線形代数16|固有値・固有ベクトルの基本性質のまとめ

前々回の記事では

  • 正方行列の対角化
  • 対角化と固有値固有ベクトルの関係
  • 対角化を用いた正方行列$A$の冪$A^n$の計算
  • 対角化可能であるための基本定理

を説明しました.

また,前回の記事では

  • 固有値・固有ベクトルの図形的なイメージ
  • 固有多項式固有方程式
  • 固有値・固有ベクトルの求め方

を説明しました.

この記事では固有値・固有ベクトルの基本性質として

  • 固有値・固有ベクトルが分かっているとき
  • 異なる固有値に属する固有ベクトルの線形独立性

について説明します.

固有値・固有ベクトルが分かっているとき

ある正方行列の固有値・固有ベクトルが分かっているとき,他にも固有値・固有ベクトルが分かる場合があります.

この記事では

  • 実数成分の$n$次正方行列の集合を$\Mat_n(\R)$
  • 複素数成分の$n$次正方行列の集合を$\Mat_n(\C)$
  • 実数成分の$n$次ベクトルを$\R^n$
  • 複素数成分の$n$次ベクトルを$\C^n$

と表します.

また,固有値・固有ベクトルの定義とイメージについては,前回の記事を参照してください.

固有ベクトルの和とスカラー倍

1つの固有値$\lambda$に属する2つの固有ベクトルの線形結合も,$\lambda$の固有ベクトルとなります.

すなわち,次が成り立ちます.

$A\in\Mat_{n}(\C)$に対して,$\lambda$を$A$の固有値,$\m{a}$, $\m{b}$をともに固有値$\lambda$に属する固有ベクトルとする.また,$c\in\C$を任意にとる.

このとき,次が成り立つ.

  1. 任意の$c\in\C$に対して,$c\m{a}$は$A$の固有値$\lambda$に属する固有ベクトルである.
  2. $\m{a}+\m{b}$は$A$の固有値$\lambda$に属する固有ベクトルである.

固有値の定義から$A\m{a}=\lambda\m{a}$, $A\m{b}=\lambda\m{b}$が成り立つ.

(1) $A(c\m{a})=c(A\m{a})=c(\lambda\m{a})=\lambda(c\m{a})$だから,$c\m{v}$は$A$の固有値$\lambda$に属する固有ベクトルである.

(2) $A(\m{a}+\m{b})=A\m{a}+A\m{b}=\lambda\m{a}+\lambda\m{b}=\lambda(\m{a}+\m{b})$だから,$\m{a}+\m{b}$は$A$の固有値$\lambda$に属する固有ベクトルである.

この命題から$A\in\Mat_{n}(\C)$の1つの固有値$\lambda$に属する固有ベクトルの集合は,$\C^n$の部分空間ということになりますね.

この命題は以下とも同値ですね:

$A\in\Mat_{n}(\C)$に対して,$\lambda$を$A$の固有値,$\m{a}$, $\m{b}$をともに固有値$\lambda$に属する固有ベクトルとすると,任意の$c,d\in\C$に対して$c\m{a}+d\m{b}$は$A$の固有値$\lambda$の固有ベクトルである.

この1つの固有値に属する固有ベクトル全部と零ベクトルを併せてできる空間には固有空間という名前がついています.

固有空間は正方行列が対角化可能であるための必要十分条件を述べるために重要な役割を果たしますが,これについては次の記事で説明します.

様々な固有値と固有ベクトル

次の基本性質はよく用いるので当たり前にしておきましょう.

$A\in\Mat_{n}(\C)$に対して,$\lambda$を$A$の固有値,$\m{a}$を固有値$\lambda$に属する固有ベクトルとする.また,$c\in\C$, $k\in\N$を任意にとる.

このとき,次が成り立つ.

  1. $cA$は$c\lambda$を固有値にもち,$\m{a}$は$cA$の固有値$c\lambda$に属する固有ベクトルである.
  2. $A+cI$は$\lambda+c$を固有値にもち,$\m{a}$は$A+cI$の固有値$\lambda+c$に属する固有ベクトルである.
  3. $A^{k}$は$\lambda^{k}$を固有値にもち,$\m{a}$は$A^{k}$の固有値$\lambda^{k}$に属する固有ベクトルである.
  4. $A$が正則ならば,$A^{-1}$は固有値$\frac{1}{\lambda}$をもち,$\m{a}$は$A^{-1}$の固有値$\frac{1}{\lambda}$に属する固有ベクトルである.

固有値の定義から$A\m{a}=\lambda\m{a}$が成り立つ.

(1) $(cA)\m{a}=c(A\m{a})=c(\lambda\m{a})=(c\lambda)\m{a}$だから,$c\lambda$は$cA$の固有値で,$\m{a}$は$cA$の固有値$c\lambda$に属する固有ベクトルである.

(2) $(A+cI)\m{a}=A\m{a}+cI\m{a}=\lambda\m{a}+c\m{a}=(\lambda+c)\m{a}$だから,$\lambda+c$は$A+cI$の固有値で,$\m{a}$は$A+cI$の固有値$\lambda+c$に属する固有ベクトルである.

(3) $k$に関する数学的帰納法により示す.$k=1$の場合は$A^{k}\m{a}=A\m{a}=\lambda\m{a}=\lambda^{k}\m{a}$だから成り立つ.

次に,ある$k$で成り立つとすると

\begin{align*} A^{k+1}\m{a} =&A^{k}(A\m{a}) =A^{k}(\lambda\m{a}) \\=&\lambda(A^{k}\m{a}) =\lambda(\lambda^{k}\m{a}) =\lambda^{k+1}\m{a} \end{align*}

だから$k+1$でも成り立つ.よって,任意の正の整数$k$に対して,$\m{a}$は$A^{k}$の固有値$\lambda^{k}$に属する固有ベクトルである.

(4) $A$は正則だから$A\m{a}=\lambda\m{a}$の両辺に左から$\frac{1}{\lambda}A^{-1}$をかけて,$\frac{1}{\lambda}\m{a}=A^{-1}\m{a}$が成り立つから,$\frac{1}{\lambda}$は$A^{-1}$の固有値で,$\m{a}$は$A^{-1}$の固有値$\frac{1}{\lambda}$に属する固有ベクトルである.

異なる固有値に属する固有ベクトルの線形独立性

前々回の記事で説明した[対角化可能性の基本定理]を証明するために,「異なる固有値に属する固有ベクトルは線形独立である」という事実を用いました.

この事実の証明がまだだったので,ここで証明しておきます.

$A\in\Mat_n(\C)$の異なる固有値$\lambda_1,\dots,\lambda_r$に対して,それぞれの固有値に属する固有ベクトルを$\m{v}_1,\dots,\m{v}_r$とすると,$\m{v}_1,\dots,\m{v}_r$は線形独立である.


$r$に関する数学的帰納法により示す.

$r=1$のときは明らかに成り立つので,$r=m<n$のときに成り立つと仮定して$r=m+1$の場合を示せばよい.

$A$の相異なる固有値$\lambda_1,\dots,\lambda_{m+1}$に属する固有ベクトルをそれぞれ$\m{v}_1,\dots,\m{v}_{m+1}$とし,線形関係$c_1\m{v}_1+\dots+c_{m+1}\m{v}_{m+1}=\m{0}$を考える.

線形関係の両辺に$\lambda_{m+1}$をかけて

\begin{align*} \lambda_{m+1}c_1\m{v}_1+\dots+\lambda_{m+1}c_{m+1}\m{v}_{m+1}=\m{0} \end{align*}

であり,線形関係の両辺に左から$A$をかけて

\begin{align*} &Ac_1\m{v}_1+\dots+Ac_{m+1}\m{v}_{m+1}=\m{0} \\\iff& \lambda_{1}c_1\m{v}_1+\dots+\lambda_{m+1}c_{m+1}\m{v}_{m+1}=\m{0} \end{align*}

である.これら2式の辺々引いて

\begin{align*} (\lambda_{m+1}-\lambda_{1})c_1\m{v}_1+\dots+(\lambda_{m+1}-\lambda_{m})\m{v}_{m}=\m{0} \end{align*}

となるから,帰納法の仮定より$\m{v}_{1},\dots,\m{v}_{m}$は線形独立なので$(\lambda_{m+1}-\lambda_{k})c_k=0$ ($k=1,\dots,m$)が成り立つ.

いま,固有値$\lambda_1,\dots,\lambda_{m+1}$は異なると仮定していたから,$\lambda_{m+1}-\lambda_{k}\neq0$なので$c_k=0$を得る.

これをもとの線形関係に代入すると$c_{m+1}\m{v}_{m+1}=0$となるから,$\m{v}_{m+1}\neq\m{0}$より$c_{m+1}=0$を得る.

よって,$r=m+1$のときにも成り立つ.

固有空間

この記事までで,固有値・固有ベクトルの基本事項の説明が終わりました.

前々回の記事で説明したように,そもそも固有値・固有ベクトルは対角化に関するものとして重要なのでした.

例えば,以下のように$n$次正方行列が異なる$n$個の固有値を持てば,対角化が可能なのでした(証明は前々回の記事を参照してください).

[対角化可能性の基本定理] $n$次正方行列$A$が異なる$n$個の固有値をもつとき,$A$は対角化可能である.

しかし,$n$次正方行列が異なる固有値を$n$個もたないとき,(対角化可能な時もありますが)必ずしも対角化可能であるとは限りません.

このように固有値が少ないときも含めた一般の場合の対角化可能性を考えるとき,固有空間によって対角化可能性の必要十分条件を述べることができます.

次の記事では

  • 固有空間の定義
  • 対角化可能性の必要十分条件

を説明します.

参考文献

線型代数入門

(齋藤正彦 著,東京大学出版会)

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

本書が発行されて以来,多くの教科書が本書を真似て書かれてきたといっても過言ではないほど,日本の線形代数の指導にインパクトを与えた名著です.

その証拠に,著者の齋藤正彦氏は本書で日本数学会出版賞を受賞しています.

「線形代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴です.

内容は理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたいレベルです(非理論系の人はここまで必要ないかもしれません).

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

最後までありがとうございました!

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