベクトル(第1成分と第2成分が等しいベクトル)を全て集めてきた集合というわけですね.

VR2の部分集合で,[00]VだからVは空でない.

[1]について閉じていることを示す.任意にa,bVをとる.

このとき,Vの定義からa=t[11], b=t[11] (t,tR)と表せるから,

a+b=t[11]+t[11]=(t+t)[11]

となる.これは[11]の実数倍のベクトルなのでa+bVである.

すなわち,a+bVが成り立つ.

[2]スカラー倍について閉じていることを示す.任意にaV, kR (tR)をとる.

このとき,Vの定義からa=t[11] (tR)と表せるから,

ka=k(t[11])=(kt)[11]

となる.これは[11]の実数倍のベクトルなのでkaVである.

[1]と[2]よりVは和とスカラー倍に閉じているからR2の部分空間である.

例4(R3の部分空間1)

次のような集合も例3と同様に部分空間になることが分かります.

R3の部分集合

V={[xyz]R3 | 2x+yz=0}

R3の部分空間となることを示せ.

Vは2×(第1成分)+(第2成分)-(第3成分)=0を満たすR3上のベクトルを全て集めてきた集合で,図示するとxyz空間上の平面2x+yz=0となりますね.

VR3の部分集合で,[000]VだからVは空でない.

[1]について閉じていることを示す.任意にa=[xyz],b=[xyz]Vをとる.

このとき,Vの定義から2x+yz=02x+yz=0を満たす.ここで,

a+b=[xyz]+[xyz]=[x+xy+yz+z]

であり,この2×(第1成分)+(第2成分)-(第3成分)$は

2(x+x)+(y+y)(z+z)=(2x+yz)+(2x+yz)=0

となっている.よって,a+bVが成り立つ.

[2]スカラー倍について閉じていることを示す.任意にa=[xyz]V, kRをとる.

このとき,Vの定義から2x+yz=0を満たす.ここで,

ka=k[xyz]=[kxkykz]

であり,この2×(第1成分)+(第2成分)-(第3成分)は

2(kx)+(ky)(kz)=k(2x+yz)=k×0=0

となっている.これよりkaVが成り立つ.

[1]と[2]よりVは和とスカラー倍に閉じているからR3の部分空間である.

例5(R3の部分空間2)

条件を2つ以上もつ次のVR3部分空間です.

R3の部分集合

V={[xyz]R3 | x+y+z=0,xy+z=0}

R3の部分空間となることを示せ.

V

  • (第1成分)+(第2成分)+(第3成分)=0
  • (第1成分)-(第2成分)+(第3成分)=0

の両方を満たすR3上のベクトルを全て集めてきた集合で,図示するとxyz空間上の平面x+y+z=0と平面xy+z=0の交線となりますね.

条件の数が増えても部分空間であることを示すためにやることは同じです.

VR3の部分集合で,[000]VだからVは空でない.

[1]について閉じていることを示す.任意にa=[xyz],b=[xyz]Vをとる.

このとき,Vの定義からx+y+z=0, xy+z=0x+y+z=0, xy+z=0を満たす.ここで,

a+b=[xyz]+[xyz]=[x+xy+yz+z]

であり,

  • (第1成分)+(第2成分)+(第3成分)は
    (x+x)+(y+y)+(z+z)=(x+y+z)+(x+y+z)=0
  • (第1成分)-(第2成分)+(第3成分)は
    (x+x)(y+y)+(z+z)=(xy+z)+(xy+z)=0

となっている.よって,a+bVが成り立つ.

[2]スカラー倍について閉じていることを示す.任意にa=[xyz]V, kRをとる.

このとき,Vの定義からx+y+z=0, xy+z=0を満たす.ここで,

ka=k[xyz]=[kxkykz]

であり,

  • (第1成分)+(第2成分)+(第3成分)は
    (kx)+(ky)+(kz)=k(x+y+z)=0
  • (第1成分)-(第2成分)+(第3成分)は
    (kx)(ky)+(kz)=k(xy+z)=0

となっている.これよりkaVが成り立つ.

[1]と[2]よりVは和とスカラー倍に閉じているからR3の部分空間である.

例6(R3の部分空間3)

次の空間も本質的には例5までと何も変わりません.

A=[231311]とする.R3の部分集合

V={xR3 | Ax=0}

R3の部分空間となることを示せ.

Vは左から行列Aをかけて0となるベクトルを全て集めてきた集合ですね.

あくまで和とスカラー倍について閉じていることを示すだけですね.

VR3の部分集合で空でないことは明らか.

[1]について閉じていることを示す.任意にa,bVをとる.

このとき,Vの定義からAa=0, Ab=0を満たすから,

A(a+b)=Aa+Ab=0

となっている.よって,a+bVが成り立つ.

[2]スカラー倍について閉じていることを示す.任意にaV, kRをとる.

このとき,Vの定義からAa=0を満たすから,

A(ka)=k(Aa)=k0=0

となっている.これよりkaVが成り立つ.

[1]と[2]よりVは和とスカラー倍に閉じているからR3の部分空間である.

x=[xyz]としてAx=0を成分で表すと

{2x+3yz=03x+y+z=0

なので,例5と同じようにして成分で示すこともできます.

しかし,行列は積について分配法則を満たしますから,いまの解答例のように行列のまま考える方が楽ですね.

なお,例5のVV={[xyz]R3 | [111111][xyz]=[000]}と書き換えると,例6のように示すこともできますね.

例6のように左から行列Aをかけて零ベクトル0となるベクトルx全部の集合を行列Aといいます.





部分空間の直感的な判定

次に部分空間が満たす基本性質を紹介します.

部分空間の基本性質

VRnの部分空間とする.このとき,次が成り立つ.

  1. 0V
  2. 任意のa,bV, k,Rに対してka+bV

言葉で説明すれば,それぞれ

  1. Vは必ず零ベクトル0を持つ
  2. Vに属する2つのベクトルをどのように伸ばして足し合わせてもVの元である

と言うことができますね.

(1) Vは部分空間だからスカラー倍について閉じており,任意のaVに対して0=0aVが成り立つ.

(2) Vは部分空間だからスカラー倍について閉じておりka,bVが成り立つ.

さらに,についても閉じているからka+bVが成り立つ.

このことから,Rnの部分空間は直感的には,原点を通り「真っ直ぐ」に伸びた空間ということができますね.

部分空間であるための必要十分条件

実はいまの命題の(2)はVが部分空間であるための必要十分条件となっています.

Rnの空でない部分集合Vに対して,次は同値である.

  1. Vは部分空間である.
  2. 任意のa,bV, k,Rに対してka+bVが成り立つ.

(1)(2)は上の命題で証明した.

また,(2)が成り立つとき,k==1とすればa+bVが成り立ち,=0とすればkaVが成り立つから,Vは和とスカラー倍について閉じているから(2)(1)も成り立つ.

この定理があるため,教科書によってはこの(2)の性質をみたす集合VRnの部分空間と定義していることもあります.

部分空間でない例

今の次に部分空間でない例を考えます.

R2の部分集合

V={[t1+t] | tR},W={[tt2] | tR}

はともにR2の部分空間とはならないことを示せ.

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上の基本性質で説明したようにV零ベクトル0が属していない時点で部分空間でないと分かります.

また,部分空間はスカラー倍で閉じているため「真っ直ぐ」な空間となっているはずで,Wのように曲がっていると部分空間でないと分かります.

このことを踏まえてきちんと書くと次のようになります.

0Vだから,Vは部分空間ではない.

[11],[11]Wであるが

[11]+[11]=[02]W

だから,Wは和について閉じておらずWは部分空間ではない.

上の基本性質を当たり前にしておけば,直感的に部分空間かどうか判断できますね.

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